朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

deathcrash - Less(2023)

deathcrash - Less(2023)

deathcrashの2nd。昨年1stをリリース後自分の中で2022年最もリピートすることとなったバンドで、1stの作風がかなり重かったのもあり音楽性やバンドのイメージからこんなに早く次のアルバムを聞けるとは思ってなかったです。1月に先行シングルの「Empty Heavy」が出たときは曲のインパクトも相まって本当に驚きました。

良すぎる。アルバムとしてはとてもコンパクトになっていて7曲38分、1st同様スロウコアですがもう少し録音面で違う角度からフォーカスしてきたようにも聞こえるアルバム。とくにドラム、ジャンルの特性上一音ごとの隙間がよく見えるのでまさに核ともなるパートですが、前作の1曲目「Sundown」では密室に閉じ籠ってドラムの残響が部屋全体を通して染み込んでくるような、楽器そのものというより空間丸ごと聞くような音だったのが今作はもう少し柔らかく身近に感じる。外に開けた音になっていてこの骨組みだけで組み立ててくようなミニマルさは各パートのフレーズや暖かみのあるメロディーが映えるし、風通しも良く、何より演奏自体がすごく色鮮やかでSlint~Mogwaiと言ったポストロックのラインから外れてきた作品だと思います。

元々前作からCodeineやBluetile Longeを想起するような、サウンドやアンサンブル面はスロウコア王道を地で行きながらも、そういったバンドと比べるとdeathcrashはメロディーに関してはずっと豊かでした。エモやカントリーにも通じるというか、スロウコアというジャンルはぼそぼそと言葉を刻むことでそのメロディーの貧しさ自体がジャンルの持つ枯れや寒々しい雰囲気と同期していたと思いますが、deathcrashはその部分で乖離があったと思います。1stは自分の内面に深く深く入り込んで落ちていく感じだったんですが、今作は1曲目「Pirouette」からしてすごく丁寧に一音一音、控えめなフレーズやメロディーではあれど外に向けてどんどん情景を組み立てていくんですよ。演奏面でも表情豊かというか、やはり内面ではなく景色を少しずつ開いて世界を作ってくような印象を受けます。

そして先行トラックEmtpy Heavy、とにかくやばい。全部流してしまう特大アンセムで、今作特有の暖かいアンサンブルから激情にメーターを振り切ったアクセル全開の轟音へと無理矢理バーストしていく。この鳴り響く爆音と張り裂けそうなシャウトに感情を全部持ってかれるし、心地の良い轟音ではなくどこか悲痛と言うか、痛いんですよね。対照的にいつも以上に暖かく穏やかな静パートは小さな感情の起伏も見逃さないようなすごく繊細なものだしより泣けてしまう。ここから名曲の連発はもう鬼気迫るものがあり、続く「Duffy's」では前作のイメージとは少し離れた、コーラスワークを多用したボーカルのハーモニーはとても美しく、どの曲にも暖かさと痛みが同居したような今作の中でも特に傷を癒してくれるような印象で、ボーカルと相互補完になるようなメロディアスなギターの掛け合いにも感情を揺さぶられてしまう。「And Now I Am Lit」はインストで1曲目の「Pirouette」と呼応するようなこれまた穏やかで映像的、「Distance Song」は今作で最もメロディアスな1曲。最後の2曲はとても重く、冷たさもあって前作も思い出すけど非常にCodeine的で、とくに「Turn」に関してはCodeineの名曲「Tom」「Barely Real」を想起する。そしてギターとドラムの一音目を合わせるようにフレーズを重ねることで曲の合間合間の残響や隙間の見せ方が巧みで、それによってフレーズや轟音が映えるアンサンブルの妙も今作ならでは。最終曲「Dead, Crashed」も初期Codeineの轟音増し増しだった頃を想起させる作風で重低音の効いた少しメタリックな気もある超ヘヴィな1曲。スクリーモも凄まじくて激情ハードコアをスロウコアへと無理矢理押し広げて行ったような気さえしてきます。

個人的に「Empty Heavy」「Turn」がベスト級に好きです。サウンドはCodeineに近くてもソングライティングがまるで違うので、歌入った瞬間違う景色が広がっていくのがとても良い。むしろここまで暖かみのある直情的なメロディーでもちゃんとスロウコアになるのかと驚きました。このメロディアスさがインディーフォークやカントリーを想起するような枯れや素朴さとして聴ける側面もあって、そこがしっかり一つのピースとしてハマったアルバムだと思います。少しArab Strapも思い出す。痛みと癒しを反復するような濃密な曲がここまで詰め込まれていて、メロディーの人当たりもいいし全体の流れもしっかりしていて最後には燃え尽きてしまう。スローペースなのもあってどの曲も重厚ですがこれが40分以内で聞けるというのもすごく良いと思います。

 


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年間ベストの方で前作と先ほど何度も触れたCodeineついても触れてます。

 

昨年リリースされたCodeineの未発表音源集。原型の一つでは、と言いたくなる程シンパシーを感じるので本作が好きな方は是非とも。