朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

Squid - Bright Green Field(2021)/O Monolith(2023)

Squid - Bright Green Field(2021)

UKブライトン出身Squidの1st。ダン・キャリーのプロデュースによりサウスロンドンと比較されることが多く、彼らも同じくポストパンク=70sのオリジネイターと似通った音楽というよりは実験的な精神性という意味でのポストパンクという言葉がしっくりくる独自サウンド。最初はダン・キャリーのレーベルからEPをリリースしていたのが2020年のシングルの「Sludge」「Broadcaster」はWARP発(どちらも日本盤にはボートラで収録)、続くこの1stアルバムも同じくWARPからのリリースとなりました。Broadcasterの時点で完全に電子音楽寄りだったのがアルバムではバンドの肉感が増し超フリーキーになっていて、最初聞いたときはFoalsもしくはBattlesにボーカルとしてマーク・E・スミスが加入したかのような、ミニマルなリズムの反復の上でパンキッシュなボーカルが暴れまわるという感じがかなり嵌りました。序盤の「G.S.K.」とか本当にぶち上がりますね。

「Narrator」ではイントロで反復のフレーズを植え付けてからどんどんあらぬ方向へと向かっていき最終的にはノイズの海へ。均一化されたビートは一本針金の芯を通してるようでその周りを構成するギターもシンセもボーカルもユニークでぐにゃぐにゃとしたグルーヴが魅力的で、「Boy Racers」はミニマルで流麗なギターリフがゆらゆら帝国の「美しい」「学校へ行ってきます」も想起しながらシンプルなビートの隙間を縫うよう組み込まれ一体となってる感じがとても心地良い。「Paddling」「Pamphlets」に関してはNeu!を連想しますが、このクラウトロックっぽさ、長尺な曲が多いにも関わらずループではなく一方通行、フレーズの反復をメインとしながらもパターンを破壊し直後に再接合していくような、整列された継ぎ接ぎのような奔放で突拍子も無い展開の曲が多くそこに強烈に惹かれる。

こちらの記事を読んだところ「みんな元々スロウでアンビエントな作品が好きだった」「大学4年の頃にジャズ・クラブで演奏するようになってからは自分たちのテイストが加わって、音楽が急激に進化していった」と書かれていて、"長尺で一方通行な感じ"はジャズのインプロゼーションを取り込んだ結果として聞くこともできるのかも。そして同じくWARPでありながら過去にディスコやファンクをバンドでカバーしていた!!!(chk chk chk)をどことなく連想したりもしました。

 

Squid - O Monolith(2023)

6月リリースの2nd。掴みどころがない曲だらけで全体像というか実態が中々見えてこないアルバムで、そんな中でも要所要所キャッチーな仕掛けが散りばめられていて強烈な中毒性がある。ビートはより単調になったようにも思えて飛び道具は増加、パーカッションやホーン、コーラスと言ったゲストが多数参加してるのもあり、クラウトロック的な長尺な曲は減ったにしてもどこに焦点を置いて聞けばいいかわからないまま次々と要素が増えていく。「Devil’s Den」「After The Flash」はノイズ路線、急加速していくノイズが曲を塗り潰していく前作には無かった静→動のコントラスが激しい曲ですが、そんな中でも全パート住み分けがハッキリとした埋め尽くしてしまうカタルシスとはまるで別の、あくまで音の隙間が見えてくる静謐さも残した音像がめちゃくちゃかっこいい。ホーンやパーカッションが参加しても全部細くてエッジが立ってるんですよ。インタビューで言っていた「メンバー全員が均等であること」を徹底したプロダクションというか、無駄な音を全部そぎ落としてもらったとメンバーが語るジョン・マッケンタイアのミックスの妙もあるかも。

1stよりペースを落とした曲が印象的で、隙間をより強調することでビート一つにねっとり纏わりつくアンビエンスが可視化、リズムそのものと音響にフォーカスしたようにも感じる。「Undergrowth」は最初ヒップホップかと思いました。あとやっぱ流れがいいですね。ボーカルのオリー・ジャッジはドラムを叩きながらビートに合わせて叫び声を上げ曲によってメンバー間で楽器を持ち変え、そういう彼らの伸び伸びとしたスタイルが1stアルバムには満ちていて、その奔放さを生かしたまま温度感を調節しコントールしているようなイメージが今作にはある。とくにホーンや多重コーラスがいつの間にか重厚なノイズへと置き換わっていく「Siphon Song」は凄まじいです。混乱させてから一度音を引く、みたいな落とし方、静謐の挟み方がおそろしくかっこよくて"また聞きたくなる"瞬間がめちゃくちゃあるアルバム。

 


昨年のFontaines D.C.もそうでしたが現行のインディーシーンって本当に型に嵌めることができないというか、単純にポストパンクやクラウトロックでは括れない、もうメンバー間でジャンルの垣根も無く純度の高い独自言語で会話してるような感じがする。例えば今年リリースされたbar italia、Matador発というのもあって「往年のポストパンクっぽさ」がすごく馴染み深く聞けてこれはこれで大好きですが、SquidやFontaines D.C.は「往年のポストパンクっぽさ」は一切無い。例えばJoy Divisionっぽいとか、The Cureっぽいとかそういうのはなく・・・にも関わらずそこに括られているのは実験性や姿勢、型に縛られない純粋なクリエイティビティという部分でオリジネイターと同調するとこがあるのかもしれません。故に00年代のポストパンリバイバルとここ数年UKインディーシーンを指して言われるポストパンクは全くの別物として聞いているし、というかもうジャンル名でアーティストを括る時代ではないんだなとも強く思わされる。

 

参考記事