朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography⑪

前回Seamの中でBitch Magnetに触れたのでその辺聞き返しつつ。あとEngine Kidの昨年出た再発買って聞いたりしてたらこの2作から思いついたものを並べました。アルビニ録音多め。


 

Bitch Magnet - Bitch Magnet(2011)

以前Rodan~June of 44について書いたブログにてコメントをいただいたこともありその記事に載せるべきかなとも思ったんですがここで。

86年結成、アルバム2枚で解散してしまったバンドですがこちらはそれらをコンパイルしたコンピレーションで音源は88年~90年のものですね。初期EPにはスティーヴ・アルビニも関わってるみたいです。Bitch Magnetはルイビルのバンドでは無いですが、ルイビルハードコア界隈の源流Squirrel Baitのメンバーでもあるデヴィッド・グラブスが参加しててサウンド的にも直系。フロントマンのスーヤン・パークは後にSeamでも活動しそのSeamではSuperchunkのマックも参加しているので、直接音楽性の類似はないにしてもインディーシーンでのミッシングリンクとして色々なところに顔を見せてきます。

音楽性的にはBastroよりマスロック寄りだったCrainとかの方が近く、Squirrel Bait直系の鋭利なギターフレーズを主軸に熱量はそのままさらに音楽性を煮詰め延長してったよう感じ。長尺な曲もあったり結構ポップなときもあるけど基本的には線の細いプレ・マスロック的なジャンクロック~ポストハードコア。Dischord Recordsを経由せずにSquirell Baitと90sポストハードコアの架け橋となったバンドにも聞こえる。とにかく開幕「Dragoon」の超硬質ジャンクギター、各パート緊張感のあるぶつかり合いがドラマティックにめくるめく9分間続いていくの名曲すぎるし、演奏のテンションとは裏腹に冷静にスポークンワーズを乗せるボーカルとの温度感は後の数々のバンドへの影響の強さを感じ取ることができる。6分超ある「Americruiser」は途中エモにも通じそうなクリーントーンの静パートを挟みながらこれまたスポークンワーズが乗っかるはめちゃくちゃルイビル系との接点を見出せるし、SlintのSpiderlandと完全に同時期ですが間違いなくこれらがRodanの原型でしょう。

それこそRodanやDon Caballeroと言った後のSouthern~Tenmporaly Residenceとかのインスト系ポストロックのレーベルへの道筋となってくような感じもあるし、意外とメロディアスなフレーズが登場したりもろにBastroっぽい曲もあってエモ方面からも辿ることができると思います。あとあんま関係ないですが「Mesentery」は(おそらく)LostageのSFの元ネタで最初結構たまげました。

 

Honey For Petzi - Heal all monsters(2001)

アルビニ録音のマスロック~ポストロック~ポストハードコアの当時のその辺の音満載なフランス出身00年作。これは完全にBastroやJune of 44といったルイビル血脈の00年代ポストロックムーヴメントど真ん中から出てきた香りがするし、電子音楽要素もありミニマルなアンサンブルから硬質なギターリフが飛び出てきたり、結構ポストハードコアもろな展開もあったりで不穏なアンダーグラウンド感、を器用に自然体でやってのけてる感じがたまりません。

もしデヴィッド・グラブスがGastr Del Sol化せずBastroとしてハードコア成分残したまま進化したイフみたいな聞き方もできると思うし、Slint直系ということで同じルーツを持つMogwaiを想起させる部分もありますがそれは硬質な静パートと言う面のみで派手なバーストはしません。「Snakes & scorpions」「Safari deluxe」とかね、むしろこれ聞いてるとMogwaiにもマスロック要素あるような気さえしてくる。

 

Die! DIe! Die! - Die! DIe! Die!(2005)

90年台にUSオルタナとUKギターポップのいいとこどりのような最高のインディーロックを大量にリリースしていたニュージーランドのFlying Nun Records発、なんですがそういったダニーデンサウンドとは一線を画した新規鋭の2005年作。バンド名も強烈ですね。

ポストハードコアってよりはポストパンクという言葉を使いたくなる2曲目「Disappear Here」での硬質でジャンクな荒くれた録音でドタバタとまるで何かに追われているかのような疾走感で爆走する初期衝動の塊。10曲21分あっという間に通り過ぎていく刹那的なアルバムでこんなん絶対好き。ゴリゴリに弾力のあるベースラインが曲を繋ぎ止めく感覚や高音ギターフレーズがその上を滑っていく感じはやっぱりポストパンクっぽいですね。

 

Cole - Idea Of City(1998)

もしエモバンドがJune of 44のカバーをしたらこうなるであろうという感じのアルバム。そもそもJune of 44自体が元々音楽性を定義しづらいバンドなのもあり近いな~と思うバンドいたとしても要所要所だったり雰囲気だけ通じるものがあるかも、止まりなんですが、Coleはかなり直接参照にしてるんじゃないかと疑ってしまう程で逆に新鮮に聞こえます。かなり1st2ndの辺りの作風で静→動に持ってくときの静の静寂すぎず硬質で音数の少ない淡々に繰り返してから動いてく感じというか、元々Zum Audioコンピ(Zum Audioについて)に入っていて知ったんですがJune of 44やSweep the Leg Johnnyと同作に収録されてるのもにくい。

「Tropic Of Cancer」とか「Means To Discover」とか聞いてて笑顔になってくるスロウコアともポストハードコアとも言えぬ感じで、June of 44っぽいとは言いましたがああいう緊張感のある不穏で冷たい静パートでは無く、どちらかと言えばエモのクリーンパートに近い哀愁が漂ってしまうちょっとしたヘロヘロ感がインディーロック寄りのエモとしても聞けます。

 

Engine Kid - Bear Catching + Novocaine / Astronaut(2021)

現在Sunn O)))で活動しているグレッグ・アンダーソンによるバンド。93~94年頃に活動した元々ハードコアシーンから出てきたというのがよくわかるルイビルシーンの血を色濃く受け継いだSlint風ジャンクポストハードコア名盤。昨年ユニオンから出た初CD化とのことで、再発コンパイル盤に入ってたブックレットにはなんとSpiderlandをオマージュしたメンバーの写真が入ってるというリスペクトっぷり。Sunn O)))自体もEarthのトリビュートバンドが出発だったらしく好きなバンドの影響をダイレクトに出力してるのかなと考えると色々バックグラウンドを想像しながら聞けて楽しいですね。

で今作アルビニ録音の1stのBear Catchingとその前のデモ音源やEPも収録していて、「Treasure Chest」の初期バージョンはイントロからSlintそのままやってる感ありますが再録の1stバージョンではこれもかなりヘヴィになりオリジナリティに溢れてます。「Bear Catching Fish」とかのイントロの不協和音もポストハードコア的な金属的なものではなく、もっと低音の効いたジャンクで濁った不協和音でこれがめちゃくちゃ重い。彼のキャリアを知ってるからというのもありますがこの後メタル方面へ進んでくのも頷けるヘヴィさで、そのままSlint風の静→動のカタルシスを行き来しつつメロディはちょっとエモにも通じるボーカルなのも意外ながらかなり聞きやすい。

 

Indian Summer - Giving Birth To Thunder(2019)

こちらもルイビルシーンからの影響を感じることができる93~94年に活動していたポストハードコアバンドでこれまたNUMEROから再発。解散してますが、まさしくシーン真っ只中の中リリースされ当事の音源をまとめたコンピでめちゃくちゃかっこいいです。ルイビルっぽいとは言いましたがそちらが軸というよりHeroinらサンディエゴのカオティック勢~Discrhordにも通じる硬質でジャンクなハードコアの中にSlintの手法がエッセンスとして練りこまれてく感じで、スクリーモ要素もあるし展開も激しいので激情シーンやその一歩手前のポストハードコア、それこそHooverとか好きな人にもいけそうな感じ。

「giving」「his」とかの録音の荒さ含め生々しく、いつ破裂するのかと緊張感を途切れさせないまま様々なパターンでバーストしてく感じはかなりダークで、後のEngine DownとかFor Hundred Yearsにも通じる部分あると思います。「thunder」は今挙げたどのハードコアシーンとも違ったキャッチーなリフを繰り返すタイプの曲で、意外とこれが一番好きかも。

 

Staynless - Transistor Theory and Circuits Made Simple Staynless(1998)

こちらもアルビニ録音。えげつないくらいかっこよくてMaximillian ColbyがSlintと融合したかのような、激情系一歩手前で一方通行にどんどん曲が展開してくのはLovitt Records系と通じるとこがありつつも、June of 44等の狂気の滲み出る静パートや展開の複雑さも多々見せる非常に緻密で鋭利なポストハードコア。サブスク無いですがbandcampで全部聞けます。ルイビルシーンというかTouch and GoっぽさとLovitte Recordsが融合してるって見方をすると先のIndian Summerとかなり被りますが、あちらはもっとDischord寄りなのに対してStaynlessはボーカルがSlint直系のスポークンワーズなので大分印象が異なります。

 

Nirvana - In Utero(1993)

名盤。かつて洋楽掘り始めたてのグランジキッズだった僕は正直Bleachが一番好きでこれもまぁ好きだけどしっくりはこない・・・という感じだったんですが、アルビニ録音だのポストハードコアだの色々通過した今聞くとこんなに最高なアルバムあるのかというくらい理想の音が鳴ってて、思い出したように聞き返してかなりハマってました。

で作品としてはめっちゃMelvinsのEggnog思い出して時期も被ってるしカート憧れのバズ・オズボーンなので絶対影響はあったと思います。Melvins関連として聞くとMilk Itとかのカッチリとしたリズムのヘヴィさと狂気の滲み出たバーストが割とヘヴィ寄りのポストハードコアというか、Quicksandとかと近いメタリックでカオスな雰囲気もあってめちゃくちゃ良いですね。そして一番好きな曲はScentless Apprenticeで、この曲の不協和音ジャンクギターの金属的で今にも飛散していきそうなパリパリなギターの音色はもう様式というか芸術というか、アルビニ録音の真髄みたいな音が鳴ってるしRapemanの系譜として聞くにも十分ですね。ここに連なるデイヴ・グロールのとんでもない破壊力のドラムサウンドDon Caballeroでのデーモン並みアルビニ録音との親和性が高くて言葉も出ない。ヤバすぎ。

とはいいつつ「Heart-Shaped Box」「Rape Me」「Pennyroyal Tea」辺りの超キャッチーなナンバーも入ってるのでやっぱちゃんとニルヴァーナだなというかメジャーラインでもしっくり聞けるバランスもよくて、それでいてアルバム通してあんま乱雑な感じしないのは流石ですね。でも「Heart-Shaped Box」は今聞くとめちゃくちゃ音浮いててアルビニがやってないらしくなんか揉めたらしいけど、昔はポップで好きでしたが全体で聞くとやっぱり違和感、最近買った2013年に出た完全版に入ってるアルビニによる再リミックスが神でした。

 


 

以上でした。Bitch Magnetで触れたSeamに関しては前回取り上げてて、ハードコア色は薄くスロウコア~エモの名盤だらけ。あとは例に漏れず今作も「Slint以降」というチョイスの選盤が多かったですね。

discography⑩

Rodan関連作の記事で書ききれなかったTara Jane O’Nielのソロワークスから何枚か、あとそこから連想したスロウコア~ポストロックです。


 

Tara Jane O'Niel - In the Sun Lines(2001)

ex.Rodan及びSonora Pineのタラの2nd。1stの頃は宅録感満載、本当にアパートのパーソナルな空間で自然に出てきた素朴なメロディと暖かさに寄り添うって感じの素晴らしいローファイフォーク名盤という感じだったんですが(discography⑦ - 朱莉TeenageRiot)、今作そっからポストロック~スロウコア方面とも比較できそうでRachel'sとかDirty Three好きな人にも刺さりそうな非常に奥行きのある中期~後期の彼女の作風が出てきてます。

歌1本でも異世界につれってくれるような不思議な魅力がある人ですが、今作は鳴ってる音全てが宙を漂っているような、漠然とした各楽器の音が溶け合って靄掛かっていて、例えば今にもとろけてしまいそうなギターサウンドやうっすら流れるストリングス、浮遊感の強いオルガン等それぞれが薄く重なり合ってどれがどの音かが曖昧なレイヤーが何重にも掛けられてる感じ。でもちょっとローファイなおかげで素朴ながら彩があるというか、あとドラムのちょっと遠い音がとてつもなく気持ち良いですね。Rodanとかにあったタラ成分を抽出したような作品でRodanからタラに流れてきた人や(僕です)、曲によって表情がコロコロ切り替わるRodanの中でもスロウコアやポストロック的な側面が好きな人はまずこのアルバムから聞くのが間違いないです。

 

Tara Jane O'Neil - You Sound, Reflect(2004)

最高3rdアルバムで超名盤。前作よりもアコースティックな色が増し純粋な歌の力とポストロックの神秘性が充満した、生音ポストロックをフォークロックでやったようなアルバム。スロウコア程ではないですがふんわりとした上物の中ドラムが繋ぎ止め、単調ながら心地よいビートと歌のバランス感はスロウコアファンにも刺さると思います。録音の感じとか。バイオリンも入ってきてDirty Three的な聞き方もでき浮遊感増し増し、前作のアート作品然とした系譜とはまた別のどこか人懐っこくもあるSSWっぽい作品に落とし込んでます。もう元RodanとかSonora Pineとかからは完全に抜け出して彼女の素が出てきて良い具合にキャリアと溶け合ってきた頃とも言うべきか。

 

Tara Jane O'Neil - In Circles(2006)

てわけで次作、ジャケット良すぎですが彼女本人作とのこと。RodanもJune of 44もジェフがジャケ全部やってたし、この辺のシーンの人のDIYな方向性がサウンドもジャケも含めて統一感あっていいですよね。流石に宅録弾き語りに近かった1st程ではないけど、彼女の作品にしてはかなりパーソナルに聞こえるというか、今までの作品と比べると世界観はかなり縮小されたような印象を受けるしそのおかげでメロディーが際立ちます。とは言いつつ別に音数減らしてるってわけでもなく、耳を凝らすと微かなノイズや電子音が随所に散りばめられているがあくまで薄い膜のようにちょっとした味付けとして存在してて、弾き語りとは違ったある程度作りこんだ上で隙間を大切にしてるように聞こえるし、そのおかげでちょっとだけ浮遊感が出てほの暗い穏やかさとマッチしてきます。

 

Dirty Three - Ocean Songs(1997)

オーストラリア出身のTouch and Go発アルビニ録音。とにかく気持ちいいドラムサウンドを聴きたいのなら絶対に外して通れないと言いたくなるアルバムで、全編通してバイオリンがガッツリ入ってますがギターと違って流動的でふわっとした暖かみがある音だからこそドラムの振動がそのまま伝わってくる感じがすごくいい。音楽性的には全然違いますがTortoiseTNTのドラム録音とか聞いてると脳内からヤバイ液とか出そうになるくらい気持ち良いけどあそこに快感を求める人は是非こちらもどうぞ。ヤバイ汁出ます。Rachel'sをもうちょっとポストロックに近づけたという感じでジャズ要素もあり、生音系ポストロックの極北みたいなサウンド。「Authentic Celestial Music」は極上のドラム録音と空間の隙間を10分間堪能するスロウコア名曲。

 

Seam - Headsparks(1992)

USインディー聖地チャペルヒル出身Seamの1st。めちゃくちゃ好き。2nd~4thはTouch and Goリリースで今作だけ長らく入手困難だったんですが、最近NUMEROで再発されました。2nd以降にあるスロウコア色はこの頃は薄く90年台初期らしいノイジーでザラついたバンドサウンドにグッドメロディが乗るという雑に「オルタナ」て区分したくなる感じで、USグランジやポストハードコア以降のジャンクな質感とUKギターポップの甘美さを併せ持ったような、いやどっちに区分しても違和感あるんですけど通じるとこはあるというか、後に出てくるエモバンド達が持っている湿っぽいノスタルジーにまみれていてちょっと素朴なジャケも最高。ちょっとthe pillowsの90s後期の作品を思い出すとこもあったり。ちなみに「New Years」は後にCodeineがカバー、そしてSuperchunkのマックがドラムで参加してた唯一の作品でもあります。

 

Seam - The Problem With Me(1993)

2nd。スロウコア名盤としてしられてますがそういう先入観で聞くと1~2曲目のノイジーなギターロックにびっくりするかも、というかこの時点からエモの源泉ここではといいたくなるような荒々しくエモーショナルな演奏+繊細でヘロヘロなグッドメロディの組み合わせで完全に1stの延長、というかそのままアップデートしたオルタナティヴ・ロック然とした曲群に痺れます。フロントマンのスーヤン・パークは元Bitch Magnetというとこも含めてポストハードコア→エモへと変遷してくシーンを象徴する作品かと。テンポは遅いですが疾走感がある不思議な感じ。

で3曲目からはもう美しいスロウコア名曲が続く珠玉の名盤。1stの初期衝動にまみれた感じも好きでしたが一旦落ち着いて自分達の音楽性の中でもう一度整理整頓したような、曲によっては後半ノイジーなバーストもありますがすごく丁寧で緻密な曲展開、でもってメロディーが本当に良くて、何も考えず歌ものとしても聞けるくらい良いです。スロウコアというよりゆったりとしたインディーロックとしてもすんなり入ってくる感じ。初期IdahoとかBedheadにエモのエッセンスをプラスしたような・・・いや、Seamの方が先なんですけどね。

 

Ida - Will You Find Me(2000)

先程TJOでも触れたIda、4枚目のアルバムですがこちらもスロウコア名盤として語られていて「Shotgun」は1st収録曲の再録のため当時の集大成的アルバム。スロウコアと言ってもCodeienやSlint系譜のハードコア出自の硬質なものでも、Red House Paintersのようなポストパンクっぽい質感のものでもなく、純粋な歌物SSWという風にも聞けそうなインディーフォークデュオ。音数は多くなくシンプルですが、曲によっては電子音やバイオリンも合流してきて神秘的な雰囲気はポストロック色も濃いです。とは言いつつメンバーのダニエルはThe Hatedという80年代ハードコア真っ只中なバンドで活動していた出自もあり、今作に参加しているTara Jane O'Neilも元Rodanでハードコアをルーツにしている両者が今こんな美しいアルバムを作っているというのも共通点だったりします。

ツインボーカルの美しくポップなメロディがとても優しく、ボーカルのハーモニーはどことなくLowを思い起こしますがもっともっと柔らかく、やっぱオルガンが入ってるのも大きい。そんな中でも「Shrug」は暖かいこのアルバムの中でも突き放したような不穏さがありシンプルな歌ものから不穏なアンサンブルやノイズを足しながら不協和音へと潜っていくラスト含めめっちゃ好きだったりします。「Past the Past」では珍しく静→動の轟音にまみれたカタルシスに溢れる展開も。どの曲もシンプルなビートの繰り返しの中メロディアスな二人のハーモニーがドラマティックに演出してくれるので全然シンプルに感じず、色んな曲から日常に寄り添ったドラマを想像してしまう名盤。

 

Ida - The Braille Night(2001)

次作。いきなり開幕1曲目「Let's Go Walking」からもう名曲すぎて完全にやられる。前作よりさらに音数を減らし淡々と、悲しくエモーショナルな線の細いアンサンブルを繋げながらそっとボーカルを浸透させていくスロウコア名曲。前作と比べて一気にサッドコア然とした空気が滲み出てきて、そのまま4曲目「So Long」までかなり音数の少ない曲群が並び立ちビビりました。

「Blizzard Of '78」からは結構カラフルで祝福っぽい雰囲気のある曲も増えていきますが、前作では1曲ずつそれぞれ物語が完結していたように感じるのに対し今作は全体を通して一方通行の雰囲気がある。コンセプトアルバムって程でもないけど、曲の合間にインストを挟んだり、今までに無かった長尺の曲も多く、その逆に2分程度で終わってしまう弾き語りテイストの曲も入ってきたり、なんというか自由にやっててジャンルの制約からも放たれた感じがします。インディーフォークという枠で聞くよりもポストロックサイドに半分浸かってるような曲もあるし、それとは逆にシンプルなアコースティックなポップスもあったりして、でもちゃんと一貫して聞こえるのはアルバム構成の妙か。ラストの「At Last」も完全なインストですが最終曲として完璧と言える程美しいエンドロールで、これはもうサントラを聞く感じでもいけるかもれません。

 


以上です。元々Rodanのメンバーということで掘り始めたとこなので、あちら大分ハードコア寄りですがルイビルアンダーグラウンドシーンから出てきたということで直系。IdaやSeamも参加アーティストやBitch Magnetをミッシングリンクとして繋がってくるし全員ルーツにハードコアがあるというのも面白い。

 

 

 

邦楽オールタイムベスト⑤

今回は羅針盤とGREAT3です。


 

羅針盤 - ソングライン(2000)

最近サブスク解禁もされた羅針盤3rd。フロントマンである山本精一は元々はボアダムスROVOと言ったちょっと実験的なバンドの人という印象が少なからずありますが、そんな中羅針盤は弾き語りと近い感じで聞けるフォークロックとかそういう素直な日本の歌ものとして聞けるフォーマットでゆるやかにやっていてソングラインも割とその形(というか羅針盤は全部そう)。なんですけど、やっぱり、そういう出自が少なからず関係してると思われるような練りに練ったギターサウンドとか、ノイズとか音響とか、もう音色一発で感情全部持ってかれるような破壊力があってそれはもう1曲目「がれきの空」から完全にやられる。空間的なイントロのギターワークだけで涙を誘う。からの、今度は急に音減らしてゆったりとした歌ものが何事もなく始まるのも非常に彼ららしいですが、この最小限に音を絞ったアンサンブルはちょっとスロウコアを思い出したりしつつ、でもアメリカーナとは距離あるし、個人的に後期のOGRE YOU ASSHOLEと近い雰囲気も感じたり(これはまた後述)します。

続く「サークル」「リフレイン」からは割と軽快なフォークソングとかカントリーを想起する部分もありますがやっぱ曲は長尺で、全編通してスローペースのままギターの掛け合い中心にセッションしてくみたいな色が所々見えるのちょっとだけGrateful Deadのライブ盤思い出したりとか、Procol Harum風の曲もあるし、そいう60sサイケからのフィードバックみたいのもふんだんに出しつつこれはアドリブしやすそうだし、ライブアルバムとして残ってはないけど羅針盤って実はかなりライブバンドだったんじゃないかなぁと思います。インプロでいくらでも気持ちよくなってられそうだしギターの轟音も凄まじそうだし。

で轟音と言えばB面がまた神がかってて「波」はノイズの海の中で浮かび上がってくるフォークソングとも言える曲でシューゲイザーファンとかにも行けると思います。近いフィーリングというか。そっからねぇ・・・もう「ひとりのうみ」「ソングライン」「羅針盤」で終わるの、名曲だらけの圧巻のB面。個人的に表題曲である「ソングライン」ヤバイですこれは、ゆったりとしたフォークソング調、めくるめく変わってくメロディーの切り替えで展開していって、音だけでストーリー仕立てのようになってるし後半はどんどんサイケリア渦巻くノイズの中に潜っていき絶頂をキープしたままループしていくという。これはヤバイね、もう本当に心地がよくてプログレ・・・とも違うけどYo La Tengoとか好きな人にもめちゃくちゃオススメ。ノイジーな都市レコードとしても聴けます。

 

羅針盤 - 会えない人(2003)

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4曲入りEP、とは言いつつ相変わらず曲が長いから30分超えてて普通にフルアルバム聞く感覚で聞ける羅針盤で最も好きな一枚。OGRE YOU ASSHOLEの会場でよくご一緒していたネットの知人から是非聞いて欲しいと言われて知ったのでこのバンドと出会ったのもこの作品で、ソングラインと同様濃密なサイケ感、ノイズ要素もある長尺フォークソングみたいな印象を受けてOGRE YOU ASSHOLEのライブから確かにこれはかなり繋げることができるぞと感動したことを覚えてます。で調べてみたらなるほどボアダムスの人なのかと妙に納得したり・・・。

で今作、「会えない人」「さけび」とド名曲続きでソングライン(曲の方)の後半のループ感をより更に洗練したみたいな感じで、あの頃は割と曲展開がドラマティックでちゃんとカタルシスがあったんですが、今作はそういう感じではなく、むしろメインとなるループさせる歌メロそのものが初期の羅針盤楽曲のどれよりもキャッチーで、本当にアコギ一本で歌っても映えそうなポップさがあるんですよ。だからこそ曲展開をドラマティックへ・・・て方向じゃなく、むしろこのキャッチーな歌メロを主軸に繰り返しながらより轟音を、ノイズを浸透させてくという感じで、電子オルガンからは60sサイケの雰囲気もあるしで、よすぎる。本当に気持ちよすぎる。

「さけび」では延々とドライブしていたくなるような序盤のフォークロックから丁度中間より轟音ギターソロが炸裂し始めどんどんこれまたフィードバックノイズの海に潜ったりフォークロックに戻ったりをスイッチを切り替えるように行き来してくんですが、これも感動の連続でこんなんライブで見たら絶対絶頂していただろうなというの間違いなく、OGRE YOU ASSHOLEの「ロープ」「フラッグ」と言った大名曲で得られるカタルシスを、音源の、この10分で堪能することができる曲だと思います。オウガ程リズムに寄せてはないけど、その代わりメロディアスに寄せてるのがこっちだと思う。でニール・ヤングのカバー、これもルーツ開示というかまぁ当然だよねという感じではありますが最後「不明のうた」のちょっとミニマルな質感は後に続くアルバム「福音」「いるみ」に続くかと。

 

GREAT3 - METAL LUNCHBOX(1996)

GREAT3の2nd。アルバムタイトルにもなってる表題曲が大好きで、いきなりローゼズの2ndもろでめちゃかっこいいなと聞いてると途中ギターがジミヘンみたいになるとこでこれまた笑顔になるし、途中からローゼズにもジミヘンにも無いような哀愁漂ってきてGREAT3節全開のメロウネス出てくるの神バランスだなと思いました。

ローゼズに例えましたが他にもディスコやファンクを参照したであろう曲もあってというかDISCOMANというタイトルももろだけど、でもマンチェスターというかUKロック経由ってよりも純粋に80sのソウルやファンクに直接影響を受けてやってる感じもめちゃくちゃあるし、元々渋谷系に括られてたのも相まってこの頃からハッキリとしたルーツがわからないGREAT3の闇鍋感が全開。ギターポップ→マンチェとかシューゲイザーとかそういう流れがベースになったバンドはもっとわかりやすく「オルタナ」て言いたくなる感じになると、思いますがGREAT3にはそれを感じないというか・・・いや、影響はあるのかもしれないが、本人達のミックス具合やアウトプットがうますぎてそうならないのかもしれません。

ちょっと歌謡曲っぽく聞こえるのがミソかもしれないし、カオスというか、奥底が見えないというか、これは僕がグランジオルタナとかUSインディーとかシューゲイザーから出てきたリスナーってのもあるのでしょうが。しかしART-SCHOOLとかが大リスペクトしてるバンドじゃんGREAT3、この後ジャズの色も出てきたり00年代ではポストロック人脈とシカゴで合流するし、それも含めて本当に掴みどころがない。

 

GREAT3 - Without Onion(1998)

大名盤4th。個人的に90年台という括りで見てもトップクラスのアルバム。「Sabbath」て1曲目からも前作で見せたジャズっぽい片鱗を薄めてノイズと混ぜてフィルターかけちゃったみたいな、夢心地なんだけどちゃんと踊りたくなるくらいファンキーだし、完全に入り込んでしまう名曲。からの「Chop The Meat」で、これを数年前に知人にオススメしてもらってGREAT3と出会って衝動的に5thくらいまで借りたんですが、サイケなUKロックみたいなギターをこんなにアグレッシブにアッパーにしちゃってキラーチューンに仕立て上げるって感じで、Kula Shakerの1stの頃とか思い出すような前のめりすぎるドラム録音も衝撃で僕はこの曲聴いてファンになったと言っても過言ではないです。デカイ声で歌いたくなるようなサビの気持ち良い曲ですね。

「Golf」も最高でホワイトノイズみたいな心地いい夢見心地な世界に落とし込んでくれるけど、ボーカルはなんかもう一周して悟っちゃったような安らかなくたびれ感みたいのが出ててこれも1st2ndではあんま無かった感じだなと思うんですが、ピコピコ鳴ってる電子音とか水中で鳴ってるような透明感あるノイズとか、80年代っぽいメロウさと90年代のザラついた質感の融合だなという感じします。地味にART-SCHOOLのButterfly Kissの元ネタ。長尺のインスト曲も入ってるけどこれは電化マイルスっぽくて、数年後シカゴ行ってTortoiseマッケンタイアとアルバムを作る彼らですがここで繋がってくるというか、あの辺のポストロックのルーツとして電化マイルスは間違いなくあるはずなので、今聞くと伏線回収という感じ。でも今作音響へのアプローチや浮遊感が強くかなり実験的になってるしポストロック行くのもめっちゃ納得してしまった、シューゲイザー好きな人でもつまみ食いできる作品だと思います。でこんなにメロウで浮遊感ある音世界なのにドラムがめちゃ跳ねててタイトなのが最高すぎる、この感じGREAT3ならではって感じするし白根さんは本当に最高のドラマーだなと。

B面は結構今までのGREAT3のパブリックイメージそのままアップデートしましたという王道が続きますが「Kiss To Domino」とか「Soul Glow」とかほんとそんな感じで、Stone RosesとかThe Verveの2ndとかを思い出してたMetal Lunchbox期も思い出す感じで、どことなくバラエティ番組で流れてそうな雰囲気がありますよね。やっぱ総括+αていう最強のアルバムですよ、97年だしリアルタイムで聞いたら絶対大興奮しただろうなと本気で思う作品。

 


 

邦楽オールタイムベスト④

最近聞いてたものメインに。


 

 

BLEACH - 起爆剤(2001)

ZAZEN BOYSのMIYAが加入していたというバンドだというのをRYMでの邦楽ランキングに載っているのを見かけて知りました。いやあのランキング本当にすごいんですがちょっと気になったのがやっぱNUMBER GIRLは絶対いるよねってのとあとポストハードコアのタグがついていてそりゃそうだよね、と、じゃあ他に日本のアルバムで同タグがついてるのってなんだろう?カウパーズ?キウイロール?とか思いながらページ内検索をかけたら引っ掛かったのがこのアルバム「起爆剤」で、とにかくこのジャケ、この名前、そしてポストハードコアとしてSAPPUKEIと並んで紹介されているのを見るだけでもう音も聞かず即購入。

で届いて視聴、一発であぁこのベースはMIYAさんだなとわかるZAZEN BOYSでの衝撃的スラップベースソロみたいなのはそのままBLEACHから地続きだったのだなというのが1曲目の「視界の幅」から即わかり、Nomeansnoをこの過激すぎるベースでズタズタに引き裂いてしまったかのような、全身刃物のようなガレージ・ハードコアがノンストップで爆走する8曲23分、とにかく前のめりにひたすらまくしたてるリズム隊の快感と、もうオルタナだとかハードコアだとかそういう枠を飛び越えて一瞬で僕のオールタイムベストに食い込んでくる程に衝撃を受けました。ヤバすぎます。一々キメがかっこよすぎるとこもNomeansnoを思い出すしMinutemenとか好きな人も是非。とは言いつつ本当に衝動的なパンクで全部解決してしまいそうなパワーがありとにかく聞いてこんな全身熱くなってくるようなロックアルバム久しぶりに聞いたかもしれない。

文脈はありつつもエモやノイズロックとまで行かず、B面に入ってる「声」みたいなエモーショナルな、半分はやっぱハードコア的なシャウトになりかけてるその直前といった具合の塩梅で歌い上げるメロディアスな曲もあったりするし、ここでのMIYAさんの終始耳をえぐるだけでなく所々ユニークなおかずを入れてくるベースラインも本当にかっこよすぎる。そしてこれ聞いたことでZAZEN BOYSって元NUMBER GIRLと元BLEACHのメンバーがいるのかっていうのを考えるとまたテンションが上がってしまったし、他の二人はLumiouseorangeとBuffalo Daughterなので、ちゃんと系譜があったというかあの頃のオールスター感あるバンドなのだなぁと思ったりもしました。

 

 

ZAZEN BOYS- ZAZEN BOYS4(2008)

4th。今までのキメを多様したポストパンク~ポストハードコア+ファンクと言った作風から離れ3rdで片鱗を見せていたエレクトロ路線でガッツリと作りこんだ「ASOBI」より開幕。今聞くとかなりクラブミュージックに聞こえますね。

ASOBI、今では代表曲として長く君臨しているアンセムですが当事自分はギターロック延長線で聞いたというのもありしっくりこなかった。歌詞もネタなのかマジなのかわからなかった。今聞くとノスタルジック全開なシンセの音色がスカスカのビートに乗る作風に冷たさと温もりが共存していて、向井秀徳はこれを一人で、打ち込みで、肌先まで温度感が伝わるくらいの孤独を描写する必要があったんだなと思ってしまう程、寂しさを感じる。10台の頃は「眠らずに朝が来て ふらつきながら帰る」に共感していたけど、地元を出て20台の大半を一人暮らしで過ごした今ZAZEN BOYSを聞き返すと、ASOBIでの「全然聞いてなかったが」のごまかし方に途方も無い寂しさを感じてしまい、深夜の帰路などで聞くとリアリティありすぎて本当にぐっときてしまう。

この流れで聞くと次の「Honnouji」ではASOBIの反動にも聞こえるバンドサウンド全開のブチギレファンクをやってますが、「本能寺で待ってる」て言いたいだけに聞こえる一発ネタ感ある歌詞の中でも「ずっとずっと待ってる」と連呼される部分にやっぱり近しいものを感じてしまうし、同路線での「Fureai」「Memories」でも、やっぱ人肌恋しいような、歌詞の節々からこの空気は一貫してるんですよね。言いたい事を吐き出すだけで意味を乗せてるつもりは本人にも無いと思いますが、それでもたぶん、自然と出てくる言葉が孤独を連想させるような、ずっとそのモードで曲作ってたんじゃないかと思う。

「ASOBI」「SABAKU」とあとシングルの新バージョンである「The Drifting / I Don't Wanna Be With You」を除く6曲は全部バンド録音(しかもデイヴ・フリッドマン)、MVもあるしで象徴的な「Weekend」を代表するようにかなりプリンス色強まったと言える程ファンキー、ただサウンドは今までどおり硬質な鋭角サウンドだしハードコア的な不協和音要素も度々顔を出してきて、この冷たい質感でカッチリとビートを刻むのは唯一無二。Jesus Lizardサウンドでファンクをやったような印象もあります。最後の「SABAKU」は完全ソロで作った打ち込みの歌もので、ナンバガ時代からずっと冷凍都市や少女達に孤独を投影してきた向井秀徳がここまでダイレクトに「割と、寂しい」と言い切ってしまう完璧なラスト。あの頃から「孤独主義者のくだらんさ」を歌ってきたけど、ずっと寂しかったんだろうなと思うし、冷凍都市から、やっぱ地続きなんでしょうね。

 

 

hàl - blue(2001)

こちらも2001年作のSSWの作品で主にZAZEN BOYSの起源とも言える6階の少女が収録。向井秀徳が作曲及びギターを担当しリズム隊に54-71の二人が入るという無敵の布陣、そしてZAZEN BOYSの形が出来た後に最初のシングルでこれがセルフカバーされるというのもあり割と重要作。NUMBER GIRLZAZEN BOYSの最もわかりやすい接点だという気もしますね。

でアルバムの方に関してはあくまで向井秀徳は「1曲提供した」というだけなので作品としては全く違う雰囲気がありとくに開幕「海の音」からいきなりドープなダブが展開されていくし、「カフェ☆レーサー」「人魚」辺りのメロディ自体はポップなナンバーでもアコースティックメインながら見え隠れするダブ音響的な処理やスペーシーな効果音、ホーンセクションも積極的に参加してきて影を落としたような曇天ぴったりの内向きな空気がずっと続いていくのは同時代の坂本真綾新居昭乃といったSSW達と近い空気感がこちらにもあります。「オートバイ」は別名義ですが曽我部恵一提供だったりもするし、上田ケンジも2曲関わっていてネオアコギターポップ色も強いです。ちょっと暗いけど。

そして6階の少女。このアルバムの中で最も浮いてるようにも見え、むしろZAZEN BOYSバージョンよりも際立つベースラインや靄がかったようなリバーブのおかげで音楽性を超えてアルバムに溶け込んでしまってるような印象もあり、ZAZENから辿って単曲で聞くのとhalのアルバム通して聞くのでは全く違って聞こえてくる。これは1曲目がダブでその印象に引っ張られてしまってるというのもかなりあると思います。ナンバガの楽曲として見ても非常にポストハードコア色の強い不協和音ギターノイズ、もろ54-71直系の不穏なリズムの噛み合いによる殺伐さはとんでもなく、ここに、余りにも向井色の強すぎる"メロディーに乗っかり切らない言葉の連続感"みたいのが出すぎて、どこか歌わされてる感のあるhalのボーカルがぶっきらぼうにしかしどこか儚げに乗るのは今聞いても奇跡というくらいの組み合わせ。良すぎますね。

 

 

BURGER NUDS - 自己暗示の日/kageokuri(2014)

1曲目の「AM4:00」からかなりスロウコア色の強い金属的なノイズワークと肌に突き刺さってくるひんやりとした硬質なアンサンブルが美しくて惚れ惚れとする。完全にこれはポストハードコア発スロウコア経由の色を出しながら、でもサビになると急に疾走ギターロック化してしまう突拍子もない展開に少し笑いつつ、これがいいんですよね。そしてギターロックアンセム「自己暗示の日」へ。この曲単体で聴くのとAM4:00から聞くのじゃまるで印象変わるなぁ。

AM4:00が死ぬほど好きなのだけど完全にこの曲はSlintとかルイビル方面からきてる音で、ダブのアプローチがあるとこもリンクしてくるし、インタビューでもSweep the Leg Johnnyをフェイバリットに挙げてる辺り相当コアなその周辺シーンのファンであったことが伺えます。それこそ数年後ストレイテナーアジカンと言った王道さえもポストロックシーンと呼応していったのに対してこの時点でそれを、しかもジャンルが定義付けされきる前のプレ・ポストロック的なルーツを参照していた辺りかなり早いというか、純粋にここが好きで自分達のいる下北系ギターロックの流れを同一に出力していたことが今聞くとわかって、そんなん最高でしかないわけですよ。僕もやっぱギターロック聞いて育った世代なので今になってパズルのピースがハマった感覚があった。全体的に硬質なサウンドの質感も彼らがグランジやUKロックってよりそういうポストハードコアのラインで考えて聞くとしっくりくるのではないかという気がする。とは言いつつ、純粋にいい曲、いい歌、スローテンポではありつつもスロウコアからは大分離れた「タネリ」が真っ直ぐに刺さってきて一番好きな曲であります。

今作はオリジナルアルバムではなく2002年に出た自己暗示の日のシングル+ミニアルバムだったkageokuriをまとめた再発盤。主にシングル側の曲で語ってしまいましたがkageokuri収録でも8分超ある「鋼鉄の朝」とかもろスロウコアのビート感でたまりません。他は結構ノスタルジックなギターロック然とした空気が濃いけどそれでもひりひりとした肌に刺さるような空気はどの曲にもありますね。

 



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SPOILMAN - HARMONY(2022)

SPOILMAN - HARMONY(2022)

気が狂ってる。狂気を全身に身にまとった新しいSPOILMANワールド全開の衝撃作。先行配信もPVも無し、全曲新曲という1年足らずにこれが出てきたことに驚いてしまうほど前作から突拍子もない変化を遂げていて、いきなり1曲目の「Cairo」では前作でのパンキッシュなイメージがずっとあったSPOILMANからはかけ離れた12分の大作で内5分がギターソロとかなり攻めてます。それ以外のパートもかなり展開が多く、とくに耳元でのたうち回るように不規則に駆け回るドラムがとにかくものすごくてホラー映画みたい。1st「BODY」でのノイジーで爆発的ポストハードコアメドレーとも言えるラスト数曲をぶっ続け12分即興的にやったような印象もあって、ライブでのインプロゼーション要素をうまいこと音源に落としこもうというのが割と今作の特徴かもしれない。2曲目の「Tiramisu」もそうで以前ライブで見た長尺のノイズパートがそのまま音源に入ってまさに今即興で鳴らしているような、現場にいるんじゃないかと肌先まで伝わるライブハウスの空気感が完璧に音源に保存されてます。開幕2曲からもうアルビニ録音だとかShellacやらJesus LizardやらMinutemenやらそういった今まで彼らの作品から感じてきた影響や文脈についてもうそんなこと言ってる場合じゃないだろというくらい全部断ち切って、アンダーグラウンドの孤高の帝王のような、ノイズとフリーキーなボーカルとアンサンブルの同居の仕方がコンセプトアルバムにすら聞こえる独壇場。

そして個人的に結構刺さってきたのが「Neight Fence」「Happy Life」辺りの路線で、シンプルながらじわじわと迫ってくる不穏なリズム隊とこのスカスカっぷり、スロウコアとも比較できそうな「静」方面の中から狂気が滲み出ていて、この2曲での団地ノ宮の弥子氏を迎えた女性ボーカルとの掛け合いが絶大にこのアルバムの解像度を上げてくれてて、それこそ今までのポストハードコア~ジャンクロックなスタイルからじゃ絶対体験できなかった、破滅的で、少し耽美な・・・ちょっとBlonde Redheadとかも思い出すような、この世のものとは思えない空気がある。最終曲「Sewer Dwellers」はこの路線の究極とも言えるスポークンワーズっぽさもあるカシマさんのボーカルが淡々と続きながらもどこかポップ、と思いきや徐々に徐々に胸の奥が詰まるような体の内の奥から何かが張り裂けて出てくるかのような、新しい生命体が生まれるその瞬間を見ているような耳元にじわじわ迫ってくる生々しすぎるドラムの録音にゾワっとする。

数か月前に出た前作スプリットに収録されてた「Pure Puke」ではカシマさんのフリーキーなボーカルをまるでギタープレイに投影したかのような、気狂いジャンクギターと言いたくなるマスロックとはまた違う奇怪なフレーズを弾きじゃくる姿が見受けられそのまま疾走していく3分足らずのパンクロック(?)にすごく惹かれ、このミュータント感は新境地かとも思ったわけですが、それどころじゃなかったし、Pure Pukeはたぶん今作が作られるであろう地盤から出てきた、それこそ新しいSPOILMANからの1st~2ndの従来の作風をリメイクという聞き方もできたのかもしれない。そして今作はその地盤から、これまでの再出力とは遠くかけ離れた・・・今までのスタイルから完全に脱して凶悪なノイズが至る所から体を蝕んでいくような、かといってノイズミュージックやノイズロックのような前衛的な空気は無く、あくまで3人がバンドで合わせている姿を想像できるような音に仕上がってるのがとてもSPOILMANらしく、そしてSPOILMANでしかありえない〇〇のフォロワーと言う聞き方を一切させない確固たる作品。90年代にリアルタイムでTouch and GoやSkin GraftやAmphetamine Reptileのリリースを追っていた人の気持ちは自分にはわからないが、それでもこの時代に毎年出るSPOILMANの新作を楽しみにしながらライブに通うことができるのを本当に嬉しく思います。最高。

 

 

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Butter Sugar Toast - Extended Play I(2022)

最近リリースされためちゃくちゃかっこいい国内ポストハードコア作品についてです。


 

Butter Sugar Toast - Extended Play I(2022)

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Butter Sugar Toast初EP。ボーカルTakujiro氏の強烈なDischord Recordsへの憧憬はいたるところから伝わるんですがかと言ってFugaziフォロワーだとかディスコーダントだなんて言葉一つで例えられるような音楽性ではなく、もうその手のポストハードコア~ノイズロック周辺を全て取り込んでオリジナルとして衝動たっぷりに出力された衝撃の六曲。まるでHeroinを原体験してるかのような印象すら抱かせてくれる、そういったHeroin以降のサンディエゴのカオティック勢~Repititaion以前の初期Unwound、ポストパンクにも通じそうなキリキリとしたノイズと緊張感からはThe ExやUzedaといった硬質なジャンクロックも思い出すし、Slintのような静寂の中に狂気を孕んだような緊張感とダイナミズム、そして聞いてるだけで腹の底から熱いものがこみあげてくるようなエモさがあってHoover→Four Hundred Yearsのラインと近いものも感じます。

初ライブを見たんですが本当に衝撃だった。SPOILMANやAKUTAGAWA FANCLUB、Teenager Kick Assと言った本当に初ステージとは思えない程シーンを象徴するような錚々たる面子に囲まれたにも関わらず、そこに全く負けることの無い劇的パフォーマンスに完全にその場で言葉を失ったし、同会場にいた人はたぶんみんな同じ気持ちだったと思います。その初ライブから1ヶ月でレコーディングされたスピード感はこのリアルタイムの空気そのまま保存したかのような恐ろしく生々しいDIY感にまみれた録音、フィジカルの方では一つ一つハンドメイドで作りジャケの絵も手書きのため同じものは存在しないという制作スタイルまでハードコアシーンへのリスペクトを感じるし、この徹底ぷりに脱帽。

スロウコア色がとても強い一曲目の「Sink」を聞くと本当に泣いてしまいそうになるくらい僕にとって"エモ"として刺さってくる。これがライブ一発目で披露されたとき今一番聴きたい音楽が今一番完璧な会場で鳴っているというこの感情を一生忘れることはないだろう。どの曲も衝撃ですが最後のMushroom Kingdom~Undietの疾走間とライブハウス中を包み込む(というか収まりきらないような)過激なノイズと爆音にぶっ飛ばされた。とくにUndietはゴリゴリのベースラインをノイズの隙間からうまく聞かせることでしっかり轟音ノイズの中に1本軸を作ることで生まれるグルーヴ、隙間を作ることによるノイズでのカタルシスが本当に気持ちよくてかなり中毒性がある曲です。家で聞いてても叫び声を上げるのを我慢できなくなるような感じ。bandcampのEPの方ではライブ音源もセットでついてくるのでこちらも是非オススメ。

 

The Keeley/SPOILMAN - Peaky(2022)

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そしてこちらも今年出たばかりのSPOILMAN及び盟友The Keelyeのスプリットシングル。関連作としてどうぞ。ジャケがめちゃくちゃかっこいい。Butter Sugar Toastをライブハウスに引っ張り出したのもツイッターで投稿されたスタジオ演奏動画を見たSPOILMANのカシマさんが声を掛けという繋がりもいいです。完全にリンクしたサウンドだしもし自分が海外からこれらのバンドをインターネット等を通して知ったらこのアンダーグラウンドシーンに恋焦がれただろうし、そんなシーンが国内リアルタイムで今かなり近い位置から体感できているというのは一音楽ファンとして本当に恵まれていると心から思います。

The Keeleyは元々ポストハードコアというよりはインダストリアル~ポストパンクのような鋭利でノーウェーブ的な聞き方をしてたバンドで、昨年のEPとかもかなりエクスペリメンタルなビートミュージック的側面があったんですが今回かなり生々しいバンド形態の色の強い曲に。SPOILMANとセットで聞くからこそってのもあるかもしれない。人力Ministryのような、ポストハードコア色強いとは言いつつもやはりソリッドなポストパンク~インダストリアルのメタリックなヘヴィさも存分に滲み出た「硬質なジャンクロック感」はもうポストパンクと融合して全身刃物になったUnsaneという感じ。

そしてSPOILMAN、もうSPOILMAN節が全身から滲み出たギターリフでじわじわと這いよる不穏さはもう貫禄すらあるのですが、今回スプリットというのもあって録音にThe Keeleyのメンバーが関わったらしく今までとは違った方向性、曲自体はかなりSPOILMANでもギターのソリッド感がめちゃくちゃ増してて金属的なサウンドになってます。例えば前作は全体的にかなりスカスカでギターよりもリズム隊の絡み合いを楽しむといった側面が強く、ポストハードコアというよりはMinutemenとかを聞く感覚で聞いたんですが、今回はむしろギターサウンドが前面に出ててカオスなギタープレイの内側にリズム隊が内包された感じというか、パート毎の分離が良かった昨年の2ndとは全く違う感覚で聞けます。というよりそのおかげでカシマさんのギタリストとしての魅力を存分に楽しめるんですが最終曲Pure Pukeでのこの録音による高速ジャンクギターは圧巻、ジャンクな質感と芯の通ったソリッドさみたいのが同居してて凄まじいです。もうすぐリリースされるらしい次作も楽しみ。

 

the pillowsの好きなアルバム

the pillowsに関して現在の活動をちゃんと追えている状態ではないんですが、一時期の自分にとっては間違いなく一番好きなバンドとして長く君臨してたのもあって、思い入れのある時期だけまとめます。邦楽に関しては定期的にまとめてきたけどpillowsは好きな枚数が多くて一個分けたかったというのもありますね。


 

Please Mr.Lostman(1997)

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代表作。バンドの創始者だったリーダーが脱退して残ったメンバーでもうやめようかと何度も考えたみたいですが、最後にやりたい路線やってやり切ろうとレーベルの反対を押し切ってまで出した「ストレンジカメレオン」がしっかり受け入れられこの後の活動に繋がったという有名なエピソードに惹かれて聞いたこと覚えてます。実際もう解散寸前というか、フロントマンの山中さわおのどうしようもない孤独や不平不満をぶちまけたようなストレンジカメレオン、に続くTRIP DANCERやSwankey Streetと言った同路線のシングル三部作、そしてそれに連なる表題曲でもあるPlease Mr.Lostmanという文句無し名曲が並び、ロック路線へと大きく舵を切り後のpillowsのイメージを作り上げた第三期開幕のアルバム。この体制で20年以上経つ今でもずっと続いてるのですっかり1st的ポジションで語られること多いですが、キャリア的には5thになりますね。

元々ネオアコAORに傾倒してたジャンルをやってたのもありバンド名の由来もチェリーレッドのギターポップ名コンピ「pillows and players」から取ってるし、この頃はまだ以前のUKロック然とした空気がめちゃ濃く残ってて、SUICIDE DIVINGとかかなりマンチェっぽい。「彼女は今日、」「ICE PICK」ら辺もUKロックで今聞くとTRIP DANCERはもろSome Might Sayだし・・・となるんですがこれは後のpillowsもそうなんですが、中々ダンスミュージックの方にはいかないんですよね(二期までではちょっとあった)。メンバー全員ローゼズ大好きでもFools Goldには寄せないしこの後の彼らのキャリアからもそういグルーヴ重視の方向にはガッツリやることない気がしてて、シューゲイザーにも行かずUSオルタナやインディーロックと融合してやってくのはさわおさんのポップミュージック趣向というかやっぱメロディーが第一だよねって部分なんじゃないかと勝手に思ってます。

歌詞については語りつくせないくらい名曲だらけのアルバムで、「僕らは間違いながら何度も傷ついたけど 信号が何色でもブレーキなんて踏めない」「僕の振りかざす手があの空に届いて あの星を盗み出せたら何か変わるのか」などなどいつ見ても泣けるわけですが、この辺から感じるやるせなさというか、売れて色んな人に認められたいという気持ちとセルアウトすることへの反発に自分から板ばさみになってるようなのが伝わってくるのもすごく良いんですよね。一度売れ筋を目指したにも関わらず失敗してしまった第二期があったからこそってのもあると思うんですが、そういう作品が出る経緯含め大好きなアルバムでした。

 

LITTLE BUSTERS(1998)

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これも代表作。BUMP OF CHICKENによるハイブリッドレインボウのカバーが有名になったおかげで原曲体験として聞いた人も多いんじゃない?て思うけどまさしく僕がそれで、これを聞いて関連作とか前後作とかバンドのことを調べてく内に上記のロストマンという会心作のこと知ったりしました。そしてロストマン成功により自信をつけたさわおさんが今後その路線で行くのを決定付けた作品というか、決意表明なのが今作だと思います。てかジャケ良すぎ。

この後アメリカのオルタナティヴ・ロックへどんどん傾倒するpillowsだけどこの頃はまだUKロック路線みたいのも残ってて、そのおかげでUSのグランジオルタナなザラついた音とブリットポップマンチェスターっぽい空気感が溶け合っていて1曲の中でも同居していることもあり、割とこの後の所謂00年代ギターロックという邦楽の路線にも繋がってく要素とかもあったりして、このざっくりとした「90年台っぽさ」みたいのがとても愛しくなるアルバム。前作を踏襲したしんみりとした空気感もどことなくそれっぽいですね。

開幕の「Hello, Welcome to Bubbletown's Happy Zoo」はもろthat dogだけどヘヴィなギターサウンドグランジとも接続できると思うし、名曲ハイブリッドレインボウは元ネタがBlurのsong2だという意見もあるようですが言われてみるとリフは近くて(でも時期近すぎて微妙だと思います)、あの頃のBlur自体がUKブリットポップからUSのインディーロックに寄ってもろNirvanaPavementに影響を受けていた時期なので、出自というか同じ時期に同じバンド達を体験したってのも含めてリンクしてくるんじゃないかなぁと。

あとは特筆すべきは吉田仁のプロデュースによるギターの爆音感が凄まじく気持ちよくて、これはグランジ色強い次作で更に顕著になりますがとくにアナザーモーニングはイントロの出音のインパクトはいつ聴いてもめちゃくちゃかっこいいですね。でこれRideの「Like a Daydream」をpillows風に解釈した曲だと思います、Rideのときもアルバムであの曲のインパクトすごかったし。歌詞も「ああ今日は新しい僕の誕生日なんだ」と言ったこのときの心境をもろ表しててどん底で出したロストマンを評価してくれたファンへの感謝というか、ハイブリッドレインボウの「ほとんど沈んでるみたいな飛行船」「明日を持ってる」とか、こういうありのままの自分達をうまく昇華した名曲がたっぷり詰まったアルバムであり、この後長きに渡る活動の中で歌詞が再登場することもあったりして、pillowsのバンド通してのストーリー性(あとからついてきたって感じだけど)の強さもよく出た曲だと思います。

 

RUNNERS HIGH(1999)

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いつ聴いても最高・・・。確かこれくらいの時期にnoodlesと出会ってアメリカのオルタナに目覚めたと言っててその路線もろで、吉田仁プロデュースのエッジの聞いた爆音ギターサウンドが色濃く出た作品で数曲を除いてほとんどの曲が爆音です。しかもめちゃ音の分離がいいのもあってリズム隊もラウドに響くしでガンガン脳内に入ってきます。

開幕のSad Sad Kiddieから極端なまでに振り切られた爆音ギターのスイッチのオンオフがとにかく気持ちのいい過剰なラウド&クワイエット、毒っ気たっぷりな1曲目から最高ですね。NirvanaのLove Buzzを想起しつつグランジ一辺倒てわけではなくthat dogやPixiesのようなユニークな要素がメインに出ちゃってるのがよくわかる曲で、Wake Up Frenzyとかは次作にも出てくるDinosaur Jr.及びJ・マスキス感もかなりあります。

個人的に大好きなのがインスタントミュージック、ポップな入りでメロディーもメロウだし、アルバム内でもユル目の曲だと思って聞いてると批判的な歌詞が中々に強烈、でもってサビになるとやっぱり爆音ギターがこれでもかってくらい炸裂していくグランジである必要性たっぷりな曲。あとWhite Ashは彼らにしては珍しいくらいパンキッシュでめちゃくちゃかっこいいんですが、後にトリビュートにも参加するWhite Ashのバンド名の由来になった曲でもあるようですね。

 

HAPPY BIVOUAC(1999)

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年内二枚目で凄まじいリリース速度を誇ってますが、本当にロストマン以降評価されたことによる吹っ切れたpillowsはもう今が売れてようが売れてまいが関係ないって感じのアクセル全力で踏みっぱなしで爆走していきます。てことで1999年作。ありのままの自分を歌詞に投影することの喜びに満ち溢れてるという感じで間違いなく全盛期、幸せな登山なんていうタイトルがそのままそれを表してるし、まだもうやりたいことやりたいようにやってるようなエネルギッシュな空気が音から滲み出ていて本当に好きな時期ですね。

グランジ色っというかギターのヘヴィな感じは少しずつ抑え目になってきてその分Dinosaur Jr.とかPavement、Built To Spillと言ったUSインディー色かなり強まってきてて、ああいうヘロヘロながらどこかエモーショナルなインディーロックをかなり感じるし「LAST DINOSAUR」なんていう曲名はもろリスペクトだし、後にリメイクで有名になるFunny Bunnyもこの頃はシングルですら無い一アルバム曲ですがスカスカでローファイなユルさかなりUSインディー(というよりLiz Phairを)思い出します。あとは有名だけど「Back Seat Dog」「Kim Deal」と言ったPixiesやBreedersへのオマージュがそれを物語ってる気がするし、今聴くと開幕のビバークもBuilt To Spill、Beautiful Morning With Youではギターにマスキスの感じあると思います。あとは捻くれギターリフから始まるカーニバルはシングルとは思えないくらいずっとダウナーな雰囲気が続くんですがこれも大好きな曲です。

この辺のジャンルをかなりリアルタイムで取り込んで反映してたんだなってのがよくわかるアルバムで、PavementのWoowee Zowee(3rd)とthe pillowsのHAPPY BIVOUACはもうこういう音楽が好きですと自己紹介替わりにできるアルバム。

 

Ride on shooting star(2000)

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シングルだけど個人的に曲のパワーも3曲のまとまった作品としても傑作。フリクリだったりグランジのハムスターでおなじみのRide on shooting starはいつ聴いてもめちゃくちゃかっこよく、この時期のpillowsを象徴する曲で、直前のHAPPY BIVOUACやRUNNERS HIGHともまたちょっと違う作風ですがストレートにメロディーもギターリフもめちゃくちゃキャッチー、捻くれギターリフ路線ってのはこの後のアルバムでもずっと出てくる「pillowsの手癖感」みたいのが炸裂しまくり、そしてサビのカタルシスがめちゃ気持ちいい曲でもあります。

Skelton Liarは名曲。ギターの絡みとかリフの感じとかもろPavementですがあそこまでユルくはなくて、それこそグランジのラウド&クワイエット的カタルシスを得る展開はPavementとちょっとイメージが違うし、むしろここまでアッパーに仕上げてくるのはかなりpillows節を感じる。Subhumanは初期のUKっぽさ出しつつ少し浮遊感もあったりして濃密な3曲で全部キラーチューン。EPみたいな感じでよく聞いちゃうシングルですね。

 

Swankey Street(1996)/HYBRID RAINBOW(1997)

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この二作もB面含めて好きなシングル(あとジャケも最高)。ハイブリッド・レインボウのB面に入ってるBeautiful PictureはもろRadioheadだけど初期pillowsの持っていた何をやらかすかわからない怪しさとメロウな哀愁全部乗せって感じでめちゃくちゃかっこいいです。音までAirbagオマージュなのもこういうプロダクション彼らの中では珍しい気がする。TRIP DANCERに入ってるレッサーハムスターの憂鬱も二期以前を思い起こす曲ですがこれもノスタルジー全開で、ロストマンの名曲群とセットで是非。

NO SELF CONTROLL(1998)/CARNIVAL(1999)

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あとNo Self ControllのシングルでB面含めての3曲のバランスは個人的にRide on shooting starに並んで好きです。Wonderful SightはRadioheadの1stもろだし、3曲目のNightmareって曲が彼らにしてはかなり荒々しく、カーニバル(これもジャケが最高)のシングルB面のCome Downとか、この辺りの曲がアルバムの方であんまやらないというかあまり見せない一面のパンキッシュな路線でランナーズハイのWhite AshやビバークのAdviceとか好きな方は是非。

Another morning, Another pillows(2002)

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でサブスクにはないんですがこの辺のシングルが全部収録された「Another morning, Another pillows」は絶対に間違いないというか超名盤。全部聞けます。

 

上記4枚のアルバム+αでシングルとそれ以前の曲をちょっと入れてまとめたベスト「Fool on the planet」で一区切りって感じでしょうか、フリクリ効果で海外人気が出てくるのもこの頃だろうし(てかフリクリのサントラもほぼベスト的網羅具合ですね)。サウンド的には次作の「Smile」も割と延長線上(この4作より大分ローファイなサウンドで更にダイナソーっぽい曲とかあってこれも最高)で更に次の「Thank You My Twilight」からかなりハイファイな路線へと振り切りますが、この辺からさわおさんのメロディーセンスというかポップネスが炸裂しまくって、今回取り上げた所謂「オルタナティヴ・ロック然とした」色はどんどん薄まってパワーポップとか純粋なロックンロールに寄ってきます。Thank You My Twilightは丁度その中間って感じで、まだ曲とかは初期っぽいけどサウンドがめちゃクリアーですね。

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で後期のだと先ほどの「Thank You My Twilight」と2006年作の「MY FOOT」辺りが割と人気、というかすごく聞きやすくてMY FOOTは結構またマスキスのソロ作やLiz Phairを思い出すような曲あったりもして、最初名盤といわれてる90年台のアルバムから入ったんですがこっからの方が全然聞きやすかったなという気もします。ツインギター色も強くなってるしギターもクリーントーンがメインなので90sの作品とはまたちょっと色違いますが、このアルバムThe Strokes意識だともよく言われてますね。

 


以上でした。歴史を総括するような記事でもなくて好きな時期についてダラダラ書いたって感じですがこの後も大体好きです。最後にちょっと触れたMY FOOT以降にレーベルをavexに移して20周年記念だったり武道館ライブやったりとメジャー寄りに、音楽性もよりパワーポップに振り切り始めたり、反動的にその後もう一度解散の危機というか活動休止をした2013年作「トライアル」があったり、それ以降バンドの方やソロの方でまた色々と動きがあって、再始動した現在を第四期とする声もあるようですがちょっとまた違う作風になってきてます。多作なバンドで、他にも好きなアルバムちらほらあるし余り語られない初期作も名盤なので気が向いたらまたどこかで・・・。