プリンス:サイン・オブ・ザ・タイムズが11/14~11/20の間限定でIMAX上映をしているのですが、プリンスの映像作品では最高傑作と言われることも多い作品で、個人的にここ数年Slyから続きファンクを辿る中で最も多く聴いているアーティストなので(シンプルにアルバムが多すぎるのもあるけど)、情報が出たときからとても楽しみでした。見てきたのでその感想記事です。結構原曲から大きく変わったアレンジも多く、見てるときはどの曲がどのタイミングでやってたか色々うろ覚えなのもあり、セトリの情報を見ながら回想していきます。
プリンス:サイン・オブ・ザ・タイムズは1987年にプリンスがリリースしたSign o' the Timesというアルバムを引っ提げてのライブ公演を元にして作られた作品。とは言いつつプリンス本人は音質に納得いってなかったらしく大部分を再録、純粋な当時のライブではないんだけど、逆にもう映画として作るっていう演技含めパフォーマンスがとんでもなくすごい。導入としてちょっとした寸劇があったり個性的な衣装やキャラ付け、ちょっとストーリー仕立てっぽいライブ演出もあって完全にコンセプチュアルなロックオペラになっていて、ツアーの記録ってよりはもう一つの音楽映画として完璧なエンタメ作品になったと思う。
冒頭のSign o' the Times(表題曲)は基本的に打ち込みドラムによる電子音とプリンスのギターと歌一つで掛け合うアルバムでも最初に置かれてる曲で、このミニマルな感じがSlyの系譜として聞ける曲だったけど、IMAXでバチバチに低音が効いたシーケンスのちょっとスペーシーで上から下まで縦断していくように伸び縮みする電子音は、これ単発でしっかりグルーヴがあることを実感する。入場してきたプリンスと横で爆踊りするダンサーの演出も含めてこの時点でかなりぶち上がってしまうし、映画館の座席で体を揺らすのを我慢できなかった。正直大分音源とイメージが変わったのだけど、ここに乗るプリンス本人のギタープレイがまさにライブでしか聞けない、音源での理知的にリズムを刻むファンクらしいプレイとは対照的に、自由で歪んだギターを衝動に任せて走らせ、歌のテンションとリンクして熱量が上がっていくパフォーマンスだけで見入ってしまう。生演奏であることの大きな意義がここに詰まっている。そして後半、メンバー全員でドラムを叩きながら一人一人入場していき、ライブの開幕、映画の導入としても完璧だった。まだ見終わってないのにこの時点でもう一回見に行きたくなった。
冒頭部分。ガチで痺れる。後に演奏するHot ThingやForever In My Lifeもそうだけど、IMAX音響でエレクトロ色が強いナンバーを体験すると、トレント・レズナーがプリンスを敬愛し、後のインダストリアルとの懸け橋になっていたことがよくわかる。自分がAutechreのファンであることや、OGRE YOU ASSHOLEのファンであることと、Princeが好きであることはちゃんと繋がってるなと改めて実感した。そしてフロントマン一人とギターと打ち込みのみでライブの始まりを告げるっていうのが時代含めどうしてもストップ・メイキング・センスを思い出してしまう。ファンクという共通項もあり(Talking HeadsにはP-FUNK軍団のバーニー・ウォーレルが在籍していた)、今作はストップ・メイキング・センスがいけた人には刺さるもの多いのではないかと思うし、プリンス初見って人にもおすすめしたい。
2曲目のPlay in the Sunshineはアルバムでも印象的なジャジーでファンキーなアップテンポのロックナンバーで、80sらしい大所帯バンドの巨大ステージングがこれまたすごい。ライブが真骨頂ってのがよくわかる。アルバムだとこのままM3のHousequakeへ間髪入れずに雪崩れ込むんだけど、今回はアウトロから流れるように1999の大名曲Little Red Colvetへ。Purple Rainのツアーでも演奏していた代表曲で、今回はテンポを落としてムーディな雰囲気が前面に出た最高のメロウナンバーに。この惜しみない序盤の加速度が凄まじいし、相変わらずメロディが良すぎてシンガロングで泣きそうになってしまった。Sign o' the Times(アルバム)はレヴォリューション解散後のアルバムで、Purple Rainや~Parade辺りのプリンスのイメージが強い人にはこの2曲のアレンジで新生バンドとの雰囲気の違いがわかるのではないかと思う。
そしてHousequake、個人的にベストに上げたい。本当にすごかった。Sign o' the Timesはプリンス一人が主導になって作られたスタジオワークスの強いアルバムで、こういう作品がライブによる生演奏で肉付けされ新しいバンドマジックを見れるっていうのは本当に醍醐味だよなと。またしてももう一度見に行きたくなった。Housequakeはヒップホップを意識した曲だと思うけど、歯切れの良いトラックがシーラ・Eのパワフルなドラミングに置き換わり、まくしたてるようなビートにこの時点でとんでもなくぶち上がってしまう。歌いながら曲に合わせてキレッキレにダンスするプリンス含めてJBを思い出し、プリンスとメンバーの掛け合いのようなボーカルや派手なホーンセクションにP-FUNKも想起(メンバー全員が個性的でキャラ付けされた衣装を見に包んでいること、ストーリー仕立てなのもP-FUNKっぽい)。プリンスがしっかりファンクの王道の系譜の先であるということを強く感じてとてもグッときた。
続くSlow Loveはゆったりとしてるからこそ音源以上に伝わる極上のグルーヴ。あと演出めっちゃエロい。 I Could Never Take the Place of Your Manは王道80sポップなはずがシーラ・Eの超絶ドラムによってスケールを広げたアンセムに変貌。アレンジすごすぎて派手なギターソロ含め完全に別物。寸劇も盛り込まれて映画らしい曲になったと思う。Hot Thingは原曲にあった無機的な雰囲気が、プリンスのちょっと即興的にも聞こえるシンセのフレーズがいくつか追加され、電子音絡むタイプの楽曲がライブで有機的になってるのを強く感じる映画だった。このあといくつかの曲を挟んで演奏されるIf I Was Your Girlfriendはこれまたライブでのアレンジが最高。Slow Loveと並ぶゆったりとしたナンバーで、今作では最もスカスカのファンクなんだけど、音数が少ないからこそダイレクトに伝わるグルーヴについ踊りたくなってしまう。If I Was Your GirlfriendとHousequakeは本映画を見てからアルバムで聴くとかなり印象が変わるのではないかと思う。
もう一つ個人的に最も記憶に残ってる瞬間がラスト手前のIt’s Gonna Be a Beautiful Night。正直音源とイメージが変わりすぎて終演後セトリを確認するまでわからなかった。かなりアップテンポになっていてホーンセクションの切れ味が増し、途中シーラ・Eとプリンスがボーカルとドラムを交代する瞬間があるのだが本当に凄まじい。何度でも見に行きたい。お互いをフィーチャーしたカメラワークも最高。シーラ・Eは映画を通してクローズアップされてたと思うけど、故に終盤ステージ前面に躍り出て、ラップ調のボーカルをまくし立てる姿にぶち上がってしまう。飄々とドラムを叩くプリンスもかっこよすぎる。プリンスは全楽器一人で演奏してアルバムを作ったりするというのは元々有名だけど、いざそれがショーに盛り込まれていてまた驚きがある。あとはこれまでダンサーや寸劇でずっと活躍していたキャットがボーカリスト及びパフォーマーとして大活躍していて今作の集大成とも言える曲だった。最後はハードロック色の強いThe Crossで大団円。ここでもシーラ・Eのパワフルなドラムがかっこいい。
以上でした。普通にプリンスって歌もギターもダンスもすごすぎるっていうのをこの大画面で淡々と突きつけられ、知ってたはずなのにこの超人っぷりにずっと圧倒されてしまいます。後追いとしては孤高の天才、もっと近寄りがたい人物だったのかなと思ってましたが、こうやって楽しそうにパフォーマンスする姿を見るともっと親しみやすいアイコンだったんだなというのを感じれて新鮮でした。単純にファンクのショー、ロックバンドのライブではなく、プリンスという巨大なエンタメが存在していたことがわかる映画だったと思います。文中でも触れましたが入門としても最適なので、結構ギリギリですが興味のある方は是非とも。