uri gagarnのアルバム感想を書きました。最初はgroup_inou経由で聞いたのですが、自分がルイヴィル周辺のバンドやポストロック、スロウコアのルーツとしてハードコアへと目を向けるようになったのはこのバンドがきっかけだったと思います。
初公開 2021-02-21
アルバムリリースに伴い更新 2026-01-10

日本のポストハードコアの深淵uri gagarnによる伝説的1st。アルバムタイトルが無くジャケットからもかなり異質な雰囲気がある。M1のMutant Caseから想像以上の威圧感、BedheadのBeheadedを憂いではなくとんでもなくサッドな方向に再チューニングしたかのようなイントロ、緊張感を孕んだ不規則で縦横無尽なギターワーク、A Minor ForestのCoctail Partyも想起するボコボコと地を揺らすリズム隊は曲に更に不安な揺らぎを追加して、徐々にバンドの音を分厚くしながら最後は投げやりの如く過激なノイズギターソロで塗り潰していく。支離滅裂な歌詞もあり、徐々に脳内が狂気で侵されていくその様を音に封じ込めたかのようなこの1曲で完全にぶっ飛んでしまい、自分が後にSlintやRodan、そしてShipping Newsといったポストロック~ポストハードコアへハマる種はきっとここで植え付けられたと思う。当時はわかりやすい解説やインタビューがあったわけではないためここから辿れたわけではなく、むしろ自分の知ってる「オルタナティヴ・ロック」「ギターロック」と違いすぎてこの異質さの正体はなんなのか、惹かれるものはあれど、ミステリアスで少し怖い作品だった。彼らがルーツとして挙げているNUMBER GIRLやeastern youthともまるで違うものに見えたし、静謐で素朴な音感覚はどこからくるものなんだろうと思っていた。
日本におけるポストハードコアで尚且つ90~00年代と言えばやっぱり北海道のイメージが強いけど、uri gagarnはCowpersやNahtと言ったバンドとは明らかにタイプが違うし、Dischord的でもなく、先にも挙げたSlintやRodanと言ったルイヴィル系列の、マスロックとスロウコアのハイブリッドを思い出す。M2のResister、M4のDetroitはストレートに疾走感のあるポストハードコアだが、不協和音のごとくぶっきらぼうに鳴らされる粒の粗いギターワークは録音も相まってジャンクロック的。初期のLowercaseも重なるとこがある。アルバムのラストを飾るMaronに関してはちょっとポストロックやスロウコアにも突っ込んだ12分超えのナンバーで、Sonic Youth的な少しずつ動きを作って魅せるドラマティックさもある。スカスカだったり突然ジャンクな轟音が飛び出したり、とても聞きやすい作品ではないけれど、海外の音楽への憧憬と、どうしても拭えない日本語によるいなたさ、泥臭さがバンドの個性として前面にあり、この空気感は唯一無二。国内ポストハードコアを代表する作品。

2005年にリリースされた2nd。前作から更に音をそぎ落とした線の細いアンサンブル、硬質で跳ね返ってくるようなギターの音色はポストパンクも思い出し、音数を減らしたUnwoundといった趣がある。しかしスカスカになったことで全体的に風通しがよくなった感じもあって、メロディは相変らず不安定、しかしボロボロだからこそどことなくエモと通じる部分が見えてきたアルバムだと思う。このくたびれた感じが良い。一度廃盤になってしまい入手困難だったのが、2014年の再発ついでに初期音源のデモが追加、1stにあったMutant CaseやDetroitと言った比較的バンドの中で激しめのナンバーが密室でライブをそのまま録音しましたって具合の音の悪さと相まって生々しさがアップ。両方ともノイズギターのジャンクっぷりが凄まじく、密室的な録音で内へ内へと籠っていくような狂気が渦巻く圧巻の2曲。完全に別物になっていて普通にノイズロックと呼びたくなる。バンドの真髄が垣間見えるバージョンだと思うし、とにかく荒々しいカオスなギターノイズが好きな方は必聴。
この後メンバーが脱退し活動休止、フロントマンである威文橋はcpとしてgroup_inouとして活動を始めることになるのだが、自分は元々そこを入り口としてuri gagarnを知った。そもそもinouのトラックメイカーであるimaiも元々はuri gagarnのドラムとしてメンバーに誘われていたらしく、新しくやりたいことがある、と断られ、その結果2人で始まったのがgroup_inouだったりする。

2013年にnhhmbaseの二人が加わり再始動した3作目。M2のFlyから早速新規のリズム隊二人による強靭で不規則なビート感がすごい。ギターはほとんど最小限で前作までの流れを汲んでいるけど、ぼそぼそとボーカルが乗って突如スイッチが入ったように不協和音ジャンクギターをかき鳴らしシャウトをしていく、この何をしでかすかわからない唐突さがめちゃくちゃかっこいい。スイッチが切り替わる瞬間が見えないというか急に豹変する感じ、そういう不規則っぷりとポストハードコアってのはかなり親和性が高いと思うし、マスロック的なキメの気持ちよさもある。2ndにあったそぎ落とされた感覚はそのままそれぞれの音がマッシブになったイメージ。M4のDoomは珍しくストレートにハードな曲でメロディーもキャッチーなのでかなり聞きやすく、轟音エモや分厚いギターロックとしても聴けるかと思う。個人的にここまでの三作では最も聞きやすいアルバム。

名シングル。3曲全てが前作と次作を繋ぐ重要なマスターピースとなってる上に全曲キラーチューンと言える程素晴らしく、タイトルトラックになってるFaceは今まで以上にポップであり、3ピースのバンドサウンドのみでやるポストロック・・・まではまだ行かずともそれに近づいていて尚且つ歌もの色も強まってるという、ハードコアバンドが音を引いてスロウコア~ポストロック化していった流れをuri gagarnという狭い殻の中でオリジナルのまま変わっていったような感触で、この路線が次作である名盤Forへと続く布石となっている。Calenderも前アルバムにあった轟音ハードコアの流れを汲んでいるが、こちらも1stや2ndと比べるとかなり聞きやすく、後のライブの定番に。

最新作にして名盤。1stの頃からあったルイヴィル特有のポストロックやスロウコアの空気が完全にuri gagarnの中で昇華された感じがあり、そこに今まではなかった歌の要素が強まったことで今までのアルバムとはちょっと雰囲気が違う。スロウコア程露骨に静謐ではなくとも、スローテンポで隙間を生かしたアンサンブル、奥行を感じる間の置き方はもう3ピースであることを最大限に生かした極上の音空間で、ギターも今までの無機質で鋭い音ではなく暖かみがある。静寂を生かした対比的な轟音パートも今までのような静→動の爆発的なものではなく、自然に暖めてく詫び寂びの演奏はuri gagarnならではの味わい深さがある。平熱的な轟音からじわじわと情感を高めていくM1のFewからめちゃくちゃエモい。そぎ落とされた感触はあるのに空間に滲んでく水彩のようなギターサウンドもとても心地が良い。M2のIjdbは今ではライブに欠かせない代表曲となったナンバーで、とぼとぼと心象風景の中を歩いて行くような隙間だらけの素朴なアンサンブルは3ピースの究極が詰まっている。めちゃくちゃ泣ける。M8のWallもuri gagarnにしてはかなり珍しい激情的なエモナンバー。MVも作られたM9のOwlも吹き抜けのいい名曲。言葉含めどっから来たのかわからない不思議なノスタルジーは個人的にgroup_inouにおけるcpの歌の感じも思い出してしまう。
自分はこのアルバムから入り、というかライブで見てとてつもなく衝撃を受けそのまま会場で全アルバムを購入したため思い入れが深く、あとからキャリアを辿ってみてもここに帰結したことがすごく愛おしく思う。それ故1st~3rdの毒のあるポストハードコアのあのカオスさが好きだった人は逆に戸惑う部分もあるかもしれない。UnwoundやJune of 44と並べて聞ける作風からどっちかと言うとUSインディーのPinbackとかThree Mile PilotとかDuster、あと初期Karate、マスロック要素をオミットしたOwlsが普通に歌ものをやったらみたいなイフも想像してしまう。ただそういったバンドも全て表層的なジャンルの印象だけでなく色々複合した上でオリジナルになっているという、バンドの奥底の深い部分で繋がるものがあると思うし、uri gagarnもその系譜の先にいると言える。

シングルにしてマジで大名曲。IjdbやFaceの路線、バンドサウンドのポストロック~スロウコア、いやもうジャンル分けすら野暮なこの3人でしか成し得ない"音が鳴っていない隙間"すらも1パートとして還元されてるような3ピースの極致の一つ。あからさまなポストロックではないのに自然とフィーリングが滲み出てきちゃってる感じはもう貫禄まである。Tara Jane O'nielも思い出した。あとが歌詞が今回かなり良い、ふわっとしたフレーズの一つ一つそれぞれがエモーショナルで底が見えない感じがあって、ずっと初期のuri gagarnから地続きな得体の知れないチャーミングさ、簡単に乗っかって良いのかわからないがとても親しみやすい不思議な浮遊感がここにもちゃんと詰まっている。

25年にリリースされたuri gagarnの新編成によるコンピレーション。2023年にベーシストの交代がありNOUGATやpeelingwardsで知られるヒグチ氏が加入、このラインナップで今までの数曲を再録、あとはいくつかの新曲とMASS OF THE FERMENTING DREGSのカバーを収録。24年にClimb The Mindとスプリットも出していてそっちは久しぶりに激しい轟音系の曲もあってぶち上がったけど、今回のアルバムはM1のThenからBedheadの3rdに連なりそうなスロウなインストで幕を開ける素朴な平熱感のある作品。単純にスロウコアという言葉でまとめるのも憚れるほど、これまで辿ってきた足跡が全てが血肉化された素直なバンドサウンドで、こんなにシンプルで美しいアンサンブルがあるのかと思わされてしまう。uri gagarnの音楽を聴いてると、ゆっくりと時間が過ぎ去っていくその流れを、肌で感じ取ることができるような気がする。選曲がナイスすぎるマスドレのカバーも素晴らしく、じわじわと情感をコントロールする繊細ながら力強いドラムと、思ったより刻みが多いベースライン、タイトではなくどこかラフに録られた暖かい質感が原曲と全く違った情緒がある。新曲のMemoryは風に吹かれてとんでいきそうなメロディにグッときてしまうスロウナンバー。轟音へ至るのとは全く違った手法で曲のスケールを広げていく、swimの系譜の新しいライブアンセムだと思う。TailやWallといった比較的エモ寄りのナンバーはこれまでで最も「部屋っぽい」感じに新しく録られていて、単純な静と動ではない力の抜き加減が絶妙。2曲ともライブで見れる力強い轟音が今作ではあくまでフラットに聴かせてくれて、序盤の静謐な流れからもとても自然な、セトリのような良さのあるアルバムだと思う。とくにTailは2021年にSoundcloudで発表された先行シングルで当時のデモ音源のときからエモともハードコアともインディーロックとも言えないuriど真ん中の名曲でたくさん聴いた。音源としてまとまって聞けることもすごく嬉しい。
24年に自分が出したpärk/私的スロウコアガイドではuri gagarnを自分の音楽性の起源として最後に触れたけど、実際そこから枝分かれしてZINEに書くことになったCodeineやKarateやUnwoundといったレジェンドが24~25年で続々来日。その全てのバンドと、uri gagarnが共演するという夢のようなライブが立て続けにあり、思い返しても涙が出てしまうかけがえのない体験で、受け継がれてきたものがしっかりアップデートされていることを体現していて胸の奥底から熱くなった。
関連記事
バンドとして直接関連があるわけではないんですが聞いててかなり通じるものを感じるし、元々Rodan周辺のルイヴィルのシーンが大好きなんですが、その空気感を受け継いだ数少ない日本のバンドだと思っていて、改めて聞いて大切なバンドだなという思いを強くしました。
こちらはルイヴィルシーンの大元であるSlintの方。
Timedリリースにあたって追記。あれから結構な年月も経ってCodeineやUnwoundについてもまとめ記事を書いています。周辺シーンを個人の文脈で総括、というか紐づけできてればいいなと思います。
uri gagarnも出演したCodeine来日のレポート。このときのuri gagarnの演奏は鬼気迫るものがあってオールタイムベストの夜です。
最後に自作のZINE。こちらではuri gagarnを大きなテーマの一つとして掲げさせてもらい、フロントマンの佐藤さんにも献本させていただきました。タイトルも実はgroup_inouの曲名っぽくしたかったという動機があります。