朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

OGRE YOU ASSHOLE 全アルバム感想

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2001年結成。初期の頃は90年代のUSインディーをベースにしたようなロック~ディスコパンクシーンとも比較されながら徐々にサイケデリックへと傾倒しAORクラウトロックプログレの空気まで入っていきながらソフトサイケな歌もの → ライブで轟音~グルーヴ重視へと大化けするというバンドです。

一時期狂ったようにライブに通いまくってました。かなり多方面から楽しめるというのもあり1stから順に追っていきます。

 

 


 

OGRE YOU ASSHOLE(2006) 

OGRE YOU ASSHOLE/OGRE YOU ASSHOLE : UK/US/JPロックレビュー

セルフタイトルの1st。元々OGRE YOU ASSHOLEというバンド名の由来はかつてメンバーが敬愛していたModest Mouseの来日ライブに行ったとき、メンバーにサインをねだったところ書かれた文字(もうほぼラクガキみたいなもんですが)をそのままバンド名にしてしまったというエピソードがあります。で1stアルバムということでそんなModest Mouseを強烈に思い出すローファイな作品、というか歌い方までも近いと思わせる瞬間もあるんですがあちらと比べるとジャケット通りかなりダークな雰囲気漂います。

で割とメロディーも声もキャッチーで普通に00年代の邦楽ギターロックな流れでも聞けるアルバム・・・だとは思うんですが、かなり不穏で、後期の本格的なサイケデリック・ロックとかとはまた違った、独特の得たいの知れない危うさとも言える別の意味でのサイケ感が滲み出てますね。「タニシ」「また明日」という今でもライブで聞けるナンバーも収録されていてこの辺もメロディはポップなんですがかなりくたびれてます。「ロポトミー」では今からは考えられないようなシャウトも。タニシでのツインギターの絡み合いは割りと後にも通じるかも。

割とUSインディーライクな作品ながらこの頃からドラムは後を想起させるミニマルさのようなものがあってこれが結構浮いてるんですが味になってますね。というかドラマーだけ当時からプログレクラウトロックとかポストロック嗜好だったというのもバンドの出自や後の音楽性を考えるとめちゃくちゃ大きい気がする・・・。

 

平均は左右逆の期待(2006)

1st後に出たEPで前作と比べたら音もキレイになり雰囲気もポップになりました。というか1曲目からアコースティックで始まりオウガ随一ポップな曲で前作から来るとびっくりするんですが、捻くれた曲展開というか予想外なとこから飛んでくるのは相変わらず。

そして「アドバンテージ」はこれまたおそらくModest MouseのLoungeを想起させる疾走ナンバー、をめちゃくちゃ肉付けしてよりドラマティックにした感じで、この頃のUSインディーを咀嚼した~という王道のロックサウンドはこれで完成されちゃってる気もするし次作の1stフルアルバムへも繋がります。後に難解になってくことを考えるとストレートにクールがギターロックやってた唯一の曲じゃないでしょうか。

 

アルファベータ vs. ラムダ(2007)

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今でもよく聞くアルバムです。フロントマンである出戸学が度々影響を公言するTelevisionの色がフレーズや音色からもかなり濃く出てきて、マーキー・ムーンで見られる単音ツインギターの絡み合いの上で歌ものインディーロックをやるといった感じ。リフとリフを反復しセッションした後どんどん新たなギターフレーズが登場しドラマティックに展開していく・・・というのをわかりやすく3分~5分のサイズでコンパクトにしたような曲が多くてギターのフレーズを耳で辿るだけでもこれがかなり楽しい。

Modest MouseというよりBuilt To Spillっぽい感じがかなり出ていてオウガの中で最も人懐っこいアルバムにも聞こえるし、でもやっぱりちょっと無機質な感じになっちゃうのは出戸さんの声と掴みどころのない歌詞、情報量の割にアンサンブルはスッキリしてて隙間がハッキリ見えるってのもあるかもしれません。今では別物に変貌してしまったライブアンセムの「フラッグ」の骨組みとも言える原曲もここ。

 

しらない合図しらせる子(2008)  ピンホール(2009)

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メジャーデビューシングル「ピンホール」とEP「しらない合図しらせる子」ですね。デビューということでピンホールは非常にポップで最も一般受けする曲かと。この頃からプロデューサーとして石原洋、エンジニアに中村宗一郎というゆらゆら帝国を手掛ける二人と手を組みます。

そして今作、後期のどんよりとしたサイケデリアとはまた別の、多幸感あふれるメランコリックなサイケデリアが結構滲み出てきてて、この辺はおそらくThe Flaming Lips由来だと思うんですが石原洋と最初に会ったときこんなことやりたい、ていうモデルの一つだったみたいです。ギターの音も大分くぐもった乾いた質感になってきてこれも後期への兆候な気がするけどまだまだUSインディーオルタナの範疇って感じがしますね。

 

フォグランプ(2009)

前作と同じく単音ツインギターのアンサンブルによる歌もの・・・の延長ですが、そこまでキャッチーではなくなってて後期のサイケデリックな空気がぼんやり出てます。で尚且つその空虚さを伴ったまままだギターロックの範疇という異色作でもあり、後期のサイケ期を期待して聞くと物足りず、逆にアルファベータを期待して聞くと重くなりすぎな感じもありますが、だからこそ今作が一番好きって方も結構いそうですね。

あとは一つのリフを繰り返してくうちに徐々に絶頂へ向かう・・・という淡々としたアンサンブルの中で変化を楽しむ「ワイパー」等、ドラマティックに展開していくラムダとはここも違いますね。ジョニー・マーがオウガを指して「CANを早回ししたようなバンド」と例えたことがあるのですが、時期と音的におそらくこのアルバムかな~と思います。

 

浮かれている人(2010)

さてこちら・・・フォグランプと並び丁度中間、サイケ寄り・・・録音の質感は全体的にふわっとしてますが、リードトラック「バランス」がしらない合図しらせる子とかで出てきてたThe Flaming Lips歌謡の完成系とも言えるもので、たぶんオウガ屈指のポップさを誇っていてその印象のままあっさり聞けちゃうんですよね。

「タンカティーラ」とかもかわいいキラーチューンでフォグランプと比べると全体的にポップなんですが、この明るさ、今までとは違いシュールさを伴ったものなんですよね。でこのシュールさって深読みすると少しだけ不気味に感じるような・・・という、ちょっとだけ毒の入った明るさだと思います。ジャケもね。

 

homely(2011)

OGRE YOU ASSHOLE - homely - Amazon.com Music

さて、こっから完全に今までの音楽とは別次元に行ってしまった感じがあり"USインディー"的な聞き方をすることはほぼできません。石原洋+中村宗一郎というかつて90年代にWhite Heavenを率い、00年代ではゆらゆら帝国をプロデュースしていた二人と組んだことで完全にサイケデリッククラウトロックといったあの乾いた音楽へと変貌。リアルタイムで追っかけてた人は一体どう思ったんだろうか・・・。

ということでもう最小限のビートを刻む淡々としたギター、ドラム、ベース、そこにプログレクラウトロック的な効果音が飛散しながらミニマルな繰り返しの中で虚ろに踊るような、そこにゆらゆらとボーカルが浮遊しているような、そんなアルバムです。

歌詞も今までは意味があるようでないような単語をハメ込んできたオウガですが、「居心地の良い、悲惨な場所」をテーマに「ここから出ることはできない」と言う息が詰まるような閉鎖的な空気に包まれていて、統一感のある録音も含め完全にコンセプトアルバムです。そもそもこの音楽性自体が、今までの作風の地続きではなく"描きたい世界観に合わせて音を選択した"というあたり、今作からライブとスタジオアルバムを完全に切り分けるようになります。

最初聞いたときこの空気にやられて非常に重苦しかったんでが、ライブで大化けする「ロープ」「フェンスのある家」辺りのキラーチューンの原型も収録されてて、乾き切った空虚な録音の印象で塗りつぶされてますがよく聞くとメロディーはちゃんとキャッチー。でこれらを再編集しより肉体的になったworkshopというアルバムが後に出るのですが今作がしっくりこなかった人に是非オススメしたいです。後から聞くほど発見の多いアルバムだと思います。

 

100年後(2012)

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100年後。前作の終末感を引き継ぎつつ、直接的に終わりを表現せずに100年後という"終わった後"を当てはめるのはかなりオウガらしいタイトルだと思います。

そしてこちら、僕は最初に聞いたときついにさっぱりわからなくなってしまったアルバム・・・というのも前作から引き続き完全にサイケやってるこの頃を三部作と呼ばれてるんですが、かと言ってhomelyとはかなり趣向が違いますね。録音のふわっとした質感くらい?まだ前作の方がビートで聴く感覚があったので踊れた。

今回、たぶん今までで一番歌の比重が大きいです。あと音への没入感。音を鳴らした後の残響、が着地せずに地続きに浮遊し、ぼんやりと広がってくその幽玄な世界観に浸るといった作品です。めちゃくちゃメロウ。和製AORって感じも。

 

ペーパークラフト(2014)

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ジャケットが素晴らしいですね。homely、100年後から続く三部作では個人的に一番好きです。今までのオウガってミニマルな曲とメロウな曲がそれぞれ存在していて(homelyならミニマル、100年後ならメロウ寄りでしょうか)、それらを共存させたアルバムを作るということで「ミニマルメロウ」がコンセプトだったようです。ということで結構双方の作風を引き継ぎつつポップになってるので、この三作では一番とっつきやすいかも。

ライブの定番である「見えないルール」は音源の時点でミニマルなファンクという、homelyでも見られた無機質なダンスナンバーとして完成された感じがあります。そして「ムダがないって素晴らしい」はギターではなくドラムとパーカッションが主格となる"リフ"的なものを担っていて、そこにキャッチーなメロディーが乗ってくのがクラウトロック歌謡として完全に完成された曲だと思う。CANのTago Mago辺りが好きな人にはたまらないと思うしよくここまでポップにしたなぁと思うし、反復と歌のバランスがミニマルメロウを模索してる中でやってたのかな・・・と思います。

 

ハンドルを放す前に(2017)

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前作ペーパークラフトで提示したミニマル/メロウの基準でいうと完全にミニマルに振り切ったような作品で今作からセルフプロデュース。「頭の体操」「なくした」といった曲はスカスカながらもペーパークラフト以上にファンキーで踊れる曲も多数あってこれが中々新しい感覚です。

そして「ハンドルを放す前に」「あの気分でもう一度」辺りは曲の要所要所でそのフレーズ一本で曲の印象全て持ってくようなキャッチーな場面が少しずつ忍ばされていて、本当に些細なワンフレーズが挿入されるだけとかそんなもんなんですけど、ただでさえいつもがミニマルのため極小→小という動きでカタルシスを得ているような感覚があります。ということで聞けば聞くほど空っぽな心地よさの奥にドラマティックなものを見出してしまうというアルバム。あと音源だとスカスカな分ライブバージョンの広がりのある音響でメロウへと大化けするし、隙間が多い分各フレーズのぐにゃっとした感じも楽しめます。

 

新しい人(2019)

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ミニマルなソフトサイケで、結構今までのアルバムの中でも「歌」の要素が強いかもしれません。でもって三部作程重くもなく、あっさり聞けるシンプルなバンドアンサンブルのソフトサイケというか、今までの音の引き方とはちょっと違い、音の規模、世界観そのものが縮小され"そこ"でなってる言葉と歌、という印象を受けます。

順を追って聞くとペーパークラフトで突き詰めた「ミニマルとメロウの共存」が最も自然な形で出てきてるアルバムじゃないでしょうか。空っぽなのに暖かみがあるというか。で歌詞も対象物がほとんど出てくることなく現象、状態を示す言葉が連ねられていく感じで、石原洋が今作を「さっきまで誰かが"いた"ような、座っていた椅子の温もりが残っている」と捉えていたのもかなり納得しました。

そして「さわれないのに」は個人的に傑作だと思っていて、ライブで聞いた時はもちろんですが音源公開時も非常に盛り上がりました。オウガの持つ無機質ながらも体を動かしたくなるファンクネス、あの要素をうまくポップソングとして聞ける形に落とし込んでるというか、これ新しいファン層もガッツリ掴めるんじゃないかと興奮した覚えがあります。

 


 

以上でした。後はライブアルバム・・・というよりはライブ音源を再編集した「workshop」についてですが、個人的にオウガの最も大きな魅力が詰まってる三作だと思ってるので、正直重要度は上記の作品より高いと思ってます。

世界観に合わせて音を選択した後期のコンセプトアルバムを考えると、こちらこそが真のバンドの姿であるとも言えます。その辺について書いていきます。