朱莉TeenageRiot

棚,日記,備忘録

記録シリーズ:Codeine

Codeineの全アルバム感想です。


 

Codeine - Frigid Stars(1990)

1989年にニューヨークにて結成されたCodeineの1stアルバム。Sub Pop発。liveaboutのスロウコアランキングでも一位に選出されたアルバムで、Red House Painters、Low、Dusterと並びスロウコアというジャンルを語るにあたってまず名前が挙がることが多いアーティストではないでしょうか。同じく硬質で隙間が多く、同時期にアルバムをリリースしていたのもあり比較されることが多かったSlintとはまた違ったカラーがあり、Slintのようにアルバム内にスロウコア~ポストハードコアが同居した感じではなく、最初から最後まで10曲41分、ひたすら緊張感のある純粋なスロウコア/ サッドコア色が強いアルバムです。もちろん当時そんな言葉はなかったので正真正銘オリジネイターなわけですが、M1のDにおける枯れ切ったギターのトーン、そして素朴なボーカルはあまりにも象徴的。基本的には静→動へと大きく展開する曲が多いですが、バースト部分以外はあまりにもスカスカ。淡々と、ゆったりと鉄を打ち付けるようなひんやりとした金属的なサウンド、そして無気力でくたびれたボーカルによる仄暗さは、まだスロウコアというジャンル名が存在してなかった当時に一つの印象を決定づけたものでしょう。突然蛇口出しっぱなしにしたかのような、荒々しくジャンクな金属的ギターノイズの轟音が垂れ流される静→動の展開は後にMogwaiが「影響を受けた10枚」に彼らのアルバムを選んだのも頷けます。90年台に解散してしまいますが後に再結成、そのときもMogwaiとともにライブをしたとのことで、再結成もMogwai側からリクエストがあったそうです。後にエモと呼ばれるバンドたちに与えた影響もかなり大きいように思えるし、しかしエモを聞いて想像させられる情景と比較するとCodeineは徹底的に灰色。このモノクロームなトーンがまた良くて、これも後にスロウコアと呼ばれる音楽にかなり影響を与えていると思います。というかその原風景がこの作品になるのでしょう。クリス・ブロコウのあまりに淡白で、隙間だらけのドラムはより一層バーストパートでの激情を強調しているようで、後のドラマーが変わる2ndとは同じカラーを持ちつつも、また違った良さがあるアルバム。

 

 

Codeine - Barely Real(1992)

Codeineの92年作EP。元々は2ndをリリースするためのレコーディングに入っていたらしいですが、中々曲の数が揃わず、フルアルバムではなくEPとしてリリースしたとのこと。The White Birchの曲もこの時点でいくつか録音してたようですが、テープの保存だったり色々問題が発生してしまいリリースできず、そのままクリス・ブロコウが脱退したため長らくお蔵入りすることに。The White Birchは後にダグ・シャリンが参加してから全部再録されてしまうため、この未発表音源は2022年、Numero Groupによって再発されるまで日の目を浴びることはありません。そして今作、丁度1stリリース後にBastroのデヴィッド・グラブスとジョン・マッケンタイアからオファーを受け共にツアーを回っていたのもあり、今作ではオルガンでデヴィッド・グラブスが参加。そしてJr. という曲のギターは同じくデヴィッド・グラヴスが参加していたポストハードコアバンドのBitche Magnetからジョン・ファインが参加していて、ハードコアシーンとの関連の密接さもあらわした重要な1枚。M1のRealize からはっきりと1stの頃とは録音の質感が変わっていて、1stにおける荒々しいささくれ立ったギター音と比べると後のエモやポストハードコア、Dischord Recordsの面々とも通じそうな硬質で密度の高い洗練されたギターの轟音はギラギラとした熱があって全てを飲み込んでいく。とにかく物量で押し潰してくるような、この音色だけで後のシューゲイズやポストロックにも通じるような気がしてしまいますが、今作でも圧倒的にCodeineはCodeineでしかないモノクロームなトーンがずっと続く。そして1stと比べると際立ったメロディーが多いアルバムで、轟音の中浮かび上がってくる儚くもどこかメロウボーカルは神聖な雰囲気すら漂う。

 

 

Codeine - The White Birch(1994)

Sub Pop発の1994年リリースの2ndアルバム。今作からドラマーのクリス・ブロウコウがComeの活動に専念するため脱退し、後にHiM、June of 44、Rexなどに参加する、まさに当時のシーンを代表するとも言えるドラマーのダグ・シャリンが参加します。クリス・ブロコウもComeだけでなく、元Bedheadのメンバーのその後とも言えるThe New Yearや、最近ではEarly Day Minersのメンバーが在籍しているAtivinにも参加したため、スロウコア/サッドコア~ポストロックシーンを辿っていくとCodeineのメンバーは幾度なく見かけることとなります。そしてダグ・シャリン、Codeineのように音数が少なく、バーストするパート以外は最低限の骨組みのようなバンドでドラマーが変わるのは本当に大きなファクターだと実感させられます。前面に出てくるギターとボーカルが彩るモノクロで陰鬱な世界観はそのままなので一見外郭は同じでも、その内側、前作までの静→動のコントラストがより強調されたクリス・ブロコウのドラムとはまた違った表情が見えてきて、それこそMogwai にも通じるような、まるでドラムが歌っているかのような繊細なフレーズの組み立て方は、徹底的に寒々しかった1stとはまた少し違った情景を描き出す。それはM1のSeaから顕著に出ていると思いますし、1st以上のスローペースで隙間の多い今作ではその些細なニュアンスの違いもハッキリと見えてきます。M2のLoss Leaderは生々しく冷たいギターの音と、あまりにも激情的な静→動へとバーストする展開はまさにスロウコア然とした新しいCodeineの王道。Mogwaiから辿ってくならすごくわかりやすい曲だと思うし、後に別のコンピに収録されたBBCバージョンでは静→動のコントラストが更に強調され、唯一のライブ盤でもハイライトとして存在してる代表曲でしょう。M6のTomは枯れ切った最低限のメロディーと、1stや前作EPで見せた轟音を更に絞ったことで硬質なドラムの繊細なプレイが浮き彫りになる名曲。個人的に今作のベストソングです。CodeineはSlintやDusterのようにハードコアバンドから直接派生したバンドではないけど、Bastroとツアー回ったり共作したり、その関係の深さや(今作も前作に引き続いてデヴィッド・グラブスがギターで参加)、Come やJune of 44 といったメンバーのその後の活動も含めてハードコアと関連性を見出させる要素が多く、共に聞くことで見えてくることも多いアーティストだと思います。

 

 

Codeine - What About The Lonely?(2013)

Codeineが1993年11 月という2nd リリース直前に、シカゴにてMzzy Starの前座として演奏したときのものを収録したライブアルバム。2013年にNumero Groupが発表したもので、音源からですら極端な静と動を激しく行き来するサウンドはおそらくライブで体験してこそ、肌に直接ピリピリくるような冷たい緊張感とそれを全て吹き飛ばす轟音のエモーショナルさが、スタジオ盤とは全く違ったであろうことが強く伝わる素晴らしすぎるライブアルバム。何より1stと比べると極限まで素朴に録音されていた枯れ切ったボーカルがライブでは更に生々しく収録されていて、これ以上ないくらいくたびれた雰囲気が全開。この生っぽい歌声と、スタジオ盤と比べても極端に静と動のコントラストを感じられるライブ録音の組み合わせは本当に泣いてしまう。M1のCave-Inからとてつもなく重いです。何よりダグ・シャリン加入後の体制で1stの曲を聞けるのも良いですね。それに2ndでのプレイと比べると、ライブならではなのかもしれませんが後のJune of 44やRexで聞くことができたパワフルなドラミングで曲のヘヴィさがより一層増しています。それでいてハイハットの繊細なタッチは絶妙な美しさがあって本当に素晴らしい。先ほどのLoss LearderもTomも収録。ライブ盤ですが、素朴で生々しい作品が多いスロウコアというジャンルはだからこそ生演奏や弾き語りと近い雰囲気があると思うので、選曲的も最高だし最初に聞くのにもおすすめなアルバムです。Cave-in っていう曲タイトルはバンド名の方のCave In を連想してしまいますが、実際にCave In はCodeine のCave-In をカバーしているためリスペクトの意もあったのではないかと思います。

 

 

Codeine- Dessau(2022)

先のBarely Realの方で触れたダグ・シャリン加入前にクリス・ブロコウによるいくつかのテイクを収録した2022年リリースのコンピレーション。凄まじい。未発表音源集とは思えないくらい統一感があるので、一つのまとまったアルバムとしてなんの問題なく聞けてしまう、The White Birchにあった数曲+それ以前のEPやシングルB面の曲も収録されているんですが、曲順も練られていて普通に新作です。ダグ・シャリンと比べるとクリス・ブロコウの極端な静→動の展開はすごく激情的な爆発力があり、The White Birchと比べてもかなり硬質に録られているのもあって、一つ一つリフを重ねるように叩くダグ・シャリンとは対比的に聞こえます。元になったThe White Birchはジャケのイメージとも合致した、このジャンルに付託しやすい閉鎖的な息苦しさや貧しさが出ていてすごくサッドコア然としたアルバムでした。今作は全体的に若干テンポが上がり、ドラマーやミックスが変化したことでどことなく音の分離や抜けがよくなっていて、The White Birchにあった息詰まるような不穏さはガラリと変わり、もう少し外に向かって風が吹いていくような、憂鬱ではあるけど風通しが良いような趣になって非常に聞きやすくなったのではないかと。つまり、エモからアクセスできる作品になったと思うんですよ。個人的にM2のJr、M5のRealizeのような轟音の映える曲が際立つアルバムだと思っていて、以前のテイクでのぎっしり収束された轟音は今作で透明感が増していて、そのおかげで奥行きのある生々しいドラムがより強調された感じがします。もちろんそれこそエモとは距離があった、あまりにも素朴で寒々しかった前テイクの方にしかない良さもありますし、今作はそこからまた新しい表情を覗かせてくれる重要作。同年にアルバムをリリースし後にCodeineと対バンもしたdeathcrashあたりからスロウコアを辿ってきた人には最もしっくりくる作品ではないかと思います。

 

 

Codeine - When I See The Sun (Demos & Live Cuts)(2012)

最後にNumero Groupからリリースされたデモ音源とPeel Sessionを収録した未発表コンピ。こちらの方がDessauよりも先ですが、Dessauはオリジナルアルバムとして遜色なく聞ける作品だったので、ディスクを3つにわけることで音源集としてリリースされた今作はより雑多なのもあり、レアトラックス集として番外的に触れていきます。おそらく1st時かそれより以前であろういくつかのデモ音源と、Dessauの元になったいくつかの音源もDessau Demoとして収録。そして後半のPeel Sessionがどれも凄まじいので必聴。Joy Divisionのカバーも収録されています。序盤のデモ集はアルバム未収録曲がたくさん並びますが、こちらも彼らのルーツが垣間見える非常に面白いものになっていて、全くスロウコアテイストではない純粋なパンクロックやハードコア色の強いもの、またスローペースではあれど、今ではイメージが固まったCodeineらしい隙間だらけの静謐な雰囲気ではなく、むしろ轟音を垂れ流しながら引きずっていくような、重く遅いポストハードコアといった楽曲も多いです。

 


 

以上でした。自分自身完全に後追いファンですが、多大に影響を受けたバンドでありスロウコア/サッドコアを好んで聞くようになってから日に日に大きな存在となってったバンドです。昨年のJune of 44の来日やRexの再発など、他にもNumero Groupによるオブスキュアなスロウコア再発の流れでも重要なバンドだと思います。ダグ・シャリン関連作だけでなくクリス・ブロコウが後に参加したComeやThe New Yearも、それぞれが違った音楽性を持ちながらポストハードコアのニュアンスを持っていてどれも素晴らしいバンドです。Ativinは昨年アルビニ録音で新譜を出したばかりで、それこそ近隣シーンの再発や再結成が続く中でも象徴的な出来事だったと思います。

またこの記事は先日リリースしたpärkというイラスト集の後半に、私的スロウコアガイドというタイトルで音楽ZINEが付属しているのですが、そこに記載しているCodeineのページを再編集して記載したものになります。手に取っていただいた方は物足りないかもしれませんが、一つの記録としてご了承ください。

 

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COMITIA147レポート/pärk反省会

先日制作したpärkという同人誌を販売するため、2月25日にビッグサイトにて開催されたCOMITIA147に参加してきました。改めて足を運んでいただいた方々に心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。初参加のイベントで一人だったのもありとてつもなく不安で、そんな中声をかけてくれたり、手に取って買ってくれた方々、めちゃくちゃ励みになりました。どんな言葉を選んでも返しきれないような、それくらい感謝の気持ちが止まりません。


 

 

スペースはこちら。

画像

Spiderlandのレコードを置いたのは単純に左側に置くものがなくめちゃくちゃ空いてしまうからなのと、後半の私的スロウコアガイドと内容的にも一致するし、表紙の色合いともマッチしたものがあるため、置いてみました。これが売り上げに貢献したのか、マイナスになったのかは不明です。ですが、一人だけSlintに反応し本を手に取り、中にあったSun Kil Moonについて言及し、そのまま買ってくれたという方がいました。本当に嬉しかったし、この瞬間のこの一冊のためだけに置いておいてよかったなと思いました。

嬉しかった誤算としては、直接本を手に取って絵を気に入って買ってくれたという方が非常に多かったことです。正直自分は絵描きとしては全く自信がなく、ほとんどの方は後半の音楽ZINE目的で来られるかと思っていたのですが、実際のところ完全にその逆でした。とくに暗い絵に関して言及していただき、そこを褒めてくれる方がとても多く非常に励みになりました。表紙もそうですが暗い絵はtwitterやpixivでもあまり反応がよくなく、個人的な話をするとそういったイラストこそが自分の好みなのですが、SNSを通してそれが広く受け入れられるわけではないという事実を実際に数字で提示されたこともあり、諦めの気持ちが強くありました。実際にSNSで人気だったイラストを表紙にした方が売れていたのかもしれませんが、好きなものを信じてあの表紙を選択して、会場でその部分を肯定してくれた方が一定数いたこと、この事実だけで絵を描いていてよかったなと心から思います。

 


 

pärk反省会

会場受け取りだったのですがちゃんとできあがってるのが当日までわからないという状態がマジで超不安でした。できあがっててよかったです。感動しました。実際に触ってみて、やっぱり120ページなので結構分厚く、表紙のマット加工の吸い込まれるような漆黒の質感もあり、重厚な本になったと思います。装丁はかなり気に入っていて、これはイラスト集としてではなく、昨年11月に足を運んだ文フリで購入した伏見瞬さんのLOCUSTや、北出栞さんのferne、あと毎回通販で買わせていただいてた李氏さんの痙攣とか、そういった音楽関係から知ったZINEの練りに練られたかっこよすぎる表紙、そして手に取って質量を感じる分厚い本の雰囲気に憧れて目指したものでもあります。結構狙った感じが出てきてよかったです。

反省点。まず私的スロウコアガイドですが、ムラがすごい。原稿は全て約2週間、データ打ち込みでもう2週間、明らかに時間が足りてないのが随所に出ています。PC画面で入稿3日前から何度も読み返してたんですが、書いた直後ってのがよくなかったですね。1か月くらい空けてからじゃないと見えないものも多数あったと思う。アルバムによっては油が乗っていて自分で読み返して気に入ってる部分もありますが、明らかに振り絞って無理矢理出して、何が言いたいのかさっぱりわからない部分も散見されます。あとこれは盲点でしたが、紙になると読む速度って画面上で確認していたものと大きく変わるんですよね。これは個人差もあると思いますが、とにかく会場で受け取って実際にパラパラと読んだだけでも、元々想定していたスピード感、リズム感がまるで変わってしまい、そのせいで違和感になってしまってる表現や切り方が多数あり、届けたかったニュアンスが歪んでしまったなと思う部分がいくつかありました。これは純粋に自分の文章組み立て能力が低すぎるのも原因ですが、試しに印刷してみるなどして事前にカバーできた事態だったなと思います。

イラストに関して。当たり前ですがPCもスマホも画面って発光してるので、デジタルで描き画面上で確認したイラストって本来のものより明るくなってるんですよね。それによって、印刷したことで空など明度の高い部分の塗り残し、修正のムラがかなり目立ってしまいました。次は気を付けます。しかし紙になって良かったことも多く、粉を吹き付けて焼きつけさせる(らしい)印刷の方法から全体的にザラついた質感が増していて、それが自分の油彩筆を主としたスタイルと噛み合ってアナログっぽさが増したと思います。実際に会場でアナログかと聞かれることが多数ありました(全てクリップスタジオを使っての制作になります)。表紙含め、カラーページのできは作る前から気になっていたため、実際に印刷会社に足を運び、直接どうしたいのか相談できたのが功を成したと思います。印刷会社はねこのしっぽを利用させていただきました。誰が得するかはわかりませんが、少なくとも自分は作りたいってなったときに右も左もわからなかったため、実際に印刷の設定を貼っておきます。

・表紙用紙:ホワイトポスト マットPP加工

・カラー口絵:コート紙 110kg [マット]

・本文用紙:ソフトバルキー [白]

全てオンデマンドになります。コミティア会場で見本誌等置いていたのと、ネットでも注文できるみたいなので、実際に触ってみることをおすすめします。

 


 

最後に本書を作るにあたって参考にさせていただいた本について。

 

あきま先生になりたくて絵を描いていたんですが、遠いところにいすぎるため真似しようとしても全然何をしたらいいかわからないような、まるで手が届かないところにいる方なので、リファレンスというよりは憧れと呼ぶのがしっくりくるかもしれません。mirageの方のイラスト集は出先にも持ち歩いて表紙がボロボロになるくらい読み返しました。ツイッターで「イラストに関して、Wilcoみたいな曲を作ろうとしてるのにYo La TengoやDusterみたいになってしまう」みたいなツイートをしたことがありますが、あれはまさにあきま先生を目指しても何をしたらいいかわからない、感覚でやっても全然違うラインの作品になってしまう、という体験から出てきたものになります。

 

AS4KLA先生の完全攻略!冬の曇り空2.0は昨年の3月に知人に勧められ購入し、読んでみたところ、目を凝らさないとわからない真っ暗な質感と吸い込まれるような広大な一枚絵の雰囲気に圧倒されかなり衝撃を受けました。ZINEのセルフライナーでも名前を出させていただいた作品です。昨年イラスト集を作ってコミティアに出たい!という漠然とした願望ができたとき、それまでオリジナルなんて一度も描いたことないし、目指すべき場所がどこかもわからない自分が、一体何を描けばいいんだろう?となったときにこの本に出会い、それ以降一番の指標になりました。AS4KLA先生はコミティア147にも参加していて、一般公開前の時間にご挨拶させていただきpärkを献本できたのも思い出深いです。またツイッター等でコミティアの戦利品として自分の本を上げてくれた方々の写真に一緒にAS4KLA先生の新刊「完全攻略!冬の曇り空3.0」を並べてくれてる方も多く、見かけるたびすごく嬉しい気持ちになっていました。当たり前ですが本を作ると自分が憧れ、尊敬している方々の本と自分の作品を並べてもらったり、自分で同じ本棚に置くことができるというのはとてつもなく幸せだし、このために本を作ったと言っても過言ではないなと思ってしまいました。

 

SPOILMANが昨年リリースしたUNDERTOW/COMBER。アルバムをリリースする度にこのブログで触れてきたアーティストですが、昨年キャリアとして初のLP発売、もちろん即購入したところバンドのフロントマンであるカシマ氏本人によるアートワークと、ジャケットを開いたときデカデカと視界に入ってくる大きなイラストに圧倒されました。レコードサイズの大判の歌詞カードも全て手描きイラストとして作り込まれていて、仕掛けだらけの内装はイラスト集としても本当に魅力的です。紙を開いて一枚絵が出てくるインパクトの強さに自分もフィジカルでなにかを作りたい!という気持ちを強く掻き立てられました。

 

クラウトロックディスクガイドの増強改訂版。クラウトロックの歴史を辿りながら、冒頭ではインスピレーションとしてドイツではなく英米サイケデリック・ロックやジャズのアルバムが紹介されていて、本当に充実した内容で筆者個人の視点が見え隠れするシーンも多々あってすごく影響を受けています。憧れ、という言葉の方がしっくりくるかもしれません。

 

s.h.i.さんの現代メタルガイドブックにも強く影響を受けています。そもそも"私的スロウコアガイド"というタイトル自体この作品から着想を得ていて、他にも冒頭のintroductionや、Borisから始まるその構成自体に感銘を受けました。pärkでも思いっきりリスペクトしたintroductionから幕を開けるし、スロウコアとしては微妙なラインに立っているSlintから始まるというのも通じるところがあると思ってます。

 

ポストロックディスクガイドに関しては内容の時点で一部被っていて、pärkはスロウコアをポストロック前夜の一形態として何度も切り込んでいく関係上、ポストロック関連作を網羅したこのガイドで触れてる作品も多数出てきます。また本ブログで何度も書いてきたSlintやRodan周辺についても軽く触れられていて、自分の音楽観自体がかなり影響を受けています。

 

 

pärkの制作にあたり、多部なこさんと一個人さんという二人の絵描きの方にイラスト制作についてご教授いただいてました。今回収録したイラストは全て昨年の6月以降に描いたもので、クリップスタジオをダウンロードしたのもそのちょっと前、本当に右も左もわからない状態で単純な操作方法からおすすめの筆についてなど、イラストの基本的なアドバイスまでたくさん助言していただいてました。本当に恵まれた環境で絵を描けたなと思います。こちらはお二方の作品ですが、使用した筆だったり、そもそもラフの時点で構図についてのご教授だったり、制作環境そのものからかなり影響を受けています。

 

 

 

プレイリストです。私的スロウコアガイドに載っているものだけで作ったリストになります。会場で手に取ってくれた方で後半のZINEについて聞かれたときにイラストと雰囲気が近い、暗くて遅い音楽について書いてますという説明をしたのですが、いざそこから聞いてみようとなったとき、いきなりSlint/Codeineから始まる本書の構成はかなり聞きづらいのではないかと思いました。ある程度音楽を掘ってくことを普段から趣味としてる人であれば、年代順は見やすいかなと思う一方で、イラストやセルフライナーの雰囲気から入ってくれた方には時代関係なく入り口としてわかりやすいものがあった方がいいかもしれないと思い、指標として作ったものになります。おそらくその対象となる方々はこの記事まで読んでないのではないかと思うし、実際聞いてみますと言ってくれた方々もお世辞の可能性もありますが、例えばEarly Day MinersやDusterのようなアーティストを入り口として提示しておくだけでもグッと入りやすくなったのではないかと、盲点だったのもあり少し後悔もあるためここに残します。

 

 


 

以上でした。一年後のコミティアでもう一回くらい本を出してみたいです。何より素晴らしい出会いがたくさんあり、やってよかったなと心から思います。通販もやっていますので、ご興味ある方は是非手に取ってみてください。

 

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年間ベスト2023

もう2024年の3月ですがやっていきます。


 

 

Blonde Redhead - Sit Down for Dinner(2023)

Blonde Redheadの9年ぶりの新作。00年台中盤での4AD移籍後のイメージが大きくシューゲイザー文脈でも聞かれるアーティストですが、自分の中では90年台のポストハードコア/ジャンクロック真っただ中のTouch and Goからリリースしていたイメージが強く、初期2作はSonic Youthのスティーヴ・シェリー主宰のSmels Likeなのもあり、アンダーグラウンドなシーンから耽美でゴシックなアートポップへと、ポストロック激動の時代で圧倒的な個を確立させ横断していったアーティストとしてのイメージが強いです。今作9月リリースですがこの強烈に冷たい質感は冬にぴったりだなと思い、実際気温が低くなってからは肌感覚で非常にしっくりくる作品でおそらく下半期最も聞いたアルバムになりました。M1のSnowmanから薄い半透明のカーテンを何重にもかけて視界をぼかしていくような、この中でポストパンクやクラウトロックを思い出す淡々としたビートを気が遠くなるほど繰り返し、深く深く内面の底まで落としてくれる非常に没入感の強い名曲。4AD以降の路線が完全に円熟し切ってます。気が遠くなるほど、とは言いましたが、実際には通して5分しかない事実に驚いてしまうほど陶酔的で、自分の視聴感覚とのズレにかなり衝撃を受けました。M6~M7のSit Down for Dinnerというアルバムタイトルを冠する2曲はミニマルな音の隙間、空白を単なる空白として聞かせないサウンドスケープモノクロームな世界に少しずつ色をつけ情景を描いていくような非常に映像的な2曲です。カズ・マキノの唯一無二の歌声も強烈に刺さってきて、今作は明確に近しい人たちとの別れをテーマにした作品とのことですが、ただ単に暗いという言葉で片づけるわけにはいかない喪失感に寄り添ってくれる穏やかなアルバムだと思います。

活動30周年という節目にリリースされた今作ですが、最近KEXPの方で公開されたライブ映像がアルバム収録曲の冷たいイメージを全く損なわないまま、曲の熱量を上げていく様が見事に両立された圧巻のパフォーマンスで衝撃でした。とくに「Snowman」「Melody Experiment」の2曲はつい涙してしまう名演です。音源と比べてドラムが有機的になったのも大きいと思いますが、一度これを見るとアルバムを聞く視点もまた変わってくると思うし本当に素晴らしいので是非とも。

 

 

Truth Club - Running From the Chase(2023)

Truth Clubの2nd。2019年の1stも当時の年間ベストで上げたバンドで、前作ではまだ初期Dry Cleaningのようなポストパンクとインディーロックの折衷と言った要素が強かったですが、今作はエモ一歩手前といったノスタルジックな情感漂うギターロック色の強い作品に。収録曲全てが名曲です。アルバム通してどの曲にも徹底的に"くたびれた"雰囲気がずっと漂っているのが良い。このくたくたに疲れたボーカルと、音数を減らした静パートの噛み合わせはスロウコアと通じるところが多々あるし、そのままじわじわ熱量を上げていくアンサンブルはただ音の厚みと轟音でカタルシスを演出するのではなく、肥大化させたものを爆発させず、ガスを抜くように風通しよく穴を空けてしまう平熱のボーカルが強烈に自分のツボを刺激します。5th emo waveやエモリバイバルといった90sのハードコアから直接繋がる硬質な質感を絶妙に避けていて、轟音に至るシーンも多いですがシューゲイズのような空間的なものでもない、もっと物理的なガシャガシャとした密度のあるバンドの音圧は90年台のCastorらも思い出してしまいます。OvlovやHorse Jumper of Loveといった10年台以降のインディーロック/オルタナのラインから、Weatherdayのように日本のギターロックファンにも刺さりそうな作品で、90sのインディーロックや枯れエモからこういったジャンルを聞くようになった自分にとって、熱量を上げすぎない質感がすごく肌に合ったアルバムでした。

 

 

deathcrash - Less(2023)

deathcrashの2nd。1年ぶりの新作で前作のSlintやCodeineを思い出すスロウコアライクな作風とは地続きのまま、寒々しく硬質だったサウンドスケープはLessというタイトルが示す通りより隙間、空間の間を強調するソフトで生々しいミニマルなものへと変化。その結果元々バンドの特徴であった穏やかなソングライティングが浮き彫りになりSlint~Mogwaiといったポストロックのラインからは外れてきた作品だと思います。目の前で楽曲が組みあがってく様を見ているような静謐なアンサンブルは決して轟音の前座として作られたものではないし、むしろメインは静寂の方にあるのではないかと、繊細な感情の動きや、痛みを、その情景を、よりハッキリと描き出すために選択されたものがこの静謐さなのだと思わされてしまうほど、美しい曲群に涙してしまいます。

リリース直後に書いた単発記事。こちらでもう少し深く掘り下げています。また今年の3月に音楽を聴く環境について / 車内音楽まとめという記事を書いたのですが、音楽を聴く環境が自分の視聴傾向を左右し音楽趣味を作っているという内容で、そして冬の肌寒さとマッチした、その季節に車内という密室で聞いたことで自分の聞く音楽の傾向が引っ張られていったという旨を話しているのですが、deathcrashに先ほどのBlonde RedheadやTruth Clubも確実にそこと一致した音楽だったと思います。

 

 

Sprain - The Lamb As Effigy(2023)

ロサンゼルス出身Sprainの2nd。元々2018年にリリースされた最初のEPはEarly Day MinersやDusterのような暖かいメロディーの王道スロウコアを真っすぐにやっていて、そして2020年セルフタイトルの1stでUnwoundとSlint~June of 44を掛け合わせたかのような硬質で捻じれたポストハードコアへと大きく変貌。スロウコアとポストハードコアが太いパイプで繋がっていることをまじまじと見せつけるような作風で、これを2020年にやるのかと心から震えました。そして2023年、今作The Lamb As Effigyで彼らは異形のバンドへと進化を遂げます。UnwoundのLeaves Turn Inside YouがSonic YouthのDiamond Seaを喰ったようなアルバムで、マッシブなSlintとも呼びたくなる前作譲りの硬質で強靭なバンドの芯を屋台骨としながら、重厚なストリングスや不穏なオルガン、美しいアコースティックギターの旋律を聞かせたかと思いきや、今度はそれらを一瞬で塗りつぶす耳を塞ぎたくなるような金切りノイズ、時折見せつける悲壮感にまみれた虚無の時間と、静寂とバーストがはっきりと対比的にあるわけでもない、ただただ居心地の悪い、どこか呪術的ですらあるモノクロームの万華鏡のような美しい音世界。感覚的にはP.i.L.のFlowers of Romanceも思い出してしまいます。8曲90分超えのボリューム、目まぐるしく動く世界観はとても軽い気持ちで聞き流せるアルバムではないし、聞きやすい作品だとも思いませんが、ここまで完全にブレーキがぶっ壊れたまま、自分たちの世界に行ってしまったものを体験できるアルバムは他にないと思います。M2のReiterationsは結構わかりやすいポストハードコア路線で、1stの地続きとして最も聞ける曲だと思います。M5のThe Commericial Nudeは(イントロは激しいノイズですが)スロウコア路線として圧倒的に美しい名曲。M6のThe Recliing NudeはZepのNo Quarterのようなカタルシスがあります。

 

 

SPOILMAN - UNDERTOW(2023)/COMBER(2023)

 

2023年5月に脅威の2枚同時リリースを成し遂げたSPOILMANの2枚。Touch and Goライクなポストハードコアから呪術的でおどろおどろしい未踏の境地に至った怪作HARMONYから1年、HARMONYの路線を受け継ぎながらMelvinsあたりも思い出すドゥーミーな香り、Blonde RedheadやShipping Newsにまで通じる不穏さを芳醇に纏ったCOMBERと、逆に1st2nd期を思い出すJesus Lizard路線を再び突き詰めたように思える、リズム隊のドライブ感と全身刃物のような鋭利なジャンクギターが全てを飲み込むUNDERTOWというそれぞれ明確に違う色を持った二作。決して二枚組というわけではなくそれぞれがコンセプチュアルな世界観を持ったアルバムで、どちらも合間にインストを挟むことで流れもしっかりしてますし、何より単発でライブアンセムとしてもとてつもなくかっこいいシンプルな名曲「Super Pyramid Schems」「Fantastic Car Sex」がそれぞれのアルバムで核として存在していて、そこに至るまでの導火線の如く張り巡らされたアルバム構成の妙も見事で本当に凄まじいバンドだなと実感しました。

このアルバムを皮切りに初の全国ツアーを行っていたSPOILMAN、昨年末の12月最後に東京の公民館を借りて入場無料でライブが開かれたのですが、かつて90年台にライブハウスではなくガレージや野外でライブしているアメリカのバンドの動画を数多く見てきた自分が、まさか生きてる内に同じような体験できるとは思ってもみず心から興奮しました。体育館という天然のルームリバーブに満ちたドラムの音も唯一無二でしたし、何よりメンバー全員が心から楽しんで演奏している様が伝わってきた。さらに驚きなのが当日サプライズでまた新しいアルバムがリリースされていて、2023年に3枚リリースという過密スケジュールには言葉が出なくなりました。

公民館ライブはこちらで公開されてるので是非とも。

単発記事の方でより掘り下げています。

 

 

5kai - 行(2023)

上半期まとめでも触れた5kaiの2nd。前作までは54-71downyも連想する円を描くような鋭い反復が主だったのですが、今作はそれを更に分解して自由な感覚で再配置したことで人力IDMのような音楽性に。相変わらずスロウコアと呼ぶにはマッシブすぎる線の細いポストハードコアで、アコースティックな色も見せながら今まで以上に"歌"を大切にしたアルバムに思えます。とくにそれはライブにおいて顕著で、生で聞くことで殺伐とした冷たい世界を描き出す演奏とは対照的な、すごくくたびれたボーカルがどこか暖かく、一見歪に見える今作の曲達も純粋に生活から零れ落ちてしまったものがあの形になってるだけなのではと、それほどまでに剝き出しの歌と最低限ながら力強い演奏は強烈に胸に刺さってきました。M2の棚という曲は2023年ベストトラックです。

 

 

PSP Social - 宇​宙​か​ら​来​た​人(2023)

PSP Socialの2nd。前作までのジャンクエモと呼びたくなる荒々しいハードコア色の強い作風からは全く想像できなかった新境地のアルバムで、音をごっそりそぎ落としゆったりとした時間感覚が漂う長尺のスロウコア5曲45分。日常の裏にいつ反転してもおかしくない非日常がある危うさを匂わせるような、すごく聞き慣れてるようで、でもどこか違和感が残る異界っぽさが仄かに漂います。硬質なスロウコアではありますが、そういったジャンルで一口に括りたくない、羅針盤とも通じる日本のバンドにしかない和の風情というか、日本語特有の優しい響きと牧歌的な雰囲気に満ちた作品。このアルバムのインスピレーション元がPink Floydのおせっかいだというのも驚きで、おそらく本人達の中で独自のサイケデリックな感覚が昇華されこの形になったのだと思うし、自分の知らなかった一つの新しい解釈を見せてもらった気持ちになります。

 

 

Pharoah Sanders - Pharoah(1977)

スピリチュアル・ジャズの大御所ファラオ・サンダース1977年作がデヴィッド・バーンのレーベルであるLuaka Bopより再発。しかもライブ音源を収録していて、リリースされた9月以降今に至るまでずっと聞いている作品です。彼特有の陶酔的に繰り返されるフレーズの反復の妙がよく出た3曲で、サイケデリックを通り越してチルの領域にまで足を踏み込みかけた印象もあるM1のHarvest Timeにおける、ギターとベースのリフレインの各レイヤー入り組みながら完全には重ならないよう宙に浮く音の配置は非常に繊細。この和音の心地よさに恍惚としてしまいます。そしてM2のLove Will Find a Wayにおいては、初期作で確立させたコルトレーン以降のスピリチュアルな作風を一回薄めてアフリカンな色を強くしたWisdom through Musicを継承したような1曲で、肩の力抜いて聞ける反復のセッションと、クライマックスにおいて体の奥底から振り絞った生命力そのものを見せつけるかのようなダイナミックなサックスソロはしっかり心を揺さぶってくる。彼の作品って結構気合入れて聞くイメージがあって代表作の「Tauhid」や「Karma」は映画一本見るくらい大作ですが、このアルバムは地に足のついたグルーヴィーなリズムを根幹としつつ、それを構成する音色がどれもこれも浮遊感のある聞き疲れしないもので構成されていて軽い気持ちで流しやすい。生音感が強く、密室で聞いてる印象を加速させるリズム隊の録音もめちゃくちゃマッチしていると思います。それでいて腰を据えて聞いてもしっかりフックのあるおかずが散りばめられていて、じっくり世界観を味わえば味わう程ラストのサックスソロにおけるカタルシスも増すという、こういった、聞き時を選ばないという点も愛聴盤になった大きな要因かと。ファラオ・サンダースをこれから聞きたいという方にもおすすめです。

最近はディスクユニオンへ行っても音源よりも中古音楽雑誌コーナーを先に見に行くことが多く、その中で買った2003年のレコード・コレクターズにおけるファラオ・サンダース特集をガイドにして聞いてました。ジャズは歴史が長いのもあって書籍やインターネットのブログまで非常に広く資料があり、そして自分は音楽を聴くこと自体と同じくらい、もしくはそれ以上に"音楽に関する文章を読むこと"自体が好きであると気づきます。もう最初とは順序として逆なのですが、音楽に関する文章を一つの読み物、創作として楽しみ、そのサントラとして音楽を聴くというわくわくを最も感じた一年でした。

 

 

Sly & The Family Stone - Fresh(1972)

2023年は退職や引っ越しに伴って生活ががらりと変わりインターネットが使えない時期が長く、サブスクで新譜を追う頻度が激減。ディスクガイドやブログを参照し気になった音源を購入したり、久々にCDレンタルを利用して旧譜を聞くことが主となりました。その中でファンクにハマり、資料を元にしながら大御所を一通り聞いていたのですが、今になって改めて衝撃を受け一年を通して最も再生したアルバムがこのFreashになります。音数の少なさで立体的に浮かび上がる、すぐそこの空間に音が固形として存在していて、触れるんじゃないかと錯覚してしまうほど巧妙に配置された各パートは、M1のIn Timeの再生数秒から胸の奥をぐっと鷲掴みにされたような魅力がありました。カタルシスを"ズラす"ような美学がとにかく詰め込まれたアルバムだと思います。代表作でもある前作の"暴動"で培った、リズムマシンを使ったミニマルなビート感、このシンプルな反復の心地よさを、土臭いソウルから距離をとり新たに追求したような、ドラムもベースも、現代におけるポストプロダクション的な、隙間を利用してスタジオ作品としてこう聞かせたいっていう音の配置を重視したフレージングなのではないかと思えてなりません。後ろから纏わりついてはすぐ消えてしまうと言った感じで、そんな中ツボのみをつく控えめなホーンセクションも体の奥底を揺さぶってくる。曲の、平熱を装うクールなテンションとは反対に、聞いてるこちらはその強烈なファンクネスにどんどん熱量が上がり踊らずにはいられない。ある程度地盤ができてきた今だからこそ好きになれた作品で、2023年出会えた中で最も大切な1枚です。

 

 

OGRE YOU ASSHOLE - 家の外(2023)

ライブ会場を中心に販売されたOGRE YOU ASSHOLEの新譜で(9月にサブスクでも聞けるように)、OGRE YOU ASSHOLEは普段からライブに通ってるバンドですが最近のライブはファンク色が強く、余白をたくさん残すことで骨組みを露出させたスタジオ盤の作風は実際にルーツにカーティス・メイフィールドを上げているところからも重なるところが多々あります。とくに2017年作の「ハンドルを放す前に」の音数を絞ったミニマルな作風はSlyのFreashを聞いたときにフラッシュバックした1枚です。今作はNeu!やCluster、CANといったバンドのオマージュが散りばめられたクラウトロックを地で行く作品で、スタジオ盤のオウガとしては珍しく電子音のシーケンスがずっとメインに据えられていて、それ故にそのシーケンスと並走するドラムの強烈なグルーヴが今まで以上に際立った作品でした。ライブの熱量のピーク直前とも言える瞬間をうまいことパッケージングした作品にも思えて、平熱を保ったまま永遠に踊り続けられるアルバムになったと思います。

 

 

Squid - O Monolith(2023)

Squidの2nd。オウガの家の外と並んで自分の上半期を象徴する2枚です。今作はグルーヴィーな1stの粘り気の強いビート感はそのまま、ノイズやパーカッション、ホーンセクションといった曲を彩る要素をどんどん足していったにも関わらず、エッジの効いた各パートの音の隙間はしっかり見える、アンビエンスと固形化したアンサンブルのソリッドさを両立させた作品で衝撃を受けました。今作ジョン・マッケンタイアがプロデュースをしていて、セットで1stも聞き返したところ両作ともポストパンクという側面よりクラウトロックやファンクの遺伝子に強烈に惹かれます。Squidはパンクシーンから出てきてWARPからリリースした経緯や、元々ライブハウスでファンクを演奏していたという経緯が自分の中で!!!と重なり、!!!自身がハードコアシーンを出自としながらWARPへ移行したという流れも完全に同じで、このルーツに接近したい、自分が聞いていて最も心地いい瞬間、その感覚のルーツとなる部分にもっと切り込んでいきたいという気持ちからファンクへと興味が向いていきます。その中でレコードコレクターズのソウル/ファンク特集やFunk Of Agesというサイトをガイドにしながら、先述したFreashの冒頭の流れに繋がっていきます。

 

 

下半期は新譜チェックの傍ら音楽を掘る時間はほぼファンクを追っていて、ポストパンクやAOR周りからかつて聞いたものより前の、70年台を中心にJBのライブ盤やコンピ、P-FUNK諸作といった王道を順番に聞き、JBからP-FUNKやSlyの人脈を辿ってオハイオ・ファンク、ベイエリア・ファンクに傾倒し、80年台に移行しながらZappやPrince諸作を主に聞いていました。とくにPrinceはかつて苦手意識すらあったのが、Slyを経過した上で聞くとミニマル路線でリンクする部分が非常に多く、ようやく和解できた感覚があり上記のオウガの流れにもリンクします。元々FunkadericのファンだったのもありP-FUNK諸作もしっくりきて、王道ですがMothershipは上記のSlyのFreashと並んで2023年かなり聞いたアルバムです。Freashと通じる聞き方も多数できる作品だと思っていて、音数の少なさ、曲自体はミニマルな反復の中でもねっとり絡みつくような各パートのグルーヴ、そしてその中でも徐々に熱を帯びていく感覚はParliament独自のもの。ジャンル概念自体がまだできたばかりで曖昧だったのもあると思いますが、SlyやPariliamentの70s中期の作風は本当に混沌としていて、これが一つのジャンルとして共存していたのかと聞き進めるのがとても楽しかったです。P-FUNKやSlyの次にハマっていたバンドがOhio Players、オハイオファンクと言えば後のSlaveにも繋がっていくバンドですが、P-FUNKへと合流していくジュニーがコンポーザーを担っていたウエストバウンド時代がとくに好みで、リズム隊の周辺をねばつくように絡みつくホーンセクションやオルガンはジャジーな色も強くよく聞いてました。ジュニーのP-FUNK期だとOne Nation Under A Grooveがベストです。Ohio Playersはジュニー脱退後も好きなアルバムが多く、後期だとSkin Tightをよく聞いてました。

 

 

MyGO!!!!! - 迷跡波(2023)

バンドリシリーズは一切見たことなかったんですが、MyGO!!!!!がenvyっぽいという意見をツイッターで見かけて興味を持ちアニメを視聴したところ、第一話冒頭数分からあまりにも不穏でギスギスとしたバンドの崩壊を生々しく映していて一気に飲み込まれました。冒頭で触れたenvyのようなポエトリー主体のエモ前夜/ポストロックの雰囲気まで感じる楽曲もすごく肌に合いますし、アルバム収録曲の音一会といった楽曲はくだらない一日のようで昨今の国内エモシーンと呼応する部分も感じられ、そういったミッシングリンクから背後に激情やまだギターロックっぽさがあったTen Rapid期のMogwaiも連想してしまいます。アニメ本編もバンド作品として、作中で曲が生まれ、メンバーが肉付けしてできあがってくプロセスを丁寧に描いているので、そういった楽曲が実際にライブで演奏されていく過程にカタルシスを感じたり、人間関係の軋轢からくるバンド崩壊寸前のところから、その傷を癒すように新しい曲が生まれ再生していく様が描かれていてかなり衝撃でした。従来のバンドリと大分毛色が違う作品らしく、だからこそ肌にあったのかなとも思いますが、今後のリリースも楽しみです。

 

 

littlegirlhiace - INTO KIVOTOS(2023)

2023年にリリースされた4枚目のフルアルバム。ここ数年の集大成のようなとんでもないアルバムになったと思います。個人的にbandcampや物販にイラストとして参加させていただきました。先日単独記事を公開したので是非とも。

 

 

坂口達也 - STA(2023)

Spotifyの年間レポートだと、2023年最も聞いた曲がこのアルバムの1曲目にあたる電子の砂漠でした。硬質で冷たいギターの感触と、どこかくたびれているようで、内にある熱いものが自然とにじみ出てきたような言葉の並びに強烈に胸を打たれてしまう。00年台ギターロックっぽい表情を見せる瞬間が多々あって、個人的なルーツからも懐かしくなってしまいます。上半期まとめでも触れたアルバムで一年を通してよく聞いてました。第12話はやはり何度聞いても共感してしまう名曲。

 

 


 

以上でした。順不同です。今年は生活的に大きな変化が多くあまり音楽を掘ることがなくなったのですが、だからこそ、例年の自分だったら選ばないであろう選盤ができたかなとも思います。旧譜にハマり、アーカイブ化された資料を元に"面"として音楽を聴くことが増えるにつれ、こういった年間ベストを書く意義や、新しい音楽を年内に聞くことについて色々考えてしまいますが、こういった記事自体が将来一つの面として楽しめる日もくるんじゃないかと思います。

あとは2023年、終盤はほぼ同人誌の制作をしていました。イラスト集+音楽ZINEで音楽ZINEの方では主にスロウコアに関して書いてます。元々、イラストの作風と音楽の方向性を合わせる予定はなかったのですが、作ってく内にジャンル関係なく通じる世界観が自然と滲み出てきて、自分の見てる世界のレンズがどういう色をしているのかわかったような気がします。気になった方は手に取っていただけると嬉しいです。

 

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pärk 販売ページ

akebonobashi.booth.pm

お待たせしました。先日ブログ内でも告知させていただいた、COMITIA147で頒布したpärkという同人誌の通販を開始しました。前記事で述べた通りイラスト集+巻末にセルフライナーノーツとして各イラストに関する解説及び日記、私的スロウコアガイドというタイトルの音楽ZINEがつきます。全118ページ(内カラー30ページ)です。価格は1300円です。現在は手元に在庫があるため、それに準じた送料ですが、ある程度減ったら倉庫に委託しようと思うので送料も変わる可能性があります。ご了承ください。基本的にいつでも買える状況にしておきたいので、在庫切れている及び注文したけど一向に届かないなどあれば気軽に連絡ください。ご注文お待ちしていおります。

 

本の概要

kusodekaihug2.hatenablog.com

littlegirlhiace - INTO KIVOTOS(2023)

INTO KIVOTOS(2023)

東京で活動するふにゃっち氏によるソロプロジェクト、littlegirlhiaceが2023年にリリースした4枚目のフルアルバム。タイトルに入ってるKIVOTOSという単語はブルーアーカイブ(以下ブルアカ)というゲームの舞台ですが、今作はそのブルアカをイメージして作られています。もっとゲームの二次創作的な作品になるかと思いきや、あくまでアウトプットされてくるいつもの楽曲達のすぐ近くにゲームがあって引力が効いてる感じというか、発端ではあれどそこから生じた普遍的な気持ちやエピソードが歌われてるような気がして、タイトル以外では固有名詞も出てこないので、ゲームをやったことがない方や初めてバンドを聞くという方にも是非聞いてほしい作品です。リリース前に先行公開されたcetaceanという曲からとにかく歌詞、ソングライティング全てが素晴らしすぎて戦慄しました。

 

 

今作、2ndフルのhellsee girlのようなそれぞれが違うカラーを持ちながら、ちゃんと一貫した曲順や流れも練られたコンセプトアルバムとしての良さも両立していて、前年がEPを連続でリリースしていたり、その前に出した直近のフルアルバムが一方向に尖った実験性の強い作品だったのもあり、INTO KIVOTOSは今までの集大成のようなアルバムに聞こえます。前半は疾走感のある曲達が印象的で、M4のLONG RIDEはまるでART-SCHOOLまんがタイムきららのアニメOPを担当したらみたいな、ギターポップっぽいサウンドでファンクテイストな曲を演奏している彼らを更に口溶けよくしたような1曲。特定の曲っぽいとかではなく、リトルガールハイエースに染み込んだ彼らの遺伝子が血肉と化し表層化してきたみたいな洗練のされ方を感じます。あとは今作ギターの音が死ぬほどかっこいい。M2の(don't stand so)close to meは個人的に今作のベストで、くたびれたアコースティック路線から轟音を炸裂させていく、荒々しさと暖かさが同居した仄暗い雰囲気がたまりません。今作このジャリっとした金属的なギターにジャンクな質感とスッキリした生音っぽさが同居していて、このギターの和音と、ゴスゴスとしたドラムの音は耳に着地する際に一回潰れて破裂してくような気持ちよさがあります。それこそ先ほど触れたアップテンポなcetaceanとかでも非常に映える要素かと。(don't stand so)close to meというタイトルはThe Policeの曲から来てますが、これをSyrup16g風につけるという小ネタも凝っていて、Syrup16gの音楽性自体がThe Polliceと関係性が深い上「高校教師」という邦題がブルアカともリンクしてくる。過去作に収録されたmaiやぬけがらといった初期の名曲たちとも被るところがあり、やっぱり僕はこのドラムがゴスゴスしたSyrup16g路線、というタイプの曲がふにゃっち氏の書く曲の中で一番好きなんだと、圧倒的に思い知らされました。

アルバムの流れで最も象徴的なのがM9の緩衝地帯で、今までのリトルガールハイエースからは想像できなかったMogwaiのCODYを想起するスロウコアライクなインストナンバー。荒廃とした雰囲気からNirvanaやAlice In Chainesのようなグランジバンドがもし00年台前後のポストロック黎明期に触発され合流していたら、というイフを想像してしまう曲で、前半と後半の流れをこの曲を挟むことで一気に整頓されていく感覚があります。続くINTO THE VOIDも(don't stand so)close to meと近い金属的なギター音がフィーチャーされた淡々としたバッキングを曲の核としていて、タイトルはBlack SabatthもしくはART-SCHOOL、しかしブルーアーカイブ的には銃痕も連想してしまいます。ゆったりとしたペースで隙間を見せることでフレーズの良さ、音色のかっこよさが際立ちますね。後半QOTSAのようにメタリックにヘヴィなリフが展開していく長いアウトロも新機軸。緩衝地帯から続く曲なので、リトルガールハイエースというバンドでこんなに重苦しい曲達を一気に浴びることになるとは思ってもなかったです。最後のWhere All Miracles Beginは全てを破壊する轟音がアクセルなんてとっくにぶっ壊れた状態でそれでもなお踏み続けているようで、Ferewell Nursecallにおけるギターノイズとは全く別ラインの録音における音割れの"歪み"をシューゲイズにも通じる音の塊として再出力させた、FADE TO BLACK路線の全く新しいアンセム。行くとこまで行っちゃったような破滅的なサウンドがこんなにも気持ちよく鳴らされているのはもう完璧な最終曲ですね。ゲームを知らなくても素晴らしいアルバムであることは間違いないのですが、もちろん知ってるとただエピソードをなぞっただけでなく、元々フィクションと実体験の境界が溶け合っていたふにゃっち氏の歌詞がこの世界をどう描いていくかという楽しみ方もできるかと。ブルーアーカイブという一つの意匠を纏いながら、しっかりlittlegirlhiaceが今までやってきたことの延長線にあることをはっきり感じとれる作品だと思います。

 

 


2022年のyakinch fear satanのレコ発ライブのMCにてふにゃっち氏は「ブルーアーカイブを始めるので音楽を引退する」と発言していて、実際ここ数年ライブしながら年1~2枚のペースでアルバムをリリースする勢いから正直いつ止まってもおかしくないというか、本当にこれをきっかけに一度休止してしまうのではないかと覚悟していました。そうしたら全くの杞憂でむしろその逆、ブルーアーカイブ起爆剤としてこんなに素晴らしいアルバムが聞けたというのは本当に驚きです。しかも引退宣言(?)をしたライブから丁度一年後、同会場である神楽音にて今作のレコ発が行われたのですが、対バンだったFUZZKLAXON、Pot-pourri、Lily Furyのいずれも違う音楽性ながらシンパシーのあるバンドで非常に刺激的なイベントでした。FUZZLKAXONのフロントマンであるnota氏はlittlegirlhiaceの各種ジャケットのイラストを担当、Pot-pourriはそれこそyakinch fear satanリリース時に対バンしていて、フロントマンのsawawo氏はlittlegirlhiaceのサポートメンバーであるmint氏がベースを担当しているTenkiame(TELEWORKの項で触れた夏bot氏のバンドでもあります)でギターで参加、Lily FuryはINTO KIVOTOSのbandcamp特典で付属するWhere All Miracles Beginのリミックスを担当しています。またINTO KIVOTOSをリリースするにあたって、Lily FuryのAnthorogyというアルバムがインスピレーションとなったとふにゃっち氏のインタビューでも語られています。どのバンドも本ブログの年間ベストやまとめ記事で触れてきたものですが、素晴らしい内容なので是非とも。

 


 

最後に、INTO KIVOTOSはbandcampの有料版を購入するとブルーアーカイブ×名盤コラージュの特典イラスト集がついてきますが、実はその内の1枚に自分もイラストとして参加させていただいています。元々バンドのファンでしかなかった自分がこういった形で素晴らしい作品に関わることができて光栄です。ふにゃっち氏のセルフライナーノーツやギターのタブ譜も収録されていて、先ほど触れたLily Furyのリミックスもこちらの特典となっています。

 


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元々全アルバム感想記事の一環として書いていたんですが、ボリュームが増えすぎたため単発記事として分離したものがこの記事になります。なのでちょくちょく前アルバムやEP、ふにゃっち氏の音楽性や作詞についてとくに説明なく登場する部分はこの記事と地続きなものになっています。

 

ヨシオテクニカ氏による濃厚なインタビュー記事。ブルアカファンの方にこそ読んでほしい記事です。

記録シリーズ:littlegirlhiace

littlegirlhiaceの全アルバム感想です。


 

リトルガールハイエース(2017)

東京で活動するふにゃっち氏のソロプロジェクト、littlegirlhiaceの1stEP。Free Throw期のSyrup16gや初期ART-SCHOOLを想起するメロディーを大切にしたローファイな00年台ギターロックの香りを芳醇に纏った作品で、iPhoneで録音されたという破壊的なドラムの音色にどことなくSAPPUKEI期のNUMBER GIRLも思い出します。このゴスゴスとした、曲に重い印象を植え付けながら空間の隙間を意識させるドラムの音色は今後のリリースにおいてもずっと一貫した要素で、録音方法や音色に変化はあれど元々ドラマーとして活動していたふにゃっち氏のプレイも相まって毎回非常にかっこよく、録音作品として聞くリトルガールハイエースを印象付ける一要素だと思います。M1のリトルガールハイエースはバンドのテーマを象徴する珠玉の名曲で、そもそもバンド名というかこの曲タイトル自体がクジラックスの成人向け同人誌に端を発するネットミームからとられているのですが、タイトル通り歌い出しの歌詞から同人誌の内容をなぞったものになっていると思いきや最初のサビを終えてから2番の歌い出し以降歌詞の意味がガラリと変わってしまう。元々テーマとなった作品の二次創作的な曲かと思いきや、実は自分自身、もしくはとある個を歌っているのではと、同じフレーズでもいつの間にか対象がすり替わってしまうような魔法がかけられていて、このフィクションと現実が溶け合っていくカタルシスは今後一貫した要素ですがそれを最もわかりやすい形で、最もキャッチーなメロディーで歌われるバンドの代名詞として申し分ないアンセムART-SCHOOLのニーナの為にやNirvanaのIn Bloomのような、強烈に開放的なインパクトを与えるイントロのドラムは開幕としてすごくハマってると思います。どの曲もメロディーをすごく大切にしていて、その上で録音の関係もあるかもですがふにゃっち氏のボーカルがどことなく疲れていて影を落としたような仄暗さがあります。

 

 

エリカ(2017)

1stEPの数か月後にリリースされた2ndEPで、今作はアルバムタイトルでもあり1曲目になったエリカからして前作のリトルガールハイエースと同じ路線、エリカという一人の女性のことを歌っていると思ったらいつの間にかそれはふにゃっち氏自身の言葉ではないかと思わされてしまう名曲。今作はゲストを呼んでブルージーで土臭いギターソロのパートがあり、オルタナ以降のギターロックとはまた違ったアプローチを感じますが、元々ふにゃっち氏はすべての始まりがミスチルとの出会いだったとインタビューで語っていて、ミスチル自体が初期作品では非常に土臭いブルージーなアルバムをリリースしているのでルーツの一つとして根幹にあるバンドだと思います。M6の前川は同名キャラクターに歪んだ性愛をぶつけるこの時期のlittlegirlhiaceを象徴するナンバーで、サビのメロディーにミスチルを引用していたりします。エリカや前川のように歌詞のモチーフとしてアニメや漫画が出てくるのはもちろん、音楽性の面でもアニソンやエロゲの主題歌をリファレンスとしてあげることが多く、今作もオルガンのイントロが印象的なM2のギブでそれを強く感じることができ、ミスチルやアニソンといったダウナーなギターロックとして聞くと際立ちすぎてしまうこのバンドのポップネスが垣間見えるEPかと。ギブ、deserted songは深くは踏み込めないすごくパーソナルなことが歌われてるように感じるし、癒しきれない痛みをはっきり正面から歌ってくれることに優しさを感じて涙が出そうになる。個人的にはM3のmaiという曲が1stEPにもあったくたびれたダウナーな雰囲気を感じてベスト級に好きです。bandcamp版だとエリカの元ネタとなったアニメのOPのカバーが入っていて"ロキノン風"とのことですが、アニソンのカバー音源をSoundcloud上げるという行為の延長線上としてこういった作風が形成されていったのではないかと思ってしまうほどハマっています。

 

 

アンファッカブルEP(2018)/リベンジポルノEP(2018)

 

2018年にbandcampにて同日リリースされた2枚のEP。サブスクリプションサービスではblind faithというアルバムとしてまとめられていますがそれぞれ明確な流れのある別作品で、2枚ともすごくパーソナルなことが歌われているんじゃないかと思ってしまうほど重いです。アンファッカブルEPの方に収録されたぬけがらはSyrup16gを想起する、これまで発表してきた曲の中でもとくにダウナーでアコースティックな曲ですが、隙間が見えるからこそ、ゴスゴスと屋台骨となるドラムの音が一際力強く響いてきてNUMBER GIRLの「Sentimental Girl's Violent Joke」のような薄暗い迫力があります。アンファッカブルは失恋ソングっぽい様相を見せながら実際は攻略対象外のヒロインをテーマにした曲で、至極個人的な理由から共感できる部分しかなくて苦しさと同時にこれを歌ってくれてありがとうという気持ちが同時に湧いてくる思い入れの強い曲。連載少女はpillows風、nameless witchesは風通しの良い爽やかなART-SCHOOLっぽい曲で、タイトルからモチーフになったアニメがわかりやすいですね。リベンジポルノEPは再生するやいなやアルバムタイトルを冠するM1から、今までの楽曲内でもとびきりポップなかわいらしいシンセのフレーズが印象的なイントロ、シンガロングしたくなるくらいキャッチーなフレーズなのに歌われてる内容は曲調と真逆の破滅願望にまみれた歌詞で、このバンドを象徴するような唯一無二の名曲。本当に衝撃でした。天使のいない12月は同名のゲームからインスピレーションを受けていて歌詞もリンクする部分があったりしますが、曲の方はかなり高速でART-SCHOOLがアニソンをやったらこんな感じかもっていう想像をさせてくれる1曲。速い曲ってこのバンドだと力強いドラムがより強調されてやっぱりすごくかっこいいんですよ。どことなくテュペロ・ハニーを思い出す瞬間も。

 

 

GIRL MEETS BLUE(2019)

19年にリリースされた1stフルアルバム。本当に素晴らしいメロディーを書き続けていることに驚きしかないバンドですが、それを象徴するM1のmeaninglessでは「いつまでもいくらでも/メロディが浮かんで消えるんだ/拭っても拭っても/血が滲む傷口みたいだ」と歌われていて、アンファッカブル/リベンジポルの2作ってそういう作品だったんじゃないかと思ってしまいます。これとは対照的に最初のmeaningless以降はなんらかの二次創作的な曲が多く、M2のアカネは今後ライブの定番となった曲ですが、maiのようなダウナーなアコースティック路線から重厚なギターサウンドへと流れるように展開していくART-SCHOOL路線としては最も好きな特大アンセム。FADE TO BLACKも思い出してしまいます。1つのフィクションの物語としても非常に魅力的な歌詞で自分はこの曲をきっかけにグリッドマンを視聴しました。いきなりサビから始まる疾走感のあるM3のガールミーツブルーや、同じくイントロにおける歌い出しのインパクトが絶大なソラヨリアオイといった、ふにゃっち氏作曲のタイアップ曲のコンピレーションかと思ってしまうくらい初期EPらと比べても外に開けたアルバムに聞こえます。個人的にとあるVtuberを歌ったNISHIOGI ABDUCTIONが好きで、派手なギターリフ一本を軸にリズム隊が並走してリフを魅せていくスタイルで、目まぐるしく展開する疾走感のあるボーカルも爽快感があって驚きでした。セルフライナーノーツの方ではスピッツWeezerの名前がちらほら出てくるあたりから、今作の開放的な雰囲気はそういうパワーポップからのフィードバックもあるのかもしれません。

 

 

TELEWORK(2020)

アルバムタイトルが示す通りコロナ禍で発表された未発表曲を集めたコンピレーション。2015年頃の曲が多いらしいので1stEPと同時期かそれ以前の楽曲がメインとなってます。M1のgirl sweet girlからナンバーガールIggy Pop Funclubを思い出す軽快なロックソングですが、今作どことなく土臭い雰囲気がまた強くて、M4のラッカはGRAPEVINE風。M6のSCHOOL DAYSは初めてART-SCHOOL路線として作った曲らしく、For Tracy HydeやTenkiameで知られる夏bot氏主宰のART-SCHOOL風コンピレーションに提供した曲とのことです。このTenkiameでベースを弾いていたmint氏がlittlegirlhiaceのライブにおけるサポートメンバーとして参加しています。ロストハミングはベントラーカオル氏が参加していて、クウチュウ戦あらかじめ決められた恋人たちへでも有名ですが、彼もライブイベントで度々ゲストとしてサポートで参加しています。個人的にリトルガールハイエースはルーツとしてミスチルを上げることから、そのミスチルの背景にあるエルヴィス・コステロや、キンクスロックオペラをやめてアメリカに傾倒する80年台のような、UKロックがブルースに憧れてルーツ色の強いロックンロールをやっているときと近いフィーリングを感じてしまいます。むしろ根本の部分は実はそっちで、よく引き合いに出されるART-SCHOOLSyrup16gといったオルタナ路線は飛び道具として後から添加された要素なのではないかと、もちろん土壌としてあることは間違いないと思いますが、ART-SCHOOLNUMBER GIRLに影響を受けたであろう日本のギターロック的なバンドとは違ったラインのポップネスがあると思っています。

 

 

hellsee girl​(2020)

2020年リリースされた2枚目のフルアルバム。とにかくカラフルなアルバムで、オルタナとかルーツロックとかそういうの全部抜きにして一番聞きやすいのではないかと思うし、まるで全曲初出の架空のバンドのベストアルバムを聞いてる気持ちになってしまう。アルバムタイトルにもなったM2のhellsee girlは前作のgirl sweet girlと同様NUMBER GIRLを思い出すゴスゴスとしたパワフルで軽快なドラムのイントロが特徴的ですが、NUMBER GIRLをハードコアやポストパンクの流れで捉えるのではなく、littlegirlhiace風のロックンロールとして咀嚼されたようなイメージもある名曲(単純に音楽性云々というよりふにゃっち氏がドラマーとしてアヒトイナザワの影響を受けたというのもあるかもしれません)。南行き、星を落とすの2曲はもう新しい一つの創作物として感情移入してしまうし、これらの世界観で自分がこの曲の世界の二次創作をしたくなるほど完成されていて、今まであった特定のアニメや創作物の世界に自分が存在していたら・・・という目線や独白的なものとは少し違った、曲ごとに違う世界観を持った短編小説集を読んでるような色鮮やかな作品です。とくに星を落とすはFor Tracy Hydeに影響されたと語る浮遊感のあるドリームポップ風味な曲ですが、空間や音色で聞かせるわけではなく、あくまで歌を大切にしたバランス、前アルバムにあったcloudy horoscopeもシューゲイザーをやろうとしてならなかった曲とのことですが、リトルガールハイエースのあくまでポップソングとして作りこんでいく地に足の着いた質感に安心感すら覚えます。incest flowersはアニソンっぽいART-SCHOOL路線。M8のロックンロールや、M11の僕が先に好きだったなど、今までにあった元ネタとなった物語やエピソードの空白となる部分に想像を膨らませ、そこに欲望をぶつけていくというものより、純粋に等身大の部分を描いてくれているように感じてつい感情移入してしまう曲が多いです。実際にM1のバイクはゆるキャン△意識の曲ですが、今までこのバンドの常套句だった「作品の世界に自分が介入していく」スタイルをバッサリと切った、作品のその後を想像したすごく前向きな曲になってます。本当にどの曲も違う良さがあるので、例えばPixiesのDoolittleやBeatlesWhite Albumみたいな、アルバム聞いた人とどの曲が一番好き?という話をしてみたくなる作品ですね。僕は「星を落とす」「ロックンロール」が好きです。

 

 

Farewell Nursecall(2021)

1年ぶり3枚目となるフルアルバム。開幕死神のバラッドこそ生っぽいサウンドスケープのピアノやアコースティックギターの響きが印象的な穏やかな1曲ですが、M2のshine以降今までのアルバムで最も尖った荒々しい曲が並びます。Killing Joke風のジャケットとも合致していて、これは前作hellsee girlでのカラフルな作風とは対照的で、とにかくもう割れていようが関係なしとばかりにガシャガシャと突き進むドラムやギターの音が自傷的な歌詞ともマッチし今作のカラーを象徴してますね。ただでさえ荒々しい音なのにアップテンポな曲が多いのも今作の破壊的なイメージを加速させていて、M3のチルハナは本当に「うるさくて速い」を地で行くエッジの効いた1曲。M5のlilyは先行公開された曲ですがイントロから割れまくったヘヴィなサウンドがギターをコーティングしていてとにかく衝撃でした。M9のギターヒーローはこちらも荒々しい録音ですが、サウンドとは真逆にART-SCHOOLのLove Letter Box風の静と動の対比が強烈なナンバー。音は重いですが風通しがよくメロディーも今作随一にキャッチーで、歌詞は当時まだアニメ化もしてなかったぼっちざろっくがモチーフになっています。個人的なベストはM10のdemon girl next doorで、アニメモチーフではあるけどちょっと一歩引いた視点からモチーフ元を原作ネタを織り込みつつ普遍的な片想いソングとして歌い、サビ前の「まちかどで危機管理」で元ネタ開示という流れが綺麗すぎて二次創作の一つの形として感動しました。相変わらずメロディーはキャッチーなのに今までで最も聞きづらい録音という、相反した要素でしか形作れないものが詰まっていて、バンド内でとくに実験的な作品かもしれません。

 

 

Canaria(2022)

前作のジャケットがKilling Jokeなら今作はSiouxsie And The Bansheesがモチーフとなった22年作のEP。歌詞にVtuber関連ものが多く統一感がありますが音楽性はバラバラで曲ごとに違うカラーを持ったシングル集のような感じです。M3の香水はちょっと前に流行った同名のJ-POPをガッツリ引用しながら、それをART-SCHOOL路線で歌うというのにクスッときてしまいます。前作Farewell Nursecallで異彩を放っていたLAUGH SKETCHという曲があって、珍しく打ち込み要素を全面に押し出していたのですが、M5のengage ringはその要素を継承した打ち込みのドラムが印象的な新機軸。シューゲイズやドリームポップまでは行きすぎない、ニューウェーブ風の浮遊感のあるウワものが全編に渡って流れていて、ここと並走するように淡々と繰り返されるギターの質感がすごく空虚な初期New Orderも想起してしまう大名曲。潤羽るしあが2月に突然活動を終了した件について歌っていて、ネタにされがちですが彼女の配信を日々の楽しみにしていた純粋なファン達は突然その場所を失ってしまった悲しみは想像に難くないし、ふにゃっち氏はずっとそういう喪失感や悲しみについて歌ってきたと思います。この切実さを出せるのは彼の今までの経験とか色々重ねて出力されてるんじゃないかと思ってしまうし、それをリトルガールハイエースとして歌うことにとてもグッときてしまいます。ライブだとgirl ghostでも活動しているサポートメンバーのシベリア氏のアレンジでかなりタイトなドラムとなり、音の硬さも相まってカッチリとしたグルーヴを保ちながらスイッチを切り替えていくように大きく展開する新しいアンセムへと変貌しています。ぺこーらに、告白しようと思ってる。はSyrup16gの落堕風で歌詞は完全にネットミームの引用ですが、これもライブでイントロが長尺になり大化けすることに。

 

 

yakinch fear satan(2022)

年内2枚目のEPでタイトルはMogwaiオマージュ。yakinchというのはhellsee girlの最終曲live foreverで歌われた凍結されてしまったツイッターアカウントのIDだったりします。前作Canariaとは対照的にアルバム通して統一感のある作品で、EPですがフルアルバム聞き終えたくらいの重厚で濃密な一枚になっていて、あまり最高傑作って言葉を使いたくない自分でも初めて聞いたときはそう叫んでしまいたくなるほど興奮しました。hellsee girlやFerewell Nursecallを経過した上で広がったアレンジの土壌から、ギターポップグランジを通過した雑に"オルタナ"と括りたくなるジャンルをもう一度見つめ直したような、ちょっとした原点回帰的なイメージもあります。M1のyakinch fear satanでは打ち込みのドラムと、グリッチで歪められた蛇口垂れ流しのような流動的なギターノイズが曲に透明感のある彩を与えていて、ジャケットの雰囲気も相まってどこか寒々しい。ここまでエレクトロニクスを感じる曲をリトルガールハイエースで、しかもそれでもちゃんとバンド演奏してる姿が浮かぶような形で聞けるとは思ってもみずかなり衝撃でした。続くLorimaid Androidはイントロのクリック音やタイトルからオマージュ元が露骨ですが、この入りのおかげで前曲の冷たい印象を引き継ぎながら一回リセットしつつM3の電波塔へと繋ぎます。電波塔はART-SCHOOL風のストレートな名曲で、リコリスリコイルを引用してますがアニメ世界の空白を描いたり性愛をぶちまけた今までの作風とはちょっと違い、作品の世界観の中で自分を客観視したような目線がすごく鮮やかで、今作を聞いてると元ネタはあれどそれをどう引用するか、どうやって自分の形で出力するか、その際に出てくる個性や美学について考えてしまいます。個人的にベストに上げたくなるのがM6のsweetest bitで、スピッツミスチルを想起するアコギ主体のバラードから一度静寂を挟みNUMBER GIRL~ART-SHOOLといったラウドなオルタナティヴ・ロック路線へど真ん中から飲み込んでいく。アカネもそうですが、溢れ出たものをそのまま纏って走り出していくようなドライブ感が本当にぐってきてしまう。アマガミ聖地巡礼旅行にインスピレーションを受けた曲で、その影響もあってかとても風通しが良い。アニメ版OPのちょっとしたフレーズが引用されてるのもにくいです。理解のある彼くんソングは「ハートに巻いた包帯は/別にそのままでも素敵だから」と言ってしまうのが、同名のネットミームを揶揄してるようで素直に優しくて素直に良い曲だなと思います。言うまでもなく初期BUMP風ですね。

 

 

INTO KIVOTOS(2023)

4枚目のフルアルバムとなるINTO KIVOTOS。目下最新作で丸一年空いたのもありかなり濃密。正直yakinch fear satanを超える興奮があったまさに最高傑作と呼びたくなる作品で、アルバム単位では2023年最も聞いた作品になります。こちらに関しては単発記事を書いているので是非。これからこのバンドを聞くという方にも最初におすすめしたいアルバムです。

 

 


関連記事

各種インタビュー。これとは別にbandcampの方でふにゃっち氏本人による曲解説+ギターのタブ譜が付属した有料版が置いてありこの記事でもいくつか引用させていただいてます。

pärk


pärkというタイトルで本を出します。昨年2023年の6月から描いてきたイラストと、それに関するセルフライナーノーツ、巻末に私的スロウコアガイドという題の音楽ZINEが付属した122ページの同人誌です。コミティア147で頒布します。

イラストはpixivアカウントを貼っておきます。ここに上がっているもの+描きおろしが数枚あります。表紙になっているparkというイラストに関しては暗すぎて印刷する際に黒ベタっぽくつぶれてしまうらしく、仕方なく数段階明るくしコントラストを強くしたものを新しく収録しています。元々自分が描きたかったものとは大分印象が変わってしまうため、本来見せたかったものを先にpixivに公開しました。


私的スロウコアガイドに関してですが、ここ数年ブログ内で触れるアルバムにスロウコアと呼ばれるジャンルのものが非常に多くなっていて、一度まとまったものを提示したいと考えていたのがきっかけです。140枚+番外編で30枚ほどチョイスしています。自分自身、一つのジャンルで括った個人の選盤を見るのが好きで、そのカテゴライズ自体がその人のルーツや個人史が見えるものであったり、また自分にはなかった視点を知ることでより豊かに音楽を聴けるようになると思っています。今回出させていたくZINEは、本来ディスクガイドに求められるジャンルをや歴史を網羅した幅広いものにはなってないと思います。一人で選ぶことで「ここまで偏るのか」と思わせてしまいそうな、所謂マイベスト的なものですが、焦点を絞ったことで枚数は少ない分通して読んで一貫したものはあると思うし、このブログで普段取り扱っているアルバムに少しでもシンパシーを感じた方は楽しめる内容になってると思います。また近年愛読していたブログやメディア等が読めなくなってしまいショックを受けることが年々増えていて、好きなものをどう残していくか、フィジカルで触れるものに対する執着が強まっていたのも深く関係しています。

そして番外編の方ですが、Quarterstick Records、Southern Records、10年台後半Windmillから広まったサウスロンドン、Zum Audioについてそれぞれまとめたものになります。Quarterstick特集では、朱莉TeenageRiotで幾度となく触れてきたJune of 44やRodanといったルイビルシーンに端を発するポストロック前夜のバンド群を掘り下げたもので、記録シリーズ(記録シリーズ:Rodan / June of 44 - 朱莉TeenageRiot)のようにディスコグラフィをまとめたものではなく、スロウコアガイドとして関連性の深いものをチョイスしています。Southern特集では主にSouthern Records内のオブスキュアなスロウコア各種が昨今Numero Groupによって続々と再発されているため、レーベルで括ることでレーベル内の他の愛聴盤も巻き込みながらまとめました。網羅的なものではなく、あくまで個人でおすすめしたい選盤となっています。スロウコアとシンパシーを感じながら、しかしスロウコアと一口で括ることに違和感を覚えるアーティスト達を、本編とは線を引きたかった気持ちが強くあったため「番外編」としました。

サウスロンドンに関しては番外コラムとしての色が強く、アルバムガイドですらありませんが、ここ数年シーンを賑わせたdeathcrashやBlack Country, New Road(以下BCNR)といったバンドの90sスロウコア~ポストロック前夜と重なる音楽性、そして本人達もルーツとしてこの時代のバンドの名前を挙げていることから、ここ数年非常に楽しく聞かせていただいてるシーンになり、そのバンドを聞く上での自分の主観を可視化させたような記事になってると思います。deathcrash、BCNR、black midi、そしてこのブログで触れてきたTouch and Goの面々をたくさん並べていくもので、あとは昨年12月に来日したdeathcrashのライブレポートも記事中に掲載しています。

元々自分がスロウコアというジャンルに傾倒したのは2020年以降、コロナ禍によって生活が大きく変わった中でのことで、このブログを始めたのも丁度その頃。そしてイラストを描き始めたのも全く同じ時期で、ある意味2020年以降の自分の総まとめとも言えるものになりました。イラストのセルフライナーノーツは半分絵の解説、半分日記といった内容で、日常体験と重ねながらどうしてそのイラストを描いたか掘り下げていきます。自分にとって音楽に関する文章を書くことも、絵を描くことも、そのとき美しいと思った瞬間や心を強く動かされた瞬間を忘れたくなく、保存しておく行為であり、それを誰か他の人におすそ分けしたいという気持ちがあるからです。脈絡のないやりたいことを詰め込んだような本作ですが、自分の中では一本線で繋がっています。どこかしら琴線に触れた方、面白そうだなと思ってくれた方は手に取っていただけると嬉しいです。イベント終了後に通販も予定してますので、それ以降にまた告知記事を出そうと思います。

 

※出しました

kusodekaihug2.hatenablog.com