朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

pärk


pärkというタイトルで本を出します。昨年2023年の6月から描いてきたイラストと、それに関するセルフライナーノーツ、巻末に私的スロウコアガイドという題の音楽ZINEが付属した122ページの同人誌です。コミティア147で頒布します。

イラストはpixivアカウントを貼っておきます。ここに上がっているもの+描きおろしが数枚あります。表紙になっているparkというイラストに関しては暗すぎて印刷する際に黒ベタっぽくつぶれてしまうらしく、仕方なく数段階明るくしコントラストを強くしたものを新しく収録しています。元々自分が描きたかったものとは大分印象が変わってしまうため、本来見せたかったものを先にpixivに公開しました。


私的スロウコアガイドに関してですが、ここ数年ブログ内で触れるアルバムにスロウコアと呼ばれるジャンルのものが非常に多くなっていて、一度まとまったものを提示したいと考えていたのがきっかけです。140枚+番外編で30枚ほどチョイスしています。自分自身、一つのジャンルで括った個人の選盤を見るのが好きで、そのカテゴライズ自体がその人のルーツや個人史が見えるものであったり、また自分にはなかった視点を知ることでより豊かに音楽を聴けるようになると思っています。今回出させていたくZINEは、本来ディスクガイドに求められるジャンルをや歴史を網羅した幅広いものにはなってないと思います。一人で選ぶことで「ここまで偏るのか」と思わせてしまいそうな、所謂マイベスト的なものですが、焦点を絞ったことで枚数は少ない分通して読んで一貫したものはあると思うし、このブログで普段取り扱っているアルバムに少しでもシンパシーを感じた方は楽しめる内容になってると思います。また近年愛読していたブログやメディア等が読めなくなってしまいショックを受けることが年々増えていて、好きなものをどう残していくか、フィジカルで触れるものに対する執着が強まっていたのも深く関係しています。

そして番外編の方ですが、Quarterstick Records、Southern Records、10年台後半Windmillから広まったサウスロンドン、Zum Audioについてそれぞれまとめたものになります。Quarterstick特集では、朱莉TeenageRiotで幾度となく触れてきたJune of 44やRodanといったルイビルシーンに端を発するポストロック前夜のバンド群を掘り下げたもので、記録シリーズ(記録シリーズ:Rodan / June of 44 - 朱莉TeenageRiot)のようにディスコグラフィをまとめたものではなく、スロウコアガイドとして関連性の深いものをチョイスしています。Southern特集では主にSouthern Records内のオブスキュアなスロウコア各種が昨今Numero Groupによって続々と再発されているため、レーベルで括ることでレーベル内の他の愛聴盤も巻き込みながらまとめました。網羅的なものではなく、あくまで個人でおすすめしたい選盤となっています。スロウコアとシンパシーを感じながら、しかしスロウコアと一口で括ることに違和感を覚えるアーティスト達を、本編とは線を引きたかった気持ちが強くあったため「番外編」としました。

サウスロンドンに関しては番外コラムとしての色が強く、アルバムガイドですらありませんが、ここ数年シーンを賑わせたdeathcrashやBlack Country, New Road(以下BCNR)といったバンドの90sスロウコア~ポストロック前夜と重なる音楽性、そして本人達もルーツとしてこの時代のバンドの名前を挙げていることから、ここ数年非常に楽しく聞かせていただいてるシーンになり、そのバンドを聞く上での自分の主観を可視化させたような記事になってると思います。deathcrash、BCNR、black midi、そしてこのブログで触れてきたTouch and Goの面々をたくさん並べていくもので、あとは昨年12月に来日したdeathcrashのライブレポートも記事中に掲載しています。

元々自分がスロウコアというジャンルに傾倒したのは2020年以降、コロナ禍によって生活が大きく変わった中でのことで、このブログを始めたのも丁度その頃。そしてイラストを描き始めたのも全く同じ時期で、ある意味2020年以降の自分の総まとめとも言えるものになりました。イラストのセルフライナーノーツは半分絵の解説、半分日記といった内容で、日常体験と重ねながらどうしてそのイラストを描いたか掘り下げていきます。自分にとって音楽に関する文章を書くことも、絵を描くことも、そのとき美しいと思った瞬間や心を強く動かされた瞬間を忘れたくなく、保存しておく行為であり、それを誰か他の人におすそ分けしたいという気持ちがあるからです。脈絡のないやりたいことを詰め込んだような本作ですが、自分の中では一本線で繋がっています。どこかしら琴線に触れた方、面白そうだなと思ってくれた方は手に取っていただけると嬉しいです。イベント終了後に通販も予定してますので、それ以降にまた告知記事を出そうと思います。

 

※出しました

kusodekaihug2.hatenablog.com

Squid 渋谷WWW X

11月27日、渋谷のWWW Xにて行われたSquid来日公演に行ってきました。今年聴いた新譜の中でも特に聞き返すことが多く、下半期聴いていた音楽も彼らのアルバムやインタビューを見て影響されたものが多かったので一つの締めのような気持ちもありました。見た直後にSNSにて衝動的に感想を連続で投稿したのでそれをまとめて再編集、加筆したライブレポになります。

Squid。元々公開されていたライブ動画からもドラムがボーカルを担当し他4人のメンバーは曲ごと、もしくは曲の途中でも楽器を持ち替えコーラスやボーカルまで変更しながら演奏するスタイルで、やはり生で見ることで音源だけでは気づけなかった箇所など再発見がとても多く、どの曲でも練られた交錯するリズムとミニマルな反復を主としたグルーヴ重視のものが多いのもあり、視覚的にも身体的にも非常に楽しい。音源の時点で予想はしてましたがすごくライブバンドで、その日のモードもすごく演奏の色に反映されそうだし、これを現地で定期的にライブに通える人たちが心底羨ましくなってしまいます。

入場して開幕のSwingからすでに他曲ではベースを弾いたりしているローリー・ナンカイヴェルがホーンとパーカッションによる参加で、低音はおそらくシンセが担当、そしてローリーは曲の中で楽器だけに捉われず機材をいじっている時間もすごく多いし、そもそも彼の後ろにベース及びギターが3本立っていることからもそれは象徴的。曲によってはツインギターの片方がベースを弾くこともあればメンバー3人が機材をずっといじっている場合もあるし、彼らはポストパンクと呼ばれながらもそれをやっているつもりはおそらく無く、というかこの自由奔放なスタイルは音楽におけるあらゆる境界を縦横無尽に、いや彼らは境界を認識すらしていないのかもしれない。僕はどうしてもファンクバンドとして聴いてしまうというか、強烈なファンクネスを感じるGSK〜Narratorの流れは本当に心の底からぶち上がって体を揺さぶられてしまった。元々Squidをきっかけに今年の下半期はずっとファンクの旧譜を漁っていたので、改めてSquid新譜を聴いていた6月から数ヶ月を自分なりに導線を辿って何周かした上でそれを再確認するような体験でした。しかもより肉体的な、バンドの動きを目前で見れる生演奏を通して今年の自分の音楽体験の原点に立ち返るような感じで、実は同日渋谷にてAlex Gの来日講演も行われていて特に新譜は昨年死ぬほど聴き倒したため直前までとてつもなく悩んだのですが(今でも見れなかったことを少し悔しく思います)、それでも、やっぱり今年聴いてきた音楽や今の自分の傾向を考えると(Pot-pourriや5kaiのライブに通っていたというのを考えても)Squidを見たかったという気持ちが勝った。各メンバー楽器を持ち替えながらもずっと中心でドラムボーカルに徹するオリー・ジャッジも凄まじく、溜めと緩急のあるシャウトを所々挟むボーカルが生で見るとまさに一つのビートを生む打楽器みたいで、そこに強烈にファンクを想起させられてしまう。Sly的というか。演奏しているドラムではシンプルな縦ノリの中でもボーカルが強烈に左右に振ってくるというか、これ自身がグルーヴの一つの肝になってるのも実感させられました。

PaddlingやPeal St.と言った1stにおける高速ナンバーはハードテクノ通過後のNeu!とも言えるスタイルで、どの曲もアウトロでアンビエントみたいな残響パートを途中からアレンジして次の曲のイントロのシーケンスと同期してくスタイルもインプロとはまた別の、まるでNeu!がジャズやファンクに転向して半電子音化した異形のジャムバンドという感じ。この曲間のパターンもその時々のメンバーのモードやセトリによって変わりそうだし、やはりライブに通いたいなと思わされてしまう。あとすごく印象的だったのが2nd収録のUndergrowthで、Swingでも思ったのですがライブで見るとホーンの存在感が数倍になるくらい曲のど真ん中に鎮座していて、音源と変わりなくても視覚的な印象や単純に音量だったり、それ一つの要素で自分の聞く姿勢がそっくり変わってしまう楽しさがありますよね。Undergrouwhはもうとにかくこのじわじわと弱火で熱していくような、ねっとりとしたグルーヴがホーンのインパクトのおかげでよりジャズやファンク的に聞こえ、スロウペースでリズムを形作るフレーズのミニマルさを保持しながら、各パートが展開を見せ拡散してくバンドを一度全て収束させるシンセによる切り返しもキメとして恐ろしく決まっている。生で見ることで本当に曲のイメージがガラリと変わるし、この曲のアウトロにおける重厚なドローンノイズによるジャムセッション的なパートもライブで超進化してました(セトリを見るに別の曲名が与えられていた)。

ファンク的、とは言いましたがそれはあくまで自分の聞き方/楽しみ方であって、反復ではあれどファンクやテクノのように踊らせるためにやってる感じはあまり無く、むしろ共通したリフやループを曲の中でそこまで使い回さず一方通行でどんどん上から展開してくのはジャズとかプログレ的だとすら思います。曲ごとに体制を変えながらもSquid足りえるのはやはりこの弾力たっぷりのギターリフのセンスとドラム及びそれを牽引するボーカルで、好き放題やりながらも一貫したものをずっと感じるのはこの全部一本筋を通す針金のようなバンドの芯も正面から見ることができてとても楽しかったです。

以上でした。セトリを再現したプレイリストを貼っておきます。

プレイリストまとめ

2021年9月から毎週10曲入りプレイリストを作り知人間で交換し合うというのを習慣的にやっていて、2年以上続けてく内に100本を超えてきたのでとくに気に入ってるものをまとめました。

元々TURNなどで知られるライターのtt氏(ttの記事一覧|note)がツイッターで一時期毎日のようにプレイリストを上げていて(最近は毎日というわけではありませんが週2~3以上をキープ)、自分とは違った世代、音楽観から選出される個人の感覚による文脈の接続、選曲を見るだけでも聞きなれた楽曲に違う角度が生まれたり個人史も見えてきたり、内容やその習慣自体にすごく影響を受けました。自分で音楽を掘ったり探したりする余裕がないときにも重宝させてもらっているし、サブスク特有のサジェストも勿論便利ですが、作風がまとまりすぎてずっと流していると食傷気味になってしまうことも時折あるのでそういうときにもかなりありがたい。ふとした時に新しいプレイリストがある安心感、流しててアンテナに引っ掛かったものが新しいきっかけになったことも数え切れないほどある。完全に真似事で始めた習慣ですが、自分はこの音楽をこういう聞き方をしている、という一つの目安にもなるなと思えたのが面白かったです。


 

今年行ったPot-pourri×DJまほうつかいの素晴らしいライブイベントに触発され帰りの電車で作ったプレイリスト。DJまほうつかいの西島大介先生は漫画家であり、中でもIKKIで連載していたディエンビエンフーという作品が僕はすごく好きで、ベトナム戦争のドキュメンタリー漫画なのだけどそのサントラをイメージしながら作りました。Pot-pourriのKankitsuはライブで披露されディエンビエンフーの大虐殺シーンで流れている妄想をしてしまったし、会場BGMだったDeerhoofもピッタリだし、狂気たっぷりで描かれるベトナム戦争の怪しさと荒廃とした雰囲気は4曲目~の儚く無機質ででも叙情も残した電子音楽郡のイメージと合うなと思っている。

 

 

今年リリースされたOGRE YOU ASSHOLEの新譜「家の外EP」がちょっと遅れてサブスク解禁されたのでせっかくなので使いたいなと思って作ったプレイリスト。Neu!やCANのオマージュが入ってたりクラスターを連想させる曲があったりしたのでその辺で囲いつつ、ルーツを共有するGanger、をミッシングリンクにして同時代ポストロックとしてBattlesとか丁度新譜聞いて近いものを感じたSquidを入れてます。

 

 

 上記の流れで次の週に作った、こちらもOGRE YOU ASSHOLEが発端となって作ったもので暴動以降のSlyのリズムボックスで同期したようなミニマルなファンクネスと、三部作以降のオウガで共有できるものがあるなと自分用のメモのように作ったプレイリスト。オウガ→Steely Danゆらゆら帝国、そして同じくファンクをやクラウトロックをルーツとしつつパンク以降の流れに合流させているようなSquid、同じくパンク/ハードコア出身ながらWARPからリリースしたchk chk chk(!!!)など、時代やシーンは違えど自分の中で腑に落ちる一括りをまとめた感じです。

 

 

明らかに上二つの流れで作られたプレイリスト。次週だし。でも今回はジャンル的な括りではなくもっと感覚的に、靄掛かったオウガやフィッシュマンズと言った音楽からミニマルさを地続きにして「舟」とか「波」とか、そういうワードから連想したくなる、より風景的な音楽を思いつき次第入れていった感じです。オウガの勝浦さんがTortoiseStereolabをフェイバリットに上げていたのを作り終わってから気づいて、無意識に引っ張られていた気もする。

 

 

2022年に見たメイドインアビス二期のアニメが本当に素晴らしくKevin Penkinによるサントラを当時聞きまくっていて、そして同年リリースされていたAlex Gの新譜にも個人的に通じるものを感じそこから発展させていったプレイリスト。作中に出てくる上昇負荷という要素(戻ろうとすると体が化物に変貌したり、五感を失ったりする)と合致するAlex GのWalk Awayの逆再生っぽい演出とかAnimal Collectiveの焦点が合わないようなサイケデリックさとかピッタリだなと思って膨らませていきました。

 

 

このまま自分のオールタイムベストとして差し出せそうなくらい好みが出たプレイリスト。全編スロウコア色強いですがSundownやOffshoreやEcho,Bravoと言った途中から爆発していく曲を所々散りばめることで、全然スロウコアじゃないけど爆発的にノイジーなOvlovをクライマックスにする理由にしていたような気がします。

 

 

天国大魔境という漫画が好きなのですがアニメ化が発表され、実際に映像や音楽を見てイメージが固まってしまう前に架空サントラを作ってみようというコンセプトで作ったプレイリスト。天国大魔境はポストアポカリプスな荒廃とした外の世界と、隔離された施設で何も知らされず生活している少年少女達に焦点をあてたすごくミニマルなパートが同時進行で描かれていて、その「外」と「施設」それぞれをイメージして選びました。とくに施設側は生まれたときからそこにいて、狭い世界で世間も常識も何も知らされない様は胎内みたいだなと思っていて、Alva NotoやOval、Sparklehorse/Fenneszの時間の流れを感じないビートレスなアンビエント風味な曲はそういうイメージで入れてます。

(ちなみに実際にアニメを見て答え合わせをしたところ牛尾憲輔による劇伴は本当に素晴らしく、そして漫画はすごくAKIRAっぽいのだけどそこを汲んだのか映画のAKIRAっぽい曲とかも出てきて完全にやられた!と思いました)

 

 

上記のプレイリストの流れから知人とAKIRAのサントラがかっこいいよという話をして、KANEDAを使ったものを作ろうとしたものの中々思いつかず、祭囃子がそれっぽいNUM-HEAVYMETALLIC、直接引用しているTOKYO、吉田一郎の僕と悪手もシーケンスがそれっぽいし、LEO今井が時折見せる和の雰囲気もサイバーパンクっぽさがあるなと思って、オリエンタルな要素を言い訳にして向井秀徳人脈に流れて行った感もあります。

 

 

2021年の年間ベストが上がってくる時期に色々読みながら聞いたbetcover!!の「幽霊」がめちゃかっこよくて作ったプレイリスト。幽霊、さわれないのに、戻らない、みたいなタイトルだけで空気を共有してそうな曲が集まっていて、OGRE YOU ASSHOLE、South Penguin、Wool&The Pants辺りから香るAORやファンクをそれぞれ違う形に虚無っぽく調理したグルーヴ感にバンド毎に違う色のミニマルさがあって好きだったりします。

 

 

Pot-pourriの液晶氏とドライブする機会があり、その中で話題に出てそのまま車内で流していたBaths/Cwondo/パソコン音楽クラブ、そして彼が参加しているPot-pourri、当時新譜が出たばかりでよく聞いていたWarpaint、その日行ったブックオフで買ったNav Katzeのリミックス・・・と言った具合に、日記のような、まるでセッションのようにしてできたにしては通して聞いててもかなり統一感のあるものが出来たので気に入っている。夜の車内にとても合うと思います。

 

 

チェンソーマンのアニメ化に際して妄想を爆発させた架空サントラのプレイリスト。元々BorisのPinkが真っ先に浮かんでFarewellもめっちゃ合うなとか、暗いIDMとかポストハードコアとか普段からよく聞くものが合致していたのもあり考えるだけでも楽しかったです。とくにSPOILMANのAmaryllisは狂気的なジャンクロックとおどろおどろしいシャウトが続く中チャーミングな歌詞による歪さがピッタリだと思っている。Matmosも合う。

 

 

クリスマスのプレイリストを作ろうと思って冒頭2曲から始まりそっから音楽性、アウトロから繋いだらかっこよさそうな曲とかを思いつき次第に数珠繋ぎにしていった結果ポストハードコア/ジャンクロック色がめちゃ強くなったプレイリスト。Touch and GoやAm Repの香りがしまくってて、送り合ってた相手が普段ポストハードコアを聞く人ではなかったので布教したかった気持ちも割とあり、LowercaseやUzedaはかなり自分の趣味が出てますね。ZAZEN BOYSのHIMITSU GRIL's TOP SECRETが入ったEPは全体的にすごくShellacっぽい色があると思ってます。

 

 

おすすめのジャズを送り合うみたいな流れになったときに作った全然嘘のプレイリスト。でも自分が普段聞いていて最も親しみ深いジャズに位置する音楽ってちゃんとこの辺かなという気もする。シカゴ人脈からスタートしながらもPramとかGangerはもう全く別の畑、しかしポストロックという巨大な括りの懐の広さも感じることができる。Squarepusherを入れるんならTortoiseはJettyだったかなと見返して少し思ったりもしました。

 

 

冬に車内で聞きたい音楽ベストとして作ったプレイリスト。冬が繁忙期だったのでいつも帰りが遅く、寒い中どこも閉じて暗くなった繁華街を車で走りながら、そのシチュエーションで一番聞きたい音楽をまとめました。ほぼスロウコアですがまるで毛布みたいな音楽だなと思ってます。PhiladelphiaKaty Songは沁みすぎる。実は以前書いた音楽を聴く環境について / 車内音楽まとめ - 朱莉TeenageRiotはこのプレイリストが発端となってます。

 

 

Lily FuryのAnthorogyというアルバムを今年よく聞いていて、その中でBrocadeという曲がBorisのLoopriderを初めて聞いたときをフラッシュバックするような、アルバム内でジャンルごった煮な大作を終えた後に始まるストレートな名曲という立ち位置で、そこから影響を公言しているディーパーズだったり、そのNARASAKIが今年リリースしたアイカツ!の新曲でもあるSign? Go! Dream!!のジャンルの横断の仕方にもLily Furyとシンパシーを感じたり・・・みたいな、一連の自分の中であった感情の動きを、そのままメモするように作ったプレイリスト。

 

 

Mogwaiの1stだけがずっとサブスクに無かったのですが昨年いつの間にか解禁されていたので作った秋口にピッタリな涼しげなプレイリスト。スロウコアとポストロックの境界ギリギリにいるアーティストだけを狙って入れたような、90s末期のプレ・ポストロック的な空気が存分に出たかなと思う。

 

 

先のものと同じく秋口にピッタリなプレイリスト。スロウコア・・・っぽくも見えるけど言うほどでもなく、フォーキーな風通しの良さがありつつでもアコギってわけではない、涼しげでノスタルジックなUSインディーみたいな、Yo La Tengoや後期Red House Paintersを一緒にしたかっただけ感もある。元々好んで聞いてたとこなので気を抜くとこういうの一生作ってる気がします。

 

 

アニメゆるキャン△のEDだったふゆびよりという曲のタイアップだったYURUSUという曲があるのですが、ふゆびよりのアコースティックなSSWってイメージを完全に覆すCorneliusみたいなナンバーだったのに衝撃を受け、それを使いたくて本家と坂本真綾入れて作ったプレイリスト。恋する日常も衝撃でした。知人が割とアニソンやボカロ好きのイメージがあったのでそこからも触れやすそうなものを後半に入れてます。雨の日に聞きたい。

 

 

またしても架空サントラ。昨年全話無料公開されててドハマりした宝石の国をイメージしてます。最初のTJOはもろ第一話冒頭のイメージ。孤独の発明とか互いの宇宙とかタイトルもイメージと合ったり、宝石なので無機物としての低体温っぽさをtoeのアンサンブルと重ねていた気がする。「平熱の街」てタイトルも。あとで実際にアニメ化したときの音楽をハイスイノナサの照井さんが担当したと知ってかなり嬉しく、その曲もかなりかっこよくて最後に入れた気がします。

 

 

シューゲイズ/スロウコア/アンビエント辺りの空気がブレンドされたBark Psychosisから始まり、そっから各所に派生しつつ同じ空気感を持つアーティストで纏めたプレイリスト。あんまり1ジャンルで一括りにするのも面白くないかもと意図的にバラけさした気がするけど、どことなくスペーシーな空気があります。半分くらいは宝石の国プレイリストの没曲になったものだったりします。

 


以上でした。所謂ツイッターを通して知り合った普段から自主的に音楽を掘ったり作ったりしているようなリスナーの方々ではなく、むしろ全くそこに馴染みのない、全く別の趣味の繋がりで知り合った知人たちとプレイリスト交換をしていたので「ある程度名盤を知っている」というわけではない方に向けて作るという経験が結構新鮮。故に先入観に囚われず、10曲1時間以内を目安に雰囲気やコンセプトを重視した結果自分の脳内で無意識にしていたカテゴライズを可視化する役目を果たしたり、そもそも最近聞いてなかったかつて好きだった音楽を思い出し棚卸する感覚もあった。この2年間で知人の音楽趣味の傾向も固まってきた感じがあるし、また毎月感想を貰えるのもありそれで選曲の傾向が変わったりするし、これ以降も作り続けると思うので気が向いたら纏めるかもしれません。

正直この習慣が始まってから新しい音源を掘ることも少なくなったのですが、それはそれとして音楽を聴くという行為自体を更に豊かにしてくれる実感があり、"現行シーンを追う"みたいな行為とは遠く離れた、純粋に音楽を楽しむという経験が結構久しぶりでした。プレイリスト制作自体が僕は一つの創作だと思うし、やってよかったなと今は思います。

 

冒頭で触れたtt氏のnoteです。全部追えてるわけではないですがとても参考になります。

SONICMANIAでAutechreを見た

行ってきたので日記です。


初参戦。自分は元々フェス自体に若干の苦手意識がありよっぽど特別なラインナップがない限り行くことはなく、最後に行ったのも2019年のライジングサン、こちらもナンバーガール再結成が目当てでした(無くなったけど)。

そして今回はAutechre・・・まぁね、Autechre来るのなら行くしかないでしょうと。一時期本当に熱狂的に嵌っていて、元々00年代にギターロックを聴いて育ちそのまま海外のロックを遡って聞いてきた音楽遍歴がある自分ですがずっと電子音楽とは距離があったのを、ぐっと身近なものにしてくれたのはAutechreだった。そこからIDMというジャンルを知ってWARPだったりヒップホップやエレクトロニカに繋がってったわけだけど、Confieldのボーナストラックでついてきたライブ音源の「Mcr Quarter」のあまりに破壊的な音に衝撃を受け、真っ暗で何も見えない空間でセトリは無く完全即興で彼らのサウンドを体験するというその特異なライブ形式、ここ最近の膨大すぎてとても追えたものじゃないリリース量のライブ音源をつまみ食いするだけでも肌にピリピリとくるような迫力から期待だけが胸の中で大きくなっていった。2018年の来日公演を逃した自分としては4月にソニックマニア初出演が決まった次の瞬間には他のラインナップを確認することもなくとりあえずチケットを確保していました。

そんくらい楽しみだったAutechre、それはもうライブを見たという感想では正直しっくりこないまさに"体験"というか、フェス自体が非日常を楽しむものだという意識はあるし他のラインナップにもそういう要素は勿論あるけど(ThundercatやFlying Lotusサイバーパンク感もすごかったので)、Autechreに関してはもう通常のステージングから完全に逸脱していて異質としか言いようがない。お馴染みの真っ暗な空間でライブをするというスタイルを幕張メッセ内でもそのまま再現していて、ついちょっと前まで電気グルーヴやずっと真夜中でいいのにがライブをしていて遠めでも見れていたステージの入口に突如巨大な真っ黒い布の膜が出現。自分はこのためにこのイベントにきたも同然なのでAutechreシャツに全身黒ずくめという完全にセットに合わせた服装で来ていたのですが、それでも半信半疑だったこの形式を、フェスという全てを開放して気軽に楽しめるはずのイベントで一区画まるごと隔離してしまうステージはもうイベントの趣旨を超えた非日常、あの黒い布の膜に飲み込まれ入場したらしたで最低限の視界の中実験的で常に形を変えるカオスな鉄の音が四方八方に飛び交いこれを全身で浴びる。これはライブなんでしょうか?少なくとも、自分が今まで人生で体験したライブの中で最も真っ向から鳴ってる音に、音楽に対峙した瞬間でした。

たぶんほとんど即興、止まることなく1時間ぶっ続けで、はっきりこの曲だってのはないけど最新作であるところのSIGN/PLUSからExai期を踏襲した音色、まるで鉄の空洞をぶっ叩いた音を加工してぐにゃぐにゃに引き伸ばしたり刻んだようなものをランダムに配置しまくって、一応区切りになるキックみたいのはあるけどとても乗れるものではないヘヴィ・アンビエントみたいな感じ。リズムと呼べるのか怪しい音の連続と闇の中で見つめ合ってしっくりくるビートを見つけるような側面もあるし、音色に浸る時間とビートに乗る時間の境界がずっと曖昧なのは代表曲「Dropp」をExai期の感覚で一つの空間へと昇華したイメージも湧く。大体全部で一時間あったのですが正直時間の感覚はほぼ消え、この何かが渦巻き蠢くような空間にただただ漂うばかりだったのがラスト10分くらいのところで急展開、Gantz Grafの「Cap.lv」やLP5の「Acroyear II」を思い出す小刻みで金属的なシーケンスをビートにしたような爆踊り仕様へと移行、畳み掛けるように「Pro Radii」「Laughing Quarter」のような所謂ライブアンセム的なポジションの曲を想起させる攻撃的な展開に震える。ライブを終えたあとにステージに光が入り真っ暗闇の中うっすら見えていたセットの奥にはしっかりショーン・ブースとロブ・ブラウンがいて、大きな歓声が沸きあがる瞬間はかなり感極まるものがありました。

まず間違いなく今まで見た全てのライブの中でも、見た直後という補正もありますが長年待った甲斐もあって「ベストアクト」だと言いたい。とりあえず、無事Autechreを見れたことを数年前の自分に教えてあげたい。

 


写真にも残らない程に暗かったので見たものを忘れたくなく帰宅後即描き始めたうろ覚えのイラスト。とにかくステージ外からも聞こえた蠢くようなヤバイ音、一人一人あの黒い幕に入場していく異質な光景、入場して天井から届くうっすらとした光を頼りに人と人の間をすり抜け足早に最前へと向かったときの高揚感は二度と忘れないでしょう。

 

 

なんとなくライブをイメージしたプレイリスト。10年台以降の尋常じゃないリリース量、とにかく音源が膨大なので全部チェックしてるわけではないのと、ライブ自体も頭の中にぼんやりと残ったイメージからですが参考までに。人によって違うものができそうだし、それを見比べるのも楽しそうです。記事中に触れた曲も多いので参考にしてもらえれば。

 

こちらは全く関係ないですが数年前に作って毎年夏に聞くプレイリスト。ちょっと今回のセトリとは大分イメージ違いますが、90-00年代の代表曲多めなのもありマイベストとも言える内容です。

 


関連記事

かなり前に書いたAutechreのまとめ記事。元々Noteで公開してたものを朱莉TeenageRiotを作ったことで移転させたものですが、実はこのブログでも一番最初にまとめたdiscography群なのでそういう感慨深さもちょっとある。

 


以下他のアクトの感想。あんまり周れてないです。

 

Thundercat

完全に初見。何曲か聴いたことはあれど正直ほぼ事前情報無しのぶっつけでなんとなく見たんですが完全にやられて没入、ずっと真夜中でいいのにと被ってたから途中そっち抜けて見に行こうかなとか考えていたのにそんな暇も無いまま80分完走してました。

まず開幕2曲から人力Squarepusher、つまるところShobaleader Oneのような全員ソロみたいな肉薄したセッションが何故か噛み合い、目配せしながら徐々に熱量を上げてく瞬間は正直もっと狭いハコでバンドの呼吸を感じながら見たいと強く思う。こういうインプロ色強いリズムの取り方が曖昧な長尺曲を序盤とラストに重点的に置きながら、途中からカッチリしたリズムのソウルフィーリングの強いメロウな歌もので風通しよくする構成もよくて、初見で魅入って完走してしまった要素の一つにこのセトリの妙もあったと思います。次が気になるというか。

あと坂本龍一を追悼するMCから千のナイフのカバーをやっていてこちらも泣ける。YMO以降のものではなくおそらく最初のソロ「千のナイフ」のバージョンを踏襲していて、ギターソロは鍵盤に置き換えられてますがかなり雰囲気が近いし、ソロの間の少し溜めのあるリズム隊は原曲での水中で泡がはじけるようなシーケンスを楽器に置き換えたようなイメージでかなり踊れて、原曲をリスペクトしつつグルーヴを調理してる感じがめちゃよかったです。メインとなるメロディにThundercat本人によるコーラスも加えられていてメロウでこのバージョン何度でも聞きたい・・・。

音源バージョン。ライブではもうちょっとハイテンポなアレンジでしたがこちらもこれはこれでめちゃくちゃ良い。

当たり前ですが、どの曲も録音物としてプロデュースされたものではなく生演奏なので、隙間が見える素材そのものの状態で聞くといつホーン聞こえてきても違和感ないだろうなと思えるくらい70sのニューソウルの延長に聞こえてくるのも新鮮。最近その辺をよく聞いてたのでおそろしく自然に入ってきたのもあるかも。

 

Flying Lotus

Thundercatより続いて同じステージなのかなり統一感あっていいですね。序盤はYasukeやサイバーパンク的なイメージ通りの硬派なDJからスタート、かと思いきや途中からハウスぶち上げクラブDJみたいになって雰囲気変わりすぎて困惑していたら、直後に目まぐるしく画面が入れ替わるサイケなVJに切り替わり、Los Angelesを更にカットアップしてランダムにぶち撒けた暗黒世界のような、ハウスパートからは想像できないくらい対照的なモードに入りそのままThundercatが参加。まるでスピリチュアル・ジャズのような様相を見せる電子音とベースのセッションが始まりこの後半がものすごく濃かったです。そのままThundercatがボーカルを取ることで代表曲のBlack Goldへとシームレスに繋がり、サイケなムードのトラックとしっかり地続きであることがわかったのも良い。

 

この後のJames Blakeは体力が無く断念。しかし遠めで見てるだけでも幽玄な世界観をバンドサウンドで細々とやってくのはめちゃくちゃかっこよかった。Perfume電気グルーヴも遠くからなんとなく見ただけでも知ってる曲が多く非常に楽しい。低音がヤバいので距離あってもしっかり踊れますね。やはりAutechreが異常だったけど、フェスだけあってこの解放感は本当に心地がいい。電子音楽が多かったのもありクラブっぽいセットも多くて、自分が幕張のフェスによく参加してたのはもう10年近く前だけどその間にクラブに通うようになったり自分自身の変化も多く、クラブでのラウンジで人と駄弁ったり壁際でツイッターやるのと近い感覚で所々で休憩しつつラフに楽しめました。ソニックマニアは深夜だけあって落ち着いて周れるし、幕張ってこの手のフェスにしてはダントツでトイレが快適だし休憩できるスペースがそこかしこにある。自分のようなフェス自体久しぶりの人間にもハードルが低く、また来たいと素直に思えて良かったです。あとずっと飯食ってました。

discography⑱

前回(discography⑰ - 朱莉TeenageRiot)、前々回(discography⑯ - 朱莉TeenageRiot)に引き続きUSインディーです。


 

Silkworm - In The West(1994)

最初期はUSインディーの伝説Guided By Voicesと同じように自主制作のカセットでリリースしてたようで、それを除くと今作がフルアルバムとしては初、Silkwormと言えばほとんどの作品をアルビニが手がけたことで有名で今作も勿論アルビニ録音。元々アルビニの親が学校の教師をやっていてその生徒がこのバンドのメンバーだったという縁があったみたいです。で1st、枯れきったボーカルとアンサンブルはもうすごくくたびれていて、グッドメロディだけど所々ヘロヘロでメロディーが砕ける部分も多々あるし演奏も最小限というか、後のSilkwormと比べてもかなりギターの音も抑え目。しかしながらやっぱりアルビニなのでこういう隙間のある録音とそれを切り裂く硬質なギターの対比は映える。むしろこの路線聞いていると2000年以降フォークやカントリーに向ってったSilkwormの源泉はちゃんとここにあるなと思う。

 

Silkworm - Libertine(1994)

こちらもアルビニ録音。このあとMatador RecordsからFire Waterを出すわけですがその直前ということで1stと比べるとかなりパワフル、リフも強力になってリズム隊もガンガン走ってきて、パンクやハードコアとも違ったこの勢いは素直にパワーポップとかとも通じそうな名曲「Cotton Girl」が象徴的なアルバム。ですが、他はやっぱりそんなに元気は無い、1stの延長のくたびれた、間延びした雰囲気を残しながらもジャリジャリのギターを挿入してくるのがすごく印象的な1曲目「There Is A Party In Warsaw Tonight」に痺れる。音色を垂れ流すという言葉がぴったりの不協和音とこのバンドの持つダルダルさとの調和具合がおそろしくかっこよく、もし自分がこれからバンド組むことあれば絶対コピーしたいと思う。驚くほどにスカスカだった1stと比べるとかなりギターが分厚くなって不協和音感も増したので、硬質でジャンクな質感はポップなポストハードコアとしても聞けるかもだし、だからこそ対比となるこのバンドの持つ枯れっぷりが染みてくるようなメロディーの良さと音色の気持ちよさは唯一無二でしょう。

 

North Of America - Elements Of An Incomplete Map(1998)

カナダ出身North of Americaの1st。後にマスロックにも接近して硬質でジャンクなポストハードコアな側面も持つバンドですがこの1stでは非常にUSインディーの色が強く、というかPolvoやGuided by Voicesが大好きだったんだなという愛がアルバム聞いてると色んなとこから伝わる。1曲目の「Cities And Plans」からジャンクなギターを弾きじゃくり力の抜けたグッドメロディが乗っかるのですが、この頃から後のエモ~ポストハードコア路線が存分に詰まってることを理解させてくれる今にもはちきれんばかりの投げやりなシャウトが途中から炸裂し演奏に負けじと並走、エモへと昇華しながらもあくまでUSインディーとしてやってしまってるというか、いいとこどりしたようなジャンルの魅力が全部詰まってるんですよね。「Time Changes Technique」は既にちょっと次作のマス路線も垣間見える隙間のある曲ですが、グルーヴを練り上げ曲自体が複雑になってく後期と比べるとかなりシンプルにスイッチのオンオフがわかってめちゃくちゃ良い。エモとUSインディーの境界線のギリギリインディー側にいるのがArchers of LoafやSuperchunkだとしたらNorth of Americaはその目と鼻の先のギリギリ境界の向こう、本当にライン一歩踏み超えたエモ側に立っているバンドだと思います。

 

North Of America - These Songs Are Cursed(1999)

エモというジャンルにおいて好きなアーティストは何かを議題にして人と話すたびに自分がまず名前を挙げるのがこのNorth of Americaで、その中で最も好きなアルバムは?と聞かれたらこの「These Songs Are Cursed」を挙げる。前作をそのまま押し進め、いやもうちょとポストハードコア色を強めはしたけど完全にそっちに行ってしまう次作「This Is Dance Floor Numerology」の一歩手前。まだまだ曲によっては単独で聞くと少なくともポストハードコアとはまるで思えないくらいインディー色強い楽曲も半々くらい散りばめられていて、「Extent Of The Apse Outstretched」とかSuperchunkとかPavementと並べられますね。全体的に硬質でつかみどころが無いアンサンブル、ちょっとマスロックっぽさも出てきた予測不能な曲展開、とは言っても00年代エモのイメージにあるエモリバにも通じるアメフト以降やポストロックっぽさはほとんど無く、Dischord Recordsの面々が持っていた指の合間をすり抜けていくキメの感じというか、これはPolvoの遺伝子も存分に受け継いでると思っていてむしろエモ文脈で再度合流させてるような感じ。00年代以降のDischord周辺シーンとしてのQ and Not UやFing Fang Formとも近い雰囲気ありますが、インディーロックの遺伝子がうまいことその路線を微妙に外している感じがよくて「Built Sought Destination」もPolvoっぽいイントロからエモへと合流。ハードコアに寄せながらUSインディーとして聞ける側面も薄めることなく成り立ってしまった奇跡的なバランスのアルバム。

 

Superchunk - No Pocky for Kitty(1991)

Superchunkと言えば自主レーベルMerge Recordsの印象が強いですが、91年の今作はまだMergeではなく普通にMatador RecordsからリリースしていてNirvanaの次と期待がかけられていた(らしい)2nd。しかし彼らはメジャーの手をとることはなくむしろMergeにおいて自分らの作品だけではなくMagnetic FieldやPolvoと言った周辺シーンのインディーバンドをフックアップしていき、メジャーどころかインディーズ大御所として今でも君臨し続ける生きる伝説へ。レーベルとしてのリリースだけでなく普通に本人達の新譜もバンバン出てますね。

No Pocky for Kitty、初期のSuperchunkはかなりパンク寄りで、彼らの持ち味である空間を引き裂くスカスカで鋭利なギターリフは開幕の「Skip Steps 1 & 3」からたっぷりと堪能できる本当に最高の1曲。エネルギッシュなボーカル含めこの勢いはメロコアにも通じるものが充分ありつつそこまではいかない、傷だらけで駆け抜けてるような純然たるパンクロックっぷりがすごく気持ちの良い作品というか、いわゆるPavementやDinosaur.Jrを代表するヘロヘロで肩の力抜いたUSインディー的な色とはまた違った雰囲気があります。彼らがエモだったことは一度も無いと思いますが、このアルバムと前作1stは後にエモと呼ばれるバンド達に多大に影響を与えたのではないかというプロトタイプ感も強い。アルビニ録音ですが当事のアルビニのイメージにあった、ハードコア系のヒリヒリした緊張感や重さより、バンド演奏の勢いやエネルギーそのものを無加工でパッケージした別の魅力があって、Cloud Nothingsがコロナ以降に初めて集まってレコーディングしたアルバム「The Shadow I Remember」でのアルビニ録音はこのアルバムを思い出しました。

 

Superchunk - Foolish(1994)

4thで今作はMergh Recordsからの自主リリースへ。2ndの頃はまだMergeにアルバムをリリースするためのリソースが無かったという事情もあったみたいですが、この頃は流通にTouch and Goが関わってたり、前作On The MouthではSwami Recordsのジョン・レイスがプロデュースしたりと当事のUSインディーシーンでの横の繋がりも見えてくる。レーベルで音楽を聴くという行為を最初にしたのもこのアルバムがきっかけだったので思い出深い。アルバム再生して開幕の「Like a Fool」はcinema staffやpeelingwardsで知られる辻氏主催のLike a Fool Recordsの元ネタだと思います。

初期のパンキッシュさはなりを潜めたペースを落としてメロディを大切にした曲が多く、前作までのマックのハイトーンなボーカルによる無邪気なエネルギッシュさとは打って変わって切なく甘いメロディを見せる今後の路線のきっかけにもなるアルバム。ハードコア経過後のエモやポストハードコアのような硬質なギターの密度はなくむしろスカスカ、しかしエッジは効いていて、未だに人気のある代表曲「Driveway to Driveway」もエモ前夜っぽい雰囲気があるけど様式美には乗らない泣きメロの名曲。ですが個人的に次に始まる「Saving My Ticket」は彼らの全曲の中でもベストに上げたくなる。代表作である5thよりも今作の方が好きだったりします。

 

Superchunk - Here's Where the Strings Come In (1995)

Foolishから1年でリリースされた正統な続編にして代表作5th。開幕のHyper Enoughはハイパーイナフ大学やHYPER ENOUGH RECORDSと言ったサイトのタイトルの元ネタにもなったであろう、というか前作のLike a Fool Recordsの名前もこの辺のリスペクトだと思うし、SuperchunkDIY精神がこうやって国内でのレコ屋や個人サイトに受け継がれている感じがしてすごく好きです。

エッジが効いているのにチャーミングでつい口ずさみたくなるフレーズは決定的に曲をキャラクター付けしてしまう、Superchunkにしかない彼らをSuperchunkたらしめるギターリフが爆発する「Hyper Enough」はもうイントロから最高の自己紹介であり、そして後のチャンクへずっと地続きの本当に代名詞みたいな新しい幕開けとして相応しすぎる名曲。同じようにリフのキャラクター性が際立つ「Yeah, It's Beautiful Here Too」も最強だし、Hüsker Dü後期やSugarとも呼応しながらハードコア性をオミットしてった彼らのスタイルが完全に確立されていて、数年後のCome Pick Me Upで昇華されるマックのSSWとしてのメロディの素晴らしさに並ぶ程に良い曲しかない。Come Pick Me Upはジム・オルークとの共作でポップネスが爆発した色鮮やかなアルバムでしたが、純粋なバンドの熱量としてそれこそ1stや2ndのパンキッシュさから続く快進撃のその先、区切りというか絶頂期にあたるのはこのアルバムじゃないでしょうか。

 

Polvo - Today's Active Lifestyles(1993)

ノースカロライナ州チャペルヒル出身、同郷であるSuperchunkのMergh Recordsよりリリースされた代表作2nd。Polvoがマスロックの祖として扱われる源泉はおそらくこのアルバムじゃないかと思われるであろう1曲目「Thermal Treasure」から次々とギターフレーズが炸裂し、自分の脳内でこの音、このリズム隊の感じだと次こうくるだろうという予想を見事に外してくるような、バンドとして計算されたものなのか気まぐれなのか偶然なのかわからない、テンション不明の組み立て方は聞いてるこちらを置き去りにしながらザクザクと音を刻みとにかく爽快。リリース時期ほぼ被ってるRodanもマスロックの祖として有名ですが、PolvoやRodanを当事一緒に聞いた人達が衝撃を受け新しい可能性を模索してったんじゃないかと思う。次作のExploded Drawingではジャケットからもオリエンタルな雰囲気が出てきますが、今作でも「My Kimono」というタイトルからいかにもな名曲インストがあったり、抒情を出しつつも名曲足りえるポップなメロディーとは若干不調和な感じに困惑する。

録音はShellacのボブ・ウェストンで、彼のアルビニ程生々しすぎないバンドのゴスゴスとしたリズム隊の重さ、響きを重視するようなソリッドな音のスタイルはこの目まぐるしく展開していくPolvoの魅力にかなり貢献してると思います。それこそ彼が担当した作品と言えばRodanやJune of 44が有名ですが、Polvoの諸作はそこと並んで好きなアルバムだし彼の経歴でもとくに好きな時期だったりします。

discography⑰

前回(discography⑯ - 朱莉TeenageRiot)に引き続きUSインディーです。


 

Superchunk - Come Pick Me Up(1999)

チャペルヒル発のUSインディー大御所Superchunkが99年に発表した7th。Wowee Zoweeに次いでUSインディーの好きなアルバムを上げろと言われたら名前を挙げたくなる個人的に永遠の名盤。このアルバムに関しては前作の「Indoor Livinb」同様スティーヴ・アルビニジム・オルークがそれぞれ関わっていて同体制、てことで前作と地続きの、外部の楽器をバンドサウンドに取り入れて新しいことをやろうとしてる感じもあって、美しいストリングスのアレンジが曲の色んなころにあるしマックのいつも以上にセンスが爆発したどこ切り取っても宝石のような泣きメロとの相乗効果もやばいです。かと言ってアルバムに対してしっとりとした印象はなく、Superchunkらしい爽快で飛びはねたギターフレーズ、パンキッシュに駆け抜けてくエネルギッシュな快活さもちゃんとあって、それらが別々ではなく一つの流れとして接合されているのがもう完璧。

とにかく1~5曲目のA面の勢いがすごすぎる、「Hello Hawk」「1000 Pound」「Good Dreams」とアルバムに1曲あればいいレベルの名曲がポンポン飛び出してきて素直にこんなにいい曲一つのアルバムに詰め込んでもいいんだ?と思ってしまった。Hello HawkのSuperchunkらしい爽快なギターリフはイントロからもう最高ですが、バンドの勢いとは対照的にストリングスも迎えた色鮮やかなアレンジも美しく、そのまま歌詞でアルバムタイトル「Come Pick Me Up」を回収、なんやかんやまた冒頭のギターリフに戻ってくるという展開に涙無しには聞けない。1000 PoundもHyper Enoughから地続きのSuperchunkらしいリフのセンスが炸裂していてギター音なぞるだけで泣けてしまう。こういうギターリフ1本で曲にキャラクター性をつけるのがうますぎる。Good Dremasは昔馴染みのあるパンキッシュなナンバーだと思って聴いてるともう一捻りあってこちらも最高です。アンサンブルもメロディーもアレンジも少しずつ研磨してきた彼らのその先が全部ここに直結してるんじゃないかと思えるような、一体何があったんだと逆に心配してしまうくらいエネルギーに満ち溢れた、余裕で全てシングルカットできると言っても過言ではない恐ろしいアルバム。

 

Superchunk - Here's to Shutting Up(2001)

Come Pick Me Upの次作8thにして活動休止前の最後のアルバム。マックが言うにはキーボードをフィーチャーしたそうで1曲目「Late-Century Dream」からそれはすごく象徴的で、ギタードラムベース一体となったバンド全体で一つの和音と表現したくなるようなコード感にぐっとくる。個人的には95年~のミディアムテンポな曲が増えてきたSuperchnk後期の瑞々しさにさらにちょっとギターポップみが添加された雰囲気で、Come Pick Me Upと地続きというよりは前々作「Indoor Living」の流れを汲むアルバムだと思う。アコースティック色も増えてCome Pick Me Upの熱量と比べるとゆったりとした風通しの良い曲が多く、休止直前のちょっとくたびれた雰囲気も感じますが、だからこそこの時期にしかない風情というのも間違いなくある。生音すぎない立体的なドラムの録音がすごくよくて今作アルビニではなくSlintやWilcoでも知られるブライアン・ポールソンが担当。かなり好きなプロデューサーだったりします。

 

Superchunk - Cup of Sand (2003)

B面やアルバム未収録のシングル曲、アウトトラックスをまとめた3枚組みコンピですが裏コンピと侮れないくらいとにかく良い曲しかない。開幕「The Majestic」からなんてったってCome Pick Me Upと完全に同時期1999年のシングル、しかもめちゃくちゃパンキッシュで、エモにもポップパンクにもならないSuperchunkの魔法がかかった最高の疾走ギターロックアンセムが続くし後の「A Small Definition」も90s中期でありFoolishやHere's Where The Strings Come Inと同時期なのだから驚くほど良い曲しかないです。リリースが多いだけあってライブ通ったりリアタイで追ってないと後から気付きにくいアルバム間でのEPやシングル等、その辺の決して見逃せない名曲たちを掬い取ってくれたようなアルバム。コンピなのでカバーも多いんですが、ボウイの「Scary Monsters (and Super Creeps)」はもうバンドの代表曲と言っても遜色がないくらい素晴らしく、イントロの空間を引き裂く大音量の鋭利なギターはインパクト大、個人的にはNUMBER GIRLも想起するSuperchunkの曲としても新境地に達した唯一無二のアンセム。A面の傑作EP郡まとめとこの曲だけでもオリジナルアルバムに匹敵する作品だと思います。

 

Polvo - Exploded Drawing(1996)

USチャペルヒル発、最初は同郷のSuperchunkが主宰するMerge Recordsからリリースしてましたが3rdにして今作はTouch and Goから。Shellacのボブ・ウェストンがプロデュースしていて彼とTouch and Goの結びつきも非常に強い時代ですね。名曲「Fast Canoe」から幕を開けこの曲のくねっとした気の抜けたギターリフの雰囲気はPavementやSilkwormが持ってる脱力感やひねくれっぷりと重なりUSインディーバンドとしてすごく惹かれるものがあった。このギターリフを何度か繰り返したところでアンサンブルを切り替えながらギタードラムベース、全パート1本のギターリフに追随するようにバンド一体で動き出す展開は今聞いても胸が熱くなります。ちょっとチープなジャケも最高でどことなくアジアンテイストなオリエンタルな雰囲気もアルバム内に顔を出す。どの曲でも予測不能な展開がとにかくすごくて、この唐突さや湾曲したギターリフからマスロック方面、それこそサブスクのサジェストでもポストハードコアと関連付けられているのは個人的にも意外だった。USインディーとして聞くとあまりメロディーはキャッチーではないのでとっつきづらさはありますが、その代わり奇妙なアンサンブルという点では急に豹変するバンドのテンションは掴みどころがなく、虚をつかれる突拍子のなさがとにかくかっこいい。かっこいいギターリフが鳴ってればOKって人にとってはこれ以上ないくらい最高のアルバムだと思います。Merge時代のジャンクな雰囲気と比べるとだいぶソリッドになったのもありフレーズの鋭角さが増しているのも熱い。

 

Archers Of Loaf - White Trash Heroes(1998)

Archers Of LoafはPolvoやSuperchunkと同じくノースカロライナ州チャペルヒル出身、そして解散後リマスターや再発をMergeが行ったりとSuperchunk周りのシーンとかなり関わりが深いバンド。てことで同時代USインディーの代表格の1人で、敬愛するブログWithout SoundsのPavementまとめ記事でもセットで紹介されてたのがとても印象深い。ソロでもMerge Recordsから出しているエリック・バックマンのボーカルは結構これ系のインディーロックの中でも突き抜けてメロディアス、ギターロックという言葉が一番しっくりきそうなシンプルなバンドサウンドはどことなくエモ風味もあって、ラフでエネルギッシュだったArchers Of Loafの初期作と比べると解散直前の4thである今作はどことなく円熟した雰囲気があり、ズッシリ構えた1曲目「Fashion Bleeds」の交錯するエッジの効いたツインギター、そしてそれををかっちりと繋ぎ止めるリズム隊からかなりかっこいい。ドラムの音がとてつもなく良く、これもアンサンブルの腰を落とした雰囲気に拍車をかけていて録音はブライアン・ポールソン、個人的に今作のFashion Bleedsを聞きライナーノーツでSpiderlandと同じ人というのを知り意識することとなった思い出深いアルバム。

 

The Spinanes - Manos(1993)

The SpinanesはSSWだったレベッカゲイツと、Built To Spillにも在籍したドラマースコット・プロウフによるインディーロックデュオ。Sub Pop発、そして最近Merge Recordsより再発とあの時代のオリンピアやチャペルヒルやらのインディーシーンの雰囲気をふんだんに纏った作品。同時期のSuperchunkと雰囲気は近く、90s中期頃に通じるミディアムテンポ+グッドメロディにカラッとしたギターサウンドの組み合わせ、しかしSuperchunkってマックのあの個性的すぎるハイトーンボイスが曲のニュアンスを作るというか性格を引っ張ってた要素がめちゃくちゃ強かったんだなということをこのバンドを聞いてると痛感する。女性ボーカルになったこともあって艶やかかつユルい雰囲気があって、でもギターのサウンドはこっちの方が金属的で、Superchunkほど分厚くないんですがその薄さのおかげでフレーズの妙やボーカルのメロディの良さとハーモニーが映える。アルバム名も冠する「Manos」はイントロがマジでめちゃくちゃかっこいいです。2018年以降の再発に入ってるボーナストラックのManosのライブ音源も躍動感ってこちらもすごくおすすめ。

 

The Spinanes - Strand(1996)

96年発の2ndで1曲目の「Madding」からとことんペースを落とした、音の薄さをカバーする間延びしたギターサウンドと丁寧に編みこまれる歌のハーモニーで空間を意識させるサウンドスケープは前作までのシンプルなUSインディーからは一転。個人的にポストロックを感じる域まで来ていて、スロウコアまでは言いませんがLowとかIdaとか、あの辺のバンドと近いものも感じてしまう。「Punch Line Looser」も同じ路線で最小限まで縮小されたリズムは最早トラック的、とびきりダウナーなボーカルがこれまた歌というよりは音色の一つくらいの存在感で重ねてきます。まぁこの2曲が極端なだけで他の曲は割と1stから引き続いてラフなインディーロック路線、「Azure」「Valency」とかはいつも通り聞けるキャッチーなアンセムになってますが、やっぱりアルバム全体通して聞くと暗いトーンが付き纏う。これによって前作にあったSuperchunkっぽさはほぼ無くなりむしろ後期Seamに通じるし、「Luminous」は後期Bedheadも感じで個人的に非常に好きなアルバム。

 

Helium - The Dirt of Luck(1995)

Matdor Records発のHeliumの1st。Heliumは90sに一度解散するPolvoのアッシュ・ボウイが参加していたバンドでボーカルは後にソロでも知られるメアリー・ティモニー。that dogやPavementっぽさもあるUSインディーでとにかくストレートにメロディが良い。ローファイやUSインディーの持つ親しみ深い崩れた歌メロの良さとジャンクなサウンドの王道を真っ直ぐに突き進みつつ、Heliumは同時代のグランジとも通じるところがあるヘヴィでザラついたギターサウンドが特徴的で、この重さと、メアリー・ティモニーのまったりとした甘美なゆるいボーカルの組み合わせがとにかく癖になる。彼女はスネイル・メイルのギターの師でもありDC出身でDCハードコアシーンとも密接、現在はFugaziのイアン・マッケイの弟アレク・マッケイと一緒にバンドを組んでたりもしていて旦那はFaraquetだったりと、Polvoのメンバーが在籍してることも含めて当事のUSインディーとDCハードコアと現在のシーンに至るまでミッシングリンク足りえるバンド。上記のSpinanesと一緒にちょっと90sのUSインディーっぽさもあったスネイル・メイルの1st原型の一つだと思うし、Speedy Ortizもめちゃ影響受けてると思います。

 

次回

kusodekaihug2.hatenablog.com

discography⑯

3月にPavementの来日ライブを見て胸を打たれ、その流れでかつてPavementを知った頃よく一緒に聞いていたUSインディーの好きなアルバムについて書き溜めたものを放出していきます。


 

Silkworm - Firewater(1996)

後にToucch and GoメインでリリースすることになるSilkwormがPavementYo La Tengoでも知られるMatador Recordsからリリースした3rd。彼らのリリースの中でも今作はとくにレーベルの色が出ていて、初期の頃の彼らの顔だったDinosaur Jr.とも直結しそうな親しみやすいメロディー+ヒリヒリとした硬質な音色によるやさぐれたローファイ感は今作かなりパワフルになっていて、開放的というか外にエネルギーが向ってる印象がある。冒頭の「Nerves」のリフからめちゃ爽快ですね。どの曲もメロディ重視でラフなアンサンブルもPavementと並べて聞けそうなノリ全開、にも関わらず今回もやっぱりアルビニ録音で炸裂する硬質なリフの気持ちよさもゴスゴスとした生々しいドラムの存在感も際立ってます。Superchunkアルビニ録音はガチャガチャとした勢いで突っ走っていくバンドの刹那的な瞬間を捉えものだったけど、あれとはまた違った、Silkwormはポストハードコアとも通じそうなザクザクとしたアタックの効いた録音はズッシリと構えた雰囲気があって、ここと枯れのあるグッドメロディが同居してるのはまさに唯一無二のバンド。

 

Modest Mouse - The Lonesome Crowded West(1997)

PavementやSebadoh、Built To SpillをきっかけにlastFMのlo-fiタグで漁ってたときに並んでいてとくに人気だったModest Mouse、それをきっかけにCDを買い集めましたが個人的にフェイバリットなのが2ndである今作(とThe Moon & Antarctica)。OGRE YOU ASSHOLEの出戸学がベストに上げてるアルバムで、OGRE YOU ASSHOLEというバンド名もModest Mouseがきっかけになってます。そして今作、とにかく1時間20分ギリギリCDに入りきるくらいあるボリュームはリラックスして聞けるこの時期のUSインディー的なアルバムと同じノリで聞くことはできず、異常なリリース速度と曲の数を持つGuided By Voicesとはまた違った意味で重い。色々ごちゃっとした録音はまさにインディーロック的でとにかく攻撃的な「Teeth Like God's Shoeshine」「Shit Luck」、孤独で寂びれた雰囲気が強い「Heart Cooks Brain」だったり、尖っているというか荒れているというかテンションの上がり下がりも激しい。アイザックのまくしたてるような歌と言うよりは言葉を連続で叩きつけるようなスタイルと歯切れのいい演奏が噛み合った「Truckers Atlas」も好きです。グランジやハードコアほど荒々しくはないしインディーロックほど親しみやすくもない、変なフレーズは飛び出てくるけどポストロックやマスロックとも違う、不安定でガサついた疾走感は同時代USインディーとも大分違ったバンドだと思う。でも何も考えずプレイヤーにCDを入れて流れるTeeth Like God's Shoeshineのイントロの強烈なギターリフは本当に脳天直撃と言うくらい衝撃を受けました。ぶっちゃけこのイントロがかっこよすぎてここだけの印象でも名盤と言いたくなるし、乱雑すぎるアルバムのボリュームにも目を瞑ってしまう。

 

Modest Mouse - The Moon & Antarctica(2000)

Modest MouseはUSインディーのローファイの代表格として90年代に出てきながらも00年代にはそれなりに大きなヒットを飛ばしてジャンルの立役者として一躍注目を浴び、その後ジョニー・マーも加入したりして今ではすっかり大御所としての地位を確立したバンドではありますが、その、広く受け入れられることとなったひねくれポップスの名盤「Good News For People Who Love Bad News」の一個手前にして90sのインディー時代の空気感もまだ残した3rd。前作まではオリンピアのUp Recordsからだったけど今作からEpicでメジャーへ。割と音からも違いを感じます。1曲目の糸を編むように紡がれるアコギの響きとアイザックの素朴な泣きメロがとにかく美しい「3rd Planet」での、静謐さと対比するよう挿入されるエレキギターの、前作譲りのスカスカでガチャっとした何か引っかかるものがあるような和音にとにかく涙してしまう。Modest Mouseでも最も好きな曲です。ギターの音が全編通してよすぎて「The Cold Part」「Gravity Rides Everything」でのツヤのあるどことなくSFチックな(アルバムタイトルで植えつけられた印象もあるだろうが)透明感のある音はとにかく琴線に触れてくるし、前作と比べるとアイザックが咆哮をかますことは減りましたがミディアムテンポでじわじわと空間を広げてくスケールは2ndでの寂びれた雰囲気がうまいこと昇華されてると思う。あとやっぱ名前の元ネタだけあって初期オウガっぽさもあって、というか前作とこのアルバムはどこ切り取って聞いてもチラついてしまいますね。

 

Modest Mouse - Building Nothing Out Of Something(2000)

90年代のEP+シングルをまとめたコンピレーションですがかなり統一した空気感があるし通して1時間未満と聞きやすく、乱雑だった2ndの方がコンピっぽさがあり、Up Recordsだし完全に同時期だしセットで聞きたくなる裏名盤。むしろ90sの彼らのスタイルを一番わかりやすく摂取できるんじゃないかというくらいで、とにかく1曲目の「Never Ending Math Equation」が名曲。カラッとしたラフなギターリフの反復とアイザックのためを効かせたボーカルのハーモニーによって風通しの良い哀愁が漂っていて、ひたすらこれを反復させ絶頂に向かってくModest Mouseの王道が続く。「All Night Diner」「Other People's Lives」も同スタイルで、ちょっと癖のある歌メロと歯切れのいいリフとの嚙み合わせとそのループ感が非常に心地よく、The Lonesome Crowded Westではそれこそ極端に暗かったり攻撃的だったり色んなタイプの曲がバラバラに盛り込まれてたのに対し、4~5分程度で聞ける曲が良い具合にまとめられていて最も普段聞きする作品かも。

 

 

Built To Spill - There's Nothing Wrong With Love(1994)

Modest Mouseと同じくオリンピア周辺のレーベルからリリースしていたUSインディーを代表するBuilt To Spillの2nd。今作もUpからですね。「Car」がとにかく文句の付け所がない名曲で静寂の中炸裂するダグ・マーシュの泣きメロも声も素晴らしすぎるし、ドラムが入ってから大きくメロディーを動かすぐにゃぐにゃのギターサウンドはストリングスも参加して美しいボーカルとも今まで静寂に寄った演奏ともそれぞれが対比になっててこのバランス感含めて名曲でしかないです。「Distopian Dream Girl」はまさにローファイといったガチャガチャとした弾きじゃくるという言葉がぴったりなギターリフが強烈に印象付けられるイントロからとにかくキャッチー、Built To Spillの透き通ったイメージとはまた違った、それこそもろPavementとかと通じるアンサンブルのごった煮感が気持ち良い一曲。どっしり構えてギター音も重い「Some」も好きです。代表作Keep It Like a Secretと比べるとノスタルジックすぎなくてサラッと聞くなら一番丁度良いアルバム。

 

Built To Spill - Keep It Like A Secret(1998)

90年台のUSインディーを代表する名盤。とにかく代表曲「Carry The Zero」の存在感は圧倒的で、透明感のあるノスタルジックなツインギターそれぞれの色を殺すことなく混ぜ合わせてしまう水彩画のようなイントロ、その上にダグ・マーシュの極上のメロディと美声が乗るんだからもう無敵でしょう。しかし本当にこの曲に限らず「The Plan」でのぐにゃぐにゃに伸び縮みするギターを軸にバンド全体で駆け上がってく多幸感溢れる後半の展開もあまりにもドラマティックだし、「Else」でのダグ・マーシュの浮遊感あるボーカルのループは一生続いてもいいというくらい心地いいですが、これもまたぶち上げすぎない、さり気ないアウトロでの展開の妙に泣ける。「Sidewalk」は湾曲したギターリフがイントロからとても印象的でこの絶妙にポップでキャッチーにまとめ上げてしまう捻くりっぷりがとてつもなく90sのUSインディー的、the pillowsのHAPPY BIVOUACはこの辺を参照してそう。本当に難しい言葉何一つ並べなくたって再生するだけで聞くものを虜にしてしまう宝石のようなアルバムだと思います。Dinosaur Jr.やPavementSuperchunkと並びこの時代のUSインディーの音を自分の中で確立してしまったアルバムの一つ。OGRE YOU ASSHOLEへの影響もめちゃ強いですね。

 

Pavement - Wowee Zowee(1995)

もしオールタイムベストを作るとなったら真っ先に上がる永遠の名盤。Wowee Zoweeを聞いてPavementは特別なバンドになったし、そこからUSインディー及び海外のローファイやオルタナと括られるシーン、TSUTAYAに置いてない音源を探すためにライブがてらユニオンや都内のレコ屋に通うきっかけになった。このバンドを知るきっかけになったWithout Soundsの特集記事には本当に感謝しています。1stや2ndでのスカスカでオンボロな演奏、ヘロヘロなボーカルにグッドメロディと言った要素で定着してしまったローファイという概念を、本人たちも自覚した上でこねくり回して単純な録音の悪さとはまた違ったニュアンスの「ネジ一本外れた感じ」を意図的に仕上げていった一つの到達点のようなアルバム(だと思っている)。初めて聞いた「Rattled By The Rush」での捻くれたギターフレーズやおもちゃみたいに散りばめられた気の抜けた効果音には強烈に惹かれるものがあったし、「Best Friend's Arm」での明らかに壊れたテンションや投げやりにも聞こえるヘラヘラなボーカルだったり、共通するへなちょこ感がどうしようもなく魅力的で、このチャーミングな抜けた感じに「ローファイ」という言葉を当てはめてしまいたくなるマジックがあると思っている。個人的には「Grave Architecture」が最も好きで、力の抜けたダウナーな雰囲気がアルバム全体を象徴してると思うし、捻りの効いたスカスカなアンサンブルのおかげでメロディーの良さも際立っていて初期と比べても隙間があるのが今作の特徴だと思う。「Kennel District」は1st2ndの作風が好きだった人にも真っ直ぐに突き刺さるはずだし、「At & T」も脱力しすぎて完全に崩れ切ったボーカルが印象的なのに泣けてしまう。代表曲ですが「Grounded」もやっぱり名曲。どの曲が一番好きかって話をするのが楽しいアルバムだと思うし、こんなに1曲1曲聞き進めるのが楽しかったアルバム他に無いです。

 

Pavement - Brighten The Corners(1997)

前作のちょっと崩した雰囲気をそのまま血肉としながらポップミュージックとして出力し直したようなとても聞きやすい4th。Pavementの中で最も人懐っこいメロディーが堪能できると思うし、それこそWeezerのBlue AlbumやNirvanaNevermindと同じようにジャンルの壁を破壊して金字塔になれるような力もありそうな、それでいてしっかりバンドの特徴が反映されたアルバムかと。開幕「Stereo」はバンドの代表曲にして、まさに前作で培ったネジ一本抜けた感じをここまでわかりやすく説明できる曲ないのではないでしょうか。イントロの気が抜けたギターの音やぶっきらぼうなベースライン、サビでヘタレっぽくやけくそに叫びまくるマルクマスは聴いていて爽快。「Shady Lane」「Blue Hawaian」あたりは純粋の極上のメロディーの良さがあって歌もののペイヴメント作品としては今作が一番光るものがあると思うし、とくに「Date With IKEA」はマルクマスだけではなくスコット・カンバーグのメロディーセンスが大爆発していて、意外と解散後にローファイとはかけ離れた路線に向かってくマルクマスとは逆行してPavement直系のグッドメロディを書き続けるスコットの片鱗が見える曲じゃないかと思います。それゆえ前作までのぶっ壊れ感はそこまで大きくなく、むしろ次作にも通じてくるフォーク/カントリーっぽいゆったりとした風情がとても心地いい作品。

 

 

次回