朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

Clikatat IkatowiとGravity Record

Clikatat Ikatowiという最近再発、再結成されたバンドの作品と、Gravity Recordsについて書きました。


 

 

Clikatat Ikatowi - The Trials And Tribulations Of...(2025)

Clikatat Ikatowiは94~97年まで活動していたサンディエゴのバンドで、今作は2025年にNumero Groupからリリースされた全音源収録のコンピレーション。バンドが拠点としていたGravity Recoredsは90年代のサンディエゴを代表するレーベルで、ハードコアの枠を飛び越えた特異なサウンドを持ったバンドが多く、当時のDCにおいてのDischord、シカゴのTouch and GoやDrag City、オリンピアのKill Rock Starsらと同じように、地域と結びついた独自の音楽シーンを形成していた。Clikatat IkatowiはHeroinというサンディエゴを代表する伝説のバンドのギタリスト、スコット・バルトロニが参加したバンドで、そもそもGravity RecordsはHeroinのボーカリストだったマット・アンダーソンが主宰しているためレーベルを代表するバンドと言っても過言ではない。

 

Disc1 : Clikatat Ikatowi(1994)

Disc1は94年にリリースされたバンド名と同名のEPをまとめた音源。M1のLibrarianはオールドスクールのハードコア直系ではあるがDischordほどメロディアスさはなく、それでもどことなく叙情が見え隠れした疾走感溢れるエモ手前のポストハードコアでシンプルにぶち上がる。個人的にベストトラックに上げたいのがM2のOff To Hereで、M1とは対照的なスロウテンポでかなり風通しのいいPavementと並べて語れそうな曲。前身であるHeroinや唯一のフルアルバムであるOrchestrated And Conducted Byのイメージとはかなりかけ離れたバンドの引き出しを知って衝撃を受けた。サウンド的にはどこかハードコアとも通じるジャンクな質感+ヘロヘロで親しみやすいグッドメロディの完全にUSインディーライクな名曲で、1:53~のバンドサウンドの厚みが増しエモーショナルなツインギターで魅せていく展開は普通にエモとしてめちゃくちゃ泣けてしまう。M3のTransmissionもハイテンションでちょっとノイズが過激になったPolvoといった趣があり、Touch and GoやMerge Recordsのインディーロックファンにも是非おすすめしたい。M4以降はHeroin以後のポストハードコア然とした重厚な曲が多く、M5のSaxby's Gailはテンポを落とし展開で聞かせるポストハードコア。

 

Disc2 : Orchestrated And Conducted By(1995)

Disc2はOrchestrated And Conducted Byというタイトルでリリースされた唯一のフルアルバムをそのまま収録。M1のToo SimpleからHeroin直系でもあるノイズと紙一重の埋めつくすような高速ギターワークが全面を覆い、共に疾走(爆走)するリズム隊、半スポークンワーズとも言える突っ走ったボーカルが絡み合う最高のナンバー。MohinderやUniversal Order Of ArmageddonといったGravityと所縁のあるハードコアバンドを想起させる瞬間もあるが、そういったバンドほどスクリーモせず、Clikatat Ikatowiはもう少し低体温、破壊的な演奏のその奥にどこか飄々と余裕のある佇まいを感じてしまう。アルバム通して、というか今回のコンピを聴く中でキャリアを通してメロディに寄りすぎず、かといって激情やカオティックといったエクストリームな方に寄せるわけでもない独自のバランス感がすごく良い。M4のDesert OasisはSlintを意識したスロウコア寄りの不穏なポストハードコア。ドラマーのマリオ・ルバルカバはインタビューでSlintへの愛を語っていて、当時シーン内でSlintを聞いていたのは自分たちくらいだったと語るようにサンディエゴシーンでこういったルイヴィルの香りがするという特異性も良い。Disc1でのインディーライクな曲達や今作のDesert Oasisと言い、バンドのカラーを捻じ曲げない範囲で新しいアプローチを見せる作風の柔軟さにやっぱり惹かれるものがある。

Disc3はRiver Of Soulsとして98年にリリースされたEPを主体にしているが、一部曲順が入れ替わっているのと、M6は今回初収録の未発表音源のため今回完全にオリジナル。最後のリリースというのもありかなり独自の音楽性を広げているし、98年という時代もあってかノイズ一辺倒ではなくポストロック前夜っぽい隙間を見せるサウンドスケープ、捻くれたギターリフやアンサンブルは少しポストパンクとして聞ける要素も出てきたかと思う。M3やM4などでも見れるルバルカバの超手数ドラムは不思議と走ってるようでどこか統制された雰囲気があって、これも先述した熱すぎない温度感と関係していると思う。Clikatat IkatowiはUnwoundと交流が深く、なんと今回のNumeroに合わせて再結成、Unwoundのリクエストで共に復活ライブをしていたりする。Unwound自身もGravity RecordsからEPをリリースしていて、初期はとくに音楽性的にリンクする箇所も多いし、後期オリジナルのポストパンクへと進んでいく部分もバンドとしてシンパシーを感じてしまう。

(今回の対バンにおけるフライヤー)

 

Metroschifter - The Metroschifter Cupsule(1994)/Earthless - From The Ages(2013)

 

Clikatat Ikatowiは元々ドラマーのマリオ・ルバルカバが結成したバンドで、彼自身が今後のGravity派生作品及びサンディエゴから活動の幅を広げていく多数のバンドに参加したかなりの重要プレイヤー。それこそクレジットを見たら気づいたらいるレベル、ルイヴィル~シカゴにおけるデヴィッド・パホにも通じるものがある。Clikatat Ikatowi活動前は411というハードコアバンドに在籍、また94年頃(たぶんClikatat Ikatowiと並行して)ルイヴィルのスコット・リッチャーというミュージシャンの新しいプロジェクトであるMetroschifterというバンドに参加。こっちはゴツゴツしたエモ寄りのジャンクハードコアだが、ストリングスなども使ったルイヴィルらしい静謐展開が度々挿入されこちらもかなりかっこいい。余談ではあるがスコット・リッチャーはSlamdek Recordsというレーベルを経営していて(Metroschifterのアルバムも勿論ここから)、EndpointやTelephon Man、Rodanの前身であるKing G & The J Krewといった地元のバンドの作品を多数リリースしていた。先述したルバルカバのSlintへの意識もありClikatat Ikatowi自体がルイヴィルとサンディエゴのミッシングリンク足りえるバンドだったことがわかる。

サンディエゴはGravityの他にもDrive Like JehuやHot Snakes、Rocket From the Cryptで知られるジョン・レイス主宰のSwami Records、同シーンのアーティストが多数参加していたHeadhunter、LocustやMars Voltaが在籍したGSL、などの数々のレーベルがあった。ルバルカバはこういったレーベルの垣根を越えて数々の作品に参加していて、Pinbackのロブ・クロウが結成したThingy、同じくPinback及びThree Mile Pilotのアーミステッド・バーウェル・スミスIVが結成したBlack Hert Prosession、ジョン・レイスのRocket From the CryptやHot Snakesなど有名作には大体関わっている。00年代以降は自身がEarthlessというバンドを結成、サイケデリッククラウトロックをルーツとしていて現在ではドゥーム/ストーナーにも接近、現在に至るまで活動が続いていて、彼のバンドで最も大きいプロジェクトとなった。

 

Heroin - Heroin(1997)

HeroinはGravity Recordsの主宰であるマット・アンダーソンが結成したサンディエゴを代表するバンドで、こちらはシングルやEPまとめたコンピであり唯一のアルバム。元になった作品は91~93年にリリースされていた。M1のHead Coldからスロウペースながら完全にハードコアとしか形容できないおどろおどろしい不穏なサウンド、歪みまくったノイジーなギター、デッドな音像、80s初期のエネルギーにまみれていたハードコアの延長上にありながらどこか少し違う、まさに"ポスト"ハードコアをDischord Recordsとは違う角度から定義したバンド。かなりハードコア色の強い過激な高速ナンバーも多数あり、とにかく飲み込まれる混沌としたギターサウンドがすごい。この要素はClikatat Ikatowiにも受け継がれている。後に激情の祖として語られることも多いけど、激情に行った面々が愛聴していたというだけでHeroin自体はそこまで直系ではない気がする。

Antioch Arrow - In Love With Jetts(1994)/Gems of Masochism(1995)

 

Heroinはメンバーの後の活動も重要でスコット・バルトロニは先述の通りClikatat Ikatowi、アーロン・モンテーニュはAntioch Arrowというバンドで活動。Antioch ArrowはいかにもHeroin系列の苛烈なポストハードコアでこちらも最近再発が進んでいる。マット・アンダーソンはレーベルオーナーとして後のレジェンドの初期のキャリアを支え続け、とくに先述したUnwoundのEP(現在はセルフタイトルのアルバムに収録)、後にThe Album LeafとなるTristeza、Dusterの前身であるMohinder、またThe VSSで活動及びGSL Recordsを主宰したソニー・ケイによるAngel Hairが在籍していた。とくにMohinderとAngel Hairの激しく混沌とした作風、過激なスクリーモ、矢継ぎ早な曲展開、極端に歪んだギターは後の激情へと受け継がれていくため、Gravity Recordsが激情の萌芽として語られるのはこういった一部のバンドの影響もあるかと思われる。Universal Order Of ArmageddonもGravityからリリースしていたり、後の流れではあるがLovitt Recordsにも通じるものがあるし、Ebullitionのようなレーベルが同時期に存在したことも大きいだろう。

 

Pitchfork - Eucalyptus(1990)

後のDrive Like Jehu及びRocket From the CryptやHot Snakes、Obitsでもあるジョン・レイスとリック・フロバーグが在籍していたサンディエゴを代表するバンド。Drive Like Jehuは後のエモシーンまで幅広くフォロワーを生み、2ndであるYank Crimeはジャケも有名だし、分厚く捻じ曲がったギターワークは90s末期のLovitt Recordsのハードコア→エモの流れにおいてHooverと並んで最も影響力を持ったバンドかと思う。LOSTAGEの元ネタでもある。90年前後のサンディエゴシーンはChe Cafeというライブ会場がシーンの中心だったらしく、Pitchforkは当時Che Cafeで最も勢いのあるバンドだったとマット・アンダーソンがインタビューで語っている。PitchforkはツインギターだったDrive Like Jehuと比べると音の層は薄くなりストレートに哀愁の漂ったインディーロックやエモの色が結構あり、こちらの方がClikatat Ikatowiと並べて聞きやすい。

 

Gravity然り、先ほどのBlack Hert ProsessionやPinback、Drive Like Jehuから広がりRocket From the Crypt、Earthlessまで派生していくサンディエゴシーン特有のなんでもやってもいい自由でカオスな雰囲気は、音楽性はバラバラでもどこか似通った空気感がある。先述したGSL RecordsはAngel Hairの経緯もありGravity Recordsの子供だと思うし、LocustやMars Voltaといった所属バンドも創造性が爆発した独自のサウンドにサンディエゴから連なるものがある。またThe RaptureがGravity、!!!(chk chk chk)がGSLと契約していて、00年代におけるディスコパンクの萌芽が既に見て取れるのも熱い。

 

 


以上でした。今年再発されたいくつかの音源の中でもとくに繰り返し聞いているバンドがClikatat Ikatowiで、元々フルアルバムのOrchestrated And Conducted By(コンピだとDisc2にあたります)しか聞いてなかったためDisc1と3に衝撃を受けました。最後にインスピレーションとなったいくつかの参考記事と、朱莉TeenageRiot内で今回の内容と連動したものをいくつか挙げて終わります。

 

 

関連記事

我らがハイパーイナフ大学のサンディエゴ講座。このブログに関しては無限にリスペクトの念が止まりません、本当にお世話になりました。朱莉TeenageRiotでやってきたルイヴィルに関するいくつかの記事(記録シリーズ:Slintから辿るルイビルのポストロック/記録シリーズ:Rodan / June of 44)はこちらを青写真としています。本記事で触れたバンドの多数もこの記事から知ったものがたくさんあります。

 

本記事でも何度も触れたPitchfork~Drive Like Jehu、そしてそれ以降も活動を続けたジョン・レイスとリック・フロバーグの出会いとそれ以降の足跡をまとめた、ドキュメンタリーとしても本当に素晴らしい記事。Codeineのときもお世話になりました。参照したであろう海外サイトのリンクまで記載しているのが本当にとてもありがたく、日本語で改めてまとめてくれていることに感謝の念が止まりません。

 

記事中に触れたHeroinのマット・アンダーソンのインタビュー。

 

もう一つ参考にしたインタビュー。ルバルカバがSlintについて言及しています。Birthday Partyが出てくるのも興味深いですね。

 

Gramble MonstersのイトウさんによるEarthless全アルバム感想。いつもお世話になっております。

 

また昔あったignitionというポストハードコア紹介サイトにHeroinの記事があり、Gravityや後に枝分かれしているたくさんのバンド達についてはそこで地盤を固めてもらいました。ハイパーイナフ大学と並んで入門としても最高の記事だったので今はもう見れないことが本当に悲しく、この記事が少しでも代わりになればいいなと思っています。