朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography⑫

Early Day Minersという大好きなスロウコアバンド及びその前身Ativinや関連バンドについて書きました。


 

Ativin - Pills Versus Planes(1996)

以前discography④でも触れたことのあるマスロック~ポストハードコアバンドAtivinの1st以前に出してた最初期EP。Ativinの従来の作品とかなり作風が違い音数の少ないインディーロックとマスロックの中間的だった00年前後辺りのフルアルバムや、スロウコア~ポストロックに接近したアルビニ録音の後のEP「Summing The Approach」ともあまり繋がらない超ジャンクでノイジーな、しかしまたフレージングの節々にやはりマスロックに通じるものがあるポストハードコア。というかかなりヘヴィでこんなにハードコア色強い時期があったんだ?とびっくりする感じで爆裂ギターリフの甲高い過剰なノイジーさも最高だしこの大音量ギター音に負けないくらい重いベース音やローファイなドラムサウンドも純粋に高揚するAtivinの中でも異色作(そして超フェイバリット作)。展開も凝ってて不穏に静と動を行き来しながらスクリーモしてく1曲目「I Know One Hundred Things」から衝撃です。個人的にこれ聞いててめちゃくちゃ思い出すのがSlintの1stであるTweezで、SlintってSpiderlandがポストロックやスロウコアの文脈で度々引用されますがTweezをストレートに継承してるバンドって実は表立ってあまりいない気がするのでそういう意味でもレアかも。参照元が近いという意味でEngine Kidとか好きな人にも絶対良い。

 

Ativin - Night Mute(2004)

最終作になった4th?で間の1st~2ndとあとEPについてはdiscography④で触れててたぶんこのバンドが一番わかりやすいのはこの3作で既に書いてるので、今回の2枚は割と触れられない部分かも。で今作、最後にしてかなりポストハードコア色が強いというかそれこそ最初期にして異色であった上記Pills Versus Planesでの不穏で攻撃的な衝動がまたしても戻ってきたのではと言いたくなる開幕「Night Terror」からかなりかっこいい。とは言いつつサウンドはやっぱもう何枚も出してきてこなれてるのもありクリアに、というかあのジャンキーな感じは初期ならでは衝動だったと思うし。そして続く「Saigon Sleeps」「Double Back」辺りはポストハードコアのアルバムに数曲入ってそうな音数減らして硬質に不穏に緊張感保ったままちょっとスロウコアっぽくなった曲も多々あり、インストのイメージだったのがここにきてボーカルも復活してきてまた新しい一面が見れます。「The Game」に関しては完全にスロウコア名曲。

今思えばこの静寂寄りポストコアスタイルでマスロッキンなリフの反復をメインに据えインスト化させたのが前作や前々作だったのかも。今作はその反復してく感じは無く、むしろ展開やバリエーションに凝ってて時々Spiderlandを連想するダークなエモみたいな雰囲気が強いです。A Miner Forestや90 Day Menと並べるSlint以降のポストハードコアスタイルに回帰した最終作。メンバーのダニエル・バートンは同時期にEarly Day Minersのフロントマンとしても活躍していて所々共通点あるようでやってる方向性はまた違いますね。個人的にスロウコアとしてのEarly Day Minersが好きで、メンバーが一緒だったの割と最近知ったのですがとても驚きました。

 

Early Day Miners - Placer Found(2000)

Ativin率いたダニエル・バートンによるスロウコアバンド1st。Early Day Minersと言えばスロウコアのイメージ割とあると思うんですが純粋にそれっぽいのをやってたのは実質この1stと2ndくらいかと思います。2曲目の「East Berlin At Night」から淡々としたドラムのリズムとその響き、残響をたっぷり堪能できるサウンドスケープにぼそぼそとした歌声が乗るという、シンプルすぎるいかにもなスロウコア王道。余計なものをそぎ落としてこれを7分間続けるというのもいいです。Codeineのように轟音が乗ったりするわけでもないし、スポークンワーズではないけど極小で歌われているってくらいボーカルの起伏も最小限ですが、このふわふわとぼんやり浮かび上がってくる言葉の節々でも絶妙にメロディーが紡がれていってこの感じが僕の琴線に触れてきます。スカスカですが硬質な残響感もなく、そっとなぞるようなソフトなギターが常に音を刻んでいて陰鬱ながら暖かい。Bluetile Loungeの1stをもうちょっと引き締めて盛り上がるパートを無くした代わりに穏やかにずっとリズムを刻んでくようなイメージ。

あとは全体的にドラムの音がすごくローファイで遠く感じるのがどこか宅録感もあってとても気持ちよく、ドラムの音がどうしても浮き上がってしまうサウンドスケープなんですごくリズムが耳に入ってくる。このドラムを核にした反復の気持ちよさってのは結構Ativinに通じる気がしますね。

 

Early Day Miners - Let Us Garlands Bring(2002)

名盤。代表作と言えばこれだと思います。まだスロウコア色強くリズム隊の隙間も多いゆったりとした曲が続きますが、前作と比べるとかなり力強いサウンドになってて、ザラついた轟音に振り切ってくドラマティックな展開はもう後期のポストロック~エモ方面との関連も見せてきます。とくに「Offshore」は印象的なギターリフを繰り返しながら少しずつ絶頂へと向かってく感じはMogwai以降の極端な静と動のダイナミズムとも、Bluetile Loungeの気付かれないような速度で少しずつ曲を暖めていく感覚とも違い、曲の進行に合わせて繰り返されるリフと共にリズム隊のテンションが一段階ずつ上がってくというか、ハッキリとギアが上がり感情が乗っかってどんどんノイジーになってくのは最近新譜を出したdeathcrashとかの方が近いかもしれない。そういった激情的な面も見せつつちゃんと牧歌的な雰囲気も残し、フォーキーな深みを残したまま歌ものとしても聞きやすくなってます。B面はもう非常に美しく「Summer Ends」「Autumnn Walk」が象徴する最早風景を具現化したような、スロウコアの枠を飛び越えてハーブやヴァイオリンを交え色鮮やかな長尺曲がとにかく美しい。Early Day Miners史上屈指の名盤だと思うし個人的にも00年代前後でベストアルバムかもしれない。

 

Early Day Miners - Jefferson At Rest(2003)

最早スロウコアってよりは少しずつエモやポストロック的な世界観に近づいてきた頃の3rdアルバム。1曲目の「Wheeling」からエモ程ギターは硬質ではないしボーカルも相変わらず枯れた雰囲気が良いんですけど、エモの静パートをもう少しフォーキーにしてメロディーを大切にしながら曲の起伏をコントロールして引き伸ばしたような、Ativin時代も後期のアルバムがハードコア以降のマスロックという形態を取りつつもう少しメロディーに寄せてインディーロックやユルいエモに近づいてった変遷がありましたが、こちらでもスロウコア側から同じ方に向かってった作品としてしっくりきます。後半はスロウコア色また強めつつ、ただ隙間を見せるような音作りでは無くなってて、結構PenfoldやThe Jim Yoshii Pile-Upなどのエモとポストロックが溶け合ったバンド群との共通項も見いだせるかも。「Awake」はバンド屈指の名曲。

 

Early Day Miners - Offshore(2006)

Offshoreというタイトルは上記2ndに収録されてる曲名と一致しますが、まさしくその1曲フィーチャーして6曲38分のアルバムまで拡張した作品。元々リフを繰り返しながら規模を大きくしていく曲でしたがあれを分割し拡張、インストパートを加えたりボーカルを変えたりして合計3バージョン収録されてて通して聞くアルバムというよりはリミックス作品に近いか。しかしなんといっても開幕1~3曲目の組曲となったOffshoreの美しさよ。スロウコアではなくエモ~ポストロックライン、この神秘的な轟音はどちらかと言えばシューゲイザーという言葉も使いたくなってしまう感じで、スロウコアでスタートした初期の曲をオルガンやストリングスもふんだんに使いポストロックフィーリングで再構築、そして大胆なインストパートも挟むことでよりドラマティックに仕上げてきて泣けます。Appleseed Castの「Mare Vitals」とか好きな方なら間違いないと思いますが、彼らとの大きな違いはボーカルがエモではなくそこはスロウコア時代と変化がないところで、この広大なスケール感のサウンドでボーカルは今までと同じくフォーキーで静寂寄りなのがなんともいえない心地よさです。今回ゲストも多くUnwed SailerやWindsor for the Derbyの面々が参加してたり、B面は割と原曲Offshoreに近いスロウコア軸かと思いきや女性ボーカルバージョンでしっとりと、そして轟音パートではどことなくアンビエンスも漂ってきます。マッケンタイアもミックスで参加してたり。

 

Unwed Sailor - The Faithful Anchor(2001)

上記Offshoreにメンバーも参加していたポストロックバンドの2000年作。1stで昨年ボーナストラック追加して再発されました。割と00年代Mogwai以降のポストロックと近いフィーリングありますが轟音に飲み込むという形ではなく静かにじわじわと迫ってくるスロウコアパート、静寂の方の音作りに重点を置きながら捻じれたフレーズをクリーンパートで繰り返しながら熱を上げていく丁寧な曲展開が染みてきます。リフの断片が所々マスっぽいのも程よいバランス感、個人的には結構Bedheadとかと近い空気で聞けますね。

実はメンバーのジョナサン・フォードはかつてRoadside MonumentというDischordやTouch and Goどっちにもアクセスできそうなポストハードコア/エモのバンドをやってた人で、僕はこちらの大ファンなのでそこ繋がりで聞いてました。とくにRoadside Monumentの2nd「Eight Hours Away From Being A Man」はJune of 44とも比較できそうな静と動の対比がとてもいいアルバムだったので今作スロウコアを想起するスタイルにも納得。故にMogwai以降という見方ではなく同時期に近いルートを辿ったという聞き方がしっくりくるかも。逆に今作を出す直前であるRoadside Monumentの最終作「I Am The Day Of Current Taste」はJ・ロビンスプロデュースのかなり硬質なポストハードコアだったので、そっから飛んでくると対照的な作品かも。そしてダニエル・バートンとは90sにAtivinやRoadside Monumentと言ったポストハードコアシーンから出てきたという、後にお互い00年代初頭にこういったスロウコア~ポストロック側にくるところも一致してきます。

 

Early Day Miners - Night People(2011)

Early Day Miners目下最新作である2011年のアルバムで、フルアルバムは今回紹介したやつとあともう一枚05年作の「All Harm Ends Here」というやつがあって3rdのJefferson At Rest辺りのポストロックに振り切る前の彼らが好きな人にはその路線を突き詰めた感じでめちゃオススメ。で今作、Offshoreで完全なポストロックと化した彼らが、ポストロックブームもある程度落ち着いた後にまた新しい側面というか、今までとはまた違ったすごくシンプルに良い曲ばかりの力抜いて聞けるインディーロックをやってます。これが最初聞いたとき結構びっくりした。ずっと一貫していた叙情的で静謐なボーカルスタイルももうちょいリラックスしたラフなものに変わっていて、感覚としてはIdahoの後期やPedro The Lion近いかも?今まであまり見せなかった捻くれたギターリフの反復感やインディーロックとの折衷という面で見るとむしろAtivinが本格的に合流してきたようにも感じるし、最もシンプルにして実は辿ってきたもの全てが継承された集大成なのかも。ちゃんとEarly Day Minersで見せた静→動のカタルシスある展開も、サウンドは違えど所々見せてきます。

Offshoreで壮大な世界観を描いた後、もっとこう日常にありふれた景色を描くというか近くに寄り添うような作品になってるのが味わい深いです。この後アルバムは出してないですが19年にその間活動していた頃の音源を収録したものも19年にリリースされていて、そっちは逆に初期のスロウコア~ポストロックに回帰してるのも面白い。

 


 

記事内でも触れた以前AtivinとRoadside Monumentに触れたやつです。