朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

2024年上半期聴いていたもの/David Bowie

David Bowie - Station to Station(1976)

最近は前回の記事の流れで80sポップやニューウェーブ、ファンクやプリンスの流れでなんとなく辿り付いた(というかSpotifyの自動サジェスト機能とかにも随分助けられた)デヴィッド・ボウイのStation to Stationをよく聞いている。昔は1曲目のセルフタイトルがミニマルな雰囲気のある曲だなと思っていて、カラっとした録音もありそれはベルリン三部作直前ということでクラウトロックのリンクなのかなと思っていたけど、アルバムのカラー的には前作Young Americansの流れを汲んだソウル色の強い作品だと最近になってようやくわかった感じがあり、ここ1~2年ファンクばかり聞いてたのが効いてきたと思う。煌びやかすぎず、メロウにも振り切らないブルーアイドソウルって感じで、それでいてベルリン三部作をちょっと思い出す淡白な雰囲気があって途中経過であるが故の特異作であり、類似作のない名盤ということがわかってきた。

 

David Bowie - Young Americans(1975)

その流れで前作Young Americansも今更聞いた。ボウイはサブスク導入前にある程度CDを集めていてレンタルも結構した覚えがあるけど、ライブラリになかったのでおそらく本当に初めて。力強いのに風通しが良いボウイ版AORみたいなノリで聞けるのでかなり好きだし、そういった80sのAORがしっくりこなかった以前の自分だったらハマらなかったと思うので、きっと昔レビューやガイドを読んで飛ばしたであろうことも納得できる。それこそStation to Stationではオミットされた80sと通じるメロウさも結構あるし、向こうが置きの反復だとすると、こちらの方がリズムが跳ねている。デヴィッド・ボウイは洋楽とかを掘り始めた頃に全アルバムまとめたディスコグラフィ記事を見たり、あとはローリングストーン誌の洋楽名盤選でハマりそうなやつ(もしくはジャケットにピンときたやつ)をTSUTAYAに通って聞いたけど、アルバムも多いし割と抜けがある。元々はニルヴァーナの世界を売った男のカバーから辿ってちょうどそのアルバム前後の70s前半、有名なグラムロックって呼ばれてる頃を聞くことが多くて、実際世界を売った男はブルース色も強い仄暗いハードロックという感じで、グランジから辿った自分は割と肌に合った。

Young Americans、この後にパンク以降の人達もブラックミュージックに接近しポストパンク/ニューウェーブとして新しい形へ昇華していったり、80sポップもブルーアイドソウルの血が濃いので、今作はかなり早い段階で白人のソウルをやっていてロールモデルになったのではないだろうかと今聞くと思う。メンバーも壮絶でドラムとベースのリズム隊は実際にダニー・ハサウェイのライブ盤で弾いていたり、ドラムはなんとSlyのFreshでも叩いてるので完全に本場の面子。Across The Universeではちゃっかりジョン・レノン本人も参加している。有名なグラムロック期とベルリン三部作の間に挟まれているけどしっかり橋渡しもした重要作なんだなと今更思い知った。75年といえばジギー期のイメージもまだ纏わりついているため同じくソウル方面に向かってったストーンズの近作もちょっと思い出す(丁度山羊の頭のスープとかBlack and Blueの頃なのでリンクする部分も大きい)。ストーンズもそうだけどYoung Americansのデヴィッド・ボウイは黒人音楽への憧憬からそれをどうやるかっていう感じがするけど、Station to Stationでは模倣することは完全に考えずにあくまで"白人としてのソウル"をどうアプローチするかっていう振り切り方をしてるように思う。当時未知の方向に進んだ作品だと思うし、その後のベルリン三部作においてドイツの土地柄上黒人音楽の影響をダイレクトに受けなかった音楽=クラウトロックへと傾倒していくってのが非常に象徴的だと思う。

そしてボウイがソウル/ファンク路線からStation to Station経由してベルリン三部作でクラフトワークを参照したこと、CANーJBー電化マイルスあたりの明らかにファンクやジャズを経由して呼応していた当時のバンドの流れから、自分が好きなOGRE YOU ASSHOLEを思い出してしまう。ここで突然数年前のオウガのプレイリストにデヴィッド・ボウイが入っていたことを思い出す。オウガはスタートこそUSインディーフォロワーだったけど、後にAORを経由してクラウトロックとファンクをミニマルに収束させていった経歴があって、ファンクとクラウトロックを反復の美学という一点で紐づけグルーヴを中和していく視点は昔からずっとあったのかもしれない。実際彼らは初期からCANへの敬愛を語り、Neu!クラフトワークを引用ながらカーティス・メイフィールドの名前も上げているし、AOR期は実際スティーリー・ダンを参照している。ジャーマンロックの人脈が後のポストパンクと交錯することってニック・ケイヴのその後は勿論、CANとP.i.L.のメンバーの交流も盛んで、ポストパンク自身もパンクからソウル/ファンクへの接合、そしてスカスカなアンサンブルという点でも一致する部分がある。かつて好きだった音楽、聴いてきた音楽が、辿ってきたものが積み重なってあとから見えていなかった糸、接合部が見えてくる現象ってのはいつだって楽しい。半分以上妄想でこじつけで自分の思い込みかもしれないけど、その思い込みから作られる自分の耳は音楽を更に豊かにしてくれるし、そういうのをメモするためにこういう記録をしている。

 

David Bowie - Low(1977)

その流れで年代順で辿ってベルリン三部作を聞く。昔からLowが好きだ。今聞くとこれもしっかりStation to Stationの続きであるなというのを実感するし、そして後の80sポップの先駆けという雰囲気もかなり強い。Young Americans~Station to Stationのブルーアイドソウル方面ではなくてエレポップへも直接繋がっていくと思う。クラウトロックを取り入れたとは言ってもちゃんとブルース~ファンクを経由してきたボウイの色がアンサンブルから割と出ていて聞きやすく、後半のインストも70年代らしい近未来SFの雰囲気が強くて時計仕掛けのオレンジの劇伴みたいな感じで最高。

そして続く2作も久しぶりに聴いて、やはり個人的にLowは特出してベストかなと。ベルリン期の他2作より今だったらStation to Stationの方が好きかもなぁと思った。そしてブライアン・イーノ繋がりでOutsideを久しぶりに聴く。これがまためちゃくちゃかっこいいし、いつ聞いても発見がある作品だなと強く実感。このアルバムは2年前にハマってそのときちょっとブログにも書いたりしたけど、違う文脈や流れで聞くことで見えてくるものも多いと思う。

David Bowie - Outside(1995)

今回とくに思い出したのはプリンス。プリンスにハマってから聞くOutsideは初めてだけど、割と1999やパープルレインの頃と重ねて聞ける要素が強くあるように思える(こちらはかなり暗いが)。グラムロック期で壮大なロックオペラを作っただけあって、コンセプチュアルっていうより一つの映画作品のサントラみたいな雰囲気があるのもリンクする。プリンスとインダストリアルと、あと当時のマッドチェスターやPrimal Screamのようなロックにおけるダンスビートの流れも汲んでるようなビートも登場する。以前Outsideについてブログで書いたことがあるけど、そのときはトレント・レズナーとの共作について触れて、Tin MachineやPixiesのカバーの件もあり90sオルタナとの近さをピックアップした聞き方をしていた。また97年にロバート・スミスビリー・コーガンと共演していることから、当時のThe CureやThe Smashing Pumpkinsとの距離の近さ、とくにOutsideをAdoreっぽいなと自分はちょっと思っていたし、ゴシックな世界観、セブンで有名なThe Hearts Filthy Lessonのトレント・レズナーMIX版が凄まじくかっこいいことなど、大げさに言うとオルタナとしてのデヴィッド・ボウイみたいなアルバムとして聞いていたんだと思う。でもトレント・レズナーはそれこそナインでプリンスをかなりリスペクトしていたらしいし、そういう視点も新しく得て、そして一年間プリンスを聞いた上で近いものを感じたのはあながち間違いではない気がする。ちなみに今回とくに好きな曲は「I Have Not Been to Oxford Town」「The Voyeur of Utter Destruction (as Beauty)」です。とくにThe Voyeur of Utter Destructionは80sキンクリ、というかディシプリンっぽいなと思う(遠回しに前記事でのトーキングヘッズとの関連性も少し含む)。

 

あとさっき触れたThe Hearts Filthy Lessonのトレント・レズナー版がマジでNine Inch Nailsみたいで超かっこいいので聞いたことない人は是非聞いてみてください。デラックスエディションのDisc2に収録されてます。

 


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前回(Prince)と前々回(Talking Heads)。当時はあんま気にせず純粋に聴いた音楽をリアルタイムで記録してたんですが、こうやって並べるとかなりしっかり続きものになってるなと思います。