朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography⑯

3月にPavementの来日ライブを見て胸を打たれ、その流れでかつてPavementを知った頃よく一緒に聞いていたUSインディーの好きなアルバムについて書き溜めたものを放出していきます。


 

Silkworm - Firewater(1996)

後にToucch and GoメインでリリースすることになるSilkwormがPavementYo La Tengoでも知られるMatador Recordsからリリースした3rd。彼らのリリースの中でも今作はとくにレーベルの色が出ていて、初期の頃の彼らの顔だったDinosaur Jr.とも直結しそうな親しみやすいメロディー+ヒリヒリとした硬質な音色によるやさぐれたローファイ感は今作かなりパワフルになっていて、開放的というか外にエネルギーが向ってる印象がある。冒頭の「Nerves」のリフからめちゃ爽快ですね。どの曲もメロディ重視でラフなアンサンブルもPavementと並べて聞けそうなノリ全開、にも関わらず今回もやっぱりアルビニ録音で炸裂する硬質なリフの気持ちよさもゴスゴスとした生々しいドラムの存在感も際立ってます。Superchunkアルビニ録音はガチャガチャとした勢いで突っ走っていくバンドの刹那的な瞬間を捉えものだったけど、あれとはまた違った、Silkwormはポストハードコアとも通じそうなザクザクとしたアタックの効いた録音はズッシリと構えた雰囲気があって、ここと枯れのあるグッドメロディが同居してるのはまさに唯一無二のバンド。

 

Modest Mouse - The Lonesome Crowded West(1997)

PavementやSebadoh、Built To SpillをきっかけにlastFMのlo-fiタグで漁ってたときに並んでいてとくに人気だったModest Mouse、それをきっかけにCDを買い集めましたが個人的にフェイバリットなのが2ndである今作(とThe Moon & Antarctica)。OGRE YOU ASSHOLEの出戸学がベストに上げてるアルバムで、OGRE YOU ASSHOLEというバンド名もModest Mouseがきっかけになってます。そして今作、とにかく1時間20分ギリギリCDに入りきるくらいあるボリュームはリラックスして聞けるこの時期のUSインディー的なアルバムと同じノリで聞くことはできず、異常なリリース速度と曲の数を持つGuided By Voicesとはまた違った意味で重い。色々ごちゃっとした録音はまさにインディーロック的でとにかく攻撃的な「Teeth Like God's Shoeshine」「Shit Luck」、孤独で寂びれた雰囲気が強い「Heart Cooks Brain」だったり、尖っているというか荒れているというかテンションの上がり下がりも激しい。アイザックのまくしたてるような歌と言うよりは言葉を連続で叩きつけるようなスタイルと歯切れのいい演奏が噛み合った「Truckers Atlas」も好きです。グランジやハードコアほど荒々しくはないしインディーロックほど親しみやすくもない、変なフレーズは飛び出てくるけどポストロックやマスロックとも違う、不安定でガサついた疾走感は同時代USインディーとも大分違ったバンドだと思う。でも何も考えずプレイヤーにCDを入れて流れるTeeth Like God's Shoeshineのイントロの強烈なギターリフは本当に脳天直撃と言うくらい衝撃を受けました。ぶっちゃけこのイントロがかっこよすぎてここだけの印象でも名盤と言いたくなるし、乱雑すぎるアルバムのボリュームにも目を瞑ってしまう。

 

Modest Mouse - The Moon & Antarctica(2000)

Modest MouseはUSインディーのローファイの代表格として90年代に出てきながらも00年代にはそれなりに大きなヒットを飛ばしてジャンルの立役者として一躍注目を浴び、その後ジョニー・マーも加入したりして今ではすっかり大御所としての地位を確立したバンドではありますが、その、広く受け入れられることとなったひねくれポップスの名盤「Good News For People Who Love Bad News」の一個手前にして90sのインディー時代の空気感もまだ残した3rd。前作まではオリンピアのUp Recordsからだったけど今作からEpicでメジャーへ。割と音からも違いを感じます。1曲目の糸を編むように紡がれるアコギの響きとアイザックの素朴な泣きメロがとにかく美しい「3rd Planet」での、静謐さと対比するよう挿入されるエレキギターの、前作譲りのスカスカでガチャっとした何か引っかかるものがあるような和音にとにかく涙してしまう。Modest Mouseでも最も好きな曲です。ギターの音が全編通してよすぎて「The Cold Part」「Gravity Rides Everything」でのツヤのあるどことなくSFチックな(アルバムタイトルで植えつけられた印象もあるだろうが)透明感のある音はとにかく琴線に触れてくるし、前作と比べるとアイザックが咆哮をかますことは減りましたがミディアムテンポでじわじわと空間を広げてくスケールは2ndでの寂びれた雰囲気がうまいこと昇華されてると思う。あとやっぱ名前の元ネタだけあって初期オウガっぽさもあって、というか前作とこのアルバムはどこ切り取って聞いてもチラついてしまいますね。

 

Modest Mouse - Building Nothing Out Of Something(2000)

90年代のEP+シングルをまとめたコンピレーションですがかなり統一した空気感があるし通して1時間未満と聞きやすく、乱雑だった2ndの方がコンピっぽさがあり、Up Recordsだし完全に同時期だしセットで聞きたくなる裏名盤。むしろ90sの彼らのスタイルを一番わかりやすく摂取できるんじゃないかというくらいで、とにかく1曲目の「Never Ending Math Equation」が名曲。カラッとしたラフなギターリフの反復とアイザックのためを効かせたボーカルのハーモニーによって風通しの良い哀愁が漂っていて、ひたすらこれを反復させ絶頂に向かってくModest Mouseの王道が続く。「All Night Diner」「Other People's Lives」も同スタイルで、ちょっと癖のある歌メロと歯切れのいいリフとの嚙み合わせとそのループ感が非常に心地よく、The Lonesome Crowded Westではそれこそ極端に暗かったり攻撃的だったり色んなタイプの曲がバラバラに盛り込まれてたのに対し、4~5分程度で聞ける曲が良い具合にまとめられていて最も普段聞きする作品かも。

 

 

Built To Spill - There's Nothing Wrong With Love(1994)

Modest Mouseと同じくオリンピア周辺のレーベルからリリースしていたUSインディーを代表するBuilt To Spillの2nd。今作もUpからですね。「Car」がとにかく文句の付け所がない名曲で静寂の中炸裂するダグ・マーシュの泣きメロも声も素晴らしすぎるし、ドラムが入ってから大きくメロディーを動かすぐにゃぐにゃのギターサウンドはストリングスも参加して美しいボーカルとも今まで静寂に寄った演奏ともそれぞれが対比になっててこのバランス感含めて名曲でしかないです。「Distopian Dream Girl」はまさにローファイといったガチャガチャとした弾きじゃくるという言葉がぴったりなギターリフが強烈に印象付けられるイントロからとにかくキャッチー、Built To Spillの透き通ったイメージとはまた違った、それこそもろPavementとかと通じるアンサンブルのごった煮感が気持ち良い一曲。どっしり構えてギター音も重い「Some」も好きです。代表作Keep It Like a Secretと比べるとノスタルジックすぎなくてサラッと聞くなら一番丁度良いアルバム。

 

Built To Spill - Keep It Like A Secret(1998)

90年台のUSインディーを代表する名盤。とにかく代表曲「Carry The Zero」の存在感は圧倒的で、透明感のあるノスタルジックなツインギターそれぞれの色を殺すことなく混ぜ合わせてしまう水彩画のようなイントロ、その上にダグ・マーシュの極上のメロディと美声が乗るんだからもう無敵でしょう。しかし本当にこの曲に限らず「The Plan」でのぐにゃぐにゃに伸び縮みするギターを軸にバンド全体で駆け上がってく多幸感溢れる後半の展開もあまりにもドラマティックだし、「Else」でのダグ・マーシュの浮遊感あるボーカルのループは一生続いてもいいというくらい心地いいですが、これもまたぶち上げすぎない、さり気ないアウトロでの展開の妙に泣ける。「Sidewalk」は湾曲したギターリフがイントロからとても印象的でこの絶妙にポップでキャッチーにまとめ上げてしまう捻くりっぷりがとてつもなく90sのUSインディー的、the pillowsのHAPPY BIVOUACはこの辺を参照してそう。本当に難しい言葉何一つ並べなくたって再生するだけで聞くものを虜にしてしまう宝石のようなアルバムだと思います。Dinosaur Jr.やPavementSuperchunkと並びこの時代のUSインディーの音を自分の中で確立してしまったアルバムの一つ。OGRE YOU ASSHOLEへの影響もめちゃ強いですね。

 

Pavement - Wowee Zowee(1995)

もしオールタイムベストを作るとなったら真っ先に上がる永遠の名盤。Wowee Zoweeを聞いてPavementは特別なバンドになったし、そこからUSインディー及び海外のローファイやオルタナと括られるシーン、TSUTAYAに置いてない音源を探すためにライブがてらユニオンや都内のレコ屋に通うきっかけになった。このバンドを知るきっかけになったWithout Soundsの特集記事には本当に感謝しています。1stや2ndでのスカスカでオンボロな演奏、ヘロヘロなボーカルにグッドメロディと言った要素で定着してしまったローファイという概念を、本人たちも自覚した上でこねくり回して単純な録音の悪さとはまた違ったニュアンスの「ネジ一本外れた感じ」を意図的に仕上げていった一つの到達点のようなアルバム(だと思っている)。初めて聞いた「Rattled By The Rush」での捻くれたギターフレーズやおもちゃみたいに散りばめられた気の抜けた効果音には強烈に惹かれるものがあったし、「Best Friend's Arm」での明らかに壊れたテンションや投げやりにも聞こえるヘラヘラなボーカルだったり、共通するへなちょこ感がどうしようもなく魅力的で、このチャーミングな抜けた感じに「ローファイ」という言葉を当てはめてしまいたくなるマジックがあると思っている。個人的には「Grave Architecture」が最も好きで、力の抜けたダウナーな雰囲気がアルバム全体を象徴してると思うし、捻りの効いたスカスカなアンサンブルのおかげでメロディーの良さも際立っていて初期と比べても隙間があるのが今作の特徴だと思う。「Kennel District」は1st2ndの作風が好きだった人にも真っ直ぐに突き刺さるはずだし、「At & T」も脱力しすぎて完全に崩れ切ったボーカルが印象的なのに泣けてしまう。代表曲ですが「Grounded」もやっぱり名曲。どの曲が一番好きかって話をするのが楽しいアルバムだと思うし、こんなに1曲1曲聞き進めるのが楽しかったアルバム他に無いです。

 

Pavement - Brighten The Corners(1997)

前作のちょっと崩した雰囲気をそのまま血肉としながらポップミュージックとして出力し直したようなとても聞きやすい4th。Pavementの中で最も人懐っこいメロディーが堪能できると思うし、それこそWeezerのBlue AlbumやNirvanaNevermindと同じようにジャンルの壁を破壊して金字塔になれるような力もありそうな、それでいてしっかりバンドの特徴が反映されたアルバムかと。開幕「Stereo」はバンドの代表曲にして、まさに前作で培ったネジ一本抜けた感じをここまでわかりやすく説明できる曲ないのではないでしょうか。イントロの気が抜けたギターの音やぶっきらぼうなベースライン、サビでヘタレっぽくやけくそに叫びまくるマルクマスは聴いていて爽快。「Shady Lane」「Blue Hawaian」あたりは純粋の極上のメロディーの良さがあって歌もののペイヴメント作品としては今作が一番光るものがあると思うし、とくに「Date With IKEA」はマルクマスだけではなくスコット・カンバーグのメロディーセンスが大爆発していて、意外と解散後にローファイとはかけ離れた路線に向かってくマルクマスとは逆行してPavement直系のグッドメロディを書き続けるスコットの片鱗が見える曲じゃないかと思います。それゆえ前作までのぶっ壊れ感はそこまで大きくなく、むしろ次作にも通じてくるフォーク/カントリーっぽいゆったりとした風情がとても心地いい作品。

 

 

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