朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

記録シリーズ:littlegirlhiace

littlegirlhiaceの全アルバム感想です。


 

リトルガールハイエース(2017)

東京で活動するふにゃっち氏のソロプロジェクト、littlegirlhiaceの1stEP。Free Throw期のSyrup16gや初期ART-SCHOOLを想起するメロディーを大切にしたローファイな00年台ギターロックの香りを芳醇に纏った作品で、iPhoneで録音されたという破壊的なドラムの音色にどことなくSAPPUKEI期のNUMBER GIRLも思い出します。このゴスゴスとした、曲に重い印象を植え付けながら空間の隙間を意識させるドラムの音色は今後のリリースにおいてもずっと一貫した要素で、録音方法や音色に変化はあれど元々ドラマーとして活動していたふにゃっち氏のプレイも相まって毎回非常にかっこよく、録音作品として聞くリトルガールハイエースを印象付ける一要素だと思います。M1のリトルガールハイエースはバンドのテーマを象徴する珠玉の名曲で、そもそもバンド名というかこの曲タイトル自体がクジラックスの成人向け同人誌に端を発するネットミームからとられているのですが、タイトル通り歌い出しの歌詞から同人誌の内容をなぞったものになっていると思いきや最初のサビを終えてから2番の歌い出し以降歌詞の意味がガラリと変わってしまう。元々テーマとなった作品の二次創作的な曲かと思いきや、実は自分自身、もしくはとある個を歌っているのではと、同じフレーズでもいつの間にか対象がすり替わってしまうような魔法がかけられていて、このフィクションと現実が溶け合っていくカタルシスは今後一貫した要素ですがそれを最もわかりやすい形で、最もキャッチーなメロディーで歌われるバンドの代名詞として申し分ないアンセムART-SCHOOLのニーナの為にやNirvanaのIn Bloomのような、強烈に開放的なインパクトを与えるイントロのドラムは開幕としてすごくハマってると思います。どの曲もメロディーをすごく大切にしていて、その上で録音の関係もあるかもですがふにゃっち氏のボーカルがどことなく疲れていて影を落としたような仄暗さがあります。

 

 

エリカ(2017)

1stEPの数か月後にリリースされた2ndEPで、今作はアルバムタイトルでもあり1曲目になったエリカからして前作のリトルガールハイエースと同じ路線、エリカという一人の女性のことを歌っていると思ったらいつの間にかそれはふにゃっち氏自身の言葉ではないかと思わされてしまう名曲。今作はゲストを呼んでブルージーで土臭いギターソロのパートがあり、オルタナ以降のギターロックとはまた違ったアプローチを感じますが、元々ふにゃっち氏はすべての始まりがミスチルとの出会いだったとインタビューで語っていて、ミスチル自体が初期作品では非常に土臭いブルージーなアルバムをリリースしているのでルーツの一つとして根幹にあるバンドだと思います。M6の前川は同名キャラクターに歪んだ性愛をぶつけるこの時期のlittlegirlhiaceを象徴するナンバーで、サビのメロディーにミスチルを引用していたりします。エリカや前川のように歌詞のモチーフとしてアニメや漫画が出てくるのはもちろん、音楽性の面でもアニソンやエロゲの主題歌をリファレンスとしてあげることが多く、今作もオルガンのイントロが印象的なM2のギブでそれを強く感じることができ、ミスチルやアニソンといったダウナーなギターロックとして聞くと際立ちすぎてしまうこのバンドのポップネスが垣間見えるEPかと。ギブ、deserted songは深くは踏み込めないすごくパーソナルなことが歌われてるように感じるし、癒しきれない痛みをはっきり正面から歌ってくれることに優しさを感じて涙が出そうになる。個人的にはM3のmaiという曲が1stEPにもあったくたびれたダウナーな雰囲気を感じてベスト級に好きです。bandcamp版だとエリカの元ネタとなったアニメのOPのカバーが入っていて"ロキノン風"とのことですが、アニソンのカバー音源をSoundcloud上げるという行為の延長線上としてこういった作風が形成されていったのではないかと思ってしまうほどハマっています。

 

 

アンファッカブルEP(2018)/リベンジポルノEP(2018)

 

2018年にbandcampにて同日リリースされた2枚のEP。サブスクリプションサービスではblind faithというアルバムとしてまとめられていますがそれぞれ明確な流れのある別作品で、2枚ともすごくパーソナルなことが歌われているんじゃないかと思ってしまうほど重いです。アンファッカブルEPの方に収録されたぬけがらはSyrup16gを想起する、これまで発表してきた曲の中でもとくにダウナーでアコースティックな曲ですが、隙間が見えるからこそ、ゴスゴスと屋台骨となるドラムの音が一際力強く響いてきてNUMBER GIRLの「Sentimental Girl's Violent Joke」のような薄暗い迫力があります。アンファッカブルは失恋ソングっぽい様相を見せながら実際は攻略対象外のヒロインをテーマにした曲で、至極個人的な理由から共感できる部分しかなくて苦しさと同時にこれを歌ってくれてありがとうという気持ちが同時に湧いてくる思い入れの強い曲。連載少女はpillows風、nameless witchesは風通しの良い爽やかなART-SCHOOLっぽい曲で、タイトルからモチーフになったアニメがわかりやすいですね。リベンジポルノEPは再生するやいなやアルバムタイトルを冠するM1から、今までの楽曲内でもとびきりポップなかわいらしいシンセのフレーズが印象的なイントロ、シンガロングしたくなるくらいキャッチーなフレーズなのに歌われてる内容は曲調と真逆の破滅願望にまみれた歌詞で、このバンドを象徴するような唯一無二の名曲。本当に衝撃でした。天使のいない12月は同名のゲームからインスピレーションを受けていて歌詞もリンクする部分があったりしますが、曲の方はかなり高速でART-SCHOOLがアニソンをやったらこんな感じかもっていう想像をさせてくれる1曲。速い曲ってこのバンドだと力強いドラムがより強調されてやっぱりすごくかっこいいんですよ。どことなくテュペロ・ハニーを思い出す瞬間も。

 

 

GIRL MEETS BLUE(2019)

19年にリリースされた1stフルアルバム。本当に素晴らしいメロディーを書き続けていることに驚きしかないバンドですが、それを象徴するM1のmeaninglessでは「いつまでもいくらでも/メロディが浮かんで消えるんだ/拭っても拭っても/血が滲む傷口みたいだ」と歌われていて、アンファッカブル/リベンジポルの2作ってそういう作品だったんじゃないかと思ってしまいます。これとは対照的に最初のmeaningless以降はなんらかの二次創作的な曲が多く、M2のアカネは今後ライブの定番となった曲ですが、maiのようなダウナーなアコースティック路線から重厚なギターサウンドへと流れるように展開していくART-SCHOOL路線としては最も好きな特大アンセム。FADE TO BLACKも思い出してしまいます。1つのフィクションの物語としても非常に魅力的な歌詞で自分はこの曲をきっかけにグリッドマンを視聴しました。いきなりサビから始まる疾走感のあるM3のガールミーツブルーや、同じくイントロにおける歌い出しのインパクトが絶大なソラヨリアオイといった、ふにゃっち氏作曲のタイアップ曲のコンピレーションかと思ってしまうくらい初期EPらと比べても外に開けたアルバムに聞こえます。個人的にとあるVtuberを歌ったNISHIOGI ABDUCTIONが好きで、派手なギターリフ一本を軸にリズム隊が並走してリフを魅せていくスタイルで、目まぐるしく展開する疾走感のあるボーカルも爽快感があって驚きでした。セルフライナーノーツの方ではスピッツWeezerの名前がちらほら出てくるあたりから、今作の開放的な雰囲気はそういうパワーポップからのフィードバックもあるのかもしれません。

 

 

TELEWORK(2020)

アルバムタイトルが示す通りコロナ禍で発表された未発表曲を集めたコンピレーション。2015年頃の曲が多いらしいので1stEPと同時期かそれ以前の楽曲がメインとなってます。M1のgirl sweet girlからナンバーガールIggy Pop Funclubを思い出す軽快なロックソングですが、今作どことなく土臭い雰囲気がまた強くて、M4のラッカはGRAPEVINE風。M6のSCHOOL DAYSは初めてART-SCHOOL路線として作った曲らしく、For Tracy HydeやTenkiameで知られる夏bot氏主宰のART-SCHOOL風コンピレーションに提供した曲とのことです。このTenkiameでベースを弾いていたmint氏がlittlegirlhiaceのライブにおけるサポートメンバーとして参加しています。ロストハミングはベントラーカオル氏が参加していて、クウチュウ戦あらかじめ決められた恋人たちへでも有名ですが、彼もライブイベントで度々ゲストとしてサポートで参加しています。個人的にリトルガールハイエースはルーツとしてミスチルを上げることから、そのミスチルの背景にあるエルヴィス・コステロや、キンクスロックオペラをやめてアメリカに傾倒する80年台のような、UKロックがブルースに憧れてルーツ色の強いロックンロールをやっているときと近いフィーリングを感じてしまいます。むしろ根本の部分は実はそっちで、よく引き合いに出されるART-SCHOOLSyrup16gといったオルタナ路線は飛び道具として後から添加された要素なのではないかと、もちろん土壌としてあることは間違いないと思いますが、ART-SCHOOLNUMBER GIRLに影響を受けたであろう日本のギターロック的なバンドとは違ったラインのポップネスがあると思っています。

 

 

hellsee girl​(2020)

2020年リリースされた2枚目のフルアルバム。とにかくカラフルなアルバムで、オルタナとかルーツロックとかそういうの全部抜きにして一番聞きやすいのではないかと思うし、まるで全曲初出の架空のバンドのベストアルバムを聞いてる気持ちになってしまう。アルバムタイトルにもなったM2のhellsee girlは前作のgirl sweet girlと同様NUMBER GIRLを思い出すゴスゴスとしたパワフルで軽快なドラムのイントロが特徴的ですが、NUMBER GIRLをハードコアやポストパンクの流れで捉えるのではなく、littlegirlhiace風のロックンロールとして咀嚼されたようなイメージもある名曲(単純に音楽性云々というよりふにゃっち氏がドラマーとしてアヒトイナザワの影響を受けたというのもあるかもしれません)。南行き、星を落とすの2曲はもう新しい一つの創作物として感情移入してしまうし、これらの世界観で自分がこの曲の世界の二次創作をしたくなるほど完成されていて、今まであった特定のアニメや創作物の世界に自分が存在していたら・・・という目線や独白的なものとは少し違った、曲ごとに違う世界観を持った短編小説集を読んでるような色鮮やかな作品です。とくに星を落とすはFor Tracy Hydeに影響されたと語る浮遊感のあるドリームポップ風味な曲ですが、空間や音色で聞かせるわけではなく、あくまで歌を大切にしたバランス、前アルバムにあったcloudy horoscopeもシューゲイザーをやろうとしてならなかった曲とのことですが、リトルガールハイエースのあくまでポップソングとして作りこんでいく地に足の着いた質感に安心感すら覚えます。incest flowersはアニソンっぽいART-SCHOOL路線。M8のロックンロールや、M11の僕が先に好きだったなど、今までにあった元ネタとなった物語やエピソードの空白となる部分に想像を膨らませ、そこに欲望をぶつけていくというものより、純粋に等身大の部分を描いてくれているように感じてつい感情移入してしまう曲が多いです。実際にM1のバイクはゆるキャン△意識の曲ですが、今までこのバンドの常套句だった「作品の世界に自分が介入していく」スタイルをバッサリと切った、作品のその後を想像したすごく前向きな曲になってます。本当にどの曲も違う良さがあるので、例えばPixiesのDoolittleやBeatlesWhite Albumみたいな、アルバム聞いた人とどの曲が一番好き?という話をしてみたくなる作品ですね。僕は「星を落とす」「ロックンロール」が好きです。

 

 

Farewell Nursecall(2021)

1年ぶり3枚目となるフルアルバム。開幕死神のバラッドこそ生っぽいサウンドスケープのピアノやアコースティックギターの響きが印象的な穏やかな1曲ですが、M2のshine以降今までのアルバムで最も尖った荒々しい曲が並びます。Killing Joke風のジャケットとも合致していて、これは前作hellsee girlでのカラフルな作風とは対照的で、とにかくもう割れていようが関係なしとばかりにガシャガシャと突き進むドラムやギターの音が自傷的な歌詞ともマッチし今作のカラーを象徴してますね。ただでさえ荒々しい音なのにアップテンポな曲が多いのも今作の破壊的なイメージを加速させていて、M3のチルハナは本当に「うるさくて速い」を地で行くエッジの効いた1曲。M5のlilyは先行公開された曲ですがイントロから割れまくったヘヴィなサウンドがギターをコーティングしていてとにかく衝撃でした。M9のギターヒーローはこちらも荒々しい録音ですが、サウンドとは真逆にART-SCHOOLのLove Letter Box風の静と動の対比が強烈なナンバー。音は重いですが風通しがよくメロディーも今作随一にキャッチーで、歌詞は当時まだアニメ化もしてなかったぼっちざろっくがモチーフになっています。個人的なベストはM10のdemon girl next doorで、アニメモチーフではあるけどちょっと一歩引いた視点からモチーフ元を原作ネタを織り込みつつ普遍的な片想いソングとして歌い、サビ前の「まちかどで危機管理」で元ネタ開示という流れが綺麗すぎて二次創作の一つの形として感動しました。相変わらずメロディーはキャッチーなのに今までで最も聞きづらい録音という、相反した要素でしか形作れないものが詰まっていて、バンド内でとくに実験的な作品かもしれません。

 

 

Canaria(2022)

前作のジャケットがKilling Jokeなら今作はSiouxsie And The Bansheesがモチーフとなった22年作のEP。歌詞にVtuber関連ものが多く統一感がありますが音楽性はバラバラで曲ごとに違うカラーを持ったシングル集のような感じです。M3の香水はちょっと前に流行った同名のJ-POPをガッツリ引用しながら、それをART-SCHOOL路線で歌うというのにクスッときてしまいます。前作Farewell Nursecallで異彩を放っていたLAUGH SKETCHという曲があって、珍しく打ち込み要素を全面に押し出していたのですが、M5のengage ringはその要素を継承した打ち込みのドラムが印象的な新機軸。シューゲイズやドリームポップまでは行きすぎない、ニューウェーブ風の浮遊感のあるウワものが全編に渡って流れていて、ここと並走するように淡々と繰り返されるギターの質感がすごく空虚な初期New Orderも想起してしまう大名曲。潤羽るしあが2月に突然活動を終了した件について歌っていて、ネタにされがちですが彼女の配信を日々の楽しみにしていた純粋なファン達は突然その場所を失ってしまった悲しみは想像に難くないし、ふにゃっち氏はずっとそういう喪失感や悲しみについて歌ってきたと思います。この切実さを出せるのは彼の今までの経験とか色々重ねて出力されてるんじゃないかと思ってしまうし、それをリトルガールハイエースとして歌うことにとてもグッときてしまいます。ライブだとgirl ghostでも活動しているサポートメンバーのシベリア氏のアレンジでかなりタイトなドラムとなり、音の硬さも相まってカッチリとしたグルーヴを保ちながらスイッチを切り替えていくように大きく展開する新しいアンセムへと変貌しています。ぺこーらに、告白しようと思ってる。はSyrup16gの落堕風で歌詞は完全にネットミームの引用ですが、これもライブでイントロが長尺になり大化けすることに。

 

 

yakinch fear satan(2022)

年内2枚目のEPでタイトルはMogwaiオマージュ。yakinchというのはhellsee girlの最終曲live foreverで歌われた凍結されてしまったツイッターアカウントのIDだったりします。前作Canariaとは対照的にアルバム通して統一感のある作品で、EPですがフルアルバム聞き終えたくらいの重厚で濃密な一枚になっていて、あまり最高傑作って言葉を使いたくない自分でも初めて聞いたときはそう叫んでしまいたくなるほど興奮しました。hellsee girlやFerewell Nursecallを経過した上で広がったアレンジの土壌から、ギターポップグランジを通過した雑に"オルタナ"と括りたくなるジャンルをもう一度見つめ直したような、ちょっとした原点回帰的なイメージもあります。M1のyakinch fear satanでは打ち込みのドラムと、グリッチで歪められた蛇口垂れ流しのような流動的なギターノイズが曲に透明感のある彩を与えていて、ジャケットの雰囲気も相まってどこか寒々しい。ここまでエレクトロニクスを感じる曲をリトルガールハイエースで、しかもそれでもちゃんとバンド演奏してる姿が浮かぶような形で聞けるとは思ってもみずかなり衝撃でした。続くLorimaid Androidはイントロのクリック音やタイトルからオマージュ元が露骨ですが、この入りのおかげで前曲の冷たい印象を引き継ぎながら一回リセットしつつM3の電波塔へと繋ぎます。電波塔はART-SCHOOL風のストレートな名曲で、リコリスリコイルを引用してますがアニメ世界の空白を描いたり性愛をぶちまけた今までの作風とはちょっと違い、作品の世界観の中で自分を客観視したような目線がすごく鮮やかで、今作を聞いてると元ネタはあれどそれをどう引用するか、どうやって自分の形で出力するか、その際に出てくる個性や美学について考えてしまいます。個人的にベストに上げたくなるのがM6のsweetest bitで、スピッツミスチルを想起するアコギ主体のバラードから一度静寂を挟みNUMBER GIRL~ART-SHOOLといったラウドなオルタナティヴ・ロック路線へど真ん中から飲み込んでいく。アカネもそうですが、溢れ出たものをそのまま纏って走り出していくようなドライブ感が本当にぐってきてしまう。アマガミ聖地巡礼旅行にインスピレーションを受けた曲で、その影響もあってかとても風通しが良い。アニメ版OPのちょっとしたフレーズが引用されてるのもにくいです。理解のある彼くんソングは「ハートに巻いた包帯は/別にそのままでも素敵だから」と言ってしまうのが、同名のネットミームを揶揄してるようで素直に優しくて素直に良い曲だなと思います。言うまでもなく初期BUMP風ですね。

 

 

INTO KIVOTOS(2023)

4枚目のフルアルバムとなるINTO KIVOTOS。目下最新作で丸一年空いたのもありかなり濃密。正直yakinch fear satanを超える興奮があったまさに最高傑作と呼びたくなる作品で、アルバム単位では2023年最も聞いた作品になります。こちらに関しては単発記事を書いているので是非。これからこのバンドを聞くという方にも最初におすすめしたいアルバムです。

 

 


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各種インタビュー。これとは別にbandcampの方でふにゃっち氏本人による曲解説+ギターのタブ譜が付属した有料版が置いてありこの記事でもいくつか引用させていただいてます。