朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

butohes - to breathe(2023)

butohes - to breathe(2023)

先月リリースされたbutohesの2ndEP。一昨年の1st発売時は熱狂してリリースパーティーにも行きましたが昨年の活動は追えてなくて、まとまった音源も出てなかったのですが昨年12月にPlutoというシングルがリリース。完全に新境地を感じてこれに影響されそのまま流れるようにライブへ。そしたらセトリが半分以上新曲で構成されていて、尚且つPlutoの系譜を存分に感じるとんでもないアンセム続きだったのでちゃんと衝撃を受けました。

まず1stと2dnの繋ぐ架け橋にして新機軸のPluto、再生してイントロからとても控えめな音が1stEPで聞けた音に飲み込まれるような、すごく向こうから押し寄せてくるあの激流のような印象とはもう完全に真逆な、少し離れた位置で、淡々と新しい風景が出来上がっていくのを眺めていくような音楽。骨組みだけのような、全パート完璧に整頓されてるようでしっかりそれぞれの音の揺らぎも残してあって、あちらから向かってくるのではなく、こっちから近づかないとわからなくて自然と引き寄せられていくような引力がある。

で2ndEP、Plutoからの流れを汲んだ6曲で一つの世界を構築していく名盤。個人的にライブでも聞いた「Alba」がすごく好きで(先行シングルにもなってました)、まさにPlutoの系譜を突き詰めたような7分に渡る長尺ナンバー、よりストイックにひたすら二つのギターリフをミニマルに繰り返す。リフの形自体はEnemiesやThe Mercury Programを思い出すような、前作収録の代表曲Hyperblueも少し想起させますが、複雑なようで構成している音自体はそこまで多くないので所謂マスロック的な脂っこさはまるで無く、本当にミニマルに音を刻み続ける。最早フレーズが重なりすぎてビートを追っていると自分がどこに立っているのかわからなくなるような感覚に陥りますが、この淡々とした繰り返しをリズム隊が局所的に連結しベースとドラムで色を付けながら轟音へと向かう。この構成が、リフのミニマルさも相まって淡泊なのに機械的な印象にはならずとてもドラマティックなんですよ。このバランスがとても好きな曲です。

もう一つ先行シングルでありアルバムの1曲目を飾る「Height」では個人的にはReal Estateも思い出すどこか望郷的なギターリフがすごく心地よくて、1分10秒頃の間奏で聞くことができる遠くから鳴っているような、多層的なアンサンブルの一番奥のレイヤーから浸透してきたようなギターの音にも郷愁を感じて泣いてしまうし、ボーカルも最小限歌ものとしての側面も残していてすごく映像的な音楽だと思います。ラストの轟音もただ全部を飲み込むようなノイズとは違って、どの音が、どう折り重なって轟音を形成しているのか内訳がわかるようなクリーンな録音でカタルシスに持っていくのも本当に感動する。Albaを挟んで続く「Walkalone」は今までに無かったアコースティックな雰囲気も取り入れながら、Height以上にメロディアスでフォーキーな質感と、相変わらずどこか淡泊で訴求しすぎない音の配置にこの情感を両立させることができるのかととても驚いた。

そして間違えてRei Harakamiを再生したかと勘違いするくらい、おそらくメンバーのMichiro氏の電子音楽趣味が前面に出たであろう「breathes」は[last]とかわすれものを思い出すようなポストプロダクションな音響とエレクトロニクスが全開(セルフライナーを読み込んだところこの音は全部ギターでやってるらしく驚き、録音物のみで構成するという拘りがあったようです)。B面からの印象をガラリと変えてしまう核となる曲で、例えば続く「Ss」はラウドな疾走ナンバーに見せてドラムは完全に人力ドラムンベースをやっているし、最終曲のeephusに関してはイントロからわかるハイハットの刻み方や配置が完全にエレクトロニカやフォークトロニカを想起させるそれになっている。とくにSsはかなりローの効いたゴリゴリにフレーズを押し付けるベースとこのドラムが絡み合うのは本当に最高です。あまりbutohesで感じたことのない感覚かも。たぶんbreathesが無かったら、SsもeephusもA面で魅せたフォーキーなポストロックの流れで受け取って違う感想になってたと思うし、このアルバム構成で真ん中にbreathesを置くことで、二週目のA面の曲にすら電子音楽の要素を重ね合わせることも可能になる鍵のような曲。アルバムタイトルを冠してるのも良い。例えばもう一度聞くAlbaはこのミニマルなループ感は電子音楽由来なのかもと新しい視点で聞くことができるし、おそらくシーケンスにあたる部分がドラムやベースではなく「流麗なギターリフ」だったためビートに寄りすぎず、むしろリズム隊が色をつけてくという構成にあまりダンスミュージック的な印象を持たなかったのかもしれません。この絶妙なバランスに感服する。やはり自分は電子音楽での同期的なループを、バンドによる生演奏で揺れを残したまま陶酔感を目指していく音楽がとても好きだと実感する。

Heightでの遠くから鳴ってるようなギターソロやbreathesでの左右を行き来するエレクトロニクス、それをスッと引いて囁くようなボーカルが入ってくる瞬間やeephusでのアンビエンス漂う轟音とドラムの配置が所々入れ替わるような関係性など、今作を聞いていると鳴ってる音の配置全部が繊細で心地よくて、本当に吸い込まれると言うか、濃密な空間が目の前で構築されていてそこに飛び込むのをやめられない。どのフレーズもとても魅力的なのに、それが全然こっちに寄ってこない音作りは録音物として音楽を聴くことの楽しさをもう一度思い知ってしまう。今思えば1stEPでも中盤以降リフやアンサンブルというよりは音響面にフォーカスして世界を広げてくコンセプチュアルな作品で、ライブに通う中でbutohesのこういった録音の妙で魅せるアルバムの聞かせ方を忘れていたのかもしれません。おかげですごく新鮮で楽しく聞くことができました。

 

文中でも「映像的な作品」という表現を使いましたがそのイメージを完璧に投影したような夢の中のようなeephusのMVが先日公開されこちらも是非。良すぎます。

 


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