朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography③ Slint以降のポストロック~ポストハードコア

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SlintやJune of 44と言ったハードコア→ポストロックへの変遷を経てく内に生まれた、スロウコア/マスロック/ポストロックそのどれにも区分できそうでできなそうな立ち位置のポストハードコアバンドを「Slint以降」として好きなアルバムをまとめていきます。実際にSlintに影響を受けてる受けてないに関わらず同時代性の強いものを。


 

A Minor Forest - Inindependence(1998)

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サンフランシスコ出身、メンバーは後にPinbackのツアーメンバーとしても参加したりシカゴ音響派とも近い33.3というバンドで活動するポストロックシーンの重要バンド。スロウコアを基調にしながら静→動とハードコアへと爆発させるSlint~June of 44などルイヴィルの血脈を感じさせますが、それら影響元と比べてもより長尺で爆発パートがやりすぎなくらい爆発させてたりと、その後って感じのする極端なカオティックさがすごく良い。またバースト後も長尺な間奏から所謂インスト系のポストロックとしても聞けそうな凝った展開が多くて、静パートもエモとかと遜色なかったりするのでかなり多彩。一応代表作は1stでこちらは2ndなんですがこっちのが好きです。1stはもう少しスロウコア寄りなので確かに聞きやすいかも。

 

A Mionor Forest - ...So, Were They in Some Sort of Fight?(1998)

A Minor Forest – So, Were They In Some Sort Of Fight? (1999, CD) - Discogs

3rdていうよりはコンピレーションのようですが解散前のラスト作で、まぁ本当にごった煮でストック音源全部ぶち込んでやったみたいな勢いがありアルバムとしての統一感はゼロですが、「Cocktail Party」「Well Swayed」は1stと2ndで突き詰めたスロウコアからハードコア化していく、もしくはスロウなハードコアともとれる系列の完成形と言えるほど洗練されててめちゃくちゃかっこいい。この路線で行けるとこまで行ってしまったような気もするしこの辺のジャンル好きなら間違いないです。と思いきや地下室で録ったようなローファイなインディーロックっていうかデモ?や土臭いフォーキーなアコースティック路線、唐突にやってくる謎のディスコなど文脈をぶった切っていて、整合性は考えられておらずまさしく混沌。

 

Lowercase - All Destructive Urges... Seem So Perfect(1996)

All Destructive Urges...Seem So Perfect | lowercase

Slintの系列で語られがちなジャンクロック/ポストハードコアバンドの1st。確かにSlintっぽさありますが静→動の対比はほとんどなく、いやなくはないけど静パート的なところもジャンクな録音に塗りつぶされてしまい常に狂気が充満してます。まるでデモ音源かと思うような音質の悪さ全てがプラスにしか働いてない、全身傷だらけなノイズまみれのポストハードコア。いつ崩れ落ちてしまうかわからない危うさもあり常に不穏です。ミディアムテンポで叩きつけるようにリフを繰り返しながらガシャガシャと全パートが衝突しバースト、捲し立てるようなドラムもどこか焦燥感があるしボーカルがのたうちまわるようにシャウトを撒き散らすの怖い。あと意外とメロディーが良くて1曲目のAs Your Mouthとか枯れたボーカルと荒れまくった演奏の対比が美しさすらあるし、Sometimes I Feel Like A Vampireは基本的に1フレーズの繰り返しですが、これもメロディーの良さからキャッチーにすら聞こえ2nd以降の路線が割と見えてくる。

 

Lowercase - Kill The Lights(1997)

Kill The Lights | lowercase

前作の路線を推し進め相変わらずスローテンポですが、続けて聞くと驚くくらい音質がクリアになっていてだからこそノイズパートとそれ意外の対比が激しくなりグッと聞きやすくなった。でも彼らのノイズパートって所謂ポストハードコア的な硬質なものではなく、今にも飛散してってしまいそうな不安定で地を引きずってボロボロになったみたいなノイズで、これは前作のジャンクな録音ならではなのかと思っていたけど今回も変わらないんですよ。そしてそれが、本当にとてつもなくかっこいい。狂気をコントロールしてるようにも思える1曲目「She Takes Me」から凄まじい緊張感で、メロディアスなおかげでこんだけ重くても割と聞きやすく、最初聞いたときかなり衝撃を受けこのままbandcampで全音源購入するに至った。「Neurasthenia」に関しては途中から音を減らし静謐な闇へと潜っていくのでこれはSlint的な路線としても聴けるし、ちゃんと次作に繋がります。ちなみに1st2nd共にジャンクロック名家Amphetamine Reptile Recordsからのリリース。今更だけど1stはすごくAmphetamine Reptile的だなと思う。

 

Lowercase - The Going Away Present(1998)

Lowercase – The Going Away Present (1999, CD) - Discogs

そして3rd、より音数を絞って隙間のあるアンサンブルが主体になっていて、長尺で凝った曲も多くSpiderland的なのはこちらでしょう。むしろSlintよりしっかり歌があって、枯れていて諦念まみれな歌はそのまま音数を減らし素っ気なくなったアンサンブルとの組み合わせがかなり良い。開幕「Floodlit」からギターの音色もボーカルもより抒情的になっていて、スロウコア~フォークロック的な風情を漂わせてますが、後半絶妙に爆発"させきらない"加減で攻めてくる。この煮えきれなさ、やはり不穏なLowercase節を垣間見せてくるんですがたまらんですね。「The Going Away Present」に関しては普通に聞きやすくてくたびれたインディーロックみたいになってるし、最後の「Thistrainwillnotstop」はSpiderland以降のイフのSlintとしても聴けそうな、ノイズ要素を捨てなかったThe For Carnationみたいな雰囲気があってこれも好きです。残念ながら最終作でこのあと解散。

 

90 Day Men - 1975-1977-1998 EP(1998)

1975-1977-1998 | 90 Day Men

ポストロックの文脈でも語られる90 Day Menの初期EPにしてマスロック寄りポストハードコアに歌を乗せた、というJune of 44好きとして個人的に間違いないアルバム。ジャンクでささくれだったギター音とマスロックを想起させるリフを断片的に見せながら、マスロック程キメや展開を重視せずに真っ当にポストハードコアをやってるという感じで、変幻自在に動く鋭角リフの中で進行していくのがめちゃくちゃスタイリッシュです。そしてB面では後のフルアルバムで見せる実験性もガンガン見せてくる。最後の「Hey, Citronella!」は今作唯一の六分超え、荒廃した空気を漂わせながら一度音をそぎ落としてドラマティックに静→動へと流れていく、次作へとしっかりと通じる大名曲。90 Day Menのアルバムの中では最もストレートに熱さを感じることができる作品だと思います。

 

90 Day Men - (It (Is) It) Critical Band(2000)

90 Day Men – (It (Is) It) Critical Band (2000, Vinyl) - Discogs

名盤。先ほどに続きこちら1stフルでSouthern Recordsよりデビュー、KarateやJoan of Arc、RexにSweep the Leg Johnnyなど近いフィーリングのバンドが多数在籍していたところで、個人的にハードコアからポストロックへの変遷を辿る上でTouch and Goと並んで外せない重要レーベルだと思います。まだハードコアの延長感の強かったEPからもう少し進み捻れてジャンクだったギターはもう少し音を絞ってより冷ややかで硬質、フレーズを聞かせるようになり、長尺の曲も増え更に凝った予測不能の曲展開やジャズ色も出てくるし、構成の妙やインプロっぽいさからもDon Caballero〜Rumah Sakitと言ったマス/ポストロックバンドもチラつく。あとこちらもよく引き合いに出されますがKing Crimsonっぽさもありますね。

ピッチフォークや海外wikiではSlintやJune of 44と比較されていることからそう言った要素も強く、「Dialed In」「Jupiter and Io」では不穏に渦巻いていくセッションの中でスポークンワーズが乗り影響を感じずにはいられない。特にベースラインがやりすぎなくらいうねっていてこれが曲の主導権を握りなが渦巻いていくところは非常にJune of 44的だと思います。「Missouri Kids Cuss」はかなりストレートな曲で最終的にはノイズで全部塗りつぶしていくところがカタルシス満載、直球のオルタナでこちらも大好きな曲です。フロントマンであるブライアン・ケースはThe 90 Day Men解散後Sonic Youthのスティーヴ・シェリーらとDisappearsを結成したり、現在はFACSでポストパンクをやっていますが彼のキャリアでも最も好きなアルバムはこれかもしれない。

 

90 Day Men - To Everybody(2002)

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前作の作風とまるで違い続けて聞くと1曲目のイントロからかなり衝撃度高いでしょう。より生々しい録音で狭いハコに押し込みながらもオルガンを全面に押し出し不穏で壮大な世界を広げていく。ほとんどの曲がスローペースになっていて、この徹底的に生音に拘ったようなドラムやギターの質感から密室にぎゅっと押し込められてしまったような、スケール感のある演奏と相反した音響がとてもポストロック的で一瞬で虜になる。今までの変則的ながら割とギターがメインのバンドとして聞いていた自分としてはかなり実験的に聞こえてくるし、今作はクラシックに影響を受けたとのことですが、そもそも彼らのことをポストハードコアとして聞いていた自分は最初から誤解してたのでは無いかとすら思う。ちゃんと地続きなんですよ、地続きなのに全くの別物になっている。オルガンが多いのもありますが陰鬱なボーカルもより深みを増していて、耽美な質感も出てきて後期Blond Redheadやゴスとも近い距離感かも。それこそ海外レビューではSpiderlandと引き合いに出されてましたが、個人的には全くの別物、完全に独自の世界観ですね。

 


 

 


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発端となったシーンについて。本当にこのシーン周辺が好きです・・・。