朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

音楽を聴く環境について / 車内音楽まとめ

 

最近暖かくなってきたけど今年の冬は寒波とも言われていてとくに寒かった。寒い日にはスロウコアを聞きたくなる。職業柄、冬は繁忙期で帰りが遅くなり、肌に突き刺さるような寒さの感触を確かめながら駐車場まで歩き車に乗り込む。22時を超えた辺りから毎日走り慣れた国道は真っ暗闇へと変わり、いつもとは違う雰囲気の帰路をドライブしながらスロウコアを聞くこと以上に体に音楽が染みわたる瞬間を他に知らない。一日で最も楽しみな時間だったし、当初は苦手な要素の方が多かったはずのこのジャンルを、ここまで好んで聞くようになったのはそういう境遇も関係していたような気がする。

音楽を聞く環境、実は音楽趣味の構築においてとても大切な部分を占めてるんじゃないかと、そっくりそのまま音楽趣味の傾向が一致したもう一人の自分がいたとして、電車通勤か車通勤かとか、普段音楽を聴く場所や時間帯が違うだけでも年間ベストを作ったら全く違ったものになるのではないか。無意識だったけど今年の自分のは間違いなく「車の中で聞いてぐっと心に残ったもの」になっていたと思うし、例年より統一感があったのもそのおかげだと思います。普段聞く機会が一番多い場所ってのもありますが。

時間帯や気温などそういう些細なものでも変わる気がするし、昨年の下半期はレコードプレイヤーを買い替えたことをきっかけにそれを再生するのに安価で手に入りやすい60~70sのアルバムをブックオフの中古で探すことが増えた。これがメイン趣味になっていたらそのディグ環境から派生した音源をよく聞いてたかもと思うし、旧譜に関してはKing CrimsonやOn-Uに嵌ってたのは確実にその影響がありました。

今回は新譜旧譜とくに関係なく、改めて夜の車内で最も聴きたい音楽をメモのようにまとめていこうと思います。ジャンルで括ったわけでもなく漠然とした曖昧な基準ですが、自分の音楽趣味を形作った要因の一つがわかってくるような感覚もありました。

 

プレイリスト上に貼ってるので垂れ流しながらどうぞ。


 

Autechre - Incunabula(1993)

WARPのこの頃のIDMはどれもこのシチュエーションにぴったりな気がしますが、SquarepusherやClarkは硬質でかなり近未来SFっぽさがあり、Aphex Twinは叙情的すぎると思っていて、本当に個人差でこれは人によってそれぞれベストがあると思いますが、Autechreの1stは自然と風景に溶け込んでくるような情感が個人的に一番しっくりくる。無機質だけど暖かいんですよね、アンビエンス漂う音の膜が常に全体を覆いながらも余白がたくさんあるというか、ビートも誇張しすぎないじめっとした雰囲気が風景とうまいこと溶け合います。「Autriche」は極上で90年代のSF映画の登場人物になりきった気持ちになる。「Bike」も良い。合いすぎ。

 

ZAZEN BOYS - ZAZEN BOYS III(2006)

曲にもよりますがFriday NightやWater Frontの濁っているような、透明感のあるような、どことなくアーバンで寂しさというか哀愁漂うシンセの音色が本当に心地よくて夜風を浴びながら聞きたくなるアルバム。Tombo Gameでのふらふらと深夜の街を徘徊したくなる雰囲気も目的の無いドライブにとても合うし、何よりこのアルバム全体的にドラムの録音が生音っぽいというか、密室で聞くような鈍い感じがアルビニというよりはボブ・ウェストンっぽいと思うんだけど、この箱庭感が車という実際の"ハコ"で聞くのにすごくマッチするんですよ。ZAZEN BOYSは4もすごく夜だがリズムが練られすぎていて車で聞くというシチュエーションならもう少しミニマルさが欲しくなり、やっぱり3がベストかな。

 

Valium Aggelein - Black Moon(2020)

以前Duster関連作をまとめたdiscography⑬でも書いたDusterのメンバーによる変名バンド。再発コンピレーションとして2020年に出てますが録音されたのは97~98年かそれ以前。ジャケのイメージ通り完全に月面、これは一人でひたすら闇夜を走っているときに流すことで広大な宇宙に一人ぼっちにされたような感覚に陥る擬似サントラ。音だけで世界を作って没入させてくれる感じで、先の記事でも書いたのですが「呆然と時間が過ぎていくような」というのはまさしく車内で聞いたときの感想ですね。このシチュエーションで聞く究極みたいな音楽。

 

Good Night & Good Morning - Narrowing Type(2012)

Valium Aggeleinに連なる感じであちらがよければ絶対におすすめな2010年リリースのスロウコア名盤。走ってる感じは全く無く、ただただ"浸る"感じ。レーベル的に電子音楽アンビエントの色が強いんですがこちらもそことリンクしていて、シューゲイズとも違ったぼやけたローファイな音の幕がすごく暖かく、そこにアンサンブルが足されることで最小限のビートが骨格を作り情景が浮かび上がる冒頭2曲から極上。

 

Oval - 94diskont.(1995)

IDM大御所。暖かみのある音に身を委ねる感じは上記のGood Night & Good Morningとも近いかもしれない。不定期の音の塊が不規則に重なりながら反復し続け、音の連なりそのものがビートとして機能するとても優しい電子音楽。道路を走ってるとどうしても外の音や走行中のタイヤからのノイズは防げませんが、Ovalのこのアルバムはそういったロードノイズのような心地の良い電子音だけで構成されていて、そこともうまい具合に噛み合ってしまう。今回は入れてませんがRei Harakamiも近い楽しみ方ができて、Rei Harakamiは夜というより雨の日にドライブするとまるで雨音が曲の隙間に入る新しいシーケンスのようになり本当に心地いいです。

 

Red House Painters - Red House Painters(1993)

4ADよりRed House Painters。やっぱりスロウコアは合う。オウテカが見えてる視界と寄り添って接合してくれるというか、あくまで主体は自分の世界にある音楽でしたが、こちらはValium Aggeleinと同じく逆に没入させてくれるような、視界を塗りつぶしてくようなアルバム。とくにKaty Songの途方もなくひたすら繰り返されるフレーズとコーラス、薄く重なり続けるギターの膜はまるでどこか違う世界へ連れていってくれるかのような没入感がある。少しアメリカーナ入ってるのとマーク・コズレックのボーカルの雰囲気はまだ暑さを引きずった夏の終わり~秋頃にぴったりだと思います。

 

Deerhunter - Microcastle(2008)

Deerhunterを聞いて夜を連想するのは全ての音がぼやけたサイケデリックな音像と今にもとろけてしまいそうなメランコリックなボーカルによるものがやっぱり大きくて、夜ってのはやっぱ視覚的にも未知の世界、ふらっと散歩するだけでも特別な時間になる。自分はこの景色とか時間がとても好きで、夢心地な妄想を現実に寄り添わせてくれるような、Deerhunterの音楽には自分にとって同等のそれがある。Microcastleを初めて聞いたとき確か仕事帰りの車内、結構夜中だったと思いますが、アルバムを再生するなり1曲目のインスト「Cover Me(Slowly)」からの続く「Agoraphobia」の夢の中のような音とふわふわと繰り返される言葉の反復に全身を包まれ本当に衝撃でした。

 

Deerhunter - Harcyon Digest(2010)

前作Microcastleが情景を塗りつぶすサントラ的な曲だとしたら今作は情景に溶け込むタイプの作品。音数も少なく、だからこそ夜の闇に吸い込まれてしまうような、見えないからこそ死がすごく身近にあるような、どこか異世界との境界にいるような気持ちになる。「Helicopter」での儚さや「Desire Lines」の途方も無さは夜の車内に合いすぎて危険。本当に知らない場所へ連れていかれる感覚がある。音楽ジャンルとしては別物ですが、聞いたときの感覚として結構スロウコア的な側面もあるかも。

 

The For Carnation - The For Carnation(2000)

Slintのボーカルだったブライアン・マクマハンのバンドで今作はパホも参加してるし実質Slintの続編。そもそもSpiderlandが夜に合うのでその延長にあるこの作品が合わないわけなく、Spiderlandからハードコア成分を抜き取ってより余白を大切にしてスロウコア/ポストロックへと振り切った作品。狭い穴に糸を通すような細いアンサンブルは車という小さなハコ=独りぼっちの密室で聞くには極上です。ダブ要素もあってすごくいい。マクマハンのボソボソと喋るようなボーカルも相変わらずで、車のロードノイズとも相性が良い。

 

Depeche Mode - Exciter(2001)

90年代までのデペッシュ・モードのイメージとは少し違った、ニューウェーブやエレポップというよりは完全にテクノ/ハウスやIDMと言った電子音楽側になったような気もする2001年作。LFOのマークベルが関わっているのもめちゃくちゃ大きいのでしょう。LFOもすごく合うけどどちらかと言うとあちらはクラブで聞きたい。小刻みなビートの反復は無心で走っているときに本当にぴったりで、電子音のアタックも強くなくてじめっとした沈み込むような音色でビートが構成されてるのがすごく丁度いいです。あと暗い。ちょっと湿っぽい感じが良い。

 

David Bowi - Outside(1995)

ベルリン三部作以来、再びブライアン・イーノと組んだボウイの95年作。めちゃ暗いですね。sevenでも知られる「The Heart Filthy Lesson」が夜の車内とのマッチングっぷりは凄まじく、同期したビートにヘヴィなリフが乗りどことなくスマパンのAva Adoreも思い出す曲で、割とこういった大御所が90s後期にグランジ/オルタナに接近していたというのは盲点で昨年聞いて衝撃でした。確かにこの時期はTin MachineとかもあったりPixiesをカバーしてたりでオルタナ方面への興味があったことが伺えるし、デラックスエディションではトレント・レズナーのリミックス版が存在していてこのインダストリアル仕様が最も合う。昨年ドライブ中に初めて聞いてドハマりした。

 

Joy Division - Unknown Pleasures(1979)

Disorderを聞きながら窓開けて風を感じてる時間は生きてて最も幸せな時間の一つ。この時代のポストパンクは個人的に車のウーハーとかともあんま相性よくなかったりするんですが、ジョイ・ディヴィジョンはとにかく不穏で籠っていてなのにどこか哀愁があるのが本当に風通しよくてすごく良いですね。

 

The Sound - Jeopardy(1980)

Joy Division直系ネオサイケ。Heartland聞きながら窓開けて風を感じてる時間は生きてて最も幸せな時間の一つ。こっちはキラキラとしたシンセの音が足されてて80sっぽさもあって煌びやかですね。アップテンポなんで駆け抜けてる感じも良い。それ以外の曲も適度に隙間があって怪しさと吹き抜けの良さが同居していて良い感じです。

 

Nisennenmondai - Destination Tokyo(2009)

2009年作。後期NisennenmondaiのN以降で主流となる、無機質で規則的なビートの反復と、初期のノイズロック然とした爆音ポストパンクのダイナミズムを完璧に融合させたアルバム。というか単純に途中経過なだけかもなんですが、その貴重な一部分が切り抜いて保存されている。作業のように繰り返される一音のみのミニマルなビートがとにかく走行中無心で聴いててたまらんし、これを肉付けしてく各々のパートも最初はスカスカなんですが、バンド全体の熱量ががじわじわ上がってダンサンブルになってくのも作業的に聞きながら全く退屈しなくて熱中してしまう。

 

HiM - Our Point Of Departure(2000)

ダグ・シャリンのソロユニットHiMの2000年作。メンバーはほぼ解散直後のJune of 44で、彼らが徐々にダブ~ジャズの影響が強いポストロックへと向かっていった原因を抽出したようなアルバム。完全にジャズ側の作品で手数が多いけどミニマル、みたいな、ベースラインがよく動くのにフレージングだけで曲全体にミニマルな印象を纏わせている。このフレーズの反復が走行中とても心地がいい。常に空中を漂う左右のチャンネルを行きかうダビーな音響も表情豊かで、上記のDestination Tokyoもそうだけどミニマルなループを芯としながらもある程度変化もある曲がハンドルを握り景色が移り変わる運転中にとてもとてもしっくりきますね。1曲目からArrival→Liberation Part I→Part II→Third Wishと途切れず組曲のようになっていて、曲調を変化させながら長いこと楽しめるので長期ドライブにもうってつけです。

 

Buffalo Daughter - Psychic(2003)

開幕のCyclicはとにかく最高で電子音要素強めですが上記のNisennenmondaiと完全に同じフィーリングで聞けるし、アウトロから次に続くPsychic A-Go-Goと常に走っている。夏に是非。SF感も強くて強力な車に乗ってる気持ちになれる。

 

Pot-pourri - Diary(2022)/Sam Prekop and John MacEntire - Sons Of(2022)

年間ベスト記事で「車でよく聞いた」という切り口から取り上げた2枚。あのときは無意識というか素直な感想でしたが、今回の発想の大元でした。たぶんそれぞれのアルバムの1曲目が昨年最も車で再生時間が長かった曲だと思います。

 

Radiohead - Karma Police

霧深い日とかに狭い道運転するのめっちゃ怖いですよね。そんなときこの曲を流すとPV再現でワロタ!となり全く怖くなくなるのでとてもオススメです。

 


中学生の頃、母親の車に全部音が籠もっちゃうような音質最悪なカーステレオがついていて、そこから流れてきたKula Shakerの「Hey Dude」が爆音ガレージサイケのようになってて衝撃を受けた。そこからTSUTAYAでアルバムを借りて聞いたらクリアすぎて全くの別物でがっかりしたという経験がありました(今では大好きな曲です)。車によっての音質、カーオーディオの性能にも左右されると思うし、それだけで曲の感想も違ったものになってしまうのであてになるかわからないけど、一つの視点としてどうぞ。僕はこれ選びながらやっぱりかなり影響を受けているというか、あれ車で聞きたいなとか家ではしっくりこないけど車でよかったら繰り返し聞こうかなとか、そういう無意識からどんどん音楽趣味がここ数年形作られていったんだなというのがハッキリ見えてしまった気がします。ジャンルでは括れない一貫性があるし、その一貫したものに引っ張られていたんだと思う。

ちなみに車はホームオーディオ程お金を掛けずにそれなりの再生環境を整えることができるので、毎日使われる音楽好きの方は是非ともオススメです。何よりハコというパーソナルスペース感がとても良いですね。自分は10年前のサイバーナビ+スピーカーはKenwoodのXSシリーズ(3万しないくらい)+ウーハーも同社のSW11(2万しないくらい)を使ってますが充分すぎる程良いです。純正OPで揃えるのと金額的にも変わらないし、もっと安いものでもセパレート+ウーハーつけるだけで純正からは劇的によくなるので参考までにどうぞ。個人的にウーハーは必須です。