朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

Squid 渋谷WWW X

11月27日、渋谷のWWW Xにて行われたSquid来日公演に行ってきました。今年聴いた新譜の中でも特に聞き返すことが多く、下半期聴いていた音楽も彼らのアルバムやインタビューを見て影響されたものが多かったので一つの締めのような気持ちもありました。見た直後にSNSにて衝動的に感想を連続で投稿したのでそれをまとめて再編集、加筆したライブレポになります。

Squid。元々公開されていたライブ動画からもドラムがボーカルを担当し他4人のメンバーは曲ごと、もしくは曲の途中でも楽器を持ち替えコーラスやボーカルまで変更しながら演奏するスタイルで、やはり生で見ることで音源だけでは気づけなかった箇所など再発見がとても多く、どの曲でも練られた交錯するリズムとミニマルな反復を主としたグルーヴ重視のものが多いのもあり、視覚的にも身体的にも非常に楽しい。音源の時点で予想はしてましたがすごくライブバンドで、その日のモードもすごく演奏の色に反映されそうだし、これを現地で定期的にライブに通える人たちが心底羨ましくなってしまいます。

入場して開幕のSwingからすでに他曲ではベースを弾いたりしているローリー・ナンカイヴェルがホーンとパーカッションによる参加で、低音はおそらくシンセが担当、そしてローリーは曲の中で楽器だけに捉われず機材をいじっている時間もすごく多いし、そもそも彼の後ろにベース及びギターが3本立っていることからもそれは象徴的。曲によってはツインギターの片方がベースを弾くこともあればメンバー3人が機材をずっといじっている場合もあるし、彼らはポストパンクと呼ばれながらもそれをやっているつもりはおそらく無く、というかこの自由奔放なスタイルは音楽におけるあらゆる境界を縦横無尽に、いや彼らは境界を認識すらしていないのかもしれない。僕はどうしてもファンクバンドとして聴いてしまうというか、強烈なファンクネスを感じるGSK〜Narratorの流れは本当に心の底からぶち上がって体を揺さぶられてしまった。元々Squidをきっかけに今年の下半期はずっとファンクの旧譜を漁っていたので、改めてSquid新譜を聴いていた6月から数ヶ月を自分なりに導線を辿って何周かした上でそれを再確認するような体験でした。しかもより肉体的な、バンドの動きを目前で見れる生演奏を通して今年の自分の音楽体験の原点に立ち返るような感じで、実は同日渋谷にてAlex Gの来日講演も行われていて特に新譜は昨年死ぬほど聴き倒したため直前までとてつもなく悩んだのですが(今でも見れなかったことを少し悔しく思います)、それでも、やっぱり今年聴いてきた音楽や今の自分の傾向を考えると(Pot-pourriや5kaiのライブに通っていたというのを考えても)Squidを見たかったという気持ちが勝った。各メンバー楽器を持ち替えながらもずっと中心でドラムボーカルに徹するオリー・ジャッジも凄まじく、溜めと緩急のあるシャウトを所々挟むボーカルが生で見るとまさに一つのビートを生む打楽器みたいで、そこに強烈にファンクを想起させられてしまう。Sly的というか。演奏しているドラムではシンプルな縦ノリの中でもボーカルが強烈に左右に振ってくるというか、これ自身がグルーヴの一つの肝になってるのも実感させられました。

PaddlingやPeal St.と言った1stにおける高速ナンバーはハードテクノ通過後のNeu!とも言えるスタイルで、どの曲もアウトロでアンビエントみたいな残響パートを途中からアレンジして次の曲のイントロのシーケンスと同期してくスタイルもインプロとはまた別の、まるでNeu!がジャズやファンクに転向して半電子音化した異形のジャムバンドという感じ。この曲間のパターンもその時々のメンバーのモードやセトリによって変わりそうだし、やはりライブに通いたいなと思わされてしまう。あとすごく印象的だったのが2nd収録のUndergrowthで、Swingでも思ったのですがライブで見るとホーンの存在感が数倍になるくらい曲のど真ん中に鎮座していて、音源と変わりなくても視覚的な印象や単純に音量だったり、それ一つの要素で自分の聞く姿勢がそっくり変わってしまう楽しさがありますよね。Undergrouwhはもうとにかくこのじわじわと弱火で熱していくような、ねっとりとしたグルーヴがホーンのインパクトのおかげでよりジャズやファンク的に聞こえ、スロウペースでリズムを形作るフレーズのミニマルさを保持しながら、各パートが展開を見せ拡散してくバンドを一度全て収束させるシンセによる切り返しもキメとして恐ろしく決まっている。生で見ることで本当に曲のイメージがガラリと変わるし、この曲のアウトロにおける重厚なドローンノイズによるジャムセッション的なパートもライブで超進化してました(セトリを見るに別の曲名が与えられていた)。

ファンク的、とは言いましたがそれはあくまで自分の聞き方/楽しみ方であって、反復ではあれどファンクやテクノのように踊らせるためにやってる感じはあまり無く、むしろ共通したリフやループを曲の中でそこまで使い回さず一方通行でどんどん上から展開してくのはジャズとかプログレ的だとすら思います。曲ごとに体制を変えながらもSquid足りえるのはやはりこの弾力たっぷりのギターリフのセンスとドラム及びそれを牽引するボーカルで、好き放題やりながらも一貫したものをずっと感じるのはこの全部一本筋を通す針金のようなバンドの芯も正面から見ることができてとても楽しかったです。

以上でした。セトリを再現したプレイリストを貼っておきます。

プレイリストまとめ

2021年9月から毎週10曲入りプレイリストを作り知人間で交換し合うというのを習慣的にやっていて、2年以上続けてく内に100本を超えてきたのでとくに気に入ってるものをまとめました。

元々TURNなどで知られるライターのtt氏(ttの記事一覧|note)がツイッターで一時期毎日のようにプレイリストを上げていて(最近は毎日というわけではありませんが週2~3以上をキープ)、自分とは違った世代、音楽観から選出される個人の感覚による文脈の接続、選曲を見るだけでも聞きなれた楽曲に違う角度が生まれたり個人史も見えてきたり、内容やその習慣自体にすごく影響を受けました。自分で音楽を掘ったり探したりする余裕がないときにも重宝させてもらっているし、サブスク特有のサジェストも勿論便利ですが、作風がまとまりすぎてずっと流していると食傷気味になってしまうことも時折あるのでそういうときにもかなりありがたい。ふとした時に新しいプレイリストがある安心感、流しててアンテナに引っ掛かったものが新しいきっかけになったことも数え切れないほどある。完全に真似事で始めた習慣ですが、自分はこの音楽をこういう聞き方をしている、という一つの目安にもなるなと思えたのが面白かったです。


 

今年行ったPot-pourri×DJまほうつかいの素晴らしいライブイベントに触発され帰りの電車で作ったプレイリスト。DJまほうつかいの西島大介先生は漫画家であり、中でもIKKIで連載していたディエンビエンフーという作品が僕はすごく好きで、ベトナム戦争のドキュメンタリー漫画なのだけどそのサントラをイメージしながら作りました。Pot-pourriのKankitsuはライブで披露されディエンビエンフーの大虐殺シーンで流れている妄想をしてしまったし、会場BGMだったDeerhoofもピッタリだし、狂気たっぷりで描かれるベトナム戦争の怪しさと荒廃とした雰囲気は4曲目~の儚く無機質ででも叙情も残した電子音楽郡のイメージと合うなと思っている。

 

 

今年リリースされたOGRE YOU ASSHOLEの新譜「家の外EP」がちょっと遅れてサブスク解禁されたのでせっかくなので使いたいなと思って作ったプレイリスト。Neu!やCANのオマージュが入ってたりクラスターを連想させる曲があったりしたのでその辺で囲いつつ、ルーツを共有するGanger、をミッシングリンクにして同時代ポストロックとしてBattlesとか丁度新譜聞いて近いものを感じたSquidを入れてます。

 

 

 上記の流れで次の週に作った、こちらもOGRE YOU ASSHOLEが発端となって作ったもので暴動以降のSlyのリズムボックスで同期したようなミニマルなファンクネスと、三部作以降のオウガで共有できるものがあるなと自分用のメモのように作ったプレイリスト。オウガ→Steely Danゆらゆら帝国、そして同じくファンクをやクラウトロックをルーツとしつつパンク以降の流れに合流させているようなSquid、同じくパンク/ハードコア出身ながらWARPからリリースしたchk chk chk(!!!)など、時代やシーンは違えど自分の中で腑に落ちる一括りをまとめた感じです。

 

 

明らかに上二つの流れで作られたプレイリスト。次週だし。でも今回はジャンル的な括りではなくもっと感覚的に、靄掛かったオウガやフィッシュマンズと言った音楽からミニマルさを地続きにして「舟」とか「波」とか、そういうワードから連想したくなる、より風景的な音楽を思いつき次第入れていった感じです。オウガの勝浦さんがTortoiseStereolabをフェイバリットに上げていたのを作り終わってから気づいて、無意識に引っ張られていた気もする。

 

 

2022年に見たメイドインアビス二期のアニメが本当に素晴らしくKevin Penkinによるサントラを当時聞きまくっていて、そして同年リリースされていたAlex Gの新譜にも個人的に通じるものを感じそこから発展させていったプレイリスト。作中に出てくる上昇負荷という要素(戻ろうとすると体が化物に変貌したり、五感を失ったりする)と合致するAlex GのWalk Awayの逆再生っぽい演出とかAnimal Collectiveの焦点が合わないようなサイケデリックさとかピッタリだなと思って膨らませていきました。

 

 

このまま自分のオールタイムベストとして差し出せそうなくらい好みが出たプレイリスト。全編スロウコア色強いですがSundownやOffshoreやEcho,Bravoと言った途中から爆発していく曲を所々散りばめることで、全然スロウコアじゃないけど爆発的にノイジーなOvlovをクライマックスにする理由にしていたような気がします。

 

 

天国大魔境という漫画が好きなのですがアニメ化が発表され、実際に映像や音楽を見てイメージが固まってしまう前に架空サントラを作ってみようというコンセプトで作ったプレイリスト。天国大魔境はポストアポカリプスな荒廃とした外の世界と、隔離された施設で何も知らされず生活している少年少女達に焦点をあてたすごくミニマルなパートが同時進行で描かれていて、その「外」と「施設」それぞれをイメージして選びました。とくに施設側は生まれたときからそこにいて、狭い世界で世間も常識も何も知らされない様は胎内みたいだなと思っていて、Alva NotoやOval、Sparklehorse/Fenneszの時間の流れを感じないビートレスなアンビエント風味な曲はそういうイメージで入れてます。

(ちなみに実際にアニメを見て答え合わせをしたところ牛尾憲輔による劇伴は本当に素晴らしく、そして漫画はすごくAKIRAっぽいのだけどそこを汲んだのか映画のAKIRAっぽい曲とかも出てきて完全にやられた!と思いました)

 

 

上記のプレイリストの流れから知人とAKIRAのサントラがかっこいいよという話をして、KANEDAを使ったものを作ろうとしたものの中々思いつかず、祭囃子がそれっぽいNUM-HEAVYMETALLIC、直接引用しているTOKYO、吉田一郎の僕と悪手もシーケンスがそれっぽいし、LEO今井が時折見せる和の雰囲気もサイバーパンクっぽさがあるなと思って、オリエンタルな要素を言い訳にして向井秀徳人脈に流れて行った感もあります。

 

 

2021年の年間ベストが上がってくる時期に色々読みながら聞いたbetcover!!の「幽霊」がめちゃかっこよくて作ったプレイリスト。幽霊、さわれないのに、戻らない、みたいなタイトルだけで空気を共有してそうな曲が集まっていて、OGRE YOU ASSHOLE、South Penguin、Wool&The Pants辺りから香るAORやファンクをそれぞれ違う形に虚無っぽく調理したグルーヴ感にバンド毎に違う色のミニマルさがあって好きだったりします。

 

 

Pot-pourriの液晶氏とドライブする機会があり、その中で話題に出てそのまま車内で流していたBaths/Cwondo/パソコン音楽クラブ、そして彼が参加しているPot-pourri、当時新譜が出たばかりでよく聞いていたWarpaint、その日行ったブックオフで買ったNav Katzeのリミックス・・・と言った具合に、日記のような、まるでセッションのようにしてできたにしては通して聞いててもかなり統一感のあるものが出来たので気に入っている。夜の車内にとても合うと思います。

 

 

チェンソーマンのアニメ化に際して妄想を爆発させた架空サントラのプレイリスト。元々BorisのPinkが真っ先に浮かんでFarewellもめっちゃ合うなとか、暗いIDMとかポストハードコアとか普段からよく聞くものが合致していたのもあり考えるだけでも楽しかったです。とくにSPOILMANのAmaryllisは狂気的なジャンクロックとおどろおどろしいシャウトが続く中チャーミングな歌詞による歪さがピッタリだと思っている。Matmosも合う。

 

 

クリスマスのプレイリストを作ろうと思って冒頭2曲から始まりそっから音楽性、アウトロから繋いだらかっこよさそうな曲とかを思いつき次第に数珠繋ぎにしていった結果ポストハードコア/ジャンクロック色がめちゃ強くなったプレイリスト。Touch and GoやAm Repの香りがしまくってて、送り合ってた相手が普段ポストハードコアを聞く人ではなかったので布教したかった気持ちも割とあり、LowercaseやUzedaはかなり自分の趣味が出てますね。ZAZEN BOYSのHIMITSU GRIL's TOP SECRETが入ったEPは全体的にすごくShellacっぽい色があると思ってます。

 

 

おすすめのジャズを送り合うみたいな流れになったときに作った全然嘘のプレイリスト。でも自分が普段聞いていて最も親しみ深いジャズに位置する音楽ってちゃんとこの辺かなという気もする。シカゴ人脈からスタートしながらもPramとかGangerはもう全く別の畑、しかしポストロックという巨大な括りの懐の広さも感じることができる。Squarepusherを入れるんならTortoiseはJettyだったかなと見返して少し思ったりもしました。

 

 

冬に車内で聞きたい音楽ベストとして作ったプレイリスト。冬が繁忙期だったのでいつも帰りが遅く、寒い中どこも閉じて暗くなった繁華街を車で走りながら、そのシチュエーションで一番聞きたい音楽をまとめました。ほぼスロウコアですがまるで毛布みたいな音楽だなと思ってます。PhiladelphiaKaty Songは沁みすぎる。実は以前書いた音楽を聴く環境について / 車内音楽まとめ - 朱莉TeenageRiotはこのプレイリストが発端となってます。

 

 

Lily FuryのAnthorogyというアルバムを今年よく聞いていて、その中でBrocadeという曲がBorisのLoopriderを初めて聞いたときをフラッシュバックするような、アルバム内でジャンルごった煮な大作を終えた後に始まるストレートな名曲という立ち位置で、そこから影響を公言しているディーパーズだったり、そのNARASAKIが今年リリースしたアイカツ!の新曲でもあるSign? Go! Dream!!のジャンルの横断の仕方にもLily Furyとシンパシーを感じたり・・・みたいな、一連の自分の中であった感情の動きを、そのままメモするように作ったプレイリスト。

 

 

Mogwaiの1stだけがずっとサブスクに無かったのですが昨年いつの間にか解禁されていたので作った秋口にピッタリな涼しげなプレイリスト。スロウコアとポストロックの境界ギリギリにいるアーティストだけを狙って入れたような、90s末期のプレ・ポストロック的な空気が存分に出たかなと思う。

 

 

先のものと同じく秋口にピッタリなプレイリスト。スロウコア・・・っぽくも見えるけど言うほどでもなく、フォーキーな風通しの良さがありつつでもアコギってわけではない、涼しげでノスタルジックなUSインディーみたいな、Yo La Tengoや後期Red House Paintersを一緒にしたかっただけ感もある。元々好んで聞いてたとこなので気を抜くとこういうの一生作ってる気がします。

 

 

アニメゆるキャン△のEDだったふゆびよりという曲のタイアップだったYURUSUという曲があるのですが、ふゆびよりのアコースティックなSSWってイメージを完全に覆すCorneliusみたいなナンバーだったのに衝撃を受け、それを使いたくて本家と坂本真綾入れて作ったプレイリスト。恋する日常も衝撃でした。知人が割とアニソンやボカロ好きのイメージがあったのでそこからも触れやすそうなものを後半に入れてます。雨の日に聞きたい。

 

 

またしても架空サントラ。昨年全話無料公開されててドハマりした宝石の国をイメージしてます。最初のTJOはもろ第一話冒頭のイメージ。孤独の発明とか互いの宇宙とかタイトルもイメージと合ったり、宝石なので無機物としての低体温っぽさをtoeのアンサンブルと重ねていた気がする。「平熱の街」てタイトルも。あとで実際にアニメ化したときの音楽をハイスイノナサの照井さんが担当したと知ってかなり嬉しく、その曲もかなりかっこよくて最後に入れた気がします。

 

 

シューゲイズ/スロウコア/アンビエント辺りの空気がブレンドされたBark Psychosisから始まり、そっから各所に派生しつつ同じ空気感を持つアーティストで纏めたプレイリスト。あんまり1ジャンルで一括りにするのも面白くないかもと意図的にバラけさした気がするけど、どことなくスペーシーな空気があります。半分くらいは宝石の国プレイリストの没曲になったものだったりします。

 


以上でした。所謂ツイッターを通して知り合った普段から自主的に音楽を掘ったり作ったりしているようなリスナーの方々ではなく、むしろ全くそこに馴染みのない、全く別の趣味の繋がりで知り合った知人たちとプレイリスト交換をしていたので「ある程度名盤を知っている」というわけではない方に向けて作るという経験が結構新鮮。故に先入観に囚われず、10曲1時間以内を目安に雰囲気やコンセプトを重視した結果自分の脳内で無意識にしていたカテゴライズを可視化する役目を果たしたり、そもそも最近聞いてなかったかつて好きだった音楽を思い出し棚卸する感覚もあった。この2年間で知人の音楽趣味の傾向も固まってきた感じがあるし、また毎月感想を貰えるのもありそれで選曲の傾向が変わったりするし、これ以降も作り続けると思うので気が向いたら纏めるかもしれません。

正直この習慣が始まってから新しい音源を掘ることも少なくなったのですが、それはそれとして音楽を聴くという行為自体を更に豊かにしてくれる実感があり、"現行シーンを追う"みたいな行為とは遠く離れた、純粋に音楽を楽しむという経験が結構久しぶりでした。プレイリスト制作自体が僕は一つの創作だと思うし、やってよかったなと今は思います。

 

冒頭で触れたtt氏のnoteです。全部追えてるわけではないですがとても参考になります。

SONICMANIAでAutechreを見た

行ってきたので日記です。


初参戦。自分は元々フェス自体に若干の苦手意識がありよっぽど特別なラインナップがない限り行くことはなく、最後に行ったのも2019年のライジングサン、こちらもナンバーガール再結成が目当てでした(無くなったけど)。

そして今回はAutechre・・・まぁね、Autechre来るのなら行くしかないでしょうと。一時期本当に熱狂的に嵌っていて、元々00年代にギターロックを聴いて育ちそのまま海外のロックを遡って聞いてきた音楽遍歴がある自分ですがずっと電子音楽とは距離があったのを、ぐっと身近なものにしてくれたのはAutechreだった。そこからIDMというジャンルを知ってWARPだったりヒップホップやエレクトロニカに繋がってったわけだけど、Confieldのボーナストラックでついてきたライブ音源の「Mcr Quarter」のあまりに破壊的な音に衝撃を受け、真っ暗で何も見えない空間でセトリは無く完全即興で彼らのサウンドを体験するというその特異なライブ形式、ここ最近の膨大すぎてとても追えたものじゃないリリース量のライブ音源をつまみ食いするだけでも肌にピリピリとくるような迫力から期待だけが胸の中で大きくなっていった。2018年の来日公演を逃した自分としては4月にソニックマニア初出演が決まった次の瞬間には他のラインナップを確認することもなくとりあえずチケットを確保していました。

そんくらい楽しみだったAutechre、それはもうライブを見たという感想では正直しっくりこないまさに"体験"というか、フェス自体が非日常を楽しむものだという意識はあるし他のラインナップにもそういう要素は勿論あるけど(ThundercatやFlying Lotusサイバーパンク感もすごかったので)、Autechreに関してはもう通常のステージングから完全に逸脱していて異質としか言いようがない。お馴染みの真っ暗な空間でライブをするというスタイルを幕張メッセ内でもそのまま再現していて、ついちょっと前まで電気グルーヴやずっと真夜中でいいのにがライブをしていて遠めでも見れていたステージの入口に突如巨大な真っ黒い布の膜が出現。自分はこのためにこのイベントにきたも同然なのでAutechreシャツに全身黒ずくめという完全にセットに合わせた服装で来ていたのですが、それでも半信半疑だったこの形式を、フェスという全てを開放して気軽に楽しめるはずのイベントで一区画まるごと隔離してしまうステージはもうイベントの趣旨を超えた非日常、あの黒い布の膜に飲み込まれ入場したらしたで最低限の視界の中実験的で常に形を変えるカオスな鉄の音が四方八方に飛び交いこれを全身で浴びる。これはライブなんでしょうか?少なくとも、自分が今まで人生で体験したライブの中で最も真っ向から鳴ってる音に、音楽に対峙した瞬間でした。

たぶんほとんど即興、止まることなく1時間ぶっ続けで、はっきりこの曲だってのはないけど最新作であるところのSIGN/PLUSからExai期を踏襲した音色、まるで鉄の空洞をぶっ叩いた音を加工してぐにゃぐにゃに引き伸ばしたり刻んだようなものをランダムに配置しまくって、一応区切りになるキックみたいのはあるけどとても乗れるものではないヘヴィ・アンビエントみたいな感じ。リズムと呼べるのか怪しい音の連続と闇の中で見つめ合ってしっくりくるビートを見つけるような側面もあるし、音色に浸る時間とビートに乗る時間の境界がずっと曖昧なのは代表曲「Dropp」をExai期の感覚で一つの空間へと昇華したイメージも湧く。大体全部で一時間あったのですが正直時間の感覚はほぼ消え、この何かが渦巻き蠢くような空間にただただ漂うばかりだったのがラスト10分くらいのところで急展開、Gantz Grafの「Cap.lv」やLP5の「Acroyear II」を思い出す小刻みで金属的なシーケンスをビートにしたような爆踊り仕様へと移行、畳み掛けるように「Pro Radii」「Laughing Quarter」のような所謂ライブアンセム的なポジションの曲を想起させる攻撃的な展開に震える。ライブを終えたあとにステージに光が入り真っ暗闇の中うっすら見えていたセットの奥にはしっかりショーン・ブースとロブ・ブラウンがいて、大きな歓声が沸きあがる瞬間はかなり感極まるものがありました。

まず間違いなく今まで見た全てのライブの中でも、見た直後という補正もありますが長年待った甲斐もあって「ベストアクト」だと言いたい。とりあえず、無事Autechreを見れたことを数年前の自分に教えてあげたい。

 


写真にも残らない程に暗かったので見たものを忘れたくなく帰宅後即描き始めたうろ覚えのイラスト。とにかくステージ外からも聞こえた蠢くようなヤバイ音、一人一人あの黒い幕に入場していく異質な光景、入場して天井から届くうっすらとした光を頼りに人と人の間をすり抜け足早に最前へと向かったときの高揚感は二度と忘れないでしょう。

 

 

なんとなくライブをイメージしたプレイリスト。10年台以降の尋常じゃないリリース量、とにかく音源が膨大なので全部チェックしてるわけではないのと、ライブ自体も頭の中にぼんやりと残ったイメージからですが参考までに。人によって違うものができそうだし、それを見比べるのも楽しそうです。記事中に触れた曲も多いので参考にしてもらえれば。

 

こちらは全く関係ないですが数年前に作って毎年夏に聞くプレイリスト。ちょっと今回のセトリとは大分イメージ違いますが、90-00年代の代表曲多めなのもありマイベストとも言える内容です。

 


関連記事

かなり前に書いたAutechreのまとめ記事。元々Noteで公開してたものを朱莉TeenageRiotを作ったことで移転させたものですが、実はこのブログでも一番最初にまとめたdiscography群なのでそういう感慨深さもちょっとある。

 


以下他のアクトの感想。あんまり周れてないです。

 

Thundercat

完全に初見。何曲か聴いたことはあれど正直ほぼ事前情報無しのぶっつけでなんとなく見たんですが完全にやられて没入、ずっと真夜中でいいのにと被ってたから途中そっち抜けて見に行こうかなとか考えていたのにそんな暇も無いまま80分完走してました。

まず開幕2曲から人力Squarepusher、つまるところShobaleader Oneのような全員ソロみたいな肉薄したセッションが何故か噛み合い、目配せしながら徐々に熱量を上げてく瞬間は正直もっと狭いハコでバンドの呼吸を感じながら見たいと強く思う。こういうインプロ色強いリズムの取り方が曖昧な長尺曲を序盤とラストに重点的に置きながら、途中からカッチリしたリズムのソウルフィーリングの強いメロウな歌もので風通しよくする構成もよくて、初見で魅入って完走してしまった要素の一つにこのセトリの妙もあったと思います。次が気になるというか。

あと坂本龍一を追悼するMCから千のナイフのカバーをやっていてこちらも泣ける。YMO以降のものではなくおそらく最初のソロ「千のナイフ」のバージョンを踏襲していて、ギターソロは鍵盤に置き換えられてますがかなり雰囲気が近いし、ソロの間の少し溜めのあるリズム隊は原曲での水中で泡がはじけるようなシーケンスを楽器に置き換えたようなイメージでかなり踊れて、原曲をリスペクトしつつグルーヴを調理してる感じがめちゃよかったです。メインとなるメロディにThundercat本人によるコーラスも加えられていてメロウでこのバージョン何度でも聞きたい・・・。

音源バージョン。ライブではもうちょっとハイテンポなアレンジでしたがこちらもこれはこれでめちゃくちゃ良い。

当たり前ですが、どの曲も録音物としてプロデュースされたものではなく生演奏なので、隙間が見える素材そのものの状態で聞くといつホーン聞こえてきても違和感ないだろうなと思えるくらい70sのニューソウルの延長に聞こえてくるのも新鮮。最近その辺をよく聞いてたのでおそろしく自然に入ってきたのもあるかも。

 

Flying Lotus

Thundercatより続いて同じステージなのかなり統一感あっていいですね。序盤はYasukeやサイバーパンク的なイメージ通りの硬派なDJからスタート、かと思いきや途中からハウスぶち上げクラブDJみたいになって雰囲気変わりすぎて困惑していたら、直後に目まぐるしく画面が入れ替わるサイケなVJに切り替わり、Los Angelesを更にカットアップしてランダムにぶち撒けた暗黒世界のような、ハウスパートからは想像できないくらい対照的なモードに入りそのままThundercatが参加。まるでスピリチュアル・ジャズのような様相を見せる電子音とベースのセッションが始まりこの後半がものすごく濃かったです。そのままThundercatがボーカルを取ることで代表曲のBlack Goldへとシームレスに繋がり、サイケなムードのトラックとしっかり地続きであることがわかったのも良い。

 

この後のJames Blakeは体力が無く断念。しかし遠めで見てるだけでも幽玄な世界観をバンドサウンドで細々とやってくのはめちゃくちゃかっこよかった。Perfume電気グルーヴも遠くからなんとなく見ただけでも知ってる曲が多く非常に楽しい。低音がヤバいので距離あってもしっかり踊れますね。やはりAutechreが異常だったけど、フェスだけあってこの解放感は本当に心地がいい。電子音楽が多かったのもありクラブっぽいセットも多くて、自分が幕張のフェスによく参加してたのはもう10年近く前だけどその間にクラブに通うようになったり自分自身の変化も多く、クラブでのラウンジで人と駄弁ったり壁際でツイッターやるのと近い感覚で所々で休憩しつつラフに楽しめました。ソニックマニアは深夜だけあって落ち着いて周れるし、幕張ってこの手のフェスにしてはダントツでトイレが快適だし休憩できるスペースがそこかしこにある。自分のようなフェス自体久しぶりの人間にもハードルが低く、また来たいと素直に思えて良かったです。あとずっと飯食ってました。

discography⑱

前回(discography⑰ - 朱莉TeenageRiot)、前々回(discography⑯ - 朱莉TeenageRiot)に引き続きUSインディーです。


 

Silkworm - In The West(1994)

最初期はUSインディーの伝説Guided By Voicesと同じように自主制作のカセットでリリースしてたようで、それを除くと今作がフルアルバムとしては初、Silkwormと言えばほとんどの作品をアルビニが手がけたことで有名で今作も勿論アルビニ録音。元々アルビニの親が学校の教師をやっていてその生徒がこのバンドのメンバーだったという縁があったみたいです。で1st、枯れきったボーカルとアンサンブルはもうすごくくたびれていて、グッドメロディだけど所々ヘロヘロでメロディーが砕ける部分も多々あるし演奏も最小限というか、後のSilkwormと比べてもかなりギターの音も抑え目。しかしながらやっぱりアルビニなのでこういう隙間のある録音とそれを切り裂く硬質なギターの対比は映える。むしろこの路線聞いていると2000年以降フォークやカントリーに向ってったSilkwormの源泉はちゃんとここにあるなと思う。

 

Silkworm - Libertine(1994)

こちらもアルビニ録音。このあとMatador RecordsからFire Waterを出すわけですがその直前ということで1stと比べるとかなりパワフル、リフも強力になってリズム隊もガンガン走ってきて、パンクやハードコアとも違ったこの勢いは素直にパワーポップとかとも通じそうな名曲「Cotton Girl」が象徴的なアルバム。ですが、他はやっぱりそんなに元気は無い、1stの延長のくたびれた、間延びした雰囲気を残しながらもジャリジャリのギターを挿入してくるのがすごく印象的な1曲目「There Is A Party In Warsaw Tonight」に痺れる。音色を垂れ流すという言葉がぴったりの不協和音とこのバンドの持つダルダルさとの調和具合がおそろしくかっこよく、もし自分がこれからバンド組むことあれば絶対コピーしたいと思う。驚くほどにスカスカだった1stと比べるとかなりギターが分厚くなって不協和音感も増したので、硬質でジャンクな質感はポップなポストハードコアとしても聞けるかもだし、だからこそ対比となるこのバンドの持つ枯れっぷりが染みてくるようなメロディーの良さと音色の気持ちよさは唯一無二でしょう。

 

North Of America - Elements Of An Incomplete Map(1998)

カナダ出身North of Americaの1st。後にマスロックにも接近して硬質でジャンクなポストハードコアな側面も持つバンドですがこの1stでは非常にUSインディーの色が強く、というかPolvoやGuided by Voicesが大好きだったんだなという愛がアルバム聞いてると色んなとこから伝わる。1曲目の「Cities And Plans」からジャンクなギターを弾きじゃくり力の抜けたグッドメロディが乗っかるのですが、この頃から後のエモ~ポストハードコア路線が存分に詰まってることを理解させてくれる今にもはちきれんばかりの投げやりなシャウトが途中から炸裂し演奏に負けじと並走、エモへと昇華しながらもあくまでUSインディーとしてやってしまってるというか、いいとこどりしたようなジャンルの魅力が全部詰まってるんですよね。「Time Changes Technique」は既にちょっと次作のマス路線も垣間見える隙間のある曲ですが、グルーヴを練り上げ曲自体が複雑になってく後期と比べるとかなりシンプルにスイッチのオンオフがわかってめちゃくちゃ良い。エモとUSインディーの境界線のギリギリインディー側にいるのがArchers of LoafやSuperchunkだとしたらNorth of Americaはその目と鼻の先のギリギリ境界の向こう、本当にライン一歩踏み超えたエモ側に立っているバンドだと思います。

 

North Of America - These Songs Are Cursed(1999)

エモというジャンルにおいて好きなアーティストは何かを議題にして人と話すたびに自分がまず名前を挙げるのがこのNorth of Americaで、その中で最も好きなアルバムは?と聞かれたらこの「These Songs Are Cursed」を挙げる。前作をそのまま押し進め、いやもうちょとポストハードコア色を強めはしたけど完全にそっちに行ってしまう次作「This Is Dance Floor Numerology」の一歩手前。まだまだ曲によっては単独で聞くと少なくともポストハードコアとはまるで思えないくらいインディー色強い楽曲も半々くらい散りばめられていて、「Extent Of The Apse Outstretched」とかSuperchunkとかPavementと並べられますね。全体的に硬質でつかみどころが無いアンサンブル、ちょっとマスロックっぽさも出てきた予測不能な曲展開、とは言っても00年代エモのイメージにあるエモリバにも通じるアメフト以降やポストロックっぽさはほとんど無く、Dischord Recordsの面々が持っていた指の合間をすり抜けていくキメの感じというか、これはPolvoの遺伝子も存分に受け継いでると思っていてむしろエモ文脈で再度合流させてるような感じ。00年代以降のDischord周辺シーンとしてのQ and Not UやFing Fang Formとも近い雰囲気ありますが、インディーロックの遺伝子がうまいことその路線を微妙に外している感じがよくて「Built Sought Destination」もPolvoっぽいイントロからエモへと合流。ハードコアに寄せながらUSインディーとして聞ける側面も薄めることなく成り立ってしまった奇跡的なバランスのアルバム。

 

Superchunk - No Pocky for Kitty(1991)

Superchunkと言えば自主レーベルMerge Recordsの印象が強いですが、91年の今作はまだMergeではなく普通にMatador RecordsからリリースしていてNirvanaの次と期待がかけられていた(らしい)2nd。しかし彼らはメジャーの手をとることはなくむしろMergeにおいて自分らの作品だけではなくMagnetic FieldやPolvoと言った周辺シーンのインディーバンドをフックアップしていき、メジャーどころかインディーズ大御所として今でも君臨し続ける生きる伝説へ。レーベルとしてのリリースだけでなく普通に本人達の新譜もバンバン出てますね。

No Pocky for Kitty、初期のSuperchunkはかなりパンク寄りで、彼らの持ち味である空間を引き裂くスカスカで鋭利なギターリフは開幕の「Skip Steps 1 & 3」からたっぷりと堪能できる本当に最高の1曲。エネルギッシュなボーカル含めこの勢いはメロコアにも通じるものが充分ありつつそこまではいかない、傷だらけで駆け抜けてるような純然たるパンクロックっぷりがすごく気持ちの良い作品というか、いわゆるPavementやDinosaur.Jrを代表するヘロヘロで肩の力抜いたUSインディー的な色とはまた違った雰囲気があります。彼らがエモだったことは一度も無いと思いますが、このアルバムと前作1stは後にエモと呼ばれるバンド達に多大に影響を与えたのではないかというプロトタイプ感も強い。アルビニ録音ですが当事のアルビニのイメージにあった、ハードコア系のヒリヒリした緊張感や重さより、バンド演奏の勢いやエネルギーそのものを無加工でパッケージした別の魅力があって、Cloud Nothingsがコロナ以降に初めて集まってレコーディングしたアルバム「The Shadow I Remember」でのアルビニ録音はこのアルバムを思い出しました。

 

Superchunk - Foolish(1994)

4thで今作はMergh Recordsからの自主リリースへ。2ndの頃はまだMergeにアルバムをリリースするためのリソースが無かったという事情もあったみたいですが、この頃は流通にTouch and Goが関わってたり、前作On The MouthではSwami Recordsのジョン・レイスがプロデュースしたりと当事のUSインディーシーンでの横の繋がりも見えてくる。レーベルで音楽を聴くという行為を最初にしたのもこのアルバムがきっかけだったので思い出深い。アルバム再生して開幕の「Like a Fool」はcinema staffやpeelingwardsで知られる辻氏主催のLike a Fool Recordsの元ネタだと思います。

初期のパンキッシュさはなりを潜めたペースを落としてメロディを大切にした曲が多く、前作までのマックのハイトーンなボーカルによる無邪気なエネルギッシュさとは打って変わって切なく甘いメロディを見せる今後の路線のきっかけにもなるアルバム。ハードコア経過後のエモやポストハードコアのような硬質なギターの密度はなくむしろスカスカ、しかしエッジは効いていて、未だに人気のある代表曲「Driveway to Driveway」もエモ前夜っぽい雰囲気があるけど様式美には乗らない泣きメロの名曲。ですが個人的に次に始まる「Saving My Ticket」は彼らの全曲の中でもベストに上げたくなる。代表作である5thよりも今作の方が好きだったりします。

 

Superchunk - Here's Where the Strings Come In (1995)

Foolishから1年でリリースされた正統な続編にして代表作5th。開幕のHyper Enoughはハイパーイナフ大学やHYPER ENOUGH RECORDSと言ったサイトのタイトルの元ネタにもなったであろう、というか前作のLike a Fool Recordsの名前もこの辺のリスペクトだと思うし、SuperchunkDIY精神がこうやって国内でのレコ屋や個人サイトに受け継がれている感じがしてすごく好きです。

エッジが効いているのにチャーミングでつい口ずさみたくなるフレーズは決定的に曲をキャラクター付けしてしまう、Superchunkにしかない彼らをSuperchunkたらしめるギターリフが爆発する「Hyper Enough」はもうイントロから最高の自己紹介であり、そして後のチャンクへずっと地続きの本当に代名詞みたいな新しい幕開けとして相応しすぎる名曲。同じようにリフのキャラクター性が際立つ「Yeah, It's Beautiful Here Too」も最強だし、Hüsker Dü後期やSugarとも呼応しながらハードコア性をオミットしてった彼らのスタイルが完全に確立されていて、数年後のCome Pick Me Upで昇華されるマックのSSWとしてのメロディの素晴らしさに並ぶ程に良い曲しかない。Come Pick Me Upはジム・オルークとの共作でポップネスが爆発した色鮮やかなアルバムでしたが、純粋なバンドの熱量としてそれこそ1stや2ndのパンキッシュさから続く快進撃のその先、区切りというか絶頂期にあたるのはこのアルバムじゃないでしょうか。

 

Polvo - Today's Active Lifestyles(1993)

ノースカロライナ州チャペルヒル出身、同郷であるSuperchunkのMergh Recordsよりリリースされた代表作2nd。Polvoがマスロックの祖として扱われる源泉はおそらくこのアルバムじゃないかと思われるであろう1曲目「Thermal Treasure」から次々とギターフレーズが炸裂し、自分の脳内でこの音、このリズム隊の感じだと次こうくるだろうという予想を見事に外してくるような、バンドとして計算されたものなのか気まぐれなのか偶然なのかわからない、テンション不明の組み立て方は聞いてるこちらを置き去りにしながらザクザクと音を刻みとにかく爽快。リリース時期ほぼ被ってるRodanもマスロックの祖として有名ですが、PolvoやRodanを当事一緒に聞いた人達が衝撃を受け新しい可能性を模索してったんじゃないかと思う。次作のExploded Drawingではジャケットからもオリエンタルな雰囲気が出てきますが、今作でも「My Kimono」というタイトルからいかにもな名曲インストがあったり、抒情を出しつつも名曲足りえるポップなメロディーとは若干不調和な感じに困惑する。

録音はShellacのボブ・ウェストンで、彼のアルビニ程生々しすぎないバンドのゴスゴスとしたリズム隊の重さ、響きを重視するようなソリッドな音のスタイルはこの目まぐるしく展開していくPolvoの魅力にかなり貢献してると思います。それこそ彼が担当した作品と言えばRodanやJune of 44が有名ですが、Polvoの諸作はそこと並んで好きなアルバムだし彼の経歴でもとくに好きな時期だったりします。

discography⑰

前回(discography⑯ - 朱莉TeenageRiot)に引き続きUSインディーです。


 

Superchunk - Come Pick Me Up(1999)

チャペルヒル発のUSインディー大御所Superchunkが99年に発表した7th。Wowee Zoweeに次いでUSインディーの好きなアルバムを上げろと言われたら名前を挙げたくなる個人的に永遠の名盤。このアルバムに関しては前作の「Indoor Livinb」同様スティーヴ・アルビニジム・オルークがそれぞれ関わっていて同体制、てことで前作と地続きの、外部の楽器をバンドサウンドに取り入れて新しいことをやろうとしてる感じもあって、美しいストリングスのアレンジが曲の色んなころにあるしマックのいつも以上にセンスが爆発したどこ切り取っても宝石のような泣きメロとの相乗効果もやばいです。かと言ってアルバムに対してしっとりとした印象はなく、Superchunkらしい爽快で飛びはねたギターフレーズ、パンキッシュに駆け抜けてくエネルギッシュな快活さもちゃんとあって、それらが別々ではなく一つの流れとして接合されているのがもう完璧。

とにかく1~5曲目のA面の勢いがすごすぎる、「Hello Hawk」「1000 Pound」「Good Dreams」とアルバムに1曲あればいいレベルの名曲がポンポン飛び出してきて素直にこんなにいい曲一つのアルバムに詰め込んでもいいんだ?と思ってしまった。Hello HawkのSuperchunkらしい爽快なギターリフはイントロからもう最高ですが、バンドの勢いとは対照的にストリングスも迎えた色鮮やかなアレンジも美しく、そのまま歌詞でアルバムタイトル「Come Pick Me Up」を回収、なんやかんやまた冒頭のギターリフに戻ってくるという展開に涙無しには聞けない。1000 PoundもHyper Enoughから地続きのSuperchunkらしいリフのセンスが炸裂していてギター音なぞるだけで泣けてしまう。こういうギターリフ1本で曲にキャラクター性をつけるのがうますぎる。Good Dremasは昔馴染みのあるパンキッシュなナンバーだと思って聴いてるともう一捻りあってこちらも最高です。アンサンブルもメロディーもアレンジも少しずつ研磨してきた彼らのその先が全部ここに直結してるんじゃないかと思えるような、一体何があったんだと逆に心配してしまうくらいエネルギーに満ち溢れた、余裕で全てシングルカットできると言っても過言ではない恐ろしいアルバム。

 

Superchunk - Here's to Shutting Up(2001)

Come Pick Me Upの次作8thにして活動休止前の最後のアルバム。マックが言うにはキーボードをフィーチャーしたそうで1曲目「Late-Century Dream」からそれはすごく象徴的で、ギタードラムベース一体となったバンド全体で一つの和音と表現したくなるようなコード感にぐっとくる。個人的には95年~のミディアムテンポな曲が増えてきたSuperchnk後期の瑞々しさにさらにちょっとギターポップみが添加された雰囲気で、Come Pick Me Upと地続きというよりは前々作「Indoor Living」の流れを汲むアルバムだと思う。アコースティック色も増えてCome Pick Me Upの熱量と比べるとゆったりとした風通しの良い曲が多く、休止直前のちょっとくたびれた雰囲気も感じますが、だからこそこの時期にしかない風情というのも間違いなくある。生音すぎない立体的なドラムの録音がすごくよくて今作アルビニではなくSlintやWilcoでも知られるブライアン・ポールソンが担当。かなり好きなプロデューサーだったりします。

 

Superchunk - Cup of Sand (2003)

B面やアルバム未収録のシングル曲、アウトトラックスをまとめた3枚組みコンピですが裏コンピと侮れないくらいとにかく良い曲しかない。開幕「The Majestic」からなんてったってCome Pick Me Upと完全に同時期1999年のシングル、しかもめちゃくちゃパンキッシュで、エモにもポップパンクにもならないSuperchunkの魔法がかかった最高の疾走ギターロックアンセムが続くし後の「A Small Definition」も90s中期でありFoolishやHere's Where The Strings Come Inと同時期なのだから驚くほど良い曲しかないです。リリースが多いだけあってライブ通ったりリアタイで追ってないと後から気付きにくいアルバム間でのEPやシングル等、その辺の決して見逃せない名曲たちを掬い取ってくれたようなアルバム。コンピなのでカバーも多いんですが、ボウイの「Scary Monsters (and Super Creeps)」はもうバンドの代表曲と言っても遜色がないくらい素晴らしく、イントロの空間を引き裂く大音量の鋭利なギターはインパクト大、個人的にはNUMBER GIRLも想起するSuperchunkの曲としても新境地に達した唯一無二のアンセム。A面の傑作EP郡まとめとこの曲だけでもオリジナルアルバムに匹敵する作品だと思います。

 

Polvo - Exploded Drawing(1996)

USチャペルヒル発、最初は同郷のSuperchunkが主宰するMerge Recordsからリリースしてましたが3rdにして今作はTouch and Goから。Shellacのボブ・ウェストンがプロデュースしていて彼とTouch and Goの結びつきも非常に強い時代ですね。名曲「Fast Canoe」から幕を開けこの曲のくねっとした気の抜けたギターリフの雰囲気はPavementやSilkwormが持ってる脱力感やひねくれっぷりと重なりUSインディーバンドとしてすごく惹かれるものがあった。このギターリフを何度か繰り返したところでアンサンブルを切り替えながらギタードラムベース、全パート1本のギターリフに追随するようにバンド一体で動き出す展開は今聞いても胸が熱くなります。ちょっとチープなジャケも最高でどことなくアジアンテイストなオリエンタルな雰囲気もアルバム内に顔を出す。どの曲でも予測不能な展開がとにかくすごくて、この唐突さや湾曲したギターリフからマスロック方面、それこそサブスクのサジェストでもポストハードコアと関連付けられているのは個人的にも意外だった。USインディーとして聞くとあまりメロディーはキャッチーではないのでとっつきづらさはありますが、その代わり奇妙なアンサンブルという点では急に豹変するバンドのテンションは掴みどころがなく、虚をつかれる突拍子のなさがとにかくかっこいい。かっこいいギターリフが鳴ってればOKって人にとってはこれ以上ないくらい最高のアルバムだと思います。Merge時代のジャンクな雰囲気と比べるとだいぶソリッドになったのもありフレーズの鋭角さが増しているのも熱い。

 

Archers Of Loaf - White Trash Heroes(1998)

Archers Of LoafはPolvoやSuperchunkと同じくノースカロライナ州チャペルヒル出身、そして解散後リマスターや再発をMergeが行ったりとSuperchunk周りのシーンとかなり関わりが深いバンド。てことで同時代USインディーの代表格の1人で、敬愛するブログWithout SoundsのPavementまとめ記事でもセットで紹介されてたのがとても印象深い。ソロでもMerge Recordsから出しているエリック・バックマンのボーカルは結構これ系のインディーロックの中でも突き抜けてメロディアス、ギターロックという言葉が一番しっくりきそうなシンプルなバンドサウンドはどことなくエモ風味もあって、ラフでエネルギッシュだったArchers Of Loafの初期作と比べると解散直前の4thである今作はどことなく円熟した雰囲気があり、ズッシリ構えた1曲目「Fashion Bleeds」の交錯するエッジの効いたツインギター、そしてそれををかっちりと繋ぎ止めるリズム隊からかなりかっこいい。ドラムの音がとてつもなく良く、これもアンサンブルの腰を落とした雰囲気に拍車をかけていて録音はブライアン・ポールソン、個人的に今作のFashion Bleedsを聞きライナーノーツでSpiderlandと同じ人というのを知り意識することとなった思い出深いアルバム。

 

The Spinanes - Manos(1993)

The SpinanesはSSWだったレベッカゲイツと、Built To Spillにも在籍したドラマースコット・プロウフによるインディーロックデュオ。Sub Pop発、そして最近Merge Recordsより再発とあの時代のオリンピアやチャペルヒルやらのインディーシーンの雰囲気をふんだんに纏った作品。同時期のSuperchunkと雰囲気は近く、90s中期頃に通じるミディアムテンポ+グッドメロディにカラッとしたギターサウンドの組み合わせ、しかしSuperchunkってマックのあの個性的すぎるハイトーンボイスが曲のニュアンスを作るというか性格を引っ張ってた要素がめちゃくちゃ強かったんだなということをこのバンドを聞いてると痛感する。女性ボーカルになったこともあって艶やかかつユルい雰囲気があって、でもギターのサウンドはこっちの方が金属的で、Superchunkほど分厚くないんですがその薄さのおかげでフレーズの妙やボーカルのメロディの良さとハーモニーが映える。アルバム名も冠する「Manos」はイントロがマジでめちゃくちゃかっこいいです。2018年以降の再発に入ってるボーナストラックのManosのライブ音源も躍動感ってこちらもすごくおすすめ。

 

The Spinanes - Strand(1996)

96年発の2ndで1曲目の「Madding」からとことんペースを落とした、音の薄さをカバーする間延びしたギターサウンドと丁寧に編みこまれる歌のハーモニーで空間を意識させるサウンドスケープは前作までのシンプルなUSインディーからは一転。個人的にポストロックを感じる域まで来ていて、スロウコアまでは言いませんがLowとかIdaとか、あの辺のバンドと近いものも感じてしまう。「Punch Line Looser」も同じ路線で最小限まで縮小されたリズムは最早トラック的、とびきりダウナーなボーカルがこれまた歌というよりは音色の一つくらいの存在感で重ねてきます。まぁこの2曲が極端なだけで他の曲は割と1stから引き続いてラフなインディーロック路線、「Azure」「Valency」とかはいつも通り聞けるキャッチーなアンセムになってますが、やっぱりアルバム全体通して聞くと暗いトーンが付き纏う。これによって前作にあったSuperchunkっぽさはほぼ無くなりむしろ後期Seamに通じるし、「Luminous」は後期Bedheadも感じで個人的に非常に好きなアルバム。

 

Helium - The Dirt of Luck(1995)

Matdor Records発のHeliumの1st。Heliumは90sに一度解散するPolvoのアッシュ・ボウイが参加していたバンドでボーカルは後にソロでも知られるメアリー・ティモニー。that dogやPavementっぽさもあるUSインディーでとにかくストレートにメロディが良い。ローファイやUSインディーの持つ親しみ深い崩れた歌メロの良さとジャンクなサウンドの王道を真っ直ぐに突き進みつつ、Heliumは同時代のグランジとも通じるところがあるヘヴィでザラついたギターサウンドが特徴的で、この重さと、メアリー・ティモニーのまったりとした甘美なゆるいボーカルの組み合わせがとにかく癖になる。彼女はスネイル・メイルのギターの師でもありDC出身でDCハードコアシーンとも密接、現在はFugaziのイアン・マッケイの弟アレク・マッケイと一緒にバンドを組んでたりもしていて旦那はFaraquetだったりと、Polvoのメンバーが在籍してることも含めて当事のUSインディーとDCハードコアと現在のシーンに至るまでミッシングリンク足りえるバンド。上記のSpinanesと一緒にちょっと90sのUSインディーっぽさもあったスネイル・メイルの1st原型の一つだと思うし、Speedy Ortizもめちゃ影響受けてると思います。

 

次回

kusodekaihug2.hatenablog.com

discography⑯

3月にPavementの来日ライブを見て胸を打たれ、その流れでかつてPavementを知った頃よく一緒に聞いていたUSインディーの好きなアルバムについて書き溜めたものを放出していきます。


 

Silkworm - Firewater(1996)

後にToucch and GoメインでリリースすることになるSilkwormがPavementYo La Tengoでも知られるMatador Recordsからリリースした3rd。彼らのリリースの中でも今作はとくにレーベルの色が出ていて、初期の頃の彼らの顔だったDinosaur Jr.とも直結しそうな親しみやすいメロディー+ヒリヒリとした硬質な音色によるやさぐれたローファイ感は今作かなりパワフルになっていて、開放的というか外にエネルギーが向ってる印象がある。冒頭の「Nerves」のリフからめちゃ爽快ですね。どの曲もメロディ重視でラフなアンサンブルもPavementと並べて聞けそうなノリ全開、にも関わらず今回もやっぱりアルビニ録音で炸裂する硬質なリフの気持ちよさもゴスゴスとした生々しいドラムの存在感も際立ってます。Superchunkアルビニ録音はガチャガチャとした勢いで突っ走っていくバンドの刹那的な瞬間を捉えものだったけど、あれとはまた違った、Silkwormはポストハードコアとも通じそうなザクザクとしたアタックの効いた録音はズッシリと構えた雰囲気があって、ここと枯れのあるグッドメロディが同居してるのはまさに唯一無二のバンド。

 

Modest Mouse - The Lonesome Crowded West(1997)

PavementやSebadoh、Built To SpillをきっかけにlastFMのlo-fiタグで漁ってたときに並んでいてとくに人気だったModest Mouse、それをきっかけにCDを買い集めましたが個人的にフェイバリットなのが2ndである今作(とThe Moon & Antarctica)。OGRE YOU ASSHOLEの出戸学がベストに上げてるアルバムで、OGRE YOU ASSHOLEというバンド名もModest Mouseがきっかけになってます。そして今作、とにかく1時間20分ギリギリCDに入りきるくらいあるボリュームはリラックスして聞けるこの時期のUSインディー的なアルバムと同じノリで聞くことはできず、異常なリリース速度と曲の数を持つGuided By Voicesとはまた違った意味で重い。色々ごちゃっとした録音はまさにインディーロック的でとにかく攻撃的な「Teeth Like God's Shoeshine」「Shit Luck」、孤独で寂びれた雰囲気が強い「Heart Cooks Brain」だったり、尖っているというか荒れているというかテンションの上がり下がりも激しい。アイザックのまくしたてるような歌と言うよりは言葉を連続で叩きつけるようなスタイルと歯切れのいい演奏が噛み合った「Truckers Atlas」も好きです。グランジやハードコアほど荒々しくはないしインディーロックほど親しみやすくもない、変なフレーズは飛び出てくるけどポストロックやマスロックとも違う、不安定でガサついた疾走感は同時代USインディーとも大分違ったバンドだと思う。でも何も考えずプレイヤーにCDを入れて流れるTeeth Like God's Shoeshineのイントロの強烈なギターリフは本当に脳天直撃と言うくらい衝撃を受けました。ぶっちゃけこのイントロがかっこよすぎてここだけの印象でも名盤と言いたくなるし、乱雑すぎるアルバムのボリュームにも目を瞑ってしまう。

 

Modest Mouse - The Moon & Antarctica(2000)

Modest MouseはUSインディーのローファイの代表格として90年代に出てきながらも00年代にはそれなりに大きなヒットを飛ばしてジャンルの立役者として一躍注目を浴び、その後ジョニー・マーも加入したりして今ではすっかり大御所としての地位を確立したバンドではありますが、その、広く受け入れられることとなったひねくれポップスの名盤「Good News For People Who Love Bad News」の一個手前にして90sのインディー時代の空気感もまだ残した3rd。前作まではオリンピアのUp Recordsからだったけど今作からEpicでメジャーへ。割と音からも違いを感じます。1曲目の糸を編むように紡がれるアコギの響きとアイザックの素朴な泣きメロがとにかく美しい「3rd Planet」での、静謐さと対比するよう挿入されるエレキギターの、前作譲りのスカスカでガチャっとした何か引っかかるものがあるような和音にとにかく涙してしまう。Modest Mouseでも最も好きな曲です。ギターの音が全編通してよすぎて「The Cold Part」「Gravity Rides Everything」でのツヤのあるどことなくSFチックな(アルバムタイトルで植えつけられた印象もあるだろうが)透明感のある音はとにかく琴線に触れてくるし、前作と比べるとアイザックが咆哮をかますことは減りましたがミディアムテンポでじわじわと空間を広げてくスケールは2ndでの寂びれた雰囲気がうまいこと昇華されてると思う。あとやっぱ名前の元ネタだけあって初期オウガっぽさもあって、というか前作とこのアルバムはどこ切り取って聞いてもチラついてしまいますね。

 

Modest Mouse - Building Nothing Out Of Something(2000)

90年代のEP+シングルをまとめたコンピレーションですがかなり統一した空気感があるし通して1時間未満と聞きやすく、乱雑だった2ndの方がコンピっぽさがあり、Up Recordsだし完全に同時期だしセットで聞きたくなる裏名盤。むしろ90sの彼らのスタイルを一番わかりやすく摂取できるんじゃないかというくらいで、とにかく1曲目の「Never Ending Math Equation」が名曲。カラッとしたラフなギターリフの反復とアイザックのためを効かせたボーカルのハーモニーによって風通しの良い哀愁が漂っていて、ひたすらこれを反復させ絶頂に向かってくModest Mouseの王道が続く。「All Night Diner」「Other People's Lives」も同スタイルで、ちょっと癖のある歌メロと歯切れのいいリフとの嚙み合わせとそのループ感が非常に心地よく、The Lonesome Crowded Westではそれこそ極端に暗かったり攻撃的だったり色んなタイプの曲がバラバラに盛り込まれてたのに対し、4~5分程度で聞ける曲が良い具合にまとめられていて最も普段聞きする作品かも。

 

 

Built To Spill - There's Nothing Wrong With Love(1994)

Modest Mouseと同じくオリンピア周辺のレーベルからリリースしていたUSインディーを代表するBuilt To Spillの2nd。今作もUpからですね。「Car」がとにかく文句の付け所がない名曲で静寂の中炸裂するダグ・マーシュの泣きメロも声も素晴らしすぎるし、ドラムが入ってから大きくメロディーを動かすぐにゃぐにゃのギターサウンドはストリングスも参加して美しいボーカルとも今まで静寂に寄った演奏ともそれぞれが対比になっててこのバランス感含めて名曲でしかないです。「Distopian Dream Girl」はまさにローファイといったガチャガチャとした弾きじゃくるという言葉がぴったりなギターリフが強烈に印象付けられるイントロからとにかくキャッチー、Built To Spillの透き通ったイメージとはまた違った、それこそもろPavementとかと通じるアンサンブルのごった煮感が気持ち良い一曲。どっしり構えてギター音も重い「Some」も好きです。代表作Keep It Like a Secretと比べるとノスタルジックすぎなくてサラッと聞くなら一番丁度良いアルバム。

 

Built To Spill - Keep It Like A Secret(1998)

90年台のUSインディーを代表する名盤。とにかく代表曲「Carry The Zero」の存在感は圧倒的で、透明感のあるノスタルジックなツインギターそれぞれの色を殺すことなく混ぜ合わせてしまう水彩画のようなイントロ、その上にダグ・マーシュの極上のメロディと美声が乗るんだからもう無敵でしょう。しかし本当にこの曲に限らず「The Plan」でのぐにゃぐにゃに伸び縮みするギターを軸にバンド全体で駆け上がってく多幸感溢れる後半の展開もあまりにもドラマティックだし、「Else」でのダグ・マーシュの浮遊感あるボーカルのループは一生続いてもいいというくらい心地いいですが、これもまたぶち上げすぎない、さり気ないアウトロでの展開の妙に泣ける。「Sidewalk」は湾曲したギターリフがイントロからとても印象的でこの絶妙にポップでキャッチーにまとめ上げてしまう捻くりっぷりがとてつもなく90sのUSインディー的、the pillowsのHAPPY BIVOUACはこの辺を参照してそう。本当に難しい言葉何一つ並べなくたって再生するだけで聞くものを虜にしてしまう宝石のようなアルバムだと思います。Dinosaur Jr.やPavementSuperchunkと並びこの時代のUSインディーの音を自分の中で確立してしまったアルバムの一つ。OGRE YOU ASSHOLEへの影響もめちゃ強いですね。

 

Pavement - Wowee Zowee(1995)

もしオールタイムベストを作るとなったら真っ先に上がる永遠の名盤。Wowee Zoweeを聞いてPavementは特別なバンドになったし、そこからUSインディー及び海外のローファイやオルタナと括られるシーン、TSUTAYAに置いてない音源を探すためにライブがてらユニオンや都内のレコ屋に通うきっかけになった。このバンドを知るきっかけになったWithout Soundsの特集記事には本当に感謝しています。1stや2ndでのスカスカでオンボロな演奏、ヘロヘロなボーカルにグッドメロディと言った要素で定着してしまったローファイという概念を、本人たちも自覚した上でこねくり回して単純な録音の悪さとはまた違ったニュアンスの「ネジ一本外れた感じ」を意図的に仕上げていった一つの到達点のようなアルバム(だと思っている)。初めて聞いた「Rattled By The Rush」での捻くれたギターフレーズやおもちゃみたいに散りばめられた気の抜けた効果音には強烈に惹かれるものがあったし、「Best Friend's Arm」での明らかに壊れたテンションや投げやりにも聞こえるヘラヘラなボーカルだったり、共通するへなちょこ感がどうしようもなく魅力的で、このチャーミングな抜けた感じに「ローファイ」という言葉を当てはめてしまいたくなるマジックがあると思っている。個人的には「Grave Architecture」が最も好きで、力の抜けたダウナーな雰囲気がアルバム全体を象徴してると思うし、捻りの効いたスカスカなアンサンブルのおかげでメロディーの良さも際立っていて初期と比べても隙間があるのが今作の特徴だと思う。「Kennel District」は1st2ndの作風が好きだった人にも真っ直ぐに突き刺さるはずだし、「At & T」も脱力しすぎて完全に崩れ切ったボーカルが印象的なのに泣けてしまう。代表曲ですが「Grounded」もやっぱり名曲。どの曲が一番好きかって話をするのが楽しいアルバムだと思うし、こんなに1曲1曲聞き進めるのが楽しかったアルバム他に無いです。

 

Pavement - Brighten The Corners(1997)

前作のちょっと崩した雰囲気をそのまま血肉としながらポップミュージックとして出力し直したようなとても聞きやすい4th。Pavementの中で最も人懐っこいメロディーが堪能できると思うし、それこそWeezerのBlue AlbumやNirvanaNevermindと同じようにジャンルの壁を破壊して金字塔になれるような力もありそうな、それでいてしっかりバンドの特徴が反映されたアルバムかと。開幕「Stereo」はバンドの代表曲にして、まさに前作で培ったネジ一本抜けた感じをここまでわかりやすく説明できる曲ないのではないでしょうか。イントロの気が抜けたギターの音やぶっきらぼうなベースライン、サビでヘタレっぽくやけくそに叫びまくるマルクマスは聴いていて爽快。「Shady Lane」「Blue Hawaian」あたりは純粋の極上のメロディーの良さがあって歌もののペイヴメント作品としては今作が一番光るものがあると思うし、とくに「Date With IKEA」はマルクマスだけではなくスコット・カンバーグのメロディーセンスが大爆発していて、意外と解散後にローファイとはかけ離れた路線に向かってくマルクマスとは逆行してPavement直系のグッドメロディを書き続けるスコットの片鱗が見える曲じゃないかと思います。それゆえ前作までのぶっ壊れ感はそこまで大きくなく、むしろ次作にも通じてくるフォーク/カントリーっぽいゆったりとした風情がとても心地いい作品。

 

 

次回

 

2023年上半期聞いてたもの

上半期にリリースされた新譜でよく聞いてたものを並べました。


People In The Box、FACS、Shame、Model/Actriz、Cwondoについてはこちら

他deathcrash、Squid、butohes、SPOILMANについては単品記事にて

 

上記以外のアルバムについて触れていきます。


 

5kai - 行

5kai。昨年末にライブを見て衝撃を受けそのまま新譜をリリース。上半期前半はずっとこのアルバムを聞いてました。元々最小限、線の細い鉄をひたすら打ちつけるような強烈なアンサンブルはスロウコアと呼ぶにはマッシブすぎる冷たいポストハードコアで、今作はそこからまた逸脱した、アコースティックギターを導入し生々しさが増し歌ものとしての要素も強めた「棚」とか、温かみすらある「ロウソク」とか、バンドの冷たさと硬さを殺さぬまま両立できるんだ?という驚きの曲達に打ちのめされた。そして一番やばいのが「祝詞」という曲、Pop Groupを想起するフリーキーなサウンドでアコギをグリッチで歪めた人力IDMみたいな様相すら見せる、ハードコアサイドのフォークトロニカみたいな感じで、自分の音楽趣味だと耳馴染みありすぎるながらも聞いたことない組み合わせでこれは本当に衝撃でした。

 

Cruyff - lovefullstudentnerdthings

昨年リリースされたシングルがあまりにも素晴らしく当事の上半期(上半期+7月に聞いた新譜まとめ - 朱莉TeenageRiot)でも触れたCruyff、あの時の印象をそのままアップデートしたような爆音オルタナという言葉がぴったりのフルアルバム。轟音ヘヴィシューゲイズからグランジからポストハードコアまで全突っ込み、不穏なノイズロック然としながらも最後は爽快に全部振り切って走り出してしまう「lovefullstudentnerdthings」は夏にぴったりで泣けてしまう。ポエトリーでもなければ歌ものという程でもない、しかしある程度メロディーの形はしっかり残したぼそぼそと不安定なボーカルの存在感にもすごく惹かれる。「summercut」はスマパンのサイアミーズ期なイントロからHum直系のへヴィシューゲへ。Hum自体がスマパンフォロワーという経緯を考えると中々に熱いし、ギターロックの系譜にしっかりと乗ったナンバガNirvanaFugaziもSmashing Pumkinsが好きな人も全員是非という感じです。

 

 

Lily Fury - ANTHOLOGY

とにかく「International Lily White」があまりにもすごすぎて圧巻です。同タイトルの架空の映画のサントラを聞いているような、作品の記憶を脳内に植えつけられてしまったかと錯覚してしまう壮大な曲群。AとBに分割されていてSpotifyだと全4曲24分、しかしこれもただアルバムの一部でしかなくこの体験を終えた後始まる「Brocade」がストレートに真っ直ぐ突き刺さってくるギターロックの名曲でこの構成にも泣ける。今年ベストトラックかもしれません。BorisのNew Albumで言うLoopriderのポジというか、カオスであること自体が一つの一貫性足りえるという聞いたときの印象という意味でもNew Albumを連想したのかも。すごくバラエティに富んでいてworld's end girlfriendにBoris芸能山城組、シューゲイズやポストロックまで一括りにしたオルタナブレイクコアにフューチャーベースまでめまぐるしく変化する巨大な轟音世界でディーパーズのYukari Telepathも思い出す。今年はツイッターでp rosaが話題でしたが確実に同じ層に刺さる作品だと思います。

 

waveform* - Antarctica

ここ数年bandcampスロウコアタグの常連とも言えるバンドで今回Run For Coverから。2018年リリースのSckrpnchというMelaina Kolとのスプリットでは夢心地な幻想世界へと旅立てる超叙情的ドリームポップが何割か入ったスロウコアで超好きだったのですが、今作はもうスロウコアでは無いけど、今までそれをやってきた土壌から出てきたことが確かにわかるエモ寄りのインディーロック。単純な静→動のコントラストだけでは描き切れなそうなどっちともとれる感じをふらふら浮遊しながらグッドメロディを乗せてくる。deathcrashがスロウコア+エモでslow moなんて単語をインタビューで使ってましたがwaveformこそslow moのイメージですね。

 

Pile - All Fiction

Exploding In Soundより同レーベルではお馴染みPileの新譜。Pileを聞くたびにこれはポストハードコア?エモ?グランジ?咀嚼され切ったバンドの音は掴みどころがなくただ自分には普段からずっと親しみのある音楽であることは間違いなくわかる、そんなPileがリリースした前作Songs Known Together, Aloneは路線変更していて電子音の海に浮かんでぷかぷかする宇宙遊泳オルタナとも言える作品でした。正直しっくりきてなかったけど、そこから2年足らず、前作と比べれば初期路線・・・とにかく好きな音が最高にかっこいい音でビシバシ鳴りまくっていて、あまりの愚直さに乾いた笑いが出た。ストレートにやられました。ハードなベースラインを軸にアンサンブルを解体してくようなフレーズの妙は安定してるのか不安定なのかわからん、統制された不協和音による崩れたヘヴィさが猛烈に刺さる。

 

Washer - Improved Means To Deteriorated Ends 

こちらもExploding In Soundからでレーベル初期からいる古株ですがフルアルバムとしては6年ぶり。しかしいつ聞いてもWasherは本当にただひたすらメロディが良く、ジャンルとしてはエモのフィーリングありつつエモの型には嵌らない、力の抜けたジャンクなインディーロックの質感があって今回もいつも通り。ちょっとNeutral Milk Hotelも思い出しますね。

 

Horse Jumper of Love - Heartbreak Rules

こちらもRun For CoverからHorse Jumper of Love一年ぶりの新譜。初期のノイジーさはどんどん薄まり彼らの純粋な中身がさらけ出てきたかのような、音数を減らしソフトでアコースティックな雰囲気も出しながらもそれでも痛みを感じさせてくる繊細なインディーロック。ほんのりスロウコアフレーバーも乗っかっててとても暖かい。今まで以上に崩れた曲もあって初期のJoan of Arcを思い出したりもした。

 

bondo - Print Selections

90年代Touch and GoやSouthernの影響を受けて出てきたかのようなポストハードコア以降の硬質な音色とアンサンブル、そこにインディーロックの親しみやすさがブレンドされた現代のNeutrinoとも言える熱いバンド。めっちゃいい。本当に2023年?と思ってしまう程の2000年前後くらいのアルビニ録音のスロウコア寄りポストハードコアみたいな、解散直前のAtivinとかBedheadみたいな雰囲気もある。

 

坂口達也 - STA

Empty Classroomの坂口氏によるソロ。バンドでもおなじみの名曲「第12話」も収録されていて何度聞いても名曲で震える。開幕の「電子の砂漠」のイントロの冷たいギターやどこかくたびれ雰囲気がひんやりと心地よく、諦念感漂う言葉一つ一つにすごく居心地の良さを感じる中で、諦めてはいても言葉を吐き出さずにはいられなかったような生々しさが伝わってかなりぐっときてしまった。「シャフト」も近い温度感がありこちらも名曲。全体的に00年代ギターロックっぽいというか、GRAPEVINEでのイデア~deracine辺りのアルバム曲とか、pillowsのペナルティーライフ辺りを思い出しますね。最後のSTAGEはイントロから全て破壊してくような重厚なギターの爆音アンセムで感情全放出したような圧が凄まじく、しかも綺麗に終わらず轟音ぶつ切りでアルバムが終わってしまうところ含めてやりきれなさを感じてこちらもかなりぐっとくる。リピートにしているとこのあとまた戻ってきた電子の砂漠での、STAGEとは対照的な平熱感が、初聴時とは別のベクトルで聞こえてくるのも良い。レヴュースタァライトのファンの方はとくにオススメです。

 

ミツメ - ドライブEP

4曲全部やばすぎるEP。「ドライブ」は全パート各々独立したリズムが交錯してもうジャズファンクみたいになってるし、「メビウス」はアンサンブル以前に音色の選択とか重ね方そのものがグルーヴに直結してて本当にすごすぎます。「チョコレート」は可愛げがあるのに気が狂ったギターが飛び回り、極端にパン振りされた両耳を交互に行き来するもう一本のギターもキーボードみたいな音色の質感が癖になる。摩訶不思議なバンドサウンドのマジックがこれでもかというくらい詰め込まれてて、全部違う方向から殴りかかってくるというか、一曲一曲次々と宝箱を開けているような気持ちになる。

 

OGRE YOU ASSHOLE - 家の外

突如リリースされたEP。最初の「待ち時間」からして電子音のシーケンスを軸としたミニマルなナンバー、それこそworkshopのロープ(medication ver.)みたいな、このグルーヴをメインとしながら展開していく「家の中」「ただ立ってる」とどれもこれも最近のライブを連想する。前アルバムでの乾いた質感と比べるとは今作もう少し分離が良く、それぞれの楽器の音や隙間の埋め方がはっきりと分かる音で録音されていて、そういった意味でも彼らのライブでのアプローチがここまで音源に反映されてるのとても珍しいと思います。最近の見えないルールの前振りで流れる電子音のループとかまさに一曲目っぽいですね。かと言ってライブでの無機的な反復から生演奏による有機的なグルーヴへと自然に移行してくような大きな展開はこちらにはなく、うまいことバンドにおける熱量のピーク直前にあたる部分を抽出して均等にコンパクトにまとめたすごく面白い作品だと思う。ライブや音源でもリアレンジが多いバンドですがこういう新作を届けてくれること自体嬉しいというか、醍醐味ですね。今作めちゃくちゃ70sのクラウトロックの色が強くて「長い間」はミヒャエル・ローターすぎる上に歌メロはもろCANのOh Yeahのオマージュだし、ここまで元ネタというかリファレンスを露出させてるのも珍しくてニヤリとしました。

 

Homecomings - New Neighbors

君は放課後インソムニアのEDで流れた曲がイントロからコーラスがかった幽玄なギターの音色とどことなくThe Police風にも聞こえてリズム隊にもポストパンク/ニューウェーブを仄かに感じ、そこに日本語の歌ものとしてとてもやわらかいSSWっぽさもあるボーカルが乗ったときの折衷具合があまりにもよすぎてクレジットを見たらHomecomings・・・まるで気付けず、というか前作までのイメージからだとかなり驚きました。今までインタビュー等でリファレンスとして挙げてるバンドや比較されるジャンル、全部好きなのにも関わらず本人達のアルバムにあんましっくりきてなかったというのが正直なところで、日本語になってからも、ちょっとオルタナとかニューウェーブとかのラインではなくユーミンっぽいなと思って聞いてて歌が先行するイメージがついちゃってバンドとしてあまり聞けてなく、リズと青い鳥とか好きだったけど主題歌はしっくり来ず・・・て感じでしたが今作は間違いなく大好きと言えます。オルタナ寄りというか、「Shadow Boxer」「euphoria/ユーフォリア」はシューゲやシューゲ前夜のギターポップとかの空気を咀嚼しながら空間に寄せてドリームポップになるわけでもない、轟音すぎずでもニュアンスは引用、みたいな、ボーカルも演奏に溶け合わせるわけでもなくあくまでしっかり分離して乗っかってるのは昔ながら日本のギターロックバンドの手法として系譜があると思うし、挿入歌の「US/アス」も同系列で疾走感があって好きでした。てか放課後インソムニアめちゃくちゃ良かったよ。主題歌はaikoだし・・・

 

 

スピッツ - ひみつスタジオ

めっちゃ良かったです。「美しい鰭」も「手毬」も初期スピッツからずっと地続きなネオアコとかギターポップみたいなそういう瑞々しさがちょっとだけ年季入った雰囲気で余裕持って、かと言って手癖っぽさもなくて、とにかく先行公開された美しい鰭での透明感のあるギターのトーンからして再生数秒で心を鷲掴みにされた。流れ星とか愛の言葉とか、このバンドの持つイントロの魔力は本当に凄まじくて、再生して一発目のホーンの音がそのまま続くかと思ったらその一音のみ、フレーズの続きのメロディーをギターが引き継いでく初手インパクトとの差し引きが天才的だと思います。手毬、イントロのこの雰囲気自体が懐かしくて少し泣きそうになった上にめちゃくちゃ歌詞が良い。「手に入るはずだった未来より/素朴な今にありついた」はやばいですね。手毬って言葉の響きにかわいらしさと、今は戻ってこないかつての楽しかった思い出とか郷愁とか儚い美しさが同居している。あと「オバケのロックバンド」も好きで、イントロいきなりAC/DCみたいな土臭いハードロッキンなリフでにんまりしているとボーカルはメンバー全員担当という驚きが二度ある。

 

Yo La Tengo - This Stupid World

前作「There's A Riot Going On」はよく聞いてたのですが、漂っている音をそのまま掴み取って形にするのではなく素材として空間に浸らせ音色そのものと同化するみたいな、もうバンドとしての肉感を楽しむのではなく、音響全振りして幽体化したスタイルが今のYo La Tengoなのかなぁと勝手に判断していた自分にぶち込まれた極上のオルタナ/USインディー風味でギターロック好きにも刺さる名盤。そもそも彼らのフェイバリットとしてElectr-O-PuraやPainfulをベストにあげてしまう自分としてはもう、何も言うことがない。バンドのお決まりとも言うべきこのベースラインだったりギターのトーンだったりつかみどころがないようで形がしっかりした、温かみのあるノイジーでまるで毛布のようなアンサンブルの音の膜自体がそのままYo La Tengoの形状をしていて、どことなくオールディーズの雰囲気も同化してるのもすごく懐かしく、所謂USインディーって呼ばれてた90年代のバンド達と比べるとYo La Tengoはこの部分で乖離があったと思います。カバー集のFakebookがそれを象徴してたというか、その感じも今作強くてすごく良かった。

 

Cusper - The View From Above

最高。Duster直系にBluetile Loungeも混じった、90年台スロウコアのオリジネイター達のおいしいとこ全部詰め込んだようなアルバム。毛布にくるまって一人でただ呆然と浸りたくなるような孤独と温かみとを同時に感じてしまう、これがまた長尺じゃなくて意外とさらっと聴けるサイズに落ち着いているのも意外です。スロウコアと言えばコップに一滴ずつ水を垂らしていくようなイメージがあるんですがCusperは繰り返すのではなく展開を増やし、その上コンパクトにまとめてしまう。

 

bar italia - Tracey Denim

リリース前より話題になってたbar italiaの新譜で、馴染み深いどこかチープでミニマルでスカスカなバンドアンサンブルは完全に70sのポストパンクバンドの雰囲気で、Joy DivisionとかRaincortsとか、しかしそこに乗るのはまるでUSインディーのようなグッドメロディ。PavementとかHeliumのノリでも聞けてしまえる、好きな要素全部詰めこんで着飾ることなく正面からリバイバルをやってて笑顔になってしまう。これがマタドールからリリースされてるのも納得しかないです。

 

King Krule - Space Heavy

こちらも話題作で今までで一番すんなり聞けました。Jay Somくらいのユルいインディーポップなのに低音がえぐいくらい効いてる。Conan Mokasinっぽさもあってこういうサイケでチルなインディーロックは数年前まではいくらでも聞いてたような気がするけど今改めて聞くと懐かしくなりました。

 

UMO - V

前作はめっちゃフリーキーで比較対象がkikagaku moyouくらいまできてたイメージでしたが、今作ぎゅっと収縮したサイケなインディーポップくらいの趣で良い。King Krule新譜とも近くてAORっぽいメロウさもかなりある。あとジャケが最高ですね。

 

Yves Tumor - Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)

話題作。前作とかも聞いたことなくて先入観無しで聞いたらNew Orderみたいなニューウェーブが流れたり「Meteora Bluce」辺りはラウド&クワイエットな重厚なギター中心のロックで普通にART-SCHOOLみたいな感じで聞けて、ソウルフィーリングもミックスされてるしどことなくゴスっぽいダークな雰囲気もあり・・・と、そのハイブリッドさに圧倒され新しさと懐かしさが同居してすんなり聞けてしまい一瞬でファンになった。自分でも気付いてなかった欲しかったものが箱を開けたらいっぱいあったみたいな、意外とこういうアルバム一番聞きたかったかもしれないですね。

 

Jonah Yano - Portrait Of A Dog

完全初聴ですが良すぎてびっくりして、Sea and Cakeとかあの辺のサム・プレコップとかのジャジーなポストロックとも通じ合えそうな、しかしその辺が持ってたエクスペリメンタルな要素を抑えて純粋にジャズとロックの繋がりを強固にして練り上げて更にインディーフォーク的な素朴な歌ものフィーリングを乗せた感じで。「always」ではゆるく流してたくなるソフトな序盤から、ボーカルが無くなり長いアウトロとも言える後半のインストパートはアグレッシブにセッションのギアを上げて行く様は夢中になってしまう。肩の力抜いてのんびり聞き流せそうなラフな空気もありながら、純粋にバンドのアンサンブルの魔力でどんどん聞き入って耳を離せなくなってしまうようなところも両立した本当にすごいアルバムだと思います。

 

Queens of the Stone Age - In Times New Roman...

前作と同じくマタドールから。僕はとにかく数年前に出たVillansが好きでかなり聞いてたのでそのまま正面からアップデートしたような今作がハマらないわけなく、今作もあまりストーナー、メタル、グランジと言った言葉から連想するようなヘヴィなギターサウンドはそこには無い。純粋に無骨にバンドのグルーヴを露出させていくような一切の装飾を外しその上でボトムを太くしていったような、素材を見せるようなギターの音色で、決まったリフを繰り返すというよりはリズム隊と一体になるような、まるでQueens of the Stone Ageという一つの生命体の手足のように連動して動くドラムとベースとの絡みが圧倒的にかっこいい。純粋に「ロックバンドの一アルバム」という難しいこと抜きにして聞いたら今年一番のアルバムだったかもしれません。あと音が良すぎる。Spotifyの音質でもわかるくらいドラムに臨場感あって一瞬で引き込まれます。それもあってリズム隊の動きに耳を惹かれる。

 

カルト3 - LIIV

ライブ音源ですが最高の曲達が最高の録音で保存されていてこれを聞いていると子供の頃どうしてロックが好きだったか、一番最初の原点を記憶の底から掬い取ってくるような、どうして今でもギターロックを聴きそこに何を期待しているのか今一度思い出させてくれたアルバム。音はかなり荒々しいですが、純粋に曲が良くてしかもギターリフはド派手なのでこの音がめちゃくちゃ映える。ジャケもかっこよすぎる。ちなみに最初の「サウスポー」は上記の坂口達也氏のSTAGEがサウンドクラウドで公開されたとき、それに触発されてできた曲らしいです。

 

Murray a Cape - Sight/hate

2ndEPで前作と大分イメージが変わってて、轟音すぎないザラついた微シューゲイズであくまで隙間を残して疾走してる感じが少しギターポップみもあって、風通しのよさと歌との折衷具合はAdorableも思い出す。ギターの音色が唯一無二ですね。こんだけ弾きまくってるのに清涼感あるのはたぶん音色のおかげかもしれないけど、この遠くで鳴ってる音を聴いてる感じはどことなく郷愁的で良すぎる。wipe氏のイノセントなボーカルもいい意味で崩れた雰囲気があって、「Javelin」の突っ走ってる感じとかすごく好きです。

 

揺らぎ-Hear I Stand

先行トラックの「Hear I Stand」がもろにスロウコアな質感でスカスカで硬質なギターとドラムの残響で空間そのものの奥行きを音と音の合間で表現する曲で、シューゲやドリームポップの空間を満たす手法とは逆の、音数を減らした硬質なギターの残響、そっから炸裂する轟音はどちらかというとHum系列のヘヴィシューゲ。アルバム通しても至るとこから痛みを感じるようなスローペースのヒリついた曲が多くて前作とは全く違ったアプローチですがかなり良かった。

 

Kaho Matsui - NO MORE LOSSES

bandcampスロウコアタグより。アンビエント/エレクトロニカのトラックメイクをふんだんに使った音の隙間とキャッチ―な音色の抜き差しが絶妙な歌ものスロウコア、隙間だらけでもそこまで分離がよくないローファイな質感が暖かくて、バンドとトラックが分離し切ってない一個丸まった形として入ってくるごった煮感がメロディーの優しさとぶつかって90sUSインディーくらいのジャンクな親しみやすさがある。

 

Ativin - Austere

再結成に驚くしかなかった。メンバーは変わらずEarly Day Minersでも知られるダニエル・バートンを中心にしてドラムはCodeineのクリス・ブロコウという驚きの面子。初期のSlint路線なのか中期のマス/スロウコアなのか解散直前のポストハードコアなのか・・・再生するとそれは20年のキャリアを感じさせる円熟しきった、中期~後期をミックスしたような、どの時期とも接続できるスロウコアに限りなく近いポストハードコア。色々そぎ落としたニュートラル状態で素をさらけ出してる感じがします。

 

Aidan Baker - Engenderine

アンビエントな色が強い長尺なナンバーで埋め尽くされたAidan Baker新譜はめちゃくちゃスペーシー、月面とか宇宙空間に放り出されただただ広大な闇に押しつぶされズブズブと飲み込まれ呆然としていたくなるような無重力を感じるダビーなスロウコア。不定期なドラムの残響がとても重くてこれが癖になります。

 

Midwife & Vyva Melinkolya - Orbweaving

こちらもwaveform*と同じくbandcampスロウコアタグ常連MidwifeがVyva Melinkolyaとコラボレーションしたアルバム。Aidan Bakerとはちょっと色が違いますがこちらも半分アンビエントと融合し幽体化したスロウコアバンドみたいな感じで、とにかく暗くてサッドコアという言葉を使いたくなります。ぼんやりと薄い膜がいくつも折り重なってドリームポップやシューゲイズの雰囲気もあって全部が曖昧にされた中今にも途切れそうに紡がれるボーカルが染みる。

 

ART-SCHOOL - luminous

最初の「Moonlise Kingdome」からシューゲイザー色強くてびっくりしたけどアルバム通してそういったわけではなく、「ブラックホール・ベイビー」はナンバガだったりスマパンだったり「2AM」はキュアー+スミスだったり、トディ曲の「Teardrops」はプラトゥリを思い出し、どの曲もエッジが効いていて雑にオルタナって呼びたくなる懐かしさがあって、Baby Acid Baby~Youあたりの新体制による硬質な荒々しさも残しながら初期を連想する要素あってすごくよかったです。声がめっちゃ調子いいのも驚きだった。

 

アイカツ! 10th STORY 未来へのSTARWAY

本当にありがとう。

 

これはART-SCHOOLじゃない方のルミナスの新曲で、この3人による新しい曲が聞けるとは思っていなかった上にあまりの素晴らしさに落涙。

 

Sign? Go! Dream!!

NARASAKI新曲。Signalize!!意識ということでジャケも似通っていて本当にぶち上がったしNew Order要素もかなり入っていて、10年前の第一話のOPという歴史的な曲と対になるのにも関わらずここまで渋い曲に仕上げて尚且つオマージュも散りばめられていて驚きました。個人的にLily Furyと並べて聴きたい。劇場版直後というのもあり色々と思い出して聴いていて涙が止まらないですね。

 


以上です。あとはBully、Narrow Head、Wednesday、Murder Capitalとか聞いてました。Mhaolっていうポストパンクも良かった。あとSwans新譜も。Iggy Popの新譜も初期くらいパンキッシュで驚きでした。Truth ClubとかSprainとか前々から好きなバンドも続々シングルとか出てて下半期も楽しみです。7月分だとPSP Socialがヤバかった。サーフブンガクカマクラ完全版はあんましっくりきてないです。今期はBLEACH見ます。