朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography⑰

前回(discography⑯ - 朱莉TeenageRiot)に引き続きUSインディーです。


 

Superchunk - Come Pick Me Up(1999)

チャペルヒル発のUSインディー大御所Superchunkが99年に発表した7th。Wowee Zoweeに次いでUSインディーの好きなアルバムを上げろと言われたら名前を挙げたくなる個人的に永遠の名盤。このアルバムに関しては前作の「Indoor Livinb」同様スティーヴ・アルビニジム・オルークがそれぞれ関わっていて同体制、てことで前作と地続きの、外部の楽器をバンドサウンドに取り入れて新しいことをやろうとしてる感じもあって、美しいストリングスのアレンジが曲の色んなころにあるしマックのいつも以上にセンスが爆発したどこ切り取っても宝石のような泣きメロとの相乗効果もやばいです。かと言ってアルバムに対してしっとりとした印象はなく、Superchunkらしい爽快で飛びはねたギターフレーズ、パンキッシュに駆け抜けてくエネルギッシュな快活さもちゃんとあって、それらが別々ではなく一つの流れとして接合されているのがもう完璧。

とにかく1~5曲目のA面の勢いがすごすぎる、「Hello Hawk」「1000 Pound」「Good Dreams」とアルバムに1曲あればいいレベルの名曲がポンポン飛び出してきて素直にこんなにいい曲一つのアルバムに詰め込んでもいいんだ?と思ってしまった。Hello HawkのSuperchunkらしい爽快なギターリフはイントロからもう最高ですが、バンドの勢いとは対照的にストリングスも迎えた色鮮やかなアレンジも美しく、そのまま歌詞でアルバムタイトル「Come Pick Me Up」を回収、なんやかんやまた冒頭のギターリフに戻ってくるという展開に涙無しには聞けない。1000 PoundもHyper Enoughから地続きのSuperchunkらしいリフのセンスが炸裂していてギター音なぞるだけで泣けてしまう。こういうギターリフ1本で曲にキャラクター性をつけるのがうますぎる。Good Dremasは昔馴染みのあるパンキッシュなナンバーだと思って聴いてるともう一捻りあってこちらも最高です。アンサンブルもメロディーもアレンジも少しずつ研磨してきた彼らのその先が全部ここに直結してるんじゃないかと思えるような、一体何があったんだと逆に心配してしまうくらいエネルギーに満ち溢れた、余裕で全てシングルカットできると言っても過言ではない恐ろしいアルバム。

 

Superchunk - Here's to Shutting Up(2001)

Come Pick Me Upの次作8thにして活動休止前の最後のアルバム。マックが言うにはキーボードをフィーチャーしたそうで1曲目「Late-Century Dream」からそれはすごく象徴的で、ギタードラムベース一体となったバンド全体で一つの和音と表現したくなるようなコード感にぐっとくる。個人的には95年~のミディアムテンポな曲が増えてきたSuperchnk後期の瑞々しさにさらにちょっとギターポップみが添加された雰囲気で、Come Pick Me Upと地続きというよりは前々作「Indoor Living」の流れを汲むアルバムだと思う。アコースティック色も増えてCome Pick Me Upの熱量と比べるとゆったりとした風通しの良い曲が多く、休止直前のちょっとくたびれた雰囲気も感じますが、だからこそこの時期にしかない風情というのも間違いなくある。生音すぎない立体的なドラムの録音がすごくよくて今作アルビニではなくSlintやWilcoでも知られるブライアン・ポールソンが担当。かなり好きなプロデューサーだったりします。

 

Superchunk - Cup of Sand (2003)

B面やアルバム未収録のシングル曲、アウトトラックスをまとめた3枚組みコンピですが裏コンピと侮れないくらいとにかく良い曲しかない。開幕「The Majestic」からなんてったってCome Pick Me Upと完全に同時期1999年のシングル、しかもめちゃくちゃパンキッシュで、エモにもポップパンクにもならないSuperchunkの魔法がかかった最高の疾走ギターロックアンセムが続くし後の「A Small Definition」も90s中期でありFoolishやHere's Where The Strings Come Inと同時期なのだから驚くほど良い曲しかないです。リリースが多いだけあってライブ通ったりリアタイで追ってないと後から気付きにくいアルバム間でのEPやシングル等、その辺の決して見逃せない名曲たちを掬い取ってくれたようなアルバム。コンピなのでカバーも多いんですが、ボウイの「Scary Monsters (and Super Creeps)」はもうバンドの代表曲と言っても遜色がないくらい素晴らしく、イントロの空間を引き裂く大音量の鋭利なギターはインパクト大、個人的にはNUMBER GIRLも想起するSuperchunkの曲としても新境地に達した唯一無二のアンセム。A面の傑作EP郡まとめとこの曲だけでもオリジナルアルバムに匹敵する作品だと思います。

 

Polvo - Exploded Drawing(1996)

USチャペルヒル発、最初は同郷のSuperchunkが主宰するMerge Recordsからリリースしてましたが3rdにして今作はTouch and Goから。Shellacのボブ・ウェストンがプロデュースしていて彼とTouch and Goの結びつきも非常に強い時代ですね。名曲「Fast Canoe」から幕を開けこの曲のくねっとした気の抜けたギターリフの雰囲気はPavementやSilkwormが持ってる脱力感やひねくれっぷりと重なりUSインディーバンドとしてすごく惹かれるものがあった。このギターリフを何度か繰り返したところでアンサンブルを切り替えながらギタードラムベース、全パート1本のギターリフに追随するようにバンド一体で動き出す展開は今聞いても胸が熱くなります。ちょっとチープなジャケも最高でどことなくアジアンテイストなオリエンタルな雰囲気もアルバム内に顔を出す。どの曲でも予測不能な展開がとにかくすごくて、この唐突さや湾曲したギターリフからマスロック方面、それこそサブスクのサジェストでもポストハードコアと関連付けられているのは個人的にも意外だった。USインディーとして聞くとあまりメロディーはキャッチーではないのでとっつきづらさはありますが、その代わり奇妙なアンサンブルという点では急に豹変するバンドのテンションは掴みどころがなく、虚をつかれる突拍子のなさがとにかくかっこいい。かっこいいギターリフが鳴ってればOKって人にとってはこれ以上ないくらい最高のアルバムだと思います。Merge時代のジャンクな雰囲気と比べるとだいぶソリッドになったのもありフレーズの鋭角さが増しているのも熱い。

 

Archers Of Loaf - White Trash Heroes(1998)

Archers Of LoafはPolvoやSuperchunkと同じくノースカロライナ州チャペルヒル出身、そして解散後リマスターや再発をMergeが行ったりとSuperchunk周りのシーンとかなり関わりが深いバンド。てことで同時代USインディーの代表格の1人で、敬愛するブログWithout SoundsのPavementまとめ記事でもセットで紹介されてたのがとても印象深い。ソロでもMerge Recordsから出しているエリック・バックマンのボーカルは結構これ系のインディーロックの中でも突き抜けてメロディアス、ギターロックという言葉が一番しっくりきそうなシンプルなバンドサウンドはどことなくエモ風味もあって、ラフでエネルギッシュだったArchers Of Loafの初期作と比べると解散直前の4thである今作はどことなく円熟した雰囲気があり、ズッシリ構えた1曲目「Fashion Bleeds」の交錯するエッジの効いたツインギター、そしてそれををかっちりと繋ぎ止めるリズム隊からかなりかっこいい。ドラムの音がとてつもなく良く、これもアンサンブルの腰を落とした雰囲気に拍車をかけていて録音はブライアン・ポールソン、個人的に今作のFashion Bleedsを聞きライナーノーツでSpiderlandと同じ人というのを知り意識することとなった思い出深いアルバム。

 

The Spinanes - Manos(1993)

The SpinanesはSSWだったレベッカゲイツと、Built To Spillにも在籍したドラマースコット・プロウフによるインディーロックデュオ。Sub Pop発、そして最近Merge Recordsより再発とあの時代のオリンピアやチャペルヒルやらのインディーシーンの雰囲気をふんだんに纏った作品。同時期のSuperchunkと雰囲気は近く、90s中期頃に通じるミディアムテンポ+グッドメロディにカラッとしたギターサウンドの組み合わせ、しかしSuperchunkってマックのあの個性的すぎるハイトーンボイスが曲のニュアンスを作るというか性格を引っ張ってた要素がめちゃくちゃ強かったんだなということをこのバンドを聞いてると痛感する。女性ボーカルになったこともあって艶やかかつユルい雰囲気があって、でもギターのサウンドはこっちの方が金属的で、Superchunkほど分厚くないんですがその薄さのおかげでフレーズの妙やボーカルのメロディの良さとハーモニーが映える。アルバム名も冠する「Manos」はイントロがマジでめちゃくちゃかっこいいです。2018年以降の再発に入ってるボーナストラックのManosのライブ音源も躍動感ってこちらもすごくおすすめ。

 

The Spinanes - Strand(1996)

96年発の2ndで1曲目の「Madding」からとことんペースを落とした、音の薄さをカバーする間延びしたギターサウンドと丁寧に編みこまれる歌のハーモニーで空間を意識させるサウンドスケープは前作までのシンプルなUSインディーからは一転。個人的にポストロックを感じる域まで来ていて、スロウコアまでは言いませんがLowとかIdaとか、あの辺のバンドと近いものも感じてしまう。「Punch Line Looser」も同じ路線で最小限まで縮小されたリズムは最早トラック的、とびきりダウナーなボーカルがこれまた歌というよりは音色の一つくらいの存在感で重ねてきます。まぁこの2曲が極端なだけで他の曲は割と1stから引き続いてラフなインディーロック路線、「Azure」「Valency」とかはいつも通り聞けるキャッチーなアンセムになってますが、やっぱりアルバム全体通して聞くと暗いトーンが付き纏う。これによって前作にあったSuperchunkっぽさはほぼ無くなりむしろ後期Seamに通じるし、「Luminous」は後期Bedheadも感じで個人的に非常に好きなアルバム。

 

Helium - The Dirt of Luck(1995)

Matdor Records発のHeliumの1st。Heliumは90sに一度解散するPolvoのアッシュ・ボウイが参加していたバンドでボーカルは後にソロでも知られるメアリー・ティモニー。that dogやPavementっぽさもあるUSインディーでとにかくストレートにメロディが良い。ローファイやUSインディーの持つ親しみ深い崩れた歌メロの良さとジャンクなサウンドの王道を真っ直ぐに突き進みつつ、Heliumは同時代のグランジとも通じるところがあるヘヴィでザラついたギターサウンドが特徴的で、この重さと、メアリー・ティモニーのまったりとした甘美なゆるいボーカルの組み合わせがとにかく癖になる。彼女はスネイル・メイルのギターの師でもありDC出身でDCハードコアシーンとも密接、現在はFugaziのイアン・マッケイの弟アレク・マッケイと一緒にバンドを組んでたりもしていて旦那はFaraquetだったりと、Polvoのメンバーが在籍してることも含めて当事のUSインディーとDCハードコアと現在のシーンに至るまでミッシングリンク足りえるバンド。上記のSpinanesと一緒にちょっと90sのUSインディーっぽさもあったスネイル・メイルの1st原型の一つだと思うし、Speedy Ortizもめちゃ影響受けてると思います。

 

次回

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