朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

20230519 雑記/聞いた新譜とか

私を構成する42枚というのがツイッターで流行っていて、正直僕はこの「構成する」と言い切られてしまうとどうもしっくり来ず素直に選べないのですが、ただ考える作業自体は単純に自分の脳内をもう一度整理して一体どのジャンル、どのアルバム、どの音楽シーンが自分の中で大きいのかそういう優先順位というか、棚卸感覚で可視化できるのはとても面白いと思いました。

あとはもう完全に自分の血肉になったようなアルバム、改めて話題にして語ったりすることって日常で中々無いので、例えばSNSで繋がってる音楽好きの知人が今ハマってるジャンルや音楽を抜きにして、最初は、原点となる部分はどこだったのかとそういう再確認ができるのもいいですよね。その人の背景というか、ルーツがわかるというか、どういう積み重ねがあった上で今そういう趣味なのか、何を聴いてるのかとかを想像すると見えてくるものも沢山あると思います。自分自身こういうブログで今割と狭いシーンにフォーカスして似たような音楽を書き続けていても、どういう音楽を聴いてきた上で今語っているのか、自分が読者の立場だったら知りたいと思う。ただやっぱ先ほど述べた通り「構成する」という観点からはまた違っちゃってると思うので、あくまでマイベストですね。

結局自分の根幹はNUMBER GIRLLOSTAGEthe pillows、そしてアジカンから成り立っているのだなと実感する。the pillowsからUSインディーや90sのグランジブリットポップ、そこから辿ってBlack Sabbathもあったし、ポストハードコアやスロウコアはNUMBER GIRLから辿ったスティーヴ・アルビニ、ハードコア~エモへと至るラインはLOSTAGEから。ブログで幾度となく触れているBluetile Loungeはやはりスロウコアベスト作品、自分のTouch and Go趣味が前面に出るきっかけとなったShellacの2ndも今聞いても滾るものがあり外せなかった。SlintのSpiderlandも入れようと思ったけどルイビルから発展してくポストロック、スロウコアなどに触れるきっかけになったのはRodanのHat Factry93を数年前聞いたからなので、こういうリストに入るならSlintではなくRodanだろうと。きっかけでもあり、今聞いても発見だらけでベスト級に好きです。代わりにSlintは続編とも言えるThe For Carnationの方が今の自分のモードには確実にあっていてそちらを入れてます。こちらもスロウコア名盤。

あとは以前書いた好きな音楽ブログまとめの面々にも多大な影響を受けていて、とくにたびけんさんの空白依存症やサムさんのWithout Soundsをバイブルとしていたのでその要素も強く出てます。PavementCloud NothingsはWithout Sounds、GRAPEVINEののderacineやNUMBER GIRLのSAPPUKEIは空白依存症から聞きました。

 


以下最近聞いてるもの

 

FACS - Still Life In Dacay(2023)

FACSの新譜。前作以上にバンドサウンド、主にリズム隊が浮き上がっていて音色は無機質ながらフレーズはキャッチーな硬質な反復がとにかく心地良いポストパンク。Disappears時代の空気も今回とくに強く感じてノーウェイブとか後期Unwoundが好きな人にも是非。とくにリードトラックにもなってた「When You Say」は不穏で冷たいリズム隊の反復を聞き続けるタイプの曲なのにギターソロやノイズパートのカタルシスは凄まじく熱いです。これは前身(の更に前身)である90 Day Men時代から変わってなくて本当に良い。90 Day Menは自分のオールタイムベストとも言えるポストロック/ポストハードコアバンドで、そのメンバーが未だ延長線のサウンドを追求し続けている事実、そして90 Day Men自体も今年からNumeroで再発が始まり新しいファンがアクセスしやすくなったのも嬉しい。この90s末期~00年代の水面下でのハードコア→ポストロックの実験性は今のサウスロンドンともかなり呼応すると思ってます。

 

Model/Actriz - Dogsbody(2023)

Model/Actriz、こっちもヤバすぎる新譜で全身武装したメタリックSucideとでも言いたくなる劇的ポストパンク。ダンスミュージック的なボトムの太いリズム隊の反復でひたすらループしていく、しかしディスコパンクのグルーヴとはまたちょっと違ってそこからは切り離された、むしろにせんねんもんだいのdistination tokyoに通じるものがある。こういう冷たい機械的な反復ビートとバンドサウンドの肉感が融合してるのはとても好きだし、ギターは完全にノイズマシンと化してしまってるのも最高です。

 

Shame - Food for Worms(2023)

Shameの新譜。リリース時一度聞いて終わってたのを再び聞き返したらB面でまるで印象が変わりました。やっぱり聞き込みが浅いと最初数曲のイメージでアルバムが固定されてしまうんですよね。結構カラフルでポップなイメージがあったというか、1曲目からメロディーは豊かだし2曲目の「Six-Pack」はレッチリじゃんとか思ってたんですが、全体的にメンバーのコーラスを多用していてそこに70sの初期パンクやハードコアとかを連想した。実際1stリリース時ポストパンクとか言われてましたがライブパフォーマンスはかなり熱くパンキッシュなものだったのでそれは納得、しかし今作はライブの熱さを反映したアルバムではなく、抑制してアンサンブルを練っていったようにも感じていて、スローペースでアコースティックギターの響きもコーラスワークも全てが美しい「Orchid」を節目にB面からはどこに向かっていくかわからん、「The Fall Of Paul」「Different Person」など変幻自在の曲が続いていてとても楽しい。節々を切り取るとポップなんですが、そことそこをくっつけるのか?と言いたくなるような、付き纏うダークなトーンはInterpolを解体してランダムに継ぎ接ぎしてったような印象もあって、更にギターに少しエモのフィーリングも感じる。毎日聞いてます。

 

People In The Box - Camera Obscura(2023)

People In The Boxの新譜。これは事件級でしょう。まるで意味が分からない曲しかないんですが、プログレのような、1曲に情報量を詰め込みまくっているのに聞きやすさがあるのは異形な怖さがある。曲タイトルが直球なのも怖いです。「DPPLGNGR」はビートが渦を巻くIDMのようなイントロに本当に痺れ、このループで攻めてくのかと思いきやそんなことはなく、美しいオルガンのフレーズといつにも増してノイジーなギターサウンドの対比がかっこよくて仕方ない。しかし何度聞いても全体像が掴めないというか、マジでわからんなというアルバムで、それは自分は音楽について語るときって今までの体験を振り返って、その中から近いシーンやアーティストを重ね合わせて浮かんだ言葉を手繰り寄せてしっくりくる形で再出力しているんだと思う。つまり、源泉が無いと成り立たないのですが、People In The Boxに関しては比較対象とできるような音楽や体験や言葉が自分の中に全く見つからない。完全に無添加な状態でポンと体に入ってくるので混乱してしまうというか、ある意味一番純粋に音楽を聴ける体験なので、それを提供してくれるアーティストがリアルタイムでいることに感謝したくなる。kodomo rengouのような不穏な歌メロ、シンプルにリズムのズラし方とかリフの鋭角さが非常に好みな、しかも解体しながらもサビにあたる部分はキャッチーでカタルシス満載な「スマート製品」、ジャリジャリとした透明感もある瑞々しいアコースティックギターをかき鳴らすイントロ、美しいコーラスを繰り返しながら頭にメロディを浸透させてバンド全体でカタルシスに持ってくのはちょっとWall Windowも思い出す「水晶体に漂う世界」がとくに気に入ってます。

 

Cwondo - Tae(2023)

butohesのライブの対バンで見たのですが衝撃でした。新譜素晴らしかった。前作の「Coloriyo」はエモを切り貼りして電子音楽のトラックの一つとしてシーケンスに組み込んだバンドバージョンのエレクトロニカのようなイメージでしたが、それを更に解体しまくっている。なんかビートの歪め方が、ライブでのアドリブ的に曲を破壊して再接合してくスタイルをそのまま音源に封じ込んでるようにも思えるし、全ての音が揺れてて不安定な足場を飛び移ってるような気持ちになります。声が完全にトラックの一つとして処理されてるのにメロディーが良いのもすごい。

 

Pharoah Sanders - Tauhid(1966)

旧譜。本命というかここ3か月はひたすら彼の作品を聞いてました。スピリチュアル・ジャズの大御所で一昨年Floating Pointとアルバムを出してたのも記憶に新しいけど、今作は1stにあたる66年作。クラブ・ジャズの流れでスピリチュアル・ジャズに注目がいって再評価されたらしく当時は今ほどレジェンドではなかったようだけど、本当に凄まじい内容でリリース年を二度見しました。ジャズについて知らないことまだまだたくさんあるんだなというのを実感させられたし、電化マイルスやプログレサイケデリック・ロック以前にこれがあったという事実にただ驚く。1曲目から16分と長尺で、即興的なジャズ・セッションとはちょっとイメージと違う、これは、最初から設計されたような、一つのコンセプチュアルな世界を作っているかのようなサントラっぽさもあるアルバムで、静謐の中から少しずつ音を添えて世界を彩る。10分近くあるこのイントロから終盤になって徐々にフレーズが絡み合い、ドラムとパーカッションが隙間を埋めるように重なり合った心地の良い音のループが後のアフリカへの接近も感じさせる要素であまりにも極上。一生聞けてしまうこの反復から、最後ドラマティックにサックスが嵐のように吹き荒れるところはいかにもファラオ・サンダース節でありながら、とにかくこの体の奥底から振り絞ったような音に強く心を揺さぶられてしまいました。

彼はジョン・コルトレーンアセンションにも参加していて、コルトレーンの弟子的なポジションだったようですが、今作はコルトレーン代表作「至上の愛」を彼なりの方向性に舵を切ってやりすぎなくらい推し進めたようなアルバム。元々コルトレーンは至上の愛が最も好きなので、この作品をきっかけに自分の聞くべき指標が一つわかったような気がした。Japanって曲もあってこのオリエンタルな空気感も彼のルーツが出てるような気がするし、ここから辿ってスタジオ作品はほぼ全部チェックしてますがその都度衝撃を受けていて、一アーティストのアルバムを掘り進めることが心底楽しいと思うのはいつぶりだろう。

 

 

Herbie Hankock - Mwandishi(1971)

元々ジャズは電化マイルスから入ってそこから大御所に繋いでいったのですが、やっぱり電化マイルスがベストなのでポストロック的な繋がりからもそのレコーディングに参加した面々を聞いていった経過があり、中でもとくにハービー・ハンコックの「Empyrean Isles」「Maiden Voyage」辺りのモダンジャズ期が僕のフェイバリットでした。で今作、ファラオ・サンダースをきっかけにジャズ関連の記事を漁っていた中で見つけたDr.ファンクシッテルー氏のこちら

ディスコグラフィだけでなく通した読み物として非常に面白くて、そして本筋であるファンクやフュージョンとは別に、僕はこの中にあった「Mwandishi」に強烈に惹かれた。マイルスのBitches Brewに影響を受けて自分なりに再編したような、ただBitches Brewにあったエッジィなリズムのメリハリ感はなくむしろ浮遊感溢れるループの心地よさはファラオ・サンダース的なスピリチュアル・ジャズの系譜を感じてしまったし、これが超良かった。実際売れなくて路線変更のきっかけになってしまった作品のようですが、今の自分の視点だと正直ファンク化してからよりも好みでベスト級でした。

 

そしてこちらファラオ・サンダースから辿ってるときに見かけた記事で、

面白すぎた。文化の背景もわかるしどのようにシーンが浸透していったか丁寧に経過を辿っていて、時代と共にジャンル名が変化してく流れとかもこんなに鮮明に記録された記事を読んだことあんまり無いかもしれません。