朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

Bedhead / The New Year

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最近またちょっとスロウコアブームが来てるのでRodanとかに次いでよく聞くBedhead及びその続編とも言えるThe New Yearの全アルバム感想です。


 

Bedhead - WhatFunLifeWas(1994)

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Bedheadの1st。Yo La TengoやRodanと言ったインディーロックの要素とポストロックの要素どちらも持つバンドが好きな方は無添加でそのど真ん中をやってる今作を聞くべきだし、Rodanが残したスロウコアきっての大名曲「Bible Silver Corner」に心を打たれた人はRodanを聞くのではなくこれを聞くべきでしょう。あの曲をゆったりバンドサウンドの歌もので再編成したような曲がたくさん入ってるしボーカルもRodanのジェフ・ミューラーのシャウトしない版、Slintのマクマハンとも通じるボソボソとしたポエトリーと歌の中間とも言えるもので近いフィーリングで聞けます、こっちの方がよりメロディアスかな。

名曲「Bedside Table」を筆頭にギターフレーズのループが中心のシンプルな曲が多いんですがとにかくグッドメロディで聞きやすく、途中からギターがフィードバックノイズにまみれ爆音と化しドラムもやかましくなってくってタイプの曲が多いですね。「The Unnpredictable Landlord」ではカタルシスを迎えたあとにハーモニクスでフレーズ再度弾く部分はやっぱりポストロックも感じる激エモーショナル展開で、エモやポストロックの源泉とも言える作品の一つだと思います。

 

Bedhead - Beheaded(1996)

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2nd。サウンド的に大きな変化はないんですが曲のテンポはより遅くなり、全体的にくたびれた雰囲気も出てきてスロウコア度は一気に増します。

元々Bedheadはメンバーにバイオリンを入れたかったらしいんですが誘うことができず断念、じゃあギターの音で再現しようと意識し始めたことでトリプルギター体制での"常に誰かしらがフレーズを紡いでいる状態"を持続させたらしいです。でもBedheadの1stの印象って割と轟音でカタルシスを得るタイプの印象でバイオリン入るイメージあまり湧かなかったんですが、The Sonora Pineや33.3などの後続のスロウコアはメンバーにチェロやバイオリンが参加しているので、後追いで考えるとやはりスロウコアに弦楽器が入るのはかなり理に叶うというか、むしろかなり早かったのではという気すらしますね。で1stの感想でRodanと近い感じで聴けると書いたんですがおそらく原因はこの辺にあって、Rodanのギターフレーズの紡ぎ方って割とBedheadがやっているバイオリンを意識したプレイと似通ってる気すらするし、実際に後続のRachel'sではRodanの曲のバイオリンバージョンとも言える曲までやってるのでかなり納得。

で今作スロウコア度が増したということでその「バイオリンのようにギターフレーズが紡がれていく感じ」を最も実感できるアルバムだと思います。前作と比べるとボーカルも結構聞き取りやすくなっていてThe New Yearで本格化してくる歌ものとしての味わい深さも滲み出てきました。1stのように一気に盛り上がって多幸感溢れる展開があるというよりはじわじわと徐々に音を分厚くしてくようなイメージで、爆発パートも前作程ドラムがラウドになってないのも含め次アルバムへと続きます。

 

Bedhead - Transaction De Novo(1998)

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3rdアルバムで大名盤。今作からスティーヴ・アルビニ録音でTouch And Goから再発とこの時期のインディーロックで一番間違いない組み合わせですね。

で内容としてはThe New Yearのプロトタイプとも言え・・・いやむしろThe New Yearの1stがBedheadの4thって方が正しいか。それについては後述しますがとにかく前作、前々作の総決算をアルビニ録音による生々しい箱庭サウンドで録った作品で、音の生々しさ重視のためトリプルギターによる音の紡ぎ合いと言った要素はかなりそぎ落とされてしまってますがその分線の細いタイトなギターの紡ぎ合いとその上で浮き上がってくるメロディーが極上。この後LowやMagnolia Electric Co.にも続くスロウペースだからこその音と音の隙間の広さやリズムに重きを置いた"アルビニ録音によるスロウコア"の金字塔的作品の一つでしょう。しかもBedheadなのであんまり悲壮感だったり殺伐さはなくてサウンドは硬質なのにどこかユルく聞けてしまう、この絶妙さは同じくアルビニ録音で知られるSilkwormと通じるとこがあるし、Silkwormも00年代以降アメリカーナ~フォークロック化しますがその時期にBedheadのカデーンもメンバーとして参加するので完全に関連作ですね。

純粋にどの曲も良い曲しかない・・・というシンプルに名盤なんですがとくに「More Than Ever」「Parade」は上記での"アルビニ録音のスロウコア"のうまみがたっぷり詰まった名曲。初期の爆裂ノイジーっぷりは完全に失われてるんですがその分音の引き算、足し算の塩梅が最高で、ノイズパートの名残とも言える絶妙にやりすぎないギターの重ね合いがスロウコアの静寂ループの中から時々顔を見せるのがとにかく最高です。B面からは意外にもバラエティに富んでいてスライドギターが出てきたりアップテンポのエイトビートな曲も出てくるし、なにより驚きなのが「Psychosomatica」で、ジャンクロック~ポストハードコア感満載な不協和音ギターを前面に押し出した今までの彼らからは想像もつかない曲でこれをアルビニ録音でやるのはもう完全に確信犯。

 

The New Year - Newness Ends(2001)

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1st。Bedhead解散後にバンドの核とも言えるカデーン兄弟によって作られたバンドで当初はプロジェクト的な感じでメンバーも流動的だったようで今作からTouch and Goに。で作風なんですが先ほど述べた通り・・・もしBedheadが解散しなかったらこんなアルバムになる予定だったよと本人達が言う通りもろTransaction De Novoの延長、しかもスティーヴ・アルビニ録音で個人的に前作以上にアッパーな曲が多い気がするし「Carne Levare」「The Block That Doesn't Exist」とかめちゃくちゃキャッチーで疾走感ある曲で、ギターのちょっとジャキッとしたタイトな質感とどんどんドライブしてくドラムはもうマイルドにしまくったポストハードコア経由のインディーロックという感じ。

とは言いつつ「Reconstruction」「Gasoline」とかは割とパブリックイメージなBedhead調の曲ですが相変わらずスローペースでも全然静寂寄りじゃないし、歌の比重も増してる気がするし、Gasolineはもうキラーフレーズ繰り返すタイプの曲でスロウコア感をやんわり残したままポップになってて本当にキャッチーすぎる・・・。ReconstructionではBedhead程爆発させずにリフのテンションもそのままじわじわと絶頂に持ってくところはもう貫禄すらあります。

 

The New Year - The End Is Near(2004)

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1曲目の「The End's Not Near」からもう印象全く違ってびっくりですが大名盤、というか代表作としてよく挙げられる曲でめちゃくちゃ牧歌的なイントロと歌で、もうスロウコアってよりアメリカンルーツロックとかフォークとかSSW的な音になっていて割とThe New Yearと言えばこういイメージの人が多いと思われます。続く「Sinking Ship」も同系列。丁度この頃ってバンドのフロントマンであるカデーンがSilkwormにサポートとして参加してた時期で丁度Silkwormもアメリカーナ化してきた時期だしUSインディーと言えばWilcoとかも出てきて逆にWilcoはカントリーからポストロックに接続し始めたり、サブポップからはFleet Foxesとかも出てくるんで「USインディー」という概念がローファイな緩いオルタナからだんだんとルーツっぽい方向へ移行してきた印象があります。

しかしThe New Year、実はこのアルバムもそういう曲ばっかではなくむしろ3曲目「Chinese Handcuffs」はBedheadラストアルバムを想起させる静と動を行き来する冷たい感触でかなりかっこいいし、この鋭角なサウンドはもうアルビニ録音がめちゃくちゃ映えますね。他にも「18」は彼らにしては珍しく7分超の大作ですがバンドサウンドを突き詰めて自然とポストロック化してしまったという大名曲。個人的にBedehad初期とかにあったポストロックのプロトタイプっぽい雰囲気がここにきて戻ってきた感覚で、しかも繰り返されるリフの上を滑るメインギターは今のNew Yearだからこそな少しブルージーな空気もあるしで集大成とも言える曲になってます。

 

The New Year - The New Year(2008)

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前作までは一応三本のエレキギターが入るというBedheadから継承された作風で、音楽性もフォーキーになりながらどちらかと言えばやっぱりエレクトリックな音がメインでしたが、今作は一曲目の「Folios」からもうアコースティック色が強くてオルガンもガッツリ入ってきて完全に前作の序盤2曲を推し進めた感じです。彼らのアルバムはどれも第一にメロディーがめちゃくちゃ良かったですがおかげでそれが一際目立つ作品になってると思います。

とは言いつつ「The Company I Can Get」は割りと前作からあるアッパーな曲になってて前作~前々作で培ったアルビニ録音の硬質なサウンドを軸にした静と動のコントラストのあるタイプの曲で「X Off Days」はこれまた結構激しく、1曲目を除くと割とそこまで印象変わらないのですが本編はB面でしょう。ひたすらテキサスの地をドライブしてるときのサントラにしたくなるような牧歌的でフォーキーな曲が多くそしてやっぱオルガンがめちゃフィーチャーされてますね。雰囲気としては完全にIdahoとかと並べて聞けるようになっていてA面とB面でちょっと毛色が違う作品かもしれません。

 

The New Year - Snow(2017)

最新作でなんと9年の時を経てリリース。90sのポストロック前夜にインディーロックやってた人達は激動のシーンの中でどんどん新たなジャンルを突き進んでくイメージありますが、The New Yearはほんとに自然体にいつも通りを貫き通してますね。もう長いのもあって円熟しきったような貫禄を感じるくらいとにかく純粋に曲が良いのですが、アルビニっぽい硬質で空間的な質感は今作あんまりなくてむしろギターの音色を聴かせると言いますか浸透させてくような優しいタッチになっていて、後は「Snow」とか「The Beast」ではキーボードの音も相まってポストロックっぽい聞き方もできるかもしれないです。全体がそっちに寄ってると言うよりは自然体でインディーロックやってるだけでポストロック感が滲み出てきたとかそういうのに近いかも。あと大分時間経ってるはずなのに何故か声が若返ってるようにすら感じる・・・。

 

Bedhead - 1992-1998(2014)

Bedhead - LIVE 1998(2015)

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1st〜3rdとその他音源全てをまとめたコンピレーション。でアルバム未収録曲が結構あって中でもJoy DivisionのDisorderは必聴です、と言うかこれ結構当時話題になったらしいのでBedheadを知るきっかけになった人も多いと思います。ちなみに僕も完全に後追いですがこのカバーが最初に聞いた曲だったりしたんですがJoy Divisionのカバーでスロウコアやるって言うとGalaxy 500のceremonyを思い出すし、ピッチフォークでGalaxy 500とかヴェルヴェッツフォロワーとして評価されてるのはこの曲がきっかけな気がしてきました。元々メロディーが良いのでインディーロックとして最高な曲になってますので是非とも。

ライブ盤の方は1stの曲中心ですがむしろ1stはBedheadの中で最もリフが際立ってるし静→動へと爆発していく極端な曲が多いのでこれがライブ映えしないわけないですね。特にBedside TableとThe Unpredictable Landlordは聴く前から想像していましたが凄まじいことになってます。逆に轟音要素の少ない曲は音源よりどこか牧歌的な雰囲気がある気もしてめちゃくちゃ良いですね。

 


以上でした。個人的にIdahoとかRed House Paintersとかと近いタイプのバンドという印象だったのが一時期聞き返したところ意外とRodanとかとも近いなと思ってきてその辺から掘り下げていきました。

スロウコアと言えばハードコアやってた人達が反動でやってる印象があるのですが彼らの音からはあまりそれを感じず、しかしButthole Surfersのレーベルから出してるのでやっぱそうなのかなと思ったけどインタビューを見るとどうやら周りみんなハードコアやってたけど僕らだけ違った、でもみんな僕らの音楽性に寛容だった、とも言っててそのパターンもあるのか~となったけどいやそりゃあるよなと思ってしまいました。みんながハードコア出身ってわけじゃないもんね。