朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

記録シリーズ:Codeine

Codeineの全アルバム感想です。


 

Codeine - Frigid Stars(1990)

1989年にニューヨークにて結成されたCodeineの1stアルバム。Sub Pop発。liveaboutのスロウコアランキングでも一位に選出されたアルバムで、Red House Painters、Low、Dusterと並びスロウコアというジャンルを語るにあたってまず名前が挙がることが多いアーティストではないでしょうか。同じく硬質で隙間が多く、同時期にアルバムをリリースしていたのもあり比較されることが多かったSlintとはまた違ったカラーがあり、Slintのようにアルバム内にスロウコア~ポストハードコアが同居した感じではなく、最初から最後まで10曲41分、ひたすら緊張感のある純粋なスロウコア/ サッドコア色が強いアルバムです。もちろん当時そんな言葉はなかったので正真正銘オリジネイターなわけですが、M1のDにおける枯れ切ったギターのトーン、そして素朴なボーカルはあまりにも象徴的。基本的には静→動へと大きく展開する曲が多いですが、バースト部分以外はあまりにもスカスカ。淡々と、ゆったりと鉄を打ち付けるようなひんやりとした金属的なサウンド、そして無気力でくたびれたボーカルによる仄暗さは、まだスロウコアというジャンル名が存在してなかった当時に一つの印象を決定づけたものでしょう。突然蛇口出しっぱなしにしたかのような、荒々しくジャンクな金属的ギターノイズの轟音が垂れ流される静→動の展開は後にMogwaiが「影響を受けた10枚」に彼らのアルバムを選んだのも頷けます。90年台に解散してしまいますが後に再結成、そのときもMogwaiとともにライブをしたとのことで、再結成もMogwai側からリクエストがあったそうです。後にエモと呼ばれるバンドたちに与えた影響もかなり大きいように思えるし、しかしエモを聞いて想像させられる情景と比較するとCodeineは徹底的に灰色。このモノクロームなトーンがまた良くて、これも後にスロウコアと呼ばれる音楽にかなり影響を与えていると思います。というかその原風景がこの作品になるのでしょう。クリス・ブロコウのあまりに淡白で、隙間だらけのドラムはより一層バーストパートでの激情を強調しているようで、後のドラマーが変わる2ndとは同じカラーを持ちつつも、また違った良さがあるアルバム。

 

 

Codeine - Barely Real(1992)

Codeineの92年作EP。元々は2ndをリリースするためのレコーディングに入っていたらしいですが、中々曲の数が揃わず、フルアルバムではなくEPとしてリリースしたとのこと。The White Birchの曲もこの時点でいくつか録音してたようですが、テープの保存だったり色々問題が発生してしまいリリースできず、そのままクリス・ブロコウが脱退したため長らくお蔵入りすることに。The White Birchは後にダグ・シャリンが参加してから全部再録されてしまうため、この未発表音源は2022年、Numero Groupによって再発されるまで日の目を浴びることはありません。そして今作、丁度1stリリース後にBastroのデヴィッド・グラブスとジョン・マッケンタイアからオファーを受け共にツアーを回っていたのもあり、今作ではオルガンでデヴィッド・グラブスが参加。そしてJr. という曲のギターは同じくデヴィッド・グラヴスが参加していたポストハードコアバンドのBitche Magnetからジョン・ファインが参加していて、ハードコアシーンとの関連の密接さもあらわした重要な1枚。M1のRealize からはっきりと1stの頃とは録音の質感が変わっていて、1stにおける荒々しいささくれ立ったギター音と比べると後のエモやポストハードコア、Dischord Recordsの面々とも通じそうな硬質で密度の高い洗練されたギターの轟音はギラギラとした熱があって全てを飲み込んでいく。とにかく物量で押し潰してくるような、この音色だけで後のシューゲイズやポストロックにも通じるような気がしてしまいますが、今作でも圧倒的にCodeineはCodeineでしかないモノクロームなトーンがずっと続く。そして1stと比べると際立ったメロディーが多いアルバムで、轟音の中浮かび上がってくる儚くもどこかメロウボーカルは神聖な雰囲気すら漂う。

 

 

Codeine - The White Birch(1994)

Sub Pop発の1994年リリースの2ndアルバム。今作からドラマーのクリス・ブロウコウがComeの活動に専念するため脱退し、後にHiM、June of 44、Rexなどに参加する、まさに当時のシーンを代表するとも言えるドラマーのダグ・シャリンが参加します。クリス・ブロコウもComeだけでなく、元Bedheadのメンバーのその後とも言えるThe New Yearや、最近ではEarly Day Minersのメンバーが在籍しているAtivinにも参加したため、スロウコア/サッドコア~ポストロックシーンを辿っていくとCodeineのメンバーは幾度なく見かけることとなります。そしてダグ・シャリン、Codeineのように音数が少なく、バーストするパート以外は最低限の骨組みのようなバンドでドラマーが変わるのは本当に大きなファクターだと実感させられます。前面に出てくるギターとボーカルが彩るモノクロで陰鬱な世界観はそのままなので一見外郭は同じでも、その内側、前作までの静→動のコントラストがより強調されたクリス・ブロコウのドラムとはまた違った表情が見えてきて、それこそMogwai にも通じるような、まるでドラムが歌っているかのような繊細なフレーズの組み立て方は、徹底的に寒々しかった1stとはまた少し違った情景を描き出す。それはM1のSeaから顕著に出ていると思いますし、1st以上のスローペースで隙間の多い今作ではその些細なニュアンスの違いもハッキリと見えてきます。M2のLoss Leaderは生々しく冷たいギターの音と、あまりにも激情的な静→動へとバーストする展開はまさにスロウコア然とした新しいCodeineの王道。Mogwaiから辿ってくならすごくわかりやすい曲だと思うし、後に別のコンピに収録されたBBCバージョンでは静→動のコントラストが更に強調され、唯一のライブ盤でもハイライトとして存在してる代表曲でしょう。M6のTomは枯れ切った最低限のメロディーと、1stや前作EPで見せた轟音を更に絞ったことで硬質なドラムの繊細なプレイが浮き彫りになる名曲。個人的に今作のベストソングです。CodeineはSlintやDusterのようにハードコアバンドから直接派生したバンドではないけど、Bastroとツアー回ったり共作したり、その関係の深さや(今作も前作に引き続いてデヴィッド・グラブスがギターで参加)、Come やJune of 44 といったメンバーのその後の活動も含めてハードコアと関連性を見出させる要素が多く、共に聞くことで見えてくることも多いアーティストだと思います。

 

 

Codeine - What About The Lonely?(2013)

Codeineが1993年11 月という2nd リリース直前に、シカゴにてMzzy Starの前座として演奏したときのものを収録したライブアルバム。2013年にNumero Groupが発表したもので、音源からですら極端な静と動を激しく行き来するサウンドはおそらくライブで体験してこそ、肌に直接ピリピリくるような冷たい緊張感とそれを全て吹き飛ばす轟音のエモーショナルさが、スタジオ盤とは全く違ったであろうことが強く伝わる素晴らしすぎるライブアルバム。何より1stと比べると極限まで素朴に録音されていた枯れ切ったボーカルがライブでは更に生々しく収録されていて、これ以上ないくらいくたびれた雰囲気が全開。この生っぽい歌声と、スタジオ盤と比べても極端に静と動のコントラストを感じられるライブ録音の組み合わせは本当に泣いてしまう。M1のCave-Inからとてつもなく重いです。何よりダグ・シャリン加入後の体制で1stの曲を聞けるのも良いですね。それに2ndでのプレイと比べると、ライブならではなのかもしれませんが後のJune of 44やRexで聞くことができたパワフルなドラミングで曲のヘヴィさがより一層増しています。それでいてハイハットの繊細なタッチは絶妙な美しさがあって本当に素晴らしい。先ほどのLoss LearderもTomも収録。ライブ盤ですが、素朴で生々しい作品が多いスロウコアというジャンルはだからこそ生演奏や弾き語りと近い雰囲気があると思うので、選曲的も最高だし最初に聞くのにもおすすめなアルバムです。Cave-in っていう曲タイトルはバンド名の方のCave In を連想してしまいますが、実際にCave In はCodeine のCave-In をカバーしているためリスペクトの意もあったのではないかと思います。

 

 

Codeine- Dessau(2022)

先のBarely Realの方で触れたダグ・シャリン加入前にクリス・ブロコウによるいくつかのテイクを収録した2022年リリースのコンピレーション。凄まじい。未発表音源集とは思えないくらい統一感があるので、一つのまとまったアルバムとしてなんの問題なく聞けてしまう、The White Birchにあった数曲+それ以前のEPやシングルB面の曲も収録されているんですが、曲順も練られていて普通に新作です。ダグ・シャリンと比べるとクリス・ブロコウの極端な静→動の展開はすごく激情的な爆発力があり、The White Birchと比べてもかなり硬質に録られているのもあって、一つ一つリフを重ねるように叩くダグ・シャリンとは対比的に聞こえます。元になったThe White Birchはジャケのイメージとも合致した、このジャンルに付託しやすい閉鎖的な息苦しさや貧しさが出ていてすごくサッドコア然としたアルバムでした。今作は全体的に若干テンポが上がり、ドラマーやミックスが変化したことでどことなく音の分離や抜けがよくなっていて、The White Birchにあった息詰まるような不穏さはガラリと変わり、もう少し外に向かって風が吹いていくような、憂鬱ではあるけど風通しが良いような趣になって非常に聞きやすくなったのではないかと。つまり、エモからアクセスできる作品になったと思うんですよ。個人的にM2のJr、M5のRealizeのような轟音の映える曲が際立つアルバムだと思っていて、以前のテイクでのぎっしり収束された轟音は今作で透明感が増していて、そのおかげで奥行きのある生々しいドラムがより強調された感じがします。もちろんそれこそエモとは距離があった、あまりにも素朴で寒々しかった前テイクの方にしかない良さもありますし、今作はそこからまた新しい表情を覗かせてくれる重要作。同年にアルバムをリリースし後にCodeineと対バンもしたdeathcrashあたりからスロウコアを辿ってきた人には最もしっくりくる作品ではないかと思います。

 

 

Codeine - When I See The Sun (Demos & Live Cuts)(2012)

最後にNumero Groupからリリースされたデモ音源とPeel Sessionを収録した未発表コンピ。こちらの方がDessauよりも先ですが、Dessauはオリジナルアルバムとして遜色なく聞ける作品だったので、ディスクを3つにわけることで音源集としてリリースされた今作はより雑多なのもあり、レアトラックス集として番外的に触れていきます。おそらく1st時かそれより以前であろういくつかのデモ音源と、Dessauの元になったいくつかの音源もDessau Demoとして収録。そして後半のPeel Sessionがどれも凄まじいので必聴。Joy Divisionのカバーも収録されています。序盤のデモ集はアルバム未収録曲がたくさん並びますが、こちらも彼らのルーツが垣間見える非常に面白いものになっていて、全くスロウコアテイストではない純粋なパンクロックやハードコア色の強いもの、またスローペースではあれど、今ではイメージが固まったCodeineらしい隙間だらけの静謐な雰囲気ではなく、むしろ轟音を垂れ流しながら引きずっていくような、重く遅いポストハードコアといった楽曲も多いです。

 


 

以上でした。自分自身完全に後追いファンですが、多大に影響を受けたバンドでありスロウコア/サッドコアを好んで聞くようになってから日に日に大きな存在となってったバンドです。昨年のJune of 44の来日やRexの再発など、他にもNumero Groupによるオブスキュアなスロウコア再発の流れでも重要なバンドだと思います。ダグ・シャリン関連作だけでなくクリス・ブロコウが後に参加したComeやThe New Yearも、それぞれが違った音楽性を持ちながらポストハードコアのニュアンスを持っていてどれも素晴らしいバンドです。Ativinは昨年アルビニ録音で新譜を出したばかりで、それこそ近隣シーンの再発や再結成が続く中でも象徴的な出来事だったと思います。

またこの記事は先日リリースしたpärkというイラスト集の後半に、私的スロウコアガイドというタイトルで音楽ZINEが付属しているのですが、そこに記載しているCodeineのページを再編集して記載したものになります。手に取っていただいた方は物足りないかもしれませんが、一つの記録としてご了承ください。

 

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