朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography⑬

Duster及びその関連バンドと最近NUMEROから再発されたエモやポストハードコアをよく聞いてたのでその辺についてです。


 

Duster - Stratosphere(1998)

98年作Dusterの1st。アルバム2枚を残して解散してしまったバンドですが数年前に再結成、今年も新譜も出してますね。そして昨今NUMER GROUPにて全音源再発、及びメンバーが関わった前身のバンドや後のソロワークス含めまとめて再発されました。

一般的にスロウコアというジャンルにおいてDusterというバンドはおそらくLowやRed House Painters、Codeineと並んで代表的なバンドではないでしょうか。そしてその中でもDusterは最もメロディーが強く聞きやすい部類だと思いますが、そのせいでスロウコアとしては少し異色な立ち位置だと思います。隙間を作ってくというより割と各パート直線的にフレーズを刻んでくところや、後にBuilt To Spillへ合流するメンバーがいたりレーベルがModest MouseやQuasi、764-HEROでも知られるUp Recordsだったりするとこから結構USインディーのラインでも聞けると思うし(メロディーだけでもすんなり聴けるとことかも)、エモやアメリカーナと接近しすぎない絶妙な距離の置き方もUpの面々と近い気がします。とは言え歌い方のスタイルはボソボソと枯れきった素朴な雰囲気がありここが非常にスロウコア的ではあるかも。

今作、曲タイトルやジャケを見てると、歌詞がわからずともなんとなくコンセプトアルバム的に聞こえてきて、SFチックで遭難してしまった宇宙船の中で一人ぼっちで月面を眺めているようなそんな空気感がある。それは「Moon Age」「Gold Dust」というタイトルだったり開幕SEでのスペーシーなサウンドや、ファジーなギターノイズの波に飲みこまれる大名曲「Echo, Bravo」からもなんとなく情景を想像してしまうんですけども。カセットテープで流した音をそのまま録音してしまったかのような、ローファイでぼやけた質感も相まってこれが本当に心地よく、程よくノイジーなのもオルタナファンとしてはたまらないし、轟音パートに関してはスペースロック勢とも共通点を見出せると思います。ここまで独自の世界観を作りながらもポップに纏め上げられているのはスロウコアというジャンルやUSインディーというジャンルの垣根を越え、それこそDinosaur Jr.やPavementと同じように90年代を代表するロック名盤として、もっと広くクラシックとして伝わってほしいというくらい素晴らしいアルバムだと思います。

 

Duster - Contemporary Movement(2000)

00年作の2nd。1曲目の「Get the Dutch」から1stを想起するイントロ、そしてインストかと思って聞いていると後半の展開に泣けます。より深化してそれぞれのパートの輪郭がぼやけて一緒に溶けあってしまったかのような、全パート一つの音となって繰り返し浸透させていく音がとてつもなく暖かい。1stで見せた轟音サウンドは控えめになりその分厚みを増したギターと繰り返されるシンバルのループ感が程よく、より密度の高い全体を包み込むノイジーな音の膜になっていて、単調なフレーズの繰り返しでも一生続いて欲しいと思わされるくらい心地いいです。ボーカルの深みもより増してて結構歌ものとしても聞きやすいかも。

1~2分のインストも挟みながらコンセプチュアルな世界観を打ち出した前作と比べると、そのサウンドの特徴を維持したまま順調にポップソングとしてより外壁からしっかり作り込んで誰にも真似できない領域にきてしまったような。もう到底スロウコアと呼ぶことはできない完全にオリジナルの音を鳴らしてますが、最終曲の「Aut Mobile」は極上のスロウコアにして最高のエンドロール。ハードコアをルーツとしつつ誰にも追いかけることができない場所へ行ってしまったUnwoundやAbilene達のような、ポストロックの定義がまだ不明瞭だった頃の完璧に自分の世界を持ってる人のオリジネイターの作品という感じ。

 

Valium Aggelein - The Black Moon (2020)

Dusterと同メンバー、というかどうやら変名バンド?リリースされた作品追ってみるとDusterの1stと完全に同時期なのでほぼ同じ感覚で聞けます。こちらもNUMEROから再発されたコンピレーションで全音源収録というありがたい限り。でThe Black Moon、これはもう一つ別の型とも言いたくなる、いや音を構成する要素は完全に一緒でDutsterのサウンドからボーカルを無くし長尺のインストへと仕上げていった感じで(ボーカルある曲も数曲あります)、よりコンセプチュアルというか、DusterでのスペーシーなSF世界を更に広大なスケール感を堪能することができる。断片のようなほんと1シーンのような短いインストも合間合間に挿入されてくるのでよりサントラ的、通して聞きながらじわじわと浸透させてく感じで没入感半端無いです、僕はこれをポストロックともスロウコアとも呼びたくなくてもうジャンル「月面」とすら言いたくなる。ボーカルが無いことで孤独感も増してて一人ぼっちで取り残されたような、しかし見える景色全てが美しすぎて呆然と時間だけが過ぎていくようなアルバム。

 

Eiafuawn - Birds In The Ground(2006)

Dusterのメンバーであるクレイ・パートンによる2006年のソロプロジェクト。残った2人はHelvetiaだったりBuilt To Spillに参加してますね。宅録感も強くDusterの延長線、に見えて確かに要素は感じるが続編とまでは行かず、ローファイでベッドルームな雰囲気がとても心地よくスロウコアと溶け合ってお互いの原型をなくした90sインディーライクなアルバム。Pinbackとかあの辺のロブ・クロウ関連作の隙間の見えるインディーロックやエモ周辺が好きな人にもしっくりくると思います。

僕がスロウコア好きなのって別に遅いからだったりあのボーカルスタイルだからってわけではなく、音の隙間を見せる録音や演奏が好きというか、Eiafuawnは別にスロウコアではないんですが、録音における音の隙間、楽器それぞれの生っぽい質感がしっかりと伝わるサウンドスケープにスロウコアと近いものを感じてすごくしっくりきました。

 

Mohinder - O Nation, You Bleed From Many Wounds, 1896(1993)

93年作、Dusterの中核メンバー2人で結成された前身とも言えるバンドでこちらがとんでもなく衝動全開のハードコア。7曲13分で突っ走ってくスピード感やジャケからもわかるように激情系やカオティックの色が強く、Born AgainstやMoss IconやUniversal Order Of Armageddonらとも並べて聞けるような超金属的なギターが鉄を打つように押し寄せるメタリックなナンバーが続きます。サンディエゴとも共通点多数でめちゃくちゃかっこいい。

 

Calm - 12"(1995)/7"(1996)/Moonraker

  

Mohinderとほぼ同メンバーで結成されたバンドでDusterの直前となるバンドですが、EPである「12"」を聞く感じでは言われないとわからないくらいにはMohinderともDusterともパッと聞き繋がらず、Mohinderの硬質な音からも離れ、ミディアムテンポで重いギターリフを繰り返すタイプのジャンクエモに。このスピード感で大振りのギターリフを繰り返すという意味ではHR/HM色は無いんですが感覚的にグランジ好きな人も割りといけるかもだし、エモとしてはFarとかあの辺が好きな人にもいいかも。そしてシングルの「Moonraker」では所謂静パート的な曲の起伏が増えていて尚且つボーカルはさらに叙情を増し、ちゃんとDusterに繋がってくるというか、12"の時点では余り感じなかったDusterの影が(7"は割とMoontrakerに寄ってるかも)この2曲によって少しずつ大きくなる様子が見え、インディーロックにも通じるあのグッドメロディってエモの文脈から音を引いて出来ていったんだなという新しい見え方も出来てやはり前後作を聞くのはとても楽しい。表題曲Moonrakerは本当に名曲(今思うとタイトルから既に兆候が・・・)。この路線からValium Aggeleinのコンセプチュアルな世界観と合流していったのがたぶん、Dusterなんですね。

 

Current - Yesterday's Tomorrow is Not Today(2022)

Duster関連作ではないんですが、先月NUMEROから再発されたバンドでこの系譜どれも行ける人は近いフィーリングあるので刺さると思います。バンド名も初めて知ったし検索しても情報が少なく、先行公開されてた「Dial」が余りにも素晴らしく即買ってしまいました。当時Indian Summerとスプリットも出してたらしく今回は92~94年頃にリリースしていた音源を全コンパイルしたコンピのようです。

Current、先のDuster周辺を総括しようとする動きやRexやCodeine関連の再発など見てると完全にその流れででてきたようなスロウコアチックな叙情パート→ギターを爆発させ今にもハチ切れそうなスクリーモを上げるジャンクエモ/ポストハードコアへと派生してくのはまぁ好きじゃないわけなく、めちゃくちゃインディーっぽいローファイなこもった音を無理やり炸裂させてく感じはどこか暖かみもあってニヤリとします。「Basis」ではハードコアにおけるスポークンワーズとかとはまた違ったポエトリー的なボーカルにどことなくVan Peltを思い出したりもするし、ここからやっぱバーストしてくんですがボーカルがシャウトしてても演奏はどこか落ち着きがあるというか、隙間を残したまま静→動へバーストさせるというより一つのシーンの中に静と動が同居したような感覚がかなり新しい。FugaziのRepeaterとかLovitt Records近辺が好きな人にも刺さる部分あると思います。めちゃくちゃかっこいいです。

 

The Hated - Every Song(1989)

 

これも今年NUMEROから再発されたハードコアバンドThe Hated、現Idaのメンバーが在籍していたことでも有名ですね。1stは85年、時代直球のストレートなハードコアバンドだったはずですが数年後の今作はかなりエモ。エモの原型とかルーツってより、普通にこの時点で完全に完成されたその後のエモとほぼ遜色がないのがすごすぎる。エモというジャンルが固まってきたのって大体94年頃とかそれ以降なイメージがあるんですが、Hatedを聞くと89年?と本当に発売年を二度見してしまったしかなり衝撃でした。ハードコア譲りのささくれだった荒くれギターサウンドと繊細なボーカルとノスタルジックなメロディー、どの曲も5分前後掛けてしっかり聞かせるところとかもろだと思うし、「These Are The Days」とかを聞く感じだとハードコアサウンドのままネオアコやカレッジロックに接近してこうなったのでしょうか。リプレイスメンツ的な。しかしこれがとんでもなく良い。それこそ90年代中盤以降のエモバンドと比べればクリーンパートも随分とローファイだしギターも硬質ってよりはジャンクなんですが、だからこそメロディーの美しさが際立ってきて泣けます。「Knocking Your Door」はもう80年代エモ最高のアンセムだろ・・・。シングルカットもされてる「Someone」も完全にメロディーを聞かせる方向に振り切っててこちらも本当に名曲。レボリューション・サマーから90sエモブームの挾間に落とされた大名盤だと思います。