朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

PSP Social - Second Communication(2024)

PSP Social - Second Communication(2024)

先月リリースされたPSP Socialの4thフル。昨年自主レーベルエスパーキックからリリースされた前作にあたる3rd「宇宙から来た人」はスロウコア色が強い作品で、自分のブログの年間ベストや2月に出したZINEでも触れましたが、その直後に出たEP「Communication Brakedown vol.1」はストーナーからポストハードコアまで横断したまた新しい側面が見える作品でした。そもそも宇宙から来た人もスロウコアなんて言葉一つで括るには失礼だと思えるくらい独自の色を持った作品で、本人たちはピンク・フロイドからインスピレーションを受けたと語っているのも興味深い。それがあの形でアウトプットされてることとか、バンド自体なにかにカテゴライズをするということ自体が不可能だなと思ったし、無邪気に、そして誠実にやりたいことと向き合った作品に思える。宇宙から来た人以降出てくる全部の曲がどこか「異界っぽい」と言いたくなる不思議な雰囲気があって、懐かしい見慣れた景色のようでどこか桃源郷のような、近いようで遠い、そういう情景を想起させられるものが多く、この得体のしれないミステリアスで雄大な世界観が、PSP Socalでしか成し得ない新しい場所へ連れて行ってくれてる感じがしてすごく好きなんですよ。


今作Second Communicationは結構まさにその極地みたいなアルバムでずっと聞いている。宇宙から来た人で見せた、自分がスロウコアっぽいと感じていたゆったりとした生々しい演奏と素朴な歌ものとしての風情を今作も十分に受け継いで、それを完全に血肉として曲の中の一つの側面、表情として昇華しながら、そこから目まぐるしく景色を大きく開いていく「撃滅サンダーボルトⅡ」はもう涙無しには聞けない。間違いなく2024年ベストソングの一つとしてこれ以降も聞き続けるでしょう。終盤かき鳴らされる大音量のギターの音に胸の奥が焦げるくらい熱くなり、音楽を聴いてこんなにエモーショナルな気持ちになることあるんだというのを思い出させてくれる。「Communication Brakedown 2」「壁」「土」とかもすごく映像的な曲群で、どこか懐かしい雰囲気があり田舎のポストロックという言葉を連想してしまう。フィードバックノイズの中に景色が見えてくる。BOaTのROROとかとも並べられる作品だと思います。ストーナーやポストハードコアといった鋭利でパワフルなサウンド日本民謡をカバーしたらこうなるんじゃないかという感触もある。

 

ちなみに昨年リリースされたライブアルバムの「PSP Social live #2」ではバンドの実験性も垣間見えてすごいことになってます。バンドでありながらドローン作品にも思えるし、どこか呪術的な雰囲気もあって、これを踏まえた上でアルバムという一つの録音物のフォーマットに収束させたものとして今作や宇宙から来た人を聞くとまた違った趣があると思う。今年リリースされた#3の方も長尺ながら踊れる肉体的なアレンジになっていて、ライブ盤としては前作の#2から引き継いだものも感じれてこれも素晴らしい。バンドの躍動感がたっぷり詰まったライブ盤でコンセプトアルバム的な聞き方もできると思うし、新しいアルバムをリリースした今またどんな形になってるかってのも想像してしまいますね。

 

 

どんなバンドか、どんなアルバムかを人に伝えたいときって受け取ったものが自分の中の一つの入れ物から溢れ出てしまったときだと思いますが、どうしても違うバンドや既存のジャンルに当てはめて語ってしまう。語ってしまいますが、それはイメージを共有することで輪郭を見やすくしてくれる場合もあれば、全く見当違いの姿を想像させてしまうこともあって中々難しいですよね。PSP Socialに関してはライブ盤含めリリースされてる作品全てが全く違った色があり、本当になんにも例えることができない、その行為自体が野暮なバンドだと思います。思いますが、しかしそれでも何か書き残したいと思わされてしまうアルバムばかりで、ここまで書いておいてなんですが、言葉で形容できない全く新しい音楽体験をさせてくれたアーティストでした。近いうちに是非ライブに行ってみたいです。

 

esperkick.bandcamp.com

 


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CODEIN JAPAN TOUR 2024

行ってきました。4月18日に渋谷のWWW Xで公演した後に京都、名古屋と連日ライブを続け21日にもう一度東京。下北沢。そして最終、おそらく下北がSOLD OUTしたからだと思いますが、4月22日FEVERにて追加公演。僕は18日と21日を見に行ってました。


 

Codeineは1989年結成、91年に1stアルバムとなるFrigid Starsをリリース。3年後の94年に2ndのThe White Birchをリリースし同年に解散。その後も2013年に期間限定の再結成を行いましたが、メンバーは音楽を引退し普通に働いていたため10年間ライブ活動を行うことはありませんでした。2022年頃からオリジナルメンバー3人で再結成、それ以降は意欲的にライブを続けているようで、なんと今回初の来日公演。今回行った18日は対バンでermhoi、21日はmei eharaとuri gagarn。22日は行けませんでしたが企画のimakin氏のバンドであるHausと、VINCE;NTとTexas 3000で、VINCE;NTとTexas 3000はメンバーがスタッフとしてツアー全て一緒に回ったというのが熱いですね。本当に素晴らしかった。June of 44のときも思ったのですが、世代的に完全に後追いの自分はバンドを知ったころにはもうすでに活動していなかったわけだし、インディーシーンにおいては大御所でも、まさか復活したり来日をしてくれるようなバンドだと思ってもみなかったわけです。なので当たり前ですが目の前で楽器をセッティングしてる姿を見るだけでも「本物を目の当たりにしている」という事実自体にとてつもなくグッときてしまう。こちらセットリスト。アンコールあり、およそ1時間20分たっぷり堪能できました。いきなり「D」から始まるのも衝撃。

WWW Xでの公演はキャパが広く天井が高いのもありリズム隊の音が非常に映える。SHELTERは天井が低くステージが狭いのもあって、バンド全部が一体となった轟音パートにおけるガシャガシャとしたアンサンブルがすごくかっこよかった。硬質なギターの存在感はこちらの方が大きかったです。どちらの会場も共通ですがおそらく足元に置いたメモを見ながら、すごく丁寧に日本語で挨拶をするスティーブン・イマーヴァールがとても印象的で、彼は90年台レコーディング時は非常に神経質で、自分にしかわからないような些細なノイズでテープ丸ごと没にしてしまうようなこともあったようですが、あのMCを見ていると準備も含めて非常にマメな方なんだなと繋がるところがある気がしてグッときました。SHELTERはWWW Xと比べてもドラムのリバーブが効いていて、曲に入る前にゆっくりすぎるスティックのカウントが痺れる。物腰柔らかいほのぼのとしたMCからあのカウントで一瞬で会場は静寂に包まれるし、そのままズン・・・とギター、ドラム、ベースが合わさって一つの和音になった瞬間、あの出音一発が吸い込まれるように一気にCodeineの音になって空間を支配する感触、たまりません。どちらの会場でも1曲目の「D」から、三人の音が一斉にその場の空気を塗り変えていくあの瞬間がとてつもなくかっこよかった。歌が映える「Barely Real」は音源以上に暖かく感じて、「Loss Leader」「Tom」は収録されてる作品が多くライブ盤でも何度も聞いたため、目の前であの印象的なイントロが流れた瞬間、これまで日常の合間にたくさん聞いてきたCodeineが間違いなく目の前で演奏しているんだなというのを強く感じさせられて涙が出ました。どの曲でもスローペースで音数が少ないからこそ、テンポを維持したままリズム隊をどう変化させてくかってのをまじまじと見れるライブで、こんなにテクニカルなバンドだったのかと新しい気づきがたくさんあった。ドラムはもちろんのこと、ボーカルを兼ねながらバンドをけん引するベースのスティーヴンがものすごかった。ギターは音源のイメージと比べると思ったより淡々としていて、その中心を縫うようにメロディで動きを作って音を持続させていくベースのプレイに目が離せない。シンプルにバンド全体の強弱をどう合わせて、どう緩急をつけていくか、スロウコアというスカスカなジャンルだからこそ、生演奏の些細な変化がはっきりとわかって、当たり前のように何度も聞いてきた音源だけでは気づけなかった新しい要素がたくさんありました。Codeineの轟音パートの圧はリズム隊二人で作っていたんだなというのも気づきだったし、Cave-Inの溜めの長いキメやLoss Leaderといったラウドな曲で音が一瞬ピタっと止む瞬間は生で見ると壮絶です。あとはやっぱり歌の要素がより強く感じて、音源の無機質な印象と比べるとかなり暖かく、徐々に熱を帯びていくドラマティックなライブからファンになった方も多いんじゃないかと思わされます。しっかりエモに通じてく要素があるし泣ける。音源でドラムレスの「Pea」「Broken-Hearted Wine」ではドラムのクリス・ブロコウがスティーヴンからベースを譲り受け、スティーヴンはボーカルに専念するという形で再現したのもサプライズ的に感動しました。とくにアンコール最終曲のBroken-Hearted Wineでは一つのマイクを二人が共有してハーモニーを作るのは涙無しには見れません。

 

ラストを飾ったBroken-Hearted Wineは春をテーマにしていて、Codeineの中でもとくにメロディーが映える曲でGalaxie 500との関連性も見出せます。Memörial氏におけるこちらの記事がこんなに素晴らしい音楽文があるのかと思わされ、いつ読み返しても記事だけで泣けてしまう。Codeineファンの方は是非とも読んでほしいです。

 

対バンについてですが、ermhoiもmei eharaも本当に素晴らしかった。そしてuri gagarn、今回は彼らについて少し触れさせてください。2004年の時点でリリースした1stアルバム(no title)から芳醇に90sポストハードコアやスロウコア、ポストロック前夜の雰囲気を纏っていたし、MCで昔からの一ファンとして、今Codeineのライブを見れること、共演できることが本当に嬉しいんだろうなというのが伝わってきた。それでいてすごく楽しそうに演奏しているのも見れてかなりグッと来た。先日、自分の方でリリースしたpärkという同人誌の巻末で、私的スロウコアガイドという音楽ZINEを作ったのですが、その本編はSlint/Codeineに始まり(ディスクレビューは実質Codeineから)、最後はuri gagarnで一旦幕を閉じます。この構成は自分の全ての始まりがuri gagarnで、彼らをスロウコアとしてしまうのに賛否両論あるのはわかった上で、だがしかし受け取ったものの大きさからエゴだとしても最後に記載したかった。もちろん来日公演のブッキングに合わせて作ったわけではないので、偶然だとしてもこれ以上ないほど嬉しい対バンでした。uri gagarnは今までも何度かライブで見てますが、今回Codeineと同日に続けて見ることに大きな意味を感じたし、Swimに終わりDeptで終わる静寂が映えるセトリ構成、Ijdbでのライブにおける極端な"轟音から音を引く"冷ますような感覚とか、Codeineのライブと重ねることで気づけることがたくさんあった。自分が後にRodanやSlint、それこそCodeineといったスロウコア~ポストハードコアのバンドを好きになる導線を張ってくれてたのは間違いなくuri gagarnだったなと噛みしめることができて、すごく大切な一日になったなと思います。

uri gagarnの威文橋氏はgroup_inouではcp名義でボーカルや作詞も兼任していて、自分は元々group_inouの大ファンなので、pärkというZINEのタイトルはgroup_inouの曲名を意識していたり、描いたイラストのインスピレーション元にinouの歌詞があったりします。本当にたくさんのものを受け取っているなと強く実感したし、すごく個人的な話ですが終演後、威文橋氏本人にpärkを献本することができたのもいい思い出です。

 


 

関連記事

最後にいくつか関連記事を。先ほどBroken-Hearted Wineの方でも紹介させて頂いたMemörial氏によるバンドのバイオグラフィ。こんなに詳しく情報がまとまってるサイトは見たことがありません。Codeineがどんな経緯で結成され、どういった人脈を辿って行ったのがかなり詳しく書かれています。何より最後に参照したであろう海外のインタビュー記事がたくさん羅列されていて、音楽記事において最も気になる部分も全部記載されているのが本当に参考になりました。Codeineだけではなく、スロウコアというジャンルについてどういう経緯を辿ったのか、どんな音楽なのかも非常にわかりやすく書かれています。本当に凄まじいので是非とも。

個人的に驚いたのがSeamやBitch Magnetのメンバーとの関係です。バンド結成前から交流が深かったとのことで、今までSeamがカバーしたと勘違いしていたCodeineのNew Year’sは実はSeamがオリジナル、Codeineがカバーだったという事実です。アルバムリリースの順番でそうなってしまったらしく本当に驚きでした。またデヴィッド・グラブスとの共作はBastroがCodeineのファンだったのもあり、それがきっかけかと思っていたのですが、実際のところCodeine結成前からBitch Magnetの面々と交流があったようだし、デヴィッド・グラブスはBitch Magnetのメンバーだったことを考えるともっと前から繋がりがあり必然的だったのかもと思います。そしてレコーディングで何度かルイヴィルを訪れているというのも、Slint、Rodanとの同時代性(ダグ・シャリン繋がりでもあったり)、RodanのタラはCodeineのカバーをしていたり、ルイヴィルのアーティストとの距離感の近さを再度確認しました。またこの記事からSeam~Bitch Magnetのスーヤン・パークとは旧知の仲であることがわかりますが、彼は現在日本在住らしく今回の来日公演に顔を出してたというのもSNSを通して知り驚きでした。

 

 

記録シリーズ:Codeine

Codeineの全アルバム感想です。


 

Codeine - Frigid Stars(1990)

1989年にニューヨークにて結成されたCodeineの1stアルバム。Sub Pop発。liveaboutのスロウコアランキングでも一位に選出されたアルバムで、Red House Painters、Low、Dusterと並びスロウコアというジャンルを語るにあたってまず名前が挙がることが多いアーティストではないでしょうか。同じく硬質で隙間が多く、同時期にアルバムをリリースしていたのもあり比較されることが多かったSlintとはまた違ったカラーがあり、Slintのようにアルバム内にスロウコア~ポストハードコアが同居した感じではなく、最初から最後まで10曲41分、ひたすら緊張感のある純粋なスロウコア/ サッドコア色が強いアルバムです。もちろん当時そんな言葉はなかったので正真正銘オリジネイターなわけですが、M1のDにおける枯れ切ったギターのトーン、そして素朴なボーカルはあまりにも象徴的。基本的には静→動へと大きく展開する曲が多いですが、バースト部分以外はあまりにもスカスカ。淡々と、ゆったりと鉄を打ち付けるようなひんやりとした金属的なサウンド、そして無気力でくたびれたボーカルによる仄暗さは、まだスロウコアというジャンル名が存在してなかった当時に一つの印象を決定づけたものでしょう。突然蛇口出しっぱなしにしたかのような、荒々しくジャンクな金属的ギターノイズの轟音が垂れ流される静→動の展開は後にMogwaiが「影響を受けた10枚」に彼らのアルバムを選んだのも頷けます。90年台に解散してしまいますが後に再結成、そのときもMogwaiとともにライブをしたとのことで、再結成もMogwai側からリクエストがあったそうです。後にエモと呼ばれるバンドたちに与えた影響もかなり大きいように思えるし、しかしエモを聞いて想像させられる情景と比較するとCodeineは徹底的に灰色。このモノクロームなトーンがまた良くて、これも後にスロウコアと呼ばれる音楽にかなり影響を与えていると思います。というかその原風景がこの作品になるのでしょう。クリス・ブロコウのあまりに淡白で、隙間だらけのドラムはより一層バーストパートでの激情を強調しているようで、後のドラマーが変わる2ndとは同じカラーを持ちつつも、また違った良さがあるアルバム。

 

 

Codeine - Barely Real(1992)

Codeineの92年作EP。元々は2ndをリリースするためのレコーディングに入っていたらしいですが、中々曲の数が揃わず、フルアルバムではなくEPとしてリリースしたとのこと。The White Birchの曲もこの時点でいくつか録音してたようですが、テープの保存だったり色々問題が発生してしまいリリースできず、そのままクリス・ブロコウが脱退したため長らくお蔵入りすることに。The White Birchは後にダグ・シャリンが参加してから全部再録されてしまうため、この未発表音源は2022年、Numero Groupによって再発されるまで日の目を浴びることはありません。そして今作、丁度1stリリース後にBastroのデヴィッド・グラブスとジョン・マッケンタイアからオファーを受け共にツアーを回っていたのもあり、今作ではオルガンでデヴィッド・グラブスが参加。そしてJr. という曲のギターは同じくデヴィッド・グラヴスが参加していたポストハードコアバンドのBitche Magnetからジョン・ファインが参加していて、ハードコアシーンとの関連の密接さもあらわした重要な1枚。M1のRealize からはっきりと1stの頃とは録音の質感が変わっていて、1stにおける荒々しいささくれ立ったギター音と比べると後のエモやポストハードコア、Dischord Recordsの面々とも通じそうな硬質で密度の高い洗練されたギターの轟音はギラギラとした熱があって全てを飲み込んでいく。とにかく物量で押し潰してくるような、この音色だけで後のシューゲイズやポストロックにも通じるような気がしてしまいますが、今作でも圧倒的にCodeineはCodeineでしかないモノクロームなトーンがずっと続く。そして1stと比べると際立ったメロディーが多いアルバムで、轟音の中浮かび上がってくる儚くもどこかメロウボーカルは神聖な雰囲気すら漂う。

 

 

Codeine - The White Birch(1994)

Sub Pop発の1994年リリースの2ndアルバム。今作からドラマーのクリス・ブロウコウがComeの活動に専念するため脱退し、後にHiM、June of 44、Rexなどに参加する、まさに当時のシーンを代表するとも言えるドラマーのダグ・シャリンが参加します。クリス・ブロコウもComeだけでなく、元Bedheadのメンバーのその後とも言えるThe New Yearや、最近ではEarly Day Minersのメンバーが在籍しているAtivinにも参加したため、スロウコア/サッドコア~ポストロックシーンを辿っていくとCodeineのメンバーは幾度なく見かけることとなります。そしてダグ・シャリン、Codeineのように音数が少なく、バーストするパート以外は最低限の骨組みのようなバンドでドラマーが変わるのは本当に大きなファクターだと実感させられます。前面に出てくるギターとボーカルが彩るモノクロで陰鬱な世界観はそのままなので一見外郭は同じでも、その内側、前作までの静→動のコントラストがより強調されたクリス・ブロコウのドラムとはまた違った表情が見えてきて、それこそMogwai にも通じるような、まるでドラムが歌っているかのような繊細なフレーズの組み立て方は、徹底的に寒々しかった1stとはまた少し違った情景を描き出す。それはM1のSeaから顕著に出ていると思いますし、1st以上のスローペースで隙間の多い今作ではその些細なニュアンスの違いもハッキリと見えてきます。M2のLoss Leaderは生々しく冷たいギターの音と、あまりにも激情的な静→動へとバーストする展開はまさにスロウコア然とした新しいCodeineの王道。Mogwaiから辿ってくならすごくわかりやすい曲だと思うし、後に別のコンピに収録されたBBCバージョンでは静→動のコントラストが更に強調され、唯一のライブ盤でもハイライトとして存在してる代表曲でしょう。M6のTomは枯れ切った最低限のメロディーと、1stや前作EPで見せた轟音を更に絞ったことで硬質なドラムの繊細なプレイが浮き彫りになる名曲。個人的に今作のベストソングです。CodeineはSlintやDusterのようにハードコアバンドから直接派生したバンドではないけど、Bastroとツアー回ったり共作したり、その関係の深さや(今作も前作に引き続いてデヴィッド・グラブスがギターで参加)、Come やJune of 44 といったメンバーのその後の活動も含めてハードコアと関連性を見出させる要素が多く、共に聞くことで見えてくることも多いアーティストだと思います。

 

 

Codeine - What About The Lonely?(2013)

Codeineが1993年11 月という2nd リリース直前に、シカゴにてMzzy Starの前座として演奏したときのものを収録したライブアルバム。2013年にNumero Groupが発表したもので、音源からですら極端な静と動を激しく行き来するサウンドはおそらくライブで体験してこそ、肌に直接ピリピリくるような冷たい緊張感とそれを全て吹き飛ばす轟音のエモーショナルさが、スタジオ盤とは全く違ったであろうことが強く伝わる素晴らしすぎるライブアルバム。何より1stと比べると極限まで素朴に録音されていた枯れ切ったボーカルがライブでは更に生々しく収録されていて、これ以上ないくらいくたびれた雰囲気が全開。この生っぽい歌声と、スタジオ盤と比べても極端に静と動のコントラストを感じられるライブ録音の組み合わせは本当に泣いてしまう。M1のCave-Inからとてつもなく重いです。何よりダグ・シャリン加入後の体制で1stの曲を聞けるのも良いですね。それに2ndでのプレイと比べると、ライブならではなのかもしれませんが後のJune of 44やRexで聞くことができたパワフルなドラミングで曲のヘヴィさがより一層増しています。それでいてハイハットの繊細なタッチは絶妙な美しさがあって本当に素晴らしい。先ほどのLoss LearderもTomも収録。ライブ盤ですが、素朴で生々しい作品が多いスロウコアというジャンルはだからこそ生演奏や弾き語りと近い雰囲気があると思うので、選曲的も最高だし最初に聞くのにもおすすめなアルバムです。Cave-in っていう曲タイトルはバンド名の方のCave In を連想してしまいますが、実際にCave In はCodeine のCave-In をカバーしているためリスペクトの意もあったのではないかと思います。

 

 

Codeine- Dessau(2022)

先のBarely Realの方で触れたダグ・シャリン加入前にクリス・ブロコウによるいくつかのテイクを収録した2022年リリースのコンピレーション。凄まじい。未発表音源集とは思えないくらい統一感があるので、一つのまとまったアルバムとしてなんの問題なく聞けてしまう、The White Birchにあった数曲+それ以前のEPやシングルB面の曲も収録されているんですが、曲順も練られていて普通に新作です。ダグ・シャリンと比べるとクリス・ブロコウの極端な静→動の展開はすごく激情的な爆発力があり、The White Birchと比べてもかなり硬質に録られているのもあって、一つ一つリフを重ねるように叩くダグ・シャリンとは対比的に聞こえます。元になったThe White Birchはジャケのイメージとも合致した、このジャンルに付託しやすい閉鎖的な息苦しさや貧しさが出ていてすごくサッドコア然としたアルバムでした。今作は全体的に若干テンポが上がり、ドラマーやミックスが変化したことでどことなく音の分離や抜けがよくなっていて、The White Birchにあった息詰まるような不穏さはガラリと変わり、もう少し外に向かって風が吹いていくような、憂鬱ではあるけど風通しが良いような趣になって非常に聞きやすくなったのではないかと。つまり、エモからアクセスできる作品になったと思うんですよ。個人的にM2のJr、M5のRealizeのような轟音の映える曲が際立つアルバムだと思っていて、以前のテイクでのぎっしり収束された轟音は今作で透明感が増していて、そのおかげで奥行きのある生々しいドラムがより強調された感じがします。もちろんそれこそエモとは距離があった、あまりにも素朴で寒々しかった前テイクの方にしかない良さもありますし、今作はそこからまた新しい表情を覗かせてくれる重要作。同年にアルバムをリリースし後にCodeineと対バンもしたdeathcrashあたりからスロウコアを辿ってきた人には最もしっくりくる作品ではないかと思います。

 

 

Codeine - When I See The Sun (Demos & Live Cuts)(2012)

最後にNumero Groupからリリースされたデモ音源とPeel Sessionを収録した未発表コンピ。こちらの方がDessauよりも先ですが、Dessauはオリジナルアルバムとして遜色なく聞ける作品だったので、ディスクを3つにわけることで音源集としてリリースされた今作はより雑多なのもあり、レアトラックス集として番外的に触れていきます。おそらく1st時かそれより以前であろういくつかのデモ音源と、Dessauの元になったいくつかの音源もDessau Demoとして収録。そして後半のPeel Sessionがどれも凄まじいので必聴。Joy Divisionのカバーも収録されています。序盤のデモ集はアルバム未収録曲がたくさん並びますが、こちらも彼らのルーツが垣間見える非常に面白いものになっていて、全くスロウコアテイストではない純粋なパンクロックやハードコア色の強いもの、またスローペースではあれど、今ではイメージが固まったCodeineらしい隙間だらけの静謐な雰囲気ではなく、むしろ轟音を垂れ流しながら引きずっていくような、重く遅いポストハードコアといった楽曲も多いです。

 


 

以上でした。自分自身完全に後追いファンですが、多大に影響を受けたバンドでありスロウコア/サッドコアを好んで聞くようになってから日に日に大きな存在となってったバンドです。昨年のJune of 44の来日やRexの再発など、他にもNumero Groupによるオブスキュアなスロウコア再発の流れでも重要なバンドだと思います。ダグ・シャリン関連作だけでなくクリス・ブロコウが後に参加したComeやThe New Yearも、それぞれが違った音楽性を持ちながらポストハードコアのニュアンスを持っていてどれも素晴らしいバンドです。Ativinは昨年アルビニ録音で新譜を出したばかりで、それこそ近隣シーンの再発や再結成が続く中でも象徴的な出来事だったと思います。

またこの記事は先日リリースしたpärkというイラスト集の後半に、私的スロウコアガイドというタイトルで音楽ZINEが付属しているのですが、そこに記載しているCodeineのページを再編集して記載したものになります。手に取っていただいた方は物足りないかもしれませんが、一つの記録としてご了承ください。

 

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COMITIA147レポート/pärk反省会

先日制作したpärkという同人誌を販売するため、2月25日にビッグサイトにて開催されたCOMITIA147に参加してきました。改めて足を運んでいただいた方々に心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。初参加のイベントで一人だったのもありとてつもなく不安で、そんな中声をかけてくれたり、手に取って買ってくれた方々、めちゃくちゃ励みになりました。どんな言葉を選んでも返しきれないような、それくらい感謝の気持ちが止まりません。


 

 

スペースはこちら。

画像

Spiderlandのレコードを置いたのは単純に左側に置くものがなくめちゃくちゃ空いてしまうからなのと、後半の私的スロウコアガイドと内容的にも一致するし、表紙の色合いともマッチしたものがあるため、置いてみました。これが売り上げに貢献したのか、マイナスになったのかは不明です。ですが、一人だけSlintに反応し本を手に取り、中にあったSun Kil Moonについて言及し、そのまま買ってくれたという方がいました。本当に嬉しかったし、この瞬間のこの一冊のためだけに置いておいてよかったなと思いました。

嬉しかった誤算としては、直接本を手に取って絵を気に入って買ってくれたという方が非常に多かったことです。正直自分は絵描きとしては全く自信がなく、ほとんどの方は後半の音楽ZINE目的で来られるかと思っていたのですが、実際のところ完全にその逆でした。とくに暗い絵に関して言及していただき、そこを褒めてくれる方がとても多く非常に励みになりました。表紙もそうですが暗い絵はtwitterやpixivでもあまり反応がよくなく、個人的な話をするとそういったイラストこそが自分の好みなのですが、SNSを通してそれが広く受け入れられるわけではないという事実を実際に数字で提示されたこともあり、諦めの気持ちが強くありました。実際にSNSで人気だったイラストを表紙にした方が売れていたのかもしれませんが、好きなものを信じてあの表紙を選択して、会場でその部分を肯定してくれた方が一定数いたこと、この事実だけで絵を描いていてよかったなと心から思います。

 


 

pärk反省会

会場受け取りだったのですがちゃんとできあがってるのが当日までわからないという状態がマジで超不安でした。できあがっててよかったです。感動しました。実際に触ってみて、やっぱり120ページなので結構分厚く、表紙のマット加工の吸い込まれるような漆黒の質感もあり、重厚な本になったと思います。装丁はかなり気に入っていて、これはイラスト集としてではなく、昨年11月に足を運んだ文フリで購入した伏見瞬さんのLOCUSTや、北出栞さんのferne、あと毎回通販で買わせていただいてた李氏さんの痙攣とか、そういった音楽関係から知ったZINEの練りに練られたかっこよすぎる表紙、そして手に取って質量を感じる分厚い本の雰囲気に憧れて目指したものでもあります。結構狙った感じが出てきてよかったです。

反省点。まず私的スロウコアガイドですが、ムラがすごい。原稿は全て約2週間、データ打ち込みでもう2週間、明らかに時間が足りてないのが随所に出ています。PC画面で入稿3日前から何度も読み返してたんですが、書いた直後ってのがよくなかったですね。1か月くらい空けてからじゃないと見えないものも多数あったと思う。アルバムによっては油が乗っていて自分で読み返して気に入ってる部分もありますが、明らかに振り絞って無理矢理出して、何が言いたいのかさっぱりわからない部分も散見されます。あとこれは盲点でしたが、紙になると読む速度って画面上で確認していたものと大きく変わるんですよね。これは個人差もあると思いますが、とにかく会場で受け取って実際にパラパラと読んだだけでも、元々想定していたスピード感、リズム感がまるで変わってしまい、そのせいで違和感になってしまってる表現や切り方が多数あり、届けたかったニュアンスが歪んでしまったなと思う部分がいくつかありました。これは純粋に自分の文章組み立て能力が低すぎるのも原因ですが、試しに印刷してみるなどして事前にカバーできた事態だったなと思います。

イラストに関して。当たり前ですがPCもスマホも画面って発光してるので、デジタルで描き画面上で確認したイラストって本来のものより明るくなってるんですよね。それによって、印刷したことで空など明度の高い部分の塗り残し、修正のムラがかなり目立ってしまいました。次は気を付けます。しかし紙になって良かったことも多く、粉を吹き付けて焼きつけさせる(らしい)印刷の方法から全体的にザラついた質感が増していて、それが自分の油彩筆を主としたスタイルと噛み合ってアナログっぽさが増したと思います。実際に会場でアナログかと聞かれることが多数ありました(全てクリップスタジオを使っての制作になります)。表紙含め、カラーページのできは作る前から気になっていたため、実際に印刷会社に足を運び、直接どうしたいのか相談できたのが功を成したと思います。印刷会社はねこのしっぽを利用させていただきました。誰が得するかはわかりませんが、少なくとも自分は作りたいってなったときに右も左もわからなかったため、実際に印刷の設定を貼っておきます。

・表紙用紙:ホワイトポスト マットPP加工

・カラー口絵:コート紙 110kg [マット]

・本文用紙:ソフトバルキー [白]

全てオンデマンドになります。コミティア会場で見本誌等置いていたのと、ネットでも注文できるみたいなので、実際に触ってみることをおすすめします。

 


 

最後に本書を作るにあたって参考にさせていただいた本について。

 

あきま先生になりたくて絵を描いていたんですが、遠いところにいすぎるため真似しようとしても全然何をしたらいいかわからないような、まるで手が届かないところにいる方なので、リファレンスというよりは憧れと呼ぶのがしっくりくるかもしれません。mirageの方のイラスト集は出先にも持ち歩いて表紙がボロボロになるくらい読み返しました。ツイッターで「イラストに関して、Wilcoみたいな曲を作ろうとしてるのにYo La TengoやDusterみたいになってしまう」みたいなツイートをしたことがありますが、あれはまさにあきま先生を目指しても何をしたらいいかわからない、感覚でやっても全然違うラインの作品になってしまう、という体験から出てきたものになります。

 

AS4KLA先生の完全攻略!冬の曇り空2.0は昨年の3月に知人に勧められ購入し、読んでみたところ、目を凝らさないとわからない真っ暗な質感と吸い込まれるような広大な一枚絵の雰囲気に圧倒されかなり衝撃を受けました。ZINEのセルフライナーでも名前を出させていただいた作品です。昨年イラスト集を作ってコミティアに出たい!という漠然とした願望ができたとき、それまでオリジナルなんて一度も描いたことないし、目指すべき場所がどこかもわからない自分が、一体何を描けばいいんだろう?となったときにこの本に出会い、それ以降一番の指標になりました。AS4KLA先生はコミティア147にも参加していて、一般公開前の時間にご挨拶させていただきpärkを献本できたのも思い出深いです。またツイッター等でコミティアの戦利品として自分の本を上げてくれた方々の写真に一緒にAS4KLA先生の新刊「完全攻略!冬の曇り空3.0」を並べてくれてる方も多く、見かけるたびすごく嬉しい気持ちになっていました。当たり前ですが本を作ると自分が憧れ、尊敬している方々の本と自分の作品を並べてもらったり、自分で同じ本棚に置くことができるというのはとてつもなく幸せだし、このために本を作ったと言っても過言ではないなと思ってしまいました。

 

SPOILMANが昨年リリースしたUNDERTOW/COMBER。アルバムをリリースする度にこのブログで触れてきたアーティストですが、昨年キャリアとして初のLP発売、もちろん即購入したところバンドのフロントマンであるカシマ氏本人によるアートワークと、ジャケットを開いたときデカデカと視界に入ってくる大きなイラストに圧倒されました。レコードサイズの大判の歌詞カードも全て手描きイラストとして作り込まれていて、仕掛けだらけの内装はイラスト集としても本当に魅力的です。紙を開いて一枚絵が出てくるインパクトの強さに自分もフィジカルでなにかを作りたい!という気持ちを強く掻き立てられました。

 

クラウトロックディスクガイドの増強改訂版。クラウトロックの歴史を辿りながら、冒頭ではインスピレーションとしてドイツではなく英米サイケデリック・ロックやジャズのアルバムが紹介されていて、本当に充実した内容で筆者個人の視点が見え隠れするシーンも多々あってすごく影響を受けています。憧れ、という言葉の方がしっくりくるかもしれません。

 

s.h.i.さんの現代メタルガイドブックにも強く影響を受けています。そもそも"私的スロウコアガイド"というタイトル自体この作品から着想を得ていて、他にも冒頭のintroductionや、Borisから始まるその構成自体に感銘を受けました。pärkでも思いっきりリスペクトしたintroductionから幕を開けるし、スロウコアとしては微妙なラインに立っているSlintから始まるというのも通じるところがあると思ってます。

 

ポストロックディスクガイドに関しては内容の時点で一部被っていて、pärkはスロウコアをポストロック前夜の一形態として何度も切り込んでいく関係上、ポストロック関連作を網羅したこのガイドで触れてる作品も多数出てきます。また本ブログで何度も書いてきたSlintやRodan周辺についても軽く触れられていて、自分の音楽観自体がかなり影響を受けています。

 

 

pärkの制作にあたり、多部なこさんと一個人さんという二人の絵描きの方にイラスト制作についてご教授いただいてました。今回収録したイラストは全て昨年の6月以降に描いたもので、クリップスタジオをダウンロードしたのもそのちょっと前、本当に右も左もわからない状態で単純な操作方法からおすすめの筆についてなど、イラストの基本的なアドバイスまでたくさん助言していただいてました。本当に恵まれた環境で絵を描けたなと思います。こちらはお二方の作品ですが、使用した筆だったり、そもそもラフの時点で構図についてのご教授だったり、制作環境そのものからかなり影響を受けています。

 

 

 

プレイリストです。私的スロウコアガイドに載っているものだけで作ったリストになります。会場で手に取ってくれた方で後半のZINEについて聞かれたときにイラストと雰囲気が近い、暗くて遅い音楽について書いてますという説明をしたのですが、いざそこから聞いてみようとなったとき、いきなりSlint/Codeineから始まる本書の構成はかなり聞きづらいのではないかと思いました。ある程度音楽を掘ってくことを普段から趣味としてる人であれば、年代順は見やすいかなと思う一方で、イラストやセルフライナーの雰囲気から入ってくれた方には時代関係なく入り口としてわかりやすいものがあった方がいいかもしれないと思い、指標として作ったものになります。おそらくその対象となる方々はこの記事まで読んでないのではないかと思うし、実際聞いてみますと言ってくれた方々もお世辞の可能性もありますが、例えばEarly Day MinersやDusterのようなアーティストを入り口として提示しておくだけでもグッと入りやすくなったのではないかと、盲点だったのもあり少し後悔もあるためここに残します。

 

 


 

以上でした。一年後のコミティアでもう一回くらい本を出してみたいです。何より素晴らしい出会いがたくさんあり、やってよかったなと心から思います。通販もやっていますので、ご興味ある方は是非手に取ってみてください。

 

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年間ベスト2023

もう2024年の3月ですがやっていきます。


 

 

Blonde Redhead - Sit Down for Dinner(2023)

Blonde Redheadの9年ぶりの新作。00年台中盤での4AD移籍後のイメージが大きくシューゲイザー文脈でも聞かれるアーティストですが、自分の中では90年台のポストハードコア/ジャンクロック真っただ中のTouch and Goからリリースしていたイメージが強く、初期2作はSonic Youthのスティーヴ・シェリー主宰のSmels Likeなのもあり、アンダーグラウンドなシーンから耽美でゴシックなアートポップへと、ポストロック激動の時代で圧倒的な個を確立させ横断していったアーティストとしてのイメージが強いです。今作9月リリースですがこの強烈に冷たい質感は冬にぴったりだなと思い、実際気温が低くなってからは肌感覚で非常にしっくりくる作品でおそらく下半期最も聞いたアルバムになりました。M1のSnowmanから薄い半透明のカーテンを何重にもかけて視界をぼかしていくような、この中でポストパンクやクラウトロックを思い出す淡々としたビートを気が遠くなるほど繰り返し、深く深く内面の底まで落としてくれる非常に没入感の強い名曲。4AD以降の路線が完全に円熟し切ってます。気が遠くなるほど、とは言いましたが、実際には通して5分しかない事実に驚いてしまうほど陶酔的で、自分の視聴感覚とのズレにかなり衝撃を受けました。M6~M7のSit Down for Dinnerというアルバムタイトルを冠する2曲はミニマルな音の隙間、空白を単なる空白として聞かせないサウンドスケープモノクロームな世界に少しずつ色をつけ情景を描いていくような非常に映像的な2曲です。カズ・マキノの唯一無二の歌声も強烈に刺さってきて、今作は明確に近しい人たちとの別れをテーマにした作品とのことですが、ただ単に暗いという言葉で片づけるわけにはいかない喪失感に寄り添ってくれる穏やかなアルバムだと思います。

活動30周年という節目にリリースされた今作ですが、最近KEXPの方で公開されたライブ映像がアルバム収録曲の冷たいイメージを全く損なわないまま、曲の熱量を上げていく様が見事に両立された圧巻のパフォーマンスで衝撃でした。とくに「Snowman」「Melody Experiment」の2曲はつい涙してしまう名演です。音源と比べてドラムが有機的になったのも大きいと思いますが、一度これを見るとアルバムを聞く視点もまた変わってくると思うし本当に素晴らしいので是非とも。

 

 

Truth Club - Running From the Chase(2023)

Truth Clubの2nd。2019年の1stも当時の年間ベストで上げたバンドで、前作ではまだ初期Dry Cleaningのようなポストパンクとインディーロックの折衷と言った要素が強かったですが、今作はエモ一歩手前といったノスタルジックな情感漂うギターロック色の強い作品に。収録曲全てが名曲です。アルバム通してどの曲にも徹底的に"くたびれた"雰囲気がずっと漂っているのが良い。このくたくたに疲れたボーカルと、音数を減らした静パートの噛み合わせはスロウコアと通じるところが多々あるし、そのままじわじわ熱量を上げていくアンサンブルはただ音の厚みと轟音でカタルシスを演出するのではなく、肥大化させたものを爆発させず、ガスを抜くように風通しよく穴を空けてしまう平熱のボーカルが強烈に自分のツボを刺激します。5th emo waveやエモリバイバルといった90sのハードコアから直接繋がる硬質な質感を絶妙に避けていて、轟音に至るシーンも多いですがシューゲイズのような空間的なものでもない、もっと物理的なガシャガシャとした密度のあるバンドの音圧は90年台のCastorらも思い出してしまいます。OvlovやHorse Jumper of Loveといった10年台以降のインディーロック/オルタナのラインから、Weatherdayのように日本のギターロックファンにも刺さりそうな作品で、90sのインディーロックや枯れエモからこういったジャンルを聞くようになった自分にとって、熱量を上げすぎない質感がすごく肌に合ったアルバムでした。

 

 

deathcrash - Less(2023)

deathcrashの2nd。1年ぶりの新作で前作のSlintやCodeineを思い出すスロウコアライクな作風とは地続きのまま、寒々しく硬質だったサウンドスケープはLessというタイトルが示す通りより隙間、空間の間を強調するソフトで生々しいミニマルなものへと変化。その結果元々バンドの特徴であった穏やかなソングライティングが浮き彫りになりSlint~Mogwaiといったポストロックのラインからは外れてきた作品だと思います。目の前で楽曲が組みあがってく様を見ているような静謐なアンサンブルは決して轟音の前座として作られたものではないし、むしろメインは静寂の方にあるのではないかと、繊細な感情の動きや、痛みを、その情景を、よりハッキリと描き出すために選択されたものがこの静謐さなのだと思わされてしまうほど、美しい曲群に涙してしまいます。

リリース直後に書いた単発記事。こちらでもう少し深く掘り下げています。また今年の3月に音楽を聴く環境について / 車内音楽まとめという記事を書いたのですが、音楽を聴く環境が自分の視聴傾向を左右し音楽趣味を作っているという内容で、そして冬の肌寒さとマッチした、その季節に車内という密室で聞いたことで自分の聞く音楽の傾向が引っ張られていったという旨を話しているのですが、deathcrashに先ほどのBlonde RedheadやTruth Clubも確実にそこと一致した音楽だったと思います。

 

 

Sprain - The Lamb As Effigy(2023)

ロサンゼルス出身Sprainの2nd。元々2018年にリリースされた最初のEPはEarly Day MinersやDusterのような暖かいメロディーの王道スロウコアを真っすぐにやっていて、そして2020年セルフタイトルの1stでUnwoundとSlint~June of 44を掛け合わせたかのような硬質で捻じれたポストハードコアへと大きく変貌。スロウコアとポストハードコアが太いパイプで繋がっていることをまじまじと見せつけるような作風で、これを2020年にやるのかと心から震えました。そして2023年、今作The Lamb As Effigyで彼らは異形のバンドへと進化を遂げます。UnwoundのLeaves Turn Inside YouがSonic YouthのDiamond Seaを喰ったようなアルバムで、マッシブなSlintとも呼びたくなる前作譲りの硬質で強靭なバンドの芯を屋台骨としながら、重厚なストリングスや不穏なオルガン、美しいアコースティックギターの旋律を聞かせたかと思いきや、今度はそれらを一瞬で塗りつぶす耳を塞ぎたくなるような金切りノイズ、時折見せつける悲壮感にまみれた虚無の時間と、静寂とバーストがはっきりと対比的にあるわけでもない、ただただ居心地の悪い、どこか呪術的ですらあるモノクロームの万華鏡のような美しい音世界。感覚的にはP.i.L.のFlowers of Romanceも思い出してしまいます。8曲90分超えのボリューム、目まぐるしく動く世界観はとても軽い気持ちで聞き流せるアルバムではないし、聞きやすい作品だとも思いませんが、ここまで完全にブレーキがぶっ壊れたまま、自分たちの世界に行ってしまったものを体験できるアルバムは他にないと思います。M2のReiterationsは結構わかりやすいポストハードコア路線で、1stの地続きとして最も聞ける曲だと思います。M5のThe Commericial Nudeは(イントロは激しいノイズですが)スロウコア路線として圧倒的に美しい名曲。M6のThe Recliing NudeはZepのNo Quarterのようなカタルシスがあります。

 

 

SPOILMAN - UNDERTOW(2023)/COMBER(2023)

 

2023年5月に脅威の2枚同時リリースを成し遂げたSPOILMANの2枚。Touch and Goライクなポストハードコアから呪術的でおどろおどろしい未踏の境地に至った怪作HARMONYから1年、HARMONYの路線を受け継ぎながらMelvinsあたりも思い出すドゥーミーな香り、Blonde RedheadやShipping Newsにまで通じる不穏さを芳醇に纏ったCOMBERと、逆に1st2nd期を思い出すJesus Lizard路線を再び突き詰めたように思える、リズム隊のドライブ感と全身刃物のような鋭利なジャンクギターが全てを飲み込むUNDERTOWというそれぞれ明確に違う色を持った二作。決して二枚組というわけではなくそれぞれがコンセプチュアルな世界観を持ったアルバムで、どちらも合間にインストを挟むことで流れもしっかりしてますし、何より単発でライブアンセムとしてもとてつもなくかっこいいシンプルな名曲「Super Pyramid Schems」「Fantastic Car Sex」がそれぞれのアルバムで核として存在していて、そこに至るまでの導火線の如く張り巡らされたアルバム構成の妙も見事で本当に凄まじいバンドだなと実感しました。

このアルバムを皮切りに初の全国ツアーを行っていたSPOILMAN、昨年末の12月最後に東京の公民館を借りて入場無料でライブが開かれたのですが、かつて90年台にライブハウスではなくガレージや野外でライブしているアメリカのバンドの動画を数多く見てきた自分が、まさか生きてる内に同じような体験できるとは思ってもみず心から興奮しました。体育館という天然のルームリバーブに満ちたドラムの音も唯一無二でしたし、何よりメンバー全員が心から楽しんで演奏している様が伝わってきた。さらに驚きなのが当日サプライズでまた新しいアルバムがリリースされていて、2023年に3枚リリースという過密スケジュールには言葉が出なくなりました。

公民館ライブはこちらで公開されてるので是非とも。

単発記事の方でより掘り下げています。

 

 

5kai - 行(2023)

上半期まとめでも触れた5kaiの2nd。前作までは54-71downyも連想する円を描くような鋭い反復が主だったのですが、今作はそれを更に分解して自由な感覚で再配置したことで人力IDMのような音楽性に。相変わらずスロウコアと呼ぶにはマッシブすぎる線の細いポストハードコアで、アコースティックな色も見せながら今まで以上に"歌"を大切にしたアルバムに思えます。とくにそれはライブにおいて顕著で、生で聞くことで殺伐とした冷たい世界を描き出す演奏とは対照的な、すごくくたびれたボーカルがどこか暖かく、一見歪に見える今作の曲達も純粋に生活から零れ落ちてしまったものがあの形になってるだけなのではと、それほどまでに剝き出しの歌と最低限ながら力強い演奏は強烈に胸に刺さってきました。M2の棚という曲は2023年ベストトラックです。

 

 

PSP Social - 宇​宙​か​ら​来​た​人(2023)

PSP Socialの2nd。前作までのジャンクエモと呼びたくなる荒々しいハードコア色の強い作風からは全く想像できなかった新境地のアルバムで、音をごっそりそぎ落としゆったりとした時間感覚が漂う長尺のスロウコア5曲45分。日常の裏にいつ反転してもおかしくない非日常がある危うさを匂わせるような、すごく聞き慣れてるようで、でもどこか違和感が残る異界っぽさが仄かに漂います。硬質なスロウコアではありますが、そういったジャンルで一口に括りたくない、羅針盤とも通じる日本のバンドにしかない和の風情というか、日本語特有の優しい響きと牧歌的な雰囲気に満ちた作品。このアルバムのインスピレーション元がPink Floydのおせっかいだというのも驚きで、おそらく本人達の中で独自のサイケデリックな感覚が昇華されこの形になったのだと思うし、自分の知らなかった一つの新しい解釈を見せてもらった気持ちになります。

 

 

Pharoah Sanders - Pharoah(1977)

スピリチュアル・ジャズの大御所ファラオ・サンダース1977年作がデヴィッド・バーンのレーベルであるLuaka Bopより再発。しかもライブ音源を収録していて、リリースされた9月以降今に至るまでずっと聞いている作品です。彼特有の陶酔的に繰り返されるフレーズの反復の妙がよく出た3曲で、サイケデリックを通り越してチルの領域にまで足を踏み込みかけた印象もあるM1のHarvest Timeにおける、ギターとベースのリフレインの各レイヤー入り組みながら完全には重ならないよう宙に浮く音の配置は非常に繊細。この和音の心地よさに恍惚としてしまいます。そしてM2のLove Will Find a Wayにおいては、初期作で確立させたコルトレーン以降のスピリチュアルな作風を一回薄めてアフリカンな色を強くしたWisdom through Musicを継承したような1曲で、肩の力抜いて聞ける反復のセッションと、クライマックスにおいて体の奥底から振り絞った生命力そのものを見せつけるかのようなダイナミックなサックスソロはしっかり心を揺さぶってくる。彼の作品って結構気合入れて聞くイメージがあって代表作の「Tauhid」や「Karma」は映画一本見るくらい大作ですが、このアルバムは地に足のついたグルーヴィーなリズムを根幹としつつ、それを構成する音色がどれもこれも浮遊感のある聞き疲れしないもので構成されていて軽い気持ちで流しやすい。生音感が強く、密室で聞いてる印象を加速させるリズム隊の録音もめちゃくちゃマッチしていると思います。それでいて腰を据えて聞いてもしっかりフックのあるおかずが散りばめられていて、じっくり世界観を味わえば味わう程ラストのサックスソロにおけるカタルシスも増すという、こういった、聞き時を選ばないという点も愛聴盤になった大きな要因かと。ファラオ・サンダースをこれから聞きたいという方にもおすすめです。

最近はディスクユニオンへ行っても音源よりも中古音楽雑誌コーナーを先に見に行くことが多く、その中で買った2003年のレコード・コレクターズにおけるファラオ・サンダース特集をガイドにして聞いてました。ジャズは歴史が長いのもあって書籍やインターネットのブログまで非常に広く資料があり、そして自分は音楽を聴くこと自体と同じくらい、もしくはそれ以上に"音楽に関する文章を読むこと"自体が好きであると気づきます。もう最初とは順序として逆なのですが、音楽に関する文章を一つの読み物、創作として楽しみ、そのサントラとして音楽を聴くというわくわくを最も感じた一年でした。

 

 

Sly & The Family Stone - Fresh(1972)

2023年は退職や引っ越しに伴って生活ががらりと変わりインターネットが使えない時期が長く、サブスクで新譜を追う頻度が激減。ディスクガイドやブログを参照し気になった音源を購入したり、久々にCDレンタルを利用して旧譜を聞くことが主となりました。その中でファンクにハマり、資料を元にしながら大御所を一通り聞いていたのですが、今になって改めて衝撃を受け一年を通して最も再生したアルバムがこのFreashになります。音数の少なさで立体的に浮かび上がる、すぐそこの空間に音が固形として存在していて、触れるんじゃないかと錯覚してしまうほど巧妙に配置された各パートは、M1のIn Timeの再生数秒から胸の奥をぐっと鷲掴みにされたような魅力がありました。カタルシスを"ズラす"ような美学がとにかく詰め込まれたアルバムだと思います。代表作でもある前作の"暴動"で培った、リズムマシンを使ったミニマルなビート感、このシンプルな反復の心地よさを、土臭いソウルから距離をとり新たに追求したような、ドラムもベースも、現代におけるポストプロダクション的な、隙間を利用してスタジオ作品としてこう聞かせたいっていう音の配置を重視したフレージングなのではないかと思えてなりません。後ろから纏わりついてはすぐ消えてしまうと言った感じで、そんな中ツボのみをつく控えめなホーンセクションも体の奥底を揺さぶってくる。曲の、平熱を装うクールなテンションとは反対に、聞いてるこちらはその強烈なファンクネスにどんどん熱量が上がり踊らずにはいられない。ある程度地盤ができてきた今だからこそ好きになれた作品で、2023年出会えた中で最も大切な1枚です。

 

 

OGRE YOU ASSHOLE - 家の外(2023)

ライブ会場を中心に販売されたOGRE YOU ASSHOLEの新譜で(9月にサブスクでも聞けるように)、OGRE YOU ASSHOLEは普段からライブに通ってるバンドですが最近のライブはファンク色が強く、余白をたくさん残すことで骨組みを露出させたスタジオ盤の作風は実際にルーツにカーティス・メイフィールドを上げているところからも重なるところが多々あります。とくに2017年作の「ハンドルを放す前に」の音数を絞ったミニマルな作風はSlyのFreashを聞いたときにフラッシュバックした1枚です。今作はNeu!やCluster、CANといったバンドのオマージュが散りばめられたクラウトロックを地で行く作品で、スタジオ盤のオウガとしては珍しく電子音のシーケンスがずっとメインに据えられていて、それ故にそのシーケンスと並走するドラムの強烈なグルーヴが今まで以上に際立った作品でした。ライブの熱量のピーク直前とも言える瞬間をうまいことパッケージングした作品にも思えて、平熱を保ったまま永遠に踊り続けられるアルバムになったと思います。

 

 

Squid - O Monolith(2023)

Squidの2nd。オウガの家の外と並んで自分の上半期を象徴する2枚です。今作はグルーヴィーな1stの粘り気の強いビート感はそのまま、ノイズやパーカッション、ホーンセクションといった曲を彩る要素をどんどん足していったにも関わらず、エッジの効いた各パートの音の隙間はしっかり見える、アンビエンスと固形化したアンサンブルのソリッドさを両立させた作品で衝撃を受けました。今作ジョン・マッケンタイアがプロデュースをしていて、セットで1stも聞き返したところ両作ともポストパンクという側面よりクラウトロックやファンクの遺伝子に強烈に惹かれます。Squidはパンクシーンから出てきてWARPからリリースした経緯や、元々ライブハウスでファンクを演奏していたという経緯が自分の中で!!!と重なり、!!!自身がハードコアシーンを出自としながらWARPへ移行したという流れも完全に同じで、このルーツに接近したい、自分が聞いていて最も心地いい瞬間、その感覚のルーツとなる部分にもっと切り込んでいきたいという気持ちからファンクへと興味が向いていきます。その中でレコードコレクターズのソウル/ファンク特集やFunk Of Agesというサイトをガイドにしながら、先述したFreashの冒頭の流れに繋がっていきます。

 

 

下半期は新譜チェックの傍ら音楽を掘る時間はほぼファンクを追っていて、ポストパンクやAOR周りからかつて聞いたものより前の、70年台を中心にJBのライブ盤やコンピ、P-FUNK諸作といった王道を順番に聞き、JBからP-FUNKやSlyの人脈を辿ってオハイオ・ファンク、ベイエリア・ファンクに傾倒し、80年台に移行しながらZappやPrince諸作を主に聞いていました。とくにPrinceはかつて苦手意識すらあったのが、Slyを経過した上で聞くとミニマル路線でリンクする部分が非常に多く、ようやく和解できた感覚があり上記のオウガの流れにもリンクします。元々FunkadericのファンだったのもありP-FUNK諸作もしっくりきて、王道ですがMothershipは上記のSlyのFreashと並んで2023年かなり聞いたアルバムです。Freashと通じる聞き方も多数できる作品だと思っていて、音数の少なさ、曲自体はミニマルな反復の中でもねっとり絡みつくような各パートのグルーヴ、そしてその中でも徐々に熱を帯びていく感覚はParliament独自のもの。ジャンル概念自体がまだできたばかりで曖昧だったのもあると思いますが、SlyやPariliamentの70s中期の作風は本当に混沌としていて、これが一つのジャンルとして共存していたのかと聞き進めるのがとても楽しかったです。P-FUNKやSlyの次にハマっていたバンドがOhio Players、オハイオファンクと言えば後のSlaveにも繋がっていくバンドですが、P-FUNKへと合流していくジュニーがコンポーザーを担っていたウエストバウンド時代がとくに好みで、リズム隊の周辺をねばつくように絡みつくホーンセクションやオルガンはジャジーな色も強くよく聞いてました。ジュニーのP-FUNK期だとOne Nation Under A Grooveがベストです。Ohio Playersはジュニー脱退後も好きなアルバムが多く、後期だとSkin Tightをよく聞いてました。

 

 

MyGO!!!!! - 迷跡波(2023)

バンドリシリーズは一切見たことなかったんですが、MyGO!!!!!がenvyっぽいという意見をツイッターで見かけて興味を持ちアニメを視聴したところ、第一話冒頭数分からあまりにも不穏でギスギスとしたバンドの崩壊を生々しく映していて一気に飲み込まれました。冒頭で触れたenvyのようなポエトリー主体のエモ前夜/ポストロックの雰囲気まで感じる楽曲もすごく肌に合いますし、アルバム収録曲の音一会といった楽曲はくだらない一日のようで昨今の国内エモシーンと呼応する部分も感じられ、そういったミッシングリンクから背後に激情やまだギターロックっぽさがあったTen Rapid期のMogwaiも連想してしまいます。アニメ本編もバンド作品として、作中で曲が生まれ、メンバーが肉付けしてできあがってくプロセスを丁寧に描いているので、そういった楽曲が実際にライブで演奏されていく過程にカタルシスを感じたり、人間関係の軋轢からくるバンド崩壊寸前のところから、その傷を癒すように新しい曲が生まれ再生していく様が描かれていてかなり衝撃でした。従来のバンドリと大分毛色が違う作品らしく、だからこそ肌にあったのかなとも思いますが、今後のリリースも楽しみです。

 

 

littlegirlhiace - INTO KIVOTOS(2023)

2023年にリリースされた4枚目のフルアルバム。ここ数年の集大成のようなとんでもないアルバムになったと思います。個人的にbandcampや物販にイラストとして参加させていただきました。先日単独記事を公開したので是非とも。

 

 

坂口達也 - STA(2023)

Spotifyの年間レポートだと、2023年最も聞いた曲がこのアルバムの1曲目にあたる電子の砂漠でした。硬質で冷たいギターの感触と、どこかくたびれているようで、内にある熱いものが自然とにじみ出てきたような言葉の並びに強烈に胸を打たれてしまう。00年台ギターロックっぽい表情を見せる瞬間が多々あって、個人的なルーツからも懐かしくなってしまいます。上半期まとめでも触れたアルバムで一年を通してよく聞いてました。第12話はやはり何度聞いても共感してしまう名曲。

 

 


 

以上でした。順不同です。今年は生活的に大きな変化が多くあまり音楽を掘ることがなくなったのですが、だからこそ、例年の自分だったら選ばないであろう選盤ができたかなとも思います。旧譜にハマり、アーカイブ化された資料を元に"面"として音楽を聴くことが増えるにつれ、こういった年間ベストを書く意義や、新しい音楽を年内に聞くことについて色々考えてしまいますが、こういった記事自体が将来一つの面として楽しめる日もくるんじゃないかと思います。

あとは2023年、終盤はほぼ同人誌の制作をしていました。イラスト集+音楽ZINEで音楽ZINEの方では主にスロウコアに関して書いてます。元々、イラストの作風と音楽の方向性を合わせる予定はなかったのですが、作ってく内にジャンル関係なく通じる世界観が自然と滲み出てきて、自分の見てる世界のレンズがどういう色をしているのかわかったような気がします。気になった方は手に取っていただけると嬉しいです。

 

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pärk 販売ページ

akebonobashi.booth.pm

お待たせしました。先日ブログ内でも告知させていただいた、COMITIA147で頒布したpärkという同人誌の通販を開始しました。前記事で述べた通りイラスト集+巻末にセルフライナーノーツとして各イラストに関する解説及び日記、私的スロウコアガイドというタイトルの音楽ZINEがつきます。全118ページ(内カラー30ページ)です。価格は1300円です。現在は手元に在庫があるため、それに準じた送料ですが、ある程度減ったら倉庫に委託しようと思うので送料も変わる可能性があります。ご了承ください。基本的にいつでも買える状況にしておきたいので、在庫切れている及び注文したけど一向に届かないなどあれば気軽に連絡ください。ご注文お待ちしていおります。

 

本の概要

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