ボビー・ギレスピーの自伝を読んだのでその感想記事です。

Tenement Kidは2022年に翻訳版が発売されたPrimal Screamのフロントマンであるボビー・ギレスピーが幼少時代からScreamadelica(1991)までを回想する自伝。自分は今までミュージシャンの自伝を読んだことがなく、むしろインタビューやディスコグラフィをまとめたムック本的なものを買うことが多くて、外部の視点が入った広い視野を見れるものが好きだった。というわけであまり自伝に食指が動かなかったのもあり、少しずつゆっくり読み進めよう・・・と軽い気持ちで読み始めたのだが、パンク勃発以降のボビー・ギレスピーの衝撃が本を通してどんどん熱を持って伝わってきて、気づいたら空いた時間はほぼ本書を手に取っていた。マジで面白くてあっという間に読み終えてしまった。全ての自伝がこういうわけではないんだろうけど、かなり細かい情景描写から彼のバックグラウンドを辿るというよりは見守るって方がしっくりくる独特の没入感があり、ボビーに起きたこと一つ一つが自分のことのように嬉しくなってくる。今はもう完全にボビー・ギレスピーのことをずっと昔からの友達のように思えてしまうことに危機感すら覚えてしまう。あとやっぱCreation Recordsとの関係の深さから錚々たるレジェンドがかなり近い距離感でサラッと登場する。当然のことだがまだ有名になる前の、ただの友達という関係性から始まるのもすごく良い。
(サントラ的なもの。全てではないが、触れられている楽曲がたくさん入ってる。)
序盤は幼少期~15歳までを語る内容で、まだ後の音楽人生に直接繋がる交流はあまり描かれていないように思えるが、実際はパンクスへと繋がる彼のマインド面での重要な原石がたくさん散りばめられている。とくに父親の存在がかなり大きく、働きながら社会主義・共産主義の労働運動をしていた父をずっと見てたのは潜在意識に強く影響があっただろうし、そういう親なのもあって幼少期から毎週のように映画に連れて行ってくれてたり、とにかく本を読めと教えられていたり、労働階級で貧困だったにも関わらず音楽好きとしてはかなり恵まれた環境だと思う(ちょっと羨ましい)。両親は不仲だったらしいが、母はアーティスティックな人で本来は主婦ではなくクリエイティブな道に進みたかったのではないかとボビーは語っていて、社会運動に熱を入れる父と、対比のような母の境遇を思って子供時代からフェミニズムを意識していて、確実にここでボビーの土壌が作られていたと思う。意外と楽器を取って音楽に向かうのは遅い方で、音楽好きとしてひたすらレコード屋に通っていた頃の話はめちゃくちゃ共感できる。あとアラン・マッギーがマジで普通に学校の友達として出てくるのもびっくりした。勿論レーベルを始めるよりもずっと前だ。パンクと出会った頃の回想は本当に素晴らしく、今読み返してもじわじわと熱い気持ちになってしまう。自分は誰かが何かに巨大なショックを受けたみたいに人生を変えられる瞬間、それについて語っている熱のある文章がどうしても好きだ。みんなもそうだと思う。パンクと出会い、レコードが欲しくてレコ屋でどんな会話をしたとか、どんな場所だったとか、危険なものだと思っていたパンクのレコードが普通に買えてしまったこととか、弟と喧嘩した話とか、すごくイノセントで、そしてそれは確かに自分にだって同じような経験がある。ロンドンでのパンクムーヴメントって巨大だったイメージがあるんだけどグラスゴーの田舎はそうじゃなかったらしく、学校で趣味の合う友達も少なければなんならパンク好きってだけでリンチに遭ったらしい。だからこそ、パンクを共通点として特別な絆が育まれていったのはあるだろう。
ジョン・ライドンやマーク・E・スミスのインタビューではファッション化してしまったパンクを否定する発言がよく出てくるが、ボビーは当時の子供としてはパンクとは服装や音楽性を示すだけではなくマインドそのものに宿るっていうのをかなり早い段階で理解していたように思う。たぶん両親の影響もすごくある。Altered ImagesやThe Wakeで活動していたジザメリ以前の貴重なエピソードがたくさん出てきて、憧れであり頼れる先輩だったSiouxsie And The Bansheesの人の良さとか、New Orderと初めて会ったときの緊張と興奮が入り混じった高揚感とか、自伝を書いた現在からしたらもう40年近くも前のことだろうにこんなに覚えてるものなのかってくらいファッションや会話内容まで細かく描写されているが、でもやっぱそういう瞬間って忘れられないのかなと思うと熱い気持ちになってしまう。The Jesus and Mary Chainに加入してからPrimal Screamと掛け持ちで奔走する中盤はガチで最高。結構長尺にも関わらず一瞬で読み終えてしまった。リード兄弟のキャラクター性も良く、シンプルにジザメリ初期のドキュメンタリーとしてめちゃくちゃ面白い。Psychocandyレコーディング時にイアン・マッケイが同席していた話もかなりびっくりした。こういう意外と知られてないぶっちゃけ話、知られてない繋がりも語られないだけでいくらでもあるんだろうなぁ。本書では詳しく言及されないのだが、Psychocandyをプロデュースしたジョン・ローダーはSouthern Recordsのオーナーで、Dischordのイギリスにおいての配給を担当したりシカゴに支店を構えTouch and Goと連携したり、自分が普段好んで聞くポストハードコア~ポストロックシーンとの重要なハブだったりする。ジザメリの1stだってシューゲイザーの源流となるUKオルタナの爆心地と言っても過言ではないし、パンク以降のシーンにおいてまさに核となる人物だったんだなぁと実感してしまう。
アシッドハウス以降はLoadedのヒットを機にどう人脈が広がりScreamadelicaに辿り着いたか、ボビーがプレイヤーではなく、音楽オタクしての視野の広さも相まって完全にプロデュース目線で覚醒していて、Primal Screamがバンドではなく音楽制作集団として進化していく描写がすごく熱い。シングルを出す度に取り巻く状況が変わっていくし、全ての曲に濃密なドラマがあるためアルバムの完成が近づくにつれじわじわとボルテージが上がっていく。出てくる人物一人一人が魅力的で時代が大きく動き出すわくわく感がある。ノエル・ギャラガーもちょくちょく出てくる。友人達へ送られる言葉の数々がとても純粋で、ボビーの真っすぐさは本当に眩しい。登場人物が増える際に〇〇はすごく魅力的な奴だった、女の子はみんなあいつが好きだった、勿論俺もあいつが好きだった、みたいな流れがめっちゃある(本当によく出てくる)んだけど、気の合う友達みんなが大好きだったんだろう。そしてきっとボビー自身もそういう人間で、みんなに愛されていたんだろうなと思ってしまう。
アシッドハウス勃発後にようやく出てくるアンドリュー・ウェザオールとのエピソードは全てがグッとくる。2nd出したはいいけど不評で誰も見向きもしなかったPrimal Screamを唯一ZINEで褒めてくれてたDJで、「俺はどうしてもウェザオールに会わなきゃいけない気がした」とScreamadelica編に移るシーンは今作のハイライト。作曲経験もなくキャリアもなかったウェザオールをLoadedやHigher Than The SunといったScreamadelicaにおける最重要ポジションに置いたのは、普通にめちゃくちゃ音楽趣味が合う友達だったという動機が一番大きかったんじゃないかなぁという気がしてしまう。その決断が時代のゲームチェンジャーになった事実に胸が震える。ジザメリ時代もライブをする場所がない駆け出しのジザメリをロンドンでレーベルを始めたばかりの無名のアラン・マッギーに無理矢理繋げて企画を組んだのはボビーだし、このままジザメリがヒットするため、Creation Recordsが大きく名を上げたのもこの件が無ければ成し得なかったんじゃないだろうか。ボビー・ギレスピーの純粋で真っすぐな行動力がシーンを大きくしていったことがすごくよくわかるエピソードで、彼がいなければCreation Recordsもシューゲイザーもブリットポップも無かったかもしれない。実際はわからないがアラン・マッギーから見てもボビーの存在はすごく大きくて、彼の音楽人生には欠かせない親友だったんじゃないか。だからこそ、多くの人に影響を与えながら自身のバンドはずっと低空飛行だったボビー・ギレスピーが、同期と比べるとかなり遅いタイミングでスターダムに駆け上がる終盤は涙が出てしまう。今まで「91年の名盤」として語られ、幾度となく名前を見てきたし、なんとなくTSUTAYAの名盤コーナーで借りて聞いたScreamadelicaにも凄まじい道筋があったということを、今更実感してしまう。そしてそれはきっとPrimal Screamだけではないのだろう。全ての名盤の裏に名盤たるエピソードが隠れていて、奇跡のようなドラマの上に成り立っているのだという事実を決して忘れてはいけないなと思う。
以上でした。本当に本当に名著でした。読んでいた期間全てがキラキラと輝いて思い出せるくらい、楽しかった。アイカツ!のアニメを見ていたときや、the pillowsのアルバムを順に追っていたときと並ぶ経験でした。人生で本当に素晴らしい作品に出合うと、それを辿っている長い期間全てが輝いて思い出せてしまいます。パンク~ニューウェーブからアシッドハウスが爆発していく流れについて、個人目線の自伝なのであまり詳しくは解説はされてないのですが、ここに関していくつか触れたい関連書籍があるのと、本書で触れられたPrimal Screamが発表したいくつかのアルバム、そして周辺のUKロックシーンについてまた軽く自分の言葉でまとめたテキストを公開しようと思います。Primal Screamの大ファンではないという方でもパンクやダンスミュージック、また文中に少しでも気になるアーティストが出てくるなら絶対楽しめるでしょうし、音楽関係の書籍としては全方面におすすめしたい作品です。
こちらニイマリコ氏による同書に関する最高のレヴュー