朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

記録シリーズ:Hoover

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HooverというDischord Recordsのバンドを中心に関連作、解散後の各メンバーのバンドをまとめました。激情系のルーツでもありつつジャズやダブ、レゲエにも接近しながらJune of 44やSweep The Leg Johnnyと言ったポストロック方面とも合流していきます。

 


 

Hoover - The Lurid Traversal Of Route 7(1994)

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ワシントンD.C.で結成されたDischord Records発のHooverの1stにしてポストハードコア大名盤。Hooverは解散後メンバーが散り散りになり、様々なバンドで活動したり合流したり再結成したりして音楽性を多方面へと深化させてくわけですが、その全ての原初がこのアルバムに詰まってます。ディスコーダントな音ですがダークでヒリヒリとした緊張感が尋常じゃなく、変拍子の不協和音ギターリフを次々とチェンジしスクリーモを繰り返すこの作風は常にシーンが切り替わっていくような感覚で、後の激情系エモやカオティックへの影響力も絶大、Drive Like Jehuの「Yank Crime」と並び(しかもこれも94年作)それらのジャンルの布石となったアルバムだと思います。

で尚且つ、メンバーのその後を知ってるからこその視点でもあるのですが「Route 7」ではポストロック化の片鱗もあり後のAbileanやThe Sortsを思い出したり、「Electrolux」ではスロウペースでじわじわと繰り返されるベースリフを核としてバーストさせてく曲でこれはJune of 44で繋がってきたりと、既に色んな曲からジャズを想起するシーンもあったりメンバーのその後のバンドでより掘り下げていく兆候はもう大分見せてきてます。ただそれらのバンドとは違ってHooverではあくまで実験的にはなりすぎず、FugaziやJawboxと言ったあの辺とも並べて聴けるような、あくまでハードコアの中にそれらを内包しているってくらいのバランスやってるのが熱いです。

そしてレゲエやダブが由来であろうフレッド・アースキンのベースラインがこの頃から耳を傾けるだけでかなり楽しい。彼はこの後数々のバンドを渡り歩きハードコアとポストロックをジャズやレゲエをミッシングリングにして繋げていくシーン内最重要人物とも言えますが、そんな彼のスタートであるアルバムでもあります。

 

Crownhate Ruin - Until The Eagle Grins(1996)

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そんなHooverが解散後にツインボーカルの片割れジョセフ・マクレッドモンド主体のバンドでベースはHooverより続投のフレッド・アースキン。Hooverが持っていた爆発パートというかハードコア成分やあの殺伐とした不穏さを色濃く継承していてストレートなポストハードコアとして聞くならこちらです。Hooverの1stでの1曲目「Distant」とかに衝撃を受けた方はそのままどうぞ。Hoover時代のポストロック要素は後にAbileneとなるRegulator Watts側が担っていたのかもというのもよくわかります。

 

June of 44

 

95~99年にアルバムをリリースしていたSlint直系のポストハードコアバンド。作品を経る度に音楽性を深化させ後にダブやジャズに接近、完全にオリジナルのポストロックを作り上げますがこちらにベースとしてHooverのフレッド・アースキンが参加。彼のプレイがバンドに与えた影響は計り知れず、そしてそれはHoover側にも言え、この後Hoover組もダブやジャズへと接近していくのでかなり同時代性があります。元々別でまとめ記事(記録シリーズ:Rodan / June of 44 - 朱莉TeenageRiot)を書いてるのでセットで是非。

 

Regulator Watts - The Murcury(1998)

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Hooverでボーカルをやっていたもう片方であるアレックス・ダナムのバンド。基本的にCrouwnhate Ruinと同じくHooverの延長、ではありつつ、こっちは少し実験的な要素も見えてきて並べて聞くことでうまいこと分離したような気がするしこの後のHoover復活での両者いいとこどりしたような融合っぷりも絶妙。

割とAbileneだったりJune of 44だったりもう"ハードコア"よりも"ポストロック"としての成分が強いんじゃないかって思えるバンド群とここから直に繋がってくような空気があって、激情にも通じそうなリズムとか曲展開凝ったポストハードコアが相変わらず多いんですが、その中でも「Los Angeles」とかはずっと静パートですがヒリヒリとした緊張感が持続していってこの空気感はもろAbilaneのプロトタイプ。「Winslow」のフェードインで入ってくイントロとか「Version idols」でのダブ要素、そしてラスト3曲はエレクトロニクスも導入した実験的な路線でGastr Del Solになる直前のBastroとかを連想します。

 

Hoover - Hoover(1998)

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再結成して出したEPでこれが余りにヤバすぎますね。ぶっちゃけここで再合流するので上記の2枚も周辺バンドってよりはもう初期のHooverの活動の一環として聞いて大丈夫だと思いますが、それらの集大成的なものが詰まっていて開幕「TNT」からHooverで見せていた衝動はそのままずっしりと構えたような、リズムやアンサンブルにアプローチしながらより曲を重くしたような印象でめちゃくちゃかっこいいです。

そしてこのバンドのメンバーは別バンドでの活動において結構多ジャンル幅広く活動しつつも、ここで集まったときには"Hooverの音"として、Dischord Recordsのポストハードコア然としたサウンド直系のままより深みを増してく感じがすごく好きですね。ポストロック方面に突き詰めた結果としてはAbileneが到達点だと思いますが、ハードコアとして聞くんなら個人的に一番好きなアルバム。しかも最後の「Relectrolux/Electrodub」はもろダブからの影響を顕著にしていて、これがHooverとしては最後のリリースですがそのまま以降のバンドに繋がってくのもニヤリとする。

 

The Sorts - More There(1998) / Six Plus(2002)

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フレッド・アースキンがトランペットとして参加したバンドで元々Hooverではベーシストだったのでサウンド的に関連性があるかと言うと微妙なんですが、Hoover派生ポストロック系やちょっと飛んでSlint~June of 44を経由した後のシカゴ音響派周辺、TortoiseやSea And Cake、Dianogah、33.3とか、The Coctails周辺とか好きな方にはめちゃ良いと思います。2002年の最終作である「Six Plus」には上記のHoover~Crownhate Ruinのジョセフ・マクレッドモンドも参加。

 

The Boom - Movin' Out(1998)

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そしてこちらは上記のThe Sortsとほぼ同メンバー、つまり変名バンドで音楽性を変えたとも言えるのですがこちらがヤバすぎます。Sortsから続くジャズ要素をそのままポストハードコア化させたようなあまり聞いたことないサウンド、ディスコーダンドてタイトなリズム隊の上に乗るのは不協和音ギター・・・ではなく、分厚いホーンセクションが前面に出ているという、しかも唐突なジャズパートが挿入されるのもかなりクールです。むしろギターは小刻みにリズムを刻むことに徹していてこういうバンドがDischord由来から出てくるのめちゃくちゃかっこいい。というかこのサウンドに乗るのが逆にもろHoover直系のシャウトかましまくるボーカルってのも何故か見事にマッチしていて色々衝撃を受けました。しかもギターボーカルがフレッド・アースキンでベースでもトランペットでもないっていうマルチプレイヤーっぷりがすごすぎる・・・。

 

Abilene - Abilene(2000)

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Hoover及びRegulater Wattsのアレックス・ダナムのバンドで完全に延長線というか直系。今作はいませんが2ndでHooverのフレッド・アースキンも参加するし、あと地味にスコット・アダムソンというマスロック寄りシーンでの重要人物もドラムで参加してて彼については後でまた触れます。

こちらもヤバイですね、衝動的なハードコアサウンドからは一旦離れ、Hooverから音を引いてスローペースでじわじわとリフを重ねることでマスロック~スロウコア色が強くなってます。まだ2nd程レゲエとかジャズには寄せてなくあくまで"遅いポストハードコア"という感じでこのサウンドスクリーモが乗ってるバランス感、音がめちゃくちゃ悪いのも相まって地下で生まれたダークでアンダーグラウンドなミュータント感がかなりかっこいい。

 

Abilene - Two Guns, Twin Arrows(2002)

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2nd。とにかく1曲目の「Twisting the Trinity」からかなり衝撃的な不協和音ギター+ホーン+スクリーモがスロウペースでじわじわと浸透していく暗黒世界はもう完全に唯一無二。Hoover関連でお馴染みのフレッド・アースキンが今作から参加しますがベースではなくホーン、そしてこれがギターよりフィーチャーされてるんじゃないかというくらい前面に出ていて、1stと地続きのねっとりとした緊張感のあるグルーヴの上でトランペットとギターがユニゾンしていってこれはもうプログレを聞く感覚でも行けると思う。

もうHooverの中にあった実験性というかハードコアに内包されていた多ジャンルを行くとこまで突き進めて完全にオリジナルの音楽に昇華したサウンドで超絶不穏、上記のThe Boomとも繋がってくる音であれをより音数を減らし煮詰めていった感じです。Bastroがシカゴに渡ってGastr Del SolだったりTortoiseになったかのような、SlintのThe For Carnation化やJune of 44が1st~4thの内にダブ化しHiMに分離してったような、そういう同時代のハードコア出身のバンドがそれぞれのサウンドを突き詰めていったのとこれは完全に被ってきます。名盤。

 

Just a Fire - Light Up(2004)

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こちらはフレッド・アースキン主体のバンドで彼はベース及びボーカル、ドラムは上記のAbileneにも参加した元Chisel Drill Hummerのスコット・アダムソン、ギターはSweep The Leg Johnnyのクリス・デイリー。90s後半のマスロック~ポストロック界隈の錚々たる面子が揃ってます。

再生して1曲目の「Hot Export」のイントロのベースリフからわかるようかなりフレッド・アースキンの趣味がフィーチャーされたバンドだと思います。AbileneやJune of 44やHiM以降の彼のバンドにしては全然そういうった実験的な要素は薄く、ただホーンが入っていたりベースラインには彼の特徴であるレゲエからの影響を前面に押し出していて、ストレートなポストハードコアの中でそういった今までの経験が滲み出てくるような感じがめちゃくちゃかっこいいです。The Boomからジャズ要素を抜いてまたDischordに回帰したような感じで「Snake In That Bush」「Dog Bites Back」での踊れる曲もHoover系列の中では珍しく、これもレゲエ要素が今までより強く出てきてるからだと思います。

 

Chisel Drill Hammer - Chisel Drill Hammer(1998)

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上記AbileneやJust a Fireでドラムを叩いたスコット・アダムソンのバンドで、彼自身はHooverに在籍していたわけではないですが主要メンバーのその後を支えたということでこちらも近隣作。でこれがまた凄まじいです、HooverというよりはJune of 44とかがまだダブ化する直前だった2nd~3rdのリズム主体なスロウコア/ポストハードコアを、よりエモとかマスロックに近づけた感じで、スロウペースのまま静寂とリズムの妙と捻じれたフレーズが絡み合って次々と展開していく様は曲がどこに向かってくかさっぱりわからないまま快感が次々と訪れるような感じ。あとこの時代のマスロック全般にも言えますがKing Crimsonっぽさもあります。

 

Sweep The Leg Johnny - Tomorrow We Will Run Faster(1999) / Sto Cazzo!(2000) / Going Down Swingin'(2002) 

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上記のJust a Fireにギターで参加したクリス・デイリーのバンドでこれがまた00年代前後のマス~ポストロックを代表するバンド、当時の名コンピZum AudioにもJune of 44と一緒に参加してました。

こちらもChisel Drill Hummerと同じく直接Hooverと関りはありませんが近隣作、Slint~初期Don Caballero~Rodan辺りのポストロックの祖を一本線で繋げてKing Crimsonやジャズの要素が入ってきたようなバンド。ハードコア色かなり強いんですがこちらもメンバーにホーンがいるためカオスな不協和音とスロウコアのような静パートとの行き来が激しいです。上記の2nd~3rdは全てSouthern Recordsからのリリースで、レーベルメイトの90 Day MenとかKarateとかのジャズ~ポストロック~スロウコアと言った要素を多分に含んだバンド群は上記のAbilaneとかともめちゃくちゃリンクしてくると思います。

 


以上です。途中何度も触れてますがフレッド・アースキンが参加したJune of 44/HiMはまた別軸、Rodan~June of 44~Shipping Newsというルイビルの系譜で書いてるのでセットでどうぞ。というかHooverの系譜とRodanの系譜が交錯する瞬間がJune of 44なんですよね。