朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

記録シリーズ:Shipping News

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Shipping News。RodnaやJuen of 44でフロントマンとして活躍したジェフ・ミューラー最後のバンドにして、Rodan時代を共にした盟友ジェイソン・ノーブルと再びタッグを組みルーツであるハードコア~スロウコアを掘り返します。

00年代に多数フォロワーを生んだポストロック元祖であるSlintやRodan、Crainを発祥とし脈々と続くルイビルのポストハードコア~ポストロックのオリジネイターによる正当な後継。前回、前々回から引き続きSlint以降というテーマの最終ということで全アルバム感想です。


 

Shipping News - Save Everything(1997)

てわけで1st、元々Rodanで活動していたというのもありもろ直系のサウンド・・・とは言いつつRodanにあったスロウコアから爆発して一気に音が分厚くなるエモーショナルな展開はあまり見せず、硬質で冷ややかなギターサウンドと3ピースの隙間のあるアンサンブルを生かし、じわじわと緊張感を持続させながら形を変えていきます。静→動の対比の色はあまりなく、彼らのフォロワーであろう今後出てくるポストロックやマスロックをもろ想起する感じでShipping Newsを聞くことでRodanがマスロックの元祖というのにも説得力が出てくる気がします。実際以降のバンドでもAtivinとかはもろこの頃のShipping Newsを思い出すし、ポストロック大御所ですが初期はハードコアの冷たさが残っていたMurcury Programの1st~2ndとかも近しいものを感じます。

 

Shipping News - Very Soon, And In Pleasant Company(2001)

前作と比べて一気に静寂寄り、前身バンドも含めて彼らのキャリア内で最も落ち着いた作品かもしれません。開幕「The March Song」からミニマルなフレーズの反復によるスロウコアですが、轟音で爆発させるのではなく硬質なフレーズの絡み合いの妙で爆発を表現するというのはJuen of 44でも見られた作風であり音色がおそろしくかっこいいです。June of 44の3rdからダブ要素を薄くした作品としても聞けるし、スロウコア色強くなると同時にジェフの歌心も相まってフォークロック的な風情も少しあり、Rodanの頃からの抒情的なメロディーが濃く出てる曲が好きだった人はしっくりくると思います。

 

Shipping News - Three-Four(2003)

ジャケがマジでかっこよすぎる・・・というかShipping Newsはアートワーク全部かっこいいですね。今作はEPをくっつけたコンピレーションですが新曲3つ追加されてたり全部同時期の録音なので統一感もあり、普通に3rdアルバムとして聞けます。「Hanted on Foot」「Haymaker」辺りはSlintを思い出す静→動への爆発していくスロウコアですがギターのバースト具合が尋常じゃなく、ここまでやるとMogwaiとかと同系列として聞けるでしょう。

あとは静へと振り切った曲が多くやはりSlint~The For Carnationなどのルイビルの同期と呼応しどこまでも深淵へと潜ってしまうし(実際に次作からはThe For Carnationのベーシストであるトッド・クックがメンバーとして加入します)、全体的に落ち着いた曲が多い分、狂気的な曲の振り切り具合がすごいです。今までと比べるとアコースティックな歌ものの雰囲気もあり、Mogwaiの2ndとか、あとDusterとかとも並べて聞ける気がします。通して聞くにはちと重いですが名曲だらけ。

 

Shipping News - Flies The Fields(2005)

2005年ということでルイビル発祥の他のバンドは多数解散、むしろシーンは次に移り変わり、自分達の影響下である新しいポストロックやマスロックのシーン真っ只中で発表された代表作。そんな中彼らは音をそぎ落とし、初期RodanやJune of 44の1st~2ndを想起する彼らのポストハードコア的な獰猛なバンドの音を突き詰めていった作品とも言え、相変わらず陰鬱ですがインディーロックとかからもアクセスしやすいアルバムじゃないでしょうか。

1曲目「Axons and Dendrites」から後のライブ盤にも収録されるナンバーで彼らの曲の中でも随一のポップさを誇っていますが、スポークンワーズを軸にじわじわ迫ってくるスタイルはやはりSlint以降という空気を漂わせ、今や一つの様式美と化した時代にそのオリジネイター達が円熟した音を鳴らしている・・・というより、その更に次に行ってしまったという気さえします。「(Morays or) Demon」に関してはShipping Newsらしいハードなナンバーで、今までのアルバムでの彼らってスロウコア~ポストロックに寄ってた気がしますが、今回はポストハードコアに回帰しそれを発展させてる印象があり、今までの経過を聞きつつ2005年の作品としてこれを聞くとストレートすぎてニヤリとします。

Rodan、June of 44と枝分かれしていったバンドとこれを聴き比べることで、フロントマンであるジェフ・ミューラーはそれぞれのバンドの音楽性の"どの部分"を担当していたのかが浮き彫りになってくるので聞き比べるのが非常に面白いです。その核とも言える部分がむき出しになっているのがこのアルバム、でしょう。ちなみに紹介した4枚全てShellacのボブ・ウェストンによる録音、レーベルはTouch&Go傘下のQuarterstickという、Rodan時代から彼らの作品では完全にお馴染みのメンツ。

 

Shipping News - One Less Heartless To Fear(2010)

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解散前ラストアルバムにして地元ルイビルでの演奏を記録したライブ盤、しかも前アルバムの2曲を除き全て新曲。ライブ音源そのままということでシンプルなアレンジな上に結構早い曲が多くパンクに回帰した・・・というイメージでしたが、B面からは今まで通りポストロック色も強くなり「Do You Remember The Avenues?」とかはもう半マスロック化しつつShipping Newsとは思えないほど高速でめちゃくちゃかっこいいです。もっとこの路線を聞きたかった・・・。

主要メンバーであるジェイソン・ノーブルが2013年に亡くなってしまいバンドは解散。当時まだファンではありませんでしたが、ジェフとジェイソンは高校時代からの親友でJ・クルー、Rodan、Shipping Newsと10代の頃からずっと一緒に音楽をやってきてるので当時の彼の心境については想像に難くないです・・・。ジェフ・ミューラーについて僕は最も影響を受けているミュージシャンの一人ですので、何年か経ち今またJune of 44として再始動してくれたことに感謝しかありません。

 

以上です。元々前身となったRodan及びJune of 44の記事と一緒にジェフ・ミューラーのバンドとして載せようと思ったんですが流石に長くなりすぎたので断念、そしてSlint以降のルイビルの系譜としても完成系の一つということで別で書きました。とりあえずRodanからセットで是非とも、下に関連記事並べます。

 

 

そしてこれら以降に近い雰囲気のあるバンドとかを並べたやつですが、一応ルイビル関連としては一まとめです。

 

 

邦楽オールタイムベスト①

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邦楽について分けて書こうかなと思ったんですが(あんま聞いてないし)、昨年そういえばツイッターで邦楽オールタイムベスト投票ってのが流行り、投票はしなかったけど仲間内でリスト作って公開するってのをやったので、そこで選んだのを中心+最近マジで良かったやつとかを思い出込みで書いてこうと思います。


 

LOSTAGE - Guiter(2014)

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LOSTAGE、元々は4ピースでぶっといギター二本を生かした轟音エモとも呼べるポストハードコアサウンドにどう日本語を乗せるか・・・というバンドだったのが2009年のメンバー脱退を境に3ピースへと転身。基本はエモ~オルタナを横断しつつハードロックやダブ等様々な顔を見せつつもストイックに音をそぎ落とし、歌もの要素もどんどん強まっていき・・・て感じですが、今作4ピース時代の轟音要素と3ピース以降のバンドサウンドがいい感じにバランスよく完成されててある意味到達点という気もします。

エモ・・・を通り越しポストロックにまで近づいたような優しいギターの包み方をしてくれるんですが、いややっぱ基本ギターロック的ですが一瞬そう言いたくなるような暖かみがあるのはやっぱり五味さんの歌かな。スケール感広い轟音要素もガッツリ残ってる中「どこでもない」とか「路傍の花」とかで見せる収束してそぎ落とした瞬間のギターの音は隙間の中で本当に映える。元々歌詞が好きなバンドで、抽象的ながら時折見せる強烈な人間らしい言葉のやさしさに触れた瞬間そのギャップに泣いてしまう・・・。ブッチャーズに捧げる「美しき敗北者達」なんてタイトルから良すぎますね。

 

Tatuki Seksu - Hanazawa EP(2011)

Tatuki Seksu – Hanazawa EP (2011, 320 kbps, File) - Discogs

出会ったときの衝撃がマジで凄まじかったネットレーベル発のシューゲイザー名盤。花澤香菜のアニソンやキャラソンからボーカルを抽出しそこに轟音ノイズを乗せるというまさにインターネット感のあるリミックスのようなアルバムですが、演奏も打ち込みではなくこれを録るためにレコーディングしたという力の入りっぷり。そして彼女のウィスパー風味の声質がシューゲイザー特有の甘美さや浮遊感と相性が良すぎて、1曲目の「プリコグ」から本来アニソン(これはゲームからですが)らしいかわいらしいコーラスがドリーミーでミステリアスになるという超化学反応が起きてました。「恋愛サーキュレーション」でも大轟音の中でも声質のおかげでハッキリと存在感があり異物感が一切ない・・・。

基本的にはマイブラリスペクトの王道シューゲイズ、ですがマンチェっぽいダンサンブルさはなく、むしろ重めのノイズがより強烈に乗っててオルタナ度かなり強め。ていうかこれもうオタクの夢みたいなもんですよ、いや発想はわかるし本当にピンポイントに突き刺さるものだけどそれにしても素材が良すぎるし、演奏も良すぎるしで広く聴ける作品だと思うんですよ。マジですごい。

 

Elfs In Bloom - Girl Meets Manifesto(2012)

Girl Meets Manifesto | Elfs In Bloom | Canata Records

こちらもネットレーベル発で、For Tracy HydeやTenkiameで知られる夏bot氏主宰のCanata Recordsより。ギターポップシューゲイザーへと発展していくその瞬間を切り抜いたようなアルバムで、ジザメリのダークランズにもうちょいノイズ足して疾走感足した感じです、でもうダークランズ大好きな僕にはもうヤバイっす・・・。だってこういうジザメリのアルバム聞きたかったって思ってたみたいのがまさしく具現化した作品だし、しかもElfs In Bloom終了後の新バンドHappy Vally Rice Showerの1曲目が「Just Like Lucy」でもろオマージュなんですよ。

「I See Your Face And Feel Ecstasy」はキュアーとかも思い出すギターポップにほんのちょっとの甘いノイズとあととにかくメロディーも良すぎるしでマジで大名曲だし、ちょっとUSオルタナっぽい重さもある轟音シューゲイズからオアシスっぽいギターリフが飛び出す「Resurection」もほんとに泣けます。先ほどの後継バンドHVRSの方で再録も多いんですが、アルバムの流れや少しくぐもったローファイな録音だからこそ感じるノイズと甘酸っぱさのバランスや統一感含め本当に好きな作品です。あと地味にコンポーザーのたびけん氏によるブログ(空白依存症)にもめちゃくちゃ影響を受けていてかなりのバンドをここから知りました。

 

syrup16g - coup d'Etat(2002)

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音楽においてベストを選ぶという際、歌詞について選ぶのかサウンドについて選ぶのかで全然意味合いが変わってくるし、それら一緒にしたこういうベスト的なものって同じ物差しじゃないので意味ないんじゃないか?とかいろいろ考えてしまうわけです。歌ってる内容に全く同意できなくても鳴ってる音がとにかく素晴らしくて、その感動が歌詞を超えてしまう状況もあるわけだしまぁ難しいよね。しかし時折、歌詞もサウンドも好みド直球という音楽が出てくることもあり、それが完璧に同じ方向で入ってきたのがこちらの「coup d'Etat」です。80sのニューウェーブ〜ネオサイケっぽいギター音からシューゲイザー前夜までの変遷を一枚でやりつつグランジのようなわかりやすいヘヴィさもあり、syrup16gのアルバムでは一番攻撃的だと思います。

そして歌、彼の作詞って人に伝えるフォーマットにしているというより本当に己の言葉を連ねていて、だからこそ生っぽいというか、こっちから歩み寄ることでハッとすることが多いというか、好きなサウンドの中から欲しかった言葉が出てくるので、ここにいてもいいと言ってくれるような気持ちになるんですね。このバンドの歌詞については死ぬ程色んなサイトで語られてますが、王道だけど僕は「汚れたいだけ」とか「ハピネス」はいつ聞いても泣きます。

 

gorup_inou - MAP(2014)

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歌詞の流れでこれ選ぶのも変な話ですが、group_inouのMAPですね。彼らの音楽って最初の頃は支離滅裂な言葉の羅列の中一瞬ハッとくるものがあり、そのワードチョイスにとにかく中毒性があり・・・という感じだったのが、個人的に一番胸にささってくるアルバムがこれなんですけども。最終作ということだけあってトラックが一番洗練されてて最早歌詞なくても十分ストーリー性があり、キャッチーでノスタルジックな電子音楽として聴けてしまうけど、そんな中ハッキリと音と言葉がハマって一つの形になる瞬間があるんですよ。「MANSION」での「屋根からなんか見える」とか「CHOICE」での「あっという間の毎日うっとり」とか、前後性無かったり言葉遊びに近い部分もあるんですが予想外なところでそれが体に入ったときに強烈に琴線に触れる瞬間がある。これは僕の聞くタイミングとかシチュエーションにもよるものなんで個人差ありますが、そういう瞬間が散りばめられたアルバムなんですね。

 

OGRE YOU ASSHOLE - アルファベータ vs. ラムダ(2007)

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単音ギターによるツインギターのアンサンブルをつきつめた結果テレヴィジョン~ポストパンク的な無機質な質感と人懐っこいメロディーが同居した最高のジャパニーズ・インディーロックアルバム。しかも3~5分間のポップソングが続く中でもマーキー・ムーン後半のような徐々に熱くなる展開が盛り込まれていて僕が追い求めるUSインディー的緩やかなサウンドとギターアンサンブルってのはこれが一番理想です。

でこのアルバムについてこのブログで書くのたぶん三回目とかになるので以下をどうぞ、でもベストというテーマで絶対に無視できなかった・・・。

OGRE YOU ASSHOLE - アルファベータ vs. ラムダ (2007) - 朱莉TeenageRiot

記録シリーズ:OGRE YOU ASSHOLE - 朱莉TeenageRiot

 

NUMBER GIRL - サッポロ OMOIDE IN MY HEAD状態(2005)

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邦楽オールタイムベストという言葉を聞いて最初に浮かんだアルバムがこれだったけどまぁ聞いたときの自分への衝撃とそれ以降の方向性を決定的にしたという意味でも、普通に沢山聞きましたって言う回数的なものでも間違いなくナンバーワンでしょう。

元々アジカンベボベといった00年代邦楽ギターロック(これがリアタイでした)の影響元ということで辿ったんですが、スタジオ盤を聞くとちょっと癖が強くて中々入り込めなった自分が、ライブ盤でその聞きづらさが全て解消され(単純に音圧とかギターの太さとかフレーズのわかりやすさとかありますが、一番デカイのは向井秀徳のボーカルがぐんと聞きやすい&パワフルに)、解散作ということでセトリも集大成、コンディションも最強だったわけです。

でまぁライブまるごと保存なので当たり前っちゃ当たり前ですが、最初聞いたときコンセプチュアルに聞こえ全然原曲と違う音&アレンジされまくりだしで普通に新しいオリジナルアルバム聞いた感触だったんですね。流れ、完璧だし。あとナンバガ的なジャキジャキのオルタナサウンドってのは割とスタジオ盤のイメージで、こっちだと手数も多いしギターも分厚いのに埋め尽くされず4人のアンサンブルの隙間が見えるというか、フレーズの組みあがり方がハッキリとわかるというか、全員個性が強いってのもあるけどそういうのがちょっとレッド・ツェッペリン的に聞こえてめちゃくちゃかっこいいんですね。最初間違えてディスク2から再生しちゃったけどSappukeiでのクリーンなギターによる2音の繰り返しの緊張感と流れるように爆発して爆裂ノイジーに飲み込んでくこのカタルシスとか、スタジオ盤だともっとヒリヒリしたポストパンクの感触なのでまるで違いますしね。ギターのザクザク感とか・・・とにかくかっこいいです。ベストでしょう。

 

THA BLUE HERB - SELL OUR SOUL(2002)

STILL STANDING IN THE BOG/THA BLUE HERB 収録アルバム『SELL OUR SOUL』 試聴・音楽ダウンロード  【mysound】

最後にもう一点、こちらも言葉に衝撃を受けたアーティストでナンバーガールが解散ライブのMCで語っていたことをきっかけに聞いたTHA BLUE HERB。普段あまりヒップホップ聞かないのですが所謂90sのヒップホップ的なブラックミュージックのノリがほとんどなく、ゴスゴスと体に響く破壊的に加工されたドラムの生音はロックからも非常にアクセスしやすいと思います。ちょっとリズムも和的だしかなりローファイなのでバンドサウンドっぽさがあるというか。で尚且つ歌い方もラップというよりは半分ポエトリーディングに近いと思えるものもありナンバーガールZAZEN BOYSという変遷を聞いていた自分には非常に納得。

とは言いつつも、リズムやサウンドよりも一番やられたのはやっぱり言葉の力ですね。彼らの作品で最も尖っていたのが1st「STILLING, STILL DREAMING」で地方VS東京というフィールドを作り上げた非常に攻撃的な作品で、こちらも向井秀徳が冷凍都市という仮想敵を作り上げSAPPUKEIを作り上げたことから影響を感じたところです。で今作はその延長戦上、に立ちつつもう少し内面的なものを掘り下げていくアルバムで「STILL STANDING IN THE BOG」ではモノ造りは信仰であると掲げる現在地と決意表明、「路上」ではもうヒップホップの枠を超え音楽を聴きながら一つの小説を読み終えたかのような、自分とは程遠い世界を生きている一人の男の人生を”追体験”するような曲で衝撃でした。


 

以上です。順位は一応つけてましたがとくに意味ないなとなりぱっと思いついたの並べた感じですが、残りもどっかで・・・

 

 

 

discography④ Slint以降のポストロック~ポストハードコア

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前回に引き続きSlint以降というテーマで選んでいきます。かなりポストロック寄りで個人的に共通項を見出せるアルバムを7枚+1枚。


 

Ativin - German Water(1998)

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90年代に活動したマスロック~ポストハードコアバンドの1st。RodanやBedheadで聴ける抒情的でメロディアスなギターフレーズをもうちょと小刻みなリフにして反復させてくって感じで、マスロックバンドにしてはキメがあったり長尺の曲があるわけではないんですがリフの捻じれ具合はかなり通じるところがある。でこのリフの反復の中でパターンを入れ替えて緩やかに展開していく・・・という曲が多く、雰囲気も風通しがよくてマスロック寄りのインディーロックって方がしっくりくるし、それこそアメフト以降のマスロック~インディー全部取り込んだ感じのリバイバル方面にも影響を与えている気がする。あとドラムの録音がすごく心地よくてこの浮き上がり具合はダブとか、それに影響を受けたポストパンクとかの雰囲気もある。ちょっとだけスロウコアを連想する音の隙間の作り方は他アルバムやEPの方で繋がってきます。

 

Ativin - Interiors(2002)

そして2nd、前作を踏襲しつつもリードトラックの「Scissors」が音をそぎ落としミニマルに淡々とフレーズを繰り返していくんですがかなり不穏な空気を漂わせてSlintの「Rhoda」や初期インスト曲に近い感覚があります。Ativinは他アルバムでSlintのTweezっぽい曲もあったりするので、Spiderland以前の彼らを独自解釈してる感じがいいですね。リフの雰囲気も前作と比べるとじめっとした陰鬱なものに変わっていて、緊張感もあるしよりポストロック的になったというかSADな雰囲気も出てきている。あくまでバンドサウンドなんですけど醸し出す雰囲気がダークな方向に行っていてSlint直系というか、曲調はもう少し早くラフにしたような質感ですが関連作として是非。「Underwater」という曲ではストリングスも入ってダウナーで色鮮やかなアンサンブルはそれこそSlint、そしてShipping Newsを思い出すかなりルイビルっぽい曲でニヤリとする。メンバーのダニエル・バートンはEarly Day Minersというバンドでもうちょっとフォークとかの風情感じるスロウコアをやってるのですが、Ativinにもそこと通じるスロウコア的側面が強く出た曲はありつつも、その奥にある部分、それこそフォーキーな質感はAtivinには全く無いのが良い。ポストハードコアサイド、という感じでしょうか。

所謂スロウコア、ポストロック的と言っても、「When the Sky Turns Clear」という7分の曲を除けばあくまで2~4分くらいのサイズで次々曲が進んでいくのがAtivinらしいなと思います。おかげで曲の雰囲気は重くても普通にリフはかっこいいのでどんどん聞けますね。

 

Ativin - Summing The Approach(1999)

Ativin – Summing The Approach (1999, CD) - Discogs

そして同時期のEPでこれが素晴らしい。ジャケも完璧(に好み)で、表題曲「Summing The Approach」に関しては序盤アンビエントかと勘違いするくらい空間的なインストで一度完全に闇の中に潜ってしまい、そのまま違和感なく最小限のドラムのフレーズが飛び込んでいき、ここから今までの作品を思い出すタイトで硬質なスロウコアが始まるという曲で、この静寂パートと最小限の音のみで構成されたアンサンブルは完全にポストロック以降、及びその黎明期の音響の美学というか極小から静へと流れていく感じが本当に良い。染みます。最後の「My Eyes Of Yours」もかなりスロウコア純度高め、かつ今までのマスロックっぽいリフは極限までそぎ落とされながらも少しだけ輪郭をなぞり、リズム隊の最小限な音の反復感と合わさって極上。もうこれはSlintというよりThe For Carnationとかのが近いかもしれない。曲数少ないですがかなり濃いEPで数曲スティーヴ・アルビニ録音なのも完璧にマッチしている。

 

Rumah Sakit - Rumah Sakit(2000)

MONOやExplosion In The Skyを擁するポストロック名家Temporary Residenceよりリリース。ここまでくるとSlint~Rodanの系列というよりDon Caballeroに近く尚且つ実際に同系列として語られることが多いバンドですが、Don Caballeroの緻密に組まれたプログレッシブな曲群と比べると、ジャズとかプログレの方に向かいすぎずセッションの中でどんどんエモーショナルにギアを上げていくというシンプルにロックの熱さやダイナミズムを強く、で割とそういうところがRodanとかと重ねて聞けけてしまう。それこそDon CaballeroもRodanも通過した上での次の世代のポストロックという感じ。不協和音から抒情的な音へと流れていくのはエモを複雑に長尺にしていった延長線上にあるような感じですがPeleとかと比べるともう少しポストハードコアサイドですね。

 

Rumah Sakit - Obscured By Clowns(2002)

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大傑作2nd。ストレートに盛り上がってく1stも好きでしたがこちらはよりインプロ色が増しギターの線も細くなり、より複雑な変拍子ギターリフとメロディアスに絡みあうリズム隊が骨組みとなって展開していきます。何より録音がかなりダイナミックで、ライブの生演奏っぽい荒々しさとジャンキーなギターサウンドは前作以上に強めながらも各パート分離もよくてめちゃくちゃかっこいいです。まさしくタイトルにもなってますが「Sausage Full Of Secrets "Live"」という曲名もあり、会場の熱量をそのまんま保存したような長尺な曲が多く、最終曲も開幕のインストと関連付けていてバンドとしてのセッションそのものを音源にしてしまったような、それこそジャズとも通じてくるインプロゼーションパートが丸ごと後半入っていて彼らの真価が聞ける作品。1stの延長線として是非。

 

Sweep The Leg Johnny - Tomorrow We Will Run Faster(1999)

先述したRumah Sakitと合同ライブ盤を出すなどしていたバンドで、実際Don Caballero~Rumah Sakitの流れで聞けるバンドですが、今あげた二つと比べるとかなりハードコア色が強く一番激しいです。で尚且つメンバーにサックスがいるためまず大分音色が違い、サックスがハードコア要素に追加されるともはやカオスとも言える音の飛散具合でフリージャズ聞いてるときの各アンサンブルが一体となった不協和音ノイズに近いですね。静寂パートも多く「Rest Stop」「Skin」辺りはもろSlintを感じる展開があり、まさにSlintとKIng Crimsonを繋げつつ好き放題やるという予測不能のアルバムで、長尺の曲も多いんですが40分でまとめ上げてさくっと聞ける名盤。

 

Sweep The Leg Johnny - Going Down Swingin'(2002)

4th。こちらでRumah sakitのギタリストも参加してより推し進めた作品で相変わらずハードコア+サックス+プログレッシブな展開という詰め込み具合によるカオス。1曲目のイントロからホーンなのでもうよりジャズの色が強まってきて長い曲が更に増えてきてますがアンサンブルは相変わらず硬質、かなりタイトなポストハードコアの延長線にあるもので、むしろこの対比は前作以上かもしれない。静寂パートも極端なものはなくなってエモのクリーンパートを練り上げて無理やりジャズに組み込んでいったような、相反する2つのパートを同時に鳴らして無理やり枠にねじ込みながらも成立させてしまったような、曲全体の世界観の解像度もかなりくっきりしててめちゃくちゃかっこいいです。ここまでくるとSlint以降というテーマから脱線してきますが、解散後にメンバーのクリス・デイリーはJune of 44やHooverで知られるフレッド・アースキンとJust a Fireを結成することでうっすらと再び繋がってきます。

 

Just A Fire - Light Up(2004)

というわけでJust a Fire、今までHooverやその派生バンド諸々にJune of 44、HiMと言った数々のバンドで強い影響力を及ぼし当時のポストロック~ハードコアシーンの土台となったフレッド・アースキンが今度は自らボーカルをとります。

June of 44がポストハードコアからスタートしアルバム減るごとに徐々にダブ~ジャズ化しHiMに繋がったことや、Hoover解散後に同メンバーでAbileanを結成しまたしてもダブに接近したことなど、上記のバンドには全てフレッド・アースキンがベーシストやトランペットで参加していてどんどんダブ・レゲエを意識した作風へと変化していくんですよね。で今作は最初からその状態で結成、てことでガッツリとポストロックなのかと思いきや、意外なことにディスコーダントで硬質なポストハードコアを鳴らしていてこれがかなりかっこいいです。とは言いつつもろレゲエを思い出すミニマルなベースラインが挿入されたり複雑なリズム展開を見せたり、今まで"ポストロック的な"アプローチで行われていたことがストレートにハードコア直系で鳴ってきます。元々こっちの趣向で初期Hooverとかが一番彼の色強かったのかなぁとか考えてしまいますがかなりオススメ。Spotifyに無いのが残念。

 

 

 


関連記事

前回と発端になったシーンについてです。

discography③ Slint以降のポストロック~ポストハードコア

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SlintやJune of 44と言ったハードコア→ポストロックへの変遷を経てく内に生まれた、スロウコア/マスロック/ポストロックそのどれにも区分できそうでできなそうな立ち位置のポストハードコアバンドを「Slint以降」として好きなアルバムをまとめていきます。実際にSlintに影響を受けてる受けてないに関わらず同時代性の強いものを。


 

A Minor Forest - Inindependence(1998)

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サンフランシスコ出身、メンバーは後にPinbackのツアーメンバーとしても参加したりシカゴ音響派とも近い33.3というバンドで活動するポストロックシーンの重要バンド。スロウコアを基調にしながら静→動とハードコアへと爆発させるSlint~June of 44などルイヴィルの血脈を感じさせますが、それら影響元と比べてもより長尺で爆発パートがやりすぎなくらい爆発させてたりと、その後って感じのする極端なカオティックさがすごく良い。またバースト後も長尺な間奏から所謂インスト系のポストロックとしても聞けそうな凝った展開が多くて、静パートもエモとかと遜色なかったりするのでかなり多彩。一応代表作は1stでこちらは2ndなんですがこっちのが好きです。1stはもう少しスロウコア寄りなので確かに聞きやすいかも。

 

A Mionor Forest - ...So, Were They in Some Sort of Fight?(1998)

A Minor Forest – So, Were They In Some Sort Of Fight? (1999, CD) - Discogs

3rdていうよりはコンピレーションのようですが解散前のラスト作で、まぁ本当にごった煮でストック音源全部ぶち込んでやったみたいな勢いがありアルバムとしての統一感はゼロですが、「Cocktail Party」「Well Swayed」は1stと2ndで突き詰めたスロウコアからハードコア化していく、もしくはスロウなハードコアともとれる系列の完成形と言えるほど洗練されててめちゃくちゃかっこいい。この路線で行けるとこまで行ってしまったような気もするしこの辺のジャンル好きなら間違いないです。と思いきや地下室で録ったようなローファイなインディーロックっていうかデモ?や土臭いフォーキーなアコースティック路線、唐突にやってくる謎のディスコなど文脈をぶった切っていて、整合性は考えられておらずまさしく混沌。

 

Lowercase - All Destructive Urges... Seem So Perfect(1996)

All Destructive Urges...Seem So Perfect | lowercase

Slintの系列で語られがちなジャンクロック/ポストハードコアバンドの1st。確かにSlintっぽさありますが静→動の対比はほとんどなく、いやなくはないけど静パート的なところもジャンクな録音に塗りつぶされてしまい常に狂気が充満してます。まるでデモ音源かと思うような音質の悪さ全てがプラスにしか働いてない、全身傷だらけなノイズまみれのポストハードコア。いつ崩れ落ちてしまうかわからない危うさもあり常に不穏です。ミディアムテンポで叩きつけるようにリフを繰り返しながらガシャガシャと全パートが衝突しバースト、捲し立てるようなドラムもどこか焦燥感があるしボーカルがのたうちまわるようにシャウトを撒き散らすの怖い。あと意外とメロディーが良くて1曲目のAs Your Mouthとか枯れたボーカルと荒れまくった演奏の対比が美しさすらあるし、Sometimes I Feel Like A Vampireは基本的に1フレーズの繰り返しですが、これもメロディーの良さからキャッチーにすら聞こえ2nd以降の路線が割と見えてくる。

 

Lowercase - Kill The Lights(1997)

Kill The Lights | lowercase

前作の路線を推し進め相変わらずスローテンポですが、続けて聞くと驚くくらい音質がクリアになっていてだからこそノイズパートとそれ意外の対比が激しくなりグッと聞きやすくなった。でも彼らのノイズパートって所謂ポストハードコア的な硬質なものではなく、今にも飛散してってしまいそうな不安定で地を引きずってボロボロになったみたいなノイズで、これは前作のジャンクな録音ならではなのかと思っていたけど今回も変わらないんですよ。そしてそれが、本当にとてつもなくかっこいい。狂気をコントロールしてるようにも思える1曲目「She Takes Me」から凄まじい緊張感で、メロディアスなおかげでこんだけ重くても割と聞きやすく、最初聞いたときかなり衝撃を受けこのままbandcampで全音源購入するに至った。「Neurasthenia」に関しては途中から音を減らし静謐な闇へと潜っていくのでこれはSlint的な路線としても聴けるし、ちゃんと次作に繋がります。ちなみに1st2nd共にジャンクロック名家Amphetamine Reptile Recordsからのリリース。今更だけど1stはすごくAmphetamine Reptile的だなと思う。

 

Lowercase - The Going Away Present(1998)

Lowercase – The Going Away Present (1999, CD) - Discogs

そして3rd、より音数を絞って隙間のあるアンサンブルが主体になっていて、長尺で凝った曲も多くSpiderland的なのはこちらでしょう。むしろSlintよりしっかり歌があって、枯れていて諦念まみれな歌はそのまま音数を減らし素っ気なくなったアンサンブルとの組み合わせがかなり良い。開幕「Floodlit」からギターの音色もボーカルもより抒情的になっていて、スロウコア~フォークロック的な風情を漂わせてますが、後半絶妙に爆発"させきらない"加減で攻めてくる。この煮えきれなさ、やはり不穏なLowercase節を垣間見せてくるんですがたまらんですね。「The Going Away Present」に関しては普通に聞きやすくてくたびれたインディーロックみたいになってるし、最後の「Thistrainwillnotstop」はSpiderland以降のイフのSlintとしても聴けそうな、ノイズ要素を捨てなかったThe For Carnationみたいな雰囲気があってこれも好きです。残念ながら最終作でこのあと解散。

 

90 Day Men - 1975-1977-1998 EP(1998)

1975-1977-1998 | 90 Day Men

ポストロックの文脈でも語られる90 Day Menの初期EPにしてマスロック寄りポストハードコアに歌を乗せた、というJune of 44好きとして個人的に間違いないアルバム。ジャンクでささくれだったギター音とマスロックを想起させるリフを断片的に見せながら、マスロック程キメや展開を重視せずに真っ当にポストハードコアをやってるという感じで、変幻自在に動く鋭角リフの中で進行していくのがめちゃくちゃスタイリッシュです。そしてB面では後のフルアルバムで見せる実験性もガンガン見せてくる。最後の「Hey, Citronella!」は今作唯一の六分超え、荒廃した空気を漂わせながら一度音をそぎ落としてドラマティックに静→動へと流れていく、次作へとしっかりと通じる大名曲。90 Day Menのアルバムの中では最もストレートに熱さを感じることができる作品だと思います。

 

90 Day Men - (It (Is) It) Critical Band(2000)

90 Day Men – (It (Is) It) Critical Band (2000, Vinyl) - Discogs

名盤。先ほどに続きこちら1stフルでSouthern Recordsよりデビュー、KarateやJoan of Arc、RexにSweep the Leg Johnnyなど近いフィーリングのバンドが多数在籍していたところで、個人的にハードコアからポストロックへの変遷を辿る上でTouch and Goと並んで外せない重要レーベルだと思います。まだハードコアの延長感の強かったEPからもう少し進み捻れてジャンクだったギターはもう少し音を絞ってより冷ややかで硬質、フレーズを聞かせるようになり、長尺の曲も増え更に凝った予測不能の曲展開やジャズ色も出てくるし、構成の妙やインプロっぽいさからもDon Caballero〜Rumah Sakitと言ったマス/ポストロックバンドもチラつく。あとこちらもよく引き合いに出されますがKing Crimsonっぽさもありますね。

ピッチフォークや海外wikiではSlintやJune of 44と比較されていることからそう言った要素も強く、「Dialed In」「Jupiter and Io」では不穏に渦巻いていくセッションの中でスポークンワーズが乗り影響を感じずにはいられない。特にベースラインがやりすぎなくらいうねっていてこれが曲の主導権を握りなが渦巻いていくところは非常にJune of 44的だと思います。「Missouri Kids Cuss」はかなりストレートな曲で最終的にはノイズで全部塗りつぶしていくところがカタルシス満載、直球のオルタナでこちらも大好きな曲です。フロントマンであるブライアン・ケースはThe 90 Day Men解散後Sonic Youthのスティーヴ・シェリーらとDisappearsを結成したり、現在はFACSでポストパンクをやっていますが彼のキャリアでも最も好きなアルバムはこれかもしれない。

 

90 Day Men - To Everybody(2002)

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前作の作風とまるで違い続けて聞くと1曲目のイントロからかなり衝撃度高いでしょう。より生々しい録音で狭いハコに押し込みながらもオルガンを全面に押し出し不穏で壮大な世界を広げていく。ほとんどの曲がスローペースになっていて、この徹底的に生音に拘ったようなドラムやギターの質感から密室にぎゅっと押し込められてしまったような、スケール感のある演奏と相反した音響がとてもポストロック的で一瞬で虜になる。今までの変則的ながら割とギターがメインのバンドとして聞いていた自分としてはかなり実験的に聞こえてくるし、今作はクラシックに影響を受けたとのことですが、そもそも彼らのことをポストハードコアとして聞いていた自分は最初から誤解してたのでは無いかとすら思う。ちゃんと地続きなんですよ、地続きなのに全くの別物になっている。オルガンが多いのもありますが陰鬱なボーカルもより深みを増していて、耽美な質感も出てきて後期Blond Redheadやゴスとも近い距離感かも。それこそ海外レビューではSpiderlandと引き合いに出されてましたが、個人的には全くの別物、完全に独自の世界観ですね。

 


 

 


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発端となったシーンについて。本当にこのシーン周辺が好きです・・・。

discography②

個人的に好きなポストハードコアを8枚挙げてきます。前にポストハードコアにのめり込んだときNOTEにざっと感想書いたんですがあれを解体して個別でやってく感じです。今回はマイベストでもあるUnwoundオリンピア周辺を。

 


Unwound - New Plastic Ideas(1994)

New Plastic Ideas | Unwound

強烈なフィードバックノイズに呑まれながら始まる名盤2nd。当時Sonic YouthFugaziの中間と言われてたバンドですが、Sonic Youth的な音色で聞かせるアンビエントに寄ったようなノイズでは無く、純粋に硬質なポストハードコアの後ろで轟音ノイズがひたすら埋め尽くしていて全てを飲み込むロック的カタルシス満載のアルバム。ポストハードコアの不協和音混じりながらフレーズの形もしっかりあり、それらが湾曲して各々のフレーズと繋ぎ合わせたような硬質な質感と、そしてこのジャンクロックやAmrepとかとも通じそうなノイズまみれの荒れた音が完璧に融合している。曲展開もドラマティックだしメロディーも聞きやすいしでエモからもアクセスできる初期Unwoundのポストハードコア大名盤。スクリーモしきらないシャウトみたいのも好きですね。「Enverope」とか暗黒エモとしても聞けなくもないと思う。

 

UnwoundUnwound(1995)

Unwound (Unwound album) - Wikipedia

初期作のコンピレーションで実際は92~93年頃の録音でほんとに初期の初期、この頃は今では知られるメンバーとも違うし彼らのアルバムの中でもとくにハードコア色が強いオリジナルのスタジオ盤とは少し違った立ち位置のアルバム。彼らはほとんどのアルバムがKill Rock Starsで実はライオットガールムーヴメントに囲まれたバンドだったんですが、その割にはかなりディスコーダント、オリンピア周辺の同シーンポストハードコアと言えばKarpやLyncですがUnwoundSonic Youthと対バンしたりBrond Redheadにメンバーが参加したりなど、割とノイズミュージック寄りのインディーバンドとして交流があったというか当時は知られてたんじゃないかと思う。

今作、先ほどのKill Rock Starsではなくサンディエゴのカオティック・ハードコアを代表するGravity Recordsよりリリースされててそれも割と納得するようなアルバムになってます。言われてみれば初期UnwoundのノイズまみれのハードコアはGravityのめちゃくちゃに自由なカオティック方面の派生として見えてくる線もある気がする。今作はジャスティンが全編に渡ってシャウトをしまくり全パート一つの和音になってしまったかのような音の塊とも言えるくぐもった爆音がノイズと共に疾走。エッジの効いたギターリフがガンガン飛んでくるとこも割とUnwoudのキャリアの中では珍しい気もする。

 

Unwound - Repetition(1996)

Repetition (Unwound album) - Wikipedia

4th。初期作と比べるとかなりスッキリした印象で、ローファイで全部飲み込む勢いだった初期のサウンドと比べると非常に分離が良いというか、住み分けされたアンサンブルがしっかり聴けてしかもめちゃくちゃ練られている。三人の独特なフレーズの絡み合いと言ったバンドの妙を聞かせた上で、それでもって今まで以上にスマートで硬質な不協和音ノイズパートを挿入するノイズロック~ポストパンクを行き来して中間を行ったようなサウンド。後期Unwoundの開幕であり代表作。比較的ポップでジャスティンの縦横無尽のギターワークはShellacやJesus Lizardと言ったアルビニ系列からFugaziの2nd~4th辺りのもう少しディスコーダントなポストハードコアともリンクしてきます。彼らを象徴する曲でもあり、循環するギターリフがあまりにもかっこよすぎる「Corpes Pose」は本当に名曲で、少し冷めたジャスティンのボーカルとリフとの掛け合い、反復するリズム隊全ての歯車が綺麗に噛み合っている。

 

Unwound - A Single History: 1991–1997(1999)

Amazon Music - UnwoundのA Single History: 1991-1997 - Amazon.co.jp

シングルコレクションということですが92年~97年の彼らの作品を集めているので割とそのままアルバムとして聞けてしまうくらい統一感があり、上記のRepetitionと並んでバンドのイメージを最も固めやすい名盤。とくに「Everything Is Weird」「MK Ultra」はジャスティンの不協和音ギターフレーズの繰り返しから轟音ノイズロックへと変化していく彼らの王道とも言える曲でCorpse Poseに負けず劣らずの名曲続き。「Crab Nebula」「Negated」等の初期のくぐもった録音とノイジーな轟音が混ざった鈍器のようなハードコアナンバーもあるし本当に全部かっこいい。アルバム間の隙間を埋めるどころか、これ自体が必聴ナンバーだらけである程度網羅できます。アルバム曲と被りもなし。とくに「Seen Not Heard」はWireJoy Divisionなどを思い出す瞬間もあったり「Plight」と言ったMinutemenのカバーもあるので、ポストパンクをよりハードにしたような聞き方もできるて、ミュータント的な進化をしていくバンドの中では今作はルーツも垣間見えてくるという意味でも聞きやすい。

 

Unwound - Challenge for a Civilized Society(1998)

Challenge for a Civilized Society.jpg

今まで短期間でスタジオに籠りライブのようにレコーディングしていた彼らが、今作はプロデュースを重視し時間をかけ音を練りあげたとのことでとにかくドラムの音が気持ちいいくらい前面に出てますね。そのおかげか今までと比べビート重視で聞けるようなイメージがあるし、アングラらしい籠った音質だった初期から比べるとかなり楽器の分離が良いというか、1曲目の「Date」でもバンドのイメージに合致した不協和音ノイズギターをかき鳴らしながらもそこには飲み込まれないドラムのビートが先行してきてえらくスタイリッシュです。「NO TECH!」もそうで性急で歯切れのいいリズムはポストパンクとの共通点も多々ある。「Side Effects Of Being Tired」は長尺ながらイントロから前作やSingle Historyともリンクしてくるジャスティンのギターワークとリズム隊の絡みが極上、イントロから声を上げたくなるくらいストレートにかっこいい硬質なポストハードコアですが、後半は次作、最終作「Leaves Turn Inside You」へと繋がってくるような実験的な展開を見せてきます。同じく長尺の最終曲「What Went Wrong」もじわじわと不穏な暗黒世界へバンドサウンドのみで到達しつつ、アウトロの静謐な闇はやはり次作を想起してしまう。ポストプロダクション的な要素とバンドのぶつかり合いが各々いいバランスで引っ張りあってる作品。

 

Unwound - Leaves Turn Inside You(2001)

解散前ラストアルバムで2年近くの月日をかけて作られた傑作。前作通りプロデュース重視、今作はほぼジャスティンが一年近くスタジオに入って作った曲郡がベースになってるようでそのおかげか暗黒ポストパンクをベースにノイズ~ドローンと言った今までに無かった実験的要素も強く、ポストハードコアの枠を超えてポストロックの枠で語られる名盤。とは言いつつ、後のポストロックを知ってるとポストロックとしてこれ聞くってのも全然しっくりこない、しかしそれでこそオリジネイターでありポストパンクの名盤としての貫禄もめちゃくちゃある。

結構Unwoundと言えばこれって方も多いと思いますが、正直今作を最初に聞くのは間違っているような気がして(例えるならRadioheadを聴くってなってBendsもOK Computerも聞かずにKid A行っちゃう感じ)、到達点及び特異点。このアルバム一枚で完結させるならいいと思いますが、初期のハードコア~ジャンクロック的な轟音がほぼ無いので順を追って聞いた自分は慣れるまで時間が掛かりました。ジャスティンのボーカルも陶酔感たっぷりでシャウトもほぼしなくなりぼんやりと焦点が合わない感じで、ただマスロック文脈でも語られることもある今作、この三人でしかできないでしょと言いたくなる捩れたフレーズが沢山飛び出してくる。轟音要素ない分隙間が見え、そういったバンドそのものの自然体のバンドアンサンブルで聞くという側面は今までで一番強いかも。そこをピックアップして聞くだけでも充分魅力的です。完全に理解しきることなんて一生できないんだろうなっていう底が知れないアルバムで、それぞれ方向性は違うにせよ、同じようにハードコアの延長からポストロック化していったJune of 44やTortoiseとの同時代性を感じる。

B面は意外とポストハードコアな曲も多いんですがそんな中でも作り込まれた左右チャンネルを行き来する多重コーラスのボーカルはサイケデリックな雰囲気を醸し出す「October All Over」とかはもうヤバイですね。ベストまである。今までバンドサウンドの裏から滲み出ていた不穏なダークさが完全に表に出てきて、幽玄な空気がバンドまるごとすっぽり飲み込んでしまったような作品。後半のアンビエンス漂いまくった実験的な「Radio Gra」から続く「Below the Salt」はイントロのドローン的なノイズとオルガンはもうアンビエントとしても聴けそうで、こっからスカスカなスロウコアへと移っていくのがもう聞いていて景色が見えてくるようだ。バンドは崩壊寸前、ライブツアー中に911が起き中断、そのまま解散してしまったとのことですが最終作にしてとんでもない名盤。

 

Lync - These Are Not Fall Colors(1994)

These Are Not Fall Colors | Lync

先に一度触れたLyncというバンドの1st。Unwoundが所属していたKill Rock Starsというレーベルはハードコアシーンと若干距離があり、所属していたバンドもライオットガールの中心となったBikini KillやSleater-Kinneyなどのパンク~グランジで語られるバンドが多く、またオリンピアと言えばもう一つKレコーズで有名でUSインディーの聖地でもあった。KのオーナーであるBeat Happeningのキャルヴィン・ジョンソンを筆頭にModest MouseやQuasiなどもこの辺で、レーベルは違えどUnwoundのレコーディングや機材の貸し出しなども彼が協力していたようなので決して無関係ではなく、この地域のインディーシーン総本山という感じでした。で同郷オリンピアのLyncは勿論そのシーン真っ只中から出てきたバンドで、当時Unwoundと交流も深くたった一枚を残して解散したわけですが、そんな一枚がとにかく最高のアルバム。上記のKレコーズから出ていてめちゃくちゃ録音の悪い不協和音ギターの上で余りにも親しみやすくポップなボーカルが乗っていて、丁度ポストハードコアとUSインディーの橋渡しになる最適解とも言える音楽性。メロディアスなハードコアってそれつまりエモなのではとなるのですが、94年ということでまだ前夜、その様式美にハマってない自然発生したエモ近隣シーン、いや、これも一つのエモと言える音でしょう。

 

Survival Knife - Survivalized(2014)

Unwound解散後10年以上経った2014年、バンド活動をやめていたジャスティンが再び音楽をやろうということで結成。でUnwoundのラストアルバム「Leaves Turn Inside You」で見せた実験性を推し進めるのではなく、純粋なパンクロックの衝動に回帰しかつてKill Rock SetarsのレーベルメイトであったBikini KillやSleatr-Kinneyにも通じるストレートでパンキッシュなロックアルバム。熱い。

とは言いつつ詰め込んだ曲展開はUnwoundをやはり連想しますね。ノイズロック要素を減らしてディスコーダントに突き詰めてったら・・・というこの路線も全然あったのかもと色々考えてしまうけど、それでも一度バンドをやめギターを手放し、大学へ入り音楽を引退したジャスティンが今になってこうやってまたバンドをやってくれることが嬉しくてしょうがない。そういった目線で聞くとすごく生き生きとしたアルバムに聞こえてくる。

 


 

 


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ここの上位互換です。

 

最高のインタビューを。他にもオフィシャルで全歴史をまとめたサイトもありますね。