朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography⑩

Rodan関連作の記事で書ききれなかったTara Jane O’Nielのソロワークスから何枚か、あとそこから連想したスロウコア~ポストロックです。


 

Tara Jane O'Niel - In the Sun Lines(2001)

ex.Rodan及びSonora Pineのタラの2nd。1stの頃は宅録感満載、本当にアパートのパーソナルな空間で自然に出てきた素朴なメロディと暖かさに寄り添うって感じの素晴らしいローファイフォーク名盤という感じだったんですが(discography⑦ - 朱莉TeenageRiot)、今作そっからポストロック~スロウコア方面とも比較できそうでRachel'sとかDirty Three好きな人にも刺さりそうな非常に奥行きのある中期~後期の彼女の作風が出てきてます。

歌1本でも異世界につれってくれるような不思議な魅力がある人ですが、今作は鳴ってる音全てが宙を漂っているような、漠然とした各楽器の音が溶け合って靄掛かっていて、例えば今にもとろけてしまいそうなギターサウンドやうっすら流れるストリングス、浮遊感の強いオルガン等それぞれが薄く重なり合ってどれがどの音かが曖昧なレイヤーが何重にも掛けられてる感じ。でもちょっとローファイなおかげで素朴ながら彩があるというか、あとドラムのちょっと遠い音がとてつもなく気持ち良いですね。Rodanとかにあったタラ成分を抽出したような作品でRodanからタラに流れてきた人や(僕です)、曲によって表情がコロコロ切り替わるRodanの中でもスロウコアやポストロック的な側面が好きな人はまずこのアルバムから聞くのが間違いないです。

 

Tara Jane O'Neil - You Sound, Reflect(2004)

最高3rdアルバムで超名盤。前作よりもアコースティックな色が増し純粋な歌の力とポストロックの神秘性が充満した、生音ポストロックをフォークロックでやったようなアルバム。スロウコア程ではないですがふんわりとした上物の中ドラムが繋ぎ止め、単調ながら心地よいビートと歌のバランス感はスロウコアファンにも刺さると思います。録音の感じとか。バイオリンも入ってきてDirty Three的な聞き方もでき浮遊感増し増し、前作のアート作品然とした系譜とはまた別のどこか人懐っこくもあるSSWっぽい作品に落とし込んでます。もう元RodanとかSonora Pineとかからは完全に抜け出して彼女の素が出てきて良い具合にキャリアと溶け合ってきた頃とも言うべきか。

 

Tara Jane O'Neil - In Circles(2006)

てわけで次作、ジャケット良すぎですが彼女本人作とのこと。RodanもJune of 44もジェフがジャケ全部やってたし、この辺のシーンの人のDIYな方向性がサウンドもジャケも含めて統一感あっていいですよね。流石に宅録弾き語りに近かった1st程ではないけど、彼女の作品にしてはかなりパーソナルに聞こえるというか、今までの作品と比べると世界観はかなり縮小されたような印象を受けるしそのおかげでメロディーが際立ちます。とは言いつつ別に音数減らしてるってわけでもなく、耳を凝らすと微かなノイズや電子音が随所に散りばめられているがあくまで薄い膜のようにちょっとした味付けとして存在してて、弾き語りとは違ったある程度作りこんだ上で隙間を大切にしてるように聞こえるし、そのおかげでちょっとだけ浮遊感が出てほの暗い穏やかさとマッチしてきます。

 

Dirty Three - Ocean Songs(1997)

オーストラリア出身のTouch and Go発アルビニ録音。とにかく気持ちいいドラムサウンドを聴きたいのなら絶対に外して通れないと言いたくなるアルバムで、全編通してバイオリンがガッツリ入ってますがギターと違って流動的でふわっとした暖かみがある音だからこそドラムの振動がそのまま伝わってくる感じがすごくいい。音楽性的には全然違いますがTortoiseTNTのドラム録音とか聞いてると脳内からヤバイ液とか出そうになるくらい気持ち良いけどあそこに快感を求める人は是非こちらもどうぞ。ヤバイ汁出ます。Rachel'sをもうちょっとポストロックに近づけたという感じでジャズ要素もあり、生音系ポストロックの極北みたいなサウンド。「Authentic Celestial Music」は極上のドラム録音と空間の隙間を10分間堪能するスロウコア名曲。

 

Seam - Headsparks(1992)

USインディー聖地チャペルヒル出身Seamの1st。めちゃくちゃ好き。2nd~4thはTouch and Goリリースで今作だけ長らく入手困難だったんですが、最近NUMEROで再発されました。2nd以降にあるスロウコア色はこの頃は薄く90年台初期らしいノイジーでザラついたバンドサウンドにグッドメロディが乗るという雑に「オルタナ」て区分したくなる感じで、USグランジやポストハードコア以降のジャンクな質感とUKギターポップの甘美さを併せ持ったような、いやどっちに区分しても違和感あるんですけど通じるとこはあるというか、後に出てくるエモバンド達が持っている湿っぽいノスタルジーにまみれていてちょっと素朴なジャケも最高。ちょっとthe pillowsの90s後期の作品を思い出すとこもあったり。ちなみに「New Years」は後にCodeineがカバー、そしてSuperchunkのマックがドラムで参加してた唯一の作品でもあります。

 

Seam - The Problem With Me(1993)

2nd。スロウコア名盤としてしられてますがそういう先入観で聞くと1~2曲目のノイジーなギターロックにびっくりするかも、というかこの時点からエモの源泉ここではといいたくなるような荒々しくエモーショナルな演奏+繊細でヘロヘロなグッドメロディの組み合わせで完全に1stの延長、というかそのままアップデートしたオルタナティヴ・ロック然とした曲群に痺れます。フロントマンのスーヤン・パークは元Bitch Magnetというとこも含めてポストハードコア→エモへと変遷してくシーンを象徴する作品かと。テンポは遅いですが疾走感がある不思議な感じ。

で3曲目からはもう美しいスロウコア名曲が続く珠玉の名盤。1stの初期衝動にまみれた感じも好きでしたが一旦落ち着いて自分達の音楽性の中でもう一度整理整頓したような、曲によっては後半ノイジーなバーストもありますがすごく丁寧で緻密な曲展開、でもってメロディーが本当に良くて、何も考えず歌ものとしても聞けるくらい良いです。スロウコアというよりゆったりとしたインディーロックとしてもすんなり入ってくる感じ。初期IdahoとかBedheadにエモのエッセンスをプラスしたような・・・いや、Seamの方が先なんですけどね。

 

Ida - Will You Find Me(2000)

先程TJOでも触れたIda、4枚目のアルバムですがこちらもスロウコア名盤として語られていて「Shotgun」は1st収録曲の再録のため当時の集大成的アルバム。スロウコアと言ってもCodeienやSlint系譜のハードコア出自の硬質なものでも、Red House Paintersのようなポストパンクっぽい質感のものでもなく、純粋な歌物SSWという風にも聞けそうなインディーフォークデュオ。音数は多くなくシンプルですが、曲によっては電子音やバイオリンも合流してきて神秘的な雰囲気はポストロック色も濃いです。とは言いつつメンバーのダニエルはThe Hatedという80年代ハードコア真っ只中なバンドで活動していた出自もあり、今作に参加しているTara Jane O'Neilも元Rodanでハードコアをルーツにしている両者が今こんな美しいアルバムを作っているというのも共通点だったりします。

ツインボーカルの美しくポップなメロディがとても優しく、ボーカルのハーモニーはどことなくLowを思い起こしますがもっともっと柔らかく、やっぱオルガンが入ってるのも大きい。そんな中でも「Shrug」は暖かいこのアルバムの中でも突き放したような不穏さがありシンプルな歌ものから不穏なアンサンブルやノイズを足しながら不協和音へと潜っていくラスト含めめっちゃ好きだったりします。「Past the Past」では珍しく静→動の轟音にまみれたカタルシスに溢れる展開も。どの曲もシンプルなビートの繰り返しの中メロディアスな二人のハーモニーがドラマティックに演出してくれるので全然シンプルに感じず、色んな曲から日常に寄り添ったドラマを想像してしまう名盤。

 

Ida - The Braille Night(2001)

次作。いきなり開幕1曲目「Let's Go Walking」からもう名曲すぎて完全にやられる。前作よりさらに音数を減らし淡々と、悲しくエモーショナルな線の細いアンサンブルを繋げながらそっとボーカルを浸透させていくスロウコア名曲。前作と比べて一気にサッドコア然とした空気が滲み出てきて、そのまま4曲目「So Long」までかなり音数の少ない曲群が並び立ちビビりました。

「Blizzard Of '78」からは結構カラフルで祝福っぽい雰囲気のある曲も増えていきますが、前作では1曲ずつそれぞれ物語が完結していたように感じるのに対し今作は全体を通して一方通行の雰囲気がある。コンセプトアルバムって程でもないけど、曲の合間にインストを挟んだり、今までに無かった長尺の曲も多く、その逆に2分程度で終わってしまう弾き語りテイストの曲も入ってきたり、なんというか自由にやっててジャンルの制約からも放たれた感じがします。インディーフォークという枠で聞くよりもポストロックサイドに半分浸かってるような曲もあるし、それとは逆にシンプルなアコースティックなポップスもあったりして、でもちゃんと一貫して聞こえるのはアルバム構成の妙か。ラストの「At Last」も完全なインストですが最終曲として完璧と言える程美しいエンドロールで、これはもうサントラを聞く感じでもいけるかもれません。

 


以上です。元々Rodanのメンバーということで掘り始めたとこなので、あちら大分ハードコア寄りですがルイビルアンダーグラウンドシーンから出てきたということで直系。IdaやSeamも参加アーティストやBitch Magnetをミッシングリンクとして繋がってくるし全員ルーツにハードコアがあるというのも面白い。