朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

SPOILMAN - UNDERTOW/COMBER(2023)

ShellacやJesus Lizardを彷彿とさせるまるで90年台のTouch And GoやAmRepのようなジャンク・ポストハードコアでシーンに現れたSPOILMAN、1st~2ndにおけるそういったイメージやジャンルの垣根さえも全部壊して作られた前作HARMONYはとんでもない怪作で一方向に突き抜けたアルバムでした。そしてリリース後ベースのナガイ氏はバンドを脱退、1st~3rdも結成から毎年アルバムをリリースし続けていて、3rdの未踏の地に辿り着いたような作風からも一度活動ペース落ち着くのだろうか・・・と考えていた矢先に全くそんなことはなく1年ちょっとでまたもや新作。しかも2枚。

 

同時リリースの4thアルバムでDisc1/Disc2と言った2枚組みではなく、それぞれが独立した世界観を持ったフルアルバムとして作られていて、今回は今までになかったLPでのリリース。フロントマンであるカシマ氏のイラストをジャケットに起用したり、それにあたってクラウドファンディングを実施し原画やZINE、そして遠征ライブも想定と今回かなり大規模なリリースとなってます。自分も頼みましたがとにかく装丁もすごくて届いたときめちゃくちゃわくわくしました。元々カシマ氏はデザフェスでのペイントで大作を作ったりMVを監修したりフライヤーを自作したりとイラストレーターでもあるので、手にとって質量を感じれるLPというフォーマットでアナログタッチの絵の迫力を視覚的にも実感できるのはとてもよかったです。


SPOILMAN - UNDERTOW(2023)

UNDERTOW、前作HARMONYにあった呪術的で何かの儀式のようなおどろおどろしさをそのまま受け継ぎ完全に血肉としたアルバム。自然体で静かに淡々と狂っているような佇まいはもうSPOILMANにしか到達できない境地で、HARMONYでは知らない世界の瘴気が滲み出たような作風でしたが、UNDERTOWはもう直接"あちら側"を覗いているような気持ちになる。1曲目の「Falling Ceiling」は静謐パートから音を紡ぎバーストしていく曲で、Shipping Newsとかのハードコア出自のバンドがポストロックに向かって半スロウコア化したときや4AD化直前のBlonde Redheadを思い出す、おそろしく不穏なギターがゆっくりと音を足していきます。この鮮やかなコントラストがまさに今作を象徴する1曲。UNDERTOW、とにかく全体を通した流れがすごく良いんですよ。

 先行シングルにもなった「AltereEgo OverDrive」はZINEにあったカシマ氏の言葉を借りると「激しすぎず大人しすぎず、ヘヴィーだけど軽快な気がする、メロディアスなアプローチがあるがポップなわけではない、サビがないけどフックのようなものはある、全てが中途半端で捉えどころがないのにキラーチューン」という、煮え切らない熱が常に肥大化し続けていくようなアルバムの血液とも言える曲。Melvinsを経由してBlack Sabbathにまで通じそうなドゥーミーな香りも漂っていて、アルバムの中央に配置された「Clock Man」ではkomatsu nariaki氏のディジュリドゥや片岡フグリのノイズも参加しメンバーはシンプルなリズムをただひたすら12分続けるアルバムの心臓とも言える大作。淡々とリズムを刻む中徐々に狂っていく様がじわじわと描かれる曲で、ここから表題曲「UNDERTOW」へと続く4曲の流れがすごすぎる。Clock Manの流れを引き継いだ「Eucalyptus Hole」を挟み終盤に配置された「Super Pyramid Schems」は先行シングル、最初MVを見たときは大振りなギターリフがBikini Killのような爽快ロックチューンだと思っていたのですが、呪術的な2曲から続くとただ気持ち良いだけのリフではなく色気と怪しさが同居していて、Clock Manからのカタルシスというよりはむしろ地続き、そのままボルテージを上げていく曲だったということに気づく。強烈にキャッチーな先行シングルでありながらかけがえのないアルバムの1ピースだというのを実感させられるんですよ。すごくコンセプトアルバム的というか、浮かびあがる世界観がとても鮮明で、聞き終えてからジャケットを見返すと最初はSPOILMANにしては珍しいジャケットだなと思っていたのがこれ以外ありえないと思えるほど完璧にしっくりきます。

 

SPOILMAN - COMBER(2023)

COMBER、UNDERTOWでの異界っぽさを象徴するようなジャケットとは対照的で"こちら側"感が強いですが、それぞれ作風がしっかり反映された本当に良いジャケットだと思います。1曲目「Ultima Thuleからして聞いていて胸が熱く滾りついついこっちまで叫び声を上げたくなるような、ジャンクギターを弾きじゃくりリズム隊は常にドライブしまくり、もう全部解放して全て破壊していくような爆走ポストハードコア。ここから「Fiber Song」「Perfect Peace」と曲ができていってUNDERTOWの雰囲気に合わず明確に分けようと、このアルバムができるきっかけになったらしいです。ということでその2曲や「Blind Man」はもう密集した刃物みたいな鋭利なギター音はおそろしくエッジが効いていて、続いて「Swimming Below」「Fantastic Car Sex」は以前からあったコンピ収録曲を再録したというナンバーで今作の作風にもマッチしHARMONYで分岐した彼らのポストハードコアサイドを凝縮したようなアルバム。Swimming Belowは1st2ndではお馴染みだったJesus Lizardを思い出してニヤリとする。Fiber SongもJesus LizardのLiar期っぽいし、そう、初期の作風を想起させるような曲が多いんですよね。かといって原点回帰したわけでもなく、多数のゲストミュージシャンが参加した実験的でカオスな曲が随所に散りばめられている。シンプルなパンクロックの作品としても終われない、カオスながらアルバムとして1本筋が通った流れが存在しているのはアルバムタイトルを冠した不穏なインストナンバーの「Comber-1」「Comber-2」のおかげでしょう。こちらを挟んで緩急をつけたり、序盤の怒涛の流れからどことなくBlonde Redheadっぽい「Lilac Purfume」ではノイズ要素を前面に押し出し、重心を落として極端なバースト部分を映えさせる「Fantastic Car Sex」が全体の起爆剤になるという構成の妙も惚れ惚れとする。個人的には最終曲である「NES」がヤバくて、今作から加入したホサカ氏のベースラインが元になって作られた曲らしく、今までのSPOILMANからは出てこなかったであろう穏やかでローファイな雰囲気が漂い、退廃的なのにコーラスがとても美しくてこれが最後に配置されてるのがグッときました。


UNDERTWOとCOMBER、クレジットを見るだけでも10名近くのゲストを呼び色んな曲で参加してもらったというのもあるでしょうが、どちらもたった一日で全曲レコーディングされたという驚きの過密スケジュール。クラウドファンディングのリターンであったZINEではメンバー3人による全曲解説が付属していてこれがとてもよかった。その場のアイデアをどんどん思いつきで盛り込んでいったのがわかる内容になっていて想像以上に即興的で、スタジオの空気が伝わってくるようでした。とくにClock Manが12分一発録り1テイクで作られ全員空っぽになっていた話やNESでの始めて3日目のぎこちないピアニカの旋律が曲のテーマとマッチしすぎたというエピソードは驚きでした。


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1st~3rdについて以前書いたものです。