Rodan及びJune of 44、ケンタッキー州ルイビル出身のバンドです。一つの曲の中でスロウコアとハードコアを行き来するSlint直系のポストロックにしてJune of 44ではダブにも接近、解散後様々なバンドへと派生。Slintと並びまだポストロックという名もついていなかった頃、その原型とも言える音楽をやってました。後のTortoiseやGaster Del Sol等、シカゴ音響派も元を辿るとこのルイビルのシーンで繋がってきます。
そしてジャズやエレクトロニカの要素も強いシカゴ音響派と比べると、Rodanに関しては根本に「ハードコア」「オルタナ」というものが根付いたまま発展していきます。解散後の派生バンドもUSインディーやローファイと接点が多く、アメフト以降のキンセラ兄弟や先のシカゴ音響とはちょっと違った楽しみ方ができるかと。
Rodanが唯一残したオリジナルアルバムにして大名盤。1曲目の「Bible Silver Corner」からとても抒情的で美しいスロウコアから入り同じバンドとは思えないような程ハードコア色の強い「Shiner」へと展開。たった一枚で解散してしまいましたがこれがベストアルバムと呼ばれても遜色ないほど名曲しか入っておらず、最初2曲の要素が入り混じった切れ味の鋭い獰猛なハードコアと美しくエモーショナルな静 → 動の展開を流動的なアンサンブルで行き来し、徐々にギアを上げ爆発させていくという曲群に泣けます。
解散後フロントマンであるジェフ・ミューラーはJune of 44を結成、ベースのタラジェイン・オニールとドラムのケヴィン・コールタスはThe Sonora Pine、ギターのジェイソン・ノーブル、ピアニストのレイチェル・グライムスはRachel‘sへと派生。Slintの名盤SpiderlandとこのRustyはルイビルの元祖ポストロックシーンで最重要のアルバムでしょう。
June of 44 - Engine Takes to the Water(1995)
Rodan解散後ギターボーカルのジェフ・ミューラーがCodeine、Hooverのメンバーと結成した同時代ポストハードコア界隈の錚々たるメンツが揃ってます。1stというのもあり今作はジェフ・ミューラーのデモをベースに各メンバーで肉付けしていったとのことでRodanにかなり近いですね。
Rodanの続きとは言いましたが録音がかなりタイトだしより音を絞ってるのでどっちかと言うとSlintのSpiderland直系、であれをよりヘヴィにしてハードコアに近づけたとも言えるアルバムで、リズム隊がHooverとCodeineという出自もあって非常に重くこれだけでも大分印象が違います。あと展開も多くSlintやMogwai的な静→動のコントラストとは違ったじわじわと溜めてからバンド全体で加速してスイッチを切り替えていくような感覚もあり、マスロック元祖と言われるのも納得。Rodan解散後にメンバーはJune of 44とThe Sonora Pineに派生したのですが、どちらのバンドも1stはRodanの続きという印象を残したままでSonora PineはジャンクなUSインディー寄り、こちらは緊張感増し増しのハードなスロウコア~ポストハードコアに接近、とそれぞれのメンバーの色がもろに出てる感じになってて聞き比べるのもオススメ。
The Anatomy of Sharks - Single by JUNE OF 44 | Spotify
ちなみに2nd以降はズッシリ構えるようになってくわけですが、1st~2ndの間に出たシングルの「The Anatomy of Sharks」に収録のSharks & Sailersでは逆に高速になっていて同じくハードコア色の強かったDon Caballeroの1stとかとも並べて聞けると思いますし、何よりRodan~June of 44はDon Caballeroと活動時期がもろ被っていて、お互いに別方向からポストロック~マスロックがまだ定義されてなかった時代にそれを開拓していったという印象がありどちらも大好きなバンドです。
2曲目は後期June of 44の変化の秘密が垣間見えるダグ・シャリンの趣味であろうトロピカルなインストを挟み最後のSeemingly Endless Steamerがこれまた名曲。美しい極上のスロウコアから不穏なポストハードコアへと大爆発していきますが、June of 44の爆発の仕方ってギターによる轟音ではなくどんどんラウドにドライブしていくダグ・シャリンのドラムが軸になっていて、めちゃくちゃスタイリッシュなんですがそれがよく出てる曲だと思います。
June of 44 - Tropics & Meridians(1996)
2ndアルバムでこちらがJune of 44の真骨頂でしょう。Rodanの延長という色はもう無くなりここから完全にリズム隊がメイン、スロウペースでドラムとベースのフレーズの塊をループさせその上でジャンクギターとシャウトを乗せるというJune of 44の基本形が出来上がります。というか1曲目の「Anisette」はもう象徴する曲でこのアルバム特有のループありきの展開はジャムセッション感も少しあり、完全に整頓されたアンサンブルの上でギターフレーズのねじれ具合はよりマスロック感も増してるし、音数を増やさないままヒリヒリとした緊張感を持続させるとことか、June of 44の中でも最も生々しい音が聞けるアルバム。リズム重視のShellacという感じもします。
June of 44 - Four Great Point(1998)
大名盤3rd。Rodan直系の美しい旋律を奏でる「Of Information & Belief」から始まりたぶん彼らの曲の中で一番のメロディアスな歌もの、スロウコアの大名曲なんですが、中盤から硬質なギターが炸裂し不穏なポストハードコアへ急変してくのがかなりクールです。しかもギターの轟音で埋め尽くすわけではなく鋭角ギターのフレーズの妙でカタルシスを演出するのがかっこよすぎで、MogwaiのChirsmath Stepsとかかなりこれに近いと思います。2曲目からはもう完全にベースリフの骨組みがメインで、そこにリフのようなドラムが繰り返され2ndから更にリズム重視になり徐々にダブ化、アルバムが終わるころには全く別の作品のようになっていてA面~B面で音楽性が少しずつ見えてくる様は圧巻。
1st2ndはまだRodanを率いたジェフ・ミューラーのポストハードコア要素が強かったのに対し、3rdからは元Hooverであるフレッド・アースキン、元Codeineであるダグ・シャリンという後にHiMを結成するリズム隊の色が強くなっていて特に今作は完全にベースのループが軸となるアルバムになってます。Rodan組のハードコア要素とHiM組であるダブ要素が引っ張り合っている中間と言ったアルバムで、実験的なことをしつつも彼らのディスコグラフィで最も聞きやすいかと。とは言いつつ3曲目「Cut You Face」ではこのメンバーで今になってアップテンポのポストハードコアをやるというちょっと浮いてるくらいストレートな曲で、それぞれのキャリアを考えると熟練度十分なのでこれも凄まじくかっこいいです。代表作でしょう。
June of 44 - In The Fishtank 6(1999)
完全にHiM組の色に染まってしまったアルバムでバンド感強めのダブ~ポストロックという感じでしょうか。ハードコア色が薄いおかげで3rdとも違いますし、このアルバムだけにしかない完全なるオリジナリティを確立させてます。どうやらダグ・シャリンの作ったループをベースにメンバーで録った長尺のセッションを編集して作られたアルバムらしいので最早HiMによるJune of 44のリミックス集って方が近いですね。
ボーカルも歌心強めでシャウトも完全に消えましたが、歌ものポストロックと呼べるほどメロディアスでもないこのバランス感覚、まさしく各々のバンドで培ったそれぞれの音楽性・・・の延長にある部分を絡み合わせ作っているというまさしく「ポスト」ロック的な作品だと思います。隙間の多い演奏からわかる各パートのミニマルな絡み合いによる浮遊感が非常に心地いいです。
Fishtankは専用スタジオを借りてEPを一枚作るという企画もののようですが完全に4thの延長線・・・ですが、それこそAnahataのようなリミックス的作風ではなくスタジオで合わせて録ってるのでこちらのがバンド感強め、3rdからの流れだと聞きやすいかも。
Rodan - Fifteen Quiet Years(2013)
未公開音源集でFifteen Quiet Yearsは2013年、HAT FACTORY '93は2019年に発表されました。Fifteen Quiet Yearsは未収録曲+ライブ音源で、スタジオ盤ですら凄まじくライブ映えしそうなバンドなので間違いないです。「Darjeeling」など未公開曲を聞いてるとまだ80sハードコアの延長に聞こえる箇所が多々あり、これがセッションにより発展、肉付けされてってRustyになってったのかなぁとか考えてしまいます。
HAT FACTORY '93はRustyとほぼ曲目一緒ですがアウトテイクとは思えないほど完成されていて、原曲だとスカスカな分低音が強調されたミックスだったのに対しこちらは中~高音域が強いおかげでギターの音がかなり暖かみがあって全然違って聞こえます。というか激しい曲でも美しいRodanが聞けるので「the Everyday World of Bodies」とかは全体的に音が分厚くなっていてポストロック感も増し増しでフレーズは一緒なのにイントロからまるで別曲のよう。ノイズパートの印象もまるで違ってこっちのバージョンで大名曲に化けたと思ってます。
June of 44 - REVISIONIST: ADAPTATIONS & FUTURE HISTORIES IN THE TIME OF LOVE AND SURVIVAL(2020)
まさかの新譜。解散から20年経ってなので驚愕でしたが、その20年の間にジェフ・ミューラーはRoadn時代の盟友ジェイソン・ノーブルとShipping Newsで活動、ダグ・シャリンとフレッド・アースキンはお馴染みのHiMでアルバムを多数リリースと、それぞれキャリアを重ねた面々+ジョン・マッケンタイアとマトモスも参加という90年代のポストロック大御所オールスターのような布陣になってます。
で中身ですが4thのAnahataを更に推し進め、より音をスマートにそしてヘヴィにした感じでしょうか。元々がダブっぽいリミックスにも思えるアルバムだったのがこちらはバンドサウンド強めになっていて、B面では普通にハードコア色強い曲も戻ってきており熱くなります。マッケンタイアとマトモスによるリミックス二曲はバンド音源をサンプリングしたカオスなハードテクノに。
The Sonora Pine - The Sonora Pine(1996)
Rodanから掘ってくにあたって重要なバンドでRodanでベース+女性ボーカルパートを担当していたタラジェイン・オニールとドラマーだったケヴィン、そしてJune of 44でギターを弾くショーン・メドウズによるバンド。1stはRodanと展開の仕方や構成が近く、ジャンクロック的なローファイな録音+タラジェイン・オニールの暖かみあるボーカルのおかげで全体的にふわっとしていて、スロウコアとしても聴けるようなミディアムテンポの中で曲がどんどん展開、バーストしていきます。
2ndではギターではなくヴァイオリンやオルガンをフィーチャーしより繊細なリズム隊を乗せるというまた別の作風になっていて、1stと比べてこっちのがスロウコアと言えるかもしれません。半分ポストロックに浸ったアート嗜好の強いスロウコア、という感じでシカゴ方面やRachel'sとも通じるものがあるし、2000年以降SSWとして名を上げるタラジェインオニールのソロや、この密室感はSlint解散後にメンバーが結成したThe For Carnationともリンクするとこがあります。
Retsin - Sweet Luck of Amaryllis(1998)
Rodan、The Sonora Pineでおなじみのタラジェイン・オニールによるまた別のバンドで90年代末期にやっていたので同時に活動していたようですが、Rodan一派によるマスロック~ポストロック的な作風ではなく純粋にいい歌にいい演奏が乗っている暖かみのあるインディーロックです。いかにもオルタナという感じで録音もインディーらしいローファイな質感が個人的に大好きなバンド。
Shipping News - Three-Four(2003)
Shipping News - Files The Fields(2005)
Rodan~June of 44を率いたギターボーカルのジェフ・ミューラーの次のバンドで、彼の変遷を辿ってくうちに上記の周辺バンドを知っていきました。Rodanのメンバーでもある盟友ジェイソン・ノーブルも参加しているのでRodan直系というか続編という雰囲気が非常に強く、彼らのルーツであるルイビルのハードコアを正面から掘り下げていきます。
彼らと交流の深い同郷Slintのじわじわと心臓をわしづかみにするような静寂と狂気を行き来する緊張感を受け継いでいて、彼らがやっていた「遅いハードコア」とでも言うような音の完成形が鳴っています。しかもSlintが出てきたときってそんなジャンル存在していなかったのでまさに先駆け、ジャンルの草分けとも言える存在でしたが、後に発展したベテラン達が集まってそれをやってるのでかなり洗練されてますね。
3rdのThree-Fourでは静から動の振り切り方が激しい同時代のポストロックの名盤だと思います。4thはジェフ・ミューラーの暗黒ポストハードコア趣味が最もポップに出てる作品かと。
Rachel's - The Sea and the Bells(1996)
Rachels's - Selenography(1999)
Rodanのメンバーであるギタリストのジェイソン・ノーブルがピアニストのレイチェル・グライムス、ヴァイオリニストのクリスチャン・フレデリクソンと共に結成した変則バンド。ジェイソンは今作ではギターを弾くというよりはマルチプレイヤーとしてプロデュースに近い形で関わります。基本はオルガン+管楽器をメインとしたポストクラシカルでまたちょっと違った方向からポストロックを広げていて、とくにSelenographyはRodanのBible Silver Cornerと言った美しいスロウコアと近いものがありルーツが垣間見えます。作品ごとにメンバーが変わりシカゴ音響派とも絡みがありますね。
ちなみにRodan~June of 44のフロントマンであるジェフ・ミューラーとジェイソン・ノーブルは高校生の頃からの親友であり、Rachel'sとJune of 44に分かれた後も二人で連絡をとり曲を作っていたらしく、これが後にShipping Newsとなります。
以上です。Rodan以降、という括りで聞くのならこの辺を押さえておけば間違いないと思います。とくにJune of 44と同時進行でジェフ・ミューラーがShipping Newsを始めたことで彼の本来の音楽性がわかり、June of 44の後期がいかにリズム隊二人の音楽性に寄って行ったかがよくわかったり、タラジェインオニールのアート嗜好のインディーロックとも言える美的センスがRodanに溶け込んでいたこともよくわかります。
Rodan関連、として括るのならここで終了です。以下、June of 44後期の音楽性に影響を与えたリズム隊二人のバンドについてちょっとだけ掘り下げていきます。
Hoover - The Lurid Traversal of Route 7(1994)
Dischord発、ルイビルのバンドではなくメンバーもRodanとは被ってないのですが、こちらに在籍していたフレッド・アースキンがJune of 44では要とも言えるベースを弾いてます。ハードコアですが金属的な不協和音と変拍子ギターリフの積み重ね+スクリーモという繰り返しが後のポストロック~マスロックや激情系に与えた影響は大きく、「Electrolux」辺りは完全に彼のベースリフの反復を核とし展開していく作風でJune of 44の3rdとかなりリンクしてきます。
98年のEPではハードコア色は強いまま更にダブ~レゲエ意識とも言える曲調になっていてシーン全体の潮流だったのかもしれません。
Abilene - Two Guns, Twin Arrows(2002)
Hoover解散後、メンバーはいくつかのバンドに分かれるのですがその後にまた一部が再集結したバンドでベースは勿論フレッド・アースキン。Hooverの頃から彼のベースを主体としたダブ要素を推し進めた感があり、音をごっそりそぎ落として最小限のアンサンブルの中Hooverにも通じるダークな世界観を展開。全編にわたってホーンも参加しジャズやダブ・レゲエに接近したポストロック化とJune of 44がハードコアから4thで徐々にジャズやダブ化した現象と完全に同じことが起きてますね。
HiM - Our Point Of Departure(2000)
何度も触れてますがJune of 44でドラムを叩いていたダグ・シャリンによるソロプロジェクト。Anahataで見せた作風の延長線上にあり後期のJune of 44内で彼の音楽性をそのまま抽出したようなアルバムで、アルバム毎にメンバーを変える流動的なプロジェクトですが今作はフレッド・アースキン、及びショーン・メドウズも参加とほぼJune of 44になってます。でジャズ色かなり強く電化マイルス+ダブ+アフロとも言えるアルバムでTortoiseらシカゴ音響派と共通点もあり、地続きのサウンドというか双方の架け橋ともなるバンドです。
Codeine - The White Birch(1994)
そしてCodeine、シアトルのバンドでRed House PaintersやLowと並んで90年代のスロウコアシーンを代表するバンドで、それらの中でも轟音要素が強く後のモグワイがルーツとして挙げることが多いですね。おそろしく冷ややかな緊張感はまさしく"サッドコア"的でハードコアの延長線としての貫禄十分。Bastroとスプリットを出したりもしてますがSlintと比べても更にミニマルで、アンサンブルの動きが少ないからこそギターの轟音垂れ流しパートの爆発具合を強調している気がします。
そして2nd「The White Birch」にJune of 44及び上記のHiMのダグ・シャリンがドラムで参加、実際1stと2ndでドラムが変わったことによりリズムへのアプローチの仕方というか聞き方が大分異なるアルバムでここを聴き比べるのも面白いです。ルイビルのバンドではないですがあの辺のスロウコア特有の緊張感溢れるサッドな空気の大元ってCodeineの影響非常に強いと思います。
あと本当に音数が少なくそれぞれのパートがくっきりとわかるので、だからこそ一音一音の響きや浮き上がってくるリズムに傾倒してダグ・シャリンがダブに向かったというのもなんとなく納得できるような気も。
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上記で触れたShipping Newsについて全アルバム掘り下げたものです。Rodan~June of 44の系譜の最終なので続編としてどうぞ。
以上です。長くなりましたがこの辺でのRodan〜June of 44〜Shipping Newsの変遷を辿りながら周辺の音楽を漁るのがリスナーとして非常に楽しい時間だったので、その記録を残したいなぁ・・・というとこから書き始めたものでした。Slintを中心としたルイビルの潮流の中にあるので、どっかでSlintも絡めて書きたいなぁと思ってはいたんですが、それは機会があればいつか・・・。何か少しでもディグの参考になればと思います。
※書きました