朱莉TeenageRiot

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littlegirlhiace - INTO KIVOTOS(2023)

INTO KIVOTOS(2023)

東京で活動するふにゃっち氏によるソロプロジェクト、littlegirlhiaceが2023年にリリースした4枚目のフルアルバム。タイトルに入ってるKIVOTOSという単語はブルーアーカイブ(以下ブルアカ)というゲームの舞台ですが、今作はそのブルアカをイメージして作られています。もっとゲームの二次創作的な作品になるかと思いきや、あくまでアウトプットされてくるいつもの楽曲達のすぐ近くにゲームがあって引力が効いてる感じというか、発端ではあれどそこから生じた普遍的な気持ちやエピソードが歌われてるような気がして、タイトル以外では固有名詞も出てこないので、ゲームをやったことがない方や初めてバンドを聞くという方にも是非聞いてほしい作品です。リリース前に先行公開されたcetaceanという曲からとにかく歌詞、ソングライティング全てが素晴らしすぎて戦慄しました。

 

 

今作、2ndフルのhellsee girlのようなそれぞれが違うカラーを持ちながら、ちゃんと一貫した曲順や流れも練られたコンセプトアルバムとしての良さも両立していて、前年がEPを連続でリリースしていたり、その前に出した直近のフルアルバムが一方向に尖った実験性の強い作品だったのもあり、INTO KIVOTOSは今までの集大成のようなアルバムに聞こえます。前半は疾走感のある曲達が印象的で、M4のLONG RIDEはまるでART-SCHOOLまんがタイムきららのアニメOPを担当したらみたいな、ギターポップっぽいサウンドでファンクテイストな曲を演奏している彼らを更に口溶けよくしたような1曲。特定の曲っぽいとかではなく、リトルガールハイエースに染み込んだ彼らの遺伝子が血肉と化し表層化してきたみたいな洗練のされ方を感じます。あとは今作ギターの音が死ぬほどかっこいい。M2の(don't stand so)close to meは個人的に今作のベストで、くたびれたアコースティック路線から轟音を炸裂させていく、荒々しさと暖かさが同居した仄暗い雰囲気がたまりません。今作このジャリっとした金属的なギターにジャンクな質感とスッキリした生音っぽさが同居していて、このギターの和音と、ゴスゴスとしたドラムの音は耳に着地する際に一回潰れて破裂してくような気持ちよさがあります。それこそ先ほど触れたアップテンポなcetaceanとかでも非常に映える要素かと。(don't stand so)close to meというタイトルはThe Policeの曲から来てますが、これをSyrup16g風につけるという小ネタも凝っていて、Syrup16gの音楽性自体がThe Polliceと関係性が深い上「高校教師」という邦題がブルアカともリンクしてくる。過去作に収録されたmaiやぬけがらといった初期の名曲たちとも被るところがあり、やっぱり僕はこのドラムがゴスゴスしたSyrup16g路線、というタイプの曲がふにゃっち氏の書く曲の中で一番好きなんだと、圧倒的に思い知らされました。

アルバムの流れで最も象徴的なのがM9の緩衝地帯で、今までのリトルガールハイエースからは想像できなかったMogwaiのCODYを想起するスロウコアライクなインストナンバー。荒廃とした雰囲気からNirvanaやAlice In Chainesのようなグランジバンドがもし00年台前後のポストロック黎明期に触発され合流していたら、というイフを想像してしまう曲で、前半と後半の流れをこの曲を挟むことで一気に整頓されていく感覚があります。続くINTO THE VOIDも(don't stand so)close to meと近い金属的なギター音がフィーチャーされた淡々としたバッキングを曲の核としていて、タイトルはBlack SabatthもしくはART-SCHOOL、しかしブルーアーカイブ的には銃痕も連想してしまいます。ゆったりとしたペースで隙間を見せることでフレーズの良さ、音色のかっこよさが際立ちますね。後半QOTSAのようにメタリックにヘヴィなリフが展開していく長いアウトロも新機軸。緩衝地帯から続く曲なので、リトルガールハイエースというバンドでこんなに重苦しい曲達を一気に浴びることになるとは思ってもなかったです。最後のWhere All Miracles Beginは全てを破壊する轟音がアクセルなんてとっくにぶっ壊れた状態でそれでもなお踏み続けているようで、Ferewell Nursecallにおけるギターノイズとは全く別ラインの録音における音割れの"歪み"をシューゲイズにも通じる音の塊として再出力させた、FADE TO BLACK路線の全く新しいアンセム。行くとこまで行っちゃったような破滅的なサウンドがこんなにも気持ちよく鳴らされているのはもう完璧な最終曲ですね。ゲームを知らなくても素晴らしいアルバムであることは間違いないのですが、もちろん知ってるとただエピソードをなぞっただけでなく、元々フィクションと実体験の境界が溶け合っていたふにゃっち氏の歌詞がこの世界をどう描いていくかという楽しみ方もできるかと。ブルーアーカイブという一つの意匠を纏いながら、しっかりlittlegirlhiaceが今までやってきたことの延長線にあることをはっきり感じとれる作品だと思います。

 

 


2022年のyakinch fear satanのレコ発ライブのMCにてふにゃっち氏は「ブルーアーカイブを始めるので音楽を引退する」と発言していて、実際ここ数年ライブしながら年1~2枚のペースでアルバムをリリースする勢いから正直いつ止まってもおかしくないというか、本当にこれをきっかけに一度休止してしまうのではないかと覚悟していました。そうしたら全くの杞憂でむしろその逆、ブルーアーカイブ起爆剤としてこんなに素晴らしいアルバムが聞けたというのは本当に驚きです。しかも引退宣言(?)をしたライブから丁度一年後、同会場である神楽音にて今作のレコ発が行われたのですが、対バンだったFUZZKLAXON、Pot-pourri、Lily Furyのいずれも違う音楽性ながらシンパシーのあるバンドで非常に刺激的なイベントでした。FUZZLKAXONのフロントマンであるnota氏はlittlegirlhiaceの各種ジャケットのイラストを担当、Pot-pourriはそれこそyakinch fear satanリリース時に対バンしていて、フロントマンのsawawo氏はlittlegirlhiaceのサポートメンバーであるmint氏がベースを担当しているTenkiame(TELEWORKの項で触れた夏bot氏のバンドでもあります)でギターで参加、Lily FuryはINTO KIVOTOSのbandcamp特典で付属するWhere All Miracles Beginのリミックスを担当しています。またINTO KIVOTOSをリリースするにあたって、Lily FuryのAnthorogyというアルバムがインスピレーションとなったとふにゃっち氏のインタビューでも語られています。どのバンドも本ブログの年間ベストやまとめ記事で触れてきたものですが、素晴らしい内容なので是非とも。

 


 

最後に、INTO KIVOTOSはbandcampの有料版を購入するとブルーアーカイブ×名盤コラージュの特典イラスト集がついてきますが、実はその内の1枚に自分もイラストとして参加させていただいています。元々バンドのファンでしかなかった自分がこういった形で素晴らしい作品に関わることができて光栄です。ふにゃっち氏のセルフライナーノーツやギターのタブ譜も収録されていて、先ほど触れたLily Furyのリミックスもこちらの特典となっています。

 


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元々全アルバム感想記事の一環として書いていたんですが、ボリュームが増えすぎたため単発記事として分離したものがこの記事になります。なのでちょくちょく前アルバムやEP、ふにゃっち氏の音楽性や作詞についてとくに説明なく登場する部分はこの記事と地続きなものになっています。

 

ヨシオテクニカ氏による濃厚なインタビュー記事。ブルアカファンの方にこそ読んでほしい記事です。