朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography⑪

前回Seamの中でBitch Magnetに触れたのでその辺聞き返しつつ。あとEngine Kidの昨年出た再発買って聞いたりしてたらこの2作から思いついたものを並べました。アルビニ録音多め。


 

Bitch Magnet - Bitch Magnet(2011)

以前Rodan~June of 44について書いたブログにてコメントをいただいたこともありその記事に載せるべきかなとも思ったんですがここで。

86年結成、アルバム2枚で解散してしまったバンドですがこちらはそれらをコンパイルしたコンピレーションで音源は88年~90年のものですね。初期EPにはスティーヴ・アルビニも関わってるみたいです。Bitch Magnetはルイビルのバンドでは無いですが、ルイビルハードコア界隈の源流Squirrel Baitのメンバーでもあるデヴィッド・グラブスが参加しててサウンド的にも直系。フロントマンのスーヤン・パークは後にSeamでも活動しそのSeamではSuperchunkのマックも参加しているので、直接音楽性の類似はないにしてもインディーシーンでのミッシングリンクとして色々なところに顔を見せてきます。

音楽性的にはBastroよりマスロック寄りだったCrainとかの方が近く、Squirrel Bait直系の鋭利なギターフレーズを主軸に熱量はそのままさらに音楽性を煮詰め延長してったよう感じ。長尺な曲もあったり結構ポップなときもあるけど基本的には線の細いプレ・マスロック的なジャンクロック~ポストハードコア。Dischord Recordsを経由せずにSquirell Baitと90sポストハードコアの架け橋となったバンドにも聞こえる。とにかく開幕「Dragoon」の超硬質ジャンクギター、各パート緊張感のあるぶつかり合いがドラマティックにめくるめく9分間続いていくの名曲すぎるし、演奏のテンションとは裏腹に冷静にスポークンワーズを乗せるボーカルとの温度感は後の数々のバンドへの影響の強さを感じ取ることができる。6分超ある「Americruiser」は途中エモにも通じそうなクリーントーンの静パートを挟みながらこれまたスポークンワーズが乗っかるはめちゃくちゃルイビル系との接点を見出せるし、SlintのSpiderlandと完全に同時期ですが間違いなくこれらがRodanの原型でしょう。

それこそRodanやDon Caballeroと言った後のSouthern~Tenmporaly Residenceとかのインスト系ポストロックのレーベルへの道筋となってくような感じもあるし、意外とメロディアスなフレーズが登場したりもろにBastroっぽい曲もあってエモ方面からも辿ることができると思います。あとあんま関係ないですが「Mesentery」は(おそらく)LostageのSFの元ネタで最初結構たまげました。

 

Honey For Petzi - Heal all monsters(2001)

アルビニ録音のマスロック~ポストロック~ポストハードコアの当時のその辺の音満載なフランス出身00年作。これは完全にBastroやJune of 44といったルイビル血脈の00年代ポストロックムーヴメントど真ん中から出てきた香りがするし、電子音楽要素もありミニマルなアンサンブルから硬質なギターリフが飛び出てきたり、結構ポストハードコアもろな展開もあったりで不穏なアンダーグラウンド感、を器用に自然体でやってのけてる感じがたまりません。

もしデヴィッド・グラブスがGastr Del Sol化せずBastroとしてハードコア成分残したまま進化したイフみたいな聞き方もできると思うし、Slint直系ということで同じルーツを持つMogwaiを想起させる部分もありますがそれは硬質な静パートと言う面のみで派手なバーストはしません。「Snakes & scorpions」「Safari deluxe」とかね、むしろこれ聞いてるとMogwaiにもマスロック要素あるような気さえしてくる。

 

Die! DIe! Die! - Die! DIe! Die!(2005)

90年台にUSオルタナとUKギターポップのいいとこどりのような最高のインディーロックを大量にリリースしていたニュージーランドのFlying Nun Records発、なんですがそういったダニーデンサウンドとは一線を画した新規鋭の2005年作。バンド名も強烈ですね。

ポストハードコアってよりはポストパンクという言葉を使いたくなる2曲目「Disappear Here」での硬質でジャンクな荒くれた録音でドタバタとまるで何かに追われているかのような疾走感で爆走する初期衝動の塊。10曲21分あっという間に通り過ぎていく刹那的なアルバムでこんなん絶対好き。ゴリゴリに弾力のあるベースラインが曲を繋ぎ止めく感覚や高音ギターフレーズがその上を滑っていく感じはやっぱりポストパンクっぽいですね。

 

Cole - Idea Of City(1998)

もしエモバンドがJune of 44のカバーをしたらこうなるであろうという感じのアルバム。そもそもJune of 44自体が元々音楽性を定義しづらいバンドなのもあり近いな~と思うバンドいたとしても要所要所だったり雰囲気だけ通じるものがあるかも、止まりなんですが、Coleはかなり直接参照にしてるんじゃないかと疑ってしまう程で逆に新鮮に聞こえます。かなり1st2ndの辺りの作風で静→動に持ってくときの静の静寂すぎず硬質で音数の少ない淡々に繰り返してから動いてく感じというか、元々Zum Audioコンピ(Zum Audioについて)に入っていて知ったんですがJune of 44やSweep the Leg Johnnyと同作に収録されてるのもにくい。

「Tropic Of Cancer」とか「Means To Discover」とか聞いてて笑顔になってくるスロウコアともポストハードコアとも言えぬ感じで、June of 44っぽいとは言いましたがああいう緊張感のある不穏で冷たい静パートでは無く、どちらかと言えばエモのクリーンパートに近い哀愁が漂ってしまうちょっとしたヘロヘロ感がインディーロック寄りのエモとしても聞けます。

 

Engine Kid - Bear Catching + Novocaine / Astronaut(2021)

現在Sunn O)))で活動しているグレッグ・アンダーソンによるバンド。93~94年頃に活動した元々ハードコアシーンから出てきたというのがよくわかるルイビルシーンの血を色濃く受け継いだSlint風ジャンクポストハードコア名盤。昨年ユニオンから出た初CD化とのことで、再発コンパイル盤に入ってたブックレットにはなんとSpiderlandをオマージュしたメンバーの写真が入ってるというリスペクトっぷり。Sunn O)))自体もEarthのトリビュートバンドが出発だったらしく好きなバンドの影響をダイレクトに出力してるのかなと考えると色々バックグラウンドを想像しながら聞けて楽しいですね。

で今作アルビニ録音の1stのBear Catchingとその前のデモ音源やEPも収録していて、「Treasure Chest」の初期バージョンはイントロからSlintそのままやってる感ありますが再録の1stバージョンではこれもかなりヘヴィになりオリジナリティに溢れてます。「Bear Catching Fish」とかのイントロの不協和音もポストハードコア的な金属的なものではなく、もっと低音の効いたジャンクで濁った不協和音でこれがめちゃくちゃ重い。彼のキャリアを知ってるからというのもありますがこの後メタル方面へ進んでくのも頷けるヘヴィさで、そのままSlint風の静→動のカタルシスを行き来しつつメロディはちょっとエモにも通じるボーカルなのも意外ながらかなり聞きやすい。

 

Indian Summer - Giving Birth To Thunder(2019)

こちらもルイビルシーンからの影響を感じることができる93~94年に活動していたポストハードコアバンドでこれまたNUMEROから再発。解散してますが、まさしくシーン真っ只中の中リリースされ当事の音源をまとめたコンピでめちゃくちゃかっこいいです。ルイビルっぽいとは言いましたがそちらが軸というよりHeroinらサンディエゴのカオティック勢~Discrhordにも通じる硬質でジャンクなハードコアの中にSlintの手法がエッセンスとして練りこまれてく感じで、スクリーモ要素もあるし展開も激しいので激情シーンやその一歩手前のポストハードコア、それこそHooverとか好きな人にもいけそうな感じ。

「giving」「his」とかの録音の荒さ含め生々しく、いつ破裂するのかと緊張感を途切れさせないまま様々なパターンでバーストしてく感じはかなりダークで、後のEngine DownとかFor Hundred Yearsにも通じる部分あると思います。「thunder」は今挙げたどのハードコアシーンとも違ったキャッチーなリフを繰り返すタイプの曲で、意外とこれが一番好きかも。

 

Staynless - Transistor Theory and Circuits Made Simple Staynless(1998)

こちらもアルビニ録音。えげつないくらいかっこよくてMaximillian ColbyがSlintと融合したかのような、激情系一歩手前で一方通行にどんどん曲が展開してくのはLovitt Records系と通じるとこがありつつも、June of 44等の狂気の滲み出る静パートや展開の複雑さも多々見せる非常に緻密で鋭利なポストハードコア。サブスク無いですがbandcampで全部聞けます。ルイビルシーンというかTouch and GoっぽさとLovitte Recordsが融合してるって見方をすると先のIndian Summerとかなり被りますが、あちらはもっとDischord寄りなのに対してStaynlessはボーカルがSlint直系のスポークンワーズなので大分印象が異なります。

 

Nirvana - In Utero(1993)

名盤。かつて洋楽掘り始めたてのグランジキッズだった僕は正直Bleachが一番好きでこれもまぁ好きだけどしっくりはこない・・・という感じだったんですが、アルビニ録音だのポストハードコアだの色々通過した今聞くとこんなに最高なアルバムあるのかというくらい理想の音が鳴ってて、思い出したように聞き返してかなりハマってました。

で作品としてはめっちゃMelvinsのEggnog思い出して時期も被ってるしカート憧れのバズ・オズボーンなので絶対影響はあったと思います。Melvins関連として聞くとMilk Itとかのカッチリとしたリズムのヘヴィさと狂気の滲み出たバーストが割とヘヴィ寄りのポストハードコアというか、Quicksandとかと近いメタリックでカオスな雰囲気もあってめちゃくちゃ良いですね。そして一番好きな曲はScentless Apprenticeで、この曲の不協和音ジャンクギターの金属的で今にも飛散していきそうなパリパリなギターの音色はもう様式というか芸術というか、アルビニ録音の真髄みたいな音が鳴ってるしRapemanの系譜として聞くにも十分ですね。ここに連なるデイヴ・グロールのとんでもない破壊力のドラムサウンドDon Caballeroでのデーモン並みアルビニ録音との親和性が高くて言葉も出ない。ヤバすぎ。

とはいいつつ「Heart-Shaped Box」「Rape Me」「Pennyroyal Tea」辺りの超キャッチーなナンバーも入ってるのでやっぱちゃんとニルヴァーナだなというかメジャーラインでもしっくり聞けるバランスもよくて、それでいてアルバム通してあんま乱雑な感じしないのは流石ですね。でも「Heart-Shaped Box」は今聞くとめちゃくちゃ音浮いててアルビニがやってないらしくなんか揉めたらしいけど、昔はポップで好きでしたが全体で聞くとやっぱり違和感、最近買った2013年に出た完全版に入ってるアルビニによる再リミックスが神でした。

 


 

以上でした。Bitch Magnetで触れたSeamに関しては前回取り上げてて、ハードコア色は薄くスロウコア~エモの名盤だらけ。あとは例に漏れず今作も「Slint以降」というチョイスの選盤が多かったですね。