朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

JUNE OF 44 Japan Tour 2023

行ってきました。奇跡の来日。June of 44に関してはこのブログで何度も取り上げさせてもらっていて、ディスコグラフィやバンドの前身及びその後をまとめたこちら

に始め、各種discography(discography カテゴリーの記事一覧 - 朱莉TeenageRiot)と題してまとめているアルバム感想記事もdiscography③以降はほとんどがSlintやRodan、June of 44に連なるルイビルシーンを中心とした選盤をしています。その権化ともいえるJune of 44が再結成、そしてライブを見る機会ができたことはもう感謝しかなく、リアルタイムで見れなかったからこそ、当時の人達が一体どんな衝撃を受けたのかというのを擬似的に想像することもできました。

というわけで東京公演の新代田、下北沢の両日とも参戦。2020年に来日予定はあったのですがコロナの影響もあって見送り、それが時間をかけてこうやって実現してくれたことに感謝しかない。元々90年代に解散していたのが2018年、Uzedaの周年ライブにゲストとして誘われ、アニバーサリー的な一時的な復活を好まなかったメンバーはもう再結成という形で活動を開始。そのまま新譜が出るスピード感にも驚くし、同じ時代を生きたUzedaとのTouch and Goを縁にした繋がりも熱いです。

 

2023/3/9 (Thu) at 新代田FEVER

初日は新代田FEVER、平日ながらかなり入っていて物販の充実っぷりもすごくて各種LP、そして最新作のCDが1000円だったのも驚愕。そもそもチケット代5000円が安すぎる。主催のimakin氏が2020年から個人でバンドと連絡を取り続けていて、各ライブハウスのスタッフや周辺バンドと協力しながら作り上げていったイベントのようで大きなプロモーターを通したらこの価格にはならなかったんじゃないかと思うし、本当に素晴らしいイベントだったと思います。対バンも全てのアクトが楽しみでこの日はVINCE;NTにPOWER、最終日では北海道からDON KARNAGEが参加するのにもかなり驚きました。

 

VINCE;NT、Young WidowsとKyussを混ぜたようなポストハードコアやドゥーム/ストーナーな要素どちらも持ったバンドで自分は5kai、quiquiやuri gagarnのライブに行ったとき対バンで結構見ていて何かと縁があります。ちなみにquiquiは名古屋公演に演者として出演(これもすごすぎるチョイスで是非見たかった・・・!)、uri gagarnはこの日会場でフロントマンの威文橋氏を見かけました。でVINCE;NT、割とイメージ固まっててセトリも知った曲が多かったけど、June of 44の前座と意識して見ることでリフやハーモニクスの雰囲気がそういったルイビル系~それこそSlintとのフィードバックも感じれて自分でも驚いた。あと会場がいつもより広いのもあり、こんだけ爆音でリフもパフォーマンスもスケールがバカデカいので本当に映えたし、おかげで音の分離もよくて全てを飲み込むような轟音の中でも各々のアンサンブルをここまで堪能できたのは初です。この機会で見れてすごくよかったし、是非次も大きな会場で見たい。

 

続くPOWER、すごすぎた。何よりライブ前のMCが熱かった。90年代当事インターネットも無いなかレコ屋に通いながらJune of 44を聞き、それをきっかけにメンバーのCodeineやRex、HooverやRodanを聞いて影響を受けてきたこと、00年代にShipping NewsやLungfishが来日したとき当事組んでいたZで対バンしたこと、今回主催のいまきん氏に声を掛けたら快諾してくれたこと、そしてPOWERとしての1stアルバムをようやく出せたこと(しかもこの日が発売日でした)、これらを泣きながら、掠れ声でMCを語る彼らの姿は本当に今日が特別な日であることを強く実感させられてしまった。POWERを名乗りながらも平均年齢50歳の3人でパワーはもうないですが・・・と語ってから間髪入れずイントロが始まりライブへ。圧巻。このMCと締め、そこからのギャップのある出音から説得力しかなくて泣くし、気持ちを全て持ってかれたと言っても過言ではなくここまでJune of 44と対バンすることが相応しいバンドもいないと思います。当事Zで活動しもうレジェンドとしてキャリアを積んだ上での完全に円熟したポストハードコアのその先、独自のサウンドを完成させ何にも換えることができない、ポストパンクに近くもそうとは形容し難い強靭な3ピースの個性の塊。線の細いギターは隙間はあるけど手数が少ないわけではなく、音楽性にとらわれずバンドアンサンブルは変幻自在、和を感じるボーカリゼーションも完全にオリジナルでした。ヤバすぎる。何よりベースがソリッドでえぐいくらい低音の響くザクザクとした音で、これでユニークなフレーズを反復させバンドの中心として支えているのがそれこそJune of 44のフレッド・アースキンのようだ。これを見れただけでも元はとれるというか、その場でCDも買いました。

 

June of 44、正直もうリハの時点で泣いてしまう。フロントマンのジェフ・ミューラーに関しては彼が活動していたRodanやShipping News含め本当に大好きで、彼の情報を少しでもと幾度となくネットの海に潜りインタビューや動画を漁った雲の上の、憧れでしかない人が、すぐそこに立っているという事実が本当に感慨深くて、ステージの上でギターをちょろっと弾いたりセッティングしてるだけでも叫び声を上げそうになってしまう。来てくれてありがとうございます。ライブ通いもすっかりライフワークになった今、まだこういう感動があるのだなと自分にも驚いた。フレッド・アースキン、ダグ・シャリン、ショーン・メドウスもライブ動画で何度も見た面々が並び荘厳でした。

そしてライブ、「Does Your Heart Beat Slower」からして目の前で演奏する姿を見るだけで、もう全く音源とは違う異常なフレージングがすごすぎる。「Of Information & Belief」「Anisette」「Have a Safe Trip, Dear」「Cut You Face」と代表曲が続くかなりヘヴィなセトリ。まるで4人それぞれが違う曲を演奏してるような雰囲気すらある複雑なフレーズの絡み合いが、何故かこの4人で合わせると1つの曲になってしまうような、彼らはマスロックの元祖として有名だがそれはたぶん生演奏を聞いて、ライブで、フィジカルで見てこそわかる異常なグルーヴを体感した人達が影響を受けたのではないだろうか。しかもマスロックのような拍子が切り替わる基点やキメもなく、最初から最後までずっと動き続けるのでどのパートの、どのリズムを軸にして聞いたらいいかわからない。聞き覚えのある曲ばかりでもライブで見るとこんなマジックがあるんだなと。Led Zeppelinがハードロックの始祖として有名だけど彼ら自身はハードロックではないのと同じように、June of 44もマスロックの起源の一つではあるが彼ら自身はマスロックではないと思います。もうジャンル名で括ること自体不可能、ルーツを辿ることすら野暮な気がするこの4人でしか成しえない音が鳴ってました。

あとこれはわかりきってたことですがリズム隊がやっぱり超人。HiMでジャズに向かった2人もJune of 44ではあの頃と地続きのパワフルな演奏なのも驚いた。とくにダグ・シャリンはこんなに楽しそうにドラムを叩く人見たことないというくらい生き生きとしているし、全員が躍動感に溢れている。ショーンのギターもリードというよりはジェフと二人で曲を彩ってくリフの差し引きのバランスも見ていて異次元で、サラッと、すごくラフというか彼も楽しそうに弾くんですよね。もう大御所、レジェンドながらもすごくフレッシュで、間違いなく「今」のバンドであることをまじまじと実感する。しかしダグ・シャリン、本当にすごい。ハイハットの繊細さ、それ以外の超パワードラムでの静と動の対比を完璧にやりのけてしまうすごく表情豊かなドラミング。なによりフレーズの塊とも言える、リズムキープよりもギターリフみたいな発想というか、キャラクター性のある独特なフレ-ジングをループさせながら切り替えていく、フレッド・アースキンのジャズやレゲエの影響が強い動きまくるベースと二人で屋台骨となる凄まじいグルーヴは生で見ると圧巻でした。

セトリは「Cut You Face」を基点に後半はAnahataや最新作の色が強くなるイメージ。「Have a Safe Trip, Dear」は緊張感が凄まじく10分間があっという間だし1本のギターリフを軸にラウドに加速する後半は本当に熱かった。やはり1st~2ndの頃はジェフが主体だったのもあってリフの断片は結構RodanやShipping Newsと地続きなんですが、リズム隊がここまで個性強すぎるとまるで別もの。おそらく後期のポストロック化も、時代の潮流というよりはあの二人のプレイにめちゃくちゃ影響されて自然となってったような気すらしてしまう。新曲で仮タイトルだった「Sun Tiki」もすごくよくていつリリースかはわかりませんが音源化が楽しみです。

 

2023/3/12 (Sun) at 下北沢SHELTER

なんとチケット完売。前日の京都も完売していたし、僕の見てる限りではTwitterなどのSNSでJune of 44を初日に見た人、京都や名古屋で見た人の口コミがめちゃくちゃ広がっていて(自分自身かなり騒ぎましたが)それもあり直前にかなり売れたようです。ここまで満杯で圧迫感のあるライブハウスいつぶりだろうというくらい人がいて、この感覚もコロナ前以来だしかなり久しぶりだった。

そしてこの日驚きだったのはDON KARNAGEでしょう。札幌ハードコアシーンを代表するバンドで来日に合わせて東京まで遠征してくるというのが嬉しすぎる。僕は普通に単独で関東くることあれば見に行きたいとずっと思っていたバンドで、COWPERS、SPIRAL CHORD、zArAmeで知られるゲンドウ氏がプロデュースするDISRUFFからリリースしていたり、完全にそっちの音を現代に受け継ぎ代表するバンド。知人に旭川のバンドマンがいるのですがそちらのシーンでも有名で、とくにTG.Atlasという現代の北海道ポストハードコアを代表するバンドのメンバーが旭川のライブハウスを運営していて、DON KARNAGE、そして昨今だとthe Hatchのメンバーもそこでお世話になっていたという現行のシーンが存在している。その象徴とも言えるバンドをJune of 44の前座として見ることができたのはとても貴重な体験でした。

そんなDON KARNAGEのライブ、衝撃でした。完全にぶっ飛ばされたし、僕はもう少し激情やGravity、最初期のストレートにハードコアをやっていた頃のDischord Records直系だと思ってたんですが、今回新譜多めのセトリで雰囲気はかなり変わっていた。ディスコーダントな硬質で不協和音を生かしたコードワークや鉄のごときリズム隊を軸に、スクリーモではなく割としっかりメロディが乗っていて、エモまでは行きませんが歌の要素強めのDrive Like Jehu、現代のポストハードコアとしてめちゃくちゃにかっこよかった。あと音がデカすぎる。POWERと同じく新譜が本日発売ということでZINE付きで物販に売っていて即買ってしまった。

 

そしてasthenia、こちらは激情寄りでenvyとかと雰囲気近かったですが、とある曲でもろRodanを想起するイントロをやっていてしっかりこのシーンとも繋がることを本人達の前で提示していたのも感慨深かった。Bats and MiceやEngine Downと言ったLovitte系のサッド・エモ方面とも通じそうな雰囲気があったし、ボーカルの方が自作のMoss Iconのシャツを着ていたのもとても印象深いです。

 

そしてJune of 44、初日からはセトリも変わっていて数日ぶりなのに何度見ても感動してしまう。この日はDoomsdayを序盤に組み込んでいて、元アルバムでは一本のベースリフを軸に各パートずっと反復していく曲だったのがライブではダブ音響は無く、バンドでのアレンジに徹していてかなり長尺に。完全にアンセムと化していた。あと両公演I Get My Kicks for Youを演奏していて、この曲での糸を紡ぐような最小限のアンサンブルが、それこそ他の曲を目の前で見たからこそその繊細さを隅々まで意識して聞くことができる。生演奏だからこその違う視点がすごく映える曲というか、とても美しかったし彼らのスロウコアな側面を浮き彫りにした時間だったと思います。フレッド・アースキンはHooverやThe Sorts等もホーンで参加してるのですが、この曲では彼によるトランペットのパートも再現していて楽器を持ち替えたときは驚いたし、まさか生で体験できると思って無くてとても感動した。

そしてアンコールで「Sharks and Sailors」を、これは本当に驚きですね。June of 44にしては珍しくCut You Faceと並びラウドなポストハードコア色の強いナンバーで、まさかやるとは思ってなかったのでイントロからぶち上がってしまった。

  

 

90年代当時の動画ですがこのSharks and SailorsとCut You Faceは何度見て胸を熱く滾らせたかわかりません。

 

以上でした。今でも本当に自分が見たのか実感が湧かないし夢のような二日間だった。冒頭で触れたJune of 44についてのブログ記事は2年前に書いたもので、今回来日ということでSNSで再掲したところ結構読んで頂いたようで、会場で朱莉TeenageRiotをきっかけに直前にチケットを取ったという人から何人か声をかけてもらい本当に嬉しかったです。完全に自己満足でインターネットに好きなシーン、好きなバンドについてひたすら語ったものを残しておきたいとい思いで書いたものですが、一応集客という形で少しでも力になれたことは救われたような気持ちにすらなります。

以前Hedzの荻原さんとJune of 44の来日について話をさせてもらう機会があり、当時ってインターネットが普及してなくて日本版あったかどうかが日本での評価に直結するような時代で、日本版が出なかったJune of 44をリアルタイムで追っていた方って本当に一握りだったという話を聞いてました。ポストロックと言えば近隣であるマッケンタイアやデヴィッド・グラブス、Touch and Goならアルビニ周辺がやっぱりメインで、June of 44やHooverと言った水面下シーンは今でこそ伝説ですが、やはりエモやポストロックがリバイバルしてからその元として辿ってった人がほとんどだと思う。自分もそうだし、何より初来日という事実、そして会場に来ていた人も同年代っぽい20代~30代が多かったのもほとんどが後追いだと思うしそういう背景があると思います。そんな中、このイベントを組むのって実際どれくらい集客が見込めるかというのは自分は大興奮しつつもわからなかったというか、企画するのも大変だったと思うのですが、こういった形で大成功に終わることができたのは本当に胸にくるものがあるし、この場で言うのも変ですが企画してくださったimakin氏、そしてJune of 44の面々には感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。

 


今回のイベントを主催したimakin氏によるバンド、HausのEP。めちゃくちゃいい曲しか無いです。