朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography⑱

前回(discography⑰ - 朱莉TeenageRiot)、前々回(discography⑯ - 朱莉TeenageRiot)に引き続きUSインディーです。


 

Silkworm - In The West(1994)

最初期はUSインディーの伝説Guided By Voicesと同じように自主制作のカセットでリリースしてたようで、それを除くと今作がフルアルバムとしては初、Silkwormと言えばほとんどの作品をアルビニが手がけたことで有名で今作も勿論アルビニ録音。元々アルビニの親が学校の教師をやっていてその生徒がこのバンドのメンバーだったという縁があったみたいです。で1st、枯れきったボーカルとアンサンブルはもうすごくくたびれていて、グッドメロディだけど所々ヘロヘロでメロディーが砕ける部分も多々あるし演奏も最小限というか、後のSilkwormと比べてもかなりギターの音も抑え目。しかしながらやっぱりアルビニなのでこういう隙間のある録音とそれを切り裂く硬質なギターの対比は映える。むしろこの路線聞いていると2000年以降フォークやカントリーに向ってったSilkwormの源泉はちゃんとここにあるなと思う。

 

Silkworm - Libertine(1994)

こちらもアルビニ録音。このあとMatador RecordsからFire Waterを出すわけですがその直前ということで1stと比べるとかなりパワフル、リフも強力になってリズム隊もガンガン走ってきて、パンクやハードコアとも違ったこの勢いは素直にパワーポップとかとも通じそうな名曲「Cotton Girl」が象徴的なアルバム。ですが、他はやっぱりそんなに元気は無い、1stの延長のくたびれた、間延びした雰囲気を残しながらもジャリジャリのギターを挿入してくるのがすごく印象的な1曲目「There Is A Party In Warsaw Tonight」に痺れる。音色を垂れ流すという言葉がぴったりの不協和音とこのバンドの持つダルダルさとの調和具合がおそろしくかっこよく、もし自分がこれからバンド組むことあれば絶対コピーしたいと思う。驚くほどにスカスカだった1stと比べるとかなりギターが分厚くなって不協和音感も増したので、硬質でジャンクな質感はポップなポストハードコアとしても聞けるかもだし、だからこそ対比となるこのバンドの持つ枯れっぷりが染みてくるようなメロディーの良さと音色の気持ちよさは唯一無二でしょう。

 

North Of America - Elements Of An Incomplete Map(1998)

カナダ出身North of Americaの1st。後にマスロックにも接近して硬質でジャンクなポストハードコアな側面も持つバンドですがこの1stでは非常にUSインディーの色が強く、というかPolvoやGuided by Voicesが大好きだったんだなという愛がアルバム聞いてると色んなとこから伝わる。1曲目の「Cities And Plans」からジャンクなギターを弾きじゃくり力の抜けたグッドメロディが乗っかるのですが、この頃から後のエモ~ポストハードコア路線が存分に詰まってることを理解させてくれる今にもはちきれんばかりの投げやりなシャウトが途中から炸裂し演奏に負けじと並走、エモへと昇華しながらもあくまでUSインディーとしてやってしまってるというか、いいとこどりしたようなジャンルの魅力が全部詰まってるんですよね。「Time Changes Technique」は既にちょっと次作のマス路線も垣間見える隙間のある曲ですが、グルーヴを練り上げ曲自体が複雑になってく後期と比べるとかなりシンプルにスイッチのオンオフがわかってめちゃくちゃ良い。エモとUSインディーの境界線のギリギリインディー側にいるのがArchers of LoafやSuperchunkだとしたらNorth of Americaはその目と鼻の先のギリギリ境界の向こう、本当にライン一歩踏み超えたエモ側に立っているバンドだと思います。

 

North Of America - These Songs Are Cursed(1999)

エモというジャンルにおいて好きなアーティストは何かを議題にして人と話すたびに自分がまず名前を挙げるのがこのNorth of Americaで、その中で最も好きなアルバムは?と聞かれたらこの「These Songs Are Cursed」を挙げる。前作をそのまま押し進め、いやもうちょとポストハードコア色を強めはしたけど完全にそっちに行ってしまう次作「This Is Dance Floor Numerology」の一歩手前。まだまだ曲によっては単独で聞くと少なくともポストハードコアとはまるで思えないくらいインディー色強い楽曲も半々くらい散りばめられていて、「Extent Of The Apse Outstretched」とかSuperchunkとかPavementと並べられますね。全体的に硬質でつかみどころが無いアンサンブル、ちょっとマスロックっぽさも出てきた予測不能な曲展開、とは言っても00年代エモのイメージにあるエモリバにも通じるアメフト以降やポストロックっぽさはほとんど無く、Dischord Recordsの面々が持っていた指の合間をすり抜けていくキメの感じというか、これはPolvoの遺伝子も存分に受け継いでると思っていてむしろエモ文脈で再度合流させてるような感じ。00年代以降のDischord周辺シーンとしてのQ and Not UやFing Fang Formとも近い雰囲気ありますが、インディーロックの遺伝子がうまいことその路線を微妙に外している感じがよくて「Built Sought Destination」もPolvoっぽいイントロからエモへと合流。ハードコアに寄せながらUSインディーとして聞ける側面も薄めることなく成り立ってしまった奇跡的なバランスのアルバム。

 

Superchunk - No Pocky for Kitty(1991)

Superchunkと言えば自主レーベルMerge Recordsの印象が強いですが、91年の今作はまだMergeではなく普通にMatador RecordsからリリースしていてNirvanaの次と期待がかけられていた(らしい)2nd。しかし彼らはメジャーの手をとることはなくむしろMergeにおいて自分らの作品だけではなくMagnetic FieldやPolvoと言った周辺シーンのインディーバンドをフックアップしていき、メジャーどころかインディーズ大御所として今でも君臨し続ける生きる伝説へ。レーベルとしてのリリースだけでなく普通に本人達の新譜もバンバン出てますね。

No Pocky for Kitty、初期のSuperchunkはかなりパンク寄りで、彼らの持ち味である空間を引き裂くスカスカで鋭利なギターリフは開幕の「Skip Steps 1 & 3」からたっぷりと堪能できる本当に最高の1曲。エネルギッシュなボーカル含めこの勢いはメロコアにも通じるものが充分ありつつそこまではいかない、傷だらけで駆け抜けてるような純然たるパンクロックっぷりがすごく気持ちの良い作品というか、いわゆるPavementやDinosaur.Jrを代表するヘロヘロで肩の力抜いたUSインディー的な色とはまた違った雰囲気があります。彼らがエモだったことは一度も無いと思いますが、このアルバムと前作1stは後にエモと呼ばれるバンド達に多大に影響を与えたのではないかというプロトタイプ感も強い。アルビニ録音ですが当事のアルビニのイメージにあった、ハードコア系のヒリヒリした緊張感や重さより、バンド演奏の勢いやエネルギーそのものを無加工でパッケージした別の魅力があって、Cloud Nothingsがコロナ以降に初めて集まってレコーディングしたアルバム「The Shadow I Remember」でのアルビニ録音はこのアルバムを思い出しました。

 

Superchunk - Foolish(1994)

4thで今作はMergh Recordsからの自主リリースへ。2ndの頃はまだMergeにアルバムをリリースするためのリソースが無かったという事情もあったみたいですが、この頃は流通にTouch and Goが関わってたり、前作On The MouthではSwami Recordsのジョン・レイスがプロデュースしたりと当事のUSインディーシーンでの横の繋がりも見えてくる。レーベルで音楽を聴くという行為を最初にしたのもこのアルバムがきっかけだったので思い出深い。アルバム再生して開幕の「Like a Fool」はcinema staffやpeelingwardsで知られる辻氏主催のLike a Fool Recordsの元ネタだと思います。

初期のパンキッシュさはなりを潜めたペースを落としてメロディを大切にした曲が多く、前作までのマックのハイトーンなボーカルによる無邪気なエネルギッシュさとは打って変わって切なく甘いメロディを見せる今後の路線のきっかけにもなるアルバム。ハードコア経過後のエモやポストハードコアのような硬質なギターの密度はなくむしろスカスカ、しかしエッジは効いていて、未だに人気のある代表曲「Driveway to Driveway」もエモ前夜っぽい雰囲気があるけど様式美には乗らない泣きメロの名曲。ですが個人的に次に始まる「Saving My Ticket」は彼らの全曲の中でもベストに上げたくなる。代表作である5thよりも今作の方が好きだったりします。

 

Superchunk - Here's Where the Strings Come In (1995)

Foolishから1年でリリースされた正統な続編にして代表作5th。開幕のHyper Enoughはハイパーイナフ大学やHYPER ENOUGH RECORDSと言ったサイトのタイトルの元ネタにもなったであろう、というか前作のLike a Fool Recordsの名前もこの辺のリスペクトだと思うし、SuperchunkDIY精神がこうやって国内でのレコ屋や個人サイトに受け継がれている感じがしてすごく好きです。

エッジが効いているのにチャーミングでつい口ずさみたくなるフレーズは決定的に曲をキャラクター付けしてしまう、Superchunkにしかない彼らをSuperchunkたらしめるギターリフが爆発する「Hyper Enough」はもうイントロから最高の自己紹介であり、そして後のチャンクへずっと地続きの本当に代名詞みたいな新しい幕開けとして相応しすぎる名曲。同じようにリフのキャラクター性が際立つ「Yeah, It's Beautiful Here Too」も最強だし、Hüsker Dü後期やSugarとも呼応しながらハードコア性をオミットしてった彼らのスタイルが完全に確立されていて、数年後のCome Pick Me Upで昇華されるマックのSSWとしてのメロディの素晴らしさに並ぶ程に良い曲しかない。Come Pick Me Upはジム・オルークとの共作でポップネスが爆発した色鮮やかなアルバムでしたが、純粋なバンドの熱量としてそれこそ1stや2ndのパンキッシュさから続く快進撃のその先、区切りというか絶頂期にあたるのはこのアルバムじゃないでしょうか。

 

Polvo - Today's Active Lifestyles(1993)

ノースカロライナ州チャペルヒル出身、同郷であるSuperchunkのMergh Recordsよりリリースされた代表作2nd。Polvoがマスロックの祖として扱われる源泉はおそらくこのアルバムじゃないかと思われるであろう1曲目「Thermal Treasure」から次々とギターフレーズが炸裂し、自分の脳内でこの音、このリズム隊の感じだと次こうくるだろうという予想を見事に外してくるような、バンドとして計算されたものなのか気まぐれなのか偶然なのかわからない、テンション不明の組み立て方は聞いてるこちらを置き去りにしながらザクザクと音を刻みとにかく爽快。リリース時期ほぼ被ってるRodanもマスロックの祖として有名ですが、PolvoやRodanを当事一緒に聞いた人達が衝撃を受け新しい可能性を模索してったんじゃないかと思う。次作のExploded Drawingではジャケットからもオリエンタルな雰囲気が出てきますが、今作でも「My Kimono」というタイトルからいかにもな名曲インストがあったり、抒情を出しつつも名曲足りえるポップなメロディーとは若干不調和な感じに困惑する。

録音はShellacのボブ・ウェストンで、彼のアルビニ程生々しすぎないバンドのゴスゴスとしたリズム隊の重さ、響きを重視するようなソリッドな音のスタイルはこの目まぐるしく展開していくPolvoの魅力にかなり貢献してると思います。それこそ彼が担当した作品と言えばRodanやJune of 44が有名ですが、Polvoの諸作はそこと並んで好きなアルバムだし彼の経歴でもとくに好きな時期だったりします。