朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography⑨

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Bonnie "Prince" Billy、Tara Jane O'Neilと言ったルイビル周辺のSSWからあとスロウコアを何枚か。


 

Bonnie "Prince" Billy - Arise Therefore(1996)

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Palace MusicやPalace Brothesなどで知られるウィル・オールダムによるBonnie Plince Billiy名義のアルバム。かなり多作なんで個人的に好きな(というか唯一ちゃんと聞けてる)ボニプリ時代の初期何枚かを。ハードコアシーンとも近いし。

でウィル・オールダム、今ではTortoiseとの共作だったりサントラ仕事で有名ですが元々出自はルイビルハードコアシーンと密接なところにいて、兄貴のネッド・オールダムはSlintの主要メンバー達と中学時代からの友人で前身バンドを組んでたり、ウィル・オールダム本人もPalace初期作のバンドメンバーはSlintの面々だったりするし、というかSpiderlandの水没したあのジャケットを撮影した人でもあります。で彼本人の作品・・・所謂オルタナ・カントリーシーンのアーティストなのですが個人的にアルビニ録音によるスロウコア~アメリカーナ寄りのアーティストという印象が強いです。

今作「Arise Therefore」はアルビニ録音によって録られた本当に「部屋丸ごともってきた感じ」をめちゃくちゃ感じるアルバムで、キック一音が密室の壁を伝って部屋中から体に入ってくるような・・・体の芯まで響いてくるような低音の上で、できるだけ最小限に紡がれる各パートによるスカスカながら重い音像。極限まで音を減らし、その空間や隙間そのものに重点を置いたカントリーとも言える作品でこれが本当に緊張感があり、この冷やかさからスロウコアを連想したりもします。ハードコアシーンとはちょっと距離あると思いますがSlintのSpiderlandとか好きな人にも。

 

Bonnie "Prince" Billy - Joya(1997) / I See A Darkness(1998)

そんで次作のJoyaと代表作と名高いI See A Darknessで個人的な好みとして上記のArise Thereforeを挙げたけど普通に聞きやすいのはこっちですね。Joyaは前作と比べてわかりやすく音が分厚く一曲目からもうオルガンの音がかなりフィーチャーされてて華やかさが増し、バンド感も強くて大分色が違いますがこちらも好きな作品。

I See A Darknessはなんとピッチフォークで10点を取ったということでもうインディーシーン名盤という感じですがJoyaでのバンド感は無く弾き語りSSW色がぐっと強まってますが、この隙間の多い静寂と常に同居したどんよりとした暗さを持ってるのは一貫してるなと思います。「Death To Everyone」ではこのドシンとしたミニマルなリズムで空間的に見せてくるのは非常にスロウコア的だと思うし、この部屋で鳴ってるような音響の拘りでスカスカのアメリカンルーツ的なフォークをやるってのがこの時期ウィル・オールダムでしょう。

 

Tara Jane O'Neil - Peregrine(2000) / Bones(2000)

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元RodanにしてSonora Pine、Retsinを率いたルイビル出身のSSW、今ではバンドよりたぶんこちらのソロ名義の方が有名かも。1stであるPeregrineはいかにも宅録、それこそRodan解散後に率いたRetsinを更に骨組みだけにしたような感じですが、とにかく彼女のメロディーセンスが全面に出た名作です。

そして同年に出たBonesも好きで、1st同様素朴な弾き語りを想起させるような1、2曲目、エレクトロニクスを導入したインストを挟んで「Bullhorn Moon」では両方の側面を持つ展開を見せて驚きます。無添加なローファイSSWだと思っていたら急に電子音が自然に合流してきて、以降はリズムマシンの上で弾き語りをするような、かと言って完全にエレクトロに寄らずかなりアナログ感の強い「宅録ポストロック」的な曲が多くて不思議な感触です。

 

Rex - C(1996)

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96年発のRexの2ndで個人的スロウコア名盤選というのを組むとしたら絶対に外せないバンド。シーンにおいてもかなり重要作というかやっぱりスロウコアってのはポストロックの原型だったんだなというのがよくわかるアルバムだと思うし、ポストロックやりながらアメリカーナな方向行った人もいるんで分けるってより同居してるような感じですよね。

でRex、ドラムはCodeineの2ndやJune of 44、HiMで知られるダグ・シャリンが叩いていて僕もここから掘りました。「New Son」「Jubin」と言った楽曲でバンド全体でドライブしてくようなラウドな展開を見せるのでスロウコアにしては割と展開が多い作品で、ここでのダグ・シャリンがJune of 44も想起させる程パワフルなドラムをバカスカ叩き彼のドラミングを軸にして曲を動かしてく流れがとにかくめちゃくちゃかっこいいですね。ボーカルの枯れた雰囲気からRed Red Meatとか好きな人にも絶対間違いないアルバム(あそこまでギター重くはないけど)。

 

Rex - 3(1997)

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で3rd、前作と比べるとより牧歌的な雰囲気も出てきてルーツ色強いフォークロックとかアメリカーナ方面の歌ものスロウコアとして聞くならこちらのが純度高いと思います。アコースティック主体の曲も多くてチェロやオルガンも自然に合流してくるんですが、USインディーとして聞きたくなるくらい所謂サッドコア的な冷たさはほとんどなく、上記のTara Jane O'Neilが率いるThe Sonora Pineとかなり近いものを感じていてRodan~June of 44関連作としてもセットで是非。2曲目の「Jet」はこの吹き抜けのいい雰囲気の中ダグ・シャリンのドラムを堪能するというスロウコアにしてはかなりリラックスした空気で聴ける曲で中々新鮮。ちなみにダグ・シャリンはRex解散後ソロプロジェクトとしてHiMを結成するのですが初期作品のレコーディングはRexのメンバーで実質変名バンドに近い形になってます。

ちなみに両作ともSouthern Records。以前同ブログでも触れた90 Day MenやSweep the Leg Johnny、そして最近再発されたKarateも同レーベルで個人的にどれもこれもポストロックベストと言いたくなるようなアルバムばかり出しててめちゃくちゃ好きなとこです。廃盤ばかりなのが悲しい。

 

Bluetile Lounge - Lowercase(1995)

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スロウコア自体が好きというよりはスロウコア的側面が強いインディーロックとかポストロックが好きみたいなとこが個人的にあるんですが、Bluetile Loungeに関して言えば僕の中で「最もスロウコアらしい」バンドであり、というかマイベストと言っても過言ではないくらい好きなアルバム。

スロウコアを聞くときのシチュエーションってとにかく寒い日の風呂上りに毛布にくるまって暖を取っているときのサントラというか、無心なってただ一人延々と流していたくなるような5曲46分。1曲1曲が長尺ですが物憂げなGalaxy 500とも言いたくなるローファイで繊細な音をスロウペースで紡ぎながら、じわじわと熱量を上げてくのは美しすぎて本当に夢見心地なアルバム。轟音にまでは行かなくとも琴線に触れる優しいメロディを徐々に、本当に徐々に少しずつ積み上げていつの間にか感情が昂っていくのはまさしくこれぞエモ、です。The Wrensとか好きな人にも。穏やかなんですがずっと孤独感が付きまとうのもすごくスロウコアらしいし、Bluetile Loungeはそこにそっと寄り添ってくれるような音楽なんですね。

オーストラリアのバンドですが2ndはSmells Like Recordsから出しててここBlonde Redheadも初期作を出していたり、そもそもSonic Youthのメンバーのレーベルですが実際Sonic Youth周辺とかあの辺と交流があったようですね。てことで2ndはもうちょっとノイジーというか轟音寄りにいきますがどちらも名盤。

 

Tortoise & Bonnie "Prince" Billy - The Brave And The Bold(2004)

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最後に上記でもちょっと触れたTortoise&Bonnie Prince Billyのコラボで実は最近買ったんですがこれが本当に素晴らしかったです。元々Thrill JockeyとDrag Cityという90年代シカゴシーンを代表するようなポストロック~アメリカーナ~ジャズ文脈が入り乱れるあの辺のスーパーコラボって感じですが、それこそ全然Tortoiseらしくも無ければBonnie Prince Billyらしくも無くジャズでもカントリーでもなく、間違いなくポストロックを経過したサウンドプロダクションでバンドの音自体はもろTortoise「Standards」のちょい重めのエレクトリックな音直系なんですが、延長線上の感じはあんまなくむしろTortoiseファンはこういう演奏が聴けるのかなりレアなのでは・・・。ウィル・オールダムもいつもの枯れたSSW的歌唱とはまた違ったスタイルで、ラフでかつタイトとも言えるカバー集になってます。

曲によってテーマは余りにもバラバラでBruce SpringsteenElton JohnからMinuitemenやLungfishと言ったハードコアシーンにDEVOまで、どれも共通するルーツなんでしょうけど、しかしながら統一感あるのも不思議。ある意味着飾ってないど真ん中スタイルなのかもしれないです。個人的にポストロック経由のシカゴ産歌ものロックという意味ではGREAT3とかをちょっと連想しました(これまた大分的外れな気がするが・・・)。もうちょっと聞き込みます。これもデヴィッド・グラブス経由というかルイビルから脈々と続くシカゴシーンのスーパーコラボですね。

 


 

最終的にRodan~June of 44のメンバー関連がかなり多いので以前書いたまとめの延長という色が強かった気がします。ウィル・オールダムに関しても完全に以前のSlint記事の捕捉みたいな感じですね。