朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

20210326 ギタマガ/オルタナグランジ特集

ギタマガ買いました(前にも書いたな・・・)

今回はこちらなんですが、相変わらず全くギター弾かないので機材の話とかほぼわからないんですが、このパッケージカッコ良すぎでしょう。

ギター・マガジン2021年4月号 (特集:90年代オルタナ革命)

ギター・マガジン2021年4月号 (特集:90年代オルタナ革命) | ギター・マガジン編集部 |本 | 通販 | Amazon

で内容もオルタナグランジ特集とか、もう一番好きなとこというか僕のルーツですね。いきなりページめくって1991年特集!とかでニルヴァーナパールジャムサウンドガーデンスマパンダイナソーと並んでいたり、というか表紙に並ぶこのメンツ・・・

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載ってる文字がどれもこれも好きなとこで、これがカタログ化されてるだけでも嬉しい・・・。

 

でミュージシャンがそれぞれの「私的オルタナグランジ名盤三選とイチオシ曲」「好きなオルタナグランジギタリスト」というコーナーがあり、dipのヤマジさんやノベンバ小林裕介、ホムカミの福富さん、オウガの出戸さんまで・・・ととにかく楽しいです。でこういうの見ると必ず「俺だったらこの3枚だな」とかをまぁ考えてしまうわけですが、考えてしまったのですがこちらです。

 

1位 Smashing Pumpkins - Siamese Dream(1993)

曲:Quiet

なんの捻りもないですがやっぱり僕のオルタナ趣味の最初って日本ならナンバーガール、海外ならスマパンなんですよ・・・。とにかくメタリックなリフ一本で聴けるし、同時に美しく重ね掛けされた奥深いギターの轟音、て側面でも気持ち良すぎる。昔はオルタナってリフがかっこいい音楽のことだと思ってました。

 

2位 Pavement - Wowee Zowee(1995)

曲:Rattled By The Rush

一番好きなインディーロックでその在り方自体がオルタナだと思います。音が悪いって意味でのローファイではなくアンサンブルがぶっ壊れてるという意味でのローファイが堪能できる名盤。歌がヘロヘロなのも全てその計算の内というか、メロディアスだし泣けるっていう。

 

3位 Rodan - Rusty(1994)

曲:The Everyday World Of Bodies

ポストロック元祖ですがハードコア出自だけあってかなりギター寄りのバンドで、とにかくザクザクとしたリフが気持ち良いんですが同じ曲の中でスロウコア的な最小の美しさを奏でたり、メロディアスな轟音でエモーショナルに盛り上げて行ったり・・・と展開が多くて衝撃でした。

 

でギタリストに関して僕はそもそもギター弾かないのでどうなんだろう・・・て思っちゃったんですが、完全に好みでUnwoundジャスティン・トロスパーとかの変則的フレーズから不協和音ノイズへ飲み込んでくスタイルが大好きですね。あとはShellacスティーヴ・アルビニ、金属的なジャッキジャキの和音、徹底的なアナログ録音による生っぽい響き含めあのジャキっとした何にも代えられない音はいつまでも聞いていたくなります。

 


 

吉野寿×向井秀徳の対談で思ったことを少々。

先ほどの91年の名盤、から続いてニルヴァーナパールジャムから話題を振るんですが、まず“オルタナ“ではなく“グランジ“て切り口ならその人選はミスってね?と思いつつ実際2人ともほとんど聞いたことないです、とハッキリ言ってて笑っちゃいました。

でその2人で盛り上がると言えばやっぱりハスカードゥとソニック・ユースダイナソージュニアでした。前半の名盤紹介とかなりズレていて笑 でもこれが面白いっていうか、リアルですよね。世間的に売れた代表作はグランジでも、実際にミュージシャンに聞いた影響力の強さとしてはインディー精神強いものやハードコアが根本にあるもののが強いんだろうなぁと思います。それが良い意味で出てた気がする。

話それすぎですが、それ以上に面白かったのが2人のギターに対する話題で、とにかくそれぞれの価値観がありそのスタイルそのものが間違いなく“オルタナティブ“と言える独特のものを持っていて、2人の音楽をよく知ってるからこそ非常に読み応えがありました。あれを読めただけでも買ってよかった。

 

あと対談の中でフガジにもがっつり触れててポストハードコアで特集してほしいな・・・アルビニ録音とかに話題を寄せても面白そうですけどね。PJハーヴェイとかもいるし。あと向井秀徳が91年と言えばライドでは?とも言うんですが、マイブラもそうですし、あえてUKロックは避けてたっぽいのでシューゲイザーもお願いします。こういう好きなジャンルのカタログ、バイブルは家にフィジカルであるってだけで嬉しいですね。

記録シリーズ:Rodan / June of 44

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Rodan、ケンタッキー州ルイビル出身のバンドで1994年にアルバムを一枚残し解散。一つの曲の中でスロウコアとハードコアを行き来する同郷Slint直系のポストロック/ポストハードコアにして解散後様々なバンドへと派生。とくにフロントマンであるジェフ・ミューラーが結成したJune of 44では直系のサウンドを鳴らしながらダブやジャズにまで接近し音楽性の幅を広げていきます。このRodan~June of 44、そしてSlintと並びまだポストロックという名もついていなかった時代にその原型と言える音楽をやっていて、後のTortoiseやGaster Del Solといったシカゴ音響派も元を辿るとこのルイビルのシーンへと合流していきます。

同時代のポストロック前夜としてはジャズやエレクトロニカの要素も強いシカゴ音響派と比べると、Rodanに関してはレーベルの大元であるTouch and Goのジャンクロックやポストハードコアの色を強く継承しながら更にスロウコアの繊細さも併せ持っていて、Slintとルーツを共有するマスロック方面への影響力も非常に大きい。ポストハードコア以降という目線では所謂Dischord以降のDCシーン、American FootballやJoan of Arcといったキンセラ兄弟に端を発するエモ~ポストロック、先のシカゴ音響とはまた別の、ShellacDon Caballeroとも顔を並べるTouch and Goから見るポストハードコアの亜種しても掘り下げていきます。

 


 

Rodan - Rusty(1994)

Rodan - Rusty | DeLorean | Tiny Mix Tapes

Rodanが唯一残したオリジナルアルバムにして大名盤。1曲目の「Bible Silver Corner」からとても抒情的で美しいスロウコアから入りポストロックの元祖としての貫禄を見せつけながら、まさか同じバンドとは思えないようなほど高速で破壊的な「Shiner」で獰猛なハードコア性を見せてきます。たった一枚で解散してしまいましたがこれがベストアルバムと呼ばれても遜色ないほど名曲しか入っておらず、開幕この2曲の要素が入り混じった切れ味の鋭いジャンクなハードコアと美しくエモーショナルな静→動の展開を流動的なアンサンブルで行き来していて「The Everyday World of Bodies」は10分超えの後にマスロックと呼ばれる音楽ともリンクを感じれる。エモ前夜としても聞けそうな「Gouge」「Toothe-Fairy Retribution Manifesto」では徐々にギアを上げ爆発させていく緻密な展開に泣けます。こんなにもぐしゃぐしゃに壊れていて美しい音楽を他に知らない、奇跡のような6曲42分。

解散後フロントマンであるジェフ・ミューラーはJune of 44を結成、ベースのタラジェイン・オニールとドラムのケヴィン・コールタスはThe Sonora Pine、ギターのジェイソン・ノーブルはピアニストのレイチェル・グライムスと共にRachel‘sへと派生。Slintの名盤SpiderlandとこのRustyはルイビルの元祖ポストロックシーンで最重要のアルバムでしょう。

 

June of 44 - Engine Takes to the Water(1995)

ENGINE TAKES TO THE WATER (COLOR VINYL) /JUNE OF 44/RSD DROPS  2020.08.29.|ROCK / POPS / INDIE|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

Rodan解散後ギターボーカルのジェフ・ミューラーがCodeine、Hooverと言った同時代ポストハードコア界隈の錚々たるメンバーと共に結成したJune of 44の1stアルバム。まだ今作はジェフ・ミューラーのデモをベースに各メンバーで肉付けしていったとのことでRodanの延長線としても聞きやすいアルバム。録音はRodanと比べるとかなりタイトで硬質、音を絞り隙間をより強く見せる展開はRodanよりもSlintのSpiderlandを想起させるシーンも多々あります。Spiderlandのポストハードコア性を拡張したようにも思える曲群はリズム隊がHooverとCodeineという出自もあるだろうし、低音ががっつり効いたミックスもあって二人の演奏は非常にヘヴィ。June of 44はどのアルバムもShellacのボブ・ウェストンが録音してますが(Rodanもそう)、今作だけは後にLCDDFAで有名なジェームス・マーフィーが担当。彼はSlintのメンバーのルームメイトでもあったようだし、アルビニのスタジオでエンジニアとして修行してたとのことでおそらくボブ・ウェストン経由のそういった繋がりからだと思います。後のDFAや同時期に彼が関わったSix Finger Sateliteでも低音が強調されているので1st特有の重い質感にかなり貢献してると思われます。「Have a Safe Trip, Dear」「Mooch」といった曲でも見られる、SlintやMogwaiで有名な静→動の轟音で塗りつぶすコントラストとは少し色の違った、空白を作る演奏の緊張感でじわじわと溜め、突如リズム隊やツインギターの構成で加速していくスイッチを切り替えるような感覚はマスロック元祖と言われるのも納得。Rodan解散後、メンバーはJune of 44とThe Sonora Pineに派生していきますが、どちらのバンドも1stはRodanの続きという印象を残したままSonora PineはジャンクなUSインディー、June of 44はハードなスロウコア~ポストハードコア、と言ったそれぞれメンバーの色を濃くしていく様が聞き比べていて非常に楽しい。Rodanの理解度が逆方向から上がっていく印象もあります。

 

The Anatomy of Sharks - Single by JUNE OF 44 | Spotify

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1stリリース後のシングル。2nd以降の音楽性ともまた違った「Sharks & Sailers」ではバンドのイメージとは逆に非常に高速で、同じくハードコア色の強く関係の深いTouch and Goを代表するDon Caballeroの1stと並べて聞ける曲だと思うし、何よりRodan~June of 44はDon Caballeroと活動時期がもろ被っていて、お互い別方向からポストロック/マスロックがまだ定義されてなかった時代にそれらを開拓していったバンドという立ち位置で、ルーツや音楽性は違えどどうやって後のシーンを形作っていったか見えてくるところもあり並べて聞くのも非常におすすめです。

そして後期June of 44の変化の秘密が垣間見えるダグ・シャリンの趣味であろうトロピカルなインストも挟みながら、最終曲「Seemingly Endless Steamer」がこれまた名曲。美しい極上のスロウコアから不穏なポストハードコアへと大爆発していく構成は、1stでも見せたダグ・シャリンのドラムを軸にバンド全体でラウドにドライブしていく非常にスタイリッシュな名曲。

 

June of 44 - Tropics & Meridians(1996)

June Of 44 – Tropics And Meridians (1995, CD) - Discogs

99年リリースの2nd。従来のJune of 44のイメージを決定づけたような作品で、ずっしり構えたフレーズの塊のようなドラムとベースをスロウペースで反復させ、その上で1st以上に捻じ曲がったツインギターのフレーズが規則的に絡み合い所々バーストしながらスポークンワーズを乗せていきます。開幕「Anisetta」はまさにそのバンドのスタイルを象徴する曲でジャム・セッション感もある。「Sanctioned in a Birdcage」はRodanとも通じそうな抒情的で美しいギターのトーンから、一発で不穏なポストハードコアへと持っていく強烈なベースラインはフレッド・アースキンが元Hooverであることを思い出させてくる名プレイ。3rd以降のスタイルにも通じます。1st程展開は多くなく、むしろ音数を増やさないままヒリヒリとした緊張感を持続させループを軸にしながら動きを見せる様はどことなくShellac的。しかしShellacのような予測不可能なフリーキーなアンサンブルではなく、規則的だからこそ一つ一つのフレーズの妙が練られていてバンドとしてのフィジカルの強さを最も感じるアルバム。

 

June of 44 - Four Great Point(1998)

June Of 44 – Four Great Points (1997, CD) - Discogs

98年リリースの大名盤3rd。2nd経過後を強く感じさせるリズム隊の強烈な個性の強さを生かした反復のスタイルは色鮮やかにアレンジを広げ、ダブやジャズといった要素と本格的に接続し始めポストロックとしての色を強くしていきます。1曲目の「Of Information & Belief」ではRodanを思い出す繊細なツインギターのフレーズが象徴的なバンド随一のメロディアスな歌もの。June of 44屈指の美しい曲ですが、中盤からジャンクで金属的なギターリフが正面衝突し突如ポストハードコアへと急転。しかも轟音で覆うわけではなくフレーズの鋭角さとツインギターの妙で爆発を表現するのが完全に円熟していて、きめ細やかにフレーズを変化させながらずっと安心感のあるリズム隊の二人もずっとキレがある。

そして2曲目以降、本性を現したかのようにベースリフ一本を核としながらひたすらタイトに繰り返される溜めの効いたドラム、曲を進むにつれスペーシーでダビーなエフェクトが増してい、A面~B面で音楽性が少しずつ見えてきてアルバム終える頃には最初と全く違った印象になってく構成は圧巻。実験的な最終曲「Air # 17」を終え一周してもう一度再生した頃には最初の「Of Information & Belief」の印象もきっと変わってると思います。

1st2ndはまだジェフ・ミューラーによるRodanの続編という色も強かったのに対し、3rdからは元Hooverであるフレッド・アースキン、元Codeineであるダグ・シャリンという後にHiMを結成するリズム隊の色が強くなっていて完全にJune of 44という個が出てきたアルバム。特に今作はHoover派生でもあらゆるバンドでベースを弾いているフレッド・アースキンのジャズ/レゲエにも通じるベースラインがかなり要になってると思います。Rodan組のハードコア要素とHiM組のダブ要素が引っ張り合っている中間とも言えるし、実験的な要素を強くしながらも彼らのディスコグラフィで最も聞きやすい文句無しの代表作でしょう。とは言いつつ3曲目「Cut You Face」ではこのメンバーで今になってアップテンポのポストハードコアをやる、ちょっと浮いてるくらいストレートな曲で、それぞれのキャリアを考えると熟練度十分で獰猛なフレーズの応酬は凄まじくかっこいい。

 

June of 44 - Anahata(1999)

June of 44 - In The Fishtank 6(1999)

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完全にHiM組の色に染まってしまったアルバムでダブやジャズの要素も垣間見えるバンド感強めのポストロック。ハードコア色が薄いおかげで3rdとも壁がある作品だと思います。このアルバムにしかない完全なオリジナリティを確立させていて、どうやらダグ・シャリンの作ったループをベースにメンバーで録った長尺のセッションを編集して作られたアルバムらしく、最早HiMによるJune of 44のリミックス集って方が近いかもしれません。

ボーカルも歌心強めでシャウトも完全に消えましたが、歌ものポストロックと呼べるほどメロディアスでもないこのバランス感覚、まさしく各々のバンドで培ったそれぞれの音楽性・・・の延長にある部分を絡み合わせ作ったようで、まさに「ポスト」ロック的な作品だと思います。隙間の多い演奏からわかる各パートのミニマルな絡み合いによる浮遊感が非常に心地いいです。

Fishtankは専用スタジオを借りてEPを一枚作るという企画作品。完全に4thの延長線なのでそのまま続編として聞けますが、しかしAnahataのようなリミックス的作風ではなくスタジオで合わせて録ってるのでこちらのがバンド感が強く3rdからの流れだと聞きやすいかも。腑に落ちるところも多いし後の作品でセルフカバーされるのも含めてミニアルバムですが非常に重要なアルバム。

 

Rodan - Fifteen Quiet Years(2013)

Rodan - HAT FACTORY '93(2019)

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未公開音源集でFifteen Quiet Yearsは2013年、HAT FACTORY '93は2019年に発表されました。Fifteen Quiet Yearsは未収録曲+ライブ音源で、スタジオ盤ですら凄まじくライブ映えしそうなバンドなので間違いないです。「Darjeeling」など未公開曲を聞いてるとまだ80sハードコアの延長に聞こえる箇所が多々あり、これがセッションにより発展、肉付けされてってRustyになってったのかなぁとか考えてしまいます。

HAT FACTORY '93はRustyとほぼ曲目一緒ですがアウトテイクとは思えないほど完成されていて、原曲だとスカスカな分低音が強調されたミックスだったのに対しこちらは中~高音域が強いおかげでギターの音がかなり暖かみがあって全然違って聞こえます。というか激しい曲でも美しいRodanが聞けるので「the Everyday World of Bodies」とかは全体的に音が分厚くなっていてポストロック感も増し増しでフレーズは一緒なのにイントロからまるで別曲のよう。ノイズパートの印象もまるで違ってこっちのバージョンで大名曲に化けたと思ってます。

 

June of 44 - REVISIONIST: ADAPTATIONS & FUTURE HISTORIES IN THE TIME OF LOVE AND SURVIVAL(2020)

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まさかの新譜。解散から20年経ってなので驚愕でしたが、その20年の間にジェフ・ミューラーはRoadn時代の盟友ジェイソン・ノーブルとShipping Newsで活動、ダグ・シャリンとフレッド・アースキンはお馴染みのHiMでアルバムを多数リリースと、それぞれキャリアを重ねた面々+ジョン・マッケンタイアMatmosの二人も参加と90年代のポストロック大御所オールスターのような布陣になってます。

で中身ですが4thのAnahataを更に押し進め、より音をスマートにそしてヘヴィにした感じでしょうか。元々がリミックスっぽいアルバムだったのでこちらはバンドサウンドで再構築したとも言える作品で、B面では普通にハードコア色強い曲も戻ってきて激熱。リミックス二曲はバンド音源をサンプリングしたカオスなハードテクノに。

 

The Sonora Pine - The Sonora Pine(1996)

The Sonora Pine - II(1997)

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Rodanから掘ってくにあたって重要なバンドでRodanでベース+女性ボーカルパートを担当していたタラジェイン・オニールとドラマーだったケヴィン、そしてJune of 44でギターを弾くショーン・メドウズによるバンド(ショーンは同時期にDischord RecordsのLungfishでベースを弾いてたりもします)。1stはRodanと展開の仕方や構成が近く、ジャンクロック的なローファイな録音+タラジェイン・オニールの暖かみあるボーカルのスロウコアとしても聴けるようなミディアムテンポの中で曲がどんどん展開、バーストしていきます。

2ndではギターではなくヴァイオリンやオルガンをフィーチャーしより繊細なリズム隊を乗せるというまた別の作風になっていて、半分ポストロックに浸ったアート嗜好の強いスロウコア、と言った作品。シカゴ方面やRachel'sとも通じるものがあるし、2000年以降SSWとして名を上げるタラジェインオニールのソロや、この密室感はSlint解散後にメンバーが結成したThe For Carnationともリンクするとこがあります。

 

Retsin - Egg Fusion(1996)

Retsin - Sweet Luck of Amaryllis(1998)

 

Rodan、The Sonora Pineでおなじみのタラのまた別のバンドで90年代末期にやっていたので同時に活動していたようですが、Rodan一派によるマスロック~ポストロック的な作風ではなく純粋にいい歌にいい演奏が乗っている暖かみのあるインディーロック。いかにもオルタナという感じで録音もインディーらしいローファイな質感が個人的に大好きなバンド。メンバーのトッド・クックはShipping NewsやFor Carnationと言ったルイビルのバンドで活動していてこのシーンを追ってくと度々邂逅します。

 

Tara Jane O'Niel - Peregrine(2000)

Tara Jane O'Niel - In the Sun Lines(2001)

ソロ名義に転向後の1st「Peregrine」は宅録で作られたローファイなインディーフォーク。Retsinからそのまま地続きでソロらしく削ぎ落とされたパーソナルな作品で彼女のメロディーセンスが炸裂してます。2ndの「In The Sun Lines」ではジャケから既にそれっぽいですが、かなりRodanやRachel'sを思い出すポストロックフィーリングもありつつSSWらしかった1st路線も濃く残した名盤。Rodanっぽいのを聞きたい方はこちらをどうぞ、Idaとコラボしてくるのもこの辺で日本盤も出てます。

 

Rachel's - The Sea and the Bells(1996)

Rachels's - Selenography(1999)

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Rodanのメンバーであるギタリストのジェイソン・ノーブルがピアニストのレイチェル・グライムス、ヴァイオリニストのクリスチャン・フレデリクソンと共に結成した変則バンド。ジェイソンは今作ではギターを弾くというよりはマルチプレイヤーとしてプロデュースに近い形で関わります。基本はオルガン+管楽器をメインとしたポストクラシカルでまたちょっと違った方向からポストロックを広げていて、とくにSelenographyはRodanのBible Silver Cornerと言った美しいスロウコアと近いものがありルーツが垣間見えます。作品ごとにメンバーが変わりシカゴ音響派とも絡みがありますね。

ちなみにRodan~June of 44のフロントマンであるジェフ・ミューラーとジェイソン・ノーブルは高校生の頃からの親友であり、Rachel'sとJune of 44に分かれた後も二人で連絡をとり曲を作っていたらしく、これが後にShipping Newsとなります。

 

Shipping News - Three-Four(2003)

Shipping News - Files The Fields(2005)

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Rodan~June of 44を率いたギターボーカルのジェフ・ミューラーの次のバンドで、彼の変遷を辿ってくうちに上記の周辺バンドを知っていきました。Rodan/Rachel’sの盟友ジェイソン・ノーブルも参加しているのでRodan直系というか続編という雰囲気が非常に強く、むしろJune of 44は外部と接続しながら音楽性の幅を広げポストロック拡大の一端を担ってた感じだったので、より純度を高めた正当な続編はこちらのShipping Newsでしょう。彼らのルーツであるポストハードコア/スロウコア路線を正面から掘り下げていきます。

彼らと交流の深い同郷Slintのじわじわと心臓をわしづかみにするような静寂と狂気を行き来する緊張感を受け継いでいて、彼らがやっていた「遅いハードコア」とでも言うような音の完成形が鳴っています。しかもSlintが出てきたときってそんなジャンル存在していなかったのでまさに先駆け、ジャンルの草分けとも言える存在でしたが、後に発展したベテラン達が集まってそれをやってるのでかなり洗練されてますね。

3rdのThree-Fourでは静から動の振り切り方が激しい同時代のポストロックの名盤だと思います。4thはジェフ・ミューラーの暗黒ポストハードコア趣味が最もポップに出てる作品かと。

 


以上です。Rodan以降、という括りで聞くのならこの辺を押さえておけば間違いないと思います。とくにJune of 44と同時進行でジェフ・ミューラーがShipping Newsを始めたことで彼の本来の音楽性がわかり、June of 44の後期がいかにリズム隊二人の音楽性に寄って行ったかがよくわかったり、タラジェインオニールの美的センスがRodanに溶け込んでいたこともよくわかります。

 

Rodan関連、として括るのならここで終了です。以下、June of 44後期の音楽性に影響を与えたリズム隊二人のバンドについてちょっとだけ掘り下げていきます。

 

 

Hoover - The Lurid Traversal of Route 7(1994)

Hoover - S/T(1998)

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Dischord発、ルイビルのバンドではなくメンバーもRodanとは被ってないのですが、こちらに在籍していたフレッド・アースキンがJune of 44では要とも言えるベースを弾いてます。ハードコアですが金属的な不協和音と変拍子ギターリフの積み重ね+スクリーモという繰り返しが後のポストロック~マスロックや激情系に与えた影響は大きく、「Electrolux」辺りは完全に彼のベースリフの反復を核とし展開していく作風でJune of 44の3rdとかなりリンクしてきます。

98年のEPではハードコア色は強いまま更にダブ~レゲエ意識とも言える曲調になっていてシーン全体の潮流だったのかもしれません。

 

Abilene - Two Guns, Twin Arrows(2002)

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Hoover解散後、メンバーはいくつかのバンドに分かれるのですがその後にまた一部が再集結したバンド。勿論フレッド・アースキンも参加。Hooverの頃から彼のベースを主体としたダブ要素を推し進めた感があり、音をごっそりそぎ落として最小限のアンサンブルの中Hooverにも通じるダークな世界観を展開。全編にわたってホーンも参加しジャズやダブ・レゲエに接近したポストロック化とJune of 44がハードコアから4thで徐々にジャズやダブ化した現象と完全に同じことが起きてますね。

 

Codeine - Frigid Stars(1991)

Codeine - The White Birch(1994)

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Codeine、シアトルのバンドでRed House PaintersやLowと並んで90年代のスロウコアシーンを代表するバンドで、それらの中でも轟音要素が強く後のモグワイがルーツとして挙げることで有名ですね。冷ややかな緊張感はまさしく"サッドコア"的でBastroとスプリットを出したりもしていて、ハードコアの延長線としての貫禄十分。Slintと比べても更にミニマルで、アンサンブルの動きが少ないからこそ轟音垂れ流しパートの対比が強く強調されます。そして2nd「The White Birch」にJune of 44及び上記のHiMのダグ・シャリンがドラムで参加。実際1stと2ndでドラムが変わったことによりリズムへのアプローチの仕方も大分異なるアルバムでここを聴き比べるのも面白いです。

 

Rex - C(1996)

Rex - 3(1997)

 

Codeine解散後にダグ・シャリンがJune of 44と平行して活動してたバンド。June of 44と同じくスロウコアフィーリングありつつもこちらはもっとフォーク/カントリーの色が強まっていてCalifoneとかRed Red Meat後期のような雰囲気で聞けます。オルガンやチェロも参加して色鮮やかですがダグ・シャリンはJune of 44と同じくかなりパワフルなドラムを叩いて、バンド全体でのドライブ感もめちゃ強くDrag Cityのアメリカーナ周辺とは近いようで遠いかも。かなり良いので関連作として是非。

 

HiM - Egg(1996)

HiM - Our Point Of Departure(2000)

Amazon Music - HIMのOur Point Of Departure - Amazon.co.jp

HiM、記事内で何度も触れてますがJune of 44/Rexのドラマーであるダグ・シャリンのソロプロジェクト。アルバム毎にメンバーが変わる流動的なバンドで、1stであるEggはほぼRexのメンバーで録音されたダブ・アルバム。ポストハードコア以降の冷たい質感もあり関連作として是非どうぞ。そして2000年作のOur Point Of Departure、こちらはShipping Newsへ向かったジェフ・ミューラー以外のJune of 44のメンバー全員が参加と完全にAnahataの延長線上にあり、June of 44後期の音楽性の変遷の秘密が見えてくる名盤。ありえたかもしれな続編として聞けます。ハードコア/スロウコア要素はほとんど後退し完全にジャズ側、数多くのフレーズやダビーなエフェクトが飛び交いでもってミニマルな要素も強く、電化マイルスっぽさもある。HiMは他のアルバムでもTortoiseらシカゴ音響派との共通点もあって双方の架け橋ともなるバンドです。

 

 

 


 関連記事

上記で触れたShipping Newsについて全アルバム掘り下げたものです。Rodan~June of 44の系譜の最終なので続編としてどうぞ。

 

June of 44の音楽性に多大な影響を与えたりHiMにも参加したフレッド・アースキンの元バンドHoover、及びそこから派生していく多数のバンドについて書いてます。こちらも膨大でHooverの系譜とRodanの系譜が交錯する瞬間がJune of 44だったというのもわかってきます。

 


以上です。長くなりましたがこの辺でのRodan〜June of 44〜Shipping Newsの変遷を辿りながら周辺の音楽を漁るのがリスナーとして非常に楽しい時間だったので、その記録を残したいなぁ・・・というとこから書き始めたものでした。Slintを中心としたルイビルの潮流の中にあるので、どっかでSlintも絡めて書きたいなぁと思ってはいたんですが、それは機会があればいつか。何か少しでもディグの参考になればと思います。

 

※書きました

Cloud Nothings - The Shadow I Remember

Cloud Nothingsが新譜を出してこれがめちゃくちゃ突き刺さってきたのでやべ~って言いながらその感情について書こうとしてたんですが、なんか途中からデジャブを感じ・・・

昨年のアルバムのときほぼほぼ同じことを言ってました。ストレートなギターロック的作品が本当にシーンから衰退してしまったのを実感してたタイミングでこれ聞いて、感動が何倍にもなってしまった・・・的なやつです。で前作の記事書いた頃はある程度新しい音楽も聴いてたし、ちゃんと流行もチェック(?)してたはずで本心からだったんですが、最近はもっぱら旧譜掘ってばっかだったから説得力ないなと(笑) 別にちゃんとチェックしてればいくらでもあったかもしれないですよね。昨年もなんだかんだあのあとBullyとかMetzとかSprainとかNarrow Headとかあったわけだし。

The Shadow I Remember - Album by Cloud Nothings | Spotify

 THE SHADOW I REMEMBER / ザ・シャドウ・アイ・リメンバー/CLOUD NOTHINGS/クラウド・ナッシングス/世界同時リリース  / ボーナストラック収録|ROCK / POPS / INDIE|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

でも本当に素晴らしいなと。ギターが一番前に出てきてポップなメロディが乗っかってっていう、日本人のオルタナとかが好きな人にストレートに刺さる感じというか、SNSの知人がこのバンドって海外でそこまで話題にならなくても日本で盛り上がりすぎてるところあると思うって言ってて本当にそれは思います。ピンポイントすぎるというか、00年代ロキノン的な土壌があるロックファンは間違いないだろうなぁみたいな。

元々親やすいローファイインディーって感じの作風からグランジ〜ポストハードコアへ接近して前作でまた初期のようなインディーロックに回帰したわけですが、あのときそれでも感動していたけど今回それを更にバンドサウンドで強靭に肉付けしアルビニ録音でリリース、まぁ本当にオルタナド直球という感じです。殺伐とした焦燥感みたいのはなく吹き抜けがいいのでLife Without Soundsとかに近いかな・・・あちらはもうちょっとパワーポップ寄りな感じしますが。Naraという曲があって多分前に来日したときLOSTAGEと対バンして、そのあとLOSTAGEメンバーのレコ屋に顔を出してたようなのでその一件が元になってるのかなぁとか考えたり、奈良県だったし。嬉しくなりますね。

でなんかこれを記念してAttack on Memoryのライナーノーツが無料公開されて、多分家にあると思うんですが読んでみたら中々面白く・・・

 

あんまりポストハードコアな聴き方したことがなくて前々作のLast Building Burningとかはめっちゃパンキッシュだし金属的なギター音が鋭利でそこでやっとハードコアと結びつけたわけですが、これ読むとあの頃からもろにLungfishとかNation of UlyssesとかDISCHORDの面々が引き合いに出されていて、まぁそりゃそうか、当時俺がハードコア知識なかったから結びつけられるどころではなかったんだなと思いました。あの時はまだUSインディーがグランジ色濃くなったな〜くらいの感想しか多分出てこなかったんでしょう。でアタックオンメモリーは死ぬほど聞いた愛聴盤でしたが、その数年後ハードコア掘って俺がNation of Ulysessとかにどハマりするの自然な流れというか、納得しました。

でまぁこうやって、日々旧譜を漁っているおかげでこういう楽しみ方やアクセスできる場所が増え、参照された音楽も新しい音楽も解像度が増して楽しく聞けるようになるのでやっぱ楽しいんですよね。まだ全然聞き込めてないのでこれから聴きます。またライブ行きたいなぁ。

 

記録シリーズ:OGRE YOU ASSHOLE / 音楽性から辿る周辺バンド

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ディスコグラフィに引き続き書いていきます。二つの記事で何度か名前を出したバンドや影響力が強いと感じるもの、その中でも個人的に好きなバンドについて。

  


 

基本的にオウガをきっかけに聞いたアーティスト及びインタビュー当で言及があったものを並べていきます。全体的にUSインディー期に偏っちゃいますが、最初にまず各所で言われているゆらゆら帝国 -空洞です- との関連性ですね。homely以降の三部作、インタビューやレビュー記事などどこへ行っても「空洞です」と比較されます。

 

ゆらゆら帝国 - 空洞です(2007)

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実際に石原洋+中村宗一郎が手掛けたということで録音の質感はかなり近く、ただ表層的な部分が似通っていてもただその中身、とくに本来の姿が露出するライブでの表現は完全に別物ですし、ゆらゆら帝国と比べることを前提としたインタビューや評価を見ると本質を捉え損ねてしまってるように感じ少々残念な気持ちになります。だとしても入り口として「空洞ですが好き」という方に勧めやすいサウンドってのは否定できず、それこそサウンドの質感だけでもオウガやゆらゆら帝国を聞いてるという方は少なくないとも思うんですけどね。

そしてインタビューにて実際に「直接的に影響は受けてない」と公言していて、よく比較されるhomleyも空洞ですを意識してあの音になったわけではなく「先にこういう世界観、歌詞のアルバムを作る」とコンセプトを決め、それに合わせたサウンドを模索した中でAORに行った・・・という経緯があります。でその際に相性のいい機材を中村宗一郎が、アイデアを石原洋が・・・という感じなんですよね。空洞ですに近づけた、というより、方向性を模索した中で近づいていったという感じです。

そもそもサイケと呼ばれつつそのサイケデリアのルーツもちょっと違い、ルーツを並べて聞き比べるのも面白いです。オウガはやはり90年代のインディーやオルタナ~ポストロック的なとこからのサイケゆらゆら帝国60~70年代のブルースやロックンロールがベースにあるサイケだと思っていて、両バンド共に完全にサイケ化する前にやってた音楽もそのルーツがもろに出てる感じなんですよ。そこに石原洋によるプロダクションを受けた結果が今の形なので、一致するのは「両者交流の深い石原洋の音楽趣味」ではないかと。作曲だけではなくライブにも参加するようなので、もうメンバーが一人被っているという状況だったんだと思います。

 

それがよくわかるのがこちらのソロ作「formula」ですね。

 石原洋 - formula(2020)

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町の雑踏を合計40分録音しその遠くから微かに石原洋の弾き語りとバンド演奏が聞こえてくる・・・という、雑踏がメインなので声も演奏も遠いんですがこのかき消え具合というか、ノイズミュージックやアンビエント聞いてる心地よさと弾き語りが共存している感覚、そしてメロディーが結構強いので石原洋のふわっとしたボーカルでもこの雑踏に決して消されることはないんですよ。昨年の愛聴盤ですが、ここからオウガにもゆら帝にもアクセスすることができると思います。というか単純に石原洋のメロディー自体も近い気が・・・

 

そして個人的に面白いなと思っているのはオウガ、そして坂本慎太郎、双方が石原洋プロデュースを抜け独立した以降の音が逆に近いものを感じるんですよね。坂本慎太郎のソロですが

ナマで踊ろう(2014)

できれば愛を(2016)

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どちらもAOR~ファンク趣向から音数を減らし更にソフトに向かった結果歌が強くなり・・・というところとか。

 

そして関連性があるというわけではないですが、石原洋+坂本慎太郎という二人が手掛けたこともあるのと個人的に近いものを感じるこちらのバンド

Nisennenmondai - Destination Tokyo(2009)

Destination Tokyo : Nisennenmondai | HMV&BOOKS online - 157

にせんねんもんだい。このアルバム聴いておったまげたんですよね。AOR色やメロウさは全く無いのでちょっと毛色が違うバンドですが、最初は破壊的爆音ノイズをぶちかましてた彼女達が、どんどんストイックに音をそぎ落としミニマルミュージックを人力でやり始めるその経過に近いものを感じたり、ダンスミュージックの均等なリズムの気持ちよさとその反復を生演奏によるロック的ダイナミズムで昇華してくところ・・・そのロックでもありディスコでもあるバランスが完璧なアルバムだと思いました。

でそれにオウガと通じるものを少し感じたんですよね、ライブ盤も凄まじくそのセッションの熱気など、個人的に両者セットで聞きたいバンド、と僕が勝手に思っていて、先のスタジオ盤とこちらのライブ盤は非常にオススメです。

NISENNENMONDAI LIVE!!!(2011)

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あとはちょっとだけ触れた初期のとり、ねじ、ろくおん

Nisennenmondai - sorede souzousuru neji(2004)

Nisennenmondai - rockon(2006)

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はポストパンクやクラウトロックなど、あのスカスカな音楽をとにかく音割れするような大音量ギターノイズで塗りつぶしてノイズポップ化させたアルバムとも言えます。

お互い交流があるわけではないですが、2013年にスペインからエスプレンドー・ジオメトリコが来日したときの対バンがOGRE YOU ASSHOLEとNISENNENMONDAIだったのが個人的にかなりニヤリとしました。ジオメトリコ自体もインダストリアルなのですが、反復のボディ・ビートとノイズにまみれてく音楽性が両者を関連付けるのにも最適だと思いますし、ブッカーの方マジでナイスだ・・・。

 

そしてこちら、バンドの半生を辿るようなものでまず各アルバム制作時にメンバーどういう音楽を聞いていたか、最近余り触れられることないUSインディー期から当時比較されがちだったLCDラプチャー、フランツ等のポストパンリバイバル~ディスコパンクへの認識なども全部触れてます。そっからどうサイケ三部作へ至ったか、そして長野県の原村という浮世離れした土地から都市を見ていたという「あの音楽に至ったバックグラウンド」のようなものが読み物として非常に面白いです。

続編の方でも、周辺の邦楽ロックバンドと距離を感じ始めた時期やフェスでの場違い感、それ以降のサウンドの変化など・・・本当に充実しています。

 

割と2010年前後のUSインディーとも来日をきっかけに交流があったようで、中でもディアハンターとのことについて書かれていて音楽性が近いというわけではないんですが、直接的に引用ではないバンド本来のサイケデリックが音に滲み出てる感じは結構近いものがあると思ってます。僕が同時期にハマっていたので勝手に思い込んでるってのもありますが、この頃のディアハンターとオウガが対バンしていたのってかなり面白いなぁと思うんですよね。 

Deerhunter - Microcastle(2008)

Deerhunter - Halcyon Digest(2010)

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他にもクラウトロックに至るまで・・・の流れでステレオラブトータスの名前が出てきたり、とにかく今なおこの辺のUSインディーにどっぷりな自分はやっぱりしっくりくるのが納得できますね。

あと個人的にこちら

The Flaming Lips - The Soft Bulletin(1999)

 The Flaming Lips – The Soft Bulletin (1999, CD) - Discogs

出戸さんがクラウトロックにハマる以前はこういう派手なサイケが好きだったと名前を挙げていて、石原洋と組み始めたデビュー初期はリップスを参考にしていたようで、その時期のピンホールやフォグランプにあるどこかメルヘンチックな・・・異次元の遊園地に迷い込んでしまったようなサウンドって割この辺と通じる気がします。バランスとかもかなりリップスぽいですね。

Silver Apples - Silver Apples(1968)

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そしてSilver Apples、60sサイケを代表するアメリカのバンドですが、当時の他のサイケバンドの中では今のクラブミュージックにも通じる反復の美学とも言えるものが生演奏でやられており、かなり新しい・・・最近のオウガのモードと近いものを感じます。それこそ「朝」とか。

 

そして出戸さんの影響を受けた9枚について語る・・・という動画があるのですが、そちらで言及されてたアルバム、アーティストから掘り下げていきます。

こちらリストですね

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テレヴィジョン、モデスト・マウスやヨ・ラ・テンゴは初期~中期にかけて非常に納得、そしてノイ!やCANはまさしく後期の主軸だと思います。CANのTago Magoはペーパークラフト辺り、ノイ!はロープですかね。

 

あとは前の記事で触れましたが、アルファベータ vs.ラムダは非常にビルト・トゥ・スピルを想起させます。

Built to Spill - Keep It Like a Secret(1999)

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こちらはKレコーズやUPを代表するバンドで、ベックやモデスト・マウスをルーツとする出戸さんがそのままUSインディーにハマってく過程で聞いたのかなぁと。

モデスト・マウスに関しては上記の動画の1stとあと個人的にこの2nd3rd

Modest Mouse - The Lonesome Crowded West(1997)

Modest Mouse - The Moon & Antarctica(2000)

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どっちも割と直接引用してるとこも感じたり、今では独自のスタイルを確立させたオウガが初期はボーカルまでストレートにモデスト・マウスを追っかけている・・・てのが感慨深いです。

そして以前にインタビューで触れていたスプーン

Spoon - Girls Can Tell(2000)

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ミニマルさを模索して最小限の音でやってるという部分で重なるところも感じたり、似てるってわけではないんですが、USインディーという出発点から音を引いてく手法というか。現在のスプーンはダンスミュージックの要素を取り入れてくんですが、そこもまたシンパシーを感じます。

あとはモデスト・マウスのメンバーが合流して活動してたこともあるこちらのレッド・スター・セオリーも非常にオススメです。

Red Stars Theory - Red Stars Theory(2001)

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くたびれたギターの感じや途中からエモーショナルに盛り上げていくところなど、ローファイな録音によりボーカルが楽器と混ざり合ってぐしゃっとした質感になってるとこもオウガの1stを思い出したり・・・ちょっとポストロック感が強い曲もありますね。

 

最後に昨年コロナ禍でライブが行われなくなり、そんな中で各メンバーが制作したプレイリストが公開されました。 

 

参考までに。やっぱ三部作の影響が顕著というか、以降って感じがしますね。ベッドルームっぽい現代のUSインディーからメロウなAORクラウトロックの影響の強そうなダンスミュージック等、やはり後期を連想するものが多いですが、ビートルズが出てきてちょっとびっくりしたり、ボウイの選曲にはかなり納得したり・・・。

そして僕はやはり「USインディー由来のロックバンドだった彼らがこれに近づこうとした」というのが好きみたいで、どうしてもロックの耳で聞いてしまいますね。だからこそライブではそれが前面に露出してくるところなど、たぶん、片方に寄らずそれを行き来するからこそ「バンドって生き物なんだな」というのを強く感じさせてくれるから好きなんだと思います。

 


以上、関連づけできそうな好きなバンド、アルバムをひたすら並べたかっただけの記事になります。どうしてもUSインディーが好きなのでその辺に偏ってしまいましたが、構成する9枚の中にある触れることのできなかった辺り、その周辺や70年代のAORや60年代サイケ、クラウトロックに焦点をあててみるともっと色々出てきそうですね。

自己満足ですが、実際にオウガから知った作品も非常に多いので少しでも参考になればと思います。

長尺だけど貼った記事と動画が余りに素晴らしすぎて完全にこの記事の上位互換になってますが・・・

 

 

 

OGRE YOU ASSHOLE - workshop

OGRE YOU ASSHOLEというバンドを聞く上で最も重要なアルバム、それがこのworkshopシリーズだと僕は思っています。彼らの活動の中で大きな一つの方針がライブ録音とスタジオ録音でのアルバムを完全に切り分けるというものでした。最新のアルバム聴いたときとかむしろライブでいつもやってるバージョンの本当に素材だけのような質感だったので、これworkshopを作ることを前提にやってない?とすら思いました。

 

というわけで一般的なロックバンドのスタジオ版とライブ盤という関係性とは若干違ったものになってますので、正直オウガのサイケ三部作の難解さがよくわかんね〜って人にこそオススメです(勿論既存の曲が単純にパワーアップしてるのもあるのでそれ以外の方にも)。というかぶっちゃけ僕も最初そんな感じで「homely」とか息苦しすぎてしんどかったし「100年後」もかったるい歌ものばっかりで・・・とか思っていたのにライブに行ったら「とにかくめちゃくちゃ踊れるし爆音のノイズを一杯浴びれて最高だった」という認識へと変わり、それをきっかけに通う内どんどんバンドの魅力に取り憑かれていったのですが、そのライブの記録が今作というわけです。

 


 

workshop(2015)

てわけで一作目、今回は三部作であるhomely~100年後~ペーパークラフトからの収録+αって感じですが収録された曲も今でもよく演奏される代表曲は一通り揃ってるんでベストアルバム的側面もあるし、ライブ公演そのものではなく各公演から厳選された音源を基に再編集、構築してるためアルバムとしての流れも完璧です。

この頃って丁度初期のロックバンドらしい形式からサイケ~クラウトへと舵を切ったときで、スタジオ盤では最小限のミニマルな演奏の中での各パート、楽器の音が着地するときの質感重視の完全にプロデュースされたサウンドでアルバム通して世界観を作り上げるって感じでした。で勿論その録音をライブ演奏で再現する・・・というスタイルではなく、淡々と無機質に繰り返されていたドラムはまずかなりライブらしい有機的なものになってるし、ライブ録音ってことでベースの低音も効いてて曲のテンポも全体的に早いので加速してくグルーヴの中体を揺らすって感じです。それこそサイケな録音じゃない時点でふわっとした質感は完全になくなってギターの音もノイジーになってるし、「見えないルール」なんて最後のノイズギターソロまであり別物ですね。とくに無機質なミニマルファンクって感じだった「フェンスのある家」「ムダがないって素晴らしい」辺りもかなり踊れるようになり、音の分離が良くなったのもあって歌メロが際立ってこんなに口ずさめるようなキャッチーな歌メロだっけ?となるところも良いです。

 

そしてまぁ真骨頂が「フラッグ」なんですが、唯一初期のまだUSインディーっぽかった時期の曲ですがもう全くの別物、メロディー以外の面影ないようなスローテンポのドロドロとしたサイケに変貌してますがそこから四つ打ちで踊るダンスミュージック調のパート→原曲を踏襲した非常にロック色強いパートという三部構成に。とくに最終パート、溜めに溜めて鋭角ギターリフが飛び出すところはダンスミュージック的な肉体的なビートからロック的ダイナミズムへと帰結してくというオウガの集大成的な曲になってます。最後はお馴染みの「ロープ」でNeu!のHallogalloを想起させるハンマービートに各パートが徐々に音を足して熱を上げていき最後はノイズの大洪水に飲み込む、というこれまた非常にドラマティックかつカタルシス満載の曲に。この辺は原曲からは想像もできないような特大ライブアンセムと化してて未だにライブでも大団円的ポジにある曲だし、1コード繰り返しながらアドリブも多いのでいつ聞いても楽しい曲で、その辺のライブの熱気が保存されてます。

 

 

 

workshop2(2017)

workshop 2 | OGRE YOU ASSHOLE

前作のworkshopの曲は今でもライブで演奏されることの多いベスト的なものでしたが、今作はどちらかと言うと当時の最新作、ハンドルを放す前にのライブテイクお披露目と言った感じです。

相変わらずライブ音源を基にした再編集版・・・ということで実際のセトリとは大きく異なってるんですが、僕は正直ハンドルを放す前の曲ってかなり「ミニマル」寄りだと思ってました。無駄な音をそぎ落とし最小限の音だけで構成された隙間だらけのファンク・・・というような、でもって三部作より曲事態をスマートにしたような印象があったんですが、「ハンドルを放す前に」「ねつけない」では電子音で隙間が埋められ無機質な音源がかなり浮遊感漂うものになっていて、「あの気分でもう一度」はクラフトワーク歌謡とも言えるものになってるのでどちらともかなりメロウに聴けるようになってます。というよりあのアルバム、実際の使用機材も60~70年代当時のものを集めた・・・とのことなので、ドイツのクラウトロックのライブって体験できたらこんな感じだったのかなぁという気もするし、それをかなりポップに体験出るアルバムだと思います。 

 

 

workshop3(2020)

OGRE YOU ASSHOLE「workshop」第3弾発売、4年間のライブから音源をセレクト(動画あり) - 音楽ナタリー

三作目。実は2019年以降オウガのライブも徐々に変化していて(というより彼らのライブはいつでも変化し続けているのですが・・・)、バンドの代表曲でありライブでも一番の沸点とも言える「ロープ」「フラッグ」が演奏されないセトリも割と見るようになり、その代わり新たなアンセムとして生まれた「朝」「動物的/人間的」がフィーチャーされてるのが今作で他にも既存楽曲の新しいアレンジも多いですね。

まず開幕の「新しい人」から音源ではベッドルーム的とも思える程ふわっとした質感だった曲が、ライブによるリバーブと更に強調されたギターの揺らぎ、出戸さんのエモーショナルな歌声により非常に暖かみが増していて、これまでの踊りたくなる肉体的な気持ちよさではなく、音の心地よさで陶酔したくなるようなオウガのメロウさが前面に押し出された録音が聞けます。そして朝ですね、こちらはタイトルすら決まってなかった頃から何度も演奏され今やライブの中核とも言える曲ですが、今までのアンセムと違い安易に「爆発させない」美学を感じる曲です。ダンスミュージックの均等に配置されたビートを生演奏ならではのリズム隊の揺らぎの中、その曲の骨組み的なフレーズをどんどん入れ替え足していったりを繰り返していきます。この繰り返しの陶酔感によって自然とフロアを高揚させ温めていくという新しい彼らのライブの形、そしてどんどん体の動かし方を変えていく観客、あのときの会場の空気感が見事に保存されてます。

そして元アルバム最終曲、その前にも2018年にシングルとして発表された「動物的/人間的」ですが、この頃ってどんどん難解になっていった時期にも関わらず突如リリースしたこのシングルが「壮大でメロウな歌もの」だったんですよ。メロディもポップだし、何より歌詞が珍しく直球でエモーショナルだった。というわけでよくライブの最後に全てをまとめあげる役割を担っていたんですが

こちら、野音の録音なのでカセットテープから流れてくるようなローファイな音にわざと録られています。これにより原曲の壮大なメロウさとはまるで逆のメロウさへと変貌、そのギャップ、そして哀愁にやられました・・・。workshop1をベースにこの3の新曲を幾つか足し尚且つまた新しいアレンジを模索している、というのが今のオウガのライブに最も近いかもしれません。

 

以上workshop3作でした。あとはライブではないんですが、リアレンジ編とも言えるこちら

conffidencial(2013)

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三部作発表時のEPは未発表音源をまとめたテイク2とも言える作品ですが、「バックシート」「バランス」「また明日」等の初期曲がAOR風の後期のふわっとした作風に書き換えられていて、しかも元の曲が突き抜けたポップさがあっただけにロックな質感が減りよりポップになってるのが面白いですね。

そして素敵な予感 (alternate version)は実はworkshop3のものとも違いライブテイクは未収録ですが、alternate versionのライブは本当にヤバくてこの音源はそれをかなり再現されていて必聴です。地響きするんじゃないかというくらいの暗黒ノイズにより塗りつぶされたダブへと変貌し一度聴いたらこの重さは忘れられない・・・。

 


 

終わりです。バンドを聴くという上でそのバンドのライブに行く、ライブアルバムを聞いてその変化を楽しむ、というのは深く掘り下げるには基本的に通る道だとは思うんですが、オウガに関してはその重要度が特別高いと思われます。最初にも触れましたが、難解だと思っていた音楽がとにかくめちゃくちゃ踊れてめちゃくちゃ轟音を浴びれる、これだけで印象がガラリと変わると思うんですよ。自分もこういう楽しみ方をリアルタイムで追えているのは初めてであり、ここまでライブに通っているバンドは他にいません。

 

最後に参考にさせて頂いたインタビューをいくつか

ロープ、が最初は観客に嫌がられていた曲だったのが今や一番盛り上がる曲になっていた・・・のくだり、笑えますが非常に面白いですね。より魅力が伝わると思います。

 

あとこちらも。

 

終わりです。

 

おまけ

kusodekaihug2.hatenablog.com

OGRE YOU ASSHOLE 全アルバム感想

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2001年結成。初期の頃は90年代のUSインディーをベースにしたようなロック~ディスコパンクシーンとも比較されながら徐々にサイケデリックへと傾倒しAORクラウトロックプログレの空気まで入っていきながらソフトサイケな歌もの → ライブで轟音~グルーヴ重視へと大化けするというバンドです。

一時期狂ったようにライブに通いまくってました。かなり多方面から楽しめるというのもあり1stから順に追っていきます。

 

 


 

OGRE YOU ASSHOLE(2006) 

OGRE YOU ASSHOLE/OGRE YOU ASSHOLE : UK/US/JPロックレビュー

セルフタイトルの1st。元々OGRE YOU ASSHOLEというバンド名の由来はかつてメンバーが敬愛していたModest Mouseの来日ライブに行ったとき、メンバーにサインをねだったところ書かれた文字(もうほぼラクガキみたいなもんですが)をそのままバンド名にしてしまったというエピソードがあります。で1stアルバムということでそんなModest Mouseを強烈に思い出すローファイな作品、というか歌い方までも近いと思わせる瞬間もあるんですがあちらと比べるとジャケット通りかなりダークな雰囲気漂います。

で割とメロディーも声もキャッチーで普通に00年代の邦楽ギターロックな流れでも聞けるアルバム・・・だとは思うんですが、かなり不穏で、後期の本格的なサイケデリック・ロックとかとはまた違った、独特の得たいの知れない危うさとも言える別の意味でのサイケ感が滲み出てますね。「タニシ」「また明日」という今でもライブで聞けるナンバーも収録されていてこの辺もメロディはポップなんですがかなりくたびれてます。「ロポトミー」では今からは考えられないようなシャウトも。タニシでのツインギターの絡み合いは割りと後にも通じるかも。

割とUSインディーライクな作品ながらこの頃からドラムは後を想起させるミニマルさのようなものがあってこれが結構浮いてるんですが味になってますね。というかドラマーだけ当時からプログレクラウトロックとかポストロック嗜好だったというのもバンドの出自や後の音楽性を考えるとめちゃくちゃ大きい気がする・・・。

 

平均は左右逆の期待(2006)

1st後に出たEPで前作と比べたら音もキレイになり雰囲気もポップになりました。というか1曲目からアコースティックで始まりオウガ随一ポップな曲で前作から来るとびっくりするんですが、捻くれた曲展開というか予想外なとこから飛んでくるのは相変わらず。

そして「アドバンテージ」はこれまたおそらくModest MouseのLoungeを想起させる疾走ナンバー、をめちゃくちゃ肉付けしてよりドラマティックにした感じで、この頃のUSインディーを咀嚼した~という王道のロックサウンドはこれで完成されちゃってる気もするし次作の1stフルアルバムへも繋がります。後に難解になってくことを考えるとストレートにクールがギターロックやってた唯一の曲じゃないでしょうか。

 

アルファベータ vs. ラムダ(2007)

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今でもよく聞くアルバムです。フロントマンである出戸学が度々影響を公言するTelevisionの色がフレーズや音色からもかなり濃く出てきて、マーキー・ムーンで見られる単音ツインギターの絡み合いの上で歌ものインディーロックをやるといった感じ。リフとリフを反復しセッションした後どんどん新たなギターフレーズが登場しドラマティックに展開していく・・・というのをわかりやすく3分~5分のサイズでコンパクトにしたような曲が多くてギターのフレーズを耳で辿るだけでもこれがかなり楽しい。

Modest MouseというよりBuilt To Spillっぽい感じがかなり出ていてオウガの中で最も人懐っこいアルバムにも聞こえるし、でもやっぱりちょっと無機質な感じになっちゃうのは出戸さんの声と掴みどころのない歌詞、情報量の割にアンサンブルはスッキリしてて隙間がハッキリ見えるってのもあるかもしれません。今では別物に変貌してしまったライブアンセムの「フラッグ」の骨組みとも言える原曲もここ。

 

しらない合図しらせる子(2008)  ピンホール(2009)

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メジャーデビューシングル「ピンホール」とEP「しらない合図しらせる子」ですね。デビューということでピンホールは非常にポップで最も一般受けする曲かと。この頃からプロデューサーとして石原洋、エンジニアに中村宗一郎というゆらゆら帝国を手掛ける二人と手を組みます。

そして今作、後期のどんよりとしたサイケデリアとはまた別の、多幸感あふれるメランコリックなサイケデリアが結構滲み出てきてて、この辺はおそらくThe Flaming Lips由来だと思うんですが石原洋と最初に会ったときこんなことやりたい、ていうモデルの一つだったみたいです。ギターの音も大分くぐもった乾いた質感になってきてこれも後期への兆候な気がするけどまだまだUSインディーオルタナの範疇って感じがしますね。

 

フォグランプ(2009)

前作と同じく単音ツインギターのアンサンブルによる歌もの・・・の延長ですが、そこまでキャッチーではなくなってて後期のサイケデリックな空気がぼんやり出てます。で尚且つその空虚さを伴ったまままだギターロックの範疇という異色作でもあり、後期のサイケ期を期待して聞くと物足りず、逆にアルファベータを期待して聞くと重くなりすぎな感じもありますが、だからこそ今作が一番好きって方も結構いそうですね。

あとは一つのリフを繰り返してくうちに徐々に絶頂へ向かう・・・という淡々としたアンサンブルの中で変化を楽しむ「ワイパー」等、ドラマティックに展開していくラムダとはここも違いますね。ジョニー・マーがオウガを指して「CANを早回ししたようなバンド」と例えたことがあるのですが、時期と音的におそらくこのアルバムかな~と思います。

 

浮かれている人(2010)

さてこちら・・・フォグランプと並び丁度中間、サイケ寄り・・・録音の質感は全体的にふわっとしてますが、リードトラック「バランス」がしらない合図しらせる子とかで出てきてたThe Flaming Lips歌謡の完成系とも言えるもので、たぶんオウガ屈指のポップさを誇っていてその印象のままあっさり聞けちゃうんですよね。

「タンカティーラ」とかもかわいいキラーチューンでフォグランプと比べると全体的にポップなんですが、この明るさ、今までとは違いシュールさを伴ったものなんですよね。でこのシュールさって深読みすると少しだけ不気味に感じるような・・・という、ちょっとだけ毒の入った明るさだと思います。ジャケもね。

 

homely(2011)

OGRE YOU ASSHOLE - homely - Amazon.com Music

さて、こっから完全に今までの音楽とは別次元に行ってしまった感じがあり"USインディー"的な聞き方をすることはほぼできません。石原洋+中村宗一郎というかつて90年代にWhite Heavenを率い、00年代ではゆらゆら帝国をプロデュースしていた二人と組んだことで完全にサイケデリッククラウトロックといったあの乾いた音楽へと変貌。リアルタイムで追っかけてた人は一体どう思ったんだろうか・・・。

ということでもう最小限のビートを刻む淡々としたギター、ドラム、ベース、そこにプログレクラウトロック的な効果音が飛散しながらミニマルな繰り返しの中で虚ろに踊るような、そこにゆらゆらとボーカルが浮遊しているような、そんなアルバムです。

歌詞も今までは意味があるようでないような単語をハメ込んできたオウガですが、「居心地の良い、悲惨な場所」をテーマに「ここから出ることはできない」と言う息が詰まるような閉鎖的な空気に包まれていて、統一感のある録音も含め完全にコンセプトアルバムです。そもそもこの音楽性自体が、今までの作風の地続きではなく"描きたい世界観に合わせて音を選択した"というあたり、今作からライブとスタジオアルバムを完全に切り分けるようになります。

最初聞いたときこの空気にやられて非常に重苦しかったんでが、ライブで大化けする「ロープ」「フェンスのある家」辺りのキラーチューンの原型も収録されてて、乾き切った空虚な録音の印象で塗りつぶされてますがよく聞くとメロディーはちゃんとキャッチー。でこれらを再編集しより肉体的になったworkshopというアルバムが後に出るのですが今作がしっくりこなかった人に是非オススメしたいです。後から聞くほど発見の多いアルバムだと思います。

 

100年後(2012)

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100年後。前作の終末感を引き継ぎつつ、直接的に終わりを表現せずに100年後という"終わった後"を当てはめるのはかなりオウガらしいタイトルだと思います。

そしてこちら、僕は最初に聞いたときついにさっぱりわからなくなってしまったアルバム・・・というのも前作から引き続き完全にサイケやってるこの頃を三部作と呼ばれてるんですが、かと言ってhomelyとはかなり趣向が違いますね。録音のふわっとした質感くらい?まだ前作の方がビートで聴く感覚があったので踊れた。

今回、たぶん今までで一番歌の比重が大きいです。あと音への没入感。音を鳴らした後の残響、が着地せずに地続きに浮遊し、ぼんやりと広がってくその幽玄な世界観に浸るといった作品です。めちゃくちゃメロウ。和製AORって感じも。

 

ペーパークラフト(2014)

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ジャケットが素晴らしいですね。homely、100年後から続く三部作では個人的に一番好きです。今までのオウガってミニマルな曲とメロウな曲がそれぞれ存在していて(homelyならミニマル、100年後ならメロウ寄りでしょうか)、それらを共存させたアルバムを作るということで「ミニマルメロウ」がコンセプトだったようです。ということで結構双方の作風を引き継ぎつつポップになってるので、この三作では一番とっつきやすいかも。

ライブの定番である「見えないルール」は音源の時点でミニマルなファンクという、homelyでも見られた無機質なダンスナンバーとして完成された感じがあります。そして「ムダがないって素晴らしい」はギターではなくドラムとパーカッションが主格となる"リフ"的なものを担っていて、そこにキャッチーなメロディーが乗ってくのがクラウトロック歌謡として完全に完成された曲だと思う。CANのTago Mago辺りが好きな人にはたまらないと思うしよくここまでポップにしたなぁと思うし、反復と歌のバランスがミニマルメロウを模索してる中でやってたのかな・・・と思います。

 

ハンドルを放す前に(2017)

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前作ペーパークラフトで提示したミニマル/メロウの基準でいうと完全にミニマルに振り切ったような作品で今作からセルフプロデュース。「頭の体操」「なくした」といった曲はスカスカながらもペーパークラフト以上にファンキーで踊れる曲も多数あってこれが中々新しい感覚です。

そして「ハンドルを放す前に」「あの気分でもう一度」辺りは曲の要所要所でそのフレーズ一本で曲の印象全て持ってくようなキャッチーな場面が少しずつ忍ばされていて、本当に些細なワンフレーズが挿入されるだけとかそんなもんなんですけど、ただでさえいつもがミニマルのため極小→小という動きでカタルシスを得ているような感覚があります。ということで聞けば聞くほど空っぽな心地よさの奥にドラマティックなものを見出してしまうというアルバム。あと音源だとスカスカな分ライブバージョンの広がりのある音響でメロウへと大化けするし、隙間が多い分各フレーズのぐにゃっとした感じも楽しめます。

 

新しい人(2019)

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ミニマルなソフトサイケで、結構今までのアルバムの中でも「歌」の要素が強いかもしれません。でもって三部作程重くもなく、あっさり聞けるシンプルなバンドアンサンブルのソフトサイケというか、今までの音の引き方とはちょっと違い、音の規模、世界観そのものが縮小され"そこ"でなってる言葉と歌、という印象を受けます。

順を追って聞くとペーパークラフトで突き詰めた「ミニマルとメロウの共存」が最も自然な形で出てきてるアルバムじゃないでしょうか。空っぽなのに暖かみがあるというか。で歌詞も対象物がほとんど出てくることなく現象、状態を示す言葉が連ねられていく感じで、石原洋が今作を「さっきまで誰かが"いた"ような、座っていた椅子の温もりが残っている」と捉えていたのもかなり納得しました。

そして「さわれないのに」は個人的に傑作だと思っていて、ライブで聞いた時はもちろんですが音源公開時も非常に盛り上がりました。オウガの持つ無機質ながらも体を動かしたくなるファンクネス、あの要素をうまくポップソングとして聞ける形に落とし込んでるというか、これ新しいファン層もガッツリ掴めるんじゃないかと興奮した覚えがあります。

 


 

以上でした。後はライブアルバム・・・というよりはライブ音源を再編集した「workshop」についてですが、個人的にオウガの最も大きな魅力が詰まってる三作だと思ってるので、正直重要度は上記の作品より高いと思ってます。

世界観に合わせて音を選択した後期のコンセプトアルバムを考えると、こちらこそが真のバンドの姿であるとも言えます。その辺について書いていきます。