朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

2023年読んだ漫画

年間ベストの漫画版。元々一年前に別所で書いたやつの転載です。2024年版を新しく書いたのでせっかくなので載せました。


 

 

対岸のメル - 福島聡/ハルタ

福島聡は前作のバララッシュも本当に名作でキャリア長いのにここ数年最新作が面白く新作を出す度に好きな作品がアップデートされてくのすごいと思う。。メルちゃんっていう幽霊が見える不思議な女の子と、小学生の男の子ワキヤくんの心霊ミステリージュブナイル。破天荒なメルちゃんが良すぎるためこれを眺めるというだけでいくらでも読めてしまう。心霊ものなんで当たり前っちゃ当たり前だけど結構人が死ぬ、ユルイ雰囲気に見えて死は日常の中にもすぐ傍に隠れているっていう当たり前のこと忘れさせないほどよい緊張感というか不穏さが良い。メルちゃんは幽霊だけじゃなくて植物の声も聴くことができる。冒頭いきなり「綺麗な花ほどよく文句言ってる」という発言から物語は始まるんだけどこのフックの強さも良い。完全にファンになってしまった。彼女は小さい頃から幽霊が見えてしまうせいで「生きているヒトより死んでいるヒトの方が楽しい」「死ぬのがたのしみ」とまで言い切ってしまうその無邪気さと表裏一体になった危うさと純粋なワキヤくんとのバディが良い。終盤の巨大展開は完全にジャンルの枠を大きく歪める福島聡の節が効きすぎてて痛快。同作者の名作「少年少女」とかと近い、ほのぼのとしてるけどどこか違和感が残る、みたいな空気を継承した作品だと思う。

 

 

ミューズの真髄 - 文野紋/ビーム

大学受験に失敗して以降シングルマザーの母親との関係がずっと呪いになってしまってる主人公が働きながら美大を目指す話。結構出てくる登場人物みんなうっすら嫌な感じだけど、誰もが上っ面を着飾ってコミュニケーションすることで軋轢が生まれ、それらが連鎖して流れるように物語が動いていく。当たり前だけどみんな内に秘めたコンプレックスを隠して生きているし、みんなはそれを知らない。読者からは見えている部分と、登場人物からは見えてない部分の乖離をうまく見せた作品だと思う。ラストの3巻の読後感は凄まじく瞬間的な興奮で言えば2023年ベストかもしれない。王道少年漫画みたいな真っ当に熱い話かと思ったら全然そんなことはないし、うまくいきそうなとこで全部手からすり抜けてしまう、どうしようもなく不器用な主人公がもがきながら継ぎ接ぎで人生をやっていく我武者羅な姿と、それを描写する情念すら感じる圧倒的な絵力、まるで映像を見てるかのような怒涛のコマ割りとすごすぎる見開き、たった3巻とは思えないほど密度のある物語にページを捲る手が止まらない。美しい物語だったと思う。これまでの展開をかなぐり捨てるように主人公である美優が一枚の絵を作り上げる終盤は本当に彼女の人生が一つの作品に帰結していく走馬灯のようで、自分が今までに体験したことないくらい衝撃的な漫画表現だった。何者かになりたかった人に刺さる漫画だと思う。

 

 

ハコヅメ - 秦三子/モーニング

第一部完結記念に全巻公開されてたからまとめ読みしたらハマりすぎて単行本全部買いました。実際に警察官だった作者が描くドラマ化もした話題作。警察コメディものとしてのギャグの切れ味は勿論のこと、かなりえぐい犯罪回が日常的にどんどん挿入されていく。ギャグとシリアスのスイッチのオンオフが存在しないんじゃないかというくらい同一線上で繰り広げられていて、平熱の温度感のまま中和というよりは同居した歪な読み味は完全に唯一無二。それを抜きにしてもギャグの切れ味は本当にすごくて、読んでるだけでゲラゲラ笑い声をあげてしまったお気に入り回もめっちゃある。日常会を積み重ねていく中でキャラクターの造詣や細かい彫りが深くなることで、たまに数十話に一回くらい長編での各キャラの会話や行動の理由やバックグラウンドが読み取れて、散り散りに育て上げてきた歯車を一気に噛み合わせるフェーズが適度にくるというか、これは長篇もののとても良いところだし本当に突き抜けるくらい面白い。全員生きてる感じがするんだよな。で警察なので、恐ろしいこともたくさん起きるし、そこそこキャラクターが退場する。軽いノリで読めるにも関わらず、しっかり取り返しがつかないことが起きるし、日常回でよく顔を出してたコミカルなあの人達もそれぞれに人生があり、普通に戻ってこない。それでもなんだかんだ暖かく読み終えられる回が多く、本当に全てが巧妙だなと感心してしまう。重いのに緊張感がスパイス程度に済んでるバランスが異次元。間違いなく名作。二部も楽しみです。

 

 

ケルトンダブル - コンドウ十画/ジャンププラス

ジャンプラで始まってなんとなく読んでたけど、2巻からの展開で目が離せなくなり今最も更新が楽しみな漫画になった。大衆の前で透明人間に人が殺されるという異形の騒動に巻き込まれて亡くなってしまった一人の男の息子である荒川ヨドミは、本来ただの被害者でしかなかったはずだが、自分が納得したいから、もう少し堂々と生きるために行動を起こす姿に個人的にすごく好感を持つ。心配になるくらい真面目で誠実なんだけど最近の展開で過去エピソードが掘り下げられるにつれ真っすぐすぎることは狂気の裏返しであることもわかってくる。自由度が高く創造性が反映されるスケルトン能力(マジでビジュアルが超かっこいい!)と絡めることでヨドミの内なるものが視覚できる形で浮彫になるのはかなりぶち上がってしまった。被害者の息子であるヨドミを極力事件に関わらせたくない公安側の大人たちがしっかり描かれてるのもとても良いなと思うし、誠実というか、ちゃんとしすぎていて、きっと作者本人が色んなキャラクターに投影されてるんじゃないかなと思う。

 

 

シメジシミュレーション - つくみず/コミックキューン

早くアニメ化してほしい。個人的に劇光仮面と並んで自分が想像できる範疇を超えた知らない世界をずっと見せてくれるような作品。毎回新刊が出る度にすごすぎて絶句する。いつの間にか頭にしめじが生えちゃったり頭に目玉焼きがくっついてたりする女の子たちのほのぼの日常もの・・・だったのは最初の1巻で、"ただそういう世界観"の日常ものだと思って読んでいたけど、当たり前のようにそれにはちゃんと理由があって、全員が全員、世界をどうにかできる力を手にしたら、きっと個人と世界の境界はなくなってしまうのではないかという、少女終末旅行とは全く逆の方法で誰も見たことがない崩壊した後の生活を描いているように思う。Sonny Boyとか福島聡のDAY DREAM BILIEVER againのラインに乗るサイケデリックで壮大な神話としても、普通に巨大な百合マンガとしても読める作品。今のインターネットと重なる部分もある。もう完結するらしいけどこの時点で知らない世界を本当にたくさん見せてくれていてどう転ぼうが名作。

 

 

うみべのストーブ - 大白小蟹/トーチ

トーチから出た短編集。良すぎる。きっと自分と気が合う人やなにかしら波長が合う人には心の隙間を補填してくれる暖かい物語がたくさん詰まっているはず。とくに海の底からは杭のように胸に突き刺さって自分の一部になってしまった。創作と生活で板挟みになってる人ほど心を軽くしてくれる話だと思う。マイナスをゼロに戻すので精一杯とか、創作をしていないと足りないと思えること自体が才能だとか、主人公がずっと持っている「書かなくても幸せでいれることが悔しい」という切実な言葉も正直わかってしまう。クライマックスでの掛け合いは言葉一つ一つがまるでパズルのピースの足りない部分を丁寧に埋めていく優しい言葉の数々で、自分にとってそれ自体がすごく新しい視点で色んな人を救ってくれるんじゃないかと思う。

 

 

アウトサイダーパラダイス - 涼川りん/アクション

あそびあそばせはオールタイムべストに入るくらい好きなギャグ漫画で、物語後半から参加してくる新聞部と美術部の先輩方の横の繋がりが面白くて、結果的にその二つの部に侵食されて主人公達が所属する"あそ研"はどんどん影を薄めていった・・・。今作、古巣アクションに戻り同じ世界線の一年後を描く直系の続編だけど(中三→高等部に進学)、なんと主人公は新聞部と美術部にシフトしていてあそ研のメンバーは一切登場しないため(ワロタ)、普通に単独作品として楽しめてしまう。クールでちょっとミステリアスな新聞部の躑躅(ぺんぺん)と、ガスマスクをつけた狂人ネタキャラ枠だったはずのシャネルの二人を中心とした日常ものへ。視点がこっちに移動することで前作にあった「先輩」というフィルターがなくなって全く違う見え方になるのが面白い。癖強すぎたあの二人もなんかひっくり返ったら全然内気な少女でそれ相応の不安があるし、あの性格もそういう不安定な自意識の裏返しであったことも見えてくる。新聞部/美術部周りは前作でも勝手にキャラクターが暴れ出すライブ感みたいな狂気がずっとあったけど、今作はそれが前面に押し出された「本当にこれでいいのか?」と言いたくなる日常もの。それでいてちゃんと甘酸っぱい。一言でギャグマンガって感じじゃないのも前作と決定的に違う。あと絵がすごい。全員美少女すぎる。百合マンガとしても最高。

 

 

くりことびより - 雪本愁二/goodアフタヌーン

年相応に元気いっぱいでハチャメチャな幼児である主人公のくりこと彼女を引き取った夫婦による血の繋がりが無い3人家族の心温まる日常もの・・・みたいな感じだけど、引き取った父親は子供の頃に事故で家族を亡くしていてそのトラウマから以前の家族の記憶を失っていたり、幼馴染の妻は子供が作れない体であったり、くりこ自身も前に引き取ってくれた家族とうまくいかなかった過去があったり、全員がなにかしら欠けたものを持っている。当たり前の日常を切り取ってその中で重いバックグラウンドが自然と存在している感じで、よつばと+すみれファンファーレみたいな雰囲気があり、さりげない日常回でも毎話揺さぶられるようなものがあってグッときた。

 

 

峠鬼 - 鶴淵けんじ/ハルタ

古代日本神話を基にした神々を巡礼していく作品で、神のスケールが凄まじくて毎度それだけで圧倒される。物理的なサイズという意味でも勿論のこと独自解釈で描かれるそれぞれの能力がとにかくぶっ飛んでいて巨大なSFとしても面白い。今回ついに馴染み深い三種の神器が出てきた上にツクヨミも登場し舞台を宇宙にまでを拡大。主人公の師匠であるどこか影を落とした役小角(歴史上に実在した呪術師らしい)周りの謎も徐々に紐解かれてきたけど、これも序盤から出てきた時空間移動とか並行世界を絡めた伏線が練り込まれていたっぽいことが徐々に見えてきて(現状まだミスリード感もある)、とにかくわくわくする。

 

 

クロシオカレント - こかむも/青騎士

きららで連載中のぬるめたで知られるこかむも先生の新作。ビームやハルタの兄弟誌である青騎士で連載していてこの漫画をきっかけに青騎士を読み始めて(noteに纏められているレーベルの発足話もかなり良かった)競煙の機械箒とか鎮護庁祓竜局誓約課とか面白い漫画とたくさん出会えた。あとハルタでグッド・ナイト・フィールドという素晴らしい短編集を出していた庄野晶も最近青騎士でドーンダンスという新連載が始まったらしくてこれも気になる。クロシオカレントはとてもかわいらしいビジュアルとは相反したどこか不穏なSF日常もの。魔女とか湖に住む死体を喰う化け物とかエイリアンとかゾンビとかなんかの神とかが普通に町にいて怖いし、主人公の父親もなんか魔王に体を乗っ取られているが、元々家庭内でも浮いた父親だったらしく逆に性格が良い魔王様になったおかげでうまいことやってるっていうのもうっすらと悲壮感がある。でもみんながのびのびと生活していて、出てくるキャラクター全員が本当に魅力的で、普通に楽しく読めるコミカルな日常ものだけど、2巻でより世界、というよりは舞台である高知県を掘り下げるにあたって思ってたより全然綱渡りの日常だったことがわかってくる。突然なるたるみたいになる可能性もまだちょっと残っていて、怖い。

 

 

J⇔Mジェイエム - 大武政夫/ハルタ

ヒナまつりが個人的にオールタイムベストに入るくらい好きな漫画なので同作者の割と近しいノリのギャグマンガってだけで嬉しい。これもゲラゲラ笑いながら読んでました。女子小学生と中年のおっさん殺し屋が入れ替わってしまう割とどっかで見たことあるようなフォーマットだけど、完全に子供を洗脳する勢いの毒親ママが強キャラすぎて何度見ても面白い。母親の束縛から解放されたことでおっさんになっちゃったのに楽しそうに生活している恵が切ない。お互いそれぞれ違う世界を見て違う刺激を受けることで相互理解を深めたり覚醒していく様は王道に熱い。

 

 

ずっと青春ぽいですよ - 矢寺圭太/コミックデイズ

コミックデイズで毎度更新を楽しみに読み続けてた漫画。ようやく1巻が出て嬉しい。ずっと青春っぽくて、眩しすぎる。

 

 

これ描いて死ね - とよ田みのる/ゲッサン

とよ田みのる作品って以前はそんなに自分に合わなかったけど、ツイッターの知人が2022年の漫画ベストでほぼ全員挙げてて流石に無視できないなと思って読んだら完全にやられた。創作の話で本当に眩しいし、なにかを始めずにはいられなくなるような魔力があると思う。読んでるとき本を持つ両手からどんどん体に熱が伝わってくる感覚がある。3巻、序盤いきなり主人公が「漫画でやりたいこと100」と手書きでアイデアを100個描く流れがあり、どのアイデアも本当に心から楽しそうでやりたくてしょうがなくてそのまま出てきた言葉ってのが見てるだけで伝わってきて、自分でもなんでかわからないくらい涙がボロボロ出てくる。その後の本編にそのアイデアに載ってた内容が小ネタ的に盛り込まれていて、この作品を読んでると漫画の持つ力って本当にすごいなという、シンプルな感想が自然に出てきて、漫画ってこんなに自由なんだという新しい発見がたくさん見つかってわくわくしながらページを捲ってしまう。

 

 

みょーちゃん先生はかく語りき - 鹿成トクサク,無敵ソーダ/ヤングマガジン

大好き。エロ漫画のエロシーン抜きって感じなのに何故かエロ漫画より全然エロいときある。普通にギャグマンガとしても最高でゲラゲラ笑っている。いつどのタイミングでどの話から読んでも安定感がすごいのでこの作品のために毎週ヤンマガを読むのが楽しみみたいなところがある。

 

 

スカライティ - 日々曜/スピリッツ

ルックが最高。静謐な作品で世界観が超好きなのでなんとなく読んでたんだけど2巻から視点が一個増えたことで大きく話が動いて夢中になりました。

 

 

劇光仮面 - 山口貴由/スペリオール

話題作。作者は物事一つとっても自分とは全く違うディテールで世界を見てるんだろうなと思うほど描かれている物事の輪郭が鮮明で、五十嵐大介のディザインズを読んたときも思ったけど、自分とは全く違ったレンズで世界を見てる人の魂の籠もった表現を、こんな簡単に覗くことができる漫画という媒体に感謝したくなる。水面下で何かが起きていそうな、背中から汗が噴き出るような不穏さが序盤から常に漂っていたけど、ようやく見えるところで動き始めてしまった。「ないものをあるものとして考える」というのが特撮で、超常現象をリアルとして捉える登場人物たちの視点は架空のものを本気で信じさせてしまう説得力がある。怖い。

 

 

雷雷雷 - ヨシアキ/マンガワン

ヤバい漫画始まった可能性ある。女の子かわいすぎワロタって思ってたら冒頭からテツオ化し超硬派なSFへ、思ったより全然ハードで先が楽しみすぎ。まだ単行本化されてるのは1巻だけだけどアプリの方で大分先まで進んでてとにかく面白い。

 

 

追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフ謳歌する。 ~俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?~ - 六志麻あさ,業務用餅,kisui/コミックデイズ

一連という死ぬほど面白い漫画評論ZINEを書いている友人の投擲装置が昨年レコメンドしていた作品で(ふぢのやまい氏の2022年ベスト記事でも彼は触れている)、明らかにその中で浮いていたので普段の自分だったら手に取らないだろうなと思いつつ読んでみたら衝撃を受けた。当時computer fightでベースを弾いていた実験4号さんと、とあるライブ会場で会ったときにこの作品について話したのをきっかけにポッドキャストに呼んでくれて、一緒に今作について話したりもしました(ep31:『チート付与魔術師(略)』と作品の外にある情報が与える影響の話 - 実験4号の漫荼羅漫談 | Podcast on Spotify)。

 

 

違国日記 - ヤマシタトモコ/フィールヤング

完結したので今更ながら全部読んだんだけど、今回順位付けはしてないけど間違いなく昨年読んだ漫画でベストだったと思う。言いたくて言えなかった言葉を、形にできなかった思いを、日常生活の中で感じていた違和感を、そして後から思い返して、もしかしたら傷つけてしまっていたかもしれないとずっと後悔しているあのときのことを、読みながら思い出してしまうし、自分の体の奥底から、掬い取ってくれたような気持ちになる。俺は、こういう漫画を読みたかったって心の底から胸を張って言える。同作者の「運命の女の子」「花井沢町公民館便り」も好き。

 

 

 


終わりです。2023年はダンジョン飯の終わりを確認したくてハルタ本誌を結構読んでて(ダンジョン飯、最高だった)そこから派生して青騎士もよく読んでました。あとまだ単行本になってないけどアフタヌーンで始まったどくだみの花咲くころってやつもめちゃくちゃ面白くて単行本が楽しみ。漫画はフィジカルで所蔵するんじゃなくてどんどん電子媒体がメインになってきた感じもあるし、自分自身アプリで買ったやつとキンドルで買ったやつが混在してしまってて、ちゃんと面白かった作品は文章に残して見えるとこに置いておきたいなという気持ちが結構ありますね。