朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography⑮

昨年Arab Strapのアルバムを聞き進めながら一枚一枚感想を日記に上げてたのですがそれをまとめました。そっから連想ゲーム的にグラスゴーやUKのポストロック/スロウコアシーンの好きなアルバムについて書いてます。


 

Arab Strap - The Week Never Starts Round Here(1996)

スコットランド出身、グラスゴーを代表するインディーレーベルであるChemical UndergroundよりArab Strapの1st。Mogwaiでも有名なとこですね。結構その時々で自由にやりたいことやってるバンド(デュオ)だと思いますがこの作品はシンプルに音数の少ない枯れたアンサンブルの上に冷たいボーカルがぼそぼそと乗るのがすごくスロウコア的、雰囲気としてはCodeienやSlintにも近いけどもうちょっと叙情的でメロディーが強く、エイダン・モファットの低音ボーカルがすごく映えるのでこれだけで聞けます。その代わり轟音パート的なバースト場面はなく常に落ち着いて聞けるし、アメリカーナやフォークロック系とはまた異なりますがUSインディー周辺のアルバムとしても近い風通しの良さというか、ハードコア以降のスロウコアバンドが持つ冷たい緊張感とはまた違ったユルい雰囲気がある。

ただUKでヒットした「The First Big Weekend」はバンドを広めるきっかけとなった曲にしてアルバムとはちょっと色が違い、アップテンポなドラムマシンの打ち込みが軸となる曲でここにエイダンの枯れたポエトリーが乗っかります。労働階級のスコットランド人の週末が生々しく描かれたということでトレインスポッティングのヒットとも完全に時代が被り多少影響があったよう。

 

Arab Strap - Philophobia(1998)

2nd。一昨年再発もされた代表作ですね。最初の2曲が前作と比べても更に音数が減っていて、隙間だらけのスカスカのアンサンブルに淡々とドラムとギターが乗っていくのはよりスロウコア色を増した。今作もチープなドラムマシンの打ち込みが象徴的でどことなく宅録感あり、極限まで音を削った感じというか、全パートが本当に素っ気ない。ストリングスやピアノも参加してて華やかっちゃ華やかなんですが、所謂ポストロック的な大仰な展開はほぼ無いしそれらのパートもふわっと、本当にふわっと音を足し絶妙に溶け合いながらフェードアウトしていくのがとても美しく彼らの繊細さを表してます。ボーカルも最早メロディーというよりぼやいていて常に何かを憂いているかのようなアルバム。この陰鬱さが原風景的に彼らの魅力だと思うし、このアルバムがちゃんと人気あるのもとても良いなと思います。Belle and Sebastianのスチュアートも参加していてここともグラスゴー人脈で関わりが深く、彼らのアルバム「The Boy with the Arab Strap」もこのバンドから名前を取っています。

 

Arab Strap - Elephant Shoe(1999)

3rdで今作はGo! Beatよりリリース。アルバム通して聴くのなら個人的にベストかも。1stから地続きの静謐さと冷たさが充満した空気感、非常に聞き心地のいいエイダンの低音ボーカルによる冷たいようで暖かいようなこのバランスが相変わらず最高です。

今作ちょっと印象的だったのが「Autumnal」でスローペースで単調なドラムのループの中で突如轟音にまみれていきますがMogwaiと呼応してるなとかなり思った。この時期のMogwai自身もCome on Die Youngというスロウコア名盤の中でWaltz for Aidanていうエイダンの名前が楽曲になってたりもしてるんですよね。でArab Strap側も轟音取り入れてこれはもう近隣でお互いに影響を受けあってた気がするし、とは言えMogwaiの神秘的な、いかにもポストロックと言いたくなるあれはシューゲイザーとかそっちからの影響だと思うけどその空気感は薄く、オルガンやヴァイオリンを使ったアコースティック側からのアプローチで音を足しながらドラム及びギターが徐々に巨大になっていきます。この轟音の聞かせ方はMogwaiの極端なカタルシスとは少し色が違うというか、アコースティックサイドからの乾いたMogwaiって感じでしょうか。あとは前作から地続きの単調な打ち込みドラムの上で叙情的なギターフレーズとボーカルが乗っていくんですがトラックのバリエーションが豊富で「The Drinking Eye」は今までから考えるとかなりエレクトロ寄り、「Arise The Ram」はドラムの音が生々しくてこのドラムのループだけでも最高です。

 

Arab Strap - The Red Thread(2001)

4thで今作はChemical Undergroundに戻ってのリリース。開幕の「Amor Veneris」からアコースティックな色がかなり強くてピアノも入ってくる素直な名曲。とにかくエイダンの低音ボーカルと歌心一つあればアコギと組み合わさって合わないわけがなくそれだけでめちゃいいし今作この方向性か?と思って聞いてると、その反動なのか2曲目以降ずっと実験的な曲が続くアルバム。だからこそ1曲目をとびきり無添加にしたんだろうか?とにかく「The Long Sea」が7分に渡る大作で名曲です。不穏なストリングスが曲全体を覆いつくし、ギターリフを添えながらエイダンが今まで以上にシリアスに、エモーショナルに言葉を紡いでいきます。アウトロで大轟音へ。完全にクライマックスですが、何事も無かったかのようにヒップホップ的にも聴けそうなダンサンブルなトラックが印象的な「Love Detective」へとなだれ込むのもアルバムの色を表してる。

「Haunt Me」は新機軸でストリングスの分厚さに50年代のロック以前のポップスとかフランク・シナトラのような雰囲気もあるし、映画のサントラっぽいというか、このストリングスが徐々に遠くから鳴ってくる現代の轟音サウンドと合流し一つになってくアウトロはとても新鮮でした。ラストの「Turbulence」は相変わらずチープな打ち込みと簡素なエレクトロニクスがメインになっていて、このシンセによる反復と浮遊感は今までに無かった。乱雑ですが好きな曲がめっちゃあり、通して聞くのなら前アルバムのElephant Shoeがベストなんですがこちらもかなり好き。ジャケも良い。

 

Arab Strap - The Last Romance(2005)

2005年作で今作を最後に一度解散(今は再結成して昨年16年ぶりにアルバムが出ました)。またまた別物。いきなり「Stink」「(If There's) No Hope For Us」から今までのArab Strapとは全く違ったそれこそ遅くもないしスカスカでもない、むしろノイジーなポストパンク/ネオアコ/シューゲイズとかそういう言葉を使いたくなるような疾走ナンバーに驚く。それこそ雑にオルタナとかギターロックとか呼びたくなるし、これを聞くことでやっぱり彼らはハードコアルーツから派生したスロウコア/ポストロック系のバンドとは全く違った系譜であることがよくわかります。むしろMogwaiの方がそっちから影響受けててセットで語られがちだからそういう目線で見てしまっていたという気もする。しかし10年目にしてここに着陸してくるのはほんと不思議な感じだ。「Speed-Date」などアップテンポな曲が多くエイダンがこの分厚いバンドサウンドの上で割としっかり歌ってるのも新鮮ですね。

 

Ganger - With Tongue Twisting Words(1998)

名門Dominoより。こちらもグラスゴー出身のバンドで同年に出た1stと並ぶEP。所謂90sの生音系インストポストロック的な括りだと思いますがDianogahだったりSonnaだったり近い雰囲気のUSのバンド達とは一線を画した独特のスタイルがあり、それは1stでクラウトロックやUKらしいエレクトロ要素もあったりしてその調和具合がとても新鮮で、そして今作はそれらを経過した上でまた新しい形になってます。とにかく9分に渡る「With Tongue Twisting Words」がすごすぎる。僕はポストロックで1曲オススメを教えてくれと言われたらこの曲を挙げてしまうかも。直線的で力強いドラムとベースのグルーヴィーな屋台骨を軸にし各パートが装飾していく感じで、イントロから粉々にしたガラスをぶちまけたようなギターの音から衝撃を受け、ホーンも入ってきてジャズっぽい雰囲気もあればファンキーな表情も所々見せる極上の9分間。とにかくリズム隊二人のペースを保った安定感のある掛け合いが素晴らしく、長さを感じさせませんが聞き終えた時はアルバム一枚終えたような満足感がある。決して音楽性が近いわけではないけど路線の外し方というか取り入れ方はTrans Amと似たような脱線の仕方、いや、オリジナルを突き進んでるような感じ。

 

Hood - The Cycle Of Days And Seasons(1999)

こちらもDominoより。UK出身のバンドで初期のBark Psychosis的なサウンドからスロウコア色を徐々に強めてきた99年作。バンド形態というよりはエレクトロニクスも大々的に導入した独自のサウンドで、スロウコアに括られるバンド郡の中でも中々見られないダビーな音響処理を楽しむことができます。The For Carnationがアルバムで見せたアプローチに近いというか、あの作品もスロウコアからダブへの接近、Massive Attackの影響もあるように感じたんですが、Hoodは元々UKのバンドなのもあり手法的な面でかなり似通っている気がします。

「How Can You Drag Your Body Blindly Through」では遠くで鳴っている音をなんとなく眺めている内にどんどん耳元にノイズが迫ってくるのは圧巻。そこから突如音を減らし真横で抒情的なアコースティックサウンドで心地のいいスロウコア/サッドコア化するバンドサウンドにおける静→動の轟音とはまるで違った非常に実験的な曲に驚きました。Talk TalkやBark Psychosisと言ったネオサイケやシューゲイズとも近隣のUKポストロック黎明期を現代に繋げるミッシングリンクだと思います。

 

Hood - Cold House(2001)

2001年作でこちらもDominoから。アンチコンとコラボした「You're Worth The Whole World」が象徴するようにヒップホップにも接近。そもそもスロウコアってジャンル自体、手数の少ない単調なスネアやキックのループ感、それぞれの音の隙間の広さとかそれをどこに配置するかというのはヒップホップとの共通項を見出せると思う。

Slintを経由したThe For Carnation然り、RexやJune of 44で知られるダグ・シャリンもソロのHiMにおいてダブに行ったし、そもそもスロウコアという隙間の多いジャンルだからこそリズムが浮き彫りになることでその一音一音リズムを構成するパーツの音響に拘っていくってのは自然な気がします。そうするとダブとくっつくのもわかるし、Hoodを聴いてるとそういった要素のクロスオーバーを自然とやっていて本当に納得しかなく、スロウコアからダブやエレクトロニクスを全面的にフィーチャーしてったらラップが乗っても何もおかしくないなという気づきにもなりました。そもそもハードコアにおけるスポークンワーズ自体が朗読っぽくてこの時点で親和性あるんだよなと。

そんなアンチコンとのコラボ曲はラストのみですが、序盤からもうポストロックというよりエレクトロニカのような素材の質感が耳元で伝わるような気持ちのよいトラックをベースとした曲が続き、「The Winter Hit Hard」「The River Curls Around The Town」らはヒップホップとの共通項含めFour Tetの初期とかフォークトロニカ好きな人にもいいと思います。

 


以前書いたものですがMogwai及びGangerに触れてます。シーンや引用元も近いし関連記事というか兄弟記事かも。

 

Arab Strapの1st収録のヒットナンバー「The First Big Weekend」にフォーカスし、歌詞や時代背景に切り込んで解説したNote記事で筆者の方が実際にスコットランドに住んでいた時期もあるとのことで凄まじい内容。読んでるだけでこの曲を書いた彼らの当事の空気感が肌先まで伝わってくるような魅力がありとても参考にさせていただきました。是非とも。