朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

記録シリーズ:Sleepytime Trioから辿るLovitt Records

Sleepytime Trio及び前身のMaxmillian Colby、それぞれのバンドが解散後メンバーは様々なバンドで関わりながら時に交錯していきますが、主にLovitt RecordsというDischord傘下のレーベルの作品が多いのでLovittにフォーカスしながら軽くまとめました。自分自身が好きなバンドから少しずつ辿って行った足跡をそのまま記録した感じです。


 

Sleepytime Trio - Memory-Minus(2002)

1996年発のLovitt付近のポストハードコアを聞く上で基点になるバンドで、90年台当事のEPやシングルをコンパイルした重要盤。解散してしまっていてフルアルバムとして聞けるものは今作だけですが、Dischord亜種の硬質なポストハードコアとしての側面も持ちつつサンディエゴのカオティック勢や後の激情、エモバイオレンスとも通じ合うところが多々あり、メンバーそれぞれの派生バンドがLovitt内に多数存在し度々集まったりしていてその都度このアルバムが核になってるなというのを実感します。音はめちゃくちゃ悪いですがこのローファイさ、録音の荒さがプラスにしか働いてない衝動たっぷりの、全パート前のめりになって次々にリフが飛び出しフレーズが交錯しながらリズム隊が爆走していく様はバンド音楽の熱さを心の奥底から滾らせてくれる熱量のある作品。後の激情やマスロックのようなパズルのように噛み合わせてく感じではなく、衝動のまま出てきた音が前の音をどんどん塗りつぶしていくような粗削りさがかっこいい。

 

Four Hundred Years - Suture And Other Songs(1999)

Sleepytime Trioとはこの時点ではまだメンバー被ってないですがLovittではこれまた大御所。そもそも96年当初Sleepytime Trioとしての初音源はこのバンドとのスプリットシングルでした。こちらも1stと初期EPをコンパイルした企画盤で99年リリースですが音源的には97年頃なので実質1stにして大名盤。Dischord RecordsのHooverの影響を多大に受けてると思われるバンドで、Sleepytime Trioと同じく一方通行でどんどん曲が展開していくのですがリフとリフの隙間にバンド全体で挟むキメがおそろしくかっこいい。静→動の美しいコントラストの中にメリハリをつけることでバンド全体でスイッチのオンオフを明確にするというか、肌を突き刺すようなヒリヒリとした不穏な静パートでカタルシスを溜めに溜め、リフを切り替えシャウトと共に流れるように炸裂していく様は次々とシーンが切り替わっていく感覚、一瞬で通り過ぎて行く様が本当にかっこよすぎます。サンディエゴのカオティック勢とも共通項を感じるし激情も通じる要素も多々。

 

Four Hundred Years - Transmit Failure(1998)

安定感がすごすぎる2nd、1曲目「Power Of Speech」のイントロから前作のイメージからすると戸惑うレベルのクリーントーンの抒情的なエモパートが余りにもメロディアス。この美しさに本当に惚れ惚れとします。そしてここから豹変し全てを塗りつぶしていってしまう、前作のイメージ通りのカオティックなポストハードコアへと爆発していくのはもう潔さすらある。より対比的になったのもありカオティックパートの激しさがより際立っているし、かと言ってクリーンパートも静謐って言う程に静かでもないため極端なバーストでもなく、全体の流れを活かしたより研ぎ澄まされた楽曲群、1曲辺りの時間は短いのでどんどんまくしたてていく1曲1曲の構成美に泣ける。「Transmit Failure」はもうエモとしても本当に名曲。情報量が多いアルバムで、この濃密さでも通して聞いて30分切っているのもすごい。個人的にエモという括りで言えば(今作をエモにしていいか微妙な気がしますが)ベストとも言いたくなるフェイバリット作品です。

 

Four Hundred Years - The New Imperialism(2000)

最終作3rd。90s末期のポストハードコアと言えばエモやポストロック、マスロックにスロウコアと多種多様な変遷を辿っていきますが、Lovittの顔とも言える彼らは前作から純粋にロックバンドとして、シンプルにそぎ落としながらより原初のハードコア、といよりももうパンクロックというのが一番近い形に落ち着いていきます。勿論2ndまで築き上げてきたスタイルを地盤としてそれが行われているので不協和音全開の変則ギターリフや転調、スクリーモを駆使しながら、2ndでの構成美を突き詰めてった形とは大分違い素直にストレートに曲が良い。レーベルメイトのEngine Downが渋い方向に向かったのに対してかなりフレッシュに聞こえます。しかも今作Policy of 3のメンバーが参加していてここから激情で知られるEbulition Recordsとも接点を見せてきます。

 

Bats & Mice - Believe It Mammals(2002)

最強のバンド。Sleepytime TrioのメンバーとFor Hundred Yearsのメンバーが合流して結成されたバンドで、アルバム一枚出して解散してしまいましたがここが一つの区切りでしょう。音楽性的にはその2バンドが合流・・・からイメージできるようなそのまんまの続編ではなく、いやおそらく延長なのでしょうが、それらでやってきたHooverを想起するカオティックなポストハードコアから音を引きペースを落としたミディアムテンポのサッド・エモ。元々展開が激しいバンドが元になってるので各々のパートのグルーヴが全開、むしろ隙間があることで純粋にアンサンブルの掛け合いを楽しみながらじめじめと不穏に、爆発一歩手前と言った危うさを維持したままなのがまさしくポストハードコア的、メロディーは冷たくも熱くもあるようでとてつもなくかっこいいです。貫禄たっぷりで傷だらけのPinbackといった赴き。行くとこまで行ったオリジナルのエモでしょう。

 

Ben Davis - The Hushed Patterns Of Relief(2001)

Sleepytim TrioのメンバーにしてBats & Miceにも参加したベン・デイヴィスのソロ作品。こちらもLovittからのリリースですが、ハードコア色薄いながら今まで関わってきたバンド郡やLovitt関連作品全体に付きまとうダークで不穏な空気がふんだんにあり、やはり源泉の1人としてのカリスマ性たっぷりです。ポストハードコアやパンクの流れで聞くのともまた違い歌メロの存在感も強いSSW的作品。作風は違えど、ここまで共通した冷たさがあるとすぐ彼の作品と理解できてしまう純然っぷりに驚きました。オルガンが入ってきてメランコリックな雰囲気もありますがBats & Miceともまだ近く、そのまんまハードコア/エモの成分を抜き取ったような感じでどことなくロブ・クロウっぽさも。

 

Ben Davis - Aided & Abetted(2003)

次作2ndにしてこちらはLovittっぽい色は完全に抜け落ち、ここまで挙げてきたアルバムの中ではジャンル的にも異色で総勢16人のゲストを迎えてセッションしていったというカラフルでメランコリックなアルバム。60年代のビーチボーイズビートルズまで思い出してしまうサイケやフォークロックで現代のサイケ通過以降のインディーロックとかとも通じるとこ多々あり、なんだかんだギターとメロディーの存在感が結構大きいのもすごく良い。

 

Engine Down - Under The Pretense Of Present Tense(1998)

Engine Donwの1st。今作はLovittではないですがSleepytime Trioのメンバーであるジョナサン・フラーが参加していて周辺シーンでは一般的に最も知られてるバンドではないでしょうか。Sleepytime Trioではドラムでしたがこちらではギター、もう一人のギタリストであるキーリー・デイヴィスはSpartaのメンバーでもあり後にAt The Drive Inにも加入します。Engine DownはSleepytime Trioの激情を纏い加速してく作風とはまた違った、アルバムを出すにつれどんどん深いとこへ潜っていくような渋いエモへと進化していきますが今作まだSleepytime Trio以降と同列・・・ではあるものの簡単に一緒くたで括れる感じでもなく、J・ロビンスのイメージが強い2nd以降ともあまり繋がらない超絶不穏でダークな暗黒ポストハードコア。1曲目のイントロから曲を牽引するようにうねるベースラインはカオティックやエモとはまた違った、マスロック/ポストロックとも通じて今にも何か起きそうな不穏な空気を崩さないまま不協和音ギターを挿入しスクリーモしていきます。展開も凝っていてどことなく実験的、個人的に初期Downyとかと通じるものがバチバチにあって彼らのディスコグラフィで最も好きな作品。ジャンクロック/ノイズロックとしても聴けそうだし、全ての音が前に出すぎず背景で溶け合っているかのようなボーカルの絶妙に距離を置いた録音もすごくかっこいい。

 

Engine Down - To Bury Within The Sound(2000)

2ndからはLovitt Recordsリリース、そしてJ・ロビンスと組んでより硬質で密度の高いギターの音へと進化しますが完全にEngine Downのダークで切ないサウンドに昇華されていて、前作は目まぐるしい曲展開に激情やポストロックとリンクする箇所がありましたが今作はもっとストレートにエモ/ポストハードコアのラインへ。「Retread」は静パートからしてもう哀愁たっぷりでサッド・エモと呼びたくなるようなメロウなボーカルから金属的なギターを打ちつけるようにバースト、Lovittらしい静と動のコントラストを大切にしつつツインギターの絡み方がすごく練られている。今作歌メロも強くてLovitt作品の中でもポストハードコアとして最も聞きやすい作品ではないでしょうか。

 

Engine Down - Demura(2002)

3rd。オリジネイターの貫禄たっぷりで、Lovitt全般にいえますが後にリバイバルもする一派的なエモの路線を外しながら、純粋にハードコアサウンドを深化させていった結果オリジナルの純度のままエモへ至ったという作品だと思います。ギターもクリーントーン寄りになってて前作にあったノスタルジックなボーカルの雰囲気に合わせて表情豊かに、Bats & Miceと同じく音数を減らし、バンド本来のグルーヴを露出させていった結果どんどん無添加になり極太な新しい骨組みが出来上がった感じ。

 

Engine Down - Engine Down(2004)

こちらはLovittリリースではないですが最終作4th、ここにきてセルフタイトルなのが熱い。前作での、内側の熱量はそのままに表面をより硬く冷たくしていった感触からはまた違い、ザクザクとした鋭角なリズム隊が曲をガンガン動かし、いつにも増してノイジーなギターフレーズが次々と飛び出してくる作風は1st~2nd時のカオティック/激情とも通じそうなポストハードコア純度の高い鉄の音を思い出す。しかしDemuraでの一度収束させソングライティングに寄せたフォーマットでもう一度再構築していった感触で、故にメロディアス、エモ色も強いながら初期の荒々しさも内包したアルバムでかなり好きです。このバンドはアルバム4枚それぞれ違う色があるのがいいですね。No Knifeとか好きな人にもいいと思います。

 

Denali - Denali(2002)

Lovittではないですがこちらはエモ/ポストハードコアの名門Jade Tree発、Engine Downのメンバーであるキーリー・デイヴィスの妹モーラがボーカルをとっていて勿論キーリーも参加、そしてリズム隊はEngine Downという派生というかもうほぼ別形態のようなプロジェクト。しかしやっぱボーカル変わるとかなり違う、共通する要素は同じでEngine DownのDemuraにめちゃくちゃ通じる骨太なアンサンブルをベースにしたサッド・エモではあるんですが、しかし悲壮感溢れる妖艶なボーカルが暗すぎて、演奏やフレーズの各々に付き纏う解釈も変わってくるような気がしてすごく新鮮。あとは静かな曲もEngine Downでやるとやっぱエモの静謐パートな風情出ちゃうと思うんですがDenaliだとポストパンクやスロウコアの香りが仄かに漂う。

 

Denali - The Instinct(2003)

次作。これもすごい。ポストハードコア然としたギターフレーズをぶつけ合う感じではなく、少しずつ浸透させてくような壮大な雰囲気は前作以上で、モーラの吸い込まれるようなボーカリゼーションありきにも感じる新境地、正直もうポストロックとかゴスとかにも接触しそうだしEngine DownのサイドプロジェクトではなくDenaliとして完成したアルバムだと思います。名盤。

 

Glös - Halmonium(2007)

Engine Downのツアー中にキーリーが書き溜めた曲を骨格にして誕生した新バンド。こちらはボーカルとしてDenaliのモーラも参加していて、Engine Down程ノイジーではなくそれによってより線の細いギターフレーズの絡み合いが浮き上がり更に変則的になっていて、それでいてDenaliでのモーラの妖艶さもめちゃくちゃ出まくってるので中間というか完全にDenailiとEngine Downが融合してます。

 

Milemaker - Frigid Forms Sell(2000)

Sleepytime Trioのベン・デイヴィスが参加したバンドでDenaliと同じくJade TreeからもリリースされてるMilemakerの3rd。Sleepytime TrioやHooverの音楽性とは距離があり、歯切れのいいギターリフを刻み続けるよりパンキッシュな作風、面白いのがここにシンセのフレーズがガッツり入ってくる。電子音のビートがメインになるというわけでもなく、80sのニューウェーブにも通じる半ウワモノみたいに音色をもう一つ足す感じで、ここにスクリーモも入ってくるのがすごく新鮮です。

 

Frodus - And We Washed Our Weapons In The Sea(2000)

当時Four Hundred Yearsとツアーもしていた90sポストハードコアバンドFrodusの5thにして最終作。オリジナルは違いますが現在はLovitt Recordsから再発されててFour Hundred YearsやEngine Donw初期とめちゃくちゃ呼応する音楽性、レーベル的にも同じ括りで聞けるのは間違いないアルバム。初期はほぼスクリーモで押し切るかなりハードコア色強いスタイルでしたが今作はメロディーも強まり非常に聴きやすく、1曲目「Red Bull Of Juarez」での不穏なベースラインからギターが炸裂していくのはEngin Down初期と被りつつよりストレートなエモ寄り。Dischordのスタイルに少しカオティック要素をブレンドしつつ、そこには行きすぎない一歩手前で止まってバランスを取る感じで、硬質なギターフレーズの絡みも練られてますがマスロックでもない、本当にFrodusとしてギリギリのとこで全部を収めてくる美学がすごくかっこいい。

 

Decahedron - Disconnection_Imminent(2005)

十二面体を意味するバンド名や異質な雰囲気を纏うダークなジャケットの雰囲気が印象的なDecahedron、Frodusのメンバー二人が解散後立ち上げたプロジェクトBlack Seaが変名して出した1st。つまりFrodus直系のその後でこれがまためちゃくちゃかっこいい、とにかく次々と縦横無尽に駆け回るギターはリフで聞かせるスタイルだったFrodusのリミッターを完全に解き放っていて、不協和音全開のギターをとにかくジャンクにかき鳴らしてく塗りつぶしていくシーンも多い疾走感のあるカオスな作風。Fugaziのジョー・ラリーも参加してます。Frodusや他Lovitt作品とも通じまくる不穏な空気全開でミュータントへと変貌、ジャケットのイメージからも都会的で洗練されていたFrodusの最終作と比べると得体の知れない空気が漂います。

 

Maximillian Colby - Discography(2002)

オリジナルは94年、Sleepytime Trioのメンバー全員が在籍していたポストハードコアバンドでこちらは2002年にLovittが再発したアーカイブ作。1曲目の「New Jello」から7分超え長尺のインストですがこれが後の派生作品の下地になったことが容易に想像できる凄まじい肉薄したバンドのセッションとノイジーでささくれ立った荒すぎる録音、過激すぎるリズム隊、エモにも通じるであろう流麗な展開の妙、フレーズの応酬もすごいですが激情にいく程ではなくプロトタイプとして、マスロックとも違った構成美がとにかくかっこいい。静と動の対比がすごくいいんですよね。ただ轟音で塗りつぶすバーストではなくフレーズのインパクトや曲の持つスピード感そのものでカタルシスを得るというか、Sleepytime Trioに通じるこれら全てのバンドの源泉にあたるものの一つでしょう。Indian SummerやStaynlessにも大きく影響を与えてそうだし、HooverだけでなくSlintも入ってるというか、むしろその辺を一緒くたにして後発へと橋渡しをしたのがLovittの各作品だと思うし、その一番奥底にあるのがこのアルバムでしょう。


以上でした。Lovitt Recordsにはまだまだ好きな作品が多くて、とくにSleepytime Trioと全く関連なくてもDischordに関わってた人達の作品が結構多いです。Sports Teamもリリースがあったり元Antelopeの人がやってるPuff Piecesだったり、全く別ですがDischord以降のエモ/ポストハードコアの空気を受け継ぎつつ独自の道に進んでいったであろうHaramやFing Fan Foomなど漁れば漁る程好きなバンドが出てくるのでその辺もいつか書きたい。