朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography⑭

好きなスロウコアのアルバムについて書いてます。


 

Bluetile Lounge - Half Cut(1996)

オーストラリア発のスロウコアバンドBluetile Loungeの2nd。彼らの名盤1stではじっくりじっくりと絶頂へと向かっていき頂点に達したことすら気づかないまま暖かさが充満していくようなアルバムでしたが、今作1曲目の「Liner」では静寂から入り、そして曲の骨組みが出来上がる前にエモーショナルなギターの轟音が覆い尽くしていきます。この極端な静と動の対比は今までのBluetile Loungeには無かったし、エモという概念を音楽ジャンル的なスタイルというか視点を完全に捨てた場合で捉えるとしたらこの轟音を聞いてるときの自分は感情が溢れ出て仕方なくなってしまう。どことなくKarateの1stや更にそのルーツとなるであろうCodeineの最終作「White Birch」の暗く塞ぎ込んだ冷たさをもう少し暖かく、穏やかに、しかしやはりどこか終末感漂う独りぼっちのサウンドトラック的作品。2曲目以降は結構1stっぽくじわじわと一滴ずつコップを満たしていくような心地よさがあって2曲目「Hiding to Crash」から11分ある大作。1stと違う点と言えばアコースティックサウンドが多めになってるとこかもしれません。後半うっすらと、ギターノイズがかなり小さな音量で背景から徐々に覆ってくるところがとても心地よく、この感じ結構初期Red House Paintersを思い出す。

ちなみにSonic Youthのスティーヴ・シェリーがやってるSmels Like Recordsから出しててそれが関係してるのかどうかわかりませんが前作と比べてもっと音の輪郭がはっきりしたというか、硬質になったというか、雑にオルタナっぽい音になってると思います。ノイズの部分とか。アコギとの対比的にそう聞こえてくるのもあるかも。もし私的スロウコアベストを組むとしたら間違いなく上位に入ってくる作品で、いや1stのときも近いことを言ったけど比べることができないくらい両方好きで、それぞれ違う好きな要素があるし、大切なバンドなんですよね。

 

Cat Power - Dear Sir(1995)

こちらもSmells Like Records出身のSSWの1stで結構この後売れたのもあって割と有名ですが、これは正真正銘無名時代の1st。結構作風が違ってローファイで音数の少ないスロウコアにも近い作品。ドラム叩いてるのもスティーヴ・シェリーらしいです。しかしたぶんシーンを意識したとかではなくて素でこれをやってるというか、歌いたいことやりたいことに合ったスタイルがこの音数の少ないアンサンブルとボーカルの浮き出た形で、結果的にこうなったんだと思う。というわけでスロウコアというよりは"スロウコアっぽいSSW"て感じ。ボーカルはPJ HervyとかShanon Wrightを思い出す悲壮感全開なところも今のCat Powerから考えたら意外かもです。マタドール以降からは結構カラフルというかアルバムの中で様々な彩を見せてくれますが今作はシンプルにギター、ドラム、ベースとボーカルのみ、カラフルどころか全体を半透明の灰色のフィルターで覆ったような空気はやはりサッドコア的。

 

Cat Power - Myra Lee(1996)

ジャケからして最高なCat Powerの2nd。1stの延長線上を更に煮詰めていったようなこちらこそ正真正銘スロウコアなアルバムで、1曲目の「Enough」からかなり静謐な始まりからただひたすらCat Powerとギターの音が交互に近づいたり遠ざかったり不穏にゆらゆらと浮遊していきSlintのDon, Amanを思い出すような張り詰めた緊張感が漂ってます。前作もそうでしたが溜めて溜めて爆発させず緊張感を維持していくタイプのスロウコア。「Enough」「We All Die」も彼女が目の前で弾き語っているような生々しさがあり、「We All Die」に関しては中盤ドラムが参加してくること自体が素朴ながら大きなカタルシスとなります。最終曲「Not What You Want」のワンルームで安マイク1本で録ったようなラフでローファイな録音はどこか切実さも感じ、このアルバムの最後として完璧すぎる。この不穏で枯れ切った雰囲気がたまらずCat Powerで一枚選ぶなら間違いなくこれです。最初少しSlintに触れましたがそれこそマクマハンのSSWとしての色が濃かった初期For Carnationとかが好きな人なら、あの空気感を継承する作品として絶対間違いないです。

 

Cat Power - Moon Pix(1998)

Matador Recordsより4th。スティーヴ・シェリーに見定められSmells Likeから出した後マタドールからアルバムを出すというすごく90年代USインディー全盛期感のある経歴ですよね。このままSSWとして世界観を広げていくわけですが、このアルバムはまだ1st2ndの延長線にあるスロウコア的側面も強い作品で、ただ悲壮な雰囲気は薄まりどことなく親しみやすくなりポップさが増したかも。音数が少ない素朴さは変わりませんがその素朴さが荒廃とした雰囲気ではなく優しく穏やかな空気に変わってきていて、例えるとサウンドに大きな変化は見せずCodeine~SlintのラインからDusterやBedheadのラインに車線変更した感じ。隣ですけどね。

 

Red House Painters - Down Colorful Hill(1992)

サンフランシスコ出身、スロウコアというジャンルを代表するバンドでもあるRed House Paintersの1st。4ADということもあって透明感のあるじめっとしたギター音やリバーブがかった靄の中のようなサウンドはゴシックな雰囲気も強く、遅くて陰鬱なポストパンクと言った方がしっくりきますね。メロディーもかなり暗くこのボーカルが後のスロウコアというジャンルに与えた影響はかなり大きいと思うし、まるでデモ音源にそのままリバーブかけましたとでも言いたくなるローファイでのっぺりとしたサウンドはUKロック的に聴ける側面もあると思います。同じくUSオルタナシーン重要作ながら4ADからリリースされた同時代のPixiesとは動物ジャケと寝室ジャケというのがそれぞれの個性が出てて良い。

本来ロックミュージックにおいてカタルシスとして爆音でかき鳴らされる(という印象が少なからずある)はずの"ノイズ"が、曲の後半からヘッドホンで聞かないと気付けないくらいの極小の音量で徐々に耳元を覆っていく「Medicine Bottle」を最初聞いたとき固定概念を破壊されような気持ちになりかなり衝撃でした。「Lord Kill The Pain」でのアコースティック・ギターの裏でノイズが走ってくのも良い。こういった独自のオルタナティヴ・ロック的アプローチも見えてくるのがこのバンドの特徴の一つで、次作以降アメリカーナ方面にも通じてき最終的にSun Kil Moonというフォークロックのプロジェクト(ソロ?)へと続いていきます。

 

Red House Painters - Red House Painters(Rollercoaster)(1993)

セルフタイトル2nd。大傑作です。もう本当に素晴らしくて14曲75分、セッションで23曲録音した中から選ばれたらしいですが珠玉の名曲しかなく残りの内8曲は次作に収録(これもマジで良い)。

とにかく1曲目の「Grace Cathedral Park」から美メロ、前作から引き続きゆったりとしたドリーミーなスロウコアを鳴らしているんですがこの曲随分と風通しがよく、Down Cloful Hillでの最終曲「Michael」からそのまま地続きで始まったひたすらあてもなくドライブをしているような旅のサウンドトラック的な曲。マーク・コズレックがルーツとして元々持っていたアメリカーナの風が徐々に吹いてきたってことだと思いますがポップに振り切っていて前作以上に聞きやすいです。代表曲「Katy Song」も前作のポストパンクっぽい艶やかなギターではありますがゴシックな空気は前作ほどは無い。イントロのギター1本から心を鷲掴みにしてくるパワーのある曲で、中盤からCocteau Twinsも思い出すような儚い雰囲気が前面に出てきてまるでカーテンのようなギターが幾重にも重なっていくのは本当に美しく、これを繰り返した後に最後の最後に裏でギターがうねりを上げていくアウトロにはもう泣くしかない。これから盛り上がるかなってところで更に音を足しながらもフェードアウトしていくのは前作Medicine Bottleでの小音量のノイズと同じく想像とは逆に向かっていくというか、対比的で驚かされました。続く「Mistress」でもこの中ではストレートなノイズ路線、海外メディアではシューゲイズとも比較されてたのもまぁわかる感じでこの2曲は4AD色全開。

そしてその中でもゆったりとしたアコースティックの「Down Through」や「New Jersey」といった名曲郡もあり、この辺の曲ではアメリカーナ的な側面が強く、4ADの耽美な音世界の中でもニールヤングを想起させるようなフォーキーな質感も持ち合わせていたという意味では本当に稀有だ。曲がスロウな上に繰り返しが多いので通して聞くと長いですが、それでも間違いなくこのアルバムを聞いている時間は"ここではない遠いどこか"へ連れてってもらえるような気持ちになる。

 

Red House Painters - Red House Painters(Bridge)(1993)

前作と同名のセルフタイトル作でジャケで見分けつきますが要注意。かつて2ndが欲しくて通販サイトを利用したらこっちがきたことあり。続編というか同年にでてる上に、前作と同じレコーディングセッションで生まれた23曲の内の前作に採用されなかった9曲で構成されているのでほぼDisc2みたいな感じ。前作がRolloercoaster、こちらがBridgeと呼ばれていて8曲にShock MeというEPをボーナストラックとして追加したのがこのアルバムになります。

てわけでBridge、とにかく1曲目の「Evil」から名曲すぎるので前作が良かった人は是非。退廃的なアコースティックサウンドの歌ものから最後の最後に金属的なエレキギターが炸裂していきますが、ギターの音は派手なのにボーカルの後方からしか聞こえないくらい控えめな配置をしてて、ドアの向こうとか反対側のスピーカーから鳴ってるような最小限のカタルシスがじわじわ沸いてきて本当にすごいです。これは初期から続くMedicine BottleやKaty Songの手法と完全に地続きので僕はもう本当にこの路線が大好きなんですね。あとは「New Jersey」が前作に入っていた曲をエレキギターメインにした別バージョン、あちらは牧歌的というか風景をなぞるような心地のいいアコギメインの弾き語りだったのに対しかなりドラマティックに装飾されていてこれも泣けます。

 

Red House Painters - Ocean Beach(1995)

名盤。解散後ソロへと続くSun Kil Moonにおけるフォーク・ロック路線がかなりハッキリ出てきた作品で、初期Red House Paintersらしい作風とこれ以降続くアメリカーナ路線が共存した唯一の作品。4ADからは最後のリリースとなったのもそれを象徴していて頷けます。個人的にもうスロウコアとしては聞けず、CodeineやSlintと言ったポストハードコアの形態の一つとして、"スロウなハードコア"をやっていたバンド達とは違い、たぶん、Red House Paintersはカントリーロックやフォークの一つの新しいスタイルとしてこれをやってきた感じがある。ルーツというか、最初から出自がそもそも違う印象がありそれが表に出てきたのがこのアルバム、でしょう。

今作、前作までの靄が掛かったようなリバーブは控えめになりもう少しくっきりとした結果、彼ら特有の諦念感全開の仄暗いサッドコアサウンドは味わい深い枯れへと変化してます。そして「San Geronimo」はバンドの最終作「Old Ramon」やSun Kil Moonでも見せる分厚いエレキギターのリフがメインの曲で、中盤からわかりやすく"サビ"的なフレーズが登場しラフな空気感の中でもちゃんとカタルシスがあり、個人的にRed House Paintersで最も好きな曲です。「Over My Head」では会話をそのまま録音した入りから弾き語り→徐々にバンドサウンドを足しながらアコーディオンにおけるソロパートへと雪崩れていく様に何度聞いてもほろりと来てしまう。どちらの曲も肩の力抜いて聞けるのがとても心地いいですね。曲によってフィドルやオルガンも参加してきて後のカントリー・ロックな色が出ているし、あとは「Moments」と言う曲が結構初期から見せていたノイズを使ったオルタナティヴ路線の最後の曲という感じで、小音量で鳴り響くギターノイズが少しずつ大きくなりいつの間にか曲全てを飲み込んでいくという手法は王道ながらやっぱり良い。

Sun Kil Moon初期ら辺のマーク・コズレックもゴスな初期も大好きなんですが、個人的にこれくらいのバランスがベストかなと思えてしまう唯一無二のアルバムがOcean Beachです。一生聞いてたいと素直に思える。

 

 

Sun Kil Moon - Ghosts of the Great Highway(2003)

名ジャケ。Ocean Beachが良かったという方に是非オススメしたいのがこちらのSun Kil Moonの1stで、Red House Paintersにも間にもう2作ありますがあえてこちらを。マーク・コズレックが完全に一人分離してソロへと転向した後の1stで、直後というのもありまだギリRed House Paintersの作品として聞けてしまえるくらいには近いかと。

「Salvador Sanchez」「Lily and Parrots」辺りの分厚いエレキギターのリフがメインの重厚なカントリーロックもありこの辺Wilcoの1stとか好きな人はそのまま行けるような感じで、Red House Paintersにしてはかなりアッパーだった最終作Old Ramonともすごく近いです。コンパクトにした感じ。そして「Carry Me Ohio」「Duk Koo Kim」におけるフレーズやマーク・コズレックのうつむいた歌い方、今にも消え入りそうな儚いフレーズからはRed House Paintersでのサッドコアなスタイルを感じることが十二分にできます。とくにDuk Koo Kimはあの名曲Katy Songを想起させる10分超のアンセムですが、Katy Songにおける虚無的なループはフレーズや音色の種類もそんなに多くなくひたすら狭い中でそれを繰り返し自分に籠っていくような印象で、今回はより鮮やかに、1曲の中でも色々な表情を見せながら美しくドラマティックに変化していくマーク・コズレック史上屈指の名曲。むしろSun Kil Monnになる過程においてのRed House Painters後期のアメリカーナ化より、それが完全に終え移行した後の状態で初期の陰鬱さをまた出してる感じさえある。そこにたぶん過渡期であり一つの完成系だったOcean Beachと似た空気を感じているの、かも・・・。