朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

20210426 slak / Gouge Away / Logh

slak

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最近知ってよく聞いてたやつを並べます。slakという東京で活動するインディーズバンドでたまたま好きなバンドやらジャンルやらで検索かけてたらヒットしたのですが、これがかなりツボでした。

2曲入りシングル。sassya-やロクトシチとスプリットを出したりもしてて完全にその辺のポストハードコアシーンとリンクしてきますね。ギターリフぶん回してく感じはBluetipやFaraquetと言った90sポストハードコアを思い出すんですがあの辺のDischord関連と比べるともうちょっと退廃的な音で、一度静寂を挟んでから延々とギターリフを循環させていくアウトロがめちゃくちゃ好きです。個人的にHooverとかの暗黒世界とも通じるとこあると思います。

で2曲目の「cares」は更に不穏さを増してて個人的にLowercaseとかのスロウコア~ポストハードコアなバンドも思い出したりするし、ただLowercase程Slintとかそっちには寄せないであくまでディスコーダントなサウンド+歌メロは結構エモとかにも通じる感じで1曲目「indecision」と同じく、後半で静寂を一度挟むことも相まってかなりドラマティックです。Bastroのライブ盤収録の「Antlers」とかをめちゃくちゃ思い出す名曲。

ハードコア出自バンドが静寂パートで見せる冷たい質感が個人的に大好きなんですがそこからじわじわと熱を上げていくアウトロがどちらもかなりツボで、わかりやすくギアを上げるというよりは静パートを挟むことで一度リセットしてループする中でいつの間にかぶち上がっている温度感と言いますか、ライブとかで聞いたらもう一生続けて欲しいだろうなと思います。しかも序盤だけ聞くとそこまで長尺な曲には思えない感じからここに到達していくのがたまらない・・・。

 

Gouge Away - Burnt Sugar(2018)

BURNT SUGAR/GOUGE AWAY/ボーナストラック収録|PUNK|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

ディスクユニオン新宿パンク館でレコメンドされていたので気になったんですよね。なんかJesus LizardとかUnwoundとかが引き合いに出されていてその二つとも勿論大好きというかもうフェイバリットなので期待しかなく、聞いたんですが本当にその頃の硬質ながらジャンクで疾走してく感じは衝動まみれで最高でした。というか本当に2018年?という感じで先の二つを挙げるのも非常に納得というか、ただそれらより更にエネルギッシュに爆走している感じがあり、ボーカルの絶叫具合からもちょっとカオティック通過した音だと思います。しかも00年代以降ではなく90年台のLovittとかあの辺のインディーっぽい荒々しさが濃い頃を思い出すのがまた最高。

 

Logh - Every Time A Bell Rings An Angel Gets His Wings(2002)

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スウェーデンのバンドで完全に旧譜ですがこれもめちゃくちゃハマってます。仄暗いサッドコア/スロウコアという感じでギターの質感とかはかなり冷たくてまさしく冬にピッタリのサウンド。今はちょっと季節外れですが、スロウコアだからこそ音の隙間のわかるサウンド+こういう冷ややかな淡々としたギターの質感ってのがもうめちゃくちゃに染みます。

で憂いを帯びたメロディーはちょっとエモいというか徐々に徐々に暖めていくような、スロウコア特有のスカスカだからこそ「一人で聞いてる感じ」の中で寄り添ってくれるような相反した感覚がたまらないです。あとは「The Passage」という曲での淡々としたミニマルだからこそ感じるドラムのグルーヴ感ってのもやっぱこの手のサッドコアからしか接種できない成分でこれも最高。淡々としたものだけではなく結構ギターの音色とか揺らぎを重視してスケール観広げてく曲とかもあってポストロックにも通じると思います。やっぱこういうの好きだな~。

 

 

最後に超かっこいいバンドもう一個貼って終わり。

20210329 black midi - John L

色々新譜が出てるのを適当に漁りつつblack midi新譜ということで。出すんだ。この前BCNRもShameもかなり好きだったしサウスロンドン熱いですね。


black midi、最初アルバム出したときも各所で話題になって来日行った知人も多かったし、僕はと言うと実はポストパンクもマスロックも好きだしよく比較されてたnhhmbaseZAZEN BOYSも好きだったのに何故かしっくり来ず・・・ということで葛藤していたバンドなのですが、新譜聞いてドハマリしました。2nd発売はもうちょっと先で先行シングルですね。

ギターリフ一本に合わせた各パートがフレーズをぶつけ合いときには強烈にユニゾンしながら、black midi得意の無機質なノイズと一体化したような強烈な音像で突っ走っていきます。どこへ向かっていくのかわからない音楽であり、あらゆる文脈を断ち切ったような・・・

とは言いつつ、おそらくZAZEN BOYSファンなら一発でHIMITSU GIRL'S TOP SECLETを思い出すこと間違いなし、だと思います。ライブバージョンの方とかもろでギターが一音繰り返しながら無に潜っていってその後拡大、という展開までそっくりだし、展開どころかリフの置き方やドラムの強調の仕方まで・・・

イントロはTaratine(ZAZEN BOYS4)っぽいし、途中でRiff man(ZAZEN BOYS3)のアルバム収録版にある一度演奏をストップ → 打ち鳴らすリフとリフ のくだりを思い出す箇所があったり、というか3分頃からの展開はRiff Manのライブバージョンも強烈に思い出します。

もう似てる似てないとかそういうレベルじゃないだろ・・・という気持ちになりつつも、それでドハマリしてしまう自分に「これはblack midiを好きになったというよりZAZEN BOYSが恋しくなってるだけなんじゃないか」という気持ちにもなり、なんだか申し訳ない・・・。

black midi、完全にオリジナルな音楽をやってる集団ということでサウスロンドンから広がった新世代の旗手なので、好きなバンド同士が繋がってく感じがしてすごく嬉しいんですよね。ZAZEN BOYSは2015年からコロナ禍までは毎年ワンマン通っていて自分の中でかなり補正かかっちゃってて、知らない人より無駄に関連付けちゃってる・・・てのはあると思いますが、どちらかのファンでもう一方と体験してないという方は是非とも。

Schlagenheim - Album by black midi | Spotify

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black midi、当時完全に好きなタイプなのにハマれなかったのなんでだろうと思い、とにかく聞きまくった覚えがあります。こういうのは感覚的なものの好みなので自分でもその理由ってのはわからないですね。マスロック文脈で語るにはハードコアとかポストロックとかの流れを汲んでるようにあまり思えず、クリムゾン・・・は影響下が多すぎてこの手の音鳴らしてたら全部関連付けられちゃいますよね。

Lightning Boltっぽいなと言っていた知人に結構納得しつつ、というかもう〇〇っぽいとか〇〇に影響を受けたとかのロック雑誌ありがちな評をすること自体がもうお門違いというか、バンド名が日本のインターネット文化が由来だったり音楽と関連するあらゆるカルチャーから影響を受けた人達から出てくる素の音だと思います。まさにロック以降、"ポスト"ロック的というか、いや音楽的にはポストロックじゃないんですけどね、そう考えるとポストパンクってのは本当にしっくりきますね。2nd楽しみだな。

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20210326 ギタマガ/オルタナグランジ特集

ギタマガ買いました(前にも書いたな・・・)

今回はこちらなんですが、相変わらず全くギター弾かないので機材の話とかほぼわからないんですが、このパッケージカッコ良すぎでしょう。

ギター・マガジン2021年4月号 (特集:90年代オルタナ革命)

ギター・マガジン2021年4月号 (特集:90年代オルタナ革命) | ギター・マガジン編集部 |本 | 通販 | Amazon

で内容もオルタナグランジ特集とか、もう一番好きなとこというか僕のルーツですね。いきなりページめくって1991年特集!とかでニルヴァーナパールジャムサウンドガーデンスマパンダイナソーと並んでいたり、というか表紙に並ぶこのメンツ・・・

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載ってる文字がどれもこれも好きなとこで、これがカタログ化されてるだけでも嬉しい・・・。

 

でミュージシャンがそれぞれの「私的オルタナグランジ名盤三選とイチオシ曲」「好きなオルタナグランジギタリスト」というコーナーがあり、dipのヤマジさんやノベンバ小林裕介、ホムカミの福富さん、オウガの出戸さんまで・・・ととにかく楽しいです。でこういうの見ると必ず「俺だったらこの3枚だな」とかをまぁ考えてしまうわけですが、考えてしまったのですがこちらです。

 

1位 Smashing Pumpkins - Siamese Dream(1993)

曲:Quiet

なんの捻りもないですがやっぱり僕のオルタナ趣味の最初って日本ならナンバーガール、海外ならスマパンなんですよ・・・。とにかくメタリックなリフ一本で聴けるし、同時に美しく重ね掛けされた奥深いギターの轟音、て側面でも気持ち良すぎる。昔はオルタナってリフがかっこいい音楽のことだと思ってました。

 

2位 Pavement - Wowee Zowee(1995)

曲:Rattled By The Rush

一番好きなインディーロックでその在り方自体がオルタナだと思います。音が悪いって意味でのローファイではなくアンサンブルがぶっ壊れてるという意味でのローファイが堪能できる名盤。歌がヘロヘロなのも全てその計算の内というか、メロディアスだし泣けるっていう。

 

3位 Rodan - Rusty(1994)

曲:The Everyday World Of Bodies

ポストロック元祖ですがハードコア出自だけあってかなりギター寄りのバンドで、とにかくザクザクとしたリフが気持ち良いんですが同じ曲の中でスロウコア的な最小の美しさを奏でたり、メロディアスな轟音でエモーショナルに盛り上げて行ったり・・・と展開が多くて衝撃でした。

 

でギタリストに関して僕はそもそもギター弾かないのでどうなんだろう・・・て思っちゃったんですが、完全に好みでUnwoundジャスティン・トロスパーとかの変則的フレーズから不協和音ノイズへ飲み込んでくスタイルが大好きですね。あとはShellacスティーヴ・アルビニ、金属的なジャッキジャキの和音、徹底的なアナログ録音による生っぽい響き含めあのジャキっとした何にも代えられない音はいつまでも聞いていたくなります。

 


 

吉野寿×向井秀徳の対談で思ったことを少々。

先ほどの91年の名盤、から続いてニルヴァーナパールジャムから話題を振るんですが、まず“オルタナ“ではなく“グランジ“て切り口ならその人選はミスってね?と思いつつ実際2人ともほとんど聞いたことないです、とハッキリ言ってて笑っちゃいました。

でその2人で盛り上がると言えばやっぱりハスカードゥとソニック・ユースダイナソージュニアでした。前半の名盤紹介とかなりズレていて笑 でもこれが面白いっていうか、リアルですよね。世間的に売れた代表作はグランジでも、実際にミュージシャンに聞いた影響力の強さとしてはインディー精神強いものやハードコアが根本にあるもののが強いんだろうなぁと思います。それが良い意味で出てた気がする。

話それすぎですが、それ以上に面白かったのが2人のギターに対する話題で、とにかくそれぞれの価値観がありそのスタイルそのものが間違いなく“オルタナティブ“と言える独特のものを持っていて、2人の音楽をよく知ってるからこそ非常に読み応えがありました。あれを読めただけでも買ってよかった。

 

あと対談の中でフガジにもがっつり触れててポストハードコアで特集してほしいな・・・アルビニ録音とかに話題を寄せても面白そうですけどね。PJハーヴェイとかもいるし。あと向井秀徳が91年と言えばライドでは?とも言うんですが、マイブラもそうですし、あえてUKロックは避けてたっぽいのでシューゲイザーもお願いします。こういう好きなジャンルのカタログ、バイブルは家にフィジカルであるってだけで嬉しいですね。

記録シリーズ:Rodan / June of 44

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Rodan、ケンタッキー州ルイビル出身のバンドで1994年にアルバムを一枚残し解散。一つの曲の中でスロウコアとハードコアを行き来する同郷Slint直系のポストロック/ポストハードコアにして解散後様々なバンドへと派生。とくにフロントマンであるジェフ・ミューラーが結成したJune of 44では直系のサウンドを鳴らしながらダブやジャズにまで接近し音楽性の幅を広げていきます。このRodan~June of 44、そしてSlintと並びまだポストロックという名もついていなかった時代にその原型と言える音楽をやっていて、後のTortoiseやGaster Del Solといったシカゴ音響派も元を辿るとこのルイビルのシーンへと合流していきます。

同時代のポストロック前夜としてはジャズやエレクトロニカの要素も強いシカゴ音響派と比べると、Rodanに関してはレーベルの大元であるTouch and Goのジャンクロックやポストハードコアの色を強く継承しながら更にスロウコアの繊細さも併せ持っていて、Slintとルーツを共有するマスロック方面への影響力も非常に大きい。ポストハードコア以降という目線では所謂Dischord以降のDCシーン、American FootballやJoan of Arcといったキンセラ兄弟に端を発するエモ~ポストロック、先のシカゴ音響とはまた別の、ShellacDon Caballeroとも顔を並べるTouch and Goから見るポストハードコアの亜種しても掘り下げていきます。

 


 

Rodan - Rusty(1994)

Rodan - Rusty | DeLorean | Tiny Mix Tapes

Rodanが唯一残したオリジナルアルバムにして大名盤。1曲目の「Bible Silver Corner」からとても抒情的で美しいスロウコアから入りポストロックの元祖としての貫禄を見せつけながら、まさか同じバンドとは思えないようなほど高速で破壊的な「Shiner」で獰猛なハードコア性を見せてきます。たった一枚で解散してしまいましたがこれがベストアルバムと呼ばれても遜色ないほど名曲しか入っておらず、開幕この2曲の要素が入り混じった切れ味の鋭いジャンクなハードコアと美しくエモーショナルな静→動の展開を流動的なアンサンブルで行き来していて「The Everyday World of Bodies」は10分超えの後にマスロックと呼ばれる音楽ともリンクを感じれる。エモ前夜としても聞けそうな「Gouge」「Toothe-Fairy Retribution Manifesto」では徐々にギアを上げ爆発させていく緻密な展開に泣けます。こんなにもぐしゃぐしゃに壊れていて美しい音楽を他に知らない、奇跡のような6曲42分。

解散後フロントマンであるジェフ・ミューラーはJune of 44を結成、ベースのタラジェイン・オニールとドラムのケヴィン・コールタスはThe Sonora Pine、ギターのジェイソン・ノーブルはピアニストのレイチェル・グライムスと共にRachel‘sへと派生。Slintの名盤SpiderlandとこのRustyはルイビルの元祖ポストロックシーンで最重要のアルバムでしょう。

 

June of 44 - Engine Takes to the Water(1995)

ENGINE TAKES TO THE WATER (COLOR VINYL) /JUNE OF 44/RSD DROPS  2020.08.29.|ROCK / POPS / INDIE|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

Rodan解散後ギターボーカルのジェフ・ミューラーがCodeine、Hooverと言った同時代ポストハードコア界隈の錚々たるメンバーと共に結成したJune of 44の1stアルバム。まだ今作はジェフ・ミューラーのデモをベースに各メンバーで肉付けしていったとのことでRodanの延長線としても聞きやすいアルバム。録音はRodanと比べるとかなりタイトで硬質、音を絞り隙間をより強く見せる展開はRodanよりもSlintのSpiderlandを想起させるシーンも多々あります。Spiderlandのポストハードコア性を拡張したようにも思える曲群はリズム隊がHooverとCodeineという出自もあるだろうし、低音ががっつり効いたミックスもあって二人の演奏は非常にヘヴィ。June of 44はどのアルバムもShellacのボブ・ウェストンが録音してますが(Rodanもそう)、今作だけは後にLCDDFAで有名なジェームス・マーフィーが担当。彼はSlintのメンバーのルームメイトでもあったようだし、アルビニのスタジオでエンジニアとして修行してたとのことでおそらくボブ・ウェストン経由のそういった繋がりからだと思います。後のDFAや同時期に彼が関わったSix Finger Sateliteでも低音が強調されているので1st特有の重い質感にかなり貢献してると思われます。「Have a Safe Trip, Dear」「Mooch」といった曲でも見られる、SlintやMogwaiで有名な静→動の轟音で塗りつぶすコントラストとは少し色の違った、空白を作る演奏の緊張感でじわじわと溜め、突如リズム隊やツインギターの構成で加速していくスイッチを切り替えるような感覚はマスロック元祖と言われるのも納得。Rodan解散後、メンバーはJune of 44とThe Sonora Pineに派生していきますが、どちらのバンドも1stはRodanの続きという印象を残したままSonora PineはジャンクなUSインディー、June of 44はハードなスロウコア~ポストハードコア、と言ったそれぞれメンバーの色を濃くしていく様が聞き比べていて非常に楽しい。Rodanの理解度が逆方向から上がっていく印象もあります。

 

The Anatomy of Sharks - Single by JUNE OF 44 | Spotify

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1stリリース後のシングル。2nd以降の音楽性ともまた違った「Sharks & Sailers」ではバンドのイメージとは逆に非常に高速で、同じくハードコア色の強く関係の深いTouch and Goを代表するDon Caballeroの1stと並べて聞ける曲だと思うし、何よりRodan~June of 44はDon Caballeroと活動時期がもろ被っていて、お互い別方向からポストロック/マスロックがまだ定義されてなかった時代にそれらを開拓していったバンドという立ち位置で、ルーツや音楽性は違えどどうやって後のシーンを形作っていったか見えてくるところもあり並べて聞くのも非常におすすめです。

そして後期June of 44の変化の秘密が垣間見えるダグ・シャリンの趣味であろうトロピカルなインストも挟みながら、最終曲「Seemingly Endless Steamer」がこれまた名曲。美しい極上のスロウコアから不穏なポストハードコアへと大爆発していく構成は、1stでも見せたダグ・シャリンのドラムを軸にバンド全体でラウドにドライブしていく非常にスタイリッシュな名曲。

 

June of 44 - Tropics & Meridians(1996)

June Of 44 – Tropics And Meridians (1995, CD) - Discogs

99年リリースの2nd。従来のJune of 44のイメージを決定づけたような作品で、ずっしり構えたフレーズの塊のようなドラムとベースをスロウペースで反復させ、その上で1st以上に捻じ曲がったツインギターのフレーズが規則的に絡み合い所々バーストしながらスポークンワーズを乗せていきます。開幕「Anisetta」はまさにそのバンドのスタイルを象徴する曲でジャム・セッション感もある。「Sanctioned in a Birdcage」はRodanとも通じそうな抒情的で美しいギターのトーンから、一発で不穏なポストハードコアへと持っていく強烈なベースラインはフレッド・アースキンが元Hooverであることを思い出させてくる名プレイ。3rd以降のスタイルにも通じます。1st程展開は多くなく、むしろ音数を増やさないままヒリヒリとした緊張感を持続させループを軸にしながら動きを見せる様はどことなくShellac的。しかしShellacのような予測不可能なフリーキーなアンサンブルではなく、規則的だからこそ一つ一つのフレーズの妙が練られていてバンドとしてのフィジカルの強さを最も感じるアルバム。

 

June of 44 - Four Great Point(1998)

June Of 44 – Four Great Points (1997, CD) - Discogs

98年リリースの大名盤3rd。2nd経過後を強く感じさせるリズム隊の強烈な個性の強さを生かした反復のスタイルは色鮮やかにアレンジを広げ、ダブやジャズといった要素と本格的に接続し始めポストロックとしての色を強くしていきます。1曲目の「Of Information & Belief」ではRodanを思い出す繊細なツインギターのフレーズが象徴的なバンド随一のメロディアスな歌もの。June of 44屈指の美しい曲ですが、中盤からジャンクで金属的なギターリフが正面衝突し突如ポストハードコアへと急転。しかも轟音で覆うわけではなくフレーズの鋭角さとツインギターの妙で爆発を表現するのが完全に円熟していて、きめ細やかにフレーズを変化させながらずっと安心感のあるリズム隊の二人もずっとキレがある。

そして2曲目以降、本性を現したかのようにベースリフ一本を核としながらひたすらタイトに繰り返される溜めの効いたドラム、曲を進むにつれスペーシーでダビーなエフェクトが増してい、A面~B面で音楽性が少しずつ見えてきてアルバム終える頃には最初と全く違った印象になってく構成は圧巻。実験的な最終曲「Air # 17」を終え一周してもう一度再生した頃には最初の「Of Information & Belief」の印象もきっと変わってると思います。

1st2ndはまだジェフ・ミューラーによるRodanの続編という色も強かったのに対し、3rdからは元Hooverであるフレッド・アースキン、元Codeineであるダグ・シャリンという後にHiMを結成するリズム隊の色が強くなっていて完全にJune of 44という個が出てきたアルバム。特に今作はHoover派生でもあらゆるバンドでベースを弾いているフレッド・アースキンのジャズ/レゲエにも通じるベースラインがかなり要になってると思います。Rodan組のハードコア要素とHiM組のダブ要素が引っ張り合っている中間とも言えるし、実験的な要素を強くしながらも彼らのディスコグラフィで最も聞きやすい文句無しの代表作でしょう。とは言いつつ3曲目「Cut You Face」ではこのメンバーで今になってアップテンポのポストハードコアをやる、ちょっと浮いてるくらいストレートな曲で、それぞれのキャリアを考えると熟練度十分で獰猛なフレーズの応酬は凄まじくかっこいい。

 

June of 44 - Anahata(1999)

June of 44 - In The Fishtank 6(1999)

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完全にHiM組の色に染まってしまったアルバムでダブやジャズの要素も垣間見えるバンド感強めのポストロック。ハードコア色が薄いおかげで3rdとも壁がある作品だと思います。このアルバムにしかない完全なオリジナリティを確立させていて、どうやらダグ・シャリンの作ったループをベースにメンバーで録った長尺のセッションを編集して作られたアルバムらしく、最早HiMによるJune of 44のリミックス集って方が近いかもしれません。

ボーカルも歌心強めでシャウトも完全に消えましたが、歌ものポストロックと呼べるほどメロディアスでもないこのバランス感覚、まさしく各々のバンドで培ったそれぞれの音楽性・・・の延長にある部分を絡み合わせ作ったようで、まさに「ポスト」ロック的な作品だと思います。隙間の多い演奏からわかる各パートのミニマルな絡み合いによる浮遊感が非常に心地いいです。

Fishtankは専用スタジオを借りてEPを一枚作るという企画作品。完全に4thの延長線なのでそのまま続編として聞けますが、しかしAnahataのようなリミックス的作風ではなくスタジオで合わせて録ってるのでこちらのがバンド感が強く3rdからの流れだと聞きやすいかも。腑に落ちるところも多いし後の作品でセルフカバーされるのも含めてミニアルバムですが非常に重要なアルバム。

 

Rodan - Fifteen Quiet Years(2013)

Rodan - HAT FACTORY '93(2019)

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未公開音源集でFifteen Quiet Yearsは2013年、HAT FACTORY '93は2019年に発表されました。Fifteen Quiet Yearsは未収録曲+ライブ音源で、スタジオ盤ですら凄まじくライブ映えしそうなバンドなので間違いないです。「Darjeeling」など未公開曲を聞いてるとまだ80sハードコアの延長に聞こえる箇所が多々あり、これがセッションにより発展、肉付けされてってRustyになってったのかなぁとか考えてしまいます。

HAT FACTORY '93はRustyとほぼ曲目一緒ですがアウトテイクとは思えないほど完成されていて、原曲だとスカスカな分低音が強調されたミックスだったのに対しこちらは中~高音域が強いおかげでギターの音がかなり暖かみがあって全然違って聞こえます。というか激しい曲でも美しいRodanが聞けるので「the Everyday World of Bodies」とかは全体的に音が分厚くなっていてポストロック感も増し増しでフレーズは一緒なのにイントロからまるで別曲のよう。ノイズパートの印象もまるで違ってこっちのバージョンで大名曲に化けたと思ってます。

 

June of 44 - REVISIONIST: ADAPTATIONS & FUTURE HISTORIES IN THE TIME OF LOVE AND SURVIVAL(2020)

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まさかの新譜。解散から20年経ってなので驚愕でしたが、その20年の間にジェフ・ミューラーはRoadn時代の盟友ジェイソン・ノーブルとShipping Newsで活動、ダグ・シャリンとフレッド・アースキンはお馴染みのHiMでアルバムを多数リリースと、それぞれキャリアを重ねた面々+ジョン・マッケンタイアMatmosの二人も参加と90年代のポストロック大御所オールスターのような布陣になってます。

で中身ですが4thのAnahataを更に押し進め、より音をスマートにそしてヘヴィにした感じでしょうか。元々がリミックスっぽいアルバムだったのでこちらはバンドサウンドで再構築したとも言える作品で、B面では普通にハードコア色強い曲も戻ってきて激熱。リミックス二曲はバンド音源をサンプリングしたカオスなハードテクノに。

 

The Sonora Pine - The Sonora Pine(1996)

The Sonora Pine - II(1997)

Amazon | The Sonora Pine | Sonora Pine, the | 輸入盤 | 音楽 The Sonora Pine – II (1997, CD) - Discogs

Rodanから掘ってくにあたって重要なバンドでRodanでベース+女性ボーカルパートを担当していたタラジェイン・オニールとドラマーだったケヴィン、そしてJune of 44でギターを弾くショーン・メドウズによるバンド(ショーンは同時期にDischord RecordsのLungfishでベースを弾いてたりもします)。1stはRodanと展開の仕方や構成が近く、ジャンクロック的なローファイな録音+タラジェイン・オニールの暖かみあるボーカルのスロウコアとしても聴けるようなミディアムテンポの中で曲がどんどん展開、バーストしていきます。

2ndではギターではなくヴァイオリンやオルガンをフィーチャーしより繊細なリズム隊を乗せるというまた別の作風になっていて、半分ポストロックに浸ったアート嗜好の強いスロウコア、と言った作品。シカゴ方面やRachel'sとも通じるものがあるし、2000年以降SSWとして名を上げるタラジェインオニールのソロや、この密室感はSlint解散後にメンバーが結成したThe For Carnationともリンクするとこがあります。

 

Retsin - Egg Fusion(1996)

Retsin - Sweet Luck of Amaryllis(1998)

 

Rodan、The Sonora Pineでおなじみのタラのまた別のバンドで90年代末期にやっていたので同時に活動していたようですが、Rodan一派によるマスロック~ポストロック的な作風ではなく純粋にいい歌にいい演奏が乗っている暖かみのあるインディーロック。いかにもオルタナという感じで録音もインディーらしいローファイな質感が個人的に大好きなバンド。メンバーのトッド・クックはShipping NewsやFor Carnationと言ったルイビルのバンドで活動していてこのシーンを追ってくと度々邂逅します。

 

Tara Jane O'Niel - Peregrine(2000)

Tara Jane O'Niel - In the Sun Lines(2001)

ソロ名義に転向後の1st「Peregrine」は宅録で作られたローファイなインディーフォーク。Retsinからそのまま地続きでソロらしく削ぎ落とされたパーソナルな作品で彼女のメロディーセンスが炸裂してます。2ndの「In The Sun Lines」ではジャケから既にそれっぽいですが、かなりRodanやRachel'sを思い出すポストロックフィーリングもありつつSSWらしかった1st路線も濃く残した名盤。Rodanっぽいのを聞きたい方はこちらをどうぞ、Idaとコラボしてくるのもこの辺で日本盤も出てます。

 

Rachel's - The Sea and the Bells(1996)

Rachels's - Selenography(1999)

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Rodanのメンバーであるギタリストのジェイソン・ノーブルがピアニストのレイチェル・グライムス、ヴァイオリニストのクリスチャン・フレデリクソンと共に結成した変則バンド。ジェイソンは今作ではギターを弾くというよりはマルチプレイヤーとしてプロデュースに近い形で関わります。基本はオルガン+管楽器をメインとしたポストクラシカルでまたちょっと違った方向からポストロックを広げていて、とくにSelenographyはRodanのBible Silver Cornerと言った美しいスロウコアと近いものがありルーツが垣間見えます。作品ごとにメンバーが変わりシカゴ音響派とも絡みがありますね。

ちなみにRodan~June of 44のフロントマンであるジェフ・ミューラーとジェイソン・ノーブルは高校生の頃からの親友であり、Rachel'sとJune of 44に分かれた後も二人で連絡をとり曲を作っていたらしく、これが後にShipping Newsとなります。

 

Shipping News - Three-Four(2003)

Shipping News - Files The Fields(2005)

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Rodan~June of 44を率いたギターボーカルのジェフ・ミューラーの次のバンドで、彼の変遷を辿ってくうちに上記の周辺バンドを知っていきました。Rodan/Rachel’sの盟友ジェイソン・ノーブルも参加しているのでRodan直系というか続編という雰囲気が非常に強く、むしろJune of 44は外部と接続しながら音楽性の幅を広げポストロック拡大の一端を担ってた感じだったので、より純度を高めた正当な続編はこちらのShipping Newsでしょう。彼らのルーツであるポストハードコア/スロウコア路線を正面から掘り下げていきます。

彼らと交流の深い同郷Slintのじわじわと心臓をわしづかみにするような静寂と狂気を行き来する緊張感を受け継いでいて、彼らがやっていた「遅いハードコア」とでも言うような音の完成形が鳴っています。しかもSlintが出てきたときってそんなジャンル存在していなかったのでまさに先駆け、ジャンルの草分けとも言える存在でしたが、後に発展したベテラン達が集まってそれをやってるのでかなり洗練されてますね。

3rdのThree-Fourでは静から動の振り切り方が激しい同時代のポストロックの名盤だと思います。4thはジェフ・ミューラーの暗黒ポストハードコア趣味が最もポップに出てる作品かと。

 


以上です。Rodan以降、という括りで聞くのならこの辺を押さえておけば間違いないと思います。とくにJune of 44と同時進行でジェフ・ミューラーがShipping Newsを始めたことで彼の本来の音楽性がわかり、June of 44の後期がいかにリズム隊二人の音楽性に寄って行ったかがよくわかったり、タラジェインオニールの美的センスがRodanに溶け込んでいたこともよくわかります。

 

Rodan関連、として括るのならここで終了です。以下、June of 44後期の音楽性に影響を与えたリズム隊二人のバンドについてちょっとだけ掘り下げていきます。

 

 

Hoover - The Lurid Traversal of Route 7(1994)

Hoover - S/T(1998)

Amazon | Lurid Traversal of Route 7 | Hoover | ミュージック | 音楽 

Dischord発、ルイビルのバンドではなくメンバーもRodanとは被ってないのですが、こちらに在籍していたフレッド・アースキンがJune of 44では要とも言えるベースを弾いてます。ハードコアですが金属的な不協和音と変拍子ギターリフの積み重ね+スクリーモという繰り返しが後のポストロック~マスロックや激情系に与えた影響は大きく、「Electrolux」辺りは完全に彼のベースリフの反復を核とし展開していく作風でJune of 44の3rdとかなりリンクしてきます。

98年のEPではハードコア色は強いまま更にダブ~レゲエ意識とも言える曲調になっていてシーン全体の潮流だったのかもしれません。

 

Abilene - Two Guns, Twin Arrows(2002)

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Hoover解散後、メンバーはいくつかのバンドに分かれるのですがその後にまた一部が再集結したバンド。勿論フレッド・アースキンも参加。Hooverの頃から彼のベースを主体としたダブ要素を推し進めた感があり、音をごっそりそぎ落として最小限のアンサンブルの中Hooverにも通じるダークな世界観を展開。全編にわたってホーンも参加しジャズやダブ・レゲエに接近したポストロック化とJune of 44がハードコアから4thで徐々にジャズやダブ化した現象と完全に同じことが起きてますね。

 

Codeine - Frigid Stars(1991)

Codeine - The White Birch(1994)

FRIGID STARS LP (2LP+CD)/CODEINE|ROCK / POPS /  INDIE|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net Amazon | White Birch | Codeine | ヘヴィーメタル | 音楽

Codeine、シアトルのバンドでRed House PaintersやLowと並んで90年代のスロウコアシーンを代表するバンドで、それらの中でも轟音要素が強く後のモグワイがルーツとして挙げることで有名ですね。冷ややかな緊張感はまさしく"サッドコア"的でBastroとスプリットを出したりもしていて、ハードコアの延長線としての貫禄十分。Slintと比べても更にミニマルで、アンサンブルの動きが少ないからこそ轟音垂れ流しパートの対比が強く強調されます。そして2nd「The White Birch」にJune of 44及び上記のHiMのダグ・シャリンがドラムで参加。実際1stと2ndでドラムが変わったことによりリズムへのアプローチの仕方も大分異なるアルバムでここを聴き比べるのも面白いです。

 

Rex - C(1996)

Rex - 3(1997)

 

Codeine解散後にダグ・シャリンがJune of 44と平行して活動してたバンド。June of 44と同じくスロウコアフィーリングありつつもこちらはもっとフォーク/カントリーの色が強まっていてCalifoneとかRed Red Meat後期のような雰囲気で聞けます。オルガンやチェロも参加して色鮮やかですがダグ・シャリンはJune of 44と同じくかなりパワフルなドラムを叩いて、バンド全体でのドライブ感もめちゃ強くDrag Cityのアメリカーナ周辺とは近いようで遠いかも。かなり良いので関連作として是非。

 

HiM - Egg(1996)

HiM - Our Point Of Departure(2000)

Amazon Music - HIMのOur Point Of Departure - Amazon.co.jp

HiM、記事内で何度も触れてますがJune of 44/Rexのドラマーであるダグ・シャリンのソロプロジェクト。アルバム毎にメンバーが変わる流動的なバンドで、1stであるEggはほぼRexのメンバーで録音されたダブ・アルバム。ポストハードコア以降の冷たい質感もあり関連作として是非どうぞ。そして2000年作のOur Point Of Departure、こちらはShipping Newsへ向かったジェフ・ミューラー以外のJune of 44のメンバー全員が参加と完全にAnahataの延長線上にあり、June of 44後期の音楽性の変遷の秘密が見えてくる名盤。ありえたかもしれな続編として聞けます。ハードコア/スロウコア要素はほとんど後退し完全にジャズ側、数多くのフレーズやダビーなエフェクトが飛び交いでもってミニマルな要素も強く、電化マイルスっぽさもある。HiMは他のアルバムでもTortoiseらシカゴ音響派との共通点もあって双方の架け橋ともなるバンドです。

 

 

 


 関連記事

上記で触れたShipping Newsについて全アルバム掘り下げたものです。Rodan~June of 44の系譜の最終なので続編としてどうぞ。

 

June of 44の音楽性に多大な影響を与えたりHiMにも参加したフレッド・アースキンの元バンドHoover、及びそこから派生していく多数のバンドについて書いてます。こちらも膨大でHooverの系譜とRodanの系譜が交錯する瞬間がJune of 44だったというのもわかってきます。

 


以上です。長くなりましたがこの辺でのRodan〜June of 44〜Shipping Newsの変遷を辿りながら周辺の音楽を漁るのがリスナーとして非常に楽しい時間だったので、その記録を残したいなぁ・・・というとこから書き始めたものでした。Slintを中心としたルイビルの潮流の中にあるので、どっかでSlintも絡めて書きたいなぁと思ってはいたんですが、それは機会があればいつか。何か少しでもディグの参考になればと思います。

 

※書きました

Cloud Nothings - The Shadow I Remember

Cloud Nothingsが新譜を出してこれがめちゃくちゃ突き刺さってきたのでやべ~って言いながらその感情について書こうとしてたんですが、なんか途中からデジャブを感じ・・・

昨年のアルバムのときほぼほぼ同じことを言ってました。ストレートなギターロック的作品が本当にシーンから衰退してしまったのを実感してたタイミングでこれ聞いて、感動が何倍にもなってしまった・・・的なやつです。で前作の記事書いた頃はある程度新しい音楽も聴いてたし、ちゃんと流行もチェック(?)してたはずで本心からだったんですが、最近はもっぱら旧譜掘ってばっかだったから説得力ないなと(笑) 別にちゃんとチェックしてればいくらでもあったかもしれないですよね。昨年もなんだかんだあのあとBullyとかMetzとかSprainとかNarrow Headとかあったわけだし。

The Shadow I Remember - Album by Cloud Nothings | Spotify

 THE SHADOW I REMEMBER / ザ・シャドウ・アイ・リメンバー/CLOUD NOTHINGS/クラウド・ナッシングス/世界同時リリース  / ボーナストラック収録|ROCK / POPS / INDIE|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

でも本当に素晴らしいなと。ギターが一番前に出てきてポップなメロディが乗っかってっていう、日本人のオルタナとかが好きな人にストレートに刺さる感じというか、SNSの知人がこのバンドって海外でそこまで話題にならなくても日本で盛り上がりすぎてるところあると思うって言ってて本当にそれは思います。ピンポイントすぎるというか、00年代ロキノン的な土壌があるロックファンは間違いないだろうなぁみたいな。

元々親やすいローファイインディーって感じの作風からグランジ〜ポストハードコアへ接近して前作でまた初期のようなインディーロックに回帰したわけですが、あのときそれでも感動していたけど今回それを更にバンドサウンドで強靭に肉付けしアルビニ録音でリリース、まぁ本当にオルタナド直球という感じです。殺伐とした焦燥感みたいのはなく吹き抜けがいいのでLife Without Soundsとかに近いかな・・・あちらはもうちょっとパワーポップ寄りな感じしますが。Naraという曲があって多分前に来日したときLOSTAGEと対バンして、そのあとLOSTAGEメンバーのレコ屋に顔を出してたようなのでその一件が元になってるのかなぁとか考えたり、奈良県だったし。嬉しくなりますね。

でなんかこれを記念してAttack on Memoryのライナーノーツが無料公開されて、多分家にあると思うんですが読んでみたら中々面白く・・・

 

あんまりポストハードコアな聴き方したことがなくて前々作のLast Building Burningとかはめっちゃパンキッシュだし金属的なギター音が鋭利でそこでやっとハードコアと結びつけたわけですが、これ読むとあの頃からもろにLungfishとかNation of UlyssesとかDISCHORDの面々が引き合いに出されていて、まぁそりゃそうか、当時俺がハードコア知識なかったから結びつけられるどころではなかったんだなと思いました。あの時はまだUSインディーがグランジ色濃くなったな〜くらいの感想しか多分出てこなかったんでしょう。でアタックオンメモリーは死ぬほど聞いた愛聴盤でしたが、その数年後ハードコア掘って俺がNation of Ulysessとかにどハマりするの自然な流れというか、納得しました。

でまぁこうやって、日々旧譜を漁っているおかげでこういう楽しみ方やアクセスできる場所が増え、参照された音楽も新しい音楽も解像度が増して楽しく聞けるようになるのでやっぱ楽しいんですよね。まだ全然聞き込めてないのでこれから聴きます。またライブ行きたいなぁ。

 

記録シリーズ:OGRE YOU ASSHOLE / 音楽性から辿る周辺バンド

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ディスコグラフィに引き続き書いていきます。二つの記事で何度か名前を出したバンドや影響力が強いと感じるもの、その中でも個人的に好きなバンドについて。

  


 

基本的にオウガをきっかけに聞いたアーティスト及びインタビュー当で言及があったものを並べていきます。全体的にUSインディー期に偏っちゃいますが、最初にまず各所で言われているゆらゆら帝国 -空洞です- との関連性ですね。homely以降の三部作、インタビューやレビュー記事などどこへ行っても「空洞です」と比較されます。

 

ゆらゆら帝国 - 空洞です(2007)

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実際に石原洋+中村宗一郎が手掛けたということで録音の質感はかなり近く、ただ表層的な部分が似通っていてもただその中身、とくに本来の姿が露出するライブでの表現は完全に別物ですし、ゆらゆら帝国と比べることを前提としたインタビューや評価を見ると本質を捉え損ねてしまってるように感じ少々残念な気持ちになります。だとしても入り口として「空洞ですが好き」という方に勧めやすいサウンドってのは否定できず、それこそサウンドの質感だけでもオウガやゆらゆら帝国を聞いてるという方は少なくないとも思うんですけどね。

そしてインタビューにて実際に「直接的に影響は受けてない」と公言していて、よく比較されるhomleyも空洞ですを意識してあの音になったわけではなく「先にこういう世界観、歌詞のアルバムを作る」とコンセプトを決め、それに合わせたサウンドを模索した中でAORに行った・・・という経緯があります。でその際に相性のいい機材を中村宗一郎が、アイデアを石原洋が・・・という感じなんですよね。空洞ですに近づけた、というより、方向性を模索した中で近づいていったという感じです。

そもそもサイケと呼ばれつつそのサイケデリアのルーツもちょっと違い、ルーツを並べて聞き比べるのも面白いです。オウガはやはり90年代のインディーやオルタナ~ポストロック的なとこからのサイケゆらゆら帝国60~70年代のブルースやロックンロールがベースにあるサイケだと思っていて、両バンド共に完全にサイケ化する前にやってた音楽もそのルーツがもろに出てる感じなんですよ。そこに石原洋によるプロダクションを受けた結果が今の形なので、一致するのは「両者交流の深い石原洋の音楽趣味」ではないかと。作曲だけではなくライブにも参加するようなので、もうメンバーが一人被っているという状況だったんだと思います。

 

それがよくわかるのがこちらのソロ作「formula」ですね。

 石原洋 - formula(2020)

画像7

町の雑踏を合計40分録音しその遠くから微かに石原洋の弾き語りとバンド演奏が聞こえてくる・・・という、雑踏がメインなので声も演奏も遠いんですがこのかき消え具合というか、ノイズミュージックやアンビエント聞いてる心地よさと弾き語りが共存している感覚、そしてメロディーが結構強いので石原洋のふわっとしたボーカルでもこの雑踏に決して消されることはないんですよ。昨年の愛聴盤ですが、ここからオウガにもゆら帝にもアクセスすることができると思います。というか単純に石原洋のメロディー自体も近い気が・・・

 

そして個人的に面白いなと思っているのはオウガ、そして坂本慎太郎、双方が石原洋プロデュースを抜け独立した以降の音が逆に近いものを感じるんですよね。坂本慎太郎のソロですが

ナマで踊ろう(2014)

できれば愛を(2016)

 Amazon | ナマで踊ろう(初回盤) | 坂本慎太郎, 坂本慎太郎, 坂本慎太郎 | J-POP | 音楽 f:id:babylon5000:20210314012559p:plain

どちらもAOR~ファンク趣向から音数を減らし更にソフトに向かった結果歌が強くなり・・・というところとか。

 

そして関連性があるというわけではないですが、石原洋+坂本慎太郎という二人が手掛けたこともあるのと個人的に近いものを感じるこちらのバンド

Nisennenmondai - Destination Tokyo(2009)

Destination Tokyo : Nisennenmondai | HMV&BOOKS online - 157

にせんねんもんだい。このアルバム聴いておったまげたんですよね。AOR色やメロウさは全く無いのでちょっと毛色が違うバンドですが、最初は破壊的爆音ノイズをぶちかましてた彼女達が、どんどんストイックに音をそぎ落としミニマルミュージックを人力でやり始めるその経過に近いものを感じたり、ダンスミュージックの均等なリズムの気持ちよさとその反復を生演奏によるロック的ダイナミズムで昇華してくところ・・・そのロックでもありディスコでもあるバランスが完璧なアルバムだと思いました。

でそれにオウガと通じるものを少し感じたんですよね、ライブ盤も凄まじくそのセッションの熱気など、個人的に両者セットで聞きたいバンド、と僕が勝手に思っていて、先のスタジオ盤とこちらのライブ盤は非常にオススメです。

NISENNENMONDAI LIVE!!!(2011)

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あとはちょっとだけ触れた初期のとり、ねじ、ろくおん

Nisennenmondai - sorede souzousuru neji(2004)

Nisennenmondai - rockon(2006)

 sorede souzousuru neji | nisennenmondai Amazon Music - NisennenmondaiのRockon - Amazon.co.jp

はポストパンクやクラウトロックなど、あのスカスカな音楽をとにかく音割れするような大音量ギターノイズで塗りつぶしてノイズポップ化させたアルバムとも言えます。

お互い交流があるわけではないですが、2013年にスペインからエスプレンドー・ジオメトリコが来日したときの対バンがOGRE YOU ASSHOLEとNISENNENMONDAIだったのが個人的にかなりニヤリとしました。ジオメトリコ自体もインダストリアルなのですが、反復のボディ・ビートとノイズにまみれてく音楽性が両者を関連付けるのにも最適だと思いますし、ブッカーの方マジでナイスだ・・・。

 

そしてこちら、バンドの半生を辿るようなものでまず各アルバム制作時にメンバーどういう音楽を聞いていたか、最近余り触れられることないUSインディー期から当時比較されがちだったLCDラプチャー、フランツ等のポストパンリバイバル~ディスコパンクへの認識なども全部触れてます。そっからどうサイケ三部作へ至ったか、そして長野県の原村という浮世離れした土地から都市を見ていたという「あの音楽に至ったバックグラウンド」のようなものが読み物として非常に面白いです。

続編の方でも、周辺の邦楽ロックバンドと距離を感じ始めた時期やフェスでの場違い感、それ以降のサウンドの変化など・・・本当に充実しています。

 

割と2010年前後のUSインディーとも来日をきっかけに交流があったようで、中でもディアハンターとのことについて書かれていて音楽性が近いというわけではないんですが、直接的に引用ではないバンド本来のサイケデリックが音に滲み出てる感じは結構近いものがあると思ってます。僕が同時期にハマっていたので勝手に思い込んでるってのもありますが、この頃のディアハンターとオウガが対バンしていたのってかなり面白いなぁと思うんですよね。 

Deerhunter - Microcastle(2008)

Deerhunter - Halcyon Digest(2010)

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他にもクラウトロックに至るまで・・・の流れでステレオラブトータスの名前が出てきたり、とにかく今なおこの辺のUSインディーにどっぷりな自分はやっぱりしっくりくるのが納得できますね。

あと個人的にこちら

The Flaming Lips - The Soft Bulletin(1999)

 The Flaming Lips – The Soft Bulletin (1999, CD) - Discogs

出戸さんがクラウトロックにハマる以前はこういう派手なサイケが好きだったと名前を挙げていて、石原洋と組み始めたデビュー初期はリップスを参考にしていたようで、その時期のピンホールやフォグランプにあるどこかメルヘンチックな・・・異次元の遊園地に迷い込んでしまったようなサウンドって割この辺と通じる気がします。バランスとかもかなりリップスぽいですね。

Silver Apples - Silver Apples(1968)

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そしてSilver Apples、60sサイケを代表するアメリカのバンドですが、当時の他のサイケバンドの中では今のクラブミュージックにも通じる反復の美学とも言えるものが生演奏でやられており、かなり新しい・・・最近のオウガのモードと近いものを感じます。それこそ「朝」とか。

 

そして出戸さんの影響を受けた9枚について語る・・・という動画があるのですが、そちらで言及されてたアルバム、アーティストから掘り下げていきます。

こちらリストですね

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テレヴィジョン、モデスト・マウスやヨ・ラ・テンゴは初期~中期にかけて非常に納得、そしてノイ!やCANはまさしく後期の主軸だと思います。CANのTago Magoはペーパークラフト辺り、ノイ!はロープですかね。

 

あとは前の記事で触れましたが、アルファベータ vs.ラムダは非常にビルト・トゥ・スピルを想起させます。

Built to Spill - Keep It Like a Secret(1999)

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こちらはKレコーズやUPを代表するバンドで、ベックやモデスト・マウスをルーツとする出戸さんがそのままUSインディーにハマってく過程で聞いたのかなぁと。

モデスト・マウスに関しては上記の動画の1stとあと個人的にこの2nd3rd

Modest Mouse - The Lonesome Crowded West(1997)

Modest Mouse - The Moon & Antarctica(2000)

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どっちも割と直接引用してるとこも感じたり、今では独自のスタイルを確立させたオウガが初期はボーカルまでストレートにモデスト・マウスを追っかけている・・・てのが感慨深いです。

そして以前にインタビューで触れていたスプーン

Spoon - Girls Can Tell(2000)

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ミニマルさを模索して最小限の音でやってるという部分で重なるところも感じたり、似てるってわけではないんですが、USインディーという出発点から音を引いてく手法というか。現在のスプーンはダンスミュージックの要素を取り入れてくんですが、そこもまたシンパシーを感じます。

あとはモデスト・マウスのメンバーが合流して活動してたこともあるこちらのレッド・スター・セオリーも非常にオススメです。

Red Stars Theory - Red Stars Theory(2001)

Amazon Music - Red Stars TheoryのRed Stars Theory - Amazon.co.jp

くたびれたギターの感じや途中からエモーショナルに盛り上げていくところなど、ローファイな録音によりボーカルが楽器と混ざり合ってぐしゃっとした質感になってるとこもオウガの1stを思い出したり・・・ちょっとポストロック感が強い曲もありますね。

 

最後に昨年コロナ禍でライブが行われなくなり、そんな中で各メンバーが制作したプレイリストが公開されました。 

 

参考までに。やっぱ三部作の影響が顕著というか、以降って感じがしますね。ベッドルームっぽい現代のUSインディーからメロウなAORクラウトロックの影響の強そうなダンスミュージック等、やはり後期を連想するものが多いですが、ビートルズが出てきてちょっとびっくりしたり、ボウイの選曲にはかなり納得したり・・・。

そして僕はやはり「USインディー由来のロックバンドだった彼らがこれに近づこうとした」というのが好きみたいで、どうしてもロックの耳で聞いてしまいますね。だからこそライブではそれが前面に露出してくるところなど、たぶん、片方に寄らずそれを行き来するからこそ「バンドって生き物なんだな」というのを強く感じさせてくれるから好きなんだと思います。

 


以上、関連づけできそうな好きなバンド、アルバムをひたすら並べたかっただけの記事になります。どうしてもUSインディーが好きなのでその辺に偏ってしまいましたが、構成する9枚の中にある触れることのできなかった辺り、その周辺や70年代のAORや60年代サイケ、クラウトロックに焦点をあててみるともっと色々出てきそうですね。

自己満足ですが、実際にオウガから知った作品も非常に多いので少しでも参考になればと思います。

長尺だけど貼った記事と動画が余りに素晴らしすぎて完全にこの記事の上位互換になってますが・・・