朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

記録シリーズ:Autechre

90~00年代を重点的に各アルバム感想。


オウテカの新譜となる「SING」をリリース、そして直後に事前情報一切なくサプライズとしてもう一枚「PLUS」がリリースされました。

元々自分がAutechreにハマったの自体がここ2~3年で、もとよりIDMというジャンルのパイオニアとして90年台にWARPを代表する大御所、自分が一人Autechreを発見し大熱狂してツイートしてた頃には皆もうとっくの昔に済んだ道だったと思うので、新譜をきっかけにそういった人達の現在の間奏やノートに投稿された記事、ツイートを読むのが正直かなり楽しかったです。

中でもSIKEI-MUSICで知られるファラ氏のNOTE

めちゃくちゃ良かったです。良すぎたので自分なりの言葉で「ぼくとオウテカ」的なやつをやろうかな・・・となり、前々から膨大なディスコグラフィを少しずつ辿るという行為が好きでよくBOX SETを買うのですが、その軌跡を残してみようと。丁度一番聞いていた90年台~代表作であり最も実験的であるConfield~Gantz Grafに至るまでをやってみました。まさしくシングルやEPを集めたBOX SET(EPS 1991-2002)から自分は入門したので、そちらに収録されてるEPの時期と、並行してリリースされていたオリジナルアルバム達がメインになってます。とくに代表作でありながらもかなりとっつきづらい「Confield」「Gantz Graf」が入門になるかと言うとちょっと微妙かなと、それ以前の作品を聞く指標にでもなればと思います。

基本的にロックしか聞いてこなかった人間がテクノ~アンビエントに関する知識を持たずにどう受け取ったか、逆に普段からそういった音楽を聞く方々からしたら浅い解釈だと思うのですが、一ロックファンが偶然Autechreに出会った一つの記録として見てもらえると幸いです。そして近い目線の方には少しでも参考になればと思います。

 


 

Cavity Job(1991)

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BOX SETの1曲目である1991年のデビューシングル。正直Autechreとしての面影はほぼなく、この後何があったのかと心配になるくらいわかりやすく真っ当なアシッド~ハードテクノって感じの作風で、速くて重くて聞きやすいです。最初に聞くってよりはアルバムを一周してから出発点として聞いて「なんで?」てなってほしいシングル。

 

Incunabula(1993)

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1stアルバム。本人たちはこれをヒップホップと呼んでいますが、アンビエントを想起させる美しい音色と浮遊感の中にとてもキャッチーなリズムでメロディーを形作っていきます。ある意味Autechreの一番の個性である強烈で金属的なサウンドはほぼ見られないんですが、じめっとした深夜の高速道路とかに一人細々と聞きたくなるような、心地の良い無機質なようで有機的な暖かみすら感じる透明感の音色に浸る。リズムと音色とメロディーそれぞれの境界が曖昧で溶け合ってる質感は一番強いです。音が固形ではない、というか。そして代表曲である「Bike」や個人的ベストトラックである「Autriche」ではループの中でもとにかく記憶に残る印象的な1フレーズをフックとして持ってくるのが非常にうまい。よく無機質な音楽と呼ばれるAutechreの中でもとくに聞きやすく最も普段聞きする作品。

 

Amber(1994)

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2ndアルバム。今作もかなり聞きやすく実際90年代では最高傑作に挙げられることも多いですね。全体的に音の先が丸くなり前作はどちらかと言うとシンセの上物のふわっとした部分、楽曲を覆っている衣とも言える部分が微かにメロディーを作っているという感じでしたが、こちらに関してはそれぞれ完全にメロディアスなフレーズがくっきりとしていて、音の輪郭が見えるようなキャッチーな電子音が曲を形作っていきます。とは言えアンビエント的な原風景的な音色の美しさも残っていてどっちにもなりきらずバランスを取っているような、初期の人気作と言われてるのも納得です。

 

Anti EP(1994)

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Amber録音時に同時に制作された同年発売のEPで3曲入り、これがめちゃくちゃ濃くてエッジィなブレイクビーツ軍団になってます。Amber自体が彼らのディスコグラフィの中でも最高傑作に上げる人も多い作品ですが類似作が少なく、そしてあのアルバムを好きになった方は是非その関連作、続編としてどうぞ。

 

Anvil Vapre(1995)

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4曲入りEP。この辺から聞き進めるのがどんどん楽しくなってきます。1995年に三枚出してますが新しい作風な上、どれも全く違った色、でもってちゃんと後に還元されてくものばかりでBOX SETという形でまとめて聞くことで全体像や流れが見えてくるのがやっぱり良いですね。1曲目の「Second Bad Vilbel」から10分近くあり、もう1st2ndのAutechreとはまた違った、今までのAutechreがゆっくりと浸りながら虚ろに体を動かす(脳内で)みたいな感じだったのに対し今回は割とハードなブレイクビーツで、ノイズは重くなり低音も強調されていて同時代のμ-Ziqの初期二作やAphex Twinも思い出します。

 

Garbage(1995)

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そしてこちらGarbage、個人的にこの頃のAutechreの傑作・・・というよりもう代表曲これでいいのではと言いたくなるくらいで、先ほどのAnvil Vapreがハードだったのに対しこちらはより「浸る」音というか、より自分のイメージする当時のIDMって感じですね。プチプチと何かがはじける泡のような効果音が近づきすぎず遠すぎずの位置でキャッチーなリズムを細やかに反復、音色を変化させながらより奥へ奥へと潜っていきます。常に隙間が見えるような音の流麗な配置も本当に美しくて、お互いの隙間と隙間を接触しないように距離を取りながら埋め合うような感覚は14分という曲の時間を忘れるほどに心地が良い。何度聞いても飽きず、単曲で言えば最も好きな曲かもしれません。

 

Tri Repetae(1995)

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3rdアルバム。この辺からグリッチっぽい硬質でエッジの効いたサウンドに寄ってきます。後期程ではないですが、前作まであった透明感はほぼなくなり、ビートを形作るキックやハイハットの音がグリッチ寄りの鉄の塊のような効果音みたいになっていて、それらがヒップホップやファンク的に体を揺らしたくなる、機械的な反復から生まれるグルーヴで非常に心地いリズムを刻み始める。これがかなりかっこいいです。個人的に初期Autechreと実験的になってきた00年代前後のAutechreの中間だと思うので、とりあえずどんなアーティストか知りたいときここ収録の「Clipper」や「Eutow」や後に出てくるLP5というアルバムがいいんじゃないかと思っています。SF感も非常に強く、これも後期の路線へと繋がっていてやはり非常に好きなアルバム。

 

Chiastic Slide(1996)

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4thアルバム。この辺からかなりとっつきづらくなってきます。完全にインダストリアル的なノイズと言いますか、金属と金属がぶつかり合ったかのような強烈な音を加工して全面に押し出したような、しかも今まで以上にシンプルな音数、隙間のある作風で強烈な音色をフックアップしながら太いビートをひたすら反復。長尺な曲も多く、しかしそんな作風の中でもドラマ性があり、これが00年代以降のどんどん難解になるAutechreを紐解く上での重要な作品になってると思います。ぶっ壊し方というか。

 

Cichlisuite(1997)

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Chiastic Slideと同年のEPで、こちらも同じく実験的でちょっととっつきづらい・・・ですが、1曲目2曲目ともにあちら程ミニマルではなくある程度音の変化が大きく細やかなビートを刻んでいるので聞きやすいかも。全体的にとても暗いですが、個人的にどんどん高速になっていくPenchaという曲がお気に入りです。

 

Envane(1997)

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こちらも同年EP、大傑作だと思っていて初期の後期の作風のいいとこどりをしたような実験的かつバラエティに富んでいてどっから聞いてもかっこいい。初期の透明感のある柔らかな音色と、90年代後半Autechreの金属的で硬質なノイズ要素が散りばめられた李同居していたり平行に襲い掛かってくる感じです。相変わらずメロディーは希薄ですが1曲目Goz Quarterは割とキャッチー、音色自体がポップな質感で、個人的に3曲目Laughing Quarterがとにかくハードで、硬質で尖ったフレーズをひたすら繰り返すのでとにかく聞きやすい。ビートが弾力を持った感覚は00年代以降の作風とも繋がってくると思います。

 

LP5(1998)

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5thアルバム。こちらもChiastic Slideと同じく、最早シンセサイザーによってつくられた音色という枠を超えよくわからない機械音やバグって出てきたノイズ、どっから鳴らしたのかよくわからないようなサンプリングにも聞ける"Autechreの音"としか形容できないものを加工しそれをメロディアスに再編成したかのような曲が印象的で、しかもそれがキャッチーなんですよね。Chiastic Slide程振り切ってないというか、今までは素材をバラバラに解体し数学的に曲を作ってきたというAutechreですが、今作LP5に関してはメロディー主体で作るという本来スタンダードで感覚的な作曲を初めてやったらしく、わかりやすい故に逆にAutechre目線ではいつもより実験的な作品、らしいです。1曲目の「Acroyear2」から鼻歌したくなるようなメロディーがノイジーな作風の中からその音色のまま出てくるのでえらくスタイリッシュ。後半の展開とか普通に泣けますね。代表曲でありとても美しい「Rae」も収録されていてTri Repetaeと並び入門にうってつけかと。

 

EP7(1999)

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トム・ヨークが影響を受けたということで代表作にも挙げられる傑作EP。Chiastic Slideであったその音のぶっ壊し方、ぶっ壊れた音というのがより洗練されていて、今まで割とわかりやすくキャッチーだったAutechreのそのリズム、ビートに対するアプローチ自体が更に複雑でより実験的になってます。とくにDroppという曲を実は僕は最初に聞いたAutechreだったのですがとにかく衝撃でした。形を持たないノイズ自体が上下左右いったりきたりしていてこれはメロディーなのか・・・?となり、この持続するベース音のようなノイズが途中から拡散し全てを覆い尽くすグリッチノイズのようでこれがまた逆にメロディアスなビートを刻む瞬間があったり、やっぱりただのアンビエンスだったりあらゆる角度から飲み込んでくる。何度でも聞きたくなる中毒性があり、ビートというよりは完全に音色の変化を聞かせる方向へシフトしてます。この曲をきっかけに収録されているBOX SETを購入したのもいい思い出。PVもかなり良い。

 

Peel Session(1999)

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個人的にこれもこの時期の大傑作だと思っていてEP7よりアルバムとしては好みかも。Envaneでも触れたような、硬質なノイズ成分強めのAutechreと透明感のあるアンビエンス漂うAutechreの境界があまり無く、録音が1995年ということで丁度Tri Repetaeと同年なので、その中間となる時期だったからかもしれません。Milk DXやInhake 2は上記にあったGarbageも想起させる曲なのですが、キャッチーなリズムの反復の中で音色を変化させ深く潜っていくのがGarbagegだとすると、こちらの収録曲はむしろ潜るというより液状化した金属がその場でどんどん形を変えていくのを見てるというような印象です。

 

Peel Session2(2000)

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よりバリエーション豊富な作風となったPeel Session2で、割とこの中でも特異というか特別尖った作品ではないと思うんですが、〇〇に似ているというような他のアルバムと相互関係にはそんなない気がしますね。1曲目「Gelk」がEP7のDroppのイントロを想起するどこか抒情的で不穏な、けど少し温かみのあるシンセの音色が最低限の音で曲を構築していて割と聞きやすい入り。そして「Blifil」ではめちゃくちゃかっこいい高速金属テクノで疾走、音色はAutechreなのでここまでストレートな曲だと逆にものすごく新鮮。しかもこの速度で7分!?と驚きながら聞いていると途中からどんどんぶっ壊れてく感じはAutechreならではです。

 

Confield(2001) Gantz Graf(2002) 

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そしてこの後かの代表作「Confield」「Gantz Graf」をリリース。どちらもより難解で、Confieldは最早音楽というより音の素材そのもの、ある意味今までの金属的だったAutechreの極地ではあるんですが、そのAutechreを構成していた鉄の音を無加工で今まで以上にスカスカなリズムを組み立てていきます。Gantz Grafは耳をつんざくようなハードなノイズによる高速テクノで電子音楽版のメタルとでも言うような重さ。

Confieldはミニマルに少しずつ変化していくリズムの動きを楽しむ方、Gantz Grafに関しては元々へヴィな曲や過激なノイズミュージックが好きな方には逆にキャッチーかもしれません。自分自身まだ理解しきれてない部分が非常に多いですが、これらが規定概念を破壊し00年代に新しい音楽を生み出すきっかけになったと言わてるのもわかります。だからこそ未だにこれらの作品が代表作として語り継がれてるのも納得なんですが、ここまでの道のりもそれなりに長く、そしてその過程も素晴らしいので是非とも違う切り口から聞くきっかけになればいいかなとも思っています。

Untilted(2005) Exai(2013)

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そしれそれ以降、Confieldでの無感情で余りにも機械的な作風は2005年作の「Untilted」で一定の形として完成したと思っていて、間違いなくConfield通過後の音なんですが、割とメロディーが存在する上に細やかにビートが変化し展開も多いのであちらと比べれば聞きやすいかと。その後もリリースは続くのですが、90年代の作品が好きだった自分は集大成と言われた2013年作「Exai」もとてもよかったです。近年だとこの二作が好きですね。

そして新譜「SIGN」と「PLUS」ですが、まだまだ全然聞き込みが足りませんが上でも触れた初期の1st2ndに割と近い質感があり、ただ音色自体は2013年作の「Exai」の延長でもあるかなとは思ってるんですが、どんどん上物の透明感のある音響、アンビエント的な音色だけどアンビエントではなくもう少し形を保っている音楽にも聞こえます。で尚且つ面白いのが1stの頃のようにリズム自体がキャッチーな具合ではなく、その音色、アンビエンス漂う上物それ自体がリズムを刻んでいる感覚がありそれがとても美しい。隙間が映える作風なのも好みです。


以上でした。基本的にロックを聞いていてもハードコアやオルタナティブ・ロックのノイズに呑まれてく部分や不協和音的な展開が大好きだったり、スカスカの中でリズムがぶっ壊れていくタイプのポストパンクが好きだったりするので、割とAutechreのそういうエッジの効いた面とは呼応したのかな、という気もします。むしろよりクラウトロックやインダストリアルの初期作の聞き方が変わったり、ヒップホップへの興味が動いたり等とても大きかったです。

ちなみに僕がとくに好きなアルバムは1stのIncunabula、次点でLP5というところでしょうか。入口としての聞きやすさではAmberがいいかと。アンビエント的な作風が好きだったり純粋に音色の優しいテクノが好きなのなら1st2ndから入り、ロックファンならLP5やTri Repetaeがいいかもしれません。1st2ndが好きならGarbageを、LP5辺りがヒットしたのならEnvaneを、もしくはこのままGantz Grafでもいいかも。

ショーン・ブースはプレイリスト文化がとても嫌いなようですが、過去に作った1時間ちょいで気軽に聞けそうなプレイリストを置いときます。

 

最後に自分がこれを書き始めたちょい後に出てきてこれ完璧じゃん・・・となったMikikiの徹底ガイドです。EPやシングルには余り触れてませんが、1stアルバム以前のコンピレーションやWARPレコードを踏まえた当時のクラブシーン等の時代背景、ジャンル全体の切り口からわかりやすくまとめてくれてます。自分も初めて知ることも多くとても勉強になりました。