朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

邦楽オールタイムベスト③

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前回前々回から続きます。


 

NUMBER GIRL - SAPPUKEI(2000)

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スタジオ盤で選ぶのならこれがベストかなぁ。久々に聞いてもやっぱりよくて、割とナンバガってスタジオ版よりライブの方が聞きやすくてオススメって話を見るしそれにも納得なんですが、あくまでそれはSCHOOL GIRLS DISTORTIONAL ADDICTが入門としてよく勧められる背景がある気がします。とくにSAPPUKEIはデイヴ・フリッドマン録音によってライブでは聞けないダイナミズムも多々あるし、とくにRapemanとかを思い出す拡散しまくった金属的ノイズとダブ処理が結び付けられてる感じは唯一無二。向井秀徳が彼に惚れ込むきっかけとなった破壊的ドラムサウンドは勿論、U-REIやABUSTRUCT TRUTHでのポストパンク由来のダブ~レゲエ通過のハードコアコーティングとも言える曲はいま聴くとベストだなと言いたくなってしまいます。

あとやっぱ歌詞と本格的に出てきた冷凍都市との対峙、そしてジャケが醸し出す世界観がたまらないですね。地方から出てきたときの孤独や焦燥感と言った閉鎖的感情が部屋で録ったような生々しい録音で「孤独主義者のくだらんさ」を歌うのはどこか一人暮らし感も想起するし、これに"殺風景"を名付けるのは余りにもかっこよすぎる。タイトル曲であるSappukeiの静と動の行き来も内面的な感情の動きを感じてエモーショナルになってしまう。やっぱり名盤。

 

uri gagarn - (untitled)(2004)

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group_inouでボーカルも務めてるフロントマンによるバンドで、実は自分はinou経由で知ったのですがそんなuri gagarnの1st。自分の大好きな90s以降の海外のアンダーグラウンドシーンを完全に消化し受け継いでいるバンドで、かつて全く予備知識なくライブを見て大きな衝撃を受けました。北海道ハードコアシーンやナンバーガールに憧れていたとのことで確かにあの辺と近いルーツであろうオルタナ~ポストハードコアの空気感かなりありますが、異常に緊張感というか不穏な空気を漂わせていてSonic YouthUnwoundと言ったバンドと比較されることが多いですね。ただ両者程に実験的な要素はなくあくまでジャンク~ノイズ要素の強いインディーロックという感じで聞けます。

個人的にuri gagarnにはハードコアバンドが徐々にポストロックへと深化していくその途中経過ともいえる音に近いものを感じていて、SlintやRodan~Shipping Newsといったルイビルのポストハードコアやスロウコアを強烈に思い出すシーンも多々あったり、Bedhead+A Minor Forestとも言える一曲目「Mutant Case」のイントロから溢れ出るスロウコア感、そこから徐々に狂っていき狂気的なノイズギターソロへ飲まれる様はグランジとかUSインディーとかが好きだった当時の自分には劇薬でした。一曲目で衝撃を受けたアルバムを挙げろと言われたら間違いなく上位に食い込みますね。

 

クラムボン - id(2002)

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普段あまり聞くタイプのバンドではないんですがこの時期のポストロック三部作である「id」「imagination」「てん、」は全部好きで、そん中から一枚挙げるとなったら今作。最初にハマったきっかけは音楽性よりもスリーピースバンドとしてのスタンスとか精神性にあって、1st~2nd辺りはすごくポップでシンプルな歌ものジャズロックという感じだったけど実際ルーツはバラバラの三人がストイックにやっててメディアや世間のイメージとはまるで違う内情があったらしく、インタビュアーと嚙み合わないことが多々あったというのに魅力を感じたりしてました。

でバンドとしても、アルバムを重ねる中でのマンネリ化を嫌ったらしく4th~6thのポストロック三部作もたぶんそういう流れだろうし、その後もセルフカバー作を定期的に出したり企画物のライブ盤を出したりカバーアルバムを2枚出したり・・・と本当に我が道を突き進んでてどっから聞いても楽しいバンドですね。でid、完全にポストロックでアダム・ピアース本人が参加してるMice Parade歌謡。どっちかというともうバンドサウンドの方が後ろになってしまってて名曲「雨」では完全に打ち込み+原田郁子の歌になってるしインスト曲も多く、「Eel Restaurant」ではドロドロのダブから最後ノイズでズタズタにしてく曲で全体的に美しいのに歪と言ったこのちぐはぐな感じ今作を象徴してる気がするし、今までこうなる兆候すらなかったバンドが突然変異してシカゴ音響派に寄ったのかっこよすぎでしょうと思ってました。

その中でも「Adolescence」「道」みたいなクラムボン節のポップな歌が載ってる曲もあるしで、とっつきづらいですが一度入り込んでしまえば最高に充実したアルバム。Dylan Groupとか好きな人にも。「Charm Point」はドリーミーな空気感で疾走しててノイジーだし今聞くとオルタナとかシューゲとも近い距離で聞けると思います。

 

 

Luminousorange - Drop You Vivid Colours(2002)

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こちらもナンバーガールから知ったバンドでコンピが有名ですがスタジオ作品としての統一感ならこれかなぁ。今作アヒトイナザワ中尾憲太郎というナンバーガール譲りの強靭なリズム隊なのでシューゲイザー版の近隣作としても聞けると思います。ちなみにライブでのサポートメンバーは現ZAZEN BOYSカシオメンだったりもするので完全にあの辺のオルタナシーンの渦中真っ只中といったアルバムですね。

Pale Saintsに影響を受けて結成されたバンドとのことですがPale Saintsはもうちょっとマイルドというかマンチェスター寄りな印象があって、こっちはUSオルタナを連想するジャキっとしたちょい重めのギターサウンドが印象的。浮遊感溢れるUK譲りのシューゲイズではなくUSオルタナ~インディーロックに近い地に足がついた質感で、Dropp NineteensとかSwirliesとかあの辺の現代ギターロックへと脈々と受け継がれてそうな「オルタナティヴ・ロック」の中に内包されたシューゲイズ感みたいのをを連想してこの原初感はかなり90年代をフラッシュバックします。あと曲の尺はそんなに長くないのに展開の多い複雑な曲構成で頭追いつきませんが、全然マスロックとかポストロック的ではなくあくまで全編をノイジーな轟音ギターが覆いつくしてしまってるのが全然類似作思いつかないし、そん中でも所々印象的なキラーフレーズやギターリフが飛び出してくるのについつい笑顔になる。

 

 

キウイロール - KIWIROLL ANTHOLOGY(2008)

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廃盤になってしまったアルバムやシングルを総括したコンピレーションで実際の活動時期は90年代~04年解散。これは08年の再発で完全に僕も後追いです。バカネジという大名曲を聴きぶっ飛んだ人はかなり多いと思うし僕自身漏れなくその一人なわけですが、所謂ポストハードコアとか激情系をよくここまでキャッチーにしたなぁと思えるくらいメロディーがとにかく耳に残るし、何より今にも壊れそうで未完成のまま爆走しているような擦り切れたボーカルはまさしくエモでした。チョモランマトマトとかはこのバンドからめちゃくちゃ影響受けたんだろうなぁ。

サウンドの方ですが同じく北海道のNAHTやCOWPERSといったポストハードコアとはちと毛色違っていて全然硬質に感じないというか、ローファイのままエモに向かったLovitt Recordsって感じがして「1から10」はFour Hundred Yearsをハードコアってよりエモとして聞く人にはめちゃくちゃ刺さるはず(刺さりました)。ポストハードコアに無理やり乗っけたようなぶっきらぼうな日本語はブッチャーズも連想するし、がむしゃらなシャウトは激情系にありがちなマッチョなスクリーモ感も全く無くむしろSuperchankとかPavementみたいなインディーロックのぶっ壊れ感覚でも近いかもです。

 

 

ZAZEN BOYS - すとーりーず(2012)

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ex.NUMBER GIRL向井秀徳による現在も活動中のバンドで僕が知ったときナンバガは当然解散、てことでリアタイで追ったりライブに行ってたのはこちらで現行最新作の5th。ZAZEN BOYS、初期はナンバガで歌っていた冷凍都市問題と地続きになっていて、それ以降もファンクに接近しますが元々ナンバガでもポストパンクを経由したダブ~レゲエだったり、そもそも比較されがちだったPop GroupやGang Of For自体がファンク寄りなので、ナンバガの時よりもうちょっと奥に行ってるって感じもします。昔からプリンスが好きとのことでその辺の影響がより色濃く出ながら、オルタナ~ポストハードコア経由のお馴染みのジャキジャキのギターサウンドやノイズが挿入されるという本当にかっこいいバンドでした。それでも全然ミクスチャー的な色が出ないのもすごかった。

で今作、集大成にしてしかもポップという本当に隙のない名盤。「サイボーグのおばけ」「ポテトサラダ」は今まで通りキメも多様しつつとにかくユーモラスな歌詞がファンキーな曲調の中でハマってくお馴染みのナンバーですが、個人的にライブで見て衝撃を受けたのが「泥沼」です。NUM-AMI-DABUTZがPop Groupの「Y」だとしたら泥沼は「How Much Longer」でしょう。あと地味にZAZENではハッキリとした歌ものをやってこなかったのが前作ZAZEN BOYS4でそれも解禁、そういうナンバガ時代からある向井秀徳の切ない歌もの路線が色濃く出たのが「破裂音の朝」ですね。これと、あとSAPPUKEIの続きのようにも思える「天狗」は普通にナンバーガール時代を思い出してしまうくらいエモーショナルな名曲。あと「はあとぶれいく」もポップで聞き流せるけど夜中にギター持った向井さんがセンチメンタルに弾き語っている姿が想像できるような曲でめちゃくちゃゆるゆるなP.I.L歌謡というようなものになってます。

こういう今まで通りリズムでキメていくタイプの曲とキャリアを総括するレベルの壮大な名曲が全然違和感なく並んでいて尚且つ全体的にポップ・・・という、個人的に文句無し最高傑作と思っていて、もう8年以上リリースされてませんがぶっちゃけこれ出したらしょうがないかもという気持ちもあります。それでも聞きたいけど。

 

 

People In The Box - Ave Materia(2012)

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People In The Box、今聞くと代表作でもある前作Family Recordはマジで歴史に残るレベルの名盤だなとなるんですが、このバンドもこれという一枚を決めるのが非常に難しく当時一番ハマっていたAva Materiaを。残響出身だしマスロックとして語られてる印象ありましたが今作はストレートに歌もの要素が強くて聞きやすくて好きでした。

そもそもマスロックと呼ばれて連想する色々なバンドとPeopleを並べても違和感しかないし完全に影響だとか横の繋がりだとかを語る文脈から切り離されたバンドだと感じるし、18年作のkodomo rengouのインタビューで波多野さんは作曲の際に自分の聞いてる音楽からの影響を"封印"できると言ってるんですよね。残響のオーナーが言うには"相当ヤバいディガー"である波多野さんがそれを封印し純粋に作ってるっていうのがこの無添加な得体の知れなさというか奥が見えない音にとてつもなく説得力がありました。

今作歌ものが多いということでやっぱどうしても歌詞に目が行っちゃう作品で、"ゆうべ からだを売ってみたんだ こころを切り離すために" "絶対にからだから逃げられないと知った君は おかしくなってしまった"というおぞましい歌詞がこれでもかというくらい優しくポップな曲調で歌われるのは今まで以上にファンタジックな世界の皮を被った現実との対面という色がある気がして、歌詞と連動して二転三転してく演奏も相まってもうこれはプログレの域に突入してると思います。

で今作何が好きだったかと言うとFamily Recordではまだマスロッキンな曲が多く残響と接続できるのもわかる感じだったのが、アコースティックの色がぐっと増してて、曲の展開も複雑っちゃ複雑なんですけど歌が乗るところは割とシンプルにメロディーを聞かせるようになってていつも以上に温もりを感じて聞きやすいです。僕はどことなく、それこそ「時計回りの人々」「球体」からは箱庭の中で気づかぬ内に徐々に首が締まっていくような印象を受け、それが今まで以上に牧歌的で優しい音で紡がれているのが本当に"内側で鳴ってる音"という気がして、結構オウガのhomelyとかとも近い作品という感じがしました。

 

ASIAN KUNG-FU GENERATION - ファンクラブ(2006)

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アジカンで今でも一番聞くのなんだろうなと考えたところファンクラブで、定期的に聞いて影響を受けてる気がします。高校生のときは「桜草」とか「真冬のダンス」みたいな割と身近に感じれる虚しさが漂うポップソングみたいのが好きだったけど、この年齢まで積み上げてしまったものありきで聞くと"慌てなくたっていつか僕は消えてしまうけど""そうやって何度も逃げ出すから何もないんだよ"という1曲目の歌いだしからぶっ刺さってくるもんがあり「暗号のワルツ」がめちゃくちゃフェイバリットになってしまいました。

てわけでいつ聞いてもどっかしらハマるとこがあるアルバムで最後まで暗いムードが漂っていて、音楽性も初期のギターロックのフォーマットからは抜け出して所謂ポストロックやディスコパンクに近づいたと言われてる時期ですね。

前々からゴッチが「影響を受けた」「大好きだった」と語るバンドがそこまで反映されてるのか?というインプットとアウトプットのちぐはぐさがあったと思ってますが、実際初期はやりたいことよりも今の自分達のできる範囲でどれくらいかっこよくできるかを目指したと言ってた気がするのでそれは仕方がないのかもしれないし、そもそもゴッチの趣味が90年代頃とそれ以降どんどん変化してる気がします。それこそKANA-BOONと言ったハッキリと影響を公言して売れたフォロワー勢とあまり交流せずceroとか森は生きているとかスカートとかあの辺をフックアップしていたりとか、で実際それがアジカンの音と近いか?と言われるとやっぱり違って、ゴッチも初期の頃にできてしまったアジカンのフォーマットとやりたいことのズレの中で試行錯誤してたのがこの時期なのかな・・・とか思ってしまうし、その挾間で生まれたのがファンクラブなのかなという気もします。

音楽性については死ぬ程内容について語られてると思うし、あとはもう空白依存症の記事(ASIAN KUNG-FU GENERATION『ファンクラブ』(2006年): 空白依存症)が完璧なので今作が好きでまだ読んでない方は是非読んでください。僕はこれに多大な影響を受けました。あとどの曲も本当にドラムがかっこいいアルバムでワールドアパートとかブルートレインは今聞いても凄まじいですね。


 

終わりです。本当のルーツでありベストでもあるアジカンとかあの辺の00年代ギターロックについて書くのになんかすごく抵抗がありますね。次はpillowsかな・・・