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deathcrash - Return(2022)

Return(2022) - Album by deathcrash 

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2月にリリースされたdeathcrasnの1stアルバム。サウスロンドン出身で昨今のサウスロンドンシーンと言えばShameやblack midiといったポストパンクのイメージがありますが、実際その周辺のシーンとも関わりが深いメンバーで構成されつつもdeathcrashの音楽性は90sスロウコア直系。Mogwaiや同時代のポストハードコアと共振するとこが多々あってポストパンクとは大分距離があります。そして同シーンを代表するBlack Country,New Road(以下BCNR)はとくに関わりが深くて一緒にライブをする中で彼らはdeathcrashに多大な影響を受けたことを公言していて、彼らのSlint系譜のポストロック/ポストハードコアな作風の背景に少なからずこのバンドの存在があるはずだし、deathcrashの前作EP(People thought my windows were stars(2020)は1曲目からMogwaiのCome On Die Youngっぽくてそれを象徴した作品だと思います。

で今作、近年BCNRもblack midiもどんどんジャンルの殻を突き破って独自のサウンドを突き詰めてる印象ですが、deathcrashはここからポストロックを通り抜けその奥底、90年代を更に逆行してアンダーグラウンドへ向かってどんどん純化、CodeineやSlintのサウンドでBluetile LoungeやDusterを再びなぞり更に拡張し続けたようにも感じるし、ポストハードコア以降の目線でそれをやってるようにも聞こえます。

とにかく再生して1曲目「Sundown」はこの寒い季節にしみじみと染みこんでくる名曲。Bleutile Loungeの名盤「Lowercase」を思い出すイントロの静寂からそっと楽器の音が入ってくるような密室を意識させるサウンドスケープは再生数秒で一気に引き込まれる。スロウコア特有の生々しい硬質なドラム録音と抒情的なギターリフは否が応でも空間を意識させ、この素朴な冷たさと緊張感が同居した感覚に浸りながらまるで己と対面していくような、ここからMogwaiのように極端な静→動の爆音で爆発させていくわけではなく例えるならSonic YouthのThe Diamond Sea、あの曲での実験的ノイズパートを引き裂く抒情的なギター音で細かく情景描写を作っていくのがすごく新鮮でとても染みました。三部構成で曲を構成する要素それぞれはとても素朴なのに通して聞くと非常にドラマティックで、ハイハットを刻みながら轟音をかき鳴らすアウトロまでの流れは内向きに渦巻いていたエネルギーが一気に外に向かっていくような、立ち上がって外に歩き出すようなカタルシスに涙なしには聞けない。すごく硬質でギラギラとした轟音はMogwaiらポストロックのものではなく、Humと言ったスペースロック/ポストハードコアサイドの影響もどことなく感じます。

あとは意外とアコースティックっぽい乾いた曲も多くてこの辺は硬質なアメリカーナ/インディーフォークな側面でも聞けそうで、deathcrashのこのくたびれた雰囲気はBedhead後期やThe New Yearを連想してしまう。「Unwind」は轟音の中でも存在感を放つくらい歌のメロディーが強くて最早deathcrash流の遅くて枯れたエモで、「Was Living」ではリフが映える爆音で入り、その後一気に音を減らし長いスロウコアパートに淡々と潜ってくというのは今までと逆パターンで新鮮。「American Metal」という全然メタルではなくすごくインディーライクな曲も好きで、前半とは打って変わってひたすら同フレーズを繰り返しながら徐々に徐々に音を大きくし途方もないくらい膨張し続ける長尺なアウトロがとても印象的。ラスト前の「Doomcrash」はリードシングルだけあってSundownに続くドラマティックなスロウコア名曲。広い部屋で生々しいドラムを淡々と、一つずつ重ねてずっとずっと闇へと落下してくような圧倒的な冷たさがありとにかくヘヴィで終着点として完璧。最後の最後に「The Low Anthem」という泣きの弾き語りが入っているのもたまりません。

こういう音楽は余裕がないときか、全てを諦めたときにふと聞きたくなるような、そんなときにそっと寄り添ってくれるような本当に居心地のいいアルバムなんですよね。昨今話題になっている新譜とか年間ベスト見て好きそうになったやつを掘っていて、気に入ったアルバムは多くとも本当にビビッとくるもの滅多に無く単純に自分の感性が衰えてきただけだと思ってたんですが、こういう音楽に出会うとそんな気持ちも全部吹っ飛ばしてくれる。来日したら絶対ライブ行きたいとか、まだ自分の中にここまで新譜に熱狂するような熱が残っていたんだなという気持ちにすらなりました。

最後に参考記事として最初に触れたサウスロンドンシーン内でのdeathcrashについて触れた記事を貼っておきます。めっちゃ参考になったし人脈が続いてシーンが活性化していく感じが伝わってかなり面白かった。あとdeathcrashのメンバーが参加しているFamousもまるで違うポストパンクだけど良かった。

 


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以前作ったプレイリストですが、結構近いフィーリングあるので今作が気に入った方は是非とも。