朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

discography①

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ちょいと前に出たギターマガジン4月号のグランジ・オルタナ特集を読み触発されたので、紹介されてた「91年の名盤選」にちょっと触れつつ、個人的に好きなアルバムやグランジというジャンルについて自分の認識を掘り下げます。

 


Nirvana - Nevermind(1991)

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語りつくされた名盤なのでとくに言うことないですが、いつ聞いてもとにかく曲が良すぎる・・・。Smells Like Teen Spiritはもちろんですが個人的に衝撃を受けたのはBreedで、洋楽初心者という状況でこれを聞き、メロコア的なポップさも無ければメタルやハードロックと言った大仰さもなくこんなにダーティに疾走してく洋楽あるんだ・・・と驚いた記憶が。グランジってよく「ハードロックでもパンクでもない音楽」と形容されるイメージありますが、素直にそれを体験していたのかもしれません。

今聞くとBleachと比べてかなりパンク寄りですね。元来ルーツを辿るとパール・ジャムサウンドガーデンなどのハードロック寄りのバンドがグランジ本来の特徴だと思うんですが、ニルヴァーナが一番売れグランジ=ニルヴァーナというイメージのままムーヴメントが広まり、世間的なイメージが書き換えられてしまった印象があります。

 

Peal Jam - Ten(1991)

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昔ちょっと苦手意識あったバンドで、よくグランジと言えばニルヴァーナと並んで語られますよね。てことで近い音だと思って聞くと全く感触が違いハードロック色が強く、ニールヤングとかのアメリカンなフォークロックをルーツとしてるというのもあり聞き方が全く異なるかと。というかコラボもしていたりグランジの始まりはニールヤングのライブ盤だという話もありますね。

もうちょっと土臭いイメージありましたが開幕「Once」「Even Flow」からめちゃくちゃハードなギターが炸裂しまくってこんな重かったっけ?て思いつつカラッとしたハードロックで今の僕には最高のアルバムかもしれません・・・。B面落ち着いてくるところもパワフルなリフで引っ張ってく感じはかなり聞きやすいです。サウンドガーデンとかアリス・イン・チェインズとかのドロついたヘヴィネスとした感じもないですね。昔は多分ニルヴァーナのパンキッシュさが好きでそのイメージに引っ張られちゃってたのかな・・・。

 

Soundgarden - Badmotorfinger(1991)

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グランジバンドのルーツやインタビューを漁るとブラック・サバスをルーツとして挙げてることが多く、グランジというジャンルで最も影響力のあったメルヴィンズがもろサバスフォロワーというのもありますが、僕が最初にブラック・サバスと関連付けたきっかけはこのバンドでした。ボーカルはサバスってよりツェッペリンロバート・プラントを想起させつつもう少しそれを荒々しくしたようなとこがありますが、「Outshined」のドロドロとした暗黒ギターリフは最初これサバスのInto the Voidや4thのハードロック色強くなってきた頃を強烈にフラッシュバックしましたね。

 

Smashing Pumpkins - Gish(1991)

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そもそもグランジじゃなくね?て思うんですが、有名なエピソードですがニルヴァーナと発売時期が被ったせいで関連付けられてしまった印象があります。グランジをハードロック~メタルブームが通過したあとのアメリカンロックという見方をすると当てはまりませんが、ニルヴァーナの項目であったパンクでもハードロックでもないサウンドという意味では割と聞けるかも。ピンク・フロイドやラッシュを度々フェイバリットに上げていたりキュアーやバウハウスを敬愛してるところから、彼ら特融の透明感やちょっとサイケな雰囲気の出で立ちが見えてくる気がします。

とは言いつつも僕は最初何も知らず普通にグランジだと思って聞いていたし、めちゃくちゃ疾走感があり尚且つほかのグランジバンドのマッチョさがない耽美さに惹かれてましたね。あとリフがこの頃からめちゃくちゃかっこいい。てか上げた4つのバンド全部キャッチーなギターリフを繰り返すタイプの名曲が入ってるのでグランジってこの時代のリフがかっこよくて重い音楽のことを言うもんだと思っちゃってました。

 

Bikini Kill - Pussy Whipped(1993)

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ライオットガールをグランジムーヴメントに入れていいのかってとこではありますが、オリンピアということでグランジの中心となったシアトルの近所ですし、結構バンド間の交流も深く、というかカートの元カノだしね。ただ社会的な側面が強い分サウンドだけで語るのは微妙かなとも思うんですが、とにかく破壊的なパンクロックで、ハードコアにもメロコアにも行かずストレートにパンクをかき鳴らし叫びをあげる個人的に大好きなバンドです。ネヴァーマインド聞いてグランジに興味を持った人はセットで語れがちなパールジャムサウンドガーデンを聞くんじゃなく、ビキニキル聞いた方が結構しっくりくると思います。ライオットガールムーヴメントそのものを象徴する名曲「Rabel Girl」収録。

 

Black Sabbath

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グランジバンドじゃないのにここ入れるといろんな人に怒られそうですが、僕がグランジバンドを聞いてて求めてる部分や一番引かれる部分を追求してくと最終的にオジー期のサバスに辿り着きます。グランジは当時のメタルやハードロックを淘汰したと言われますが、サバスやツェッペリンエアロスミスなどの70年代のハードロックは結構直接のフォロワーというか、カートコバーンもリスペクトを語ってるイメージありますね。

でこの頃のサバスはヘヴィ・サイケ・ブルースとも言えるとにかくギターリフを繰り返す作風はキャッチーなフレーズながらも陰を落としたおどろおどろしさがある初期の1st~2ndの初期の名曲群はもろに想起しますし、4thに関してはツェッペリンとかにも接近したようなパワフルな面もルーツとして聞けるんじゃないかなぁと。

 

Screaming Trees - Sweet Oblivion(1992)

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元々80年代中期から活動してきたのでかなり古参、ジョシュ・オムQOTSAから辿ってくる人が多い印象があります。60年代のサイケデリックロック~ブルースの影響が強くそれらをハードロック通過後の音で再度やっているというような質感でラフなパールジャムサウンドガーデンと言った聞き方もできるかなと。

Meat Puppets - II(1984)

Meat Puppets - Too High To Die(1994)

Meat Puppets – 'Meat Puppets II': Round 105 – Rob's choice – Devon Record  Club Too High To Die/Meat Puppets収録曲・試聴・音楽ダウンロード 【mysound】

そしてミートパペッツ、カート・コバーンがカバーしていたことで知られますが全然グランジバンドというわけではないですね。しかしグランジ勢に大きな影響を与えたというバンドで80年代はブラック・フラッグ率いるSSTでハードコアを基調に徐々にサイケ~カントリーの影響が強くなり、90年代はグランジに合わせてアメリカンロック化していきます。

 

上記ミート・パペッツ、スクリーミング・トゥリーズどちらもも80年代にSSTからアルバムを出していて、ハードコアの影響がまだ強いんですがそんな中でも急にアコースティック路線な曲が入ってきたりこの頃から後のルーツロック回帰を思わせる要素が入ってて、同時期にDischordやワシントンDCで活動していたハードコアバンドとはかなり色が違います。90年代、彼らはワイヤーやダブの影響が強くなって硬質なポストハードコアに変化しいくのに対し、グランジアメリカンなルーツロックな方向へ舵を切ってくその原初のようなものが既に出てるんですよね。この辺のポストハードコアとグランジって対極だよなぁというのと、これらを「オルタナ」の枠に入れて語るか語るまいかって結構人によって個性出ると思っていて話してて楽しい部分ですね。

 

Red Red Meat - Jimmy Wine Majestic(1994)

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こちらもシアトルのバンドでサブポップから出ていてジャケもグランジっぽいですが、実際には全く違ったサウンドで成功を収めたというバンドです。ブルースやカントリーと言ったアメリカのルーツロックの要素を背景としていて、スクリーミング・トゥリーズ後期からハードロック色を薄めもう少しカントリーとかに接近したらこうなる気がします。時折ヘヴィなギターが挿入されるのはやっぱり時代でしょうか、でもこのバランスがめちゃくちゃ好きで、グランジサウンドのままペイヴメントのようなインディーロックをやっていたヘリウムとか、あと結構セバドーとかと並べても聞ける感じがします。

 

Seaweed - Four(1993)

Four

当時グランジが下火になってきた時代にシアトル発、サブポップ産のグランジバンドという推され方をしてしまったせいでイマイチ正当に評価されなかった・・・とレコ屋の解説記事で読んだのですが、実際に聞いてみると確かにグランジにしてはポストハードコアとかのが近い気がします。とはいいつつハードコアによくある硬質で金属的な音ではなく、確かにグランジ的なパワフルなサウンドだったりはするんですけどね、結構メロディアスだし。個人的にはSAMIAMとかのが近い気が・・・。そして割と近い境遇のバンドとしてこちら

 Sunny Day Real Estate - "Diary" 2XLP - ICE GRILL$ OFFICIAL STORE

サニーデイリアルエステイトを思い出します。エモの大御所ですがシーウィードと同じく「シアトル発 サブポップ産」のバンドで、ただグランジムーヴメントに括られることはなくむしろエモの萌芽として語り継がれることになったわけですが、シアトルのバンドとして聞いてみるとニルヴァーナ以降の空気がかなりあってハードコア→ポストハードコア→エモという流れとはちょっと違う気がします。ただボーカルの歌唱法やメロディーに関しては完全に後世のエモに影響を与えていて、エモってボーカルの印象というかボーカルにかなり趣を置いてるとこあるよなと少し考えたりします。

 

終わりです。ギタマガにあった向井秀徳×吉野寿オルタナ談義が「オルタナティブ」という内容で始まりつつもグランジの話になったとき二人とも「通ってない」と言ったのが面白く、そのままハスカー・ドゥやダイナソージュニア、ソニック・ユースの話題で盛り上がるのですが、これで一般的に有名なグランジオルタナティブの距離感について色々思うことがありました。

そんな中、僕は「こういう感じで聞いてます」「この辺のアルバムが好きです」というのをひたすらまとめたくなった・・・という記事になります。

 


関連記事

先日公開され、個人的にギタマガ読んだ人は是非セットでと言いたくなる程の記事でした。というかこれに触発されました。

 

そしてこの辺、グランジというジャンルがシアトル、そしてサブポップから広まったということや、広まる前のムーヴメントの核となったグリーン・リヴァー、メルヴィンズ、ブラック・フラッグ等の説明をとくにしないで進めてしまいましたが、このサイトが非常にわかりやすいです。是非。

こちら一つの記事で大まかなディスコグラフィを網羅していてディスクガイドとして非常にわかりやすいですね。

 

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記録シリーズ:Slintから辿るルイビルのポストロック

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Slint、ケンタッキー州ルイビルのバンドにしてポストロック〜マスロックの元祖やスロウコア、ハードコア由来の音楽ジャンルに多大な影響を及ぼしたバンドです。ルイビル周辺のポストハードコアが僕は一番好きなのですが、この辺のシーンを掘るとポストロックのルーツがハードコアというのがどんどん輪郭が見えてくるというかわかってくるようなとこがあり、その中心となるアルバムが2ndのSpiderland、ついこの前30周年ということで海外のインタビューがちょっと話題になり読んでみたところ個人的に熱が再燃。

その流れで海外メディアのインタビュー記事を漁っていたら色々新しい情報もあったのでSlintやメンバーのその後、周辺シーンについて各アルバム自分の感想を書いておこうと思います。

 


 

Slint - Tweez(1989)

TWEEZ (LP)/SLINT/スリント/ポスト・ロック始祖1stアルバム|ROCK / POPS /  INDIE|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

アルビニ録音。Spiderlandとは大分毛色が違うアルバムで、89年ということでポストハードコア前夜感が強いですね。FugaziShellacと同じく既存のハードコアサウンドからの脱却を図ったようにも感じますし、変則的なリフが入り乱れ1曲1曲は短いんですが何度も展開していくところはちょっとマスロックっぽいかも。MiniutemenやThis Heatと言ったポストパンクからの流れでも聞けそうですがとにかくノイジーでこのジャンク感はアルビニ率いたBig BlackRapemanの音色を思い出します。

ちなみにベーシストだったイーサン・バックラーは今作で脱退。彼が作曲の主体となっていたらしく2ndと毛色が違うのは彼の影響が大きかったのでしょう。

 

Slint - Spiderland(1991)

2nd。スロウコアとも言える最小限に抑えられた静謐な演奏にスポークンワーズなボーカルを乗せ、不安定なのか規則的なのかが曖昧な揺れるギターをタイトなドラムが繋ぎとめループしていきます。いつ破裂するかわからない不穏な緊張感の中このフレーズの塊を繰り返しながらギターをバーストさせ轟音で飲み込んでいく、という手法は同じくルイビルのポストロックRodanやJune of 44にも繋がる方法で、Mogwaiなどの極端な静→道の展開を見せカタルシスを得るポストロックのルーツとなるんですが、手法自体は継承されてもフォロワーと呼ばれるバンド達からは感じることができない陰鬱さや張り詰めた緊張感はやはり凄まじいです。当時20歳なるかならないかの少年達がそれぞれの感性で作り上げたオリジネイター、原初とも言える"生の音"の貫禄がすごい。

発売時には既に解散、リリース時もインタビューなどのメディアでの露出を避けていたようで、90年代は本当に未発見のオーパーツとも言える作品だったようです。今でこそ伝説として語り継がれていますが、これは実際にMogwaiがヒットを飛ばしたからこそ彼らがルーツとして名前を挙げたからのようで、このハードコアともポストロックともとれない音のアンダーグラウンドで蠢いてる感じは当時発見されたときはすごかっただろうなと…。しかもメンバーのデヴィッド・パホはSlint解散後のジョン・マッケンタイア率いるTortoiseに合流するので、まさしくポストロックブームの大元とも言えます。

 

Slint - Slint(1994)

Amazon.co.jp: Slint: 音楽

解散後の94年リリース、未発表曲ですが録音は89年ということでTweez~Spiderlandを繋ぐシングルで、Tweezのジャンクな変則ポストハードコア~Spiderlandのポストロックへと至る中間という感じで、緊張感溢れるインストマスロックとも言える「Glenn」「Rhoda」の2曲入り。Spiderland程スロウではなく淡々と闇に潜っていくようなループからギターが炸裂していきます。

元々「Nosferatu Man」「Washer」等Spiderlandの名曲群もインストとして作ったデモ版がデラックスエディションにあるんですが、Slintがマスロックの元祖として評価されるのがこの辺聞いてるとわかる気がしますね。

 
Rodan / June of 44 / Shipping News

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ルイビルのポストハードコアという観点で語るのなら絶対に外すことのできない重要バンド、それがRodanで1st発売時は1994年とSlintからちょっと経ちますが、メンバーも同郷ということでSlint解散後もRodanのメンバーと幾度となく交流があります。

RodanはSpiderlandで定義した"遅いハードコア"とも言えるスロウコアと溶け合ったあの音楽性を更に独自解釈で拡大、後のポストロックに大きな影響を及ぼします。そしてRodanのメンバーが解散後に組んだJune of 44やRachel’sにShipping News、同じくメンバーであり後にSSWとなるTara Jane O'Neilと彼女のバンドであるThe Sonora Pine、Retsin、全てがルイビルを中心に派生していきます。この辺のメンバーの変遷や音楽性を辿るのが非常に面白く、僕がこの辺のジャンルを好きになったきっかけでもあり別記事を書いてますのでよろしければ。

 

The For Carnation - The For Carnation(2000)

The For Carnation

そしてThe For Carnation、スロウコアとして有名ですがSlintのフロントマンであったブライアン・マクマハンが解散後に組んだバンドで唯一のフルアルバム。Spiderlandの路線を更にそぎ落とし、深く沈み込むような陰鬱な世界観を推し進め、ギターの歪みは無くなりダブ要素も取り入れよりリズムを主体としループしていきます。しかし時折挿入される最小限のギターフレーズや囁くようなボーカルを聞いてるとこの静寂っぷりはやっぱりマクマハンだな~と思うわけですが、Spiderlandで彼が何をしたかったのかがぼんやり見えてくるような気もしてきます。

 

The For Carnation - Promised Works

Amazon Music - The For CarnationのPromised Works - Amazon.co.jp

アルバムではなく間で出した初期EPをまとめたコンピレーションなのですが、個人的に大好きな一枚。スロウコアというよりもう弾き語りの曲もあるんですが、ギターの音も最小限でありマクマハンのボーカルもいつものごとく消え入ってしまいそうな繊細なもの・・・なんですが、「On The Swing」では歌心に溢れててすごく風通しがいいんですよ。SlintからThe For Carnationのキャリアの中でこんなにラフでポップな歌を聞かせたのはここくらいじゃないでしょうが。A面は他の曲もインディーロックとして聞けそうな心地良さがあります。

Spiderlandを作ったとき、彼らはフォークやカントリーと言ったアメリカのルーツミュージック的なSSWをよく聞いていたとインタビューで見ましたが、そういう色が濃く出てるのかもしれません。そもそもSlint解散後にあのSpiderlandの水没したジャケットを撮影したウィル・オーダムも元々はそういったSSWで、サポートメンバーとして参加してたこともあるんですよね。色々繋がってくる・・・。

 

Crain - Speed(1992)

80年代後期~90年代に掛けて活動していたルイビルのポストハードコアバンドで、メンバーのドリュー・ダニエルは後にビョークとの共演やIDMで知られるMatmosになります。全くの別ジャンルですが彼のルーツはここで、June of 44の最新作ではMatmosとしてマッケンタイアと共に作品に参加していて最初はなんでMatmos?と思ってたんですが、Rodanのメンバーとは高校時代からの付き合いでとくに中心人物であるジェフ・ミューラーとジェイソン・ノーブルとはかなり古い仲のよう。

でCrain、コンピレーション一枚で長らくCD化もされてなかったようですが、実験的要素が薄く代わりにバンドとしての楽器のぶつかり合いに特化したBastroと言った感じでしょうか。とにかくハードだし高速だしで、若干マスっぽい色もある鋭利なギターフレーズが飛散しぶつかり合いながらもかなりキッチリと音が敷き詰められていて、めちゃくちゃスタイリッシュなポストハードコアを聞かせてくれますが超かっこいいです。この中では最もパンキッシュかも。そして名曲「Kneel」はまさしくルイビルとも言える緊張感全開の曲でSlintやJune of 44との共鳴を強く感じます。

 

The Telephon Man - The Telephone Man 1992-1994

Telephone Man : The Telephone Man 1992-1994 [CD]

90年代初頭にルイビルで活動してたポストロックバンドということですが当時カセットのみのリリースをまとめた編集版。Temporary Residenceによる再発でCrainもここのレーベルだしこのレーベル自体が割とこの辺のシーン通過後のポストロックをかなり扱っていて直系でもあります。

そして時期が92-94ということでもろSpiderlandからRodanのRustyが出る期間であり、当時メンバー間で交流があったかどうかは不明ですが音楽性もまんまその辺と呼応したハードコア由来のスロウコア~スポークンワーズを乗せバーストしていくといういかにもなルイビルな音です。こちらは割とエモともリンクしそうな曲もあったり静寂パートのないヘヴィなスロウコアと言った曲もありA Minor Forest的だったり、編集版だけあってバラエティに富んでます。そしてとある曲ではもろRodanのBible Silver CornerやExoskeltonと同じフレーズが登場してきて、Telephon Manはメンバーが美術系の学校出身らしいですがRodanのメンバーも同じく美術系の学校出身で、実際どういった繋がりがあったのか不明ですが何かしら交流はあったんじゃないかと思います。音楽性のみで聴いてもSlintから辿ってくならRodanやTelephon Man辺りが一番聞きやすいかも。

 

Evergreen - Evergreen(2003)

SlintのドラマーでありSpiderlandではDon Amanでボーカルとギターを担当したブリット・ウォルフォードが参加したルイビルのバンドで93年作。彼は同時期にThe Breedersにも参加してますね。ポストハードコアというよりはインディーロックやロックンロールという言葉を使いたくなるくらい聞きやすく、LastFMのタグではemoに分類されていて個人的にかなり好きなバンドです。純粋にパンクロックや80sのハードコア直系として聞けるような熱とキャッチーさがありますが所々不協和音が混じる緊張感もあり、「Glass Highway」等スローテンポの曲ではその辺のバランス感が丁度いいです。

 

 

Tortoise

TORTOISE / Millions Now Living Will Never Die (LP) - FILE-UNDER RECORDS トータス、アルバム『TNT』全曲再現ライヴのフルセットライヴ映像64分を公開 - amass

シカゴ音響派を代表するバンドですが、ポストロックシーンを漁る上では欠かせないですね。Bastroのジョン・マッケンタイア、そして代表作でもある上記の2枚(Millions Now Living Will Never Die / TNT)ではSlintのデヴィッド・パホが参加。そしてTortoiseはシカゴのジャズシーンとも絡みがありまた広がっていくのですが、その辺についてはWITHOUT SOUNDSの記事が非常に参考になります。そもそもここでのバンドメンバーの繋がりやシーン自体を一個にまとめたいというインスピレーションの元の一つでもありますし、シカゴ音響派について何一つ知らなくてもその変遷や音楽性は読み物としても非常に楽しめると思うので是非とも。また同ブログ内でマッケンタイア参加のSea And Cakeについても特集あり(こちらも本当にオススメ)。

 

Tortoise - Tortoise(1994)

Tortoiseの中では余り語られない1stアルバムですが実はSlintを軸としたルイビルの系譜として漁っていくのなら絶対に外せない、むしろ2nd以降のポストロックを代表する名盤達の更に奥に、こんなにも直球でスロウコアをやってたルーツがあったのかと驚いてしまったアルバム。Slintのパホが参加するのは2nd以降、それこそ上記の2枚からなんですが、まだ在籍してなかったこの1stが最もSlint的で2曲目の「Night Aire」は硬質で隙間だらけのドラムの音やスポークンワーズ、静寂から間をとって曲に深みを持たせてくるところも完全に直系。Slintファンなら絶対に好きになる音だと思うし、こっからパホ加入も納得どころかむしろストレートすぎて面白いです。しかもバンドのルーツ的にもジャズの色が既にあって、まだメインではないんですが隙間の多いスロウコアにそういった要素が付け加えてるだけでもアレンジとしてすごく良い、このまま2nd以降の路線に開花するのも頷けるような種まきがされてるというか、ちゃんと通じるのにこんなにも陰鬱なスロウコアなのも良い。こんな記事を書くくらい自分がそういう趣味ってのもありますが、Tortoiseの作品では最も好きなアルバムです。

 

Aerial M / Papa M / Pajo

Aerial M – Aerial M (1997, Card Sleeve, CD) - Discogs Amazon Music - Pajoの1968 - Amazon.co.jp

SlintのギタリストでありTortoiseにも参加したデヴィッド・パホのソロはまさしくSlintもTortoiseも感じることができるシカゴ~ルイビル両方を繋ぐ架け橋とも言える、そして尚且つ彼のラフな雰囲気も感じることができてインディーロックの軸でも聞けるのでここも堀甲斐がある。割と多作で名義もいくつかあり時期や音楽性のスタイルで使い分けてるようです。Aerial Mではアメリカーナな弾き語りをひたすら音響派の衣で覆ったフォーキーな質感のポストロックと言えるものになっていて、その後外郭を取っ払い内側を曝け出したであろうPajo名義のアルバムはもろにSSW的な作風へ回帰。打ち込み要素もあるアシッドフォークから純粋な弾き語りまであり、Aerial MはSlintのスロウコアな側面と呼応して聞ける部分もあるかも。

 

King Kong

  

そしてKing Kong、Slint結成時1stのベーシストだったイーサン・バックラーがTweezのアルビニ録音が気に入らず脱退、その後こちらをメインに活動していきます。ハードコア要素はほぼないので関連作としては微妙ですが、レゲエやファンクの要素も取り入れたインディーロックと言った感じでチープな録音やローファイな質感から黒さはあまりなく独特の緩い雰囲気があってローファイさ加減が良い。録音には普通にSlintの面々が参加してるので仲違いではなかったようだし、ここでもパホが参加していて彼の柱っぷりにも驚きます。Slint以降の他メンバーと比べるとKing Kongはポストロック化の一端を担う感じではなく、純粋に好きな音をそのまんま鳴らしてるって雰囲気が強くて最もラフで聞けますね。

 

Squirrel Bait

 

Slintのメンバーでギターとボーカルを担当していたブライアン・マクマハン、ドラマーのブリット・ウォルフォードがかつて在籍していたバンドで、Spiderlandを作る際はシカゴに移住し制作の中心となった二人なのでSlint直球でのルーツとも言えるバンドです。もろハードコアですが、1st2ndと共にメロディック系の流れでも全然聴けるというか85年にしてはかなり硬質、こんだけギターが分厚くてメロディーも強かったらあまり何も考えず純粋に心から滾るような熱さがある。普通にDCハードコアとか、キャッチーというかメロディでも聞けるという意味ではGorilla Biscuitsとか元祖なイメージありますが近い感覚で聞けてしまうかと。ギターリフの硬質な鋭角っぷりはしっかりと後の彼らのポストハードコア系譜にも通じると思うし、とにかく少年たちが突っ走ってる感がすごくいい作品群です。

そして驚きなのは他のメンバーで、なんと後のBastro~Gastr Del Solで有名なデヴィッド・グラブスがギターとして参加していてつまり後のSlint、そしてGastr Del SolTortoiseといったシカゴ音響派等、ポストロックの代表的バンドを辿っていくと最終的にここに行き着くという。ルイビルだけでなくシカゴも巻き込んで、このバンドを聞いただけではとても想像できませんが全てがここに戻ってくる。ポストロックの奥にはハードコアがいるという中心、爆心地がまさにここであり、今回触れてるバンド群全てのルーツとも言えますね。

 

Bastro - Sing The Troubled Beast / Diablo Guapo(2005)

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そしてBastro、先程のSquirrel Baitのギタリストであったデヴィッド・グラブスが結成したバンドで後にTortoiseやSea And Cakeで知られるジョン・マッケンタイアと合流。トリオとして以後発表された1989年〜1991年の2枚のアルバムのコンピレーションがこちらです。一応ポストハードコアになるんでしょうけど、Dischordとかの当時のハードコアと並べて聴いてもかなり異質な、まさにエモでも激情でもない後にマス~ポストロックへと向かっていくようなTouch and Go系譜のポストハードコアの中でもミュータントとも言える凄まじいバンド。

というよりまずジョン・マッケンタイアが本当にTortoiseと同一人物?と思ってしまう程ハードなドラムを叩いていてこれだけでも聞く価値あり。高速で繰り返されるギターリフも凄まじく、このギターとバチバチにやり合う、まさしくフレーズの塊とも言えるテクニカルなドラムの絡み合いは既にマスロックのルーツとしての説得力がある。そして混沌とも言えるジャンクなノイズギターがこんだけ乗ってるのにどこかスッキリとした音像で爆走してくバンドメンバーのアンサンブルも絶妙、それだけじゃなく後期の曲にはオルガンがメインのインストにも近い超絶不穏な曲やノイズワークをメインとしたインスト等、この頃から既に実験的な要素もあってバンドのエネルギーに満ち溢れたあまりにもすごすぎる楽曲群。これらがまとめられた最強のコンピレーションだしライナーノーツにはルイビルやシカゴのシーンにもしっかり触れられているのでマストでしょう。

解散後フロントマンのデヴィッド・グラヴスはシカゴへ向かいGastr Del Solを開始、ジム・オルークと組んでマッケンタイアも度々合流していきますが、"ToritoiseやGaster Del Solのメンバーがかつて組んでいたハードコアバンド"では決して終わらせることができない実験性も伴った暗黒ノイズロック~ポストハードコアの大名盤です。サブスクには無いですがSpiderlandと並んで重要作品。

 

Bastro - Antlers(2005)

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ライブ盤なんですがアルバム収録のない曲の集まりで、1曲目の「Antlers」からBastroらしからぬゆったりとしたスローペースでじわじわと不穏に迫ってくる感じはSlintやJune of 44等の他のルイビルのバンドとも共鳴してくる。そして中盤に前作を想起する強烈なハードコアナンバーを挟み後半また化けます。「ライブ」というより各パートの絡みによる「音の実験」とも言えるような要素がかなり強く出てきて、終盤2曲に関してはもうGastr Del Solの原型と言っても差し支えなくなっており、バンドサウンドに囚われずより表現の幅を広げるためにああなっていったんだろうなぁと。

 

Gastr Del Sol

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そしてこちら、デヴィッド・グラヴスがBastro以降に辿り着く先でジム・オルークと組みポストロックを代表するバンド。あまりにも実験的でアンビエント的な効果音や空間に漂うサウンドが多く、ルイビルでも無ければハードコア要素も無いシカゴ音響派なので上記の作品群とは大分毛色が違いますが、Bastroのその後、そしてポストロックシーンを辿る場合非常に重要なバンドです。

 


関連記事

Slintと並び名前を挙げたRodanについて。共通項がめちゃくちゃあり、正直SlintよりRodanの方がとっつきやすいのではと思っているので是非とも。 

 

ジョン・マッケンタイア率いるTortoiseについてですが、バンドやシーンのことについては勿論、切り口も非常に面白く間違いないです。

 

 ざっくりとディスコグラフィを辿りたい方はこちら。

 

 参考資料にさせて頂いた30周年インタビュー。英語ですが各楽曲の解説など非常に濃厚です。

 


 

以上です。元々はRodanとJune of 44ってボーカル一緒だったの?というのを知り、調べてく内にSlintと同郷、そしてBasroが深く関わっていたり、メンバーが合流しTortoiseに繋がってきたり、Shipping Newsも元はRodanだったり・・・とどんどん点と点が繋がってくる感じが非常に面白くなってしまい、そのアーカイブを残しておきたいなぁという感じで書きました。ポストロックと言いつつかなり雑他になってしまいましたが、Slintっぽい音を求めて聞くのならRodan~June of 44周辺を聴くのが一番いいかもしれません。

 

そしてルイビルという地からどうしてここまで人脈が広がっていったのか・・・というのが非常に気になるとこですが、どうやらインディーバンド向けのハコが少なくシェアハウスなどで演奏していたため共通のメンバーが顔を合わせることが多かったようです。あとは80年代後期~90年代初頭のルイビルは大学にカレッジラジオが無かったこと、セッションミュージシャンが少なかったことから、外部地域の音楽性を取り入れることが少なく、Rodanのジェフ・ミューラー曰く「孤島にいるような感覚だった」とのこと。

それにより多数のバンドが派生~お互いに影響を受け合っていたのかなぁと思います。スティーヴ・アルビニがSlintとRodanについて「ルイビルという独特のバックグラウンドが無ければあの音楽性は生まれなかった」と言っていたのもそういった要素からかと。

 

以上でした。簡易ディスクガイド的な感覚で楽しんでもらえれば幸いです。

 

 

20210426 slak / Gouge Away / Logh

slak

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最近知ってよく聞いてたやつを並べます。slakという東京で活動するインディーズバンドでたまたま好きなバンドやらジャンルやらで検索かけてたらヒットしたのですが、これがかなりツボでした。

2曲入りシングル。sassya-やロクトシチとスプリットを出したりもしてて完全にその辺のポストハードコアシーンとリンクしてきますね。ギターリフぶん回してく感じはBluetipやFaraquetと言った90sポストハードコアを思い出すんですがあの辺のDischord関連と比べるともうちょっと退廃的な音で、一度静寂を挟んでから延々とギターリフを循環させていくアウトロがめちゃくちゃ好きです。個人的にHooverとかの暗黒世界とも通じるとこあると思います。

で2曲目の「cares」は更に不穏さを増してて個人的にLowercaseとかのスロウコア~ポストハードコアなバンドも思い出したりするし、ただLowercase程Slintとかそっちには寄せないであくまでディスコーダントなサウンド+歌メロは結構エモとかにも通じる感じで1曲目「indecision」と同じく、後半で静寂を一度挟むことも相まってかなりドラマティックです。Bastroのライブ盤収録の「Antlers」とかをめちゃくちゃ思い出す名曲。

ハードコア出自バンドが静寂パートで見せる冷たい質感が個人的に大好きなんですがそこからじわじわと熱を上げていくアウトロがどちらもかなりツボで、わかりやすくギアを上げるというよりは静パートを挟むことで一度リセットしてループする中でいつの間にかぶち上がっている温度感と言いますか、ライブとかで聞いたらもう一生続けて欲しいだろうなと思います。しかも序盤だけ聞くとそこまで長尺な曲には思えない感じからここに到達していくのがたまらない・・・。

 

Gouge Away - Burnt Sugar(2018)

BURNT SUGAR/GOUGE AWAY/ボーナストラック収録|PUNK|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

ディスクユニオン新宿パンク館でレコメンドされていたので気になったんですよね。なんかJesus LizardとかUnwoundとかが引き合いに出されていてその二つとも勿論大好きというかもうフェイバリットなので期待しかなく、聞いたんですが本当にその頃の硬質ながらジャンクで疾走してく感じは衝動まみれで最高でした。というか本当に2018年?という感じで先の二つを挙げるのも非常に納得というか、ただそれらより更にエネルギッシュに爆走している感じがあり、ボーカルの絶叫具合からもちょっとカオティック通過した音だと思います。しかも00年代以降ではなく90年台のLovittとかあの辺のインディーっぽい荒々しさが濃い頃を思い出すのがまた最高。

 

Logh - Every Time A Bell Rings An Angel Gets His Wings(2002)

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スウェーデンのバンドで完全に旧譜ですがこれもめちゃくちゃハマってます。仄暗いサッドコア/スロウコアという感じでギターの質感とかはかなり冷たくてまさしく冬にピッタリのサウンド。今はちょっと季節外れですが、スロウコアだからこそ音の隙間のわかるサウンド+こういう冷ややかな淡々としたギターの質感ってのがもうめちゃくちゃに染みます。

で憂いを帯びたメロディーはちょっとエモいというか徐々に徐々に暖めていくような、スロウコア特有のスカスカだからこそ「一人で聞いてる感じ」の中で寄り添ってくれるような相反した感覚がたまらないです。あとは「The Passage」という曲での淡々としたミニマルだからこそ感じるドラムのグルーヴ感ってのもやっぱこの手のサッドコアからしか接種できない成分でこれも最高。淡々としたものだけではなく結構ギターの音色とか揺らぎを重視してスケール観広げてく曲とかもあってポストロックにも通じると思います。やっぱこういうの好きだな~。

 

 

最後に超かっこいいバンドもう一個貼って終わり。

20210329 black midi - John L

色々新譜が出てるのを適当に漁りつつblack midi新譜ということで。出すんだ。この前BCNRもShameもかなり好きだったしサウスロンドン熱いですね。


black midi、最初アルバム出したときも各所で話題になって来日行った知人も多かったし、僕はと言うと実はポストパンクもマスロックも好きだしよく比較されてたnhhmbaseZAZEN BOYSも好きだったのに何故かしっくり来ず・・・ということで葛藤していたバンドなのですが、新譜聞いてドハマリしました。2nd発売はもうちょっと先で先行シングルですね。

ギターリフ一本に合わせた各パートがフレーズをぶつけ合いときには強烈にユニゾンしながら、black midi得意の無機質なノイズと一体化したような強烈な音像で突っ走っていきます。どこへ向かっていくのかわからない音楽であり、あらゆる文脈を断ち切ったような・・・

とは言いつつ、おそらくZAZEN BOYSファンなら一発でHIMITSU GIRL'S TOP SECLETを思い出すこと間違いなし、だと思います。ライブバージョンの方とかもろでギターが一音繰り返しながら無に潜っていってその後拡大、という展開までそっくりだし、展開どころかリフの置き方やドラムの強調の仕方まで・・・

イントロはTaratine(ZAZEN BOYS4)っぽいし、途中でRiff man(ZAZEN BOYS3)のアルバム収録版にある一度演奏をストップ → 打ち鳴らすリフとリフ のくだりを思い出す箇所があったり、というか3分頃からの展開はRiff Manのライブバージョンも強烈に思い出します。

もう似てる似てないとかそういうレベルじゃないだろ・・・という気持ちになりつつも、それでドハマリしてしまう自分に「これはblack midiを好きになったというよりZAZEN BOYSが恋しくなってるだけなんじゃないか」という気持ちにもなり、なんだか申し訳ない・・・。

black midi、完全にオリジナルな音楽をやってる集団ということでサウスロンドンから広がった新世代の旗手なので、好きなバンド同士が繋がってく感じがしてすごく嬉しいんですよね。ZAZEN BOYSは2015年からコロナ禍までは毎年ワンマン通っていて自分の中でかなり補正かかっちゃってて、知らない人より無駄に関連付けちゃってる・・・てのはあると思いますが、どちらかのファンでもう一方と体験してないという方は是非とも。

Schlagenheim - Album by black midi | Spotify

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black midi、当時完全に好きなタイプなのにハマれなかったのなんでだろうと思い、とにかく聞きまくった覚えがあります。こういうのは感覚的なものの好みなので自分でもその理由ってのはわからないですね。マスロック文脈で語るにはハードコアとかポストロックとかの流れを汲んでるようにあまり思えず、クリムゾン・・・は影響下が多すぎてこの手の音鳴らしてたら全部関連付けられちゃいますよね。

Lightning Boltっぽいなと言っていた知人に結構納得しつつ、というかもう〇〇っぽいとか〇〇に影響を受けたとかのロック雑誌ありがちな評をすること自体がもうお門違いというか、バンド名が日本のインターネット文化が由来だったり音楽と関連するあらゆるカルチャーから影響を受けた人達から出てくる素の音だと思います。まさにロック以降、"ポスト"ロック的というか、いや音楽的にはポストロックじゃないんですけどね、そう考えるとポストパンクってのは本当にしっくりきますね。2nd楽しみだな。

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20210326 ギタマガ/オルタナグランジ特集

ギタマガ買いました(前にも書いたな・・・)

今回はこちらなんですが、相変わらず全くギター弾かないので機材の話とかほぼわからないんですが、このパッケージカッコ良すぎでしょう。

ギター・マガジン2021年4月号 (特集:90年代オルタナ革命)

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で内容もオルタナグランジ特集とか、もう一番好きなとこというか僕のルーツですね。いきなりページめくって1991年特集!とかでニルヴァーナパールジャムサウンドガーデンスマパンダイナソーと並んでいたり、というか表紙に並ぶこのメンツ・・・

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載ってる文字がどれもこれも好きなとこで、これがカタログ化されてるだけでも嬉しい・・・。

 

でミュージシャンがそれぞれの「私的オルタナグランジ名盤三選とイチオシ曲」「好きなオルタナグランジギタリスト」というコーナーがあり、dipのヤマジさんやノベンバ小林裕介、ホムカミの福富さん、オウガの出戸さんまで・・・ととにかく楽しいです。でこういうの見ると必ず「俺だったらこの3枚だな」とかをまぁ考えてしまうわけですが、考えてしまったのですがこちらです。

 

1位 Smashing Pumpkins - Siamese Dream(1993)

曲:Quiet

なんの捻りもないですがやっぱり僕のオルタナ趣味の最初って日本ならナンバーガール、海外ならスマパンなんですよ・・・。とにかくメタリックなリフ一本で聴けるし、同時に美しく重ね掛けされた奥深いギターの轟音、て側面でも気持ち良すぎる。昔はオルタナってリフがかっこいい音楽のことだと思ってました。

 

2位 Pavement - Wowee Zowee(1995)

曲:Rattled By The Rush

一番好きなインディーロックでその在り方自体がオルタナだと思います。音が悪いって意味でのローファイではなくアンサンブルがぶっ壊れてるという意味でのローファイが堪能できる名盤。歌がヘロヘロなのも全てその計算の内というか、メロディアスだし泣けるっていう。

 

3位 Rodan - Rusty(1994)

曲:The Everyday World Of Bodies

ポストロック元祖ですがハードコア出自だけあってかなりギター寄りのバンドで、とにかくザクザクとしたリフが気持ち良いんですが同じ曲の中でスロウコア的な最小の美しさを奏でたり、メロディアスな轟音でエモーショナルに盛り上げて行ったり・・・と展開が多くて衝撃でした。

 

でギタリストに関して僕はそもそもギター弾かないのでどうなんだろう・・・て思っちゃったんですが、完全に好みでUnwoundジャスティン・トロスパーとかの変則的フレーズから不協和音ノイズへ飲み込んでくスタイルが大好きですね。あとはShellacスティーヴ・アルビニ、金属的なジャッキジャキの和音、徹底的なアナログ録音による生っぽい響き含めあのジャキっとした何にも代えられない音はいつまでも聞いていたくなります。

 


 

吉野寿×向井秀徳の対談で思ったことを少々。

先ほどの91年の名盤、から続いてニルヴァーナパールジャムから話題を振るんですが、まず“オルタナ“ではなく“グランジ“て切り口ならその人選はミスってね?と思いつつ実際2人ともほとんど聞いたことないです、とハッキリ言ってて笑っちゃいました。

でその2人で盛り上がると言えばやっぱりハスカードゥとソニック・ユースダイナソージュニアでした。前半の名盤紹介とかなりズレていて笑 でもこれが面白いっていうか、リアルですよね。世間的に売れた代表作はグランジでも、実際にミュージシャンに聞いた影響力の強さとしてはインディー精神強いものやハードコアが根本にあるもののが強いんだろうなぁと思います。それが良い意味で出てた気がする。

話それすぎですが、それ以上に面白かったのが2人のギターに対する話題で、とにかくそれぞれの価値観がありそのスタイルそのものが間違いなく“オルタナティブ“と言える独特のものを持っていて、2人の音楽をよく知ってるからこそ非常に読み応えがありました。あれを読めただけでも買ってよかった。

 

あと対談の中でフガジにもがっつり触れててポストハードコアで特集してほしいな・・・アルビニ録音とかに話題を寄せても面白そうですけどね。PJハーヴェイとかもいるし。あと向井秀徳が91年と言えばライドでは?とも言うんですが、マイブラもそうですし、あえてUKロックは避けてたっぽいのでシューゲイザーもお願いします。こういう好きなジャンルのカタログ、バイブルは家にフィジカルであるってだけで嬉しいですね。

記録シリーズ:Rodan / June of 44

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Rodan、ケンタッキー州ルイビル出身のバンドで1994年にアルバムを一枚残し解散。一つの曲の中でスロウコアとハードコアを行き来する同郷Slint直系のポストロック/ポストハードコアにして解散後様々なバンドへと派生。とくにフロントマンであるジェフ・ミューラーが結成したJune of 44では直系のサウンドを鳴らしながらダブやジャズにまで接近し音楽性の幅を広げていきます。このRodan~June of 44、そしてSlintと並びまだポストロックという名もついていなかった時代にその原型と言える音楽をやっていて、後のTortoiseやGaster Del Solといったシカゴ音響派も元を辿るとこのルイビルのシーンへと合流していきます。

同時代のポストロック前夜としてはジャズやエレクトロニカの要素も強いシカゴ音響派と比べると、Rodanに関してはレーベルの大元であるTouch and Goのジャンクロックやポストハードコアの色を強く継承しながら更にスロウコアの繊細さも併せ持っていて、Slintとルーツを共有するマスロック方面への影響力も非常に大きい。ポストハードコア以降という目線では所謂Dischord以降のDCシーン、American FootballやJoan of Arcといったキンセラ兄弟に端を発するエモ~ポストロック、先のシカゴ音響とはまた別の、ShellacDon Caballeroとも顔を並べるTouch and Goから見るポストハードコアの亜種しても掘り下げていきます。

 


 

Rodan - Rusty(1994)

Rodan - Rusty | DeLorean | Tiny Mix Tapes

Rodanが唯一残したオリジナルアルバムにして大名盤。1曲目の「Bible Silver Corner」からとても抒情的で美しいスロウコアから入りポストロックの元祖としての貫禄を見せつけながら、まさか同じバンドとは思えないようなほど高速で破壊的な「Shiner」で獰猛なハードコア性を見せてきます。たった一枚で解散してしまいましたがこれがベストアルバムと呼ばれても遜色ないほど名曲しか入っておらず、開幕この2曲の要素が入り混じった切れ味の鋭いジャンクなハードコアと美しくエモーショナルな静→動の展開を流動的なアンサンブルで行き来していて「The Everyday World of Bodies」は10分超えの後にマスロックと呼ばれる音楽ともリンクを感じれる。エモ前夜としても聞けそうな「Gouge」「Toothe-Fairy Retribution Manifesto」では徐々にギアを上げ爆発させていく緻密な展開に泣けます。こんなにもぐしゃぐしゃに壊れていて美しい音楽を他に知らない、奇跡のような6曲42分。

解散後フロントマンであるジェフ・ミューラーはJune of 44を結成、ベースのタラジェイン・オニールとドラムのケヴィン・コールタスはThe Sonora Pine、ギターのジェイソン・ノーブルはピアニストのレイチェル・グライムスと共にRachel‘sへと派生。Slintの名盤SpiderlandとこのRustyはルイビルの元祖ポストロックシーンで最重要のアルバムでしょう。

 

June of 44 - Engine Takes to the Water(1995)

ENGINE TAKES TO THE WATER (COLOR VINYL) /JUNE OF 44/RSD DROPS  2020.08.29.|ROCK / POPS / INDIE|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

Rodan解散後ギターボーカルのジェフ・ミューラーがCodeine、Hooverと言った同時代ポストハードコア界隈の錚々たるメンバーと共に結成したJune of 44の1stアルバム。まだ今作はジェフ・ミューラーのデモをベースに各メンバーで肉付けしていったとのことでRodanの延長線としても聞きやすいアルバム。録音はRodanと比べるとかなりタイトで硬質、音を絞り隙間をより強く見せる展開はRodanよりもSlintのSpiderlandを想起させるシーンも多々あります。Spiderlandのポストハードコア性を拡張したようにも思える曲群はリズム隊がHooverとCodeineという出自もあるだろうし、低音ががっつり効いたミックスもあって二人の演奏は非常にヘヴィ。June of 44はどのアルバムもShellacのボブ・ウェストンが録音してますが(Rodanもそう)、今作だけは後にLCDDFAで有名なジェームス・マーフィーが担当。彼はSlintのメンバーのルームメイトでもあったようだし、アルビニのスタジオでエンジニアとして修行してたとのことでおそらくボブ・ウェストン経由のそういった繋がりからだと思います。後のDFAや同時期に彼が関わったSix Finger Sateliteでも低音が強調されているので1st特有の重い質感にかなり貢献してると思われます。「Have a Safe Trip, Dear」「Mooch」といった曲でも見られる、SlintやMogwaiで有名な静→動の轟音で塗りつぶすコントラストとは少し色の違った、空白を作る演奏の緊張感でじわじわと溜め、突如リズム隊やツインギターの構成で加速していくスイッチを切り替えるような感覚はマスロック元祖と言われるのも納得。Rodan解散後、メンバーはJune of 44とThe Sonora Pineに派生していきますが、どちらのバンドも1stはRodanの続きという印象を残したままSonora PineはジャンクなUSインディー、June of 44はハードなスロウコア~ポストハードコア、と言ったそれぞれメンバーの色を濃くしていく様が聞き比べていて非常に楽しい。Rodanの理解度が逆方向から上がっていく印象もあります。

 

The Anatomy of Sharks - Single by JUNE OF 44 | Spotify

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1stリリース後のシングル。2nd以降の音楽性ともまた違った「Sharks & Sailers」ではバンドのイメージとは逆に非常に高速で、同じくハードコア色の強く関係の深いTouch and Goを代表するDon Caballeroの1stと並べて聞ける曲だと思うし、何よりRodan~June of 44はDon Caballeroと活動時期がもろ被っていて、お互い別方向からポストロック/マスロックがまだ定義されてなかった時代にそれらを開拓していったバンドという立ち位置で、ルーツや音楽性は違えどどうやって後のシーンを形作っていったか見えてくるところもあり並べて聞くのも非常におすすめです。

そして後期June of 44の変化の秘密が垣間見えるダグ・シャリンの趣味であろうトロピカルなインストも挟みながら、最終曲「Seemingly Endless Steamer」がこれまた名曲。美しい極上のスロウコアから不穏なポストハードコアへと大爆発していく構成は、1stでも見せたダグ・シャリンのドラムを軸にバンド全体でラウドにドライブしていく非常にスタイリッシュな名曲。

 

June of 44 - Tropics & Meridians(1996)

June Of 44 – Tropics And Meridians (1995, CD) - Discogs

99年リリースの2nd。従来のJune of 44のイメージを決定づけたような作品で、ずっしり構えたフレーズの塊のようなドラムとベースをスロウペースで反復させ、その上で1st以上に捻じ曲がったツインギターのフレーズが規則的に絡み合い所々バーストしながらスポークンワーズを乗せていきます。開幕「Anisetta」はまさにそのバンドのスタイルを象徴する曲でジャム・セッション感もある。「Sanctioned in a Birdcage」はRodanとも通じそうな抒情的で美しいギターのトーンから、一発で不穏なポストハードコアへと持っていく強烈なベースラインはフレッド・アースキンが元Hooverであることを思い出させてくる名プレイ。3rd以降のスタイルにも通じます。1st程展開は多くなく、むしろ音数を増やさないままヒリヒリとした緊張感を持続させループを軸にしながら動きを見せる様はどことなくShellac的。しかしShellacのような予測不可能なフリーキーなアンサンブルではなく、規則的だからこそ一つ一つのフレーズの妙が練られていてバンドとしてのフィジカルの強さを最も感じるアルバム。

 

June of 44 - Four Great Point(1998)

June Of 44 – Four Great Points (1997, CD) - Discogs

98年リリースの大名盤3rd。2nd経過後を強く感じさせるリズム隊の強烈な個性の強さを生かした反復のスタイルは色鮮やかにアレンジを広げ、ダブやジャズといった要素と本格的に接続し始めポストロックとしての色を強くしていきます。1曲目の「Of Information & Belief」ではRodanを思い出す繊細なツインギターのフレーズが象徴的なバンド随一のメロディアスな歌もの。June of 44屈指の美しい曲ですが、中盤からジャンクで金属的なギターリフが正面衝突し突如ポストハードコアへと急転。しかも轟音で覆うわけではなくフレーズの鋭角さとツインギターの妙で爆発を表現するのが完全に円熟していて、きめ細やかにフレーズを変化させながらずっと安心感のあるリズム隊の二人もずっとキレがある。

そして2曲目以降、本性を現したかのようにベースリフ一本を核としながらひたすらタイトに繰り返される溜めの効いたドラム、曲を進むにつれスペーシーでダビーなエフェクトが増してい、A面~B面で音楽性が少しずつ見えてきてアルバム終える頃には最初と全く違った印象になってく構成は圧巻。実験的な最終曲「Air # 17」を終え一周してもう一度再生した頃には最初の「Of Information & Belief」の印象もきっと変わってると思います。

1st2ndはまだジェフ・ミューラーによるRodanの続編という色も強かったのに対し、3rdからは元Hooverであるフレッド・アースキン、元Codeineであるダグ・シャリンという後にHiMを結成するリズム隊の色が強くなっていて完全にJune of 44という個が出てきたアルバム。特に今作はHoover派生でもあらゆるバンドでベースを弾いているフレッド・アースキンのジャズ/レゲエにも通じるベースラインがかなり要になってると思います。Rodan組のハードコア要素とHiM組のダブ要素が引っ張り合っている中間とも言えるし、実験的な要素を強くしながらも彼らのディスコグラフィで最も聞きやすい文句無しの代表作でしょう。とは言いつつ3曲目「Cut You Face」ではこのメンバーで今になってアップテンポのポストハードコアをやる、ちょっと浮いてるくらいストレートな曲で、それぞれのキャリアを考えると熟練度十分で獰猛なフレーズの応酬は凄まじくかっこいい。

 

June of 44 - Anahata(1999)

June of 44 - In The Fishtank 6(1999)

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完全にHiM組の色に染まってしまったアルバムでダブやジャズの要素も垣間見えるバンド感強めのポストロック。ハードコア色が薄いおかげで3rdとも壁がある作品だと思います。このアルバムにしかない完全なオリジナリティを確立させていて、どうやらダグ・シャリンの作ったループをベースにメンバーで録った長尺のセッションを編集して作られたアルバムらしく、最早HiMによるJune of 44のリミックス集って方が近いかもしれません。

ボーカルも歌心強めでシャウトも完全に消えましたが、歌ものポストロックと呼べるほどメロディアスでもないこのバランス感覚、まさしく各々のバンドで培ったそれぞれの音楽性・・・の延長にある部分を絡み合わせ作ったようで、まさに「ポスト」ロック的な作品だと思います。隙間の多い演奏からわかる各パートのミニマルな絡み合いによる浮遊感が非常に心地いいです。

Fishtankは専用スタジオを借りてEPを一枚作るという企画作品。完全に4thの延長線なのでそのまま続編として聞けますが、しかしAnahataのようなリミックス的作風ではなくスタジオで合わせて録ってるのでこちらのがバンド感が強く3rdからの流れだと聞きやすいかも。腑に落ちるところも多いし後の作品でセルフカバーされるのも含めてミニアルバムですが非常に重要なアルバム。

 

Rodan - Fifteen Quiet Years(2013)

Rodan - HAT FACTORY '93(2019)

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未公開音源集でFifteen Quiet Yearsは2013年、HAT FACTORY '93は2019年に発表されました。Fifteen Quiet Yearsは未収録曲+ライブ音源で、スタジオ盤ですら凄まじくライブ映えしそうなバンドなので間違いないです。「Darjeeling」など未公開曲を聞いてるとまだ80sハードコアの延長に聞こえる箇所が多々あり、これがセッションにより発展、肉付けされてってRustyになってったのかなぁとか考えてしまいます。

HAT FACTORY '93はRustyとほぼ曲目一緒ですがアウトテイクとは思えないほど完成されていて、原曲だとスカスカな分低音が強調されたミックスだったのに対しこちらは中~高音域が強いおかげでギターの音がかなり暖かみがあって全然違って聞こえます。というか激しい曲でも美しいRodanが聞けるので「the Everyday World of Bodies」とかは全体的に音が分厚くなっていてポストロック感も増し増しでフレーズは一緒なのにイントロからまるで別曲のよう。ノイズパートの印象もまるで違ってこっちのバージョンで大名曲に化けたと思ってます。

 

June of 44 - REVISIONIST: ADAPTATIONS & FUTURE HISTORIES IN THE TIME OF LOVE AND SURVIVAL(2020)

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まさかの新譜。解散から20年経ってなので驚愕でしたが、その20年の間にジェフ・ミューラーはRoadn時代の盟友ジェイソン・ノーブルとShipping Newsで活動、ダグ・シャリンとフレッド・アースキンはお馴染みのHiMでアルバムを多数リリースと、それぞれキャリアを重ねた面々+ジョン・マッケンタイアMatmosの二人も参加と90年代のポストロック大御所オールスターのような布陣になってます。

で中身ですが4thのAnahataを更に押し進め、より音をスマートにそしてヘヴィにした感じでしょうか。元々がリミックスっぽいアルバムだったのでこちらはバンドサウンドで再構築したとも言える作品で、B面では普通にハードコア色強い曲も戻ってきて激熱。リミックス二曲はバンド音源をサンプリングしたカオスなハードテクノに。

 

The Sonora Pine - The Sonora Pine(1996)

The Sonora Pine - II(1997)

Amazon | The Sonora Pine | Sonora Pine, the | 輸入盤 | 音楽 The Sonora Pine – II (1997, CD) - Discogs

Rodanから掘ってくにあたって重要なバンドでRodanでベース+女性ボーカルパートを担当していたタラジェイン・オニールとドラマーだったケヴィン、そしてJune of 44でギターを弾くショーン・メドウズによるバンド(ショーンは同時期にDischord RecordsのLungfishでベースを弾いてたりもします)。1stはRodanと展開の仕方や構成が近く、ジャンクロック的なローファイな録音+タラジェイン・オニールの暖かみあるボーカルのスロウコアとしても聴けるようなミディアムテンポの中で曲がどんどん展開、バーストしていきます。

2ndではギターではなくヴァイオリンやオルガンをフィーチャーしより繊細なリズム隊を乗せるというまた別の作風になっていて、半分ポストロックに浸ったアート嗜好の強いスロウコア、と言った作品。シカゴ方面やRachel'sとも通じるものがあるし、2000年以降SSWとして名を上げるタラジェインオニールのソロや、この密室感はSlint解散後にメンバーが結成したThe For Carnationともリンクするとこがあります。

 

Retsin - Egg Fusion(1996)

Retsin - Sweet Luck of Amaryllis(1998)

 

Rodan、The Sonora Pineでおなじみのタラのまた別のバンドで90年代末期にやっていたので同時に活動していたようですが、Rodan一派によるマスロック~ポストロック的な作風ではなく純粋にいい歌にいい演奏が乗っている暖かみのあるインディーロック。いかにもオルタナという感じで録音もインディーらしいローファイな質感が個人的に大好きなバンド。メンバーのトッド・クックはShipping NewsやFor Carnationと言ったルイビルのバンドで活動していてこのシーンを追ってくと度々邂逅します。

 

Tara Jane O'Niel - Peregrine(2000)

Tara Jane O'Niel - In the Sun Lines(2001)

ソロ名義に転向後の1st「Peregrine」は宅録で作られたローファイなインディーフォーク。Retsinからそのまま地続きでソロらしく削ぎ落とされたパーソナルな作品で彼女のメロディーセンスが炸裂してます。2ndの「In The Sun Lines」ではジャケから既にそれっぽいですが、かなりRodanやRachel'sを思い出すポストロックフィーリングもありつつSSWらしかった1st路線も濃く残した名盤。Rodanっぽいのを聞きたい方はこちらをどうぞ、Idaとコラボしてくるのもこの辺で日本盤も出てます。

 

Rachel's - The Sea and the Bells(1996)

Rachels's - Selenography(1999)

Amazon Music - Rachel'sのThe Sea and the Bells - Amazon.co.jp 

Rodanのメンバーであるギタリストのジェイソン・ノーブルがピアニストのレイチェル・グライムス、ヴァイオリニストのクリスチャン・フレデリクソンと共に結成した変則バンド。ジェイソンは今作ではギターを弾くというよりはマルチプレイヤーとしてプロデュースに近い形で関わります。基本はオルガン+管楽器をメインとしたポストクラシカルでまたちょっと違った方向からポストロックを広げていて、とくにSelenographyはRodanのBible Silver Cornerと言った美しいスロウコアと近いものがありルーツが垣間見えます。作品ごとにメンバーが変わりシカゴ音響派とも絡みがありますね。

ちなみにRodan~June of 44のフロントマンであるジェフ・ミューラーとジェイソン・ノーブルは高校生の頃からの親友であり、Rachel'sとJune of 44に分かれた後も二人で連絡をとり曲を作っていたらしく、これが後にShipping Newsとなります。

 

Shipping News - Three-Four(2003)

Shipping News - Files The Fields(2005)

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Rodan~June of 44を率いたギターボーカルのジェフ・ミューラーの次のバンドで、彼の変遷を辿ってくうちに上記の周辺バンドを知っていきました。Rodan/Rachel’sの盟友ジェイソン・ノーブルも参加しているのでRodan直系というか続編という雰囲気が非常に強く、むしろJune of 44は外部と接続しながら音楽性の幅を広げポストロック拡大の一端を担ってた感じだったので、より純度を高めた正当な続編はこちらのShipping Newsでしょう。彼らのルーツであるポストハードコア/スロウコア路線を正面から掘り下げていきます。

彼らと交流の深い同郷Slintのじわじわと心臓をわしづかみにするような静寂と狂気を行き来する緊張感を受け継いでいて、彼らがやっていた「遅いハードコア」とでも言うような音の完成形が鳴っています。しかもSlintが出てきたときってそんなジャンル存在していなかったのでまさに先駆け、ジャンルの草分けとも言える存在でしたが、後に発展したベテラン達が集まってそれをやってるのでかなり洗練されてますね。

3rdのThree-Fourでは静から動の振り切り方が激しい同時代のポストロックの名盤だと思います。4thはジェフ・ミューラーの暗黒ポストハードコア趣味が最もポップに出てる作品かと。

 


以上です。Rodan以降、という括りで聞くのならこの辺を押さえておけば間違いないと思います。とくにJune of 44と同時進行でジェフ・ミューラーがShipping Newsを始めたことで彼の本来の音楽性がわかり、June of 44の後期がいかにリズム隊二人の音楽性に寄って行ったかがよくわかったり、タラジェインオニールの美的センスがRodanに溶け込んでいたこともよくわかります。

 

Rodan関連、として括るのならここで終了です。以下、June of 44後期の音楽性に影響を与えたリズム隊二人のバンドについてちょっとだけ掘り下げていきます。

 

 

Hoover - The Lurid Traversal of Route 7(1994)

Hoover - S/T(1998)

Amazon | Lurid Traversal of Route 7 | Hoover | ミュージック | 音楽 

Dischord発、ルイビルのバンドではなくメンバーもRodanとは被ってないのですが、こちらに在籍していたフレッド・アースキンがJune of 44では要とも言えるベースを弾いてます。ハードコアですが金属的な不協和音と変拍子ギターリフの積み重ね+スクリーモという繰り返しが後のポストロック~マスロックや激情系に与えた影響は大きく、「Electrolux」辺りは完全に彼のベースリフの反復を核とし展開していく作風でJune of 44の3rdとかなりリンクしてきます。

98年のEPではハードコア色は強いまま更にダブ~レゲエ意識とも言える曲調になっていてシーン全体の潮流だったのかもしれません。

 

Abilene - Two Guns, Twin Arrows(2002)

Amazon Music - AbileneのTwo Guns, Twin Arrows - Amazon.co.jp

Hoover解散後、メンバーはいくつかのバンドに分かれるのですがその後にまた一部が再集結したバンド。勿論フレッド・アースキンも参加。Hooverの頃から彼のベースを主体としたダブ要素を推し進めた感があり、音をごっそりそぎ落として最小限のアンサンブルの中Hooverにも通じるダークな世界観を展開。全編にわたってホーンも参加しジャズやダブ・レゲエに接近したポストロック化とJune of 44がハードコアから4thで徐々にジャズやダブ化した現象と完全に同じことが起きてますね。

 

Codeine - Frigid Stars(1991)

Codeine - The White Birch(1994)

FRIGID STARS LP (2LP+CD)/CODEINE|ROCK / POPS /  INDIE|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net Amazon | White Birch | Codeine | ヘヴィーメタル | 音楽

Codeine、シアトルのバンドでRed House PaintersやLowと並んで90年代のスロウコアシーンを代表するバンドで、それらの中でも轟音要素が強く後のモグワイがルーツとして挙げることで有名ですね。冷ややかな緊張感はまさしく"サッドコア"的でBastroとスプリットを出したりもしていて、ハードコアの延長線としての貫禄十分。Slintと比べても更にミニマルで、アンサンブルの動きが少ないからこそ轟音垂れ流しパートの対比が強く強調されます。そして2nd「The White Birch」にJune of 44及び上記のHiMのダグ・シャリンがドラムで参加。実際1stと2ndでドラムが変わったことによりリズムへのアプローチの仕方も大分異なるアルバムでここを聴き比べるのも面白いです。

 

Rex - C(1996)

Rex - 3(1997)

 

Codeine解散後にダグ・シャリンがJune of 44と平行して活動してたバンド。June of 44と同じくスロウコアフィーリングありつつもこちらはもっとフォーク/カントリーの色が強まっていてCalifoneとかRed Red Meat後期のような雰囲気で聞けます。オルガンやチェロも参加して色鮮やかですがダグ・シャリンはJune of 44と同じくかなりパワフルなドラムを叩いて、バンド全体でのドライブ感もめちゃ強くDrag Cityのアメリカーナ周辺とは近いようで遠いかも。かなり良いので関連作として是非。

 

HiM - Egg(1996)

HiM - Our Point Of Departure(2000)

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HiM、記事内で何度も触れてますがJune of 44/Rexのドラマーであるダグ・シャリンのソロプロジェクト。アルバム毎にメンバーが変わる流動的なバンドで、1stであるEggはほぼRexのメンバーで録音されたダブ・アルバム。ポストハードコア以降の冷たい質感もあり関連作として是非どうぞ。そして2000年作のOur Point Of Departure、こちらはShipping Newsへ向かったジェフ・ミューラー以外のJune of 44のメンバー全員が参加と完全にAnahataの延長線上にあり、June of 44後期の音楽性の変遷の秘密が見えてくる名盤。ありえたかもしれな続編として聞けます。ハードコア/スロウコア要素はほとんど後退し完全にジャズ側、数多くのフレーズやダビーなエフェクトが飛び交いでもってミニマルな要素も強く、電化マイルスっぽさもある。HiMは他のアルバムでもTortoiseらシカゴ音響派との共通点もあって双方の架け橋ともなるバンドです。

 

 

 


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上記で触れたShipping Newsについて全アルバム掘り下げたものです。Rodan~June of 44の系譜の最終なので続編としてどうぞ。

 

June of 44の音楽性に多大な影響を与えたりHiMにも参加したフレッド・アースキンの元バンドHoover、及びそこから派生していく多数のバンドについて書いてます。こちらも膨大でHooverの系譜とRodanの系譜が交錯する瞬間がJune of 44だったというのもわかってきます。

 


以上です。長くなりましたがこの辺でのRodan〜June of 44〜Shipping Newsの変遷を辿りながら周辺の音楽を漁るのがリスナーとして非常に楽しい時間だったので、その記録を残したいなぁ・・・というとこから書き始めたものでした。Slintを中心としたルイビルの潮流の中にあるので、どっかでSlintも絡めて書きたいなぁと思ってはいたんですが、それは機会があればいつか。何か少しでもディグの参考になればと思います。

 

※書きました