年間ベストの漫画版。以前も一年のまとめ記事で音楽とセットで漫画について書いたことはありましたが、せっかくなんで個別でまとめて好きなだけ書きました。
悪魔二世 - 志波由紀/ハルタ
2023年ダンジョン飯目当てにハルタを購読してたんだけど、その時期にたまたま第一話が始まったのを読んで衝撃を受けた。悪魔にとりつかれて机に何度も頭を打ち付ける異常な店長を目の前にしても17時になった瞬間「定時なので」と言ってそそくさと帰ってしまう河城が好きすぎる。しかも何事もなかったかのように次の日普通に出勤してくるのも良い。普通の人間の河城と、悪魔の娘として生まれてきた得体の知れないクラスメイト源間さんの悪魔退治(とも言い切れない)の怪奇もの。第一話から結構ヤバイこと起きてるのにこの二人のマイペースすぎる掛け合いが最高。冒頭の「お母さんの遺体には心臓が無かった」から異様な雰囲気が漂うけど、このどっか抜けた二人のオフビート感が淡々としてるようで暖かみがあって良い。敵側として出てくる日常に潜む悪魔たちもみんな良いキャラをしていて人間臭い。人間側にもちゃんと毒がある。高橋葉介が80年代に同時進行でやってた夢幻紳士の怪奇編(めちゃくちゃシリアス)と冒険活劇編(めちゃくちゃ快活)の丁度いい中間くらいの雰囲気がある。ちょっと山岸涼子も思い出す。かなり好きな作品で続きが本当に楽しみ。
開花アパートメント - 飴石/ハルタ
こちらも昨年ハルタを購読してた時にちょくちょく読んでた作品。基本的に一話完結のため短編かと思ってたから結構ちゃんと続きものだったことに驚いた。何かしら事情を抱えた一癖も二癖もある住人たちが暮らすアパートの日常を描いた作品で、大正末期の日本が舞台でハイライトの無い吸い込まれるように真っ黒な目とかベタ塗りの黒が映える背景とかどことなくゴシックで死ぬほどかっこいい。ページを捲るスピードが上がるようなタイミングで見計らったかのように間を置く情景だけのコマが挿入されてハッとなる。全員が全員問題と向き合って綺麗に解決するような話ではないが、短編としても読める単発エピソードで描かれた住人達が後の話で少しずつ距離を詰めてたりするのが愛おしい。あなたが欲しがったのに/与えたら死んでしまった 化け物になりたい/成敗されたいっていうセリフを見て(どれもこれも印象的でとても刺さった)きっとこの漫画は罰されたい人たちの話なんだろうと思う。
ビューティフルプレイス - 松本次郎/わいるどヒーローズ
松本次郎最高!2011年に連載していた女子攻兵は女子高生型アンドロイドに乗り込んで銃撃戦をするという内容からは想像もつかないサイケデリックで壮大なSF傑作で(諸星大二郎が帯を書いてたのも印象的だった)、個人的にオールタイムベストにも挙げたくなる漫画だけど、今作はそのまま生身の女子高生によるガンアクション漫画。内戦下の日本で自立した学園都市の女子高生たちが銃を持って治安維持や勢力争いをしてる世界観でほぼブルーアーカイブ。相変わらず綺麗に整頓された敷き詰められたコマ割りとガサガサでファジーな線の粗さが対象的で戦闘シーンの躍動感が本当にすごくて、銃撃戦だけでなく生々しい肉弾戦もめちゃくちゃかっこいい。超絶治安が悪い舞台設定と口の悪いイカれた女子高生が出てくるのは作者の節が効きまくってるが、今回主人公はある程度常識がしっかりしたお嬢様なのがとても新鮮。しかもめちゃくちゃ強い。どこまでが現実で記憶なのか妄想なのか幻なのか全てが曖昧なドラッグ漬けの作品を書かせたら松本次郎の右に出る人はいないと思っているが、今回そういった側面は抑えられている。フリージアも名作だったけどドラッギーすぎて怪作寄りだったと思うし、長いキャリアの中ここにきてストレートに面白い新たな代表作を描いてるように感じてとても興奮する。
税金で買った本 - ずいの,系山冏/ヤングマガジン
ここ2~3年コミックデイズの定期購読でヤンマガを読んでいて、昨年ちょうどやってたビブリオバトル編のあまりの素晴らしさに胸を打たれて単行本を集めて完全にファンになった。ヤンキーが図書館のアルバイトをすることで変化していく人々や見えてくるものを描いた作品で、図書館って基本無料で利用できるが故に貧困と繋がっているし、公共施設なので様々な問題を抱えたお客さんが登場する。サービス業で働いたことがある身としてはめちゃくちゃ見覚えのあるクレーマー(とも一概に言い切れない方々)の描き方にドキッとする。個人の問題から環境や家庭の話へとシフトしていく流れも面白いし、ポジティブに向き合っていくために新しい視点をたくさんくれる作品。お仕事漫画としても面白く、館の方で決められたシステムや業務の効率化のため作られたルールなど、それって利用者にとってはあんまり関係ないんじゃない?ていうのをフラットなバイト目線で切り込んでいくのは唸らせられる。普段は頼れる先輩なのに忙しそうな素振りで電話は取ってくれない白井さんの描写とかは会社で思い当たる節ありすぎて、こういうさりげないハイコンテクストな描写に正直かなり喰らった。あと女性陣がかわいすぎるのも良い。自分がハマるきっかけになったビブリオバトル編は最近発売された13巻に丸ごと収録されていて、単発エピソードとしていきなり読めるのでとてもおすすめです。
生活保護特区を出よ。 - まどめクレテック/トーチ
トーチ無料時期に全部読んで単行本を集め始めた。面白いっていうか、凄まじい。経済的自立困難者が別地区に隔離されるイフの日本のフィクションだけど決して他人事として読んでいい内容ではなく、すぐ近くまできてるような生々しさがある。生活保護特区って色々なメタファーが詰め込まれていると思うけど、正直自分たちのこととして余裕で見れるというか、架空の宗教を崇拝している=何か共通のコンテンツを軸として集まってるオタクのコミュニティみたいにも見えてしまった。生活保護特区のみんなは一般的な家庭の幸せだったり社会的地位に未練がない。中央区で数年真面目に働ければ脱出できるチャンスはあるらしいのだが(もちろんそういう人も本当はいるのだろうが)、漫画の中ではその権利を破棄してるシーンが出てくる。少ない補償金をもらってやりたいように生活している。みんな死にたいと毎日言う。劣悪な生活環境で将来に希望などないが何故か楽しそうに見える。彼らは、廃棄されている電化製品をDIYで改造して楽器にして演奏したり、電子書籍がメインになり廃れて本土から捨てられた紙の本を集めたり、自分たちのラジオ局を作ったり、壁に絵を描いていたりする。生活保護特区の話をしているが、結構、本当に自分やその周りの人達、ツイッターで見てきた光景をフラッシュバックした。あまり他人事ではないな、と本当に真剣に思った。どこにいったってうまくいく確証なんてないのだから、自己肯定感が低い人にとって生活保護区で死の淵であっても好きに暮らせることが魅力に感じるのもわかる。朗読のシーンで小説のセリフの引用があったり、一年に一度開かれる祭りが作品の中で一つの軸になっていて、独自の宗教観や文化の背景があって仕込まれてるネタが多く、非常に多角的に見れる漫画で、自分とは違うバックグラウンドを持つ人が読んだらきっと違った意見が出てくると思う。
サチ録 - 茶んた/ジャンププラス
孤児院出身のサチと天使のランと悪魔のボロス3人との共同生活を描く日常ギャグ漫画。こういう全員やりたい放題なクソガキ系ギャグ作品が好きなのでちょっと刺さりすぎた。サチの生活から善行と悪行を天使と悪魔が採点して世界の存亡を決める(悪行が勝つと人類が滅亡する)。悪魔であるボロスがしっかりしていて天使のランの生活がヤバイのも意外とバックグラウンドがしっかりしていて、規律が厳しい天界出身だからこそ子供時代を窮屈に過ごしたランがサチに優しいシーンにグッとくる。これがアホみたいなギャグ路線と同じラインで描かれるのがとてもいいなと思う。
アヤシデ - 水田マル/マンガワン
同作者が2022年にアフタヌーン四季賞をとった77:PRINCESSという読み切りが自分は大好きで(77:PRINCESS - 水田マル / 【コミックDAYS読み切り】77:PRINCESS | コミックDAYS)、どうしようもなく不器用で会社も交友関係も家族も全てがどん詰まりになった主人公がストレスのあまり電車の中で吐いてしまい、大衆から奇異の目を向けられたり見て見ぬふりをされ、何かが破裂したかのように異能に目覚めて大虐殺を行ってしまうバイオレンス作品だった。アヤシデは確実に77:PRINCESSから継承されたものがあると思う(最初同じ世界線かとすら思った)。今回は親がいない兄弟二人を主軸にしていてこれまた結構しんどいシチュエーションが続く。日常のどろどろとした嫌な部分が醸造されて異能や宗教と接続され、取り返しがつかなくった果てにそれぞれが全く違う形で力に目覚めていく。77:PRINCESS時代からあった背景やコマ自体を歪ませたり一目で異形とわかる見開きの迫力がすごくて(77:PRINCESSでの虐殺シーンを直接描かず風船が埋まっていく描写とか、アヤシデ第一話の神が一瞬だけ脳裏に映るシーンとかかなり衝撃を受けた)、ハッとなる瞬間が沢山ある。思ったより胸糞悪く感じないのが不思議な感触で、何より兄弟二人に限らず出てくる人間がみんな素直に愛や悲しみと真摯に向き合ってるように見えて、絵柄も作風もどろっとしてるけど真っすぐな作品だと思う。
あくたの死に際 - 竹屋まり子/マンガワン
小学館マンガフリークでもあるPot-pourriのsawawoさんに勧めてもらって読んだけどいつの間にか夢中になって一晩かけて全て読み終え単行本を買っていた(先日出たPot-pourriの新譜も素晴らしかった)。つつがなく会社員をしていてそこそこ優秀で彼女もいたはずなんだけど、ふっと糸が切れたように出勤できなくなってしまうシーンが結構来るもんがある。創作の呪いというか、情念の話。真面目そうに見えて自分の狂気を自覚してない主人公と、本当に良い作品を作る主人公を信じて不器用な彼をとことんサポートしようとする周りの大人たちに涙が出てくる。読んでいて熱が伝播するようにじわじわと脳が高揚してく感覚があって、ページを捲る手が止まらなくなる。第5話の原稿を読むシーンがとても熱かった。時間を忘れるくらい没頭して作品に入り込みすぎて気づかないうちに涙を流すって経験は自分も死ぬほどある。みんなわかると思う。自分はこういう映像みたいで流れるような贅沢なコマ割りが没入感あって大好きだなと思う。
最終10巻は2023年8月発売なのでギリギリ2024年ではないのだけど、読んだのは2024年で、とても良かったので載せました。阿部共実による海沿いの田舎町を舞台に、30名以上のキャラクターが登場する高校生による青春群像劇。序盤オフビートな日常ものとしてユルく楽しめる作りになっていて(この時点で当たり前とされてることに対して疑念を抱く作者の節が効きまくっている)、ある程度話が進むと違うグループと個別で絡んだり、グループ同士の融合があったりするのは実に高校生っぽくて、積み上げるものが大きくなるにつれて=後半になればなるほど会話劇は加速度的に面白くなる。好きすぎてnoteに個別で巨大な感想を書いていてここまで冒頭の転載です、よかったら是非(潮が舞い子が舞い|曙橋)。
ダークソウルみたいな王道ファンタジーをSF大御所の弐瓶勉がやることに結構驚いたし、人形の国とか近作で見せてた異常な書き込みと真っ白な余白を同時に見せる作画の雰囲気もガラリと変わった。室内ということで黒が映えるし、相変わらず背景すごすぎ。何よりファンタジーらしく色んなモンスターや人種が出てくるけど、最近ダンジョン飯で見たはずのドラゴンとかバジリスクがクトゥルフ神話の怪物達みたいなおどろおどろしい見た目になってて、この独自解釈の異形なデザインがめちゃくちゃ好みだ。あと相変わらず女の子がとてもかわいくて萌え萌えです。過酷な環境でも意外と淡々としてるマイペースな主人公パーティの温度感が良い。全然強くなさそうなのに。いい具合に作画を崩してるのもマッチしてる感じがする。最近本誌の展開でキャラクターがどんどん増えて横の繋がりも広がってきて、同作者の漫画の中でもかなり王道少年漫画っぽい作品になってきた。ビューティフルプレイスと同じ感想ですが、ここまでキャリアを積んできた中で強烈に個を出しつつもストレートに面白い新しい代表作を作ってるように感じて胸が熱くなる。
RIOT - 塚田ゆうた/スピリッツ
高校生二人がZINEを作る漫画。泣いた。だって昨年自分は人生で初めてZINEを作ったから(pärk - 朱莉TeenageRiot)。バララッシュも思い出す。案外みんな手元の小さい世界しか見ていないんじゃないかという言葉が何度も出てくるけど、一回創作に手を出すと比喩じゃなくて本当に目の前の景色が大きく広がってく感覚は確実にある。思ったよりなんでも自分たちでできるじゃんっていう、楽しいし、それはとても素晴らしいことだし、その熱は確実に誰かに伝わる。色々共感する言葉がたくさん出てくる。ありがとうという気持ちでいっぱいになった。
あくまでクジャクの話です。 - 小出もと貴/コミックデイズ
大好き。XTCのジャケットってクジャクの羽根だったんだ。人間同士のいざこざを生物学に例えて一見理に叶っているかのようにシュールに解説していくギャグ漫画。ラブコメとしても最高。理不尽に後輩に厳しい阿加埜先輩に毎度ゲラゲラ笑ってしまう。
告白した相手が実は宇宙人でしたっていうSFラブコメに見せかけて最終的に最初は全く思ってもみなかったスケールへと物語を拡大し未知の方向へぶっ飛んでいきサスペンスへ。油断してた。最初から目の前にあったのに、自分の想像力では手が届かなかった部分がしれっと出てきて、気づいたころにはとっくに手遅れになっている。
星喰い殺しのイグナロ - 山路新/電撃大王
昨年のスカライティと同じくルックと世界観が最高っていう枠。生物みたいなデカいロボットがかっこいい。出てくるワードとかまだ全然意味わかんないんだけど、弐瓶勉のアバラとかと一緒でとにかく圧倒的な絵と世界の描写が魅力的だとわくわくしてしまう。
妹は知っている - 雁木万里/ヤングマガジン
最近ヤンマガで読んでて結構好きな作品。もうすぐ1巻が出るみたいです。妹も兄も萌え萌えだった。今年はヤンマガが熱くて税金で買った本にもハマったし、平成敗残兵☆すみれちゃんもすしカルマのエピソードが全然他人事じゃなくて喰らった。シガンバナやアマチュアビジランテ、伽藍堂のガラクタも好きだし、終わってしまったけど税金で買った本のずいの氏が月刊でやってたセルフポートレイトも面白かった。みょーちゃん先生も相変わらず最高。
ラヴラッド - 西山西子/別冊少年マガジン
今年は別マガで新連載10連続っていう企画があって毎月新しい作品が読めるのにわくわくしたんだけどラヴラッドが一番好き。少年漫画ナイズドされてるけどこれまた結構過酷な異能力バトルもので、アヤシデとチェンソーマンの中間くらいの雰囲気がある。キャラクターのルックがとても好み。
帰れ!大鶴谷帰宅倶楽部 - 田中カタパルト/別冊少年マガジン
同じく別マガ。今年はあんまり新しい漫画を掘ってなくて元々定期購読してる別マガとヤンマガを読むのが楽しかった。帰宅部がただ帰るだけって漫画で自分たちでルールを設けたり最短ルートや裏技を含めた自作マップを作ったりする。自分はここ1年毎日散歩を欠かさずしていて(絵のインスピレーションもそれになっている)、そこもタイムリーだった。
れんげとなると! - nicolai/スペリオール
ギャルが町中華やる。ユルすぎて最高。nicolai先生は某エロ漫画雑誌で描いてた頃から大ファンであの頃はエキセントリックな発想のものしかなかったんだけど(SFとかもあった)、そこが良い感じにギャルの唐突で勢いしかない部分に出てる気がする。
雷雷雷 - マンガワン/ヨシアキ
ありえんくらい面白い。キャッチーなAKIRA。ミスリードの仕込み方もうますぎる。
チー付与 - 六志麻あさ,業務用餅,kisui/コミックデイズ
正直ヨークシン超えた。
終わりです。noteやinstagramの日記で書いた漫画の感想からの転載が多いですが、音楽みたいに一年分丸ごとブログにまとめるのは結構楽しそうなのでこれからも時間あればやっていこうと思います。2023年も別所で書いたものあったから改めてこのブログにまとめ直しました(同時に公開)。今年は図書館に通って萩尾望都や山岸涼子の読んでなかった短編集を片っ端から読んだり、自分自身たくさん絵を描いたりして、追ってる雑誌以外は新作に手を出してなかった故に、掲載誌かなり偏ってしまったかなと思います。
あと関係ないけど村 村で公開されたこちらの記事(君たちが独断と偏見で「月刊アフタヌーン史上、最重要な漫画10選」を決めるなら、僕だってそうする - 村 村)がアフタヌーンだけでなく漫画史を総括する勢いで壮絶でした。歴史の要点をかいつまんで重要作を10作上げつつ、最後に本当に私的なベストを文脈を無視して選出するというやつ。いつか音楽で自分もやりたいなと思った。今年読んだ漫画に関する文章で間違いなくベストでしょう。



















